私にとっては炎は忌々しいものだ。
吸血鬼たるこの身体は炎など、光に弱い。どうにかして克服出来ないものか。そんな無意味なことを考えつつ廊下を歩く。
コツ、コツ
「……咲夜」
「なんでしょうかお嬢様?」
コツ……
止まる所に現れるはメイド。しかし改めて思うと咲夜も厄介な能力だ。思考が散漫になりつつも本題を聞いてみる。
「お前は炎と聞けば何を思う。どんなことを言っても良い」
「はあ、炎ですか……そうですね。お料理に使う、と言えばいいでしょうか。それと魔理沙ですね」
炎で魔理沙が出てくるか。
「なぜ魔理沙なんだ?」
一応理由も聞いておこう。
「魔理沙は侵入しまくるので魔法を見ていたら光と熱のものですのでそう思っただけです」
私は話を聞きながらコツコツと歩いて行く。
「そうか、ありがとうな。それとパチェの所に行く。用意を頼む」
「かしこまりました。それとまた美鈴の所に行ってあげてください。また闘いたくてうずうずしているようです」
少し伺うような口調で咲夜はそう言った。
……あんの駄犬が。またか。
「分かった。夜遅くに行くと言っておけ。先に図書館へ行く」
「ご用意をしてきますね」
そう言って咲夜はパッと消えた。
いつ見ても面白いと思う。便利な様で制約のある能力だから面白いのだ。
私はクックックと笑いながら図書館へと歩いた。
***
「何よ、いきなり笑いながら入ってくるなんて。もう少し静かにしてくれないかしら。それと小悪魔が驚いてどこかに行ったじゃない」
入った途端にパチェの辛辣な言葉。
私は笑ったまま言う。
「まあ、良いだろう? 時々大笑いするのも。面白いことは面白いものだ」
「またレミィはよく分からないこと言って……それと咲夜が紅茶を置いていったわよ」
パチェは呆れたように言う。私は椅子を持ってきてパチェの前に座る。
暖かい紅茶はさっき置かれたような温度だ。やはり良い仕事をするな。
「それが面白いんだよ。ああ、紅茶は頼んでおいたんだ。さ、親友よ少し語り合おうではないか」
少し大袈裟に言うのも面白いものだ。
「まーた、何か企んでいるのかしら? 面白いことならまあいいわ」
読んでいる本のページをめくるパチェ。
「そうだな……パチェにとっては炎とはなんだ?」
「炎? いきなりね」
本からは目線を外さない大親友。しかし、少し驚くような声だった。
「そう、炎だ。パチェはどう思う?」
「そうねぇ……炎とは少し違うけれども私にとっての魔法の一部、かしらね。私の魔法は五行に日と月を使うわ。スペルカードにも〈日符〉があるわけだからね」
ふむ。確かにそうだな。パチェの機嫌が悪い時に変な事言うと半殺しレベルでロイヤルフレアを打たれる時もある。私は本当に死にかけるが。太陽はダメだ、灰になってしまう。
「それと、炎単体で言うならランタンの炎ね。レミィに会う前に使っていたランタンを思い出すわ。そう言えばあの家は壊れたのかしら。私はレミィに連れられて紅魔館にいたから知らないわ」
ああ、初めて会った時に住んでいた家か……
「そうだな……確か、パチェを保護した後で魔女狩りが来たから……戦っていたら壊れていたよ」
めちゃめちゃに壊れた覚えがある。
「……そうなのね。またランタンでもつけようかしら」
「それでいいんじゃないか。また香霖堂にでも行ってランタンを見に行くのもアリかもな」
少し感傷に浸る親友を見ながら私は言う。
「そうね……また見に行きましょうか」
ページをめくる音がする。そう言ったきり親友は話さなかった。
「パチェ、私は美鈴の所に行ってくる。気が向いたら来てくれ」
椅子から立ち上がって私は言う。
