天界には何でもある。
地上のものとは比べものにならない食べ物。 酒。 優雅な娯楽。
永い寿命と天人特有の高いスペックはあらゆることを可能にする。
地上の者たちはそれに憧れ、たどり着こうと努力する。
天界には何もない。
私の心を震わせる"ナニカ”。
人々を夢中にさせるコンテンツ。
永い寿命は思考を停滞させ、何も生み出すことができない。
天人たちは心の底ではきっと地上に憧れているのだろう。
そうでなければ“不楽本座”を起こして死ぬ天人などいるはずも無い。
天界もまた、六道輪廻の一つでしか無いのだ。
天界に来ても最初の頃は充実していた。
舞、歌、釣り、飲み比べ、知恵比べ、家にあった本は何度も読んだ。
他の天人に勝負を仕掛けて回るなんて当たり前。
出来ることは沢山あって、大抵のものはすぐに会得することが出来る。
あゝ!なんと充実した世界か!
...だがそんな蜜月の時は永遠に続くわけでは無かった。
天人は基本的に温厚なのだ。負かされたとしても、悔しがることも怒ることもない。
その張り合いの無さには辟易させられた。
不老不死が聞いて呆れる。
感情の発露が生きると言う事ならば、大半の天人は生きながら死んでいるようなものだ。
なんとか怒らせてみようと、烈しい感情を起こさせてみようと色んな事を試した。
何をやってもあいつらはゆるやかに微笑むだけだ。
私に罰を与えるのは、怒りからではなく只の“手順”だから。
そんな事を繰り返してるうち、はたから見れば不作法ばかり行う私のことを“不良天人”とか呼ぶようになった。
私を理解する奴は誰もいない。
...私はこの広い天界で独りぼっちだった。
寂しかった。仲間が欲しかった。
退屈が身体を、心を蝕んでゆく。
じくじくと。
じゅくじゅくと。
腐って行く。
何も起こりもしないつまらない日常を繰り返し、ふとした時に命を刈りに来る死神を追い返す日だけを心待ちにする日々。
この世界にはなんでもあるのにただ一つ、私を心躍らせる存在だけが無い。
只々、無情に過ぎ行く日々。
日々...。
日々.......。
地上に無数の火花が、散っていた。
星空が展開していた。
美しい光だった。星のような弾や7色のエネルギー弾。
紅く染まった地上を照らしていた。
スッと、視界が開けたようだった。
どうやらレミリア・スカーレットという吸血鬼が起こした異変の解決を行っていたらしい。
あの星々は「スペルカードルール」という決闘法の光のようだ。
美しく人々を魅了する火花。
一瞬の輝きに命を賭ける人々。
ただ、そんな生き方ができる事が羨ましかった。
だが私は天人。火花になどなってはならない。
しかし、蝋燭のように何もできないまま静かに消えるなど認められない。
だから、私は目指そう。火花でもなく蝋燭でもなく。
天空で美しく光り輝き、見るものを魅了させながらもその光を発し続けるモノ。
"極光"に、私はなるのだ。
最初はどこか人里とかに攻撃を仕掛けようかと思った。
だが、ただ異変を起こすだけでは意味がない。
もし地上で大きな異変を起こしたとなれば、いくらお目こぼしをされている身分とはいえ、すぐに天界に連れ戻されるだろう。
そうなればまず間違いなく謹慎。しばらくの間は地上を眺めることすらできなくなる。
それではただの火花でしかない。異変を起こすと同時に地上と繋がりを作って自然と地上で活動が出来るようにしなければ。
チャンスは一度きり、慎重に事を進めなければならない。
冬が終わらない異変があった。
あの博麗の巫女とやら、行動がかなり遅かった。自分に実害がないと動こうとしないのか? ものぐさな性格のようだ。
夜が終わらない異変があった、らしい。
...いつの間にか終わっていた。詳細不明。
......3日おきに酒宴を開いている。
何だあれは?お酒好きにも程があるだろう。何かしらかの異変だと思うが、状況がよく飲み込めない。
花が咲き誇る異変があった。
やはりあの巫女はかなりの面倒くさがりのようだ。
大切なことだ。
山の新参者が巫女にケンカを売った。異変後は以前より幻想郷に馴染んだように見える。
これは目的が近い私にとって重要な情報となる。
やはり異変後の酒宴は大事らしい。
起こす異変の肝はやはり要石だろう。
要石を幻想郷に打ち込んでしまえばもうこっちのもの。維持には私の協力がいるし、地上に降りる大義名分ができる。
どこに打ち込むかは決まっている。博麗神社だ。
多くの人外が集まるあそこは目的を達するに望ましい。
何よりあのものぐさな巫女を確実に異変に巻き込める。
だが、真の目的が要石を打ち込むことだとばれた場合、恨まれる可能性が大きい。
要石は諸刃の剣。地震が起きなくなるが、それはエネルギーをため込むだけで要石を抜いたときの被害は大きくなる。
恨みを買うのではなく、恩を売らなければならない。
出来るならば、恩を売る相手は扱いやすく影響力の大きい者が望ましい。
