「咲夜ァ!」
「ハァイお嬢様ァ!」
「チョコ作るぞォ!」
「応ッ!」
妖怪化生が跋扈する、その場所の名は幻想郷!ここは紅魔館という館!主であるレミリア・スカーレットは館の者たちのために、一肌脱ごうと決めたのだ!その威厳は聳え立つ山々の様に、そのおおらかなる懐は海のようにだ!幻想郷に海は無いが!それがレミリア・スカーレットなのだ!
そんなレミリアの傍らに仕えるは十六夜咲夜さん!瀟洒だ瀟洒だと言われている、レミリアお嬢様の懐刀だ!今回のようにレミリアお嬢様が何かを(気紛れで)行うと決めた時、どうせ碌なことにはならないだろうと思ってはいるが、咲夜さんは絶対に従う!それがどんな結果に終わろうともだ!ちなみに瀟洒だ瀟洒と言われているが、一人でいるときはてろーんとしているぞ!凄く!
「咲夜ァ……今の時間はァ!?」
「只今十三日!午後十一時の鐘がなっていますお嬢様ァ!」
「日は跨いでいないか……善し!往くぞ咲夜ァ!」
「応ッ!」
レミリアと咲夜さんはキッチンへと向かう!できるだけ速く、しかし羽が落ちるように静かに!それはまるで風に舞う洗濯物のように、だ!キッチンへとたどり着くと朝食の仕込みをしていた妖精メイドたちがいた!妖精メイドたちはびっくりしている!夜も遅くに館の主が殴り込んできたのだ!誰だってびっくりする!
「お前たちィ!今からここは私が使う!だーかーらー……使わせてくださいッ!」
レミリアお嬢様は神速で土下座した!この館では食事の準備をするメイドはとっても権力が強いのだ!主たるもの頭を下げるな?そんな考えは最早古いのだ!誰からも親しみを持たれる……そう、レミリアお嬢様は組織のトップとして新たなメインストリームを走っているのだ!凄い!
メイドたちは快諾してくれた!面倒ごとには巻き込まれたくないもんね。
元になる板チョコを用意して、準備は万端だ!カカオから作る?馬鹿を言っちゃあいけない!世の中には効率というものがあるのだ!レミリアお嬢様にとってはカカオからチョコを精錬するなどイーズィー・オペレィションだ!しかし、時間は有限なのだ!
「咲夜ァ!最初はどうすればいい!」
「最初は湯煎をしましょうお嬢様ァ!」
止める者など誰もいない!チョコ作りだ!レミリアお嬢様は湯煎を行い、咲夜さんはチョコを用意している!妖精メイドたちの分を作るのだ!数は沢山だ!具体的な数?そんなものはノゥ!あるだけ作ればよいのだ!ただし凝った作りは面倒だ!適当にチョコを溶かして型に流して冷やせばよかろうなのだ!
そこで咲夜さんは、はたと手を止めた……そう、当たり前のように言ってしまったが、果たして、果たしてだ!敬愛すべきレミリアお嬢様は湯煎を知っているのか!
「咲夜ァ!」
レミリアお嬢様の雄たけびだ!流石お嬢様、一々説明などせずともそれくらいはわかってくれていたのだ!なんという喜びか!応ッと咲夜さんが振り返る!お湯を張ったボウルが、まろやかに茶色くなっていたッ!
「湯煎ってこうかァ!」
「オッケェェェイ!」
オッケェェェイ!ではない!ではないが、これは最早ホットチョコレート!なんということだ!流石我らが敬愛なるレミリアお嬢様だ!一つのミスからチャンスを生み出した!これは最早錬金術だ!間違いない!咲夜さんは感動にむせび泣きながら、手早くボウルを片付けた!だってそれ湯煎じゃないもんね!大丈夫、ホットチョコレートみたいなものはきっと門番が有難がってくれるさ!
さりげなく湯煎をして溶かしたチョコレートをレミリアに渡す咲夜さん!湯煎の失敗を主に悟らせることなく、しっかりと溶かしたチョコレートを渡す!流石だ!
こんなこともあろうかと、すでに一口サイズの型も作ってあるのだ!流石咲夜さん!決して主にやらせると面倒だ、とか失敗するだろうとかは思っていない!敬愛なる主がそんなことにお手を煩わせる必要はないのだ!ただチョコレートに向き合ってほしい、咲夜さんの忠誠心なのだ!
「咲夜ァ!」
「ハァイお嬢様ァ!」
「チョコ、美味しいぞォ!」
「オッケェェェイ!」
オッケェェェイ!だ!幻想郷随一のカリスマを持つレミリアお嬢様!そう、まだお嬢様なのだ!だったらちょっとつまんじゃっても仕方ないね!チョコを指に掬いペロリと舐めるその姿ッ!あざとい!あざといのに本人はそれをわかっていない!かわいい!
一つ一つ、丹精込めて型に流し込んでいくレミリアお嬢様!チョコを流し込んでいるだけ?確かにそれだけかもしれない!だがレミリアお嬢様が、館の者たちのために作った!そこに価値があるのだ!そんなことすらわからないものは無間地獄すら生温い!
流し込んだチョコレートをバットに並べ、ラップをかけて冷やしていく!とっても美味しそうだ!さぁ後はお片づけをして寝るだけだ!もう時間は日を跨いでしばらく経っている!だがレミリアお嬢様の眼は爛々だ!
「咲夜ァ!」
「ハァイお嬢様ァ!」
「片付けは任せたァ!私は寝る!」
「応ッ!」
やっぱり眠かったみたいだ!普段なら寝ている時間だもんね!仕方ないね!しかし!大したトラブルもなく咲夜さんはレミリアお嬢様の期待に応えたのだ!流石だね!だがそんなお嬢様の足がキッチンの扉の前で止まったーッ!視線を床に落としている!一体どうしたというのか!咲夜さんも床を見たッ!
ゴキ〇リがいたッ!
キッチンだ!水回りだ!確かにいたって仕方がない!どれだけ館を清潔に保とうとも、そのsilhouetteは、ヤツは、来るのだ!
「この私の道を邪魔するかァ……キサマッ!」
レミリアお嬢様がグングニルを出した!流石お嬢様だ!獅子は兎を狩るにも全力なのだ!グングニルが床に刺さる!エネルギーが迸る!すごいパワーだ!ゴキ〇リには当たっていないッ!
そして、キッチンは爆発した!
冷蔵庫もチョコも無事だった!キッチンは少しばかり焦げてしまったが、そんなことは些細な問題なのだ!大食堂では、妹が!門番が!友人が!沢山の妖精メイドたちが笑顔を浮かべていた!
「咲夜ァ!」
レミリアお嬢様が雄たけびを上げる!その顔は、満面の笑みだった!
「来年も、作ろうな!」
「……応ッ!」
「なんだ今の間はァ!」
>ちなみに瀟洒だ瀟洒と言われているが、一人でいるときはてろーんとしているぞ!凄く!
気になるぞ、詳しく!
勢いがよくて笑えました