見た目が透明な奴は努力次第で何にでもなれるだろうか。私はそれを並大抵の努力では無理だろうと思う。透明は信用を得難い。透明は悪徳だからだ。精神が透明な奴は努力次第で何にでもなれるだろうか。私だったら人の隙間に刃物を挟んでミキサーしても気付かれないような奴は何があっても絶対に信用しない。いつでも自分を指パッチンで殺せるような相手を信用は出来ない。だから私は誰にも信用されることが出来ない。だから私は私を信用していない。だから私が相手を一方的に愛して尽くしてさえいればそれで満足な精神性を手に入れた。私の透明さは私にすら認識出来ない。私は存在していない。私に愛されている奴は誰にも愛されていない。
という私の考えが一挙に否定された。ふーん。だったら私は貴方を握り拳作っただけで壊せるよ。人間同士だって、後ろから岩を頭に向かって思い切りぶつければ簡単に壊し合えるよ。私は貴方が好きだよ。人間同士だって、そういう綱渡りの上でお互いが好きなんだと思うよ。と言われた。
変わってしまった自分に快感を覚えるのは楽しいし悪いことじゃないと思うよ。一人で居ることで周りを守っているような気になるのも同じ。それは私もそういうところがある。私は貴方が好きだってことはいわせてもらうけどね。と言われた。
別に私はそんなつもりで。貴方の好意を否定するつもりは。いや。何故。暫くの間私は彼女の羽を見つめて呆然としていた。そんなのは只の言葉よ。私をどこからも消すつもりなの?と思わず口を付いた。
彼女は呆れたような顔をした。そして、
「ふうん。そういうこと言うんだ」
と言った。私の左腕が弾けた。
「じゃあこういうのはどうかしら」
と言った。私の左足が弾けた。
「さあその触手で私を壊しなさいよ」
と言った。私の右目が弾けた。
「い」
痛い、と言おうとした。直ぐに思い直した。
「意味がわからないわ」
と言うことにした。
「私は吸血鬼だから友達が塵みたいな事言いながら生きてるよりは派手に死んでくれた方が嬉しいわ。人間用の理屈じゃ納得しないみたいだから、吸血鬼の流儀で貴方を痛めつけてやろうと思って」
「・・・なあに、私の血を飲んでくれるの」
「妖怪の血なんてまずいからいらない。貴方が死ぬなら一滴残らず飲んであげるけど」
「まだ生きたい」
「どうして?」
「明日」
「明日?」
「明日お姉ちゃんの新作の本が発売する」
「ははあ。素敵ね」
部屋のドアが開け放たれた。そこには友達の姉が居た。
「お姉様」
「お前力を使ったか?」
「ええ」
「それはお前の意志だったか?」
「ええ」
「それならいいんだ」
友達の姉はにんまりと微笑んだ。いずれ誇り高さに溺れて死にそうな顔をしていた。友達の姉はこちらに向き直って、少し顔を引き締めて、いつも我が妹がお世話になっているね。きみは我が妹が好きかな?と、血まみれで左腕と左足と右目がひび割れたように崩れた私に向かって普通に言った。私はええとても、と言った。
***
「それで、レミリアさんは私を治そうとしてくれたんだけど」
「えっ。どこも治っていないわよ」
「だってあの娘が治しちゃだめって怒るんだもの」
「独占欲の強い娘なのねえ」
「そうなのよねえ」
冷静ではなかったと思う。ああいうのも含めて持病のしゃくと言う以外にないのかもしれないが、きっと私の無意識の生まれる処に触れるような何かだったのだろう。例えば着ている服が違えば私があの娘を八つ裂きにする側だったかもしれない。
「あら、どこにいくの」
「またあの娘の処に遊びに」
「せめて顔は治していきなさい」
「待ちきれないから嫌だ。あとお姉ちゃん。今回の新作はそんなに良くなかったよ。主人公が誰からも良く好かれている理由がわからなくて読んでるこっちは置いてけぼりだった」
「ああ、私もなんだかなと思ってはいたのよ。次はもう少し頑張るわね」
精神が透明な私はきっとどこにいてもそこに最適な何者かになるだろう。あの娘が私に投げかけた「ただの言葉たち」は水面に石を投げたように一瞬波を立てることはあっても、私に変化をもたらすことはない。でもあの娘のそばにいるといつのまにか、川底が虹色の石で満たされるような気がして。透明の私はあなたみたいな虹色の私になれるような気がして。
ならないだろうけど。そんなに大してなりたいわけでもないけれど。洗濯物を干すみたいな感じで、いつも変わらない。
「フーラーンーちゃーん!あーそーびーまーしょ!」
「うるっさい。私貴方のこと好きって言ったけど、寝起きにきーきー高い声で騒ぐ貴方のことは嫌いだわ」