その点、あの巫女なら問題ない。
今までの行動を見る限り彼女は直情的だ。
神社を壊す事で多少恨みを買うのは間違いないが、すぐに神社を新築にしてやれば機嫌は戻るはずだ。
山の神がケンカを売った異変を見る限り、巫女は信仰が少ないことを悩んでいるようだった。
地震を鎮める要石は信仰対象にふさわしいし、信仰も多少なりとも回復するだろう。
...うまくいけば第二の名居神社を作れるかも。
異変の中で地震を起こして神社を壊す。 そうすれば巫女も異変解決に乗り出すだろう。
異変解決の後、壊れた神社を異変のお詫びに立て直させてもらい、こっそり要石を打ち込む。
要石は事後承諾でいい。あの巫女を言いくるめるのは簡単だ。
しかし、ただ地震を起こすだけの異変では異変だと受け取られない可能性もある。
まず、明らかに異変だと思われる事象を起こしてから地震を起こせす必要がある。
この点は人の気質を斬る緋想の剣を使えば解決できる。
巫女はそれだけでは動かないだろうから、聡い者たちが先にやってくるはずだ。
地上との接点を多く作っておきたい私としては一石二鳥といえる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この広い天界の一部を貸してくれないかねぇ」
「はい?」
酔っ払いの小鬼
「貴方の目的は、私を倒して天気を元に戻すって事でしょ?」
「いやいや、とんでもない。まだ戻されても困るわ」
「え?」
つかみどころが無い幽霊
「貴方とはやり合う意味はない。私の目的は気質を集めている犯人を倒す事」
「……え?」
どこか抜けてる魔法使い
いち早く異変に気付いた連中。
でもこいつらは異変を解決する気は無いみたい。
天界にはいない様な奴ばかりでこっちの調子が狂うけど、これこそ私の望んだ展開!
「趣味悪い奴が多すぎるぜ。この世の中」
「……ふざけた奴ね。何よ、その自分勝手な行動」
「ちょっと本気で腹が立ってきた」
魔法使い、人形師に幽霊剣士。
神社を壊したら異変解決に来るものがやってきた。
そして、
「相手が天人だろうが変人だろうが私の仕事は一つ。異変を起こす奴を退治する事のみ!
あとついでに、神社の修理もやって貰うわよ!」
楽しい!
自分に張り合ってくる存在がいることが!
思い通りの展開になることが!
あはははは!
全力で抗え!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……全ては計画通りに進んでいた。
私が異変を起こしたのは暇つぶし、要石を埋め込んだのは善意。みんなそう思っている。
なのに、
最後の最後で邪魔をする!!
「美しく、残酷に、この大地から去ね」
妖怪の賢者、八雲紫が怒りに任せて放った美しい光の奔流が私の視界を包み込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……手も足も出なかった。ほかの奴らには本気を出していなかったし、本気を出せば勝てる自信はある。
しかし、こいつには勝てるビジョンも見えない。次元が、違っていた。
全ての計画がこの最後の瞬間に破綻した。
もう地上には戻れないと思った。
しかし彼女は要石を抜いてはいかなかった。
既に多くのエネルギーが溜まり地震は避けられない状況になっていたからだ。
神社を壊していったのは、天人が神社を建て直したという関係を断ちたかったと言うことだろう。
結果として、私の計画は最善とはいかなかったが最低限の目的は果たしたと言って良い。
私の次に超えるべき目標は、打倒八雲紫だ。
今の戦歴は勝負に勝って試合に負けた一勝一敗。
妖怪に引き分けたままでは私のプライドが許さない。
今の私では到達できない壁、それは今までは絶望でしかなかった。
しかし、顔をあげてみればそれは希望になりうることを知った。
......しばらくは退屈なんてしない日々が続くだろう。
取りあえず、桃でも用意してお礼参りと行きましょうか。
ーーー天子の身体からは、もう五衰の兆候は無くなっていた。
地上のものとは比べものにならない食べ物。 酒。 優雅な娯楽。
永い寿命と天人特有の高いスペックはあらゆることを可能にする。
地上の者たちはそれに憧れ、たどり着こうと努力する。
天界には何もない。
私の心を震わせる"ナニカ”。
人々を夢中にさせるコンテンツ。
永い寿命は思考を停滞させ、何も生み出すことができない。
天人たちは心の底ではきっと地上に憧れているのだろう。
そうでなければ“不楽本座”を起こして死ぬ天人などいるはずも無い。
天界もまた、六道輪廻の一つでしか無いのだ。
天界に来ても最初の頃は充実していた。
舞、歌、釣り、飲み比べ、知恵比べ、家にあった本は何度も読んだ。
他の天人に勝負を仕掛けて回るなんて当たり前。
出来ることは沢山あって、大抵のものはすぐに会得することが出来る。
あゝ!なんと充実した世界か!
