お燐が、細かくて黒い粉を持ってきた。
「なにそれ」
「煙草っていうらしいね。要はある種の嗜好品だよ。幻想郷じゃ流行ってないけど、外には好きな奴がそれなりの数いるんだってさ」
ふうんと私は声を漏らした。
「どうするものなの?」
「ところがそれがさっぱりでね。嗜むやつがほとんどいなくて、誰に聞いても分かんないのさ」
お燐は肩を竦めた。私は試しにとひとつまみ取って、煙草とやらを口に含んで、そして思い切りむせかえった。
「あーあ、大丈夫かいお空。だから何度も言ってるじゃないか、なんでも口に入れるもんじゃないって」
「行けるかなって思ったんだけど」
「そんな単純なら苦労しないってば」
その場にうずくまってぺっぺっと煙草を吐き出すと、お燐に頭をぽんぽんと叩かれた。ちょっと不甲斐ない。
「あ、刻み煙草だー」
私が落ち着き、改めて煙草とやらの味わいかたに2人頭を悩ませていると、後ろから声をかけられた。こいし様だ。
「こいし様、煙草のこと知ってるんです?」
「まあねー。一応私、いろんなところ行ってるし」
「じゃあ、これの嗜みかたとかも?」
「うん、そりゃあ勿論」
私自身はやったことないけどね、とこいし様はころころ笑った。
「火をつけて煙を吸うのよ。本当はパイプっていう専用の道具があるんだけど、まあ試すぶんには必要ないかな?」
はーと私は感心した。よく見ると、煙草の黒いのは炭化した葉っぱの黒だった。つまりこれの前の持ち主はこれの嗜みかたを知っていたのですね!と鼻息荒くこいし様に尋ねてみたけど、こいし様はにこにこと微笑むだけで何も言わなかった。
「じゃあ、やりかたも分かったし、試してみる?」
「うん!」
私はお燐の言葉に頷いて、ついでに「火力絞った方がいいよー」というこいし様の助言に従いながら机の上の煙草に火を付けた。
そして煙草の煙を吸って、お燐と一緒にむせかえった。
「2人とも大丈夫ー?」
私たちが落ち着いたのを見計らって、こいし様がコップを渡してきた。
「こいし様、騙すなんてひどいですよ」
「いやいや、騙してないってば。ほんとにアレを好む人はいるのよ」
「うへえ、奇特な人もいるんですね」
お燐とこいし様の会話を聞きながら私はコップの中身を飲み干して、そして臓が焼けるような感覚に襲われた。
「え、あのこいし様?」
「あれ、言ってなかった?口直しの乾杯よ」
「いや、私まだこの後仕事があるんですけど」
核融合炉の制御が酒気厳禁なのは言うまでもない。それを「いいからいいから」と流してくるこいし様は、よく嗅ぐと酒臭かった。多分、旧都の宴会に巻き込まれたんだと思う。
私は困り果ててお燐の方を見た。お燐はトリップしていた。具体的には後ろ向きに飛びながら縦に2度横に3度回っていた。肉体を超越したかのようだった。どうやらお燐に渡されたのは、マタタビ茶だったらしい。
「おーリジョンソン」
こいし様が言っていたけど、多分それは違うと思う。
私はこうなったら1杯も2杯も同じだと思って、そのままこいし様に付き合って呑むことにした。
さとり様に弁解するのは、もう既に諦めていた。
「なにそれ」
「煙草っていうらしいね。要はある種の嗜好品だよ。幻想郷じゃ流行ってないけど、外には好きな奴がそれなりの数いるんだってさ」
ふうんと私は声を漏らした。
「どうするものなの?」
「ところがそれがさっぱりでね。嗜むやつがほとんどいなくて、誰に聞いても分かんないのさ」
お燐は肩を竦めた。私は試しにとひとつまみ取って、煙草とやらを口に含んで、そして思い切りむせかえった。
「あーあ、大丈夫かいお空。だから何度も言ってるじゃないか、なんでも口に入れるもんじゃないって」
「行けるかなって思ったんだけど」
「そんな単純なら苦労しないってば」
その場にうずくまってぺっぺっと煙草を吐き出すと、お燐に頭をぽんぽんと叩かれた。ちょっと不甲斐ない。
「あ、刻み煙草だー」
私が落ち着き、改めて煙草とやらの味わいかたに2人頭を悩ませていると、後ろから声をかけられた。こいし様だ。
「こいし様、煙草のこと知ってるんです?」
「まあねー。一応私、いろんなところ行ってるし」
「じゃあ、これの嗜みかたとかも?」
「うん、そりゃあ勿論」
私自身はやったことないけどね、とこいし様はころころ笑った。
「火をつけて煙を吸うのよ。本当はパイプっていう専用の道具があるんだけど、まあ試すぶんには必要ないかな?」
はーと私は感心した。よく見ると、煙草の黒いのは炭化した葉っぱの黒だった。つまりこれの前の持ち主はこれの嗜みかたを知っていたのですね!と鼻息荒くこいし様に尋ねてみたけど、こいし様はにこにこと微笑むだけで何も言わなかった。
「じゃあ、やりかたも分かったし、試してみる?」
「うん!」
私はお燐の言葉に頷いて、ついでに「火力絞った方がいいよー」というこいし様の助言に従いながら机の上の煙草に火を付けた。
そして煙草の煙を吸って、お燐と一緒にむせかえった。
「2人とも大丈夫ー?」
私たちが落ち着いたのを見計らって、こいし様がコップを渡してきた。
「こいし様、騙すなんてひどいですよ」
「いやいや、騙してないってば。ほんとにアレを好む人はいるのよ」
「うへえ、奇特な人もいるんですね」
お燐とこいし様の会話を聞きながら私はコップの中身を飲み干して、そして臓が焼けるような感覚に襲われた。
「え、あのこいし様?」
「あれ、言ってなかった?口直しの乾杯よ」
「いや、私まだこの後仕事があるんですけど」
核融合炉の制御が酒気厳禁なのは言うまでもない。それを「いいからいいから」と流してくるこいし様は、よく嗅ぐと酒臭かった。多分、旧都の宴会に巻き込まれたんだと思う。
私は困り果ててお燐の方を見た。お燐はトリップしていた。具体的には後ろ向きに飛びながら縦に2度横に3度回っていた。肉体を超越したかのようだった。どうやらお燐に渡されたのは、マタタビ茶だったらしい。
「おーリジョンソン」
こいし様が言っていたけど、多分それは違うと思う。
私はこうなったら1杯も2杯も同じだと思って、そのままこいし様に付き合って呑むことにした。
さとり様に弁解するのは、もう既に諦めていた。