頭が痛い。
此処は何処だ?
いまはどうやら夜らしい。
暗くて良く分からないが、どうやら私は森の中にいるようだ。
今時は何処にでも人工の光が侵食しているものだが、ここには月の光が薄く照らすばかりでどうも心細い場所だ。
少なくとも私の活動範囲にこんな場所はなかった気がする。
どうしてこんな所にいるんだろうか。
たしか、家で嫌なことがあって、それで、家を飛び出して近くの目についた居酒屋に片っ端から入っていったんだ。
誰かからの電話(おそらく帰りが遅くて心配した親だろう。知ったことではない)が鳴り続けていて、イライラして酒のグラスに突っ込んだようなきがする。
うう、頭が痛い。
それで、気が付いたらここにいた。間の記憶はさっぱり思い出せない。
助けを呼ぼうにも自分の場所も分からないし、そもそも命綱のスマホがうんともすんとも動きやしない。
毎月高い契約料を払っているのに、いざというときに限って動かないのはどういうことだ。
ともあれ動かないものはどうしようもない。
と、私が途方に暮れていると。
「おい。そこにいるのは誰だ?」
突然前から人懐っこい笑顔を浮かべた少女が現れた。
第一村人発見だ。
これで助かる。
ぬか喜びだった。
どうやら私はまだ助かっていないらしい。
この霧雨という少女が言うには、ここは幻想郷という異界の地で、私は外の世界から迷い込んできたのだという。
最初は何を言ってるんだこのキチガイは。とも思ったが、少女の珍妙な恰好や不思議な力を見せられるとどうにも信じざるを得なかった。
空を飛んだり、強く光る光弾を飛ばしたり。 極めつけは治癒の魔法だ。
さっきまでとても辛かった二日酔いがさっぱり吹き飛んだ。まさに魔法だ。是非とも教えてほしい。
今は箒の後ろに乗せてもらって空を飛びながら霧雨の住む家に案内してもらっている。
魔女は箒で飛ぶのは異界でも同じらしい。
霧雨はバランスを取るのが下手なのか、ものすごくグラつくスリル満点の遊覧飛行だ。
気温もだいぶ下がってきていてだいぶ肌寒く感じる。
霧雨は夜が明けたら、元の世界に送り返してくれる場所に案内してくれると言っていた。
どうやら私はラッキーな部類だったらしい。
外来人は保護される前に妖怪(ここには実在するらしい。恐ろしい。)に食べられてしまう人が大半だそうだ。
色々霧雨から教えてもらうと不安も和らいで、景色を楽しむ余裕も出てきた。
幻想郷の空から見る星はきれいだ。ビルの密林のスキマから見える星々とは比べ物にならないほど力強く輝いている。
これが異界の星空ならば納得だ。
「おい、もうすぐ着くぜ。そうそう、言うのを忘れていたな。うちには同居人がいるんだ。まぁ仲良くしてやってくれ。あいつ、さびしがり屋なんだ。」
言われて前方を見ると確かに家が見えてきている。
森の中の開けた場所にぽつんと立っている煙突のついた洋風の家だ。もし外の世界に立っていたら魔女の家としてすぐ有名になるだろう。
まぁ、本当に魔女の家なのだが。
家の前に降り立って霧雨が家のドアを開ける。どうやら鍵は閉めてないらしい。
聞いてみると、最近鍵を回すのが重労働になってしまったからだと言う。
家の中は真っ暗だ。外よりも暗い。
霧雨が電気をつける。が、やはり真っ暗だ。
「おいルーミア。帰ったぞ、闇を仕舞ってくれ。」
るーみあ?それが同居人の名前なのだろうか。
思うと同時に家に光が満ち、家の奥から少女が駆けてくる。
「おそいー。おなかへったー。」
少女は霧雨に走りの勢いのまま抱き着くと、勢いに耐え切れず倒れてしまう。
二人の何気ないやり取りを私は微笑ましいと思い、ルーミアという娘の顔を見る。
背筋が、凍った。
私の第六感が告げている。今すぐ逃げろと。
このルーミアという娘、間違いなく妖怪だ。