「ああ、いつものかしら?」
「そうだ、いつもの闘いだよ。本当にあいつは……駄犬だな」
「ふふ、美鈴は駄犬ではなくて駄龍じゃないかしら?」
パチェは笑う。
「ははは、そうだな! 駄龍、いいじゃないか」
私も笑いながら図書館を出ていった。
***
夜の庭へと出る。咲夜が行くと伝えているのであれば門前にいるだろう。飛ぶのも野暮なのでコツコツと歩く。
しかし、美鈴も闘うことが好きだな。スペルカードではそこまで強くないということ、自分ができる格闘の方がしたいのだろう。しかし頻度が上がっているような気もする。前は二、三ヶ月に一回くらいだったのに、最近は一ヶ月に一回とかになったな。暇つぶしにもなるからいいのだがな。
門の前に立つと同時に先制攻撃として門を吹き飛ばす。砂煙が上がる中、美鈴は飛ばした門を叩き割って私の前に立つ。
「お嬢様……流石にいきなり過ぎませんか?」
苦笑いをしながら言う美鈴。
「はは、このぐらいが余興でいいだろうよ。さあ、今日も舞うぞ? 着いてこいよ?」
そう言って殺す気で美鈴に飛びかかった。
~*~*~
私が小悪魔と見に来た時には庭が既に荒れていた。
「パチュリー様? どうしましたか?」
ドゴン、グシャ、など大きな戦闘の音の中、咲夜に声をかけられる。ベランダの椅子に座り防護魔法をかける。
「レミィが遊ぶって言うから見に来たのよ」
庭に来た要件を手っ取り早く伝える。
「しかし、お嬢様と美鈴さんはっちゃけますねえ。あーあ、これじゃ庭のお手伝いしないといけないじゃないですか。めんどくさいなあ」
小悪魔は私の隣の椅子に座りながら愚痴を言っている。
「それと門も壊れましたよ。直す分にはいいですけれど大変ですからね」
咲夜が小悪魔に追い討ちをかけるように言う。
「げえ、咲夜さんそれ本当……うわ、門ないじゃん……なんでお二人はそんなに壊すのかなあ……めんどくさい。パチュリー様もそう思いませんか?」
私に話を振られても仕方がないのだが。
「レミィの事だもの。楽しかったらそれでいいのよ。それと美鈴も色々溜まっていたんじゃないかしら。そこの所咲夜どうなのよ」
よく一緒にいる咲夜に話を振っていく。確証はないが美鈴と咲夜は付き合っているようには思う。なんだかんだ咲夜はお節介焼きだから。美鈴の方がさらにお節介焼きではあるが。まあこれは置いておいて。
「そうですね、最近はお嬢様と闘いたいとよく言っていましたね。後片付け大変なので程々にはして欲しいですけれども……まあ、手遅れですね」
レミィと美鈴を見ながら答える咲夜。少し遠い目をしているのは見なかったことにしておこうかしら。
私もそちらの方へ目を向ける。二人は笑顔のまま相手に飛びかかかり、肉弾戦を繰り広げている。
よく、レミィは美鈴との闘いを舞と例える。この光景を見ればそう思うのも無理はないのかもしれない。ぶつかっては離れ、また近づいてはどこかに行く。周りを破壊しながらもこの二人は笑っているのだから。しかし、あれだけ動けるわね。そんなことをふと思った。
~*~*~
「よくぞ、ここまで来たな!」
始めて、会った時は掴みかかるだけの闘いだったのに。元から覚えていた格闘技をさらに美鈴は伸ばした。ああ、本当に面白い。だから闘うことは止められない。
「お褒めにお預かり光栄です! さあお嬢様、倒れてくださいな!」
そう言いながら腕を掴み、足を払って投げてこようとするものだから恐ろしい。
「まだ倒れはせんよ!」
フルパワーで腕を解き、私は空へ飛ぶ。美鈴は壊れた門の前にいる。
そうしていつもの必殺の構え。
「これで終いだ。ははは、倒れるがいい!」
