私──比那名居天子は何も無い青に思いを馳せていた。
天界のすみっこで要石の上に座りながらぼんやりと考える。
私にとっては憎き青であり、大好きな色であり、私の色でもある。
天界はずっと晴れだ。裏を返せばずっと青が続いているのだ。
なんと、憎き青。けれども、私の切り離せない、髪の色なのだ。
元々、青は好きな色だった。
地上にいれば空は青くて、川や海だって青かった。私はそれが大好きだった。
私自身の髪の色の青も誇りに思っていたようにも思う。
しかし天界に昇ってから全てが一変した。
どこもかしこも、青、青、青。
何故こんなにも好きな色が溢れかえっているのだ。
しかもそれを我が物の様に天人達はなんともおもっていないらしい。
ふざけるな。私は怒号したように思う。だがそんなことはお構い無しに何も無かった。それが一番虚しかった。
母様は言う。
「天人としての自覚を持ちなさい」
父様は言う。
「お前はそんなくだらないことしていていいのか」
本当に二人はくだらないほどに天界に落ち着いてしまった。
地上の頃の二人はどこに行ったのか。私には分からなかった。
「この青に、戻りたい……」
いつの間にかそう呟いていた。
「あらあら。何に戻りたいと言うのかしら?」
いきなり後ろから声がかかったと思えば宿敵の声ではないか。
「何も言ってないわよ」
要石に座ったまま後ろを向かずに答える。恐らく金髪の長い髪で胡散臭い笑顔で笑っているのだろう。全てを聞いている癖に。
「そんなに怒らなくても良いじゃない?」
ヌッと私の3尺ほど前に金の髪と珍しく導師服では無い紫の服を着た身体をスキマから出しながら話している。以外にも笑ってはいなかった。
「あんたが笑っていないなんてね──八雲紫」
少しだけおぞましさを感じた。『美しく残酷にこの大地から去ね!』と言われたときと少しだけ雰囲気が似ているようにも思った。
「私だって笑い以外の感情はありましてよ?──比那名居天子」
随分と気安く名前を読んでくれる。絶対に口には出さないが。
お互いにピリピリしていても仕方がないので私は提案する。
「……地上に、降りないかしら。ここで揉めるとまた謹慎食らうからね。食らったらお前のせいだぞ」
とりあえず罪は擦り付けておくに限る。あまりよろしくないのも分かってはいるが……
「私だって、貴女を天界に縛られるわけには行きません」
……は?こいつは何を言っている?とりあえず、取り引きは成功。言葉の内容は考えないことにして私たち(宿敵は瞬間移動)で地上に降り立ったのである。
地上は晴れだった。とても好きでとても憎い青が違う色に見えた。
***
「降りたけどやることないな……」
針妙丸の所に行くのも気が引けるし、紫苑もお寺に女苑に会いに行ってるし。しかも宿敵どこかに行ったし。
「……いい場所探してひなたぼっこでもしようかしら……」
やることが無いならひなたぼっこに限る。暖かい太陽と地上からの空の青だけで元気になれる。
「それには及びませんことよ?」
唐突に目の前に顔だけを出てきやがった。
「うわああ!?!?」
驚きすぎて後退り、緋想の剣を構えてしまっていた。
宿敵はくすくすと笑っているではないか。何たる恥。何たる落ち度。即座に剣を下ろして問うた。
「お前は何をしたいと言うの」
聞きたくないがこればかりは聞かなければ分からない。ふざけんな。
「貴女と一緒にいたくてよ? お話が聞きたいだけです」
……やけに回りくどくなくて気持ち悪い。なんだコイツは?一体誰だ?
「私の事気持ち悪いと思ったでしょう?」
……思い切り顔に出ていたか。それには私は触れなかった。絶対にロクな事にならないと思うからだ。
「ふふ、とりあえず移動しましょうか」
そんなことを言われていきなりスキマに落ちた。というか落とされた。こんなのいきなり過ぎて逆らえるかこの野郎。
***
「痛っ!」
ガンッと落ちるは板間の上。痛い。そもそもここどこ。
「私の家でしてよ。なに、とって食おうだなんてしませんよ。だって天人の肉は妖怪にとって毒ですし」
お前は地底にいる覚妖怪か。
「なんなのよ本当……! それはジョークのつもり?」
くだらない。本当にくだらない。天人よりはいささかマシだが。
「ええ、もちろんですとも」
本当になんだ今日の宿敵は。あまり会ってないと思ったらいきなり出てきて自分の家まで運んでくるとか。流石にここまで振り回されると諦めた。私が振り回す側なのに……。
「それで貴女のお話を聞かせてくださいな」
いやだからなんでそうなるの。仲良くないだろ。むしろ宿敵だろ。
「……いや、あのさぁ。なんであんたに話さなければいけないわけ?そもそも話す義理も無い。ここまでおーけー?」
なぜが外国語が出てしまった。いやほんとなに。
「OKよ、天子」
「ごめん気持ち悪いから名前で呼ばないで」
「それじゃあ比那名居?」
「ふざけんなそれは死んでも嫌だね」
「なら、天子でいいじゃない」
……なんで名前にこだわる?なぜ宿敵に名前を呼ばれている?
