Coolier - 新生・東方創想話

地霊殿で朝食を

2018/11/09 08:24:02
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『それじゃあ、さとり様、おやすみなさい』
『おやすみなさいませ』
「はい、おやすみなさい。今日もお疲れさま」
 本日最後の報告を終えたペットたちを送り出し、さとりは小さく息をついた。両手を組んで伸びをする。肩まわりの骨がパキリと鳴った。
 机上の書類に目を落として頭の中で予定を組み立てる。ペットたちの暴走に空飛ぶ宝船と、立て続いた異変の後始末もようやく落ち着いてきて、外部とのやりとりも落としどころが見つかった。間欠泉地下センターという不測の産物はあれど、しばらくのあいだは、地底だけに目を向けていれば良いはずだ。この書類たちは明日に回して良いだろう。
 そうと決まれば。
 手早く書類を片付け執務室を後にする。赤と黒のタイル張りの床を足早に歩き、離れ近くの温泉、もとい浴室の戸を開ける。
 間欠泉由来の天然温泉でのんびりするのは、いつもなら仕事終わり(もしくは仕事合間の小休憩)の至福の時だけれども、今日はその限りでない。最低限身を清めてすぐにあがった。髪を拭く間も惜しい。乱雑に着た浴衣を髪から垂れた雫が濡らしたが構っていられなかった。
 髪をタオルでわしゃわしゃやりながら階段を上がって、廊下を抜け引き戸を開ける。灼熱地獄跡に続く中庭を眼下に見つつ通路を曲がり、さとりとこいしの私室だけがある離れの引き戸を今一度開く。
 習慣として、こいしの私室をノックし覗く。帰ってきた気配は無い。今度はどこを飛び歩いているのやら。思わず微苦笑を浮かべる。
 幻想郷への行き来ができるようになってから、こいしが出歩く頻度はいっそう増した。以前は数日に一度帰ってきていたのが、一、二週間ほど顔を見ないこともある。危ない目に遭っていないか、こわい思いをしていないか。心配は尽きない。
 しかし、妹は既にさとりの手を離れているのだ。精神的にも、身体的にも。強引に世話を焼いたところで害にしかならないだろう。巫女や魔法使いをはじめとして知り合いも増えてきたようだし、こいしならば、面倒事に巻きこまれても自力でどうにかできる。己がすべきは、いつ帰ってきても温かい寝床と美味しいご飯が得られる場所を、きちんと守っておくことだろう。
 それに、とこいしの部屋を出ながら思う。
 橋の造設に際しパルスィに帳面を渡して以降、彼女には挨拶をするようになったから、行動がまったく把握できていないわけでもない。幻想郷との行き来を記録するようになってひと月ほどが過ぎたが、一番多く記されているのは「古明地こいし」の名なのだ。パルスィとふたり帳面を覗きこんで、結果オーライかと笑ってしまった記憶は新しい。
 そう、パルスィだ。パルスィである。
 帳面の報告(という名の逢瀬)にやって来た彼女を引き止め、食堂に引っ張っていった燐には、さとりの自室で休んでもらうよう伝えてある。積まれた書類仕事のせいで一緒の夕餉とはいかなかったが、寝る前に話をしたり、あわよくば少しばかり甘えてみたりしても罰は当たらないだろう。