“真槍スピア・ザ・グングニル”
ヴゥンと紅色の大きな槍が美鈴に飛んでいく。
「お嬢様ぁあ!!!!」
そう吠えた美鈴は正面からグングニルを受けた。
投げた側から受けていることしか分からなかったが、グングニルが消えた時、美鈴はボロボロの状態で立っていた。
「私の……負けですね……」
そう言ってドサ、と美鈴は倒れた。直ぐに咲夜が傍にいることを見た。
「中々の勝負だったわね」
飛んでいる少し下の方からパチェの声がした。後ろを向くとパチェが隣で飛んでいた。
「ああ、パチェか……少し疲れた。寝る……」
親友にポス、ともたれかかったところで私の意識は沈んでいった。
~*~*~
ああ。イライラする。
なぜお姉様は面白いイベントすら何も言わないのだ。地下室に閉じこもっているから? それにしても昨日の夜の勝負は覗き見したけれどあんなことをしていたらぶちのめしたくなるではないか。
ベッドに座り、イラつきに任せて物をパンパン壊していたら、地下室の扉が開く。
「よー、元気にしてるかー?」
魔理沙だった。なんかむしゃくしゃしたのでとりあえず持っていたクマの人形を投げた。
「うおお!? なんだいきなり! なんかまた荒れてるな?」
魔理沙はグレイズしている。器用なものだ。足元に落ちた人形を拾って私の前に来る。
「ほい、人形。しかしどうした。図書館に忍び込もうと思ったら門番いないし、庭見たら荒れてて咲夜と小悪魔が掃除してるし。図書館に行ったらパチュリーもいないし。なんかあったのか?」
私は差し出された人形を受け取って話す。
「昨日の夜、美鈴とお姉様が闘ったの」
「あの惨状を見るにスペルカード……では無さそうだな」
目の前にいた魔理沙は私の隣に座る。
「そ、肉弾戦。あーあ、私も入りたかったな」
魔理沙がギョッとしている。
「いや。まあ……あいつら人間じゃないからそんな無茶なこと出来るのか。よくもまあ、めちゃめちゃにするな」
「そんなこと言っていいのかしら? ここに住んでるのはほぼ妖怪なんだけれども」
襲おうと思えば魔理沙を殺すことだって出来るだろうけれど。そんな野暮なことはしない。
「忘れてはいないさ。門番は人間味がありすぎて忘れそうにはなるが」
ははは、と笑う魔理沙。
「あーあ、暇だわ。することも無いし、美鈴と遊びたくても怪我して寝てるし。お姉様を叩き起こそうかな……」
本気の美鈴とは遊んでみたい。けれどもそれをあいつが許すのだろうか。遊び半分で咲夜を人質にでもすれば見れるのだろうけれど、そんなことしても面白くない。
お姉様は戦うのはいいけれどもあいつは面白くない。なんか飄々とした感じが面倒くさすぎる。
それなら隣の魔理沙と遊ぶ方が面白い。人間だから肉弾戦は出来ないけれどもそのためのスペルカードなのだろうし。魔理沙を横目で見ると図書館から奪ってきた本を読んでいた。というかいつも思うがなんでわざわざここまで来るんだろうか。
「魔理沙、遊ぼう?」
「ん? スペルカードか?」
本をパタンと閉じてこちらを見た。
「うん。戦いたくてうずうずしてるの。付き合ってくれる? 殺しはしないからさ」
「はは、流石に殺されるわけにはいかないからな。スペルカードなら受けるぜ」
「やった。それなら移動しよ」
「はいはい。分かったよ」
そうやって私達は部屋を移動した。
それで、私は存分に暴れ回ることが出来た。戦いと称してあいつの物を壊してみたりした。パチュリーの本は何もしていない。ロイヤルフレアされたらたまらないから。
魔理沙もなんだかんだで楽しそうにしていたからいいや。
~*~*~