「やっぱり名前を呼ぶのはやめてくれる? いつもの様に貴女でいいのよ」
「それじゃあ天子と仲良くなれないじゃない?」
「馴れ合う必要性があるの?」
「だから私は言っているじゃない。天子と仲良くなりたいと」
……名前を呼ぶのは決定事項らしい。名前は好きじゃない……でも、仲良くなりたいだなんていつぶりに聞いたのだろうか。
「……ふん、好きにすれば? でも天子って呼ぶな。地子ならいい」
宿敵がキョトンとしている。旧名の方なら良いとはどういうことだろうと言うことだろうか。
「分かったわ地子。これでいいのかしら?」
「……不本意だけどいいわよ。私はあんたの事は名前で呼ばないからな」
なぜ宿敵を名前で呼ばなければならないのか。そんなのは認めてからでないと無理だ。
「いいわよ別に。好きに呼んでもらっても」
そこの所は宿敵は寛容だ。しかし、私の名前を呼ぶのだけは頑固だったが。
「……ふん」
私は宿敵を見てられなくてそっぽむいた。
しかしここは縁側だろうか。畳に落ちたわけでもなかったので周りを見るとそう判断できた。ここ、ものすごく暖かい。ひなたぼっこに最適すぎて眠くなってしまいそうだ。
「それじゃあ地子、私はお茶を入れてくるわね」
「……毒とか入れるんじゃない? あんたなら」
「やあねぇ、そんな事しないわよ」
そう言って宿敵はおそらく台所の方に向かったのだろう。ここの家を知らないので何もわからないが。紫色の長いワンピースが印象的だった。
「……なんであいつこんなに気をかけるんだ?」
分からなさすぎて独り言まで出る始末。流石になんか疲れたのでもういいや。ひなたぼっこしながらでも寝てやろう。
私は考えることを今は止めた。
~*~*~
目が覚める。ひなたぼっこで良く寝ていたら……しい。今の状況を理解して固まってしまったが。
なぜ宿敵に膝枕なぞされているんだ。帽子は宿敵の片隅に置かれていた。
「あら、起きたのね。おはよう地子。日は傾いているわよ」
しかも笑顔であいさつまでしてくる。いや、だから……
「……なんでこうなってんの」
「お茶を持ってきていたら良く寝ていてね。少し膝枕してみたかったのよ。藍はさせてくれないし、橙もしようとすると藍が怒るし」
いや知らねえよ、お前の膝枕事情なんて。むしろ知りたくなかったよ。
「……私が寝ている間ずっとしていたんでしょう。なら止めてくれないかしら?」
「嫌よ。こんなに可愛い地子をもう少し堪能したいわ」
こいつ……私の事可愛いとか思ってたのか?なんだそれ? 理解が追いつかない。頭の次元が違いすぎて普通に追いつけねえわ。
「本当になんなのよ……」
頭を抱えたい気分だった。とりあえず考えることを諦めた。
「ふふ、可愛いわねえ……綺麗な青の髪」
……なんでこいつはピンポイントで当ててきやがる。もう何も言う気にもなれない。
「地子、もう少し髪の毛を手入れしなさいよ。綺麗になるわよ」
あの……なんかもういいや。
「……」
私は無言を決めることにした。ついていけなさすぎて考えられない。
でも……膝枕なんていつぶりなのだろうか。もう覚えてもいない。宿敵にされていると言うのに。心地よいと思ってしまった自分がいた。懐かしいと思った私がいた。
「ねえ……空のほうじゃなくて、あんたの方に顔を向いても良いかしら」
なぜかそう私は言っていた。
「良いわよ」
許可されたので宿敵の方に顔を向けた。
とても優しい微笑みだった。誰かを慈しむようなそんな顔。人を愛してやまない顔だった。
私は絶句した。こいつにこんな顔が出来たのかと。私は異変を起こしてこいつを怒らせた。私に向けてくる感情は醜いものでも感情を向けてくれるだけで嬉しかった。誰かに認められたかった。
認められることで、青をもう一度好きに、なりたかった。
私の極光を、いいや、私を愛して欲しかった。天界に来てから何もかもつまらなくて。異変を起こして幻想郷の一欠片になれたのかと思って。他の異変にも首を突っ込んで戦って。楽しかった。それなのに、何故こいつは……
「なんで……あんたは……そんな顔が、できる……のよ……」
人を妖怪を天人を信じられなかった。誰も私を見てくれなかった。なのに、なぜ。
「言ったでしょう? 私は地子と仲良くなりたいと。それだけなのよ」
「……おかしいじゃない。私の異変の時は憎悪を向けていたのに、なぜそんなにも人を愛せるの? なぜ疑わないの?」
「それは私だって疑います。けれども地子は異変を起こして私を怒らせた。けれども最後は丸く……までとは行かないかもしれないけれどまとまった。その時点で貴女は幻想郷の一員なのですよ。それだけでいいのです。害成すものは消しますが、一員を愛すことは私はするのですよ」
