「私のね、身体が何かおかしいの」
古明地こいしがそう言って、姉のさとりに問いかける。
「今度は一体どうしたの」
さとりはいつもこうやって、こいしのふざけた冗談をするりするりと受け流す。けれども今日は何か違った。
「お腹のね、奥の所がきゅっとして、胸の辺りが重苦しいの」
それを聞くなりこれまでの万年筆の走る音が、時が止まったかの如くしんと静まる。
さとりであれど心の読めぬこいしであるが、判らぬ道理がどこにある。心に精通した者ならば気付くであろう、これは恋だと。
「その違和感を取り除く術を教えてあげてもいいわ」
さとりは少し残虐な笑みを浮かべてそう告げた。
さとりの腹はこうだった。誰かのものになるくらいなら、例え姉妹であったとしても私自身の手によって、こいしにとって初めての相手となってやろうじゃないか。
「ほんとにいいの? お姉ちゃん」
そんなこととは露知らず、こいしは素直に喜んだ。
「当然じゃない。だって私は姉だもの」
さとりは努めて明るく笑い、こいしを近くに呼び寄せた。
「目を閉じて、少しの間黙ってなさい」
さとりの指示に従って、静かにじっと堪えるこいし。その姿すら愛おしく、我が物にしたいと思うさとりの気持ち。その劣情が高まって辛抱ならぬさとりの毒牙。知らぬ存ぜぬ哀れなこいし。
その時は遂に来たのだ。
穢れを知らぬ無垢な花弁が他の潤いをその身に纏う。その潤いは微かに甘く、上品な香水の香が鼻をくすぐる。
――姉の香りだ。こいしがそれを認識するのに時間なんぞは不要であった。
さとりの舌はこいしのことを気にすらかけず自分勝手に這い回る。姉にとらわれ自由にならぬこいしは尚も囚われの身だ。しかして長く蹂躙されたこいしの瞳はあらぬ所を彷徨い続け、定かではないこいしの意識はぼやけて見えて、さながらまさに蜃気楼。
そんなこいしを気にすること無く、さとりはやおら唇離す。
「対峙して、症状が出る相手に対しこうしてやれば収まるわ」
さも自慢げにさとりが告げる。そのままふいと、踵を返しさとりはすぐに仕事に戻る。後にはポツリ、こいしが残る。万年筆のカリカリカリという音が、静寂の書斎の中に響き出す。
「そんなの嘘よ、お姉ちゃん」
万年筆の旋律を遮る声がただ一つ。
「……そんなの嘘よ、お姉ちゃん」
呆然と立ち尽くしてたこいしであった。さとりはちょっと面食らい、ただその姿だけを見てどうということもできすらしなかった。
「だってまだドキドキと胸の辺りが痛い程奥の方から打ってくるもの」
さとりは遂に理解した。理解して尚動けなかった。
「ええでもそうね、お姉ちゃん。一回やってみるのもいいね」
こいしはふらり、さとりに迫る。さとりは尚も動けない。その魅惑的な囁きと香りを前に動けない。そんなさとりに目もくれず、こいしは更に歩み寄る。その幅が埋まらんとしたその時に。
こいしはそっと口付けた。
古明地こいしがそう言って、姉のさとりに問いかける。
「今度は一体どうしたの」
さとりはいつもこうやって、こいしのふざけた冗談をするりするりと受け流す。けれども今日は何か違った。
「お腹のね、奥の所がきゅっとして、胸の辺りが重苦しいの」
それを聞くなりこれまでの万年筆の走る音が、時が止まったかの如くしんと静まる。
さとりであれど心の読めぬこいしであるが、判らぬ道理がどこにある。心に精通した者ならば気付くであろう、これは恋だと。
「その違和感を取り除く術を教えてあげてもいいわ」
さとりは少し残虐な笑みを浮かべてそう告げた。
さとりの腹はこうだった。誰かのものになるくらいなら、例え姉妹であったとしても私自身の手によって、こいしにとって初めての相手となってやろうじゃないか。
「ほんとにいいの? お姉ちゃん」
そんなこととは露知らず、こいしは素直に喜んだ。
「当然じゃない。だって私は姉だもの」
さとりは努めて明るく笑い、こいしを近くに呼び寄せた。
「目を閉じて、少しの間黙ってなさい」
さとりの指示に従って、静かにじっと堪えるこいし。その姿すら愛おしく、我が物にしたいと思うさとりの気持ち。その劣情が高まって辛抱ならぬさとりの毒牙。知らぬ存ぜぬ哀れなこいし。
その時は遂に来たのだ。
穢れを知らぬ無垢な花弁が他の潤いをその身に纏う。その潤いは微かに甘く、上品な香水の香が鼻をくすぐる。
――姉の香りだ。こいしがそれを認識するのに時間なんぞは不要であった。
さとりの舌はこいしのことを気にすらかけず自分勝手に這い回る。姉にとらわれ自由にならぬこいしは尚も囚われの身だ。しかして長く蹂躙されたこいしの瞳はあらぬ所を彷徨い続け、定かではないこいしの意識はぼやけて見えて、さながらまさに蜃気楼。
そんなこいしを気にすること無く、さとりはやおら唇離す。
「対峙して、症状が出る相手に対しこうしてやれば収まるわ」
さも自慢げにさとりが告げる。そのままふいと、踵を返しさとりはすぐに仕事に戻る。後にはポツリ、こいしが残る。万年筆のカリカリカリという音が、静寂の書斎の中に響き出す。
「そんなの嘘よ、お姉ちゃん」
万年筆の旋律を遮る声がただ一つ。
「……そんなの嘘よ、お姉ちゃん」
呆然と立ち尽くしてたこいしであった。さとりはちょっと面食らい、ただその姿だけを見てどうということもできすらしなかった。
「だってまだドキドキと胸の辺りが痛い程奥の方から打ってくるもの」
さとりは遂に理解した。理解して尚動けなかった。
「ええでもそうね、お姉ちゃん。一回やってみるのもいいね」
こいしはふらり、さとりに迫る。さとりは尚も動けない。その魅惑的な囁きと香りを前に動けない。そんなさとりに目もくれず、こいしは更に歩み寄る。その幅が埋まらんとしたその時に。
こいしはそっと口付けた。
二人とも可愛くて良かったです
甘い言葉は毒になる、ということですかね。
とても面白かったです。
症状が悪化するこいしちゃんのかわいらしさよ
さとこいキテル