「ふう……今日も素敵な昼下がりだけれど、刺激が足りないわね……なにかないのー、咲夜?」
「はい、お嬢様。紅魔館が飛び立ちはじめましたわ」
「マジで」
スズメは、2週間で巣立つという。フクロウは6週間。イヌワシは8週間。
体型を大型化していくにつれ、より多くの栄養と時間を必要とする。
紅魔館が幻想郷に生まれ落ちて数十年か、数百年か。
小鳥とは比べ物にならない図体の紅魔館が飛び立つのには、それだけの日時が必要だったのだ――
* * *
宙に浮いた紅魔館から辛くも逃げ出したレミリア達(3日ぶりの蒸発)を尻目に、独り立ちをした紅魔館は少し不安定ながら幻想郷の空を飛び回りはじめた。
今や中のレミリアたちからの妖力の提供はない。親鳥から独り立ちした若い鳥が自らの力で生きなければいけないように、紅魔館も獲物が必要なのだ。
まだ飛ぶことに慣れていないのか、少しぐらぐらと体を揺らしながら飛ぶ紅魔館。獲物はどこだ……と大時計をぐるぐる回して探す。
おや? なにかに気づいだのだろうか。高い位置からの降下による位置エネルギーと速度の交換。
紅魔館は、眼下に見えた獲物にスピードを上げて襲いかかった!
「ふむふむ、これは興味深い……外の世界では第三のビールというものが生まれているのか。幻想郷でも酒の種類というのは増えているが、向こうではビールという一つの酒の種類でさえも第二第三と拡散しているのか……いやあ、騒がしい人間が訪れない日というのはいいものだ。読書が進む、こんな日ばかりであったらいい……ん? 急に暗くなったぞ? 日が陰るような天気ではなかったはず……」
その日、香霖堂は消滅した。
* * *
獲物の取り方を覚えた紅魔館は飛ぶことにも慣れてきたようで、力強く門を羽ばたかせはじめた。
親鳥のレミリアたちも心配なのだろうか、後ろから付いてきている。
「ねえ美鈴どういうことこれねえねえおかしいでしょいくらなんでも」
「はあ、私にはさっぱり。ですが、まあそういうこともたまにはありますよ」
「いやたまにとかそういう話じゃないでしょう館返して 館返してよ」
紅魔館は人里の上空を飛び始めた。人々がしきりに指差す中、優雅に旋回まで決めていた。
だが、これは危ない動きだった。
最初に気づいたのは親鳥の一人である、フランドールだった。
「あっ、危ない!」
鋭い一撃が下から紅魔館を襲う。
恐ろしい威力の山門が飛んできたのだ!
立ちはだかるのは命蓮寺。
そう、飛び立ち始めた建物は紅魔館だけではなかったのだ!
命蓮寺は人里周辺を縄張りとしている様子。紅魔館を追い払おうとしているのだろうか?
……いや、違う。
「命蓮寺め! 私の紅魔館を壊す気だな!」
大量の山門が紅魔館の周囲を飛び交い始める。これは威嚇ではない。
獲物として捕食しようとしている動きだ。
飛び道具として豊富な門を持つ命蓮寺に対し、周囲を囲う鎧としての意味合いが強い紅魔館の城壁では防戦一方になってしまう。
だが、大きな図体が仇となしたか。飛行速度で勝る命蓮寺の執拗な攻撃から逃げることもできないようだ。
「クソッ、こうなったら私が」
「お嬢様」
手を貸そうとした親鳥のレミリアを親鳥でありかつ親鳥のメイドもしてる咲夜が制した。
「ここは見守るべきです。妹様のときもそういう方針だったはず。紅魔館の成長のためにも」
「いや、成長とかじゃなくて私の館が壊れると困るんだが」
いや、紅魔館にも武器がある。
鋭く尖った時計塔。
これを大きい図体による質量の暴力で突き抜けてしまえばいい。
だが、そのためには今でさえ手を焼いている命蓮寺の山門攻撃をより近づきながら耐え忍ばねばならないのだ。
だが――親鳥の影響だろうか。紅魔館は背を見せるよりも攻撃を選んだのだ!
スピードを上げて突っ込んでいく紅魔館に対し、命蓮寺は山門を的確にぶつけて迎撃に臨んでいた。
メイドの控室が。美鈴の詰め所が。バルコニーが。レミリアの寝室が。大図書館が次々と破壊されていく。
「はあ!? レミィの部屋はいいけど図書館はやめてくれる!?」
「ああーん居候の分際でこの期に及んで保身宣言してんじゃねー!」
五体満足であれば確実に打ち勝てる威力の時計台攻撃。だが、既に紅魔館は満身創痍。どちらが打ち勝つかはもはやわからない。
それでも、それでも!
紅魔館は親鳥の意思を受け継ぎ、力を振り絞ってスピードを上げていった!
人里に轟音が響いた。
上空に黒煙が立ち込め、視界が奪われる。果たして生き残ったのはどちらか。
煙が晴れ、最初に見えたのは命蓮寺だった。だが、よろめいている。一撃で倒れることはなかったものの、これ以上の抗戦は無理だろう。フラフラと巣の方に戻っていく。
一方の紅魔館は――こちらも生き残っていた!
