Coolier - 新生・東方創想話

ゆかりんデイズ

2019/06/30 01:31:37
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 長いこと、夢を見ていた気がする。あまり気分の良くない夢。大事が何かが失われて、泣いて訴えても、誰にも届かない、そんな悲しい夢だった。
 目を覚ますと、生暖かい風が吹く野原のど真ん中に私、八雲紫は座り込んでいた。
 なんて事のない野原、だけど、何か味気ないような感じもする。

 「なんだか、味気ないな」

 私がわが子のように愛した幻想郷なのに、この幻想が薄まった感じは何だろう、どうしても思い出せない。しばらく心の中を検索して答えを出そうとするが、なにも見つからない。霊夢はどこでどうしているのだろうか? 式神の藍や橙を呼ぶが、気配すら感じられない。とりあえず私は立ち上がり、どこか誰かのいる所を目指そうと思う。
 しばらく歩いていると、一人の少女らしき人影がやって来る。その人物は青と白を基調にした洋服を着ており、背中に透明な板ガラスのような羽が生えている。もちろん、私はこの子に見覚えがあるが、向こうは違うらしかった。

 「あっ、お前誰だ」 礼儀もへったくれもない態度、本当に私を覚えていないのかしら。
 「私は八雲紫、こう見えても幻想郷の賢者を務めさせていただいているのだけれど」

その少女は首を傾げ、困ったような顔を浮かべている。

 「ええっ、お前みたいなちっこいのが?」

 失敬な、と思ったが、確かに自分の視線がいつもより低い。私は背が縮んでしまっていた。
ということは何かで力を失うような事が私の身に起こったのか。それはいったい何?

 「本当はこんな姿じゃないのだけど、今は力をなくしているみたい」

 ためしに異次元へ通じるスキマを開いてみるが、何も起こらない。

 「ちょっと変わったやつだな、ユカリ、だったっけ、あたいはチルノ、最強の氷の妖精だよー」
 
 この子が氷精チルノであることは知っている。頭が足りないと思う事はあるが、それはこの子が幼いからで、実は相当伸びしろがあるのではないかと感じていた子だ。でも少し、彼女の醸し出す雰囲気が違うように感じられた。
 ひょっとして、ここはいくつもあるいわゆる『平行世界』というやつか、あるいは、幻想郷に憧れる何者かが作った模造の世界、ある物語を一次創作とするならファンが作った二次創作の世界なのかもしれない。
 だって私の愛する世界に比べて、ここはあまりにも『薄味』過ぎるのだ、幻想の成分が少なすぎる。ここは断じて元の幻想郷ではないと言える。何故なら幻想郷がこうなる事をこの私が許すはずがないからだ。

 「何ぶつぶつ言ってるの?」
 「ごめんなさい、考え事をしていたわ。実は私、どこかで眠っていて、気が付いたらここにいたの、チルノ、この世界に何が起きているか知っているだけ教えてくれないかしら」

 元の幻想郷に帰るためにも、まずは情報収集だ、力があればこの子に頼らなくてもいいのに、でも仕方がない。

 「もともと、幻想郷はもっと不思議な力とか、面白い奴とかがいっぱいいて、同じ生き物も妖怪も妖精も、木も水も空ももっとカラフルだったんだ。でも変な言い方だけど、なんていうのか、そいつらの色の濃さは変わらないのに色が薄くなったような気がする」

 彼女の気持ちは痛いほどわかる。

「それでも、普通の人間とか動物とか木とか花とかは居るんだけど、あたいら幻想っぽい奴の数が少なくなっちゃって、たまに外の世界の風が吹いてきて、巻き込まれた幻想っぽい奴が消えてしまうんだ。紫、賢者なら何とかできないの」

 さっき試した通り、境界操作の力はない、その『外界の風』とやらが吹いてきても身を守れるかどうか。
 それにしても、この平行世界、パラレル幻想郷の私は、霊夢は何をしているのだろう。かりにも八雲と博麗なら何とかしなさいよ。

 「ごめん、どうにもできないみたい」
 「あっそ、なら仕方ないね、そんでユカリはこれからどうするの」
 「マヨイガへの帰り方も忘れちゃったし、ほんと、私ってどうしようもないよね」
「どうもなくないよ、ユカリってさ、今は調子悪いだけで、本来すっごーい力とかありそうじゃない、そんであたいは最強、二人が組めば何があっても大丈夫だよ」