私はベッドで目が覚めた。確か……美鈴に勝ってからそのまま寝たんだっけか。
ベッドから起きるとパチェが近くの椅子に座ってそばにいた。いててくれたのか。すうすうと寝ているので起こさないように軽い布団をかける。
部屋を出ると既に夜になっていた。ああ、意外と寝ていたのか。
何をしよう、と思ってもとりあえず着替えよう。咲夜は恐らく美鈴の所だろうから自分で取りに行くか。そうしたら美鈴の部屋に突撃してやろう。骨折れていないといいがな。
さっさと着替えてコウモリになる。庭に寄ってから美鈴の部屋に行こう。
……ある程度咲夜が片付けてくれたのか。昨日の惨状がほぼ元に戻っている。庭の隅に瓦礫が山積みにされているがな。まあ……また謝るか。
パタパタと飛んで美鈴の部屋のガラス窓に引っ付いた。カタカタと足で音を出す。
美鈴は寝ているらしく、起きていた咲夜が気が付いた。
「……あら? お嬢様?」
咲夜が窓ガラスを開けた隙間から入り込み人型に戻る。
「美鈴は寝たか。咲夜、庭の掃除ありがとうな」
「それが私の仕事ですもの。さっきまで起きていたんですけれど眠くなって寝てしまいましたね」
ふむ。まあ顔を合わせればまた言えばいいか。
「咲夜は寝ないのか?」
「まだ眠くありませんので。もう少しここにいてから部屋に戻ります」
「それならいいが。程々にな。無理しても美鈴が悲しむだけだろうからな」
「分かってますよ」
「それじゃあおやすみ咲夜」
私は言いたいことだけ言って窓ガラスからまた出ていった。
***
当てもなくコウモリ姿で空を飛ぶ。
今日は何をしようか。また昼に起きてパチェとランタンを見に行こうか。
することも無いのでパタパタと飛び続けた。
何も変わらず廻り続けている。思考の海に飲まれたとしても何も変わらないのである。
吸血鬼たるこの身体は炎など、光に弱い。どうにかして克服出来ないものか。そんな無意味なことを考えつつ廊下を歩く。
コツ、コツ
「……咲夜」
「なんでしょうかお嬢様?」
コツ……
止まる所に現れるはメイド。しかし改めて思うと咲夜も厄介な能力だ。思考が散漫になりつつも本題を聞いてみる。
「お前は炎と聞けば何を思う。どんなことを言っても良い」
「はあ、炎ですか……そうですね。お料理に使う、と言えばいいでしょうか。それと魔理沙ですね」
炎で魔理沙が出てくるか。
「なぜ魔理沙なんだ?」
一応理由も聞いておこう。
「魔理沙は侵入しまくるので魔法を見ていたら光と熱のものですのでそう思っただけです」
私は話を聞きながらコツコツと歩いて行く。
「そうか、ありがとうな。それとパチェの所に行く。用意を頼む」
「かしこまりました。それとまた美鈴の所に行ってあげてください。また闘いたくてうずうずしているようです」
少し伺うような口調で咲夜はそう言った。
……あんの駄犬が。またか。
「分かった。夜遅くに行くと言っておけ。先に図書館へ行く」
「ご用意をしてきますね」
そう言って咲夜はパッと消えた。
いつ見ても面白いと思う。便利な様で制約のある能力だから面白いのだ。
私はクックックと笑いながら図書館へと歩いた。
***
「何よ、いきなり笑いながら入ってくるなんて。もう少し静かにしてくれないかしら。それと小悪魔が驚いてどこかに行ったじゃない」
入った途端にパチェの辛辣な言葉。
私は笑ったまま言う。
「まあ、良いだろう? 時々大笑いするのも。面白いことは面白いものだ」
「またレミィはよく分からないこと言って……それと咲夜が紅茶を置いていったわよ」
パチェは呆れたように言う。私は椅子を持ってきてパチェの前に座る。
