Coolier - 新生・東方創想話

クロラ・イン・リンボ

2019/06/29 21:35:52
最終更新
サイズ
39.66KB
ページ数
1
閲覧数
5719
評価数
13/33
POINT
2250
Rate
13.38

分類タグ

.

The Crawlers in Limbo

 グスターボは何らかの不運に見舞われた人間は自分の殻に閉じこもりがちだけれどもじつはその不運こそが恵みであり力なのであってその人間も人類共通の事業に立ち戻ってゆかなければならないのだといい、そうでなければ人類は前に進めないしその人間も苦い気持ちを抱いたまま朽ち果てていくしかないのだといいました。彼はこういったことをたいそう熱をこめて話しましたが玄関の明かりで彼が泣いているのが見えてわたしは彼がわたしの魂のために涙を流してくれていることを知ったのでした。わたしはそんなにまで人に大切に思ってもらったことはなかった。ひとりの人にそこまでしてもらったことはなかった。わたしは何をいっていいのかわかりませんでした。
――コーマック・マッカーシー『すべての美しい馬』より。



   #01 水母の浮かぶ川

 骨のない子が川の水に浸かると大きくてやわらかな頭だけが浮き輪のように水面(みなも)を漂った。三途の川の流れはよどみなく泡沫(うたかた)を結ぶことがない。その流れに寄せられて浮き輪はぷかぷかと浮かんでいるのだ。何十人も。何百人も。まるで真っ白に色づいた巨大な水母(くらげ)の大群のようだった。
 ああやって思い出させてやってるのさ。
 渡し守の死神はそう云った。
 自分たちは今も安全なんだって信じられるようにね。そうしてやらないとまともに話をすることもできない。しばらくはあのままだよ。
 そばには翁(おきな)と媼(おうな)が控えていて顔をうつむけて死神の話を聴いていた。二人とも腰が曲がっており頭に鬼の面をつけていた。
 話し好きの死神は続けて云った。……直庁で書記をやってる奴から以前に聞いた話じゃ、近ごろは水子を堕ろすために二つの道具を使うらしい。ひとつ目が吸引器だね。まずこれで袋を破いて中の液体と子どもの身体を吸い出すんだそうだ。そのときの子どもの半身はひどく柔らかいからわざわざ砕いてやる必要はないんだが頭となると話は別になる。頭蓋は特別大きいから吸引器じゃ取り出すことができないんだな。それで二つ目に鉗子(かんし)が使われることになる。頭だけになった子どもは支えになる四肢もへその緒もないから袋のなかをあちこち動き回るんだ。ちょうど手のひらを転がる水風船のようにね。それを鉗子でなんとか捕まえてバチンと粉々に砕いてから外にかき出してやる。――他にも薬を使ったりすることもあるそうだがあたいがその話を特に印象深く覚えているのは吸引器を使われる直前の子どもの動きだね。脈拍が早くなりノズルの先端から逃れようと必死に身体をよじるらしい。少なくともそいつはそう話していたしあたいもそれは本当なんだろうと思ってる。川に浮かんでいるあの子たちのようすを見ているとね。うなずける話だよ。
 死神は三途の川を振り返った。彼も視線の先を追った。河原のそばには実にたくさんの水母が浮いていた。

 翁が咳をするとそれを合図に死神はこちらへ向き直った。
 ……さて、長話が過ぎたね。舟に乗るまえにあんたの服を貸してもらうことになる。すぐに返すよ。形式的な儀礼みたいなもんさ。
 渡し守が促すとまず老婆が彼の服を脱がせて老人に手渡した。翁はそれを近くの柳の枝先にそっとさしかけた。枝はぴくりとも動かなかった。まるで服が天女の羽衣よろしく質量と呼ぶべきものを最初から備えていないかのように。媼は翁と顔を見合わせて首を振ると服を元のとおりに着せてくれた。死神は一度だけうなずいた。
 ……まァ、分かっちゃいたことなんだけどね。
 彼女はそう云うと右手で彼の頭をぽんぽんと叩いた。
 残念だけどあんたに川を渡らせてやることはできない。しばらくはこちらの岸に留まってもらう必要があるんだ。――案内するよ。付いてきな。さいわい今の河原はさほど悪い場所じゃない。お勤めに熱心な奴がいてね。そいつの云うことさえ聞いていればいつか報われるときが来るかもしれないよ。
 彼は死神に付いて賽の河原に向けて歩き始めた。三途の川の向こうから湿った冷たい風が流れてきた。彼は身を震わせた。返してもらった服のすそを両手でかき寄せた。
 それは産着だった。


   #02 水子たちの大将

 積み石のなかにはまるで重力を感じさせない、我が目を疑うような絶妙のバランスで成り立っている作品がある。いま戎瓔花が挑戦しているのもそれで、気分は玉乗りをするサーカスの象さんさながら。うまく一石を積みあげるたびに周囲の水子たちからパオーンと喜びの声が上がった。しかし獄卒の鬼たちが金棒をたずさえてぞろぞろとやってくると水子はたちまち象から蜘蛛の子に早変わりして逃げ散ってしまった。
 鬼たちは水子が積みあげた作品を金棒の先で突ついて崩していった。瓔花の現代芸術(モダン・アート)も同じ運命をたどり射的場で撃ち倒されたアヒルの置物のように無残な遺骸をさらすことになった。作業は黙々と進行した。まるで何万回と繰り返してきたかのように手慣れた動作だったが実際そうだった。その静かなる劫掠(ごうりゃく)ぶりは雷雨をともなわない野分が風の力だけで家々をなぎ倒していくさまを思わせた。あとには寒々とした戦場跡が広がるばかりだった。