 チルノは胸を張って言う。聞けば彼女の仲間もなかなか会えなくなっているらしい。もしかしたらその『外の世界の風』とやらに攫われたのかも知れない。

 「じゃあ、この幻想郷がどうなっているのか知りたいから、時間があれば一緒に行ってくれるかしら」
 「いいとも、あたいもこれから大ちゃん達、友達を探しに行くところだったんだ」

 チルノは私の手を握り、少し早めに歩き出す。ちょっと早いよ、と抗議すると、しょうがないな、と言いながらもゆっくりした足取りにしてくれた。

 (ちょっと……子、歩くの速すぎ)
 (……リーはのろまだなあ)

はっきりした記憶はないのに、昔の幸せな時期を思い出したような気がして、足が止まり、鼻の奥がつんとなった。

 「こんな幻想郷だけどさ、それでももうすぐ春が来るんだよ、ま、あたいはどの季節でもサイキョー……ってなに? どうしんたんだよユカリ」
「なんでもない」
 「なにかあったらこのアタイにすぐいうんだよ」
 「ありがとう、チルノ」
「友達だからな」

 友達……か、悪い気はしなかった。それどころか、この私ともあろう者が妖精のこの子に勇気づけられている。元の世界に帰っても、この子に会いに行きたい。
 何より、こうやって対等の雰囲気で誰かと一緒に歩くのがたまらなく懐かしい。
 道端の梅の木につぼみが出ている、人間基準なら、まだここには豊かな自然が残っている。

 「確かに、温かい風ね」

 異世界で友達(って言っても良いよね)を得て、私は希望を探して歩いていく。

 あっ、そういや飛ぼうと思ったら飛べなかった。
 
 



  野原から林に入り、てくてく歩くと集落が見えてきた。里と外を隔てる壁は、場所によって材木で作られていたり、石や土で作られていた。夜には閉じられるであろう門をくぐると、失礼ながら私が知っている幻想郷の人里とは比べるべくもない小さな共同体が息づいている。それでも集落には老若男女の人間たちと、妖怪や妖精の姿があり、家屋は簡素ながらも和風、洋風、中華風やそれらをまぜこぜにしたようなデザインが立っていて、かわいらしい箱庭に見える。

 「妖怪とかあたいらはここの人間を助けることもあるし、んで、妖怪とかあたいの仲間は人間と一緒にいる事で幻想っぽい力が増していくんだって」

 それは私のいた幻想郷と同じ、人の幻想、思いの力によって私たちは存在できている。 
 そのため、人の多いこの辺りは幻想の彩りが濃いように感じられる。  

 「あたいは最強だから大丈夫だけど、ここに住んでる妖怪や妖精の中には、里から離れただけで消えるやつもいるんだ」
 「それほどまでに幻想を維持できる範囲が狭くなっているのね」
 「よくわからんけど、ユカリの言う通りだと思う」
 
 私とチルノの姿を見た一人の男の子が、さっと家の陰に隠れ、そこから私たちをうかがっている。私は彼と目を合わせ、にこりと微笑んで見せたが、男の子はさらに逃げてしまった。
 恐れられるのは慣れているはずなのに、心が少し曇る。

 「気にすんな、まだ慣れていないやつもいるのさ」
 「ありがと、なめられるのも嫌だけど、避けられるのもいい気はしないわね、特に子供には」
  
 ふと、買い物帰りらしい一人の中年の女性が、チルノを見てフランクに声をかけてきた。
 チルノも物怖じせず片手をあげて応じた。

 「チルノちゃん、久しぶり」
 「おばさんも元気だった? びょーきは良くなったのか」
 「うん、妖怪さんのお薬のおかげでね。旦那はそんな怪しいもの飲むなって言ったんだけど、やっぱり幻想的な力も信じてみるものね」
 
 かろうじて見つかった幻想郷らしさにひと安堵して、霊夢や博麗神社、紅魔館や永遠亭、白玉楼はどうなったのだろうと不安がよみがえる、だが今の情報量では如何ともしがたいまま。本当にもどかしいわね。
 
