私たちは常に存在という概念に囚われながら生きている。そう、私は誰で、私はあなたにとって誰で、私は世界にとって誰でと、そんな命題の答えを愚直に、懸命に、探そうとする。そうやって、自分の居場所を探さないと、生きていけないのが私達だ。
私たちは自分の要素だけでは自分を定義することは出来ない。必ず外部の要素に依存する。ある集団に帰属すること。ある趣味を好むこと。ある存在が好きであること。ある存在に求められていること。ある感覚を好むこと。ある動作が得意であること。最初は虚無な器にどんどん外部的要素を取り込んで行って、自分の血肉とし、骨とする。つまり私たちは自分単独では存在出来ない。必ず何か自分じゃないものに助けられているのだ。それは自分以外の存在であったり、多種多様な現象であったりと千差万別だ。どれを自分と定義するのかは、私達が意思と時間と自由を与えられているように、正解などないのだ。
私達は外的要素によって生かされているのに、いつのまにか自分一人で立っていると勘違いをしてしまう。自分の欲求を優先し、他人を顧みない。その行動が破滅へと繋がるとは知らずに。さーて、私の崇高な頭脳によるとこれからその一例が見れると計算結果が出ているので、見てみようじゃないか。
固定された空間を歪曲し、こことは違う別の空間に繫げる。そこはとある吸血鬼連中が住む紅の館だ。いや不夜城レッド(笑)とでも呼称しようか。そのキッチンの冷蔵庫の前に、ある幼い顔立ちをした吸血鬼がいる。青空を少しだけ薄めた髪色に、背中から生えた蝙蝠の羽。一見すると握力500キロを優に超えるとはあまりにも想像がつかない、幼稚な身体。そう、この館の当主、レミリアスカーレットが冷蔵庫内の獲物を狙っているのだ。ときおり周りに警戒しながら、慎重な動作で冷蔵庫を開ける。開けると、すぐ目に飛び込んできたのは、「フランのプリン」と描かれた、プッ◯ンプリンだ。本来あれはこの幻想郷には存在しない代物だが、この幻想郷の静かな平和の為、私があの吸血鬼に、周りの妖怪が危険な行動をしないように統率するという契約の元交換条件として月に一度外から取り寄せ、提供しているのだ。どうやら人間の肉の次に好物らしい。
本来は別にあの光景は不思議では無い。自分の好きなものを食べる。生物としての当然の嗜みだ。何が問題かといえば、明らかに彼女の妹の名前が入ったプリンだということだ。まぁあの幼稚な奴のことだ。自分の分を食べたあと、もう一つ食べたいという欲求に逆らえなかったとかそこら辺だろう。
彼女は目の前にある禁断の果実を見て、紅い瞳を煌びやかと輝かせ、一瞬逡巡し、韋駄天よりも速い動作でそれを奪った。そして何をトチ狂ったことか、その場でスプーンを片手に食べ始めたのだ。他人の物を意地汚く食べるその姿。よくそれでカリスマとか言えたものだ。そこには高貴な吸血鬼など存在しない。本能がままものを食らう獣そのものだ。
「おいしぃ〜!!」
いやはや、ここまでくると尊敬に値する。これだから奴は、体は幼女、心も幼女と周りから揶揄されるのだ。でも当人のあの弾け飛びそうな笑顔を見たら、あながちそれは間違いでもないんじゃないかと思う。
「最高〜!」
さぞかし美味しいことだろう。自分の好物に加えて、妹のものを奪ったいう背徳感。いつバレるか分からない高揚感。それが極上のスパイスとなり、彼女の脳は絶賛溶かされていることだろう。ただ彼女はものすごく致命的なミスをした。それはその場で食べてしまったことだ。そんなの敵地のど真ん中で裸で寝ているようなものだ。だからお前は阿保なのだ。
「お姉ちゃん?何やってるの?」
「‥!?!?!?」
まさにプリンを摂取しているその時、その場にある人物が現れた。金色の髪、虹色のクリスタルを両方に宿した、枝状の羽。姉と同じ幼い身体。姉の純白のドレスとは対照的な真っ赤なドレス。そう、彼女の妹。フランドールスカーレットだ。
阿保な吸血鬼だこと。もしこのような事態にならないためには、食べないという選択肢を排除すると、以下の二つを遂行すべきだった。
一秒で食べ終わり、完璧に証拠を抹消すること。
自室で食べて、そのあと証拠を抹消すること
といっても、仮にこれらを実行していたとしても食べてしまった時点で、このような結果になることは想像に難くないだろう。せいぜい二時間の猶予が関の山だ。