...だがそんな蜜月の時は永遠に続くわけでは無かった。
天人は基本的に温厚なのだ。負かされたとしても、悔しがることも怒ることもない。
その張り合いの無さには辟易させられた。
不老不死が聞いて呆れる。
感情の発露が生きると言う事ならば、大半の天人は生きながら死んでいるようなものだ。
なんとか怒らせてみようと、烈しい感情を起こさせてみようと色んな事を試した。
何をやってもあいつらはゆるやかに微笑むだけだ。
私に罰を与えるのは、怒りからではなく只の“手順”だから。
そんな事を繰り返してるうち、はたから見れば不作法ばかり行う私のことを“不良天人”とか呼ぶようになった。
私を理解する奴は誰もいない。
...私はこの広い天界で独りぼっちだった。
寂しかった。仲間が欲しかった。
退屈が身体を、心を蝕んでゆく。
じくじくと。
じゅくじゅくと。
腐って行く。
何も起こりもしないつまらない日常を繰り返し、ふとした時に命を刈りに来る死神を追い返す日だけを心待ちにする日々。
この世界にはなんでもあるのにただ一つ、私を心躍らせる存在だけが無い。
只々、無情に過ぎ行く日々。
日々...。
日々.......。
地上に無数の火花が、散っていた。
星空が展開していた。
美しい光だった。星のような弾や7色のエネルギー弾。
紅く染まった地上を照らしていた。
スッと、視界が開けたようだった。
どうやらレミリア・スカーレットという吸血鬼が起こした異変の解決を行っていたらしい。
あの星々は「スペルカードルール」という決闘法の光のようだ。
美しく人々を魅了する火花。
一瞬の輝きに命を賭ける人々。
ただ、そんな生き方ができる事が羨ましかった。
だが私は天人。火花になどなってはならない。
しかし、蝋燭のように何もできないまま静かに消えるなど認められない。
だから、私は目指そう。火花でもなく蝋燭でもなく。
天空で美しく光り輝き、見るものを魅了させながらもその光を発し続けるモノ。
"極光"に、私はなるのだ。
最初はどこか人里とかに攻撃を仕掛けようかと思った。
だが、ただ異変を起こすだけでは意味がない。
もし地上で大きな異変を起こしたとなれば、いくらお目こぼしをされている身分とはいえ、すぐに天界に連れ戻されるだろう。
そうなればまず間違いなく謹慎。しばらくの間は地上を眺めることすらできなくなる。
それではただの火花でしかない。異変を起こすと同時に地上と繋がりを作って自然と地上で活動が出来るようにしなければ。
チャンスは一度きり、慎重に事を進めなければならない。
冬が終わらない異変があった。
あの博麗の巫女とやら、行動がかなり遅かった。自分に実害がないと動こうとしないのか? ものぐさな性格のようだ。
夜が終わらない異変があった、らしい。
...いつの間にか終わっていた。詳細不明。
......3日おきに酒宴を開いている。
何だあれは?お酒好きにも程があるだろう。何かしらかの異変だと思うが、状況がよく飲み込めない。
花が咲き誇る異変があった。
やはりあの巫女はかなりの面倒くさがりのようだ。
大切なことだ。
山の新参者が巫女にケンカを売った。異変後は以前より幻想郷に馴染んだように見える。
これは目的が近い私にとって重要な情報となる。
やはり異変後の酒宴は大事らしい。
起こす異変の肝はやはり要石だろう。
要石を幻想郷に打ち込んでしまえばもうこっちのもの。維持には私の協力がいるし、地上に降りる大義名分ができる。
どこに打ち込むかは決まっている。博麗神社だ。
多くの人外が集まるあそこは目的を達するに望ましい。
何よりあのものぐさな巫女を確実に異変に巻き込める。
だが、真の目的が要石を打ち込むことだとばれた場合、恨まれる可能性が大きい。
要石は諸刃の剣。地震が起きなくなるが、それはエネルギーをため込むだけで要石を抜いたときの被害は大きくなる。
恨みを買うのではなく、恩を売らなければならない。
出来るならば、恩を売る相手は扱いやすく影響力の大きい者が望ましい。
その点、あの巫女なら問題ない。
今までの行動を見る限り彼女は直情的だ。
神社を壊す事で多少恨みを買うのは間違いないが、すぐに神社を新築にしてやれば機嫌は戻るはずだ。
