目を開けると、天井には薔薇と死体。私の大好きな景色の一つ。
絡み合った指先は、兄弟だったか、恋人だったか。今はもうどうでもいいのだけれど。
お燐に頼んで、腐らないように。人間だったオブジェと薔薇は、今も私に何かを呼び起こさせてくれる。
そう、薔薇を一緒に飾ったの。どちらも綺麗で、美しくて。
そしてどちらも等しく不完全。
死体の美は、死体にならないといけない。生者もまた美しくて、それは死者には出せないの。
薔薇には棘がある。花だけでは駄目。棘があるからこそ、美たりえるのだから。
そう考えると、完全なのかしら。やっぱり、不完全な気がする。
けれども美しいことは事実で、私は薔薇に囲まれた死体を見るたびに時が止まればいいなあって思うの。
でも、もし時が止まってしまったら、お姉ちゃんにもお燐やお空にも、動くみんなに会えなくなっちゃう。
だから、半々。半々くらいが丁度いい。
目の前から死体が消えて、私の視界は空を映して。気が付くと地上に出ていた。
子どもが二人、あぜ道を歩いている。兄弟かしらと近づくと、ちいちゃい方が泣いている。
その光景にどこか胸の奥がきゅうっとして、持ち帰ろうとして後ろに回る。
ちいちゃい方は、大きい方に泣き言をこぼす。大きい方は、笑っていた。
二人で手を繋いで、あぜ道を歩いていく。私はその後姿を見ることしかできなくて。
腕に甘い痒みがぞぞおって走る。ああ、ああ、美しいものを見たって。
人間はすごい。生きていても、死んでいても違った美しさを見せてくれる。汚れていても、捨てられても、騙されても。
追いかけても逃げていく月みたいに、その美しさをきっと私は捕まえられない。誰もが、私自身ですら本当の私を捕まえられないように。
気が付くと世界は夜に包まれていて。星と月が輝いている。
ここが何処かもわからなくて、けど私は何も恐れていないの。
だって、夜の闇にも美しさは沢山転がっているんだもの。
遠くに人里の明かりが見える。私は丘を走って、跳んで。無重力のままに転げまわる。
寝転がった先には、夜空に星が舞っていて。ああ、ああ、なんて美しいんだろうって想いながら、部屋にある死体たちに思いが向いた。
草の匂いが鼻を突いて、ただそれだけじゃなくて。歩いていくと腕が見えた。血肉の匂いも混ざっていたんだ。
食べられちゃったのかしら、ただ残った腕はとても白くて、爪が綺麗で。私はその腕を持って帰っていた。
お姉ちゃんが私に気づいた。珍しいなあと思いながら、お姉ちゃんはため息を吐く。
楽しい事でもあったのかしらと言われたから、美しいものを見つけたのと返した。
お燐に頼んで、腕の血抜きと防腐処理をしてもらった。それだけでもとっても綺麗だったのだけれど、その腕に地獄の薔薇を巻いてみた。
茨の緑と薔薇の花弁、白い腕を見て、私の頭は痺れた。なんて美しいんだろうって。
それでも不完全なんだ。不完全が美しいのか、そもそも完全なものなんてあるわけないのかもしれない。
けど、けどこの美しさは本当で。そしてまた違うものを探しに行きたくなるの。
満足して、ベッドに身を投げ出して。天井には薔薇と死体。私の大好きな景色。
偶然を生贄にしよう。明日はどんなものを見つけられるのかな。ワクワクしたままに、私は目を閉じる。
ああ、ああ。美しいものを探して。
良い雰囲気の作品でした。とても素敵だと思います。
これはエントランスに死体飾りますわ
ああ、ああ、なんて美しい話だろう。
芸術家肌のこいしちゃん
楽しそうで何よりでした