 ひとりだけ、――逃げ出すこともせず鬼から石塔を崩されもしなかった子どもがいた。瓔花はそちらを振り向いた。それは彼だった。彼は平たい石を二つか三つ積みあげただけで放置してしまい後はぼうっと曇り空を見上げていた。そばには小柄な鬼が一人いてどうしたものかと周囲に視線をさまよわせている。
 瓔花は口を開いた。……初めて見る顔ね。
 鬼は肩を跳ねさせてこちらを見た。
 俺のことですか?
 他に誰がいるのよ。まぁ、――その子も新入りだけど。
 鬼は水子を見下ろしてから視線を戻した。
 ……あなた様が蛭子の大将さん?
 瓔花は唇に指を寄せて笑った。“あなた様”なんて丁寧な口ぶりねっ!
 いやまあ――。
 それでどうしたの。崩すならさっさと崩して私たちの王国(、、)から出てってよ。
 そうは云ってもこれまだ積みかけですよ。二つ三つしか積んでないのに崩しちまったら仕事にならないしこいつにしても贖罪にならないじゃないですか。
 瓔花は手を後ろに組みながら鬼の周りを一周した。その歩みは生まれたての子鹿のようにぎこちなく足を踏みしめるたびに膝の関節がぐにゃりと曲がった。
 鬼が眉をひそめた。……大将、足が悪いんですか。
 私のこと何も聞かされてないわけ、あんた?
 俺も新入りなもんで。
 そ。獄卒には向いてないと思うけど。
 そうは云っても旧地獄に留まるのはもっと癪(しゃく)だったんスよ。あそこの空気は肌に合わない。
 資格は?
 灼熱器具取扱なら持ってます。
 乙種?
 甲です。世話になった恩師が云うには絶対甲を取っとけと。甲なら大釜はもちろん鉄室も扱えるんで。
 それなら叫喚までは行けるじゃない。なんでこんな河原でくすぶってんのよ。
 若者は右手で頭の後ろを掻いた。……笑わないでくださいね?
 いいわよ。
 罪人をいたぶるのが厭(いや)なんです。
 瓔花は吹き出した。その拍子に生え揃ったばかりの乳歯が一本飛んで河原に転がった。
 ――なにそれぇ?
 笑わないでくださいって云ったじゃないですか。
 ごめんなさいね。でもそれで獄卒なんてやってけないでしょ。
 もともとは書記官を志望してたんスけどね。面接で落ちました。
 ――それで同じ獄卒なら河原のほうがマシだと踏んだわけね。
 まァそうっスね。でも結局どっちもどっちだったかな。ここに赴任する前に堕ろされた水子の魂魄を復元している部署も研修で見てきたんですけど、……あれは駄目ですね。とても無理です。あんな仕事するくらいなら湯だった釜に罪人を放りこんでるほうが百倍マシですよ。
 選択肢はなかったわけね。
 そういうことです。
 ……まぁ、気長に頑張りなさいよ。でも崩すときは少しくらい手心を加えてくれると嬉しいわ。
 善処します。
 彼は金棒を危なっかしげに肩に担いで話を切り上げた。新入りの水子はその間もずっと空を見上げていた。永遠に晴れることのない灰色の空はしかし安らかに流れていた。瓔花はかつて菩薩に救われてしまった水子のひとりが口にした、覚えたてのたどたどしい言葉のことを思い出した。彼は云った。“明かりがこわい”と。“暗いのがいい”と。そんなことを云っていた。彼が母胎から出て初めて光を拝んだ瞬間とはつまり、頭から爪先まで粉々になって細長いチューブを通り抜けているときだった。


   #03 生まれ変わりし妖怪漁師

 首長竜の“鈴木さん”は日中を三途の川の下流で過ごし夜が近づくと川をさかのぼって上流にこしらえた巣でひと眠りする。牛崎潤美は鈴木さんの背に乗って右腕に赤子を抱き左手にひと振りの銛(モリ)を握って水面を睨んでいた。
 鈴木さんは潤美と同じく水面を睥睨(へいげい)していたが突如首をもたげると川に頭を突っこんだ。水しぶきとともに持ちあげられた竜の口には溺れた亡者の抜け殻がくわえられていた。お見事、と潤美は彼の首を叩いた。鈴木さんは抜け殻を粉々に咀嚼してしまうと次の獲物を求めて悠々と泳ぎだした。

 漁を終えて川の中流域を遡っていると霧の向こうに船影が浮かんだ。潤美は鈴木さんに呼びかけて波を立てないよう注意しながら舟に近づかせた。その小舟はふだん渡し守が使っているものだったが肝心の死神の姿がない。乗員はただひとり、――産着をおくるみ地蔵のように羽織っている水子だった。
 なんだいお前、迷子かい? 潤美は呼びかけた。しかも水子かね。賽の河原を離れて子どもが一人旅たァ前例のないことだ。
 潤美は銛を鈴木さんの首に括りつけた筒の中にしまいこむと手を伸ばして水子を慎重に抱きあげた。こんにゃくのように生ぬるくて脆い身体は力加減を誤ると簡単に潰れてしまいそうだった。そうでなくとも潤美は怪力持ちなのだ。水子は表情の消え失せた顔で潤美を見上げていた。やがてその視線は潤美が右腕に抱いている赤子に移った。彼は両手を差し伸ばして赤子に触れようとした。幼子とは思えないほど強い力で身を乗り出しながら。
 こらこら。潤美は彼を遠ざけた。こいつはおもちゃじゃないんだ。石だよ。それもとんでもなく重い石。おまけにお地蔵さんでも何でもないから救いを求めても無駄だ。お前さんみたいな蛭子が触ると怪我するだけじゃ済まなくなる。大人しくしといてくれよ。
 潤美は小舟の舳先(へさき)に手ばやく縄をくくりつけ余った部分を腕・肩・肘の三点に巻いてしっかり固定すると鈴木さんの首を叩いた。――悪いけど、ちょっと寄り道を頼むよ旦那。
 首長竜はうなずくように頭を上下させて川をスイスイと横切りはじめた。

 賽の河原まであと少しと近づいたところで一葉のたらい舟が姿を見せた。獄卒らしき鬼が必死の形相で流れに逆らいつつ棹(さお)を手繰ってこちらに近づいてくる。潤美は鈴木さんの首を叩いて合図した。たらい舟は上等な杉材に若竹の箍(たが)をはめた逸品だったが首長竜のヒレの一撃にはひとたまりもなく転覆した。
 ――……なにするんスかッ!?
 小鬼はそう叫んで逆さまになったたらいによじ登ろうとしてまたひっくり返った。
 潤美は彼を引き上げてやりながら淡々と答えた。――すまん。見えてなかった。
 嘘をつけ! ――……あんたは牛頭(ごず)か? こんなとこで油を売ってないで煮え立った油に罪人を沈める仕事に戻ったらどうスか。
 潤美は眉をひそめた。私は牛頭じゃない。あんな奴らといっしょにするな。それより何の用だい?
 小舟に乗った水子を見かけませんでしたかって、――いるじゃないスか!
 せわしない奴だなお前。
 鬼は潤美から水子を受け取ると背中をぽんぽんと叩いてやった。
 ……まったく世話をかけさせやがってこいつ。
 私にはまるで話が読めてこないんだけどね。
 潤美の言葉に同意するように鈴木さんもヒレをひと振りさせる。獄卒が顔を上げて云う。こいつったら渡し守の舟に勝手に乗りこんで岸を離れたんですよ。しかも一人で。
 そりゃまた面妖だなぁ。子どもは賽の河原から動けないんじゃなかったのか。
 とにかく見つかって好かったです。戎(えびす)の大将は河原を離れられないし。小野塚の姐貴は自分の舟が盗まれたってのに“面倒くさいからお前が行け”なんてのたまうし。――俺、たらい舟なんて初めて乗りましたよ。
 飛んでくればいいじゃないか。
 俺たち獄卒は川を飛んで渡れないんスよ。規約にそう書いてあります。
 ……クソ真面目な奴だなぁ。なにも鬼が助けてやらんでも好かろうに。
 そうは云っても罪を悔い改めさせるのが仕事ですからね。苦しめることは手段であって目的じゃない。相手が子どもなら猶更ね。
 そうかい。どいつもこいつも嬉しそうに罪人を叩き潰したりすり潰したりしてるそうじゃないか。
 偏見っスよそりゃ。……たぶん。