 「とりあえず、けーねに会ってみなよ。あたいも仲間を探しに行くから、行く前にあいさつしたいし」 チルノが言った。

 けーねとは、やはり上白沢慧音の事だろう、彼女も存在しているようだ。
 チルノに寺子屋に案内してもらう途中、里のどこかで人々の騒ぐ声が聞こえだす。

 「みんな、東の境界から『風』が来たぞ」
 「慧音先生を呼んでくれ、あと自警団も」
 「人と妖怪がすでに何人か喰われちまった」
 
 里の東のはずれから、黒いもやか、霧のような物が里の境界をこえて漂ってくる。ただの気体ではなく、それはまるで意思を持っているかのように、止まったり、動いたりを繰り返し、アメーバが仮足を伸ばすようにもやの一部を伸ばし、飛んでいた妖精を捕まえた。
  
 「助けて!」 叫ぶ妖精。
 「チルノ、もう手遅れだ、逃げろ」 若い男性がそう叫んで、群衆と同じ方向へ逃げていく。
 「嫌だ! おい、今行くぞ」

 チルノが羽をはばたかせ、飛翔するが、私がかつて見たほどのスピードがない。黒い煙に捕まれた妖精がチルノへ手を伸ばす。
 
 「ちっくしょー」

 チルノが氷の弾幕を生成し、妖精をつかむ手と、黒いもやの本体の中間の腕めがけて打ち込んだ。腕はちぎれ、妖精をつかんでいた手は霧散していった。

 「ありがとう、チルノちゃん」 
 「へへっ、あたい最強!」

 チルノが妖精を逃がすと、もやの本体は彼女に狙いを定めて動き出す。
 私は怒りが込み上げてきた。こんな得体のしれない存在が暴れているのに、この平行世界の私は何をしているのかと。力が衰えても私は大妖怪の端くれ。こんな奴に負けてたまるか。チルノのような妖精だって頑張っているのだから。
 そう思うと、失われ力がちょっとだけ戻ってきた、ような気がした。

 「こらー、そこの黒い奴、いい加減にしなさい」

 もやがこちらを『見た』。目はついていないが、そういう空気を感じる。もやの動きが止まった。もしかして、私の一喝が効いたのかな? が、何を思い直したのか、今度はこちらに迫ってくる。
 弾幕を生成しなければと思うが、力がまだ足りない。もやが妖精を捕らえたときと同じ腕が私に迫る。

 「このやろー」 チルノの氷の塊がもやの一部を削り取った。削り取られた場所から、何らかのエネルギーが集中している『核』のような部位が露出した。
 外界のテレビゲームなどでよくある通り、ここがもやの弱点なのかしら?
 それでも黒い手が迫る。

 (怖い)

私が力を持っていた頃とは比べ物にならない恐怖が込み上げてきた。しかしそれ以上に……

(こんな所でやられてたまるか) 意地が私の心を高揚させた。

(お願い、開け!)

 目の前にスキマが開き、黒い手が空間に消え、少し離れた民家を直撃した。
 民家に誰かいただろうか? だが今はこいつを何とかするのが先だ。
黒い手をかわし、腕に飛び乗り、そのままもやの本体へ向けて駆けてゆく。狙うはもちろん核らしき部分だ。腕に妖力を込める、ようやくこれくらいの力は出せるようになった。スカートのせいで走りにくい、もっと動きやすい服を仕立ててくれる店はないかしら。と思考の片隅で思いつつ、『核』めがけて走る。

 「ユカリ、危ない」

チルノの声がすると、もやから飛び出したいくつもの手が私をつかもうとする。不安定な足場でどうによける。

 「これくらい」

意外とフィジカルな能力もあったんだね私って。

「当たれえーっ」 核に妖力を帯びた拳をぶつけた。

 核が砕け、もやはしばらく態勢を立て直そうとしていたが、やがて外側から形を維持できなくなり、それこそただの煙のように拡散して消え去った。核に貯められていた幻想成分が散らばり、一部がチルノや私に吸い込まれる。少しだけ力が戻ってくるのを感じるが、その力の源を想像するとゾッとする。
 チルノのほうを見ると、この子は息を切らしていた。私も同様だ。