本当にこいつは……クレイジーじゃないか。幻想郷の一員と言うだけで愛すだなんて。
「裏切られたらどうするのよ……」
「それは詮無きこと。どうしようもありません。愛したものでも消すしかないのですから」
「本当に貴女は……馬鹿ね……紫……」
宿敵──八雲紫は目を見開いていた。
「私を愛してくれるのならば。私はそれでいい。紫と名前を呼ぶわ」
本当に嬉しそうに笑う紫。私の頭を撫でてきた。
「ふふ、嬉しいわ。地子……いいえ天子。これでいいのかしら?」
「うん。良いよ。そう呼んで。私はもう一度愛せそうだわ」
私と紫は笑っていた。
***
一人で天界に帰る。
当たり前だけれども、まだ紫を信用しきれていないとも言える。
けれども愛してくれると言ってくれた。
それだけで良いと思う。駄目なのかもしれないけれども。
少し得た恋心の赤と、私の青。
足せば紫。
いつか私も紫みたいに愛せるようになりたいと、思った。
天界のすみっこで要石の上に座りながらぼんやりと考える。
私にとっては憎き青であり、大好きな色であり、私の色でもある。
天界はずっと晴れだ。裏を返せばずっと青が続いているのだ。
なんと、憎き青。けれども、私の切り離せない、髪の色なのだ。
元々、青は好きな色だった。
地上にいれば空は青くて、川や海だって青かった。私はそれが大好きだった。
私自身の髪の色の青も誇りに思っていたようにも思う。
しかし天界に昇ってから全てが一変した。
どこもかしこも、青、青、青。
何故こんなにも好きな色が溢れかえっているのだ。
しかもそれを我が物の様に天人達はなんともおもっていないらしい。
ふざけるな。私は怒号したように思う。だがそんなことはお構い無しに何も無かった。それが一番虚しかった。
母様は言う。
「天人としての自覚を持ちなさい」
父様は言う。
「お前はそんなくだらないことしていていいのか」
本当に二人はくだらないほどに天界に落ち着いてしまった。
地上の頃の二人はどこに行ったのか。私には分からなかった。
「この青に、戻りたい……」
いつの間にかそう呟いていた。
「あらあら。何に戻りたいと言うのかしら?」
いきなり後ろから声がかかったと思えば宿敵の声ではないか。
「何も言ってないわよ」
要石に座ったまま後ろを向かずに答える。恐らく金髪の長い髪で胡散臭い笑顔で笑っているのだろう。全てを聞いている癖に。
「そんなに怒らなくても良いじゃない?」
ヌッと私の3尺ほど前に金の髪と珍しく導師服では無い紫の服を着た身体をスキマから出しながら話している。以外にも笑ってはいなかった。
「あんたが笑っていないなんてね──八雲紫」
少しだけおぞましさを感じた。『美しく残酷にこの大地から去ね!』と言われたときと少しだけ雰囲気が似ているようにも思った。
「私だって笑い以外の感情はありましてよ?──比那名居天子」
随分と気安く名前を読んでくれる。絶対に口には出さないが。
お互いにピリピリしていても仕方がないので私は提案する。
「……地上に、降りないかしら。ここで揉めるとまた謹慎食らうからね。食らったらお前のせいだぞ」
とりあえず罪は擦り付けておくに限る。あまりよろしくないのも分かってはいるが……
「私だって、貴女を天界に縛られるわけには行きません」
……は?こいつは何を言っている?とりあえず、取り引きは成功。言葉の内容は考えないことにして私たち(宿敵は瞬間移動)で地上に降り立ったのである。
地上は晴れだった。とても好きでとても憎い青が違う色に見えた。
***
「降りたけどやることないな……」
針妙丸の所に行くのも気が引けるし、紫苑もお寺に女苑に会いに行ってるし。しかも宿敵どこかに行ったし。
「……いい場所探してひなたぼっこでもしようかしら……」
やることが無いならひなたぼっこに限る。暖かい太陽と地上からの空の青だけで元気になれる。
「それには及びませんことよ?」
唐突に目の前に顔だけを出てきやがった。
「うわああ!?!?」
驚きすぎて後退り、緋想の剣を構えてしまっていた。
宿敵はくすくすと笑っているではないか。何たる恥。何たる落ち度。即座に剣を下ろして問うた。
「お前は何をしたいと言うの」
聞きたくないがこればかりは聞かなければ分からない。ふざけんな。
「貴女と一緒にいたくてよ? お話が聞きたいだけです」
……やけに回りくどくなくて気持ち悪い。なんだコイツは?一体誰だ?