 迷子の水子を無事に届けてやると瓔花は感極まって潤美の胸に飛びこんできた。潤美、ありがとうっと何度も飛び跳ねては手をぎゅっと握りしめてきた。それは体温が感じられないとても小さな手だった。彼女が飛び跳ねるたびに腰に括りつけられた赤黒いヒモが生きているかのように動き回った。
 潤美はきらきらと光る瓔花の瞳に目を合わせてはそらしてしまうことを繰り返していた。そして挨拶もそこそこにその場を辞した。瓔花と彼女の王国で暮らす水子たちは岸辺に立ってひたすら手を振っていた。彼女たちの姿が霧に紛れてしまうまでいつまでも。充分に離れたところまで来ると潤美は二の腕をさすった。それから肌身離さず抱えている石の赤子の穏やかな表情にじっと視線を落としていた。小さな溜め息が漏れた。そして咳払いすると鈴木さんの首をさすって家路を急がせた。


   #04 とりしゃびきの生き伝説

 庭渡久侘歌は九天の滝の木霊を聴きながら読書に精を出していた。崖上に築かれたツリーハウス。幻想郷を一望できる窓際の特等席。サイド・テーブルに置かれた湯呑みには緑茶が注がれておりお誂え向きのように茶柱が立っていた。時おり顔を上げては滝を突き抜けて聴こえてくる野鳥の鳴き声に心を奪われていた。
 本を読み終えたころに来客があった。最近入庁したばかりだという新入りの獄卒だった。急いできたのか肩で息をしながら戸口にもたれかかり手の甲で汗を拭っている。久侘歌は肩をすくめてから立ち上がり食器棚から別の湯呑みを取り出した。そして桶にためていた冷たい滝水をすくって小鬼に手渡してやった。
 はいどうぞ。
 ……かたじけないです。
 どうしたのですか。そんなハツカダイコンみたいに顔を赤くして。
 お休みのところ申し訳ありません。賽の河原までお越しいただけませんか。
 用件を教えてください。
 水子がひとり喉を焼かれちまったんスよ。それもかなり酷い状態で。
 久侘歌は片足に体重をかけお腹の前で腕を組んだ。たったそれだけの細かい動作でも長いながいしだり尾はそよ風に吹かれる綿毛のようにやわらかに揺れた。窓辺で昼寝をしていたひよこ達が目を覚ましてぴよぴよと鳴いた。彼らの頭を小指で注意ぶかくなでてやると抗議は静まった。久侘歌は唇を尖らせて獄卒を横目で見た。
 あなたが騒ぎ立てるものだからこの子たちが起きてしまいました。
 すみません。ただニワタリ様しか頼れる方がいらっしゃらないという話でして、どうも。
 久侘歌は一度だけうなずいた。……子どもが苦しんでいるとなれば是非もありませんね。承りましょう。

 御山の裏手を抜けて中有の道を往きながら久侘歌は訊ねた。立ち並んだ屋台には目もくれず人込みをかき分けて進む。それで、――喉を焼かれた原因は? 例によって河原の水面に近づきすぎてしまったのですか。
 ええどうもそのようです。向こう(、、、)にいる両親の幻影でも見たんでしょう。それで手を伸ばしたら最後、水がたちまち火に変わって喉を潰しちゃったんです。あっという間の出来事でした。
 よくあることですね。どれだけ注意されても水子は親を求めてしまうものです。――そうでしょう?
 久侘歌は同意を求めるように頭の上に乗っているひよこを指先で突っついた。彼は小さな手羽を振ってぴよぴよと鳴いた。
 新入りの鬼は重い口調でつぶやく。……それにしたってなんであんな凝った仕掛けがあるんスかね。
 これも責め苦のひとつなのですよ。無力な幼子にとって喉を潰されるのはこの上ない苦しみです。なにせ両親の助けを求めることができなくなるのですから。
 そりゃまたァ――。彼はそこまで云ってから中空に言葉を探すように視線をさまよわせた。……そりゃまた、――……。

 水子はなるほどひどい状態だった。傷はすでに膿んでいた。ただでさえ柔らかくてもろい肉がぐずぐずに崩れて今にも垂れ落ちそうになっていた。生きているのが不思議なくらいだった。かひゅう、というかすれた息を吐いては苦しげに咳きこんだ。その度に瓔花が泣きながら彼の背中をさすってやっていた。こちらの姿を認めると彼女は不自由な脚を引きずりながら久侘歌に水子を託した。
 ごめんなさいっ。久侘歌さんほんとうにごめんなさい。――この子ったらもうっ!
 落ち着いてくださいな。久侘歌は火傷の具合を慎重に確かめながら云ってみた。……ここまでひどいと無理に癒すよりも一度息を引き取らせたほうが早いかもしれませんよ。三日と経たないうちに河原の土から新しい肉を得て蘇ります。
 それだけは駄目なんです。瓔花は答えた。この子たちが死ぬのは一回きりで充分です。
 瓔花の顔はただでさえ土気色だったがそれが今や彼岸の空に似た灰色に染まっていた。すがりつくように赤い襟帯をぎゅっと握ってきたために久侘歌は絞められた鶏のようにグエっと声を上げた。
 ――わかりました。分かりましたから落ち着いてくださいな。

 久侘歌は桶に入れて持ってきた九天の滝水を柄杓ですくうとそれを口に含んだ。そして水子の両足首を持って逆さにするとためらうことなく火傷を負った喉に唇をつけた。口から滝水を注いでやると膿んだ傷口はたちまちに塞がり焼けただれたはずの皮膚は元どおりに蘇った。水子が目を開いた。まるで何事もなかったかのように辺りを見回した。獄卒の鬼が喉仏を上下させた。瓔花は泣きはらした目を輝かせて子どもを抱きあげた。そして何度もありがとうと云った。
 お安い御用ですよ。久侘歌は布巾で唇を拭ってから答えた。焼かれたのが喉だけで助かりましたね。
 もう駄目かと思いました。ほんとうに好かった……。
 あなたが居ながら水子を川に近づかせるとは珍しい。
 この子はほんとうに変わった子なんです。
 ――というと?
 石を積もうとしてくれない。小町さんの舟を盗んで川を渡ろうとする。そんでもって今回の一件です。注意して見ていたつもりだったんですけどいつの間にこんな――。
 ……石を積まない?
 そうなんです。なんども云い聞かせました。きっとそのうち楽しくなるからって。
 久侘歌はじっと考えこんでいた。そして首を振った。それはまた妙ですね。おまけに喉を癒したのにこの子は声ひとつ上げません。痛い目に遭ったのに泣くことさえしない。
 ここに来てからひと言も喋らないんです。ただのひと言も。
 閻魔様なら何かご存知かもしれませんが……。それで川を渡ろうとした目的は?
 瓔花は無言で首を振った。
 久侘歌は続けて云う。――この子は彼岸にあるはずの何かを探しているのかもしれませんね。ごくたまにあることです。
 何かって何ですか。
 さてさて。それはちょっと思い当たりません。申し訳ありませんね。鳥頭なもので。近いうちに閻魔様に話を通してあげましょう。
 瓔花は深いふかい息をかすかに震えながら吐き出した。……ほんとうに、ありがとうございます。久侘歌さん。
 久侘歌はうなずいた。頭のひよこを小指でなでてやりながら微笑んで云った。
 あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の、……秋の夜は長いものとはよく詠(うた)われていますが現し世でそれならば彼岸の夜は永遠です。募(つの)った寂しさの数だけ罪石(つみいし)の塔もまた高く積もるもの。完成することのない塔とはすなわち成就することのない願いそのものです。あなたはそこに楽しみをさえ見出した。――でもこの子はより切実かつ現実的な答えを求めたのでしょう。だから積むのを拒んでいる。それは間違っていることかもしれませんが、しかし責めることはできませんね。


