日本史上最も古い太鼓はひっくり返した桶をたたいたものとも言われている。岩屋に籠った天照大御神を誘い出す音頭に使われたようだ。戦国時代には陣中太鼓などと呼ばれる兵士を鼓舞したり合図を送るための太鼓が用いられた。
物部布都は女であったが軍氏であった兄に寵愛されて公の場にも顔を出すことがあったという。そしてその五つのお祝いに送ったのは太鼓であった。
素手で面を小さな手でてんてんとたたく姿は可愛らしい。
「この子はいずれ戦場で兵士を導く乙女になるから、弦楽器などより太鼓に触れさせるのだ」
母親の膝から布都を抱え上げるとその腕に抱えて瞳をのぞき込んだ。布都自身も兄のことを尊敬していた。
「兄上様、布都は兄上様の戦乙女になりますぞ」
「ははは、これは心強いなあ」
物部の一門は朝廷の兵站を担う豪族であった。その一門の長が実の妹を娘のように出来合いする姿は微笑ましく見える一方で調停では冷ややかに見られていただろう。
「あまり関心はできないね」
「やはり公の場では不適切だと?」
「あの男、いまはにこにこしているが何を考えていると思う?」
「あの男が見ているのは目の前の童子ではなくその童子が導く未来でしょう。愛しているのはあの娘ではなく一門」
「そうだ。さすが賢しいな」
謁見を済ませる物部兄妹を蘇我馬子と明日の君子が見つめていた。
果たしてこの戦乙女が戦場で太鼓をたたくことは無かった。おそらく。物部一門は蘇我氏に滅ぼされた。布都自身は蘇我氏に迎えられ命拾いした。
妹を抱いて一族の未来に喜々した兄の一方で、きゃあきゃあと喜んでいた妹君も兄の顔を見て笑っていたのではないのかもしれない。
蘇我氏の屋敷で太鼓の音が響くことは無い。
物部布都は女であったが軍氏であった兄に寵愛されて公の場にも顔を出すことがあったという。そしてその五つのお祝いに送ったのは太鼓であった。
素手で面を小さな手でてんてんとたたく姿は可愛らしい。
「この子はいずれ戦場で兵士を導く乙女になるから、弦楽器などより太鼓に触れさせるのだ」
母親の膝から布都を抱え上げるとその腕に抱えて瞳をのぞき込んだ。布都自身も兄のことを尊敬していた。
「兄上様、布都は兄上様の戦乙女になりますぞ」
「ははは、これは心強いなあ」
物部の一門は朝廷の兵站を担う豪族であった。その一門の長が実の妹を娘のように出来合いする姿は微笑ましく見える一方で調停では冷ややかに見られていただろう。
「あまり関心はできないね」
「やはり公の場では不適切だと?」
「あの男、いまはにこにこしているが何を考えていると思う?」
「あの男が見ているのは目の前の童子ではなくその童子が導く未来でしょう。愛しているのはあの娘ではなく一門」
「そうだ。さすが賢しいな」
謁見を済ませる物部兄妹を蘇我馬子と明日の君子が見つめていた。
果たしてこの戦乙女が戦場で太鼓をたたくことは無かった。おそらく。物部一門は蘇我氏に滅ぼされた。布都自身は蘇我氏に迎えられ命拾いした。
妹を抱いて一族の未来に喜々した兄の一方で、きゃあきゃあと喜んでいた妹君も兄の顔を見て笑っていたのではないのかもしれない。
蘇我氏の屋敷で太鼓の音が響くことは無い。
調停→朝廷?