「お姉ちゃん。それ、フランのプリンだよね?なんで食べてるの?絶対に食べられないように名前まで描いたのに。ねぇなんで?」
「あっ‥いや‥その‥」
「はやくいいなよ」
「もう一杯プリン食べたいなーって。ごめんフラン」
レミリアは妹に深々と頭を擦りつけるように土下座をした。
一方フランはそれを見ても、顔のも瞳にも一切の変化も現れない。ただ無様な姉を無感情で見下ろしている。
「お姉ちゃん。そっか。そうだよね。食べたかったんだよね」
世の中には逆鱗という言葉がある。由来は81枚の鱗のうち、竜の顎に一つだけ逆向きの鱗があって、それに触れると天地を揺るがすほど激昂したという伝承からきている。
「うん分かるよ。フランもプリン大好きで何個も食べたいって思うから」
彼女の声はどことなく慈愛に満ちている。ダメな子を叱る母親のように。しかし、それを聞いているレミリアは身体中から冷汗を流し、ブルブルと震えまくっている。当たり前だ。この慈愛の声は、親愛を拠り所としていない。純粋な殺意。冷たい笑顔と声色がそれを証明している。つまり殺戮へのカウントダウンなのだ。
「お姉ちゃん。フランはお姉ちゃんの事を許すよ」
欲深い存在には神の鉄槌が下される。強欲。七つの大罪とはこういう奴を戒める為に出来たのだろうな。
「でもね。条件があるの‥‥地獄に行ってきて?」
さぁ殺戮ショーの始まりだ。紅の館は文字どうり、その姿を紅く、黒く、染めあげるだろう。血で。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
非常に面白い物が見れた。あんな高度な茶番劇は滅多に見れない。愉快すぎて、死にそうだった。
ーさーて、お煎餅でも食べようかしら。あれ、無いわね、仕方ない。調達しなきゃー
空間を歪め繋げると、タンスの上に保管されたお煎餅が目の前に出現した。そして、手を伸ばすと、私の手に容赦なく、お祓い棒が振り下ろされる。
「いったい!! 痛いじゃない霊夢」
「人の大事なお煎餅とるんじゃないわよ。このスキマババア!」
「ババアなんて酷いわ。私はね、ただ食べたかっただけなの。仕方ないでしょ。欲求には抗えないもの」
私たちは自分の要素だけでは自分を定義することは出来ない。必ず外部の要素に依存する。ある集団に帰属すること。ある趣味を好むこと。ある存在が好きであること。ある存在に求められていること。ある感覚を好むこと。ある動作が得意であること。最初は虚無な器にどんどん外部的要素を取り込んで行って、自分の血肉とし、骨とする。つまり私たちは自分単独では存在出来ない。必ず何か自分じゃないものに助けられているのだ。それは自分以外の存在であったり、多種多様な現象であったりと千差万別だ。どれを自分と定義するのかは、私達が意思と時間と自由を与えられているように、正解などないのだ。
私達は外的要素によって生かされているのに、いつのまにか自分一人で立っていると勘違いをしてしまう。自分の欲求を優先し、他人を顧みない。その行動が破滅へと繋がるとは知らずに。さーて、私の崇高な頭脳によるとこれからその一例が見れると計算結果が出ているので、見てみようじゃないか。
固定された空間を歪曲し、こことは違う別の空間に繫げる。そこはとある吸血鬼連中が住む紅の館だ。いや不夜城レッド(笑)とでも呼称しようか。そのキッチンの冷蔵庫の前に、ある幼い顔立ちをした吸血鬼がいる。青空を少しだけ薄めた髪色に、背中から生えた蝙蝠の羽。一見すると握力500キロを優に超えるとはあまりにも想像がつかない、幼稚な身体。そう、この館の当主、レミリアスカーレットが冷蔵庫内の獲物を狙っているのだ。ときおり周りに警戒しながら、慎重な動作で冷蔵庫を開ける。開けると、すぐ目に飛び込んできたのは、「フランのプリン」と描かれた、プッ◯ンプリンだ。本来あれはこの幻想郷には存在しない代物だが、この幻想郷の静かな平和の為、私があの吸血鬼に、周りの妖怪が危険な行動をしないように統率するという契約の元交換条件として月に一度外から取り寄せ、提供しているのだ。どうやら人間の肉の次に好物らしい。
本来は別にあの光景は不思議では無い。自分の好きなものを食べる。生物としての当然の嗜みだ。何が問題かといえば、明らかに彼女の妹の名前が入ったプリンだということだ。まぁあの幼稚な奴のことだ。自分の分を食べたあと、もう一つ食べたいという欲求に逆らえなかったとかそこら辺だろう。