   #05 誰もが訪れ、誰もが去る。

 瓔花が水子たちを集めて遊びに興じているところに潤美はお邪魔した。鈴木さんが頭を低く下げて河原に差し伸ばす。曲芸師のように潤美が竜の首から華麗に滑り降りてみせると子どもたちがいっせいに歓声を上げ瓔花も熱い拍手を贈ってくれた。
 あの子のようすを見にきたんだ。潤美は話した。火傷はもう大丈夫なのかい?
 ええ。久侘歌さんのおかげで。
 そりゃ好かった。
 名もない水子は遊びには加わらずに他の子どもたちの顔をじっと見つめては空を見上げることを繰り返していた。傷はすっかり塞がっていて痕もない。彼を見つめながら瓔花がつぶやく。……積み石が好きになれないのならせめて石を使った他の“遊び”から入って興味を持ってもらえれば――、って考えたんだけど。やっぱりダメみたい。
 ふぅん。難儀だねぇ。――ところで。
 潤美は一座を見回した。河原に広げられた茣蓙(ござ)には大小さまざまな石が並べられていた。形も模様も色もばらばら。真珠かと見まごう純白のやつもあれば琥珀のように透き通って魅せるやつもある。
 これは何の遊びだい。なんだか雲居で暮らす連中が昔やってた貝合わせみたいだなぁ。
 ――惜しい! 瓔花は微笑みながら答えた。これは百人一首なのよ。積み石でやる百人一首。
 …………はい?
 百個の石それぞれに百首の歌を当てはめて詠むの。
 なにも書いてないのに? 潤美は首を振った。――いや無茶だろう。そんなのこの子たちが覚えられるのかねぇ。
 水子の記憶力をなめない方がいいわよ。それに時間だけはたっぷりとあるしね。みんなでよく和歌の勉強会もするの。獄卒の奴らは大人しく御詠歌(ごえいか)でも唄ってろとか何とか文句つけてくるんだけどね。“一重積んでは父のため”ってやつ。でも毎日毎日あんなの唄ってたら気が滅入っちゃうじゃない? ――だから内緒でね。華やかながらもちょっぴり儚い歌をみんなで紡ぐのよ。私たちのほとんどは桜の花の美しさも月の満ち欠けの寂しさも知らないままここにいるわけだけど、だからこそ想像する自由くらいはあっても好いはずだわ。
 瓔花は手に持っている本を見せてくれた。百人一首の解説本だった。辞典のように分厚く図解も豊富だった。それは読み物というよりも立派な資料だった。潤美は本をぱらぱらとめくりながら云った。
 どこで見つけたんだいこんな本格的な。
 前に久侘歌さんが買ってきてくれたのよ。中有の道の古本市で見つけた掘り出し物なんだって。
 なんとまぁ。潤美はそう云って再び首を振った。……それで、何か気に入った歌は見つかったのかい?
 私は、……。瓔花は小指を唇にあてて茣蓙に並べられた“歌”を見回した。その中から波のような模様が幾重にも刻まれた暗灰色の石を拾い上げた。丸みを帯びながらもいびつな形。その色と形は水分を失って萎縮硬化した嬰児を思い起こさせた。潤美は石の赤子を胸に抱き寄せて口元に指を寄せた。
 瓔花が笑顔で云う。……やっぱりこれね。
 誰の歌だい?
 蝉丸という人ね。
 これやこの、だっけ。
 そう。これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関。
 関。関ね。どっちかと云うと瓔花よりも久侘歌のほうが好みそうだ。
 そうね。実は最初にこの歌を久侘歌さんに教えてもらったのよ。
 へぇそうなのか。
 瓔花がうなずいて解説する。旅にさすらう人はみんなその場所を通っていくの。出ていく人もそして帰ってきた人も。人の数だけ出逢いがあり別れがある。生きているからこそいつかは死が巡ってくるのと同じようにね。彼岸の関所を守りながら久侘歌さんはたくさんの“旅人”に巡り逢ってきたわ。ほんとうにたくさんの人にね。だからこの歌が好きになったんだって。そしてそれは私も同じことなのよ。――瓔花はそこまで云ってからひとつ呼吸を入れた。……私はずっと永いあいだこの河原で過ごしてきたわ。たくさんの子どもたちがここに流れ着いてはそして救われてしまった。私はその一人ひとりの顔を今でもちゃんと覚えてる。暗いところに並べられた蝋燭のようにぽうっと灯っているのよ。その子たちの顔がね。中にはまだちゃんとした顔かたちを持たないままにここにきてしまった子もいた。手足がない子もいたし脳みそのない子だっていたわ。それでもここにくる直前までその子たちの心臓はちゃんと動いてた。ことんことんとヒヨコのように小さくね。たとえそれがほんの数秒の命だったとしても出逢いは出逢いであり別れは別れなの。だから私はここを少しでも楽しくて過ごしやすい場所にしたいのよ。だってあっちでもこっちでも報われないままなんてあんまりじゃない。

 遊びも終わって子どもたちは三々五々に散って再び石を積み始めた。潤美は鈴木さんの鼻頭をなでてやりながら三途の川の流れを見つめ続けていた。瓔花は石を拾っては川に投げこんでいた。そして水面に広がる波紋の行方を見送った。潤美は石の赤子を両手で抱いてその場に腰を下ろし水子の大将に話しかけた。……ねぇ。
 なに。
 私が幻想郷に流れ着くずっと前から瓔花はここにいたんだろ。
 そうね。
 さっきたくさんの子どもを見送ってきたと云ってたけど、――瓔花自身はどうなんだい。お前は救われたいと思わないのか。
 救われて、――そしてまた生まれたいってこと?
 再び生を享(う)ける。それも好い。あるいは輪廻を抜け出して別の場所に往っても好い。可能性は無限だよ。
 もしくは地獄行きってこともあるかもね。
 それはないだろう。
 瓔花は平たい石を力いっぱい投げた。石は水面で二、三回跳ねてから力を失って沈んだ。彼女は石投げをやめて膝を抱えこみ子宮に浮かぶ胎児のような姿勢になった。潤美は口を開きかけて閉じた。じっと待った。やがて瓔花は顔を伏せたままつぶやいた。……わたしは、ずっとここでいい。――この場所が好いの。
 このまま永遠に石を積み続けるつもりなのかい?
 そうよ。
 いくら楽しんでるからってそれは――。
 近ごろ考えるようになったの。瓔花はこちらの話を遮って云った。例えば私が生まれ変わって今度は五体満足で生きられるとするじゃない?
 おう。
 それで次は何ができるだろうって考えたの。以前小町さんに今の人間たちは何をして暮らしてるんですかって訊ねてみたのよ。丁寧に教えてもらったわ。寺子屋にいく。真面目に働く。家を建てる。物を造る。家庭をつくる。――でもその先に何があるんだろうって考えてしまうのよ。学んだ知識のすべては頭が腐るにつれて失われていくわ。一生けんめい働いて得られたお金も月日とともに摩(す)り果てる。災害が起これば家は流されるし事故のひとつで家族の命もまた喪われてしまう。そして私自身もまたそうした際限のない哀しさや空しさの果てに消え去るの。――けっきょくのところね、死んでいようと生きていようと石を積んでは壊されることの繰り返しなのはいっしょなのよ。……生まれて、老いて、病気になって、そして死ぬ。――私たち水子がここでやっていることはいま生きている人たちがやっていることと同じなの。だから私はもう生まれたくないのよ。ここで楽しくやっていければそれで満足なの。
 潤美は口を半分開けてその話を聞いていた。首を左右に小さく振って訊ねた。
 …………いまの話、死神や閻魔様に打ち明けてないだろうね。
 まさか。瓔花は首を振った。でも誤魔化せないものね。閻魔様はしっかり観ていらっしゃったわ。――私は“黒”なのよ。だから今までもそしてこれからも救われることはないでしょうね。
 潤美は瓔花から視線をそらした。そして石の赤子から右手を離して手のひらで目元を覆った。深いふかい吐息が漏れた。赤子はずっしりと重くなっていた。そう感じるのではなく実際に重くなっていたのだった。河原に打ち寄せる小波が潤美の足を洗っていた。せせらぎは遠かった。
 ねぇ、潤美。
 ……なんだい?
 瓔花はこちらをじっと見つめながら話した。
 ずっと前から気になってたんだけど。
 ああ。
 いつも大切に抱いてるその赤ちゃんってさ、ほんとうは石なんかじゃなくて別の何かで出来てるんじゃないの?
 潤美は答えなかった。