 「はあはあ、すごいよユカリ、悔しいけどひょっとして、アタイ以上?」
 「?」

 最強を自称する彼女らしからぬ言葉だ。

 「やっぱ、さいきょうの座を譲る時なのかなあ」
 「チルノが助けてくれたおかげよ。あれがなければ今頃私もやられていたわ」

 そして、私も自分らしからぬ謙虚な言葉が出た。
 私はこんなキャラだったっけ? ただ単に力を失って自信がないから? それとも自覚はしていたけど尊大な性格が成長して治った? 後者だといいけどね。こんな思考とても他人に話せないわ、覚妖怪が近くにいなくてよかった。 
 日が暮れていく。とりあえずかなり疲れた、少し休みたい。チルノも同意見のようだ。
 
 「父ちゃん、僕らの家が~」 

声の方を向くと、一人の男の子が父親らしき人物の腕を引っ張りながら、私が壊してしまった民家の前で途方に暮れていた。彼らは私達に気づき、抗議の声を上げた。

「おい、どうしてくれるんだよ。家が壊れたじゃねえか」 
「あそこには母ちゃんの形見もあったのに」
「ちょっと待って、ユカリはあんた達を守るために戦ったんだよ、そんな言い草ないだろ」

父親は少し言いよどんで、しかしなおも非難した。

 「そりゃ、あんた方がなにもしなけりゃ、もっと悲惨な事になっていただろうさ、けどよ、他にやりようはあったはずだろ」
 「ごめんなさい、でもあれが精いっぱいだったんです」 とりあえず頭を下げた。
 
 助け舟を出したのは意外な人物だった。特徴的な帽子をかぶり、青を基調とし、白い縁取りのワンピースを身に着けた彼女。人里の守護者である白沢だった。

 「彼女は私たちを助けてくれたんだ、源さん。家が壊れてしまったのは辛いが、みんなからの共済で立て直せる、どうか許してやってくれないか」
 「わかったよ、慧音先生がそう言うんなら……」

 源さんと呼ばれた少年の父親はまだ何か言いたそうだったが、どうにか怒りを収めてくれたらしかった。力を失って心細い中、ただの里の有力者ぐらいにしか思っていなかった彼女がこんなにも頼りがいがあるとは思ってもみなかった。

 「でもな、そこのあんた、用が済んだらさっさと出てってくれよな。そん位の力があれば里の外に出ても死にゃあしないだろうさ」

 うう、まだトゲトゲしいな。

 「この者達にはこれ以上迷惑をかけさせないから。とりあえず、源さんと息子さんは集会所の部屋に泊まるといい。それから、君たちの寝床も探さないとな。ちょっとここで待っていてくれ」

里の住民たちは遠巻きに私とチルノを見ていた。お礼を言ってくれる者もいないではなかったが、まだ私の存在に慣れるまでは時間がかかるようだ。
そして誰かがこんな事をつぶやいていた気がする。

「あの女の子があれを倒せたのは当然だろう、なんせ……」

続きはよく聞こえなかった。その後慧音に空き家を貸してもらい、布団もない部屋でチルノと一緒に横になる。

「かーっ、あのおっさん、ユカリにあんな事言いやがって」
「でも、家を壊してしまったのは本当だし」
「あいつ凍らす」

私はあわてて、人間は弱くて生きるのに必死だからと説き伏せて、ようやく理解してくれた時には瞼が重くなっていた。

 「だーかーらー、人間は私たちと違って、食べないと死ぬし、体を洗わないと臭くなるし、暑すぎても寒すぎても死んじゃって、大けがしても死んじゃって、私たちみたいに休眠状態になるだけでは済まないの。だから厳しくならざるを得ないの、分かって」
 「わかったよ、むにゃむにゃ」

 わかってくれたのだろうか、先ほどの私達だって、元は人間や妖精や妖怪だったもの達のエネルギーを貰って力にしたのだ。人間の生きるための必死さを傲慢とか愚かとかと一律に断じるのはアンフェアではなかろうか? そりゃあのおじさんの態度は確かにとげとげしくて嫌だったけどさ……なんて事を考えているうちに現実と夢の境界があいまいになっていく。ちょっと霊夢が微笑んでくれていた、ような気がした





次の日、朝目が覚めてもまだ眠く、もう少し、もう少し寝たら慧音のもとを訪れてみようと思っていたら、目が覚めたころには日がいくぶん高くなっていた。いつも起こしてくれる藍はここにはいない。