暖かい紅茶はさっき置かれたような温度だ。やはり良い仕事をするな。
「それが面白いんだよ。ああ、紅茶は頼んでおいたんだ。さ、親友よ少し語り合おうではないか」
少し大袈裟に言うのも面白いものだ。
「まーた、何か企んでいるのかしら? 面白いことならまあいいわ」
読んでいる本のページをめくるパチェ。
「そうだな……パチェにとっては炎とはなんだ?」
「炎? いきなりね」
本からは目線を外さない大親友。しかし、少し驚くような声だった。
「そう、炎だ。パチェはどう思う?」
「そうねぇ……炎とは少し違うけれども私にとっての魔法の一部、かしらね。私の魔法は五行に日と月を使うわ。スペルカードにも〈日符〉があるわけだからね」
ふむ。確かにそうだな。パチェの機嫌が悪い時に変な事言うと半殺しレベルでロイヤルフレアを打たれる時もある。私は本当に死にかけるが。太陽はダメだ、灰になってしまう。
「それと、炎単体で言うならランタンの炎ね。レミィに会う前に使っていたランタンを思い出すわ。そう言えばあの家は壊れたのかしら。私はレミィに連れられて紅魔館にいたから知らないわ」
ああ、初めて会った時に住んでいた家か……
「そうだな……確か、パチェを保護した後で魔女狩りが来たから……戦っていたら壊れていたよ」
めちゃめちゃに壊れた覚えがある。
「……そうなのね。またランタンでもつけようかしら」
「それでいいんじゃないか。また香霖堂にでも行ってランタンを見に行くのもアリかもな」
少し感傷に浸る親友を見ながら私は言う。
「そうね……また見に行きましょうか」
ページをめくる音がする。そう言ったきり親友は話さなかった。
「パチェ、私は美鈴の所に行ってくる。気が向いたら来てくれ」
椅子から立ち上がって私は言う。
「ああ、いつものかしら?」
「そうだ、いつもの闘いだよ。本当にあいつは……駄犬だな」
「ふふ、美鈴は駄犬ではなくて駄龍じゃないかしら?」
パチェは笑う。
「ははは、そうだな! 駄龍、いいじゃないか」
私も笑いながら図書館を出ていった。
***
夜の庭へと出る。咲夜が行くと伝えているのであれば門前にいるだろう。飛ぶのも野暮なのでコツコツと歩く。
しかし、美鈴も闘うことが好きだな。スペルカードではそこまで強くないということ、自分ができる格闘の方がしたいのだろう。しかし頻度が上がっているような気もする。前は二、三ヶ月に一回くらいだったのに、最近は一ヶ月に一回とかになったな。暇つぶしにもなるからいいのだがな。
門の前に立つと同時に先制攻撃として門を吹き飛ばす。砂煙が上がる中、美鈴は飛ばした門を叩き割って私の前に立つ。
「お嬢様……流石にいきなり過ぎませんか?」
苦笑いをしながら言う美鈴。
「はは、このぐらいが余興でいいだろうよ。さあ、今日も舞うぞ? 着いてこいよ?」
そう言って殺す気で美鈴に飛びかかった。
~*~*~
私が小悪魔と見に来た時には庭が既に荒れていた。
「パチュリー様? どうしましたか?」
ドゴン、グシャ、など大きな戦闘の音の中、咲夜に声をかけられる。ベランダの椅子に座り防護魔法をかける。
「レミィが遊ぶって言うから見に来たのよ」
庭に来た要件を手っ取り早く伝える。
「しかし、お嬢様と美鈴さんはっちゃけますねえ。あーあ、これじゃ庭のお手伝いしないといけないじゃないですか。めんどくさいなあ」
小悪魔は私の隣の椅子に座りながら愚痴を言っている。
「それと門も壊れましたよ。直す分にはいいですけれど大変ですからね」
咲夜が小悪魔に追い討ちをかけるように言う。
「げえ、咲夜さんそれ本当……うわ、門ないじゃん……なんでお二人はそんなに壊すのかなあ……めんどくさい。パチュリー様もそう思いませんか?」