   #06 水子の川渡り

 小野塚小町は目の前にいる亡者にそれ以上は云うべき言葉を持たなかった。渋るようなら背中を蹴って川に放りこんでやってもいいことになっていたが小町はそうしなかった。その亡者は裸だった。奪衣(だつえ)を務める媼。懸衣(けんえ)に勤しむ翁。彼らは罪人に返してやる服も言葉も持たない。亡者が羽織ってきた着物は柳の枝に差しかけられたままだった。
 渡し賃を持たない亡者は観念して川の流れに身を沈めた。そこは三途の川のなかでも下流に位置しており流れは急で容赦がない。罪人はなんども溺れかけながら懸命に浮かび上がっては前に進もうと足をばたつかせていた。だが上流から下ってきた大岩が肉体を破砕してしまうとそれっきり浮かんでこなくなった。悲鳴さえも聴こえなかった。
 はい今日の仕事おわり。
 小町は鎌を担ぎなおすと後のことを老夫婦に任せて昼寝することにした。そして彼岸花の咲き乱れる土手に寝転んでまどろみ始めたところで耳元にコケーっという大声が轟いて飛び起きる羽目になった。
 ――うるさいってんだろお前!
 午睡をお邪魔して申し訳ありません、小野塚さん。久侘歌が姿勢を低めてこちらを見下ろしながら云った。すこしお訊きしたいことがあって参りました。
 そうかい。あたいの至福の時間を邪魔してまで訊ねなきゃいけない重大な案件ってわけだね。
 ええおそらくは。
 小町は欠伸を漏らしてその場に胡座をかいた。
 ……それで、なんだい?
 新しく入ってきたあの水子を渡らせてやることは可能ですか。
 ニワタリ神は淡々とした口調でそう云った。
 小町は膝に頬杖をついた姿勢を崩さずに久侘歌の顔をじっと見上げた。
 ……何のために、わざわざ。
 閻魔様にお目通りさせたいのです。
 四季様に?
 どちらでも構いませんが、できればヤマザナドゥ様に。
 云わんでも自明のことだがあの子の親はまだこっちに来ちゃいない。功徳の代わりもまるで積んでいない。おまけに御詠歌を口ずさむことさえしない。ないない尽くしでどうしようもない。それを承知で何の縁があって送ってやらにゃならん。
 私も縁などありません。久侘歌は微笑んだ。でも約束しましたので。
 あいかわらず子どもには甘いねェ。
 小町は土手の下に広がる賽の河原を眺め渡した。瓔花が手拍子を打ち鳴らして石積みに励む水子たちを鼓舞していた。彼らが共同で作っているのはひたすらに高い石の塔だった。それは天ならぬ親の許まで届かせようと屹立するバベルの塔だった。その後の顛末を思うとますます神話に登場する塔の様相を濃くした。獄卒たちが神鳴りならぬ金棒のフルスイングでバベルの塔を粉砕してしまうと水子たちはワーワーと叫びながら散ってしまった。逃げる彼らの背中に瓔花は楽しげに呼びかけていた。――今回は六尺だよ。みんな、新記録だよ!
 小町は肩をすくめて立ち上がった。
 やれやれ。……さっさと済ませようじゃないか。
 そうですね。

 小町は例の水子を小舟に乗せた。水子たちの大将は舟の縁(へり)に腰かけて彼の頭をなでてやった。
 心配しないでね。ちょっと閻魔様に診てもらうだけだからね。
 他の水子たちも見送りのために桟橋に集まりちょっとした壮行会になった。彼らは押し合いへし合いして新入りの武運を祈ろうと舟に近づいてくるため桟橋から落っこちてしまわないよう瓔花は声を張りあげなければならなかった。
 小町は鎌の石突をこつんと舟の底に打ちつけた。舟はゆっくりと進み出した。水子たちの姿が霧に紛れて見えなくなるとそれと入れ替わるようにして首長竜の背に乗った潤美が幽霊船のように姿を見せた。彼女は銛を高く掲げて挨拶した。
 ニワタリ様に死神様、――それにこの前の迷子ちゃんかい。
 今日も精が出るね。小町が答えた。獲れるかい?
 いんや駄目ですね。もう引き上げです。鈴木さんもお疲れみたいだしね。潤美は水子をしばらく見つめてから続けた。……閻魔様にお見せするわけですか。
 はい。瓔花とそう約束いたしましたので。
 そうですか。いえそれなら好いんです。私は付いていってやることができませんがその子をよろしくお願いしますね。
 潤美はそう云って首長竜の背をなでて去っていってしまった。残された小町と久侘歌は顔を見合わせるばかりだった。


