ベッドに潜り込んでから、ふと考えることがある。
アイツはさ、白なんだよ。きっと。
アイツの隣に座るとさ、それだけで私は正しい道を、お天道様の道の下をしっかりと歩いているって感じるんだ。不思議だろ?だって年も身長も、私とアイツはそんなに変わっているとは思えないんだ。それなのに、そんなことを感じちゃうんだ。あれが巫女のなせる業なのかもしれない。
私はさ、アイツの『そういうところ』が好きなんだ。アイツと一緒にいるとこれから先、何があってもアイツの隣にいる限りは正しいんだって思わせてくれる。ただ、それがどうしようもなく辛くもあるんだ。きっと何があっても、アイツの進む道は正しいし、白いんだ。例えその道が暗くても、道が無くてもだ。
アイツと一緒にさ、お茶を飲むんだよ。縁側でさ。最近あったこととか、これからの予定とかを話しているとさ、すっごく胸が暖かくなるんだ。あれが幸せってやつなんだろうな、頭の先が甘く痺れるんだ。まだ死にたいとは思わないけれど、あの暖かい陽の下で、アイツの隣で死ねるなら、それはきっと幸せなんだろうさ。
……別に自分が二面性のある人間だとは思っちゃいないさ。思うところがあればはっきり言うし、それでも多少の気遣いぐらいはできるとも思ってる。だから、この気持ちが辛いんだ。
幸せなんだ。それははっきりと感じる。でもどうして、どうしてかさ、アイツの隣にいるときに私は惨めになるんだ。
私は自分の色がわからないんだ。白でありたいとは思っている。たださ、アイツの隣にいると自分は光を放っているのか、わからないんだ。
自分で自分が許せなくなるのがさ、子どもだった時、私の中では絶対の輝きだった星の光を、私はアイツと比べているんだ。許せるか?あの頃の私がもし目の前にいたら、きっと、私は泣いてしまうんじゃあないかな。あの頃の私はそんなことは考えていなくて、ただ、手のひらから星を出すことが出来れば、それだけで満足だったんだ。なにも背伸びをせずに、あるがままを受け入れることが出来たんだ。
この部屋は暗いんだ。知ってるさ。だって森の中にあるんだしな。この暗闇が、最初は怖かったんだ。お師匠様はなんてことないって笑っていたけれど。私もそうさ。今はもう大丈夫。ただそれでも、今みたいな時にさ、白が欲しくなるんだ。私の星は光なんだ。白じゃあないんだ。
アイツが持っている白は、今私が感じている黒なんか何てこともなく塗りつぶしてくれるんだ。凄く心地がいいんだ。不思議だろ?救われているんだ。それなのにさ、私は自分の中にあるこの黒を染められることが、たまらなく悔しいし、憎いんだ。殺してやるって気持ちは別に持ってはいないけどさ。アイツがいなくなった世界なんて考えられないんだから、きっとアイツが死んだら私も直ぐにぽっくり逝っちまうんだろうな。
もしかしたら、アイツはアイツで私のことをすっごく羨ましがっているかもしれない。アイツの白を私が持っていないように、私の黒をアイツは持っていないのだから。けどさ、そんなことありえるか?こんな、持っているだけで気が狂っちまうような感情をさ、気が狂っちまうっていうのは言いえて妙さ。私にもこの感情の御し方がわからないんだから。これを理解しちまったら、私は私じゃなくなるんだろう。
暗い。星の光だけじゃ駄目なんだ。星の光は暖かいけれど、必ず影が出来てしまう。全部を白く、塗りつぶしてくれないと。
ぐちゃぐちゃになる。どうして私にはあの白が持てないんだ。どうしてだ?自分が特別じゃあないってことくらいわかってる。ただそれでも、私の中にもちっぽけだけど、白はあるんだ。あるはずなんだ。ただ、簡単に黒に染まってしまう。
不公平じゃあないか。アイツは、アイツの白はどうしてあんなにも、強く、暖かく、優しいのか。巫女だからとか、博麗の力だとか、そんな後付けの力じゃあないんだ。あの白は、アイツだからこそ持っていられる白なんだよ。きっと。
他の奴があんな白を持っているわけがない。と、そう思いたいだけなのかもな。もしかしたら、あの白は誰もかれもが持っているもので、私だけが持てないのかもしれない。こんなところで得体のしれない魔法を研究しているんだ。そうだよな。気狂いだ。それなのに人並みの幸せを欲しいと思っているんだ。自分で幸せを生み出せないから。
『どうして』が積み重なっていくとさ、少しずつ眠くなっていくんだ。きっとこれ以上考えないように神様が私たちの身体に仕込んでくれたのさ。
嫌だ。黒が迫ってくる。私は負けたくないんだ。だけどさ、もう、腕とか頭が重くなってくるんだ。
嫌だ。
気が付くと、既に窓から陽が差していた。あの暖かい空を箒に跨ってゆっくり飛ぶと、とても気持ちがいいんだ。さっさと準備をして、家を飛び出す。やっぱり予想通りに陽の光は暖かくて、私はとても幸せな気持ちになった。
どこに行こうか、とかそういうことを考える前に、既に私は神社の境内に降り立っていた。縁側では相も変わらずアイツが茶を啜っていた。きっと私が来ると思っていたのだろう。差し出された湯呑みに入っていたお茶は私好みの温度だった。
隣に座って、一緒にお茶を啜る。何かを忘れているような気がしたが、寝たら忘れてしまうあたり、きっとどうでもいい事なのだろう。私が笑っていたからか、彼女は目を細めながら、どうしたのよと尋ねてきた。
「いや、幸せだなあと思ってさ」
霊夢サイドも読みたい。
身につまされるような独白でした