 恋人の面影にふわふわと浮かび上がる胸の内を感じながら、自室の扉をノックした。返事を待つ。何も返ってこない。おや、と思いつつもう一度ノックする。やはり何も返ってこない。本でも読んでいるのかと眼を開いたが、なんの心も伝わってこなかった。無心である。
「パルスィ?」
 もしや、と予想しながらドアを開けた。母屋とは異なり、全体的に淡い色調の部屋をぐるりと見渡す。壁一面の本棚に革張りのソファ、頑丈な造りの机と椅子とは対照的に、こぢんまりした箪笥と形ばかり置かれた鏡台。
 無駄に広い私室の窓の近く、くりぬいた壁に土台ごと設置されているベッド(いわゆるアルコーブベッド)の上で眠りこんでいるそのひとを見つけて、さとりはほろりと微笑した。
「……だいぶ待たせてしまったのね」
 横向けに体を丸め、あどけない寝顔を見せるパルスィをそっとなでる。むぐむぐと口元をむずつかせたが起きる気配は無い。熟睡だ。
 寝入るまで読んでいたのだろう。手元に置かれた本を書棚に戻す。シェイクスピアの真夏の夜の夢だった。珍しい、と思う。パルスィはどちらかというとオセローやリア王などを好んで読んでいたおぼえがある。そんな彼女が軽妙な喜劇を手に取るとは。
 どんな顔をして読んでいたのだろう。夢想しながら枕元にしゃがみ、透きとおるほど白い肌をなでる。上質な絹をも霞ませてしまうさわり心地だ。顔にかかるふわふわした髪をそっとのけて、形の良い尖り耳のふちを指ではさみ、くりくりくすぐってみる。んん、とくすぐったそうに顔を枕に埋めた。様子を見守っていたら、身の落ち着きどころを探すようにむずむず身じろぎ、器用にも頭を落とさないまま枕を抱えて息をつく。むな、となんとも表現しがたい呟き声を落とした口元は満足げに綻んでいる。
 なんと言うか。
 なんと言おうか。
「……かわいい」
 その一言だけではこの胸の内にこみ上げてくる衝動とも、情動とも、惚気ともつかない感情を表現しきれないけれども、それ以外に言い様がないので諦めた。
 かわいい。可愛らしい。愛らしい。目の前で幼子のように眠る彼女が、本当にあの橋姫様だろうかと、頬をつねってみたくなる。
 もちろん曲がりなりにも恋人として、この美しいひとがとんでもなく可愛らしいのはよく承知しているし、なんなら他には見せないでほしいと願ってしまうこともあるが、それにしたって。それにしたって。
 てれてれと力が抜ける頬をつねってみた。痛かった。口元がいっそうだらしなく緩む。
「そんなに無防備だと、襲いたくなってしまいますよ、パルスィ」
 柔らかな髪を指先でくしけずりながら囁いた。静穏な寝息は乱れない。彼女が夢を見ることもなく眠りこんでいるのが目でも眼でも確認できて、安心しきった態度になんともくすぐったい心地になる。
 いつまでだってこうしていたかったが、そうもいくまい。妖怪の上、糧となる恐怖の供給はいくらでもあるから、なんだったら一、二ヶ月ほど飲まず食わず寝ずでも問題ないが、取れるならば取ったほうが調子が良い。休める時に休んでおかなければ。
 薄手の毛布をパルスィに掛け、おやすみなさい、と頬にキスをひとつ落とす。予備の毛布片手にソファに横になると、多幸感も相まって、さとりはすぐに深く寝入った。

