——そのまま寝てしまったようで、膝がわりに座布団が敷かれ、毛布を掛けてくれたらしい。
らしい、というのも肝心の文の姿は見えなかったからで。でも家の奥、台所から音がする。どうやら夕食を作ってくれている、らしい。
もそもそと起き上がると台所へ向かう。
「悪いね、作らせちゃったみたいで」
「まあ、今日はせっかくの非番ですし。あ、明日も休みなんですよ?」
『せっかく』を使っていいんだろうか。休みだからなんなのか。うーん。
「……えっと、泊まってく?」
「ええ」
文の料理はおいしい。どうおいしいか訊かれると困るけど、たぶんわたしの口に合うってことなんだろう。長い付き合いになる。味の好みも把握されてるのだろうか、それとも、好みが変わったのか。
「おいしいですか」
「もちろん」
「それは料理人冥利に尽きないですね」
どっちにしろ、とにかくおいしいからそれでいいんじゃないかな。
いや待てわたし。
「あ。食材って……」
「ないだろうと思って持ち込みました」
「ほんっとごめんね! この埋め合わせはどこかで……!」
「ほう。いいんですね? なら今日果たしてもらいましょう」
「え?」
「抱き枕になってください」
「だきまくら」
「そうです、抱き枕。なので一緒の布団で寝ましょう」
「——ッ!?」
「はたて? どうして固まってるのかは分からないですけど、あくまでも抱き枕にするだけですよ。まあ、お風呂の準備でもしてきますね」
布団にて。
冬の寒さは家中の隙間というすきまから入ってくるけど、今日の寝床はいつもに増して暖かい。——しかも、温かい。
こうして文が隣にいるのは初めて。酔い潰れた状態なら雑魚寝するし、お昼寝するときは近くにいるけど。
文の腕がわたしに回されて身体が密着しているのが伝わる。
顔向け、できない。
顔どころか耳まで真っ赤になってて手遅れな気もするけど、文を視界に入れられない。
「誰かを抱き枕にするのは初めての経験ですが、どうしてなかなか。暖かいのが特にいいですね、はたて?」
「んッ、うん……」
声が上擦った。
でも、なぜ?
————違う。
実のところ、気があるのかないのかをはっきりさせたくないだけなんだ。叶わないだろうから。拒絶されたら嫌だから。この関係を壊さないがために、この関係に波風を立てない。
ただ、これもいつまで続くか。文が訪ねてくる間隔はだんだんと長くなってきていて。
いっそのこと、今? わたしに、壊せる? これを? この時間を——
「また何か悩んでますね。思い詰めている、と言った方が良さそなほど」
「……うん、まあ」
「吐き出してしまっては? いいですよ、私が受けとめてあげます」
ほら、とばかりに抱きしめる力が少し増す。
やっぱり無理だと思う。無理なんだろうか。無理だ。
「私に言いづらいことなんですね。……当ててみましょう。私の新聞の出来をやっかみを覚えている、とか?」
違う。本人に直接言えるはずがない。
「はぁ……ま、そういうことね——」
「違いますね」
ばれている。
「はたて、こっちを向いてください」
らしい、というのも肝心の文の姿は見えなかったからで。でも家の奥、台所から音がする。どうやら夕食を作ってくれている、らしい。
もそもそと起き上がると台所へ向かう。
「悪いね、作らせちゃったみたいで」
「まあ、今日はせっかくの非番ですし。あ、明日も休みなんですよ?」
『せっかく』を使っていいんだろうか。休みだからなんなのか。うーん。
「……えっと、泊まってく?」
「ええ」
文の料理はおいしい。どうおいしいか訊かれると困るけど、たぶんわたしの口に合うってことなんだろう。長い付き合いになる。味の好みも把握されてるのだろうか、それとも、好みが変わったのか。
「おいしいですか」
「もちろん」
「それは料理人冥利に尽きないですね」
どっちにしろ、とにかくおいしいからそれでいいんじゃないかな。
いや待てわたし。
「あ。食材って……」
「ないだろうと思って持ち込みました」
「ほんっとごめんね! この埋め合わせはどこかで……!」
「ほう。いいんですね? なら今日果たしてもらいましょう」
「え?」
「抱き枕になってください」
「だきまくら」
「そうです、抱き枕。なので一緒の布団で寝ましょう」
「——ッ!?」
「はたて? どうして固まってるのかは分からないですけど、あくまでも抱き枕にするだけですよ。まあ、お風呂の準備でもしてきますね」
布団にて。
冬の寒さは家中の隙間というすきまから入ってくるけど、今日の寝床はいつもに増して暖かい。——しかも、温かい。
こうして文が隣にいるのは初めて。酔い潰れた状態なら雑魚寝するし、お昼寝するときは近くにいるけど。
文の腕がわたしに回されて身体が密着しているのが伝わる。
顔向け、できない。
顔どころか耳まで真っ赤になってて手遅れな気もするけど、文を視界に入れられない。
「誰かを抱き枕にするのは初めての経験ですが、どうしてなかなか。暖かいのが特にいいですね、はたて?」
「んッ、うん……」
声が上擦った。
でも、なぜ?
————違う。
実のところ、気があるのかないのかをはっきりさせたくないだけなんだ。叶わないだろうから。拒絶されたら嫌だから。この関係を壊さないがために、この関係に波風を立てない。
ただ、これもいつまで続くか。文が訪ねてくる間隔はだんだんと長くなってきていて。
いっそのこと、今? わたしに、壊せる? これを? この時間を——
「また何か悩んでますね。思い詰めている、と言った方が良さそなほど」
「……うん、まあ」
「吐き出してしまっては? いいですよ、私が受けとめてあげます」
ほら、とばかりに抱きしめる力が少し増す。
やっぱり無理だと思う。無理なんだろうか。無理だ。
「私に言いづらいことなんですね。……当ててみましょう。私の新聞の出来をやっかみを覚えている、とか?」
違う。本人に直接言えるはずがない。
「はぁ……ま、そういうことね——」
「違いますね」
ばれている。
「はたて、こっちを向いてください」
続きものにせず、ちまちま書き溜めて行って、ねりねりした方が面白くなりそう。
一人称ものは好きなので、応援しています。