「私ねー、フランちゃんに言われて思ったの!」
「何を」
「やっぱり、一方的な好意って痛いばかりで迷惑ね」
「あら、気付いたの」
という私の考えが一挙に否定された。ふーん。だったら私は貴方を握り拳作っただけで壊せるよ。人間同士だって、後ろから岩を頭に向かって思い切りぶつければ簡単に壊し合えるよ。私は貴方が好きだよ。人間同士だって、そういう綱渡りの上でお互いが好きなんだと思うよ。と言われた。
変わってしまった自分に快感を覚えるのは楽しいし悪いことじゃないと思うよ。一人で居ることで周りを守っているような気になるのも同じ。それは私もそういうところがある。私は貴方が好きだってことはいわせてもらうけどね。と言われた。
別に私はそんなつもりで。貴方の好意を否定するつもりは。いや。何故。暫くの間私は彼女の羽を見つめて呆然としていた。そんなのは只の言葉よ。私をどこからも消すつもりなの?と思わず口を付いた。
彼女は呆れたような顔をした。そして、
「ふうん。そういうこと言うんだ」
と言った。私の左腕が弾けた。
「じゃあこういうのはどうかしら」
と言った。私の左足が弾けた。
「さあその触手で私を壊しなさいよ」
と言った。私の右目が弾けた。
「い」
痛い、と言おうとした。直ぐに思い直した。
「意味がわからないわ」
と言うことにした。
「私は吸血鬼だから友達が塵みたいな事言いながら生きてるよりは派手に死んでくれた方が嬉しいわ。人間用の理屈じゃ納得しないみたいだから、吸血鬼の流儀で貴方を痛めつけてやろうと思って」
「・・・なあに、私の血を飲んでくれるの」
「妖怪の血なんてまずいからいらない。貴方が死ぬなら一滴残らず飲んであげるけど」
「まだ生きたい」
「どうして?」
「明日」
「明日?」
「明日お姉ちゃんの新作の本が発売する」
「ははあ。素敵ね」
部屋のドアが開け放たれた。そこには友達の姉が居た。
「お姉様」
「お前力を使ったか?」
「ええ」
「それはお前の意志だったか?」
「ええ」
「それならいいんだ」
友達の姉はにんまりと微笑んだ。いずれ誇り高さに溺れて死にそうな顔をしていた。友達の姉はこちらに向き直って、少し顔を引き締めて、いつも我が妹がお世話になっているね。きみは我が妹が好きかな?と、血まみれで左腕と左足と右目がひび割れたように崩れた私に向かって普通に言った。私はええとても、と言った。
***
「それで、レミリアさんは私を治そうとしてくれたんだけど」
「えっ。どこも治っていないわよ」
「だってあの娘が治しちゃだめって怒るんだもの」
「独占欲の強い娘なのねえ」
「そうなのよねえ」
冷静ではなかったと思う。ああいうのも含めて持病のしゃくと言う以外にないのかもしれないが、きっと私の無意識の生まれる処に触れるような何かだったのだろう。例えば着ている服が違えば私があの娘を八つ裂きにする側だったかもしれない。
「あら、どこにいくの」
「またあの娘の処に遊びに」
「せめて顔は治していきなさい」
「待ちきれないから嫌だ。あとお姉ちゃん。今回の新作はそんなに良くなかったよ。主人公が誰からも良く好かれている理由がわからなくて読んでるこっちは置いてけぼりだった」
「ああ、私もなんだかなと思ってはいたのよ。次はもう少し頑張るわね」
精神が透明な私はきっとどこにいてもそこに最適な何者かになるだろう。あの娘が私に投げかけた「ただの言葉たち」は水面に石を投げたように一瞬波を立てることはあっても、私に変化をもたらすことはない。でもあの娘のそばにいるといつのまにか、川底が虹色の石で満たされるような気がして。透明の私はあなたみたいな虹色の私になれるような気がして。
ならないだろうけど。そんなに大してなりたいわけでもないけれど。洗濯物を干すみたいな感じで、いつも変わらない。
「フーラーンーちゃーん!あーそーびーまーしょ!」
「うるっさい。私貴方のこと好きって言ったけど、寝起きにきーきー高い声で騒ぐ貴方のことは嫌いだわ」
「私ねー、フランちゃんに言われて思ったの!」
「何を」
「やっぱり、一方的な好意って痛いばかりで迷惑ね」
「あら、気付いたの」
檻の向こうに収容された美しい危険物を観察しているような気持ちになりました。
ポーズが人間的な部分からズレたとこで一貫してるのと、三者三様なのにお互いにツッコミを入れて干渉しようとしないのが在り方だいじな妖怪のやり方なのかなぁと思いました
楽しませて頂きました。