   #07 クシティガルバの審判

 さすがは我が上司といったところだねぇ。
 小町が呟いた。そこは直庁への入口であり久侘歌がふだん勤めている関所なのだがすでに先客がいた。四季映姫・ヤマザナドゥが崩れかけた大手門の屋根瓦に腰かけてこちらを待ち構えていた。
 小町が笑顔を引きつらせながら手を振って合図すると映姫は目を細めて屋根から飛び降りた。小舟を桟橋に寄せている間も閻魔の視線は水子にじっと注がれたままだった。
 舟を降りながら小町が呼びかける。――四季様、お仕事はよろしいのですか?
 もう交替してきました。……事情は把握しています。
 あいかわらずの地獄耳ですね。
 褒め言葉と受け取っておきましょう。
 映姫は次にこちらを見た。久侘歌は左足を一歩引いて挨拶した。お久しぶりです。ヤマザナドゥ様。
 四季でいいですよ。いつも云っていますが。
 それで、と映姫は久侘歌が手を引いている水子に改めて視線を落とす。……石を積まないというのはこの子で間違いありませんね。
 はい。
 口が利けないのも事実ですか。
 そうです。
 あの水子、――戎瓔花は何と?
 心配しておりました。仲間の輪に入ることなくずっと心を閉ざしているものですから。
 仲間、ですか。映姫は久侘歌の言葉を繰り返した。戎瓔花はいささか、水子の本分から外れすぎている。
 前もお伺いしましたね。そのお話。
 映姫はうなずいた。……これまでなんども彼女と面会しました。会うたびに彼女は口癖のように“私は楽しくやっています。ご心配なさらず”と話します。楽しもうとすることそのものが間違いなのだと諭しても聞く耳を持ちません。あの子は河原から離れる意志もなければ輪廻から外れたいという願望さえ持ち合わせていません。救済そのものが余計だと思っているのです。――本来、あそこは長居する場所ではないはずなのに……。
 どうでもいいですけど四季様。小町が口を挟む。水子たちの相手をするのは四季様じゃなくてクシティガルバ様の仕事でしょう。ご自分で負担を背負いこんで心労増やしてどうするんです?
 映姫はにこりともせずに答えた。これは小町。手厳しいですね。
 四季様――。
 これでも元は地蔵ですからね。映姫は瞳を閉じて語った。……今でも覚えているのですが昔ある日に道端で佇んでいると小さな男の子がお菓子を供えて両手をこすり合わせて祈るんです。夏の暑いあつい日でお菓子にはあっという間に蟻がたかってしまいましたが私は気にしませんでした。その子はなんども願いました。おっかあを助けてくんろって。流行り病に冒されていたのですね。私は微力を尽くしましたがすでに手遅れでした。地蔵をやっていて己の無力を突きつけられた経験は一度や二度ではありません。それでも世代が移り変わるたびに子どもたちは私の前で足を留めて祈ってくれました。今ここに私があるのもそうした功徳に因るものです。――だから小町、私の我が侭を許してくださいね。
 小町は押し黙った。映姫は小さくうなずいてから懐より手鏡を取り出した。その水晶は何も映していなかったが何かを映そうと求めているように小刻みに振動していた。例の水子は見惚れるように鏡を見つめていた。映姫が目を閉じるとやがて鏡はひとつの風景を映し出した。
 部屋の隅に揺りかごがあった。揺りかごの中にはレースのついた真っ白な布が敷かれていて生まれたばかりの赤ん坊がすやすやと眠っていた。窓は開けられており網戸の隙間から春の優しいそよ風が部屋に吹きこんでいた。赤子はとても穏やかに眠っていた。過ごしやすい昼下がりだった。やがて部屋のドアが開いて子どもの両親が赤子のようすを見に入ってきた。母親がかごを揺らしてやり父親は我が子の寝顔を熱心に見つめていた。夫は妻の背中に腕を回した。彼女は黙ってその営為を受け容れた。そして二人は部屋の隅に飾ってある小さな仏壇と骨壺に視線を注いでから赤ん坊に何事か呼びかけるのだった。
 映像は赤子の顔がアップで映されたところで停止した。水子は赤子の顔を見つめ続けていた。今まで無表情だった彼の顔がくしゃくしゃに歪んだ。水子は何かを訴えかけようと口を開いたが声は出なかった。
 映姫が云った。
 庭渡久侘歌。
 は、はい。
 この子の喉をもう一度癒してあげてください。
 でも水がありませんよ。
 水ならたくさんあるではないですか。
 久侘歌は三途の川を振り返ってから云った。ですが水子に川の水は――。
 大丈夫です。――信じてください。
 久侘歌は云われたとおりにした。映姫に水子を預けて両手でお椀を形づくり川の水を口に含んだ。そして彼の喉にその水をそっと垂らしてやった。久侘歌が水を与えているあいだ映姫は水子に鏡の映像を見せながら語りかけた。
 ……ご覧なさい。ええ。そうですよ。映姫は穏やかな声で云うのだ。――あなたの妹さんは無事に産まれました。発育が心配されましたが元気に育っていますよ。大丈夫です。こちらには来ていません。――ですから、……もう探す必要はないのですよ。
 鏡は次の映像を映し出した。
 白衣を着た男が先ほどの母親に真摯な口調で話しかけていた。……残念ですが、片方の赤ちゃんの心拍が止まっています。
 寝台に横たわってエコー検査を受けていた母親は目を見開いたまま何も答えなかった。
 医者はゆっくりと言葉を選んで話し続けた。――今すぐ出してあげなければもう一人の赤ちゃんの命も危ない。帝王切開が必要です。それもこれからすぐに。申し訳ありませんが、ご主人とご両親に連絡をお願いします。
 次の映像。母親は右手に病院の電話の受話器を持ち左手で口を覆って嗚咽を抑えながら夫の話を聞いていた。――次。病院のベッドで夫は妻の手を握りながら静かに語りかけていた。母親は目に涙を浮かべながら何度もうなずいていた。産まれた女の子は母親の乳を吸いながら時おり甘えた声をあげていた。――次。夫婦は小さな仏壇の前で正座して手を合わせていた。母親が赤ん坊の名前を呼んで呟くように云った。
 ――……を助けてくれてありがとう。産んであげられなくてごめんね。
 ……久侘歌は水を注ぎ終えて顔を上げた。音が聴こえた。最初はその音声が何を表しているのか分からなかった。川のせせらぎのようにそれは遠くからやってきた。やがて豪雨のように川の音を飲みこんで辺りの空間をいっぱいに満たした。
 それは泣き声だった。その水子は顔を歪めて泣いていた。映姫は彼を抱き上げると腕を揺りかごのようにゆすってあやしてやっていた。それでも水子は泣き続けた。――彼は死んだあとになって、初めて産声を上げることができたのだった。


