ああ。愛が欲しい。
そう思う。私は誰にも言わないけれど。
桃がついた黒い帽子をかぶって、私は青の髪を引きずって。
当てもなくどこに行くわけでもなく、私は天界を要石で歩き回る。
向けられる目線は今更だ。不良天人と呼ばれてどれだけ経ったのか。もう覚えてもいない。
私が欲しいのは愛。憐憫なぞ欲しい訳では無い。むしろそんなものいらない。
ただ一つ、愛してもらいたかっただけなのに。それすら忘れられて、育てられて。
私は気を引くためになんでもして。その度に怒られ、その度に見放され。もう、私のことはどうでもいいんだろうな。
死ぬ気は更々ないのだが。さすが無気力にはなる。
あの異変も起こしてもそれでも私は愛を得ることは出来なかった。そりゃあ、むしろ敵だもの。貰えるはずもなく。
最後のやつだけは感情剥き出しで楽しかったけれど。私は愛されることなどない事が証明されたわけだ。
まあいい。愛してもらえないのならそのままでいるしかないだろう。死神に追われるのは勘弁だからある程度無理をする必要があるが。
暇だ。天界を歩いていても面白くもなんともない。第一、愛してもらえる人がいないのならどうでも良い世界だこんなところ。
地上へ降りるか。それもどうかと思う。確かに楽しいのではあるが私には上辺だけしか楽しめていない。そんな状態で行っても失礼なだけだ。
今は人がいないところに行こうか。降りて太陽を浴びようか。それとも一生釣れない釣りでもするか。そのぐらいしか思いつかない。
とりあえず妖怪の山や里からは離れて、誰もいないだろうと思われる方へふらふらと行ってみることにした。
***
適当な小川で釣りを始める。釣れたらいいなという感じで。無気力で始めている。もし釣れたらちゃんと焼いて食べよう。それが自然の恵みだ。本当に失礼にあたってしまう。
揺れない竿を見ながら陽のあたる場所の移動する。太陽が暖かい。優しい感じがして太陽は好きだ。それしか理由がないけれども。
ボーッとずっとしている。もう考えることもしていなかった。
ふと竿が揺れた。何もつけていなかったのに。
私は引いた。そうしたら一匹の魚が釣れたではないか。ああ、お前、私に食べられるために釣られたのか?
ピチピチと動き回る魚。その辺にあった小綺麗な棒を持ってきて魚の口に突き刺した。
ああ、ありがとう。魚よ。私のために死んでくれて。私の養分となり得るものになってくれて。
早めに私は火を起こす。緋想の剣を使い(そう使うものでは無いが)火を起こした。
地面に魚を貫いた木を突き刺す。ゆっくりと焼いていこうか。
ちゃんと食べられるように。魚の為にも。
パチパチ……
木が燃えている。魚も焼けてきている。
私は何を思ったのか左腕を火の中に突っ込んだ。
……熱いわね。痛いわね。
ある程度の火傷をしつつ、火から離れる。ついでに魚の向きも変えておいた。
じゃぶじゃぶと腕を小川で冷やす。本当に何をしているんだろうか。痛いと思えるだけでまだ生きてはいけるかな。直ぐに治るだろうしいいのだけれど。
焼いている魚の様子を見る。もうちょっと焼いたら食べられるかな。
魚のそばに座って様子を見ていた。
……これなら良さそう。そう思って棒を持つ。
「いただきます」
私は躊躇なくかぶりついた。さっきまで生きていたもの。それが私の口に入っている。なんと言い難いことなのか。それが生きるということなのか。
愛されなくても生きてはいける。ものを食べれば生きていける。
そんな簡単でも人間は貪欲だから、愛されたいと思ってしまう。私もそうだから。
もぐもぐと私はそんなことを考えつつ食べている。
美味しい。魚は焼きたてにかぎる。冷めても美味しいけれど。
なんでか泣けてきた。何も無いのに。魚を食べているだけなのに。声を出さずに私は泣く。頬を流れるものを感じながら、魚を食べ続ける。
ああ、分からない。分かるわけがない……なんで泣いているのかなんて。
私は魚が食べ終わるまでずっと頬を濡らしていた。
「ごちそうさま、でした」
私は両の手を合わせた。
この恵みに感謝を。誰かが忘れたものにも、この魚が私の血肉になってくれたことに感謝を。食べたら少しだけ元気になれた。濡れた頬は拭って、食べたあとの火を消して、魚をちゃんと供養して。
「ありがとうございました」
それだけを言って私は飛び立った。天界にも帰らず、私は今日一日地上で野宿しようと思う。ここが私のいたい場所だから。
愛がもらえるわけではないけれど。ここは愛が溢れている。
人里で子供たちが親に愛されて。
動物の親子達が生きるために過ごしていて。
全てが生き生きしているのだ。私が過ごしている所より。
ああ、生きている。私が望む愛ではないけれども。
ここは──良い場所だ。一部の妖怪にとっては。
それでも必死に生きる人たちがいる。
ああ。愛されたい。けれども愛してみたいとも思うのだ。
そう思う。私は誰にも言わないけれど。
桃がついた黒い帽子をかぶって、私は青の髪を引きずって。