 ***

 誰かに頭をなでられていた。なんだろう、と第三の眼を持ち上げてみても、眠気で意識が朦朧としているからか心を読み取れない。その赤い眼も軽くなでられる。誰かは分からないが、優しい手つきから敵意は伝わってこなかった。
 もう一度頭をなでて、気配が静かに離れていく。惜しい、と思ったがそれ以上に睡魔が強かった。抗えずに再び深い眠りに落ちてゆく。

 次に眼を開けた時、地霊殿はすっかり目覚めていた。
 未だ眠気でふらつく思考を抱えながら、眼を最大限に開いて伝わってくる心に意識を向ける。挨拶を交わす声、お腹すいたと呟く声、今日の朝ごはん美味しかったとの満足げな声。
「あさごはん」
 小声でくりかえして小首を傾げる。
 さとりは今の今まで眠っていたのに、はて、誰が用意したのだろうか。燐が気を利かせてくれたのか、あるいは、こいしが帰ってきたか。
 ぼんやり考えつつ、眼に向けていた意識を目に移しながら部屋を見渡す。誰もいない。ベッドはきちんと整えられていた。歩み寄って手で触れてもぬくもりは既に残っていない。わずかばかりの寂寥をおぼえた。
「……ああ、あさごはん」
 謎が解けた。おおかた、離れにつながる廊下の前でご飯を待ち望むペットたちを見かね、パルスィが用意してくれたのだろう。
 気を遣わせてしまった、とあくびをひとつ。ようやく眠気が取れてきた思考を働かせながら私服に着替えたところで、机の上に書き置きが残されていることに気づく。ひょいと覗きこんで、さとりは頭上に疑問符を浮かべた。
「これは」
 白い紙には達筆な楷書で「馬鹿」とだけ書かれていた。止め跳ね払いがきちんとしていて、まるで教本に書かれている字のようだ。それだけに、短い言葉にこめられた憤りや苛立ちが伝わってきた。
「…………。なにか、怒らせるようなことをしたかしら」
 記憶を探ってみたものの、おぼえがない。
 可能性としては、せっかくの来訪を書類片手に迎えた上、夕餉も共にせず、先に床につかせてしまったという一連の流れが挙げられるが、そうしたさとりの態度は今に始まった話でないのだ。パルスィは(表面上はどうあれ)「仕事と私どっちが云々」などと本気で言い出すほど幼稚ではない。むしろ、すべき仕事を放り出して彼女の元へ向かおうものなら、懇切丁寧な説教を受けてから執務室へ放りこまれることだろう。本当に種族橋姫かと疑問に思うが、さとりの知るパルスィはそんなひとなのだから仕方がない。
 顎に指を当て考えてみたが、答えは見つからなかった。悩むより尋ねるが早かろうと早々に切り上げて部屋を出、母屋に向かったところで引き戸を爪先で開こうと苦心しているペットを見つけた。
 名を呼び戸を開くと、太い尾をぶるりとふるわせ大きな体をのそりと下げ、四本足を器用に曲げて傅くような格好を取る。
『さとり様、』おはようございます、と恭しく挨拶をされる。思わず微苦笑を浮かべてしまった。
 膝を折って目線を合わせ、ざらついた手触りの硬い皮膚をぽんぽんとなでる。厳つい外見に見合わぬつぶらな瞳を心地よいと細めるペット──外の世界ではコモドオオトカゲと呼ばれるペットに笑いかけた。
「そんなにかしこまらなくていいと言っているでしょう?」
『申し訳ありません。癖になっているようで』
「無理にとは言わないけれど、追い追いね」
『はい、追い追い』
 よしよし、となでたら、グルグルと甘えた声を出す。心に浮かべる事柄を読み取って、現状はだいたい知れた。空と燐、それからパルスィと、いつの間にか帰ってきていたこいしとは、そろって朝食の支度をしているらしい。さとりが食いはぐれてはと気を回してくれたようだ。礼を言って顎の下を掻いてやる。
 異変が起こるまでは、地霊殿に住み着いていたのは火車や地獄烏たちだけだった。怨霊や、燐が操るゾンビフェアリーもいるにはいるが、関係は密でないし前者に至っては管理する相手なので、家族という印象は薄かった。
 それが、異変の後、幻想郷との行き来が生じると、見知らぬ動物たちが地霊殿を訪れるようになったのだ。動物たちには動物たちのネットワークがあるらしく、そこで「言葉が話せなくても話ができる相手」としてさとりの名が広まっていると言う。このような事態は予測していなかったが、わざわざ地霊殿までやって来た者をすげなく追い返す道理もない。
 このペットもそうして増えた口だ。見てくれは厳ついし、人型にはなれず、力も強いけれど、穏やかで気立ての良い若者である。幼いペットの世話役を頼んだら喜んで勤めてくれている。馴染むのは早かった。
「今日の朝ごはんは鶏の蒸し焼きだったの。健康的ね」
『たいへん美味しゅうございました』
「伝えておくわ。……さあ、私はいいから行ってあげなさい。おチビさんたちが待っているわよ?」
 通路の曲がり角からは、わん、にゃん、こん、ぴよ、とちびっ子たちが覗いていた。もう一度深々と頭を下げて、ちびっ子たちの元へのしのし向かう。途端に尾や背に飛びつかれていた。