   #08 想いを抱えて

 新入りの獄卒は棹を不器用に操りながらたらい舟で三途の川を渡っていた。そこへ牛崎潤美が鈴木さんの背に乗って霧の奥からやってきた。獄卒はとっさに両手で頭を守ったが予想した衝撃は訪れなかった。
 お前さんいったい何やってんだい。
 ……この前みたいにぶっ飛ばされるかと思いましたよ。
 潤美は笑みを浮かべて彼にロープの一端を投げ渡した。
 対岸に渡してやるからそれを舟に繋ぎな。
 ありがとうございます。
 たらい舟を曳航しながら潤美は獄卒に訊ねた。地獄の仕事には慣れたかい。
 いや――。まだまだとても。
 そうか。
 獄卒は霧の向こうに広がるはずの賽の河原に視線を向けていた。
 思うんですけど獄卒の仕事は慣れちゃいけないんスよ。いや身体は慣らしても心を慣らしちゃいけない。
 云うようになったじゃないか。
 子どもの死なんてできることなら見ずに済んだほうがいいんです。
 潤美は微笑んで云う。お前さんのような考えをしてる奴がどうして鬼になったんだか。
 つまらない話ですよ。
 いいからぶちまけちまいなよ。
 ……俺は都で生まれたんです。
 獄卒は語りはじめた。喋っているうちにどんどん早口になった。
 ――でも望まれて生まれたわけじゃなかった。それで都の大手門の楼閣に捨てられました。ちょうどニワタリ様が守ってる関所みたいな場所です。そこには無縁の仏さんがたくさん捨てられていて朽ちるに任されていたわけです。俺はそこで乞食の婆さんに育てられました。婆さんだから当然母乳は出ないわけです。それで死体の黒くなった血を飲まされて生き延びました。腐肉だってなんど口にしたか分かりません。婆さんは物乞いの他にも死体の髪の毛を引っこ抜いて作った鬘(かつら)を売って生計を立てていました。――でもある日、強盗に襲われて死にました。死体は着物を盗られて裸に剥かれていました。俺はそいつを追いかけて殺しました。それで検非違使の連中に狙われる身になって逃げているうちに何人も殺すはめになりました。それから何年も経ってある日気がついたときには頭に角が生えていたってわけです。
 潤美は獄卒の横顔をしばらく見つめていた。石の赤子を抱きなおして云った。
 ……意外と凄絶な人生を送ってきたんだねお前さん。
 それでここで働くようになって思ったんスよ。獄卒は自分の拳に視線を落として云った。俺があのまま死んでいたらやっぱり河原で石を積まされる羽目になっていたのかなって。最初にも云いましたけど俺は望まれて生まれてきたわけじゃなかった。俺の存在そのものを消したかった親のために石を積む必要がどこにあるんだってつい考えてしまうわけです。
 それはお前さん穿(うが)ちすぎじゃないかね。潤美は答えた。……飢饉に疫病、そして戦乱。あの時代は間引きという名の子殺しが当たり前だった。それだって喜んでなされたわけじゃない。七歳までは神のうちなんて好く云ったもんだがそれで罪悪感が消えるもんでもない。お前さんは覚えていないだけで本当にお前のおっかさんがためらいなくお前を捨てたのかどうかなんて分からないだろう。
 それでも捨てたって事実そのものは変わりませんよ。
 そうだね。
 潤美はふと思い立ったようにいつも大事に抱えている石の赤子を獄卒に差しだした。
 持ってみな。
 突然なんスか。
 いいから持ってみなって。両手で大事にね。落とすんじゃないよ。
 彼は赤子を受け取った。ずっしりとした重みを手のひらで受け止めた。それは石のはずなのに温もりがあった。かけがえのない体温。産まれたばかりの熱をこれ以上なく大切に閉じこめている石の籠。彼が顔を上げると潤美は今にも泣き出しそうな笑顔でこちらを見返していた。
 それが赤ちゃんの重みだよ。魂だけになった水子とはまた違う。ほんとうの命の重みがその石には宿っているんだよ。彼女は潤んだ瞳を揺らして云った。――抱いたのは初めてだろう。思っていたよりも熱いだろう。簡単に捨ててしまえるものではないよ。
 獄卒は長いあいだ赤子を見つめていた。やがて彼が潤美に漏らした言葉は短いものだった。
 ……重いですね。彼は繰り返した。ほんとうに重いです。

 岸に着くと河原には戎瓔花や水子たちだけでなく庭渡久侘歌もいた。新入りの獄卒の姿を目にすると一座に緊張が走った。獄卒は両手を挙げて金棒がないことを示しても水子たちは警戒を解かなかった。
 久侘歌が近づいてきてくすくすと笑った。指を唇に当てる何気ない動作もいちいち優雅だった。
 すっかり嫌われてしまいましたね。
 まァ仕方ないスね。ところで戎の大将は何をしてらっしゃるんですか。
 久侘歌が笑みを絶やさず答える。あの水子に御詠歌を教えているんです。話せるようになりましたので。
 瓔花が教えているのは次の一節だった。

   娑婆に残りし父母は
  今日七日や二七日
  四十九日や百箇日
  追善供養のその暇に

 水子は瓔花の後に続いて舌足らずな声で暗誦した。言葉は笹の葉のように川に浮かびせせらぎに紛れて消えてしまった。
 百箇日までなんスね。獄卒が云う。一周忌とか三回忌とかは歌詞にないんですか。
 水子たちのようすを眺めながら久侘歌が答える。百箇日は卒哭忌(そっこくき)ですからね。涙をぬぐう日ですよ。
 哀しみからの卒業ってわけですか……。
 そういうことですね。賽の河原は親より先に息を引き取った子が流れ着く場所。往く宛てのない辺獄。南京錠のかけられた鳥籠です。親を嘆き悲しませたことが水子の罪だというならば親が哀しみから立ち直らない限りあの子たちも救われないというわけです。だから私は人間も鳥頭の極意を学ぶべきだと常々思っています。哀しいことなど延々と引きずるよりも三歩進んで忘れてしまった方が好い。
 …………。
 獄卒は黙ったまま指先で自分の角に触れた。
 久侘歌は彼の仕草を感情の読み取れない目で見ていた。それから手を後ろに組んで云った。……今日はまた新しい子どもがやって来るそうです。研修がてらご覧になりませんか。
 かしこまりました。
 歩きながら獄卒は訊ねた。
 そういえば俺がこの前ニワタリ様の自宅に伺ったとき本を読まれてましたね。どんな内容だったんですか。
 世界各地の葬儀について。――と云っても私が繰り返し読んでいたのは鳥葬の箇所ですが。
 魂の抜け殻になった肉体を猛禽に喰わせるってアレですか。
 久侘歌はうなずいた。単に放置するだけではありません。ハゲワシが少しでも食べやすいように適度に切れ込みを入れたり骨を細かく砕いたりして肉体を風に還してやるわけです。昔は幼い子どもが亡くなることをトリツバサになったとか表現する人間がいたものですがなるほど巧い云い回しですね。あの子たちは風のように去っていく。傷ついた鳥のように弱々しい咳を立てたと思ったらもう息を引き取っている。仏に祈りを捧げる暇(いとま)もない。だから私は鳥の姿に戻ってなお苦しんでいる水子たちを見ていると放っておけないわけです。……それが本来の仕事でないにも関わらず。

 小野塚小町が新しく流れ着いた子の相手をしていた。すでに奪衣婆と懸衣翁の手続きは終わっており彼女は賽の河原に移されることになる。子どもはまだ意識がはっきりしていないのか反応らしい反応がない。小町は二人の姿を認めると後は任せると云いたげに右手を振ってから欠伸して歩き去ってしまった。獄卒は首筋に生ぬるい風を感じて振り返った。それは彼岸から生まれて三途の川を吹き渡ってきた冥府の風だった。その風は死そのものだった。それは彼我の境界を越えて生きている者にも死んでしまった者にも平等に吹きつけた。時に追い風になり時に向かい風になった。大事なのはそれが同じ場所から吹いてきたものだってことだ、と獄卒は思った。
 久侘歌は子どもの目前で立ち止まるとしゃがみこんで視線の高さを合わせた。二人は見つめあった。彼女の頭をなでてから久侘歌は語りかけた。……ようこそ。私の声が聴こえますか。あなたの声はまだ生きていますか。
 長い時間をかけてから彼女は、うん、とつぶやいた。
 それでしたらここにもすぐに慣れることでしょう。久侘歌は微笑んで続けた。これから長いながい付き合いになります。時には何もかもが厭になってしまうこともあるでしょう。そんなときは川のせせらぎを聴きなさい。風の唄を聴きなさい。水と風の音色は彼我の境界を軽々と飛び越えてあなたに命の息吹を吹きかけることでしょう。
 子どもはふたたびうなずいた。久侘歌は彼女の手を取って賽の河原へと歩き始めた。去っていく二人の背中を見送りながら獄卒は三途の川に浮かんでいる水母(くらげ)たちのことを想った。水母になった彼らは今も無言のままに訴え続けている。ぼくたちは安全だ、と。獄卒は足下に転がる小石を蹴った。命の息吹か、という独り言が誰にも手渡されることなく大地に受け止められた。それから彼は深呼吸して肺の空気を入れ替えると二人の後を追って歩き出した。