当てもなくどこに行くわけでもなく、私は天界を要石で歩き回る。
向けられる目線は今更だ。不良天人と呼ばれてどれだけ経ったのか。もう覚えてもいない。
私が欲しいのは愛。憐憫なぞ欲しい訳では無い。むしろそんなものいらない。
ただ一つ、愛してもらいたかっただけなのに。それすら忘れられて、育てられて。
私は気を引くためになんでもして。その度に怒られ、その度に見放され。もう、私のことはどうでもいいんだろうな。
死ぬ気は更々ないのだが。さすが無気力にはなる。
あの異変も起こしてもそれでも私は愛を得ることは出来なかった。そりゃあ、むしろ敵だもの。貰えるはずもなく。
最後のやつだけは感情剥き出しで楽しかったけれど。私は愛されることなどない事が証明されたわけだ。
まあいい。愛してもらえないのならそのままでいるしかないだろう。死神に追われるのは勘弁だからある程度無理をする必要があるが。
暇だ。天界を歩いていても面白くもなんともない。第一、愛してもらえる人がいないのならどうでも良い世界だこんなところ。
地上へ降りるか。それもどうかと思う。確かに楽しいのではあるが私には上辺だけしか楽しめていない。そんな状態で行っても失礼なだけだ。
今は人がいないところに行こうか。降りて太陽を浴びようか。それとも一生釣れない釣りでもするか。そのぐらいしか思いつかない。
とりあえず妖怪の山や里からは離れて、誰もいないだろうと思われる方へふらふらと行ってみることにした。
***
適当な小川で釣りを始める。釣れたらいいなという感じで。無気力で始めている。もし釣れたらちゃんと焼いて食べよう。それが自然の恵みだ。本当に失礼にあたってしまう。
揺れない竿を見ながら陽のあたる場所の移動する。太陽が暖かい。優しい感じがして太陽は好きだ。それしか理由がないけれども。
ボーッとずっとしている。もう考えることもしていなかった。
ふと竿が揺れた。何もつけていなかったのに。
私は引いた。そうしたら一匹の魚が釣れたではないか。ああ、お前、私に食べられるために釣られたのか?
ピチピチと動き回る魚。その辺にあった小綺麗な棒を持ってきて魚の口に突き刺した。
ああ、ありがとう。魚よ。私のために死んでくれて。私の養分となり得るものになってくれて。
早めに私は火を起こす。緋想の剣を使い(そう使うものでは無いが)火を起こした。
地面に魚を貫いた木を突き刺す。ゆっくりと焼いていこうか。
ちゃんと食べられるように。魚の為にも。
パチパチ……
木が燃えている。魚も焼けてきている。
私は何を思ったのか左腕を火の中に突っ込んだ。
……熱いわね。痛いわね。
ある程度の火傷をしつつ、火から離れる。ついでに魚の向きも変えておいた。
じゃぶじゃぶと腕を小川で冷やす。本当に何をしているんだろうか。痛いと思えるだけでまだ生きてはいけるかな。直ぐに治るだろうしいいのだけれど。
焼いている魚の様子を見る。もうちょっと焼いたら食べられるかな。
魚のそばに座って様子を見ていた。
……これなら良さそう。そう思って棒を持つ。
「いただきます」
私は躊躇なくかぶりついた。さっきまで生きていたもの。それが私の口に入っている。なんと言い難いことなのか。それが生きるということなのか。
愛されなくても生きてはいける。ものを食べれば生きていける。
そんな簡単でも人間は貪欲だから、愛されたいと思ってしまう。私もそうだから。
もぐもぐと私はそんなことを考えつつ食べている。
美味しい。魚は焼きたてにかぎる。冷めても美味しいけれど。
なんでか泣けてきた。何も無いのに。魚を食べているだけなのに。声を出さずに私は泣く。頬を流れるものを感じながら、魚を食べ続ける。
ああ、分からない。分かるわけがない……なんで泣いているのかなんて。
私は魚が食べ終わるまでずっと頬を濡らしていた。
「ごちそうさま、でした」
私は両の手を合わせた。
この恵みに感謝を。誰かが忘れたものにも、この魚が私の血肉になってくれたことに感謝を。食べたら少しだけ元気になれた。濡れた頬は拭って、食べたあとの火を消して、魚をちゃんと供養して。
「ありがとうございました」
それだけを言って私は飛び立った。天界にも帰らず、私は今日一日地上で野宿しようと思う。ここが私のいたい場所だから。
愛がもらえるわけではないけれど。ここは愛が溢れている。
人里で子供たちが親に愛されて。
動物の親子達が生きるために過ごしていて。
全てが生き生きしているのだ。私が過ごしている所より。
ああ、生きている。私が望む愛ではないけれども。
ここは──良い場所だ。一部の妖怪にとっては。
それでも必死に生きる人たちがいる。
ああ。愛されたい。けれども愛してみたいとも思うのだ。
何も特別じゃなくても、普通に愛し愛されて欲しいです
いろいろ限界そうな天子がよかったです
悲壮的ではあるが、何処までも大切な事を描いた作品だと思います。
面白かったです。