 賑やかなやりとりに目を細めて階段を降り、食堂へ向かう。近道をしようと中庭を横切ったら、灼熱地獄跡から伝わる暖気に寝そべっている面々から『さとりさみゃー』『にゃー』『にゃあー』と尾を振られた。畏まれとは言わないが、ここまで油断しきった姿を見せられるとどうにも笑ってしまう。
「これ、だらしのない」
『あったかいんだにゃー』
『にゃー』
『んなぁー』
「……わかったから、せめて心の中でくらい、ちゃんと話しなさいね」
『はーい』
 言葉と尾だけで返された。
 なんとも言えない脱力感を抱きつつ、ようよう食堂の戸を開ける。瞬間、鍋の木蓋が吹っ飛んできた。
「え」
 心は読めても、誰にとっても不測の事態だと防ぎようがない。
 額で受け止める形になってしまった木蓋が、すこーん! といい音を立てた。目の奥で火花が散った。思わずうずくまる。条件反射で涙がにじんだ。
「……えっ、あれっ、さと、さとり様!?」
「わ、わっ、ごめんなさいー! さとり様、大丈夫ですか?」
『いい音したわねぇ』
 唐突すぎて、三者三様の反応に返す言葉も思いつかない。
「顔上げなさい」と言われたとおりにすると、間近に穏やかな緑目があった。相変わらずきれいな瞳だ、と痛みも忘れてしみじみ見入る。傷の様子を見ていたパルスィは「ちょっと腫れただけね。大したことないわよ」と頰笑んだ。
「……いったい、どうして、鍋ぶたが飛んでくるんですか」
「不運な事故」
「えっと、味噌汁の具合を見ようとしたら、こいし様が"玄関行ってくる"って見えなくなって、お空が周り見たのに押されて、鍋さわっちゃって」
「ごめんなさい」
「手の甲? お燐、見せなさい」
 にゃーん……と落ちこむ燐の手をよく確認する。さすが妖怪と言うべきか、幸いにも、既に傷は治っていた。真っ白な素肌には傷跡一つない。頬を緩め、燐と空の額を優しく小突く。
「火を扱っているときは、もうすこし慎重にね。あなたたちは熱に強いけれど、そうじゃない子もいるんだから」
 はい、と神妙に頷いたふたりに続きを任せ、『甘いわね』と肩を竦めるパルスィを手招きする。
「すでに反省している子を責めても意味はないでしょう。それでね、あの、パルスィ?」
 こういう時は素直が一番。怒らせることをしてしまいましたか、と声を落として問いかけると、パルスィは大きなため息をついた。同時に心が伝わってくる。目をさました彼女のとなりではなく、ソファで眠りこむ地霊殿の主。さとりは眉を下げた。
「だって、気持ちよさそうに寝ていらしたので。起こしたら悪いじゃないですか」
「気を遣うところが間違ってる」
「すみ……」
 頭を下げようとしたものの、ふわふわと伝わってくる心のいじらしさに口元が緩みそうになってしまう。慌てて引き結んだが遅かった。『鼻の下伸ばすんじゃないの』と目をつり上げる、不機嫌な仏頂面は仄かに染まっている。
「……えと。すみませんでした」
「その謝罪はどれに対して?」
「ぜんぶ、ではダメですか」
「まったくもう」
 ため息をつき、胸中だけで発される愛くるしい恨み言にゆるゆると頷く。ひととおり受け止めたところで『それに』とパルスィがそっぽを向いた。
『仮にも主人のベッドを私が占領ってのも、筋がちがうでしょう。起こしたっていいから、次からはちゃんとしなさい』
「つまり、次の機会を期待できる、と」
「あっ」
 虚を突かれたような様に堪えきれなかった。ついつい噴き出してしまったさとりに、パルスィはいっそう頬を赤らめて「もうっ」と目を覆う。