彼女は目の前にある禁断の果実を見て、紅い瞳を煌びやかと輝かせ、一瞬逡巡し、韋駄天よりも速い動作でそれを奪った。そして何をトチ狂ったことか、その場でスプーンを片手に食べ始めたのだ。他人の物を意地汚く食べるその姿。よくそれでカリスマとか言えたものだ。そこには高貴な吸血鬼など存在しない。本能がままものを食らう獣そのものだ。
「おいしぃ〜!!」
いやはや、ここまでくると尊敬に値する。これだから奴は、体は幼女、心も幼女と周りから揶揄されるのだ。でも当人のあの弾け飛びそうな笑顔を見たら、あながちそれは間違いでもないんじゃないかと思う。
「最高〜!」
さぞかし美味しいことだろう。自分の好物に加えて、妹のものを奪ったいう背徳感。いつバレるか分からない高揚感。それが極上のスパイスとなり、彼女の脳は絶賛溶かされていることだろう。ただ彼女はものすごく致命的なミスをした。それはその場で食べてしまったことだ。そんなの敵地のど真ん中で裸で寝ているようなものだ。だからお前は阿保なのだ。
「お姉ちゃん?何やってるの?」
「‥!?!?!?」
まさにプリンを摂取しているその時、その場にある人物が現れた。金色の髪、虹色のクリスタルを両方に宿した、枝状の羽。姉と同じ幼い身体。姉の純白のドレスとは対照的な真っ赤なドレス。そう、彼女の妹。フランドールスカーレットだ。
阿保な吸血鬼だこと。もしこのような事態にならないためには、食べないという選択肢を排除すると、以下の二つを遂行すべきだった。
一秒で食べ終わり、完璧に証拠を抹消すること。
自室で食べて、そのあと証拠を抹消すること
といっても、仮にこれらを実行していたとしても食べてしまった時点で、このような結果になることは想像に難くないだろう。せいぜい二時間の猶予が関の山だ。
「お姉ちゃん。それ、フランのプリンだよね?なんで食べてるの?絶対に食べられないように名前まで描いたのに。ねぇなんで?」
「あっ‥いや‥その‥」
「はやくいいなよ」
「もう一杯プリン食べたいなーって。ごめんフラン」
レミリアは妹に深々と頭を擦りつけるように土下座をした。
一方フランはそれを見ても、顔のも瞳にも一切の変化も現れない。ただ無様な姉を無感情で見下ろしている。
「お姉ちゃん。そっか。そうだよね。食べたかったんだよね」
世の中には逆鱗という言葉がある。由来は81枚の鱗のうち、竜の顎に一つだけ逆向きの鱗があって、それに触れると天地を揺るがすほど激昂したという伝承からきている。
「うん分かるよ。フランもプリン大好きで何個も食べたいって思うから」
彼女の声はどことなく慈愛に満ちている。ダメな子を叱る母親のように。しかし、それを聞いているレミリアは身体中から冷汗を流し、ブルブルと震えまくっている。当たり前だ。この慈愛の声は、親愛を拠り所としていない。純粋な殺意。冷たい笑顔と声色がそれを証明している。つまり殺戮へのカウントダウンなのだ。
「お姉ちゃん。フランはお姉ちゃんの事を許すよ」
欲深い存在には神の鉄槌が下される。強欲。七つの大罪とはこういう奴を戒める為に出来たのだろうな。
「でもね。条件があるの‥‥地獄に行ってきて?」
さぁ殺戮ショーの始まりだ。紅の館は文字どうり、その姿を紅く、黒く、染めあげるだろう。血で。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
非常に面白い物が見れた。あんな高度な茶番劇は滅多に見れない。愉快すぎて、死にそうだった。
ーさーて、お煎餅でも食べようかしら。あれ、無いわね、仕方ない。調達しなきゃー
空間を歪め繋げると、タンスの上に保管されたお煎餅が目の前に出現した。そして、手を伸ばすと、私の手に容赦なく、お祓い棒が振り下ろされる。
「いったい!! 痛いじゃない霊夢」
「人の大事なお煎餅とるんじゃないわよ。このスキマババア!」
「ババアなんて酷いわ。私はね、ただ食べたかっただけなの。仕方ないでしょ。欲求には抗えないもの」
面白かったです!
冒頭から多少とっ散らかってしまっていたのがやや残念。
全体的に見てきたような、目に浮かぶようなお話でよかったです。
冒頭とのギャップが、いい感じだと思います
しかも紫さんがまたいい味出してる!
第一パラグラフの小難しさが物語に絡んでくるとなお良かったと思います。
フランがキレる前に妙なタメがあって笑いました