起床ッ!
妖怪化生が跋扈する、その場所の名は幻想郷!そんな狭く広い世界のはるか上空、鎮座する名は白玉楼!主である西行寺幽々子は怒っている!怒髪天を衝く勢いだと知る!何故幽々子は怒っているのか!
その原因は畳で伸びている!その少女の名は魂魄妖夢!何かあったらとりあえず切ればいいと思っている!好きな言葉は一意専心!極めたい技は回転剣舞!でもモンスターをハントする時はヘビィボウガンを持ち出しちゃう、ハッピートリガーチェーンソーカタナガールだ!ちなみに『ヘビィ』だ!『ヘビイ』ではない!
「早く起きてくださいよ」
そんなハッピートリガーチェーンソーカタナガールが、こう言ったのだ!言葉そのものは万里譲った幽々子だった!だがその主を主と思わぬ態度ッ!それが幽々子の逆鱗に触れたッ!今は館におらぬ先代の目付け役はこうではなかった!やはり鬼瓦でも孫には甘かったか!それは誰にもわからない!
「おどりゃ妖夢ゥ!」
おどりゃ魂魄! 幽々子は妖夢に大木も根を抜かすほどの払い腰を決めると颯爽と居間に向かうのだ!
朝餉ッ!
「妖夢ゥ……お腹はァ!?」
「空いてます幽々子様ァ!」
「善し、いただきますッ!」
「応ッ! いただきますっ!」
ほかほかに炊かれたご飯!シャキシャキとした浅漬け!熱々ながらも風味がしっかり効いている味噌汁ッ!そして黄金の輝きを放つ厚焼き玉子ッ!なんという朝ごはんか!幽々子は妖夢の調理能力は高く評価しているのだ!なんという幸福か!嗚呼これこそが幸せという形の一つなのだ!死んだ身となって改めて幽々子は知ったッ!ご飯が美味しいことは良い事だと!
だが妖夢!だが妖夢よ!何故和食の食後に珈琲を出すのか!
ここで声高に主張しなければいけないのは、決して和食の後に珈琲を出すのが悪ではないという点だ!しかし、遍く世界には調和というものが存在する!それを崩すことは個性でもある、だがそれは調和を知り、そして更なる高みに挑戦する時にこそ発揮するものなのだ!そして単純に幽々子は緑茶が飲みたかったのだ!
幽々子は知っている!妖夢が朝食後に珈琲出してきたということは、つまりだ、緑茶が切れているということなのだ!個性など微塵もへったくれもない、そこにあるのは妥協!妖夢よ、どうしたというのだ!先程の払い腰はやり過ぎたのかもしれぬと、幽々子は優しく尋ねた、歌人のように、羽のように、歌うようにだ!
「すいません、買い忘れたんですけど、面倒だったんでそのままにしちゃいました!あと私珈琲飲みたかったんで!」
「おどりゃ妖夢ゥ!」
おどりゃ魂魄!せめて主に一言尋ねるくらいせぬかと山も震えるほどの体落としを妖夢に決めると、さっそうと洗い物を始めるのだった!
夕方。
幽々子はそわそわしていた。もうすぐ妖夢が帰ってくるのだ、だが買い物などではない。異変解決の命のためだった。
最近は幽々子への世話だったり自身の修行だったりで、異変に首を突っ込むのも久しぶりだ。だが妖夢だって女の子、騒ぎがあれば首を突っ込みたくもなるし、英雄にだってなりたいお年頃なのだ。
もし、全く活躍できずに帰ってきたらどうすればよいか。そんな栓無き事を考えていたが、やめた。活躍できた時と一緒なのだ。活躍しないはずがないのだから。そう、優しく抱きしめ、美味しいご飯を食べさせてやろう。主とはただ享受するだけではいけないのだから。
「只今戻りましたあ」
可愛い従者の声が聞こえる。どうやら心配は杞憂だったらしい。天丼を頬張りながら異変の出来事を話す妖夢の姿はまるで天使のようではないか。そこで妖夢の顔が真面目になった。どうしたのかと幽々子が尋ねると、妖夢はいや、と前置きをしてこう呟いた。
「幽々子様が、寂しそうに見えたもので」
寂しい。そう言われると確かにそうかもしれないと想いながら、しかし幽々子は目を細めた。可愛い従者が活躍するのだ。寂しいことを思いこそすれ、それよりも嬉しさの方が上に決まっているではないかと。だが未だ半人前なのがこの従者なのだ。
「もしかして私、もう幽々子様より有名になっちゃってるかも。いやあ、困っちゃうなあ。美少女剣士魂魄妖夢!みたいな?」
「……おどりゃ妖夢ゥ!」
おどりゃ魂魄!天丼を平らげるのを待ってから、幽々子は妖夢に天も割らんばかりの内股を決めるのだった。
なんやかんや、幽々子は幸せである。
あ、それも含めて天丼か
やっぱりこのノリ好きです
後半しっとりし始めたのも、タイトルで予測させた落着点への終端誘導じみてて解ってるなぁと。いいですね
面白かったです!
状況がブンブン変わってって振り落とされそうでした