~ おしまい ~

(引用元)
 Cormac McCarthy:All the Pretty Horses, Alfred A. Knopf, 1992.
 黒原敏行 訳(邦題『すべての美しい馬』),早川書房,二〇〇一年。

.
 ご読了に感謝いたします。本当にありがとうございました。

 山桃氏が素敵なイメージ・イラストを描いてくださりました。URLは以下になります。
 https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=75467516

 また、今作では簡単ですがお手製のPVを作らせていただきました。詳細はこちらです。
 https://twitter.com/cabernet5080/status/1144950006865993728

--------------------------------------------------
 以下、コメント返信になります。長文を失礼します。

>>1
 お読みくださりありがとうございます。お褒めの言葉を嬉しく思います。

>>2
 ご読了に感謝いたします。本作では仰るとおり難しいテーマをあえて正面から書きたいという想いもあり冒頭にこのシーンを入れさせていただきました。暗くなりすぎてもいけないので雰囲気を壊さない程度に明るい場面を入れてうまくバランスをとるのは大切ですね。

>>4
 ありがとうございます。体験版の新キャラたち全員を活躍させるために、彼女たち全員が共通して関わることのできるキャラクターとして水子と獄卒に登場していただきました。密度の高さは大事ですね。
 映姫さんは尺の都合で一度しか登場させられなかったので、彼女が問題を解決するただの便利屋になってしまわないように注意が必要でした。獄卒も同じくただの連絡役にならないように背景を組みこみました。どちらも気に入ってくださり本当に嬉しいです。

>>5
 お読みくださり感謝します。キャラを立てるというのは難しくも楽しい工程ですね。「たましいの癒し」というのはとても好い表現だと思います。私もそれを求めて書いたり読んだりしているのだろうと信じています。

>>7
 今回もありがとうございます。陰鬱だけれど優しい曇り空という雰囲気は以前から大事にしていることでもあります。地獄という舞台設定は私としても挑戦のしがいがありました。

>>16
 ご読了、嬉しいです。こうしたテーマを扱うときは下手な誤魔化しがあると途端に魅力が色あせてしまうのが怖いところです。三途の川はとても魅力的な場所ですね。書いていて楽しかったですし、学べることも多くありました。感動もしていただけてほんとうに何よりですね。

>>18
 お褒めの言葉をとても嬉しく思います。時にはこうした真っすぐに感動できるようなお話も好いものですね。

>>19
 どうもありがとうございます。書き始めるにあたっていろいろ調べものをした成果がありましたら幸いですね。

>>22
 いつもありがとうございます。新米の獄卒は話すことのできない水子の代わりに各キャラクターの物語を繋いでくれる膠の役割を果たしてくれました。そんな彼が抱えていた背景はエピローグを書いていて初めて浮かんできたことです。こうした即興ができるのは物語の醍醐味ですね。

>>26
 ありがとうございます。楽しんでいただけて何よりです。
Cabernet
http://twitter.com/cabernet5080
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.960簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白くとても良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
まず水子と賽の河原という難しい題材を誤魔化さずに描く冒頭に衝撃を受けました。
丁寧に描かれる鬼形獣のキャラクターたちの息遣いが子供の死という重いテーマを柔らかく受け止めているように感じます。随所に滲む設定の深い考察がテーマをしっかりと支えているのもすごく好みです。鬼形獣の3人の良さが詰まった、本当に素晴らしい作品でした。
4.100名前が無い程度の能力削除
一貫したストーリーを軸に、主要の登場人物たちのそれぞれのドラマを描く密度の高い内容で、素晴らしさのあまり、舌を巻く思いです。
私が特に好きなシーンは、映姫が子どもに対する思いを明かすシーンと「……重いですね。ほんとうに重い」の部分で、前者では太陽のような慈しみを感じて暖かい気分になり、後者ではその一言に詰まっている獄卒の気持ちを想像すると、こみ上げて来るものがあります……!
精緻なストーリーの組み立てと文章の骨子による、素晴らしい作品をありがとうございました。
5.100つくし削除
まさに読みたかった鬼形獣キャラSSそのものだ!という感じがしてたいへん興奮しております。すべてのキャラを生かす舞台立てとサブキャラ立てがほんとうに巧い。陳腐な言葉になって汗顔の至りなのですが「たましいの癒し」のようなものの存在を信じさせてくれることこそ小説のすばらしいところであり、これこそ小説だなぁ、などとおもうわけです。
7.100サク_ウマ削除
見事でした。かべるねさんの陰鬱な雰囲気が地獄という場所と非常によく噛み合わさっているように感じます。なにより各々のキャラクターの性質というものを余すところなく描き切っているのにはただただ唸らされるばかりです。
良いものを読ませていただきました。ありがとうございます。
16.100名前が無い程度の能力削除

水子、という非常に暗く重いテーマを誤魔化さず書き切った事に感動しました。
各登場人物、特に是非曲直庁組の丁寧で威厳のある描写もまた原作愛が読んでいて分かるほどでした。
そして、妹思いあの水子も報われて本当に……本当によかったです。
恥ずかしながら、四季様があやしてあげる所で涙腺が耐えきれず……。
これこそ鬼形獣SSと言える素晴らしいものを読ませて頂きました!
18.100名前が無い程度の能力削除
地獄や水子というテーマでとても真っ直ぐな感動を与えてもらいました。早くも鬼形獣SSのマスターピース感があります。
19.100評価する程度の能力削除
ちゃんと各キャラの設定や性格がちゃんと生かされていて良かったです
22.100カワセミ削除
ずいぶん真っ直ぐな物語だと思いましたが、新米の鬼の印象が物語全体の印象に直結しているのだと感じました。逆に言えば、彼の言動でこの物語の印象はいかようにも変えられえるとも思います。そんな水みたいに綺麗な話でした。
26.100名前が無い程度の能力削除
とても楽しめました
31.100名前が無い程度の能力削除
なんというか、すごかった。
まっすぐな文章がどっしりときました。
32.100終身削除
会話にかっこが使われてないのが何というか三途の川岸の霧深い感じとか実りのない石積みを繰り返す水子達の儚いサイクルとかの朧げなイメージを掻き立ててくる感じがしました 
無情なルールやら立場やらに縛られながらもちゃんと優しさが崩されないで一つずつ積み上がって救いになっていくのを見守ってる感じがしてとても暖かい気持ちになりました
33.100削除
流れるような綺麗な描写と独特の文体に、ぐいぐい引き込まれていきました。
賽の河原において今もなお、彼ら、彼女らは生きている。それぞれの人物の深い情が真に迫って感じられ、とても愛おしくなってしまいました。
死んでなお続いている、思いを描く物語。感動させていただきました。