「うう~ユカリの今起きたの~」
「そう、疲れちゃっててね」
「あたいも昔、あれくらいの弾幕でこんなに眠くはならなかったのになあ」

里の中心部に、子どもたちの声が聞こえる小さな小屋があった。そっと裏手に回って、少々難儀しつつ背伸びして窓を除くと、そこにはやはり『この世界における』上白沢慧音が子ども達に勉強を教えている。教室は狭く、子ども達も少数ではあったが、その雰囲気は紛れもない半人半妖の寺子屋だ。
 私は表に回って戸を叩くと、彼女が出てきてくれた。

 「ごめんください、授業中失礼します」
 「おっす、けーね、お客さんが来てるよ」
 「チルノ、今は授業中だ、静かにしてくれないか」
  
彼女は少し表情を曇らせたが、すぐに柔和な顔で、もうすぐ授業が終わるから待っているようにと私たちに伝え、しばらくすると、子ども達がさようならの挨拶をしながら教室から出てきた。チルノと話したり、私を不思議そうに見たりしてる子達がかわいい。元の世界の藍と橙も心配しているだろうね。

 「チルノ、また遊んで」
 「ごめんな、あたい、友達を探しに遠出するから、帰ってきたらまた遊ぼうね」
 「ええ~っ、帰ってきたらまたお空に連れてって」
 「いいよ、それまでに宿題やっとけよ」
 「チルノに言われたくないよ」 
 「あたいはこの寺子屋の『おーじー』だからいいのさ」
 「なんだよそれ~」

 ふと見ると、昨日の源さんの息子が私を見つめているのに気が付いた。
 なんと声を掛けたら良いか逡巡していると、その子はこちらから歩いてきた。

 「おはよう、何かな」 この私が人間に恐縮するなんて。
  
 しかし出てきた言葉は想定外だった。

 「きのうは、あ、ありがとう」
 「ええっ?」
 「だから、感謝するって言ってんだろ。その、父ちゃんから一応礼言っとけって言われたしな」

 幻想成分は枯れかけているのに、空はやけにさわやかな雰囲気。

 「どういたしまして」
 「お、おう、じゃあな」

 その男の子は恥ずかしそうに駆け出して行く。チルノが『ようやくユカリのすごさが分かったか』と子供達の前で誇らしげに言うので、顔面スカーレットで彼女の頭をぱしぱし叩いてやった。

 「話し合えたようで何よりだな、それでは人里周辺の事情を説明しようか」

 静かな教室で私たちは席に座り、お茶を頂きながら慧音の一日生徒となる。





 紫とチルノが昨日通った道を、一人の狐の妖怪が歩いていた。
 傍らには一匹の黒猫が付き添い、主の後ろをとてとてとついてくる。
 一休みして狐の妖怪は大きめの石に腰掛けると、黒猫がごろごろのどを鳴らしながら足元に頭をこすりつけてきた。

 「紫様どこかな、はやく会いたいね、橙」
 「にゃーん」 
 「大丈夫だよ、どんな風になっても紫様は私たちの大切なご主人だからね」
 「にゃあ」
 
 
 
 
4月1日のどんと焼き企画に書きかけを投稿し、良かったと言って下さる方々に勇気づけられて作ってみました。あくまで私が理解した限りですが、「東方PROJECT」、PS4のゲーム「グラヴィティデイズ」、アニメ「けものフレンズ」の雰囲気を足して作ったつもりです。
ちなみに、完結はいつになるかはわかりませんが、敵キャラ(セルリアンよりはネヴィのイメージ)の正体や結末は考えてあります。 
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
とらねこ
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コメント



0.100簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
幻想が薄れた幻想郷を元に戻せるのか。
ぜひ続きが読みたいですね。
4.80名前が無い程度の能力削除
チルノが紫のことを「ユカリ!」って呼ぶのがすごく素敵だと思いました。
対等な関係のゆかチル、すごく好きです。
名コンビ感がありました。

ストーリーも幻想郷崩壊ものが好きなので、楽しく読みました。
5.100終身削除
こういう設定新しくていいですね 人間を閉じ込めて妖魔の力を保つための幻想郷で妖怪の優位が弱まってしまった時人間がどうするか?というシリアスな問題にも誤魔化さず踏み込まれていてよかったと思います
6.100モブ削除
新しいお話って、わくわくしますよね。面白かったです。ご馳走様でした。