山の神がケンカを売った異変を見る限り、巫女は信仰が少ないことを悩んでいるようだった。
地震を鎮める要石は信仰対象にふさわしいし、信仰も多少なりとも回復するだろう。
...うまくいけば第二の名居神社を作れるかも。
異変の中で地震を起こして神社を壊す。 そうすれば巫女も異変解決に乗り出すだろう。
異変解決の後、壊れた神社を異変のお詫びに立て直させてもらい、こっそり要石を打ち込む。
要石は事後承諾でいい。あの巫女を言いくるめるのは簡単だ。
しかし、ただ地震を起こすだけの異変では異変だと受け取られない可能性もある。
まず、明らかに異変だと思われる事象を起こしてから地震を起こせす必要がある。
この点は人の気質を斬る緋想の剣を使えば解決できる。
巫女はそれだけでは動かないだろうから、聡い者たちが先にやってくるはずだ。
地上との接点を多く作っておきたい私としては一石二鳥といえる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この広い天界の一部を貸してくれないかねぇ」
「はい?」
酔っ払いの小鬼
「貴方の目的は、私を倒して天気を元に戻すって事でしょ?」
「いやいや、とんでもない。まだ戻されても困るわ」
「え?」
つかみどころが無い幽霊
「貴方とはやり合う意味はない。私の目的は気質を集めている犯人を倒す事」
「……え?」
どこか抜けてる魔法使い
いち早く異変に気付いた連中。
でもこいつらは異変を解決する気は無いみたい。
天界にはいない様な奴ばかりでこっちの調子が狂うけど、これこそ私の望んだ展開!
「趣味悪い奴が多すぎるぜ。この世の中」
「……ふざけた奴ね。何よ、その自分勝手な行動」
「ちょっと本気で腹が立ってきた」
魔法使い、人形師に幽霊剣士。
神社を壊したら異変解決に来るものがやってきた。
そして、
「相手が天人だろうが変人だろうが私の仕事は一つ。異変を起こす奴を退治する事のみ!
あとついでに、神社の修理もやって貰うわよ!」
楽しい!
自分に張り合ってくる存在がいることが!
思い通りの展開になることが!
あはははは!
全力で抗え!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……全ては計画通りに進んでいた。
私が異変を起こしたのは暇つぶし、要石を埋め込んだのは善意。みんなそう思っている。
なのに、
最後の最後で邪魔をする!!
「美しく、残酷に、この大地から去ね」
妖怪の賢者、八雲紫が怒りに任せて放った美しい光の奔流が私の視界を包み込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……手も足も出なかった。ほかの奴らには本気を出していなかったし、本気を出せば勝てる自信はある。
しかし、こいつには勝てるビジョンも見えない。次元が、違っていた。
全ての計画がこの最後の瞬間に破綻した。
もう地上には戻れないと思った。
しかし彼女は要石を抜いてはいかなかった。
既に多くのエネルギーが溜まり地震は避けられない状況になっていたからだ。
神社を壊していったのは、天人が神社を建て直したという関係を断ちたかったと言うことだろう。
結果として、私の計画は最善とはいかなかったが最低限の目的は果たしたと言って良い。
私の次に超えるべき目標は、打倒八雲紫だ。
今の戦歴は勝負に勝って試合に負けた一勝一敗。
妖怪に引き分けたままでは私のプライドが許さない。
今の私では到達できない壁、それは今までは絶望でしかなかった。
しかし、顔をあげてみればそれは希望になりうることを知った。
......しばらくは退屈なんてしない日々が続くだろう。
取りあえず、桃でも用意してお礼参りと行きましょうか。
ーーー天子の身体からは、もう五衰の兆候は無くなっていた。
天子の行動理論、目論見に紫へを壁と感じる強さ、
面白かったです。
他の異変を経ての天子ちゃんの気持ちの変遷に説得力があって、なるほどなあと思わされました。
こうして見ると、やはりパチュリーはへっぽこ……
良かったです
過去の異変を参考にして計画を立てる天子が計算高くてよかったです
それすら読み切る紫はその上を行きましたが