私に話を振られても仕方がないのだが。
「レミィの事だもの。楽しかったらそれでいいのよ。それと美鈴も色々溜まっていたんじゃないかしら。そこの所咲夜どうなのよ」
よく一緒にいる咲夜に話を振っていく。確証はないが美鈴と咲夜は付き合っているようには思う。なんだかんだ咲夜はお節介焼きだから。美鈴の方がさらにお節介焼きではあるが。まあこれは置いておいて。
「そうですね、最近はお嬢様と闘いたいとよく言っていましたね。後片付け大変なので程々にはして欲しいですけれども……まあ、手遅れですね」
レミィと美鈴を見ながら答える咲夜。少し遠い目をしているのは見なかったことにしておこうかしら。
私もそちらの方へ目を向ける。二人は笑顔のまま相手に飛びかかかり、肉弾戦を繰り広げている。
よく、レミィは美鈴との闘いを舞と例える。この光景を見ればそう思うのも無理はないのかもしれない。ぶつかっては離れ、また近づいてはどこかに行く。周りを破壊しながらもこの二人は笑っているのだから。しかし、あれだけ動けるわね。そんなことをふと思った。
~*~*~
「よくぞ、ここまで来たな!」
始めて、会った時は掴みかかるだけの闘いだったのに。元から覚えていた格闘技をさらに美鈴は伸ばした。ああ、本当に面白い。だから闘うことは止められない。
「お褒めにお預かり光栄です! さあお嬢様、倒れてくださいな!」
そう言いながら腕を掴み、足を払って投げてこようとするものだから恐ろしい。
「まだ倒れはせんよ!」
フルパワーで腕を解き、私は空へ飛ぶ。美鈴は壊れた門の前にいる。
そうしていつもの必殺の構え。
「これで終いだ。ははは、倒れるがいい!」
“真槍スピア・ザ・グングニル”
ヴゥンと紅色の大きな槍が美鈴に飛んでいく。
「お嬢様ぁあ!!!!」
そう吠えた美鈴は正面からグングニルを受けた。
投げた側から受けていることしか分からなかったが、グングニルが消えた時、美鈴はボロボロの状態で立っていた。
「私の……負けですね……」
そう言ってドサ、と美鈴は倒れた。直ぐに咲夜が傍にいることを見た。
「中々の勝負だったわね」
飛んでいる少し下の方からパチェの声がした。後ろを向くとパチェが隣で飛んでいた。
「ああ、パチェか……少し疲れた。寝る……」
親友にポス、ともたれかかったところで私の意識は沈んでいった。
~*~*~
ああ。イライラする。
なぜお姉様は面白いイベントすら何も言わないのだ。地下室に閉じこもっているから? それにしても昨日の夜の勝負は覗き見したけれどあんなことをしていたらぶちのめしたくなるではないか。
ベッドに座り、イラつきに任せて物をパンパン壊していたら、地下室の扉が開く。
「よー、元気にしてるかー?」
魔理沙だった。なんかむしゃくしゃしたのでとりあえず持っていたクマの人形を投げた。
「うおお!? なんだいきなり! なんかまた荒れてるな?」
魔理沙はグレイズしている。器用なものだ。足元に落ちた人形を拾って私の前に来る。
「ほい、人形。しかしどうした。図書館に忍び込もうと思ったら門番いないし、庭見たら荒れてて咲夜と小悪魔が掃除してるし。図書館に行ったらパチュリーもいないし。なんかあったのか?」
私は差し出された人形を受け取って話す。
「昨日の夜、美鈴とお姉様が闘ったの」
「あの惨状を見るにスペルカード……では無さそうだな」
目の前にいた魔理沙は私の隣に座る。
「そ、肉弾戦。あーあ、私も入りたかったな」
魔理沙がギョッとしている。
