Coolier - 新生・東方創想話

秘封倶楽部会報第四十一号より抜粋

2018/11/01 21:31:05
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  人形というものへの特別な感情はなんだろう。偶像崇拝を禁じている地域を除けばほとんどすべての世界に「人を模した立体物」が存在する。子供が労働から解放された先進国では人形は玩具としても用いられる。人形をあこがれる将来の自分自身の象徴として扱うものや、それとは対照的に自らよりもずっと幼い子供や赤ん坊として世話を焼いたりおままごとの小道具としての役割も持つ。1996年、ポポちゃん人形が発売されると全国の女の子は”我が子”あるいは”妹”を両親にせがんだ。そのシリーズ品に「ぽぽちゃんのお医者さんセット」があった。多くの子供はぽぽちゃんを懸命に看護したが中には人体実験に走る子どももいたという。
 フランスの人形博物館に一体の古い人形が展示されている。「おもいで」セクションの片隅に座る裸の人形はもともと東京都調布市に住む女の子のものだった。虹彩は真っ黒になって潰され、腹部は割かれて茶色く汚れていた。頭上の赤いリボンだけが可愛らしい女の子としてのアイコンとしてとどまっている。
 女の子の通っていたすずらん幼稚園にはその名の通り立派な鈴蘭畑が園を取り囲むように豊かな香を放っていた。Akemi Akashiちゃん(フランス人形博物館のキャプションによる)は誕生日にポポちゃん人形とお医者さんごっこのセットを買ってもらう。将来の夢をお医者さんだと卒園アルバムにも記していた彼女にとってこの出会いは熱烈な歓迎を伴うものだったことが想像できる。アケミちゃんもしばらくは入院するポポちゃんを甲斐甲斐しく看護・治療していたがある日彼女は「えらいお医者様は研究もする博士なのよ」と母親に聞かされたのだ。翌朝アケミちゃんはアケミ医学博士となった病室は研究室に、ぽぽちゃんは実験台となったのだ。ペンを注射器に見立てて眼球に突き立て、ハサミをメス代わりに腹を裂いた。ある日園長先生が語った。「みなさんがお世話している鈴蘭はお薬の材料にもなるのですよ」、と。幼い医学博士は帰り際に何本かの鈴蘭を引き抜いてこっそり鞄に突っ込んだ。極秘の実験だから、隠して持ち帰ったのだ。鉢にの中で鈴蘭はすりつぶされ、少量の水を加えられた。これをコンロ(これもポポちゃんのおままごとセットである)で熱した。これをぽぽちゃんに飲ませたところ、全快したと彼女の研究レポートにある。そして医学博士は自身も劇薬を煽って殉職した。
 葬儀の当日、ポポちゃん人形がギギギとうめき声をあげた。母親は昏倒して頭を強く打って大けがを負ったアケミ博士は被検体に大量の鈴蘭を生で与えていた。博士の言うこの漢方薬には飲みやすいように水あめが添加されていた。ここに大量の昆虫が湧いたのである。虫がポポちゃんの体を内側からかじる音がギギギとアパートにひびいたのだ。両親は愛娘の形見を手放した。
 この幼子の”メディスン”が引き起こした悲劇、その被験者が今も博物館で訪問者たちを見つめている。その恨めしそうなアンニュイな表情を見つめる観光客の心中やいかに。

文責:マエリベリー・ハーン
今回がはじめてのそそわ投稿です。よろしくお願いします。
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いってつ
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良い感じのホラーでした
2.100サク_ウマ削除
この嫌な雰囲気がとてもよいです
5.100南条削除
面白かったです
この人形が流れ流れて幻想郷にたどり着くのでしょうか