「私の事気持ち悪いと思ったでしょう?」
……思い切り顔に出ていたか。それには私は触れなかった。絶対にロクな事にならないと思うからだ。
「ふふ、とりあえず移動しましょうか」
そんなことを言われていきなりスキマに落ちた。というか落とされた。こんなのいきなり過ぎて逆らえるかこの野郎。
***
「痛っ!」
ガンッと落ちるは板間の上。痛い。そもそもここどこ。
「私の家でしてよ。なに、とって食おうだなんてしませんよ。だって天人の肉は妖怪にとって毒ですし」
お前は地底にいる覚妖怪か。
「なんなのよ本当……! それはジョークのつもり?」
くだらない。本当にくだらない。天人よりはいささかマシだが。
「ええ、もちろんですとも」
本当になんだ今日の宿敵は。あまり会ってないと思ったらいきなり出てきて自分の家まで運んでくるとか。流石にここまで振り回されると諦めた。私が振り回す側なのに……。
「それで貴女のお話を聞かせてくださいな」
いやだからなんでそうなるの。仲良くないだろ。むしろ宿敵だろ。
「……いや、あのさぁ。なんであんたに話さなければいけないわけ?そもそも話す義理も無い。ここまでおーけー?」
なぜが外国語が出てしまった。いやほんとなに。
「OKよ、天子」
「ごめん気持ち悪いから名前で呼ばないで」
「それじゃあ比那名居?」
「ふざけんなそれは死んでも嫌だね」
「なら、天子でいいじゃない」
……なんで名前にこだわる?なぜ宿敵に名前を呼ばれている?
「やっぱり名前を呼ぶのはやめてくれる? いつもの様に貴女でいいのよ」
「それじゃあ天子と仲良くなれないじゃない?」
「馴れ合う必要性があるの?」
「だから私は言っているじゃない。天子と仲良くなりたいと」
……名前を呼ぶのは決定事項らしい。名前は好きじゃない……でも、仲良くなりたいだなんていつぶりに聞いたのだろうか。
「……ふん、好きにすれば? でも天子って呼ぶな。地子ならいい」
宿敵がキョトンとしている。旧名の方なら良いとはどういうことだろうと言うことだろうか。
「分かったわ地子。これでいいのかしら?」
「……不本意だけどいいわよ。私はあんたの事は名前で呼ばないからな」
なぜ宿敵を名前で呼ばなければならないのか。そんなのは認めてからでないと無理だ。
「いいわよ別に。好きに呼んでもらっても」
そこの所は宿敵は寛容だ。しかし、私の名前を呼ぶのだけは頑固だったが。
「……ふん」
私は宿敵を見てられなくてそっぽむいた。
しかしここは縁側だろうか。畳に落ちたわけでもなかったので周りを見るとそう判断できた。ここ、ものすごく暖かい。ひなたぼっこに最適すぎて眠くなってしまいそうだ。
「それじゃあ地子、私はお茶を入れてくるわね」
「……毒とか入れるんじゃない? あんたなら」
「やあねぇ、そんな事しないわよ」
そう言って宿敵はおそらく台所の方に向かったのだろう。ここの家を知らないので何もわからないが。紫色の長いワンピースが印象的だった。
「……なんであいつこんなに気をかけるんだ?」
分からなさすぎて独り言まで出る始末。流石になんか疲れたのでもういいや。ひなたぼっこしながらでも寝てやろう。
私は考えることを今は止めた。
~*~*~
目が覚める。ひなたぼっこで良く寝ていたら……しい。今の状況を理解して固まってしまったが。
なぜ宿敵に膝枕なぞされているんだ。帽子は宿敵の片隅に置かれていた。
「あら、起きたのね。おはよう地子。日は傾いているわよ」
しかも笑顔であいさつまでしてくる。いや、だから……
「……なんでこうなってんの」
「お茶を持ってきていたら良く寝ていてね。少し膝枕してみたかったのよ。藍はさせてくれないし、橙もしようとすると藍が怒るし」