命蓮寺に負けず劣らずの怪我っぷりだが、それでもなんとなく彼の蔦だらけの壁面が、いつもと比べて輝いているように見えたのだ――
彼は強敵の存在を認識し、自らの慢心を改めた。おそらく今後もっと強くなっていくだろう。
自然は厳しい。だが彼はより強いはずだ。生き残り、パートナーを見つけ、新しい紅魔館を産むことに我々も期待しよう。
「はい、お嬢様。紅魔館が飛び立ちはじめましたわ」
「マジで」
スズメは、2週間で巣立つという。フクロウは6週間。イヌワシは8週間。
体型を大型化していくにつれ、より多くの栄養と時間を必要とする。
紅魔館が幻想郷に生まれ落ちて数十年か、数百年か。
小鳥とは比べ物にならない図体の紅魔館が飛び立つのには、それだけの日時が必要だったのだ――
* * *
宙に浮いた紅魔館から辛くも逃げ出したレミリア達(3日ぶりの蒸発)を尻目に、独り立ちをした紅魔館は少し不安定ながら幻想郷の空を飛び回りはじめた。
今や中のレミリアたちからの妖力の提供はない。親鳥から独り立ちした若い鳥が自らの力で生きなければいけないように、紅魔館も獲物が必要なのだ。
まだ飛ぶことに慣れていないのか、少しぐらぐらと体を揺らしながら飛ぶ紅魔館。獲物はどこだ……と大時計をぐるぐる回して探す。
おや? なにかに気づいだのだろうか。高い位置からの降下による位置エネルギーと速度の交換。
紅魔館は、眼下に見えた獲物にスピードを上げて襲いかかった!
「ふむふむ、これは興味深い……外の世界では第三のビールというものが生まれているのか。幻想郷でも酒の種類というのは増えているが、向こうではビールという一つの酒の種類でさえも第二第三と拡散しているのか……いやあ、騒がしい人間が訪れない日というのはいいものだ。読書が進む、こんな日ばかりであったらいい……ん? 急に暗くなったぞ? 日が陰るような天気ではなかったはず……」
その日、香霖堂は消滅した。
* * *
獲物の取り方を覚えた紅魔館は飛ぶことにも慣れてきたようで、力強く門を羽ばたかせはじめた。
親鳥のレミリアたちも心配なのだろうか、後ろから付いてきている。
「ねえ美鈴どういうことこれねえねえおかしいでしょいくらなんでも」
「はあ、私にはさっぱり。ですが、まあそういうこともたまにはありますよ」
「いやたまにとかそういう話じゃないでしょう館返して 館返してよ」
紅魔館は人里の上空を飛び始めた。人々がしきりに指差す中、優雅に旋回まで決めていた。
だが、これは危ない動きだった。
最初に気づいたのは親鳥の一人である、フランドールだった。
「あっ、危ない!」
鋭い一撃が下から紅魔館を襲う。
恐ろしい威力の山門が飛んできたのだ!
立ちはだかるのは命蓮寺。
そう、飛び立ち始めた建物は紅魔館だけではなかったのだ!
命蓮寺は人里周辺を縄張りとしている様子。紅魔館を追い払おうとしているのだろうか?
……いや、違う。
「命蓮寺め! 私の紅魔館を壊す気だな!」
大量の山門が紅魔館の周囲を飛び交い始める。これは威嚇ではない。
獲物として捕食しようとしている動きだ。
飛び道具として豊富な門を持つ命蓮寺に対し、周囲を囲う鎧としての意味合いが強い紅魔館の城壁では防戦一方になってしまう。
だが、大きな図体が仇となしたか。飛行速度で勝る命蓮寺の執拗な攻撃から逃げることもできないようだ。
「クソッ、こうなったら私が」
「お嬢様」
手を貸そうとした親鳥のレミリアを親鳥でありかつ親鳥のメイドもしてる咲夜が制した。
「ここは見守るべきです。妹様のときもそういう方針だったはず。紅魔館の成長のためにも」
「いや、成長とかじゃなくて私の館が壊れると困るんだが」
いや、紅魔館にも武器がある。
鋭く尖った時計塔。
これを大きい図体による質量の暴力で突き抜けてしまえばいい。
だが、そのためには今でさえ手を焼いている命蓮寺の山門攻撃をより近づきながら耐え忍ばねばならないのだ。
だが――親鳥の影響だろうか。紅魔館は背を見せるよりも攻撃を選んだのだ!
スピードを上げて突っ込んでいく紅魔館に対し、命蓮寺は山門を的確にぶつけて迎撃に臨んでいた。
メイドの控室が。美鈴の詰め所が。バルコニーが。レミリアの寝室が。大図書館が次々と破壊されていく。
「はあ!? レミィの部屋はいいけど図書館はやめてくれる!?」
「ああーん居候の分際でこの期に及んで保身宣言してんじゃねー!」
五体満足であれば確実に打ち勝てる威力の時計台攻撃。だが、既に紅魔館は満身創痍。どちらが打ち勝つかはもはやわからない。
それでも、それでも!
紅魔館は親鳥の意思を受け継ぎ、力を振り絞ってスピードを上げていった!
人里に轟音が響いた。
上空に黒煙が立ち込め、視界が奪われる。果たして生き残ったのはどちらか。
煙が晴れ、最初に見えたのは命蓮寺だった。だが、よろめいている。一撃で倒れることはなかったものの、これ以上の抗戦は無理だろう。フラフラと巣の方に戻っていく。
一方の紅魔館は――こちらも生き残っていた!
命蓮寺に負けず劣らずの怪我っぷりだが、それでもなんとなく彼の蔦だらけの壁面が、いつもと比べて輝いているように見えたのだ――
彼は強敵の存在を認識し、自らの慢心を改めた。おそらく今後もっと強くなっていくだろう。
自然は厳しい。だが彼はより強いはずだ。生き残り、パートナーを見つけ、新しい紅魔館を産むことに我々も期待しよう。
不条理なまま突き進む話に笑ってしまいました
>日時が必要だったのだ
こういう場合は年月と言うのでは…
よくもこれだけつっこみどころだけで構成された作品を産み出したもんだ