「いや。まあ……あいつら人間じゃないからそんな無茶なこと出来るのか。よくもまあ、めちゃめちゃにするな」
「そんなこと言っていいのかしら? ここに住んでるのはほぼ妖怪なんだけれども」
襲おうと思えば魔理沙を殺すことだって出来るだろうけれど。そんな野暮なことはしない。
「忘れてはいないさ。門番は人間味がありすぎて忘れそうにはなるが」
ははは、と笑う魔理沙。
「あーあ、暇だわ。することも無いし、美鈴と遊びたくても怪我して寝てるし。お姉様を叩き起こそうかな……」
本気の美鈴とは遊んでみたい。けれどもそれをあいつが許すのだろうか。遊び半分で咲夜を人質にでもすれば見れるのだろうけれど、そんなことしても面白くない。
お姉様は戦うのはいいけれどもあいつは面白くない。なんか飄々とした感じが面倒くさすぎる。
それなら隣の魔理沙と遊ぶ方が面白い。人間だから肉弾戦は出来ないけれどもそのためのスペルカードなのだろうし。魔理沙を横目で見ると図書館から奪ってきた本を読んでいた。というかいつも思うがなんでわざわざここまで来るんだろうか。
「魔理沙、遊ぼう?」
「ん? スペルカードか?」
本をパタンと閉じてこちらを見た。
「うん。戦いたくてうずうずしてるの。付き合ってくれる? 殺しはしないからさ」
「はは、流石に殺されるわけにはいかないからな。スペルカードなら受けるぜ」
「やった。それなら移動しよ」
「はいはい。分かったよ」
そうやって私達は部屋を移動した。
それで、私は存分に暴れ回ることが出来た。戦いと称してあいつの物を壊してみたりした。パチュリーの本は何もしていない。ロイヤルフレアされたらたまらないから。
魔理沙もなんだかんだで楽しそうにしていたからいいや。
~*~*~
私はベッドで目が覚めた。確か……美鈴に勝ってからそのまま寝たんだっけか。
ベッドから起きるとパチェが近くの椅子に座ってそばにいた。いててくれたのか。すうすうと寝ているので起こさないように軽い布団をかける。
部屋を出ると既に夜になっていた。ああ、意外と寝ていたのか。
何をしよう、と思ってもとりあえず着替えよう。咲夜は恐らく美鈴の所だろうから自分で取りに行くか。そうしたら美鈴の部屋に突撃してやろう。骨折れていないといいがな。
さっさと着替えてコウモリになる。庭に寄ってから美鈴の部屋に行こう。
……ある程度咲夜が片付けてくれたのか。昨日の惨状がほぼ元に戻っている。庭の隅に瓦礫が山積みにされているがな。まあ……また謝るか。
パタパタと飛んで美鈴の部屋のガラス窓に引っ付いた。カタカタと足で音を出す。
美鈴は寝ているらしく、起きていた咲夜が気が付いた。
「……あら? お嬢様?」
咲夜が窓ガラスを開けた隙間から入り込み人型に戻る。
「美鈴は寝たか。咲夜、庭の掃除ありがとうな」
「それが私の仕事ですもの。さっきまで起きていたんですけれど眠くなって寝てしまいましたね」
ふむ。まあ顔を合わせればまた言えばいいか。
「咲夜は寝ないのか?」
「まだ眠くありませんので。もう少しここにいてから部屋に戻ります」
「それならいいが。程々にな。無理しても美鈴が悲しむだけだろうからな」
「分かってますよ」
「それじゃあおやすみ咲夜」
私は言いたいことだけ言って窓ガラスからまた出ていった。
***
当てもなくコウモリ姿で空を飛ぶ。
今日は何をしようか。また昼に起きてパチェとランタンを見に行こうか。
することも無いのでパタパタと飛び続けた。
何も変わらず廻り続けている。思考の海に飲まれたとしても何も変わらないのである。
暴れたがりな紅魔館の妖怪たちが妖怪妖怪していてよかったです
いいバトルでした