いや知らねえよ、お前の膝枕事情なんて。むしろ知りたくなかったよ。
「……私が寝ている間ずっとしていたんでしょう。なら止めてくれないかしら?」
「嫌よ。こんなに可愛い地子をもう少し堪能したいわ」
こいつ……私の事可愛いとか思ってたのか?なんだそれ? 理解が追いつかない。頭の次元が違いすぎて普通に追いつけねえわ。
「本当になんなのよ……」
頭を抱えたい気分だった。とりあえず考えることを諦めた。
「ふふ、可愛いわねえ……綺麗な青の髪」
……なんでこいつはピンポイントで当ててきやがる。もう何も言う気にもなれない。
「地子、もう少し髪の毛を手入れしなさいよ。綺麗になるわよ」
あの……なんかもういいや。
「……」
私は無言を決めることにした。ついていけなさすぎて考えられない。
でも……膝枕なんていつぶりなのだろうか。もう覚えてもいない。宿敵にされていると言うのに。心地よいと思ってしまった自分がいた。懐かしいと思った私がいた。
「ねえ……空のほうじゃなくて、あんたの方に顔を向いても良いかしら」
なぜかそう私は言っていた。
「良いわよ」
許可されたので宿敵の方に顔を向けた。
とても優しい微笑みだった。誰かを慈しむようなそんな顔。人を愛してやまない顔だった。
私は絶句した。こいつにこんな顔が出来たのかと。私は異変を起こしてこいつを怒らせた。私に向けてくる感情は醜いものでも感情を向けてくれるだけで嬉しかった。誰かに認められたかった。
認められることで、青をもう一度好きに、なりたかった。
私の極光を、いいや、私を愛して欲しかった。天界に来てから何もかもつまらなくて。異変を起こして幻想郷の一欠片になれたのかと思って。他の異変にも首を突っ込んで戦って。楽しかった。それなのに、何故こいつは……
「なんで……あんたは……そんな顔が、できる……のよ……」
人を妖怪を天人を信じられなかった。誰も私を見てくれなかった。なのに、なぜ。
「言ったでしょう? 私は地子と仲良くなりたいと。それだけなのよ」
「……おかしいじゃない。私の異変の時は憎悪を向けていたのに、なぜそんなにも人を愛せるの? なぜ疑わないの?」
「それは私だって疑います。けれども地子は異変を起こして私を怒らせた。けれども最後は丸く……までとは行かないかもしれないけれどまとまった。その時点で貴女は幻想郷の一員なのですよ。それだけでいいのです。害成すものは消しますが、一員を愛すことは私はするのですよ」
本当にこいつは……クレイジーじゃないか。幻想郷の一員と言うだけで愛すだなんて。
「裏切られたらどうするのよ……」
「それは詮無きこと。どうしようもありません。愛したものでも消すしかないのですから」
「本当に貴女は……馬鹿ね……紫……」
宿敵──八雲紫は目を見開いていた。
「私を愛してくれるのならば。私はそれでいい。紫と名前を呼ぶわ」
本当に嬉しそうに笑う紫。私の頭を撫でてきた。
「ふふ、嬉しいわ。地子……いいえ天子。これでいいのかしら?」
「うん。良いよ。そう呼んで。私はもう一度愛せそうだわ」
私と紫は笑っていた。
***
一人で天界に帰る。
当たり前だけれども、まだ紫を信用しきれていないとも言える。
けれども愛してくれると言ってくれた。
それだけで良いと思う。駄目なのかもしれないけれども。
少し得た恋心の赤と、私の青。
足せば紫。
いつか私も紫みたいに愛せるようになりたいと、思った。
何よりオチが素晴らしかったですこういう発想欲しい
ちょっとデレた天子がかわいらしかったです
青をテーマに描いた紫と天子の距離感がとても良かったです。