 再度、心の中でまくし立てられる罵詈雑言に頬を緩ませ頷いていると、こいしが「お客さーん」とやってきた。怪我はなさそうだし、変わった様子もない。よかった、と目元を下げる。
 こいしの後から、紐で結ばれた紙の束を持った勇儀と、ヤマメとキスメとが入ってくる。わざわざ地霊殿までやって来るとは珍しい、と思ったが、眼に映った諸々を受けて「ああ」と頷く。
「勇儀、今月分ですか。また量が増えましたね。すぐに目を……あ、はい、パルスィ。ええと、では意見書はそこに置いておいてください。朝食を終えたら見ますので。ヤマメも、ええ、付いていてくれると助かります。また建設をお願いするかもしれません。それから、キスメ、苺の収穫量は連作障害でしたか。計算上、あの区画はもう二、三度使えたはずでは……ああ、農場を広げたせいで狂っていたのですね。不覚でした、すぐに計算し直して手配します。お手数ですが鬼火を……はい、助かります」
 片っ端から読んでいき、空と燐に呼びかける。量が十分あることを確認して、そも、こいしが連れてきたのだからと思い直した。
「よろしければ、朝餉をどうぞ」
「ありがたいねぇ。お言葉に甘えようか」
 パンと手を打ち、慣れた調子の勇儀が食卓に腰を下ろした。「こっちはいいから」とのパルスィの言葉に甘えることにして、彼女の向かいに腰を下ろす。勇儀のとなりにヤマメとキスメが腰かけたところで、燐が味噌汁を運んできた。
「気が利いてるじゃないか」
「そりゃ、そんなに酒の匂いさせてたら気がつきますって」
「あっはは、違いない。ありがたく頂くよ」
 椀に口をつけ、おっと目を見張る。同様に味噌汁を啜ったヤマメは朗笑し、キスメは目を細めた。
「珍しい。白味噌だね。作ったのはパルちゃんかな?」
「おそらくは」
 ヤマメの言葉に頷くと、こいしがひょこっと顔を出す。
「帰ってきたら、パルスィさんがご飯作ってくれてるのに、当のお姉ちゃんが寝てるって言うんですもん。驚いちゃった」
 呆れたような言葉に生暖かい視線が向けられる。努めて素知らぬ風を装ってみる。
「古明地姉さぁ」とヤマメが苦笑し、『すてきだと思います』とキスメが頷いた。勇儀に至っては「ま、おまえさんは真面目だからなぁ。そのくらいがちょうどいいだろうよ」と大笑する。針のむしろには慣れていても、このような立場になるのは慣れていない。決断は早かった。
「こいし、お相手を。お膳を運んできますので」
 妹に後を任せ、素早く立ち上がる。暖かな朗笑を背中に受けつつ近寄ると、さとりを認めたパルスィに盆を渡された。
 本日の朝食は、馬鈴薯と葱の味噌汁に、ほうれん草の白ごま和え、炊きたてで粒立った白米と、薄く切って味をつけた椎茸を包んだだし巻き卵だ。
 ほかほかと湯気を立てる膳に、空腹をおぼえた腹がきゅるりと鳴る。そういえば夕食を食べていなかった、と赤くなるさとりに、パルスィは仄かな微笑を浮かべた。
「あれ? お椀が多い?」
「そんなことはないはずだよ、お空。さとり様と、こいし様と、橋姫のお姉さんと星熊のお姉さんと土蜘蛛のお姉さんと釣瓶落としのお姉さん……あれ? 多い?」
「いや、逆。少ないのよ、あなたたちの分はどこにあるの」
「あ、そっか」
「うにゅ……いつもこんなにたくさん用意しないから、わかんなくなっちゃう」
 わたわたと慌てる燐と、若干目を回しかけている空に、パルスィが柔らかなため息を落とした。ふたりに言い聞かせながら器に料理をよそっていく姿に、こそばゆいような、面映ゆいような、なんとも充たされた心地になる。
(これは)
 からかわれるだろう、とお盆を運びつつ心中で苦笑する。
 からかわれてもいいか、との思いには気づかぬふりをして「お待たせしました」と声をかけた。歓声が上がる。盆に載せただし巻き卵を配りながら、こちらに食事を運んでくる面々をチラリと見て、さとりは目元を和らげた。
初めまして、もしくはお久しぶりです。空賀青と申します。
ここまでお読みいただきありがとうございました。お疲れさまでした。
地霊殿の間取りについて考えていたら楽しくなった結果もったいないお化けが発動しました。少しでも暇つぶしになりましたら幸いです。

(11.16追記)
閲覧いただいた上、コメントまで頂きありがとうございます。励みになります!
>>1様
とにかく雰囲気極振りの小話でしたが、気に入って頂けましたら幸いです
>>サク_ウマ様
ふわっとした話でしたがお気に召しましたら何よりです。お粗末さまでした
>>モブ様
ラストは頭に浮かんだ光景を記述したのでより映像っぽかったかもしれません。一話で完結させられなかったのは書き手の未熟ですね。精進します
>>4様
勢い任せで削りが甘かったのは反省点ですね。以後気を付けていきたいです
>>さとパルスキー様
少しでも気に入って頂けたら嬉しいです。さとパルはとても良いものです…
>>6様
こんな朝食が食べたい欲に振りきってしまいました。ほのぼのと言って頂けて幸いです
空賀青
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コメント



0.80簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良い雰囲気で良かったです
2.100サク_ウマ削除
こういうほのぼの短編、大好きです。ご馳走様でした。
3.80モブ削除
読んでいて少し違和感を覚えたのは、これは「既にさとりとパルスィが仲良くなった後の話」なんですね。ラストが映画のワンシーンのようでよかったです。御馳走様でした
4.70名前が無い程度の能力削除
ご自身で書かれているように、書きすぎな部分が多いように思いました。
5.100さとパルスキー削除
ほのぼのしていてとても素敵でした。
さとパルはよいものだ…
6.80名前が無い程度の能力削除
何気ない朝食が温かくて美味しそうでほのぼのとした空気が伝わってきました
7.100名前が無い程度の能力削除
爽やかな朝食って感じで後味いいです
10.100ローファル削除
ほのぼのした素敵なお話でした。
さとり視点の視認と読心の描写に「目」と「眼」という表現をしていたのが好きです。