姿かたちは確かに少女だが、全身から放つオーラが人外であると告げていた。
今すぐにでも逃げ出したい。しかし、足が動かない。
ルーミアという少女がこちらを見る。
「この人間は…食べてもいい人間?」
「まだ駄目だぜ。ステイ。」
私は理解した。私は身代わりなのだ。
この霧雨という女性の。
私がこの女性が魔女だからだと思っていた特徴。
私は勝手に実験か何かを失敗して無くしただけだと思っていたんだ。
左腕の肘から先がない。おかげで箒の上でもバランスがとりづらそうだった。
右手の小指と中指がない。鍵を閉めるのも難儀だと言っていた。
右足のふくらはぎの先が切断された様になくなっていた。踏ん張ることも難しいようだった。
霧雨が私に近づいてくる。
「uoymai-ierauoy-emeblliwuoy」
何かを私に唱えていく。言葉の意味は分からない。
霧雨が赤い何かを私の口の中に押し込んで来る。
抵抗するが、少しも動くことはできない。
押し込まれる。舌で感じて分かった。肉だ。生臭い。
無理やり咀嚼させられる。
私が飲み込んだのを見届けると満足したように妖怪の元に戻る。
何の肉か全く分からない。そこまで考えて、この肉が何の肉かに予想がついた。クソっ!クソっクソっ!!!
ああ、畜生。どうして私がこんな目に。
「どうしてか? …そうだな、私はルーミアが好きなんだよ。だから、望むものは何でもあげたくなっちゃうのさ。」
畜生…。
「じゃあ、最後にお前の名前を聞こうか。」
私の…私の名前は…
「ふぅ、ごちそうさま。ずっと食べたかったんだ。いつもはすこししか食べさせてくれないからおなかいっぱい食べれてうれしいな。」
「そうか。そいつはよかったな。きっとあいつもお前に食べられて幸せだっただろうよ。」
「そうかな?人間てみんな食べられるときは悲鳴を上げて泣き叫ぶのに。」
「そうに決まってるさ。」
じゃあ、最後にお前の名前を聞こうか。
私の…私の名前は…「理沙」。
そうか、じゃあお前はこれからは魔理沙だ。霧雨魔理沙だ。
魔女の肉を食い人外になったお前にふさわしいぜ。
そう言って彼女はルーミアに食われに行った。
何のことはない。ルーミアが欲しがったのは人間の肉でも魔女の肉でもなく、彼女自身だったというだけだ。
「きっとあいつは幸せに逝ったんだよ」
「そうかなー? わかんないや。」
あの夜以降わたしの身体の様子がおかしい。
「霧雨」に食べさせられた彼女の肉のせいか、体の調子がおかしい。
調子が悪いのではなく、よすぎる。おそらくこれも私が人外に近づいて行っているという証左なのだろう。
そしてもう一つ。
段々とルーミアの事が怖くなくなっていくのだ。
いや、それどころか…。
そうか。あの時の呪文の意味が分かった。
「uoymai-ierauoy-emeblliwuoy」
畜生。最悪の呪いだ。
此処は何処だ?
いまはどうやら夜らしい。
暗くて良く分からないが、どうやら私は森の中にいるようだ。
今時は何処にでも人工の光が侵食しているものだが、ここには月の光が薄く照らすばかりでどうも心細い場所だ。
少なくとも私の活動範囲にこんな場所はなかった気がする。
どうしてこんな所にいるんだろうか。
たしか、家で嫌なことがあって、それで、家を飛び出して近くの目についた居酒屋に片っ端から入っていったんだ。
誰かからの電話(おそらく帰りが遅くて心配した親だろう。知ったことではない)が鳴り続けていて、イライラして酒のグラスに突っ込んだようなきがする。
うう、頭が痛い。
それで、気が付いたらここにいた。間の記憶はさっぱり思い出せない。
助けを呼ぼうにも自分の場所も分からないし、そもそも命綱のスマホがうんともすんとも動きやしない。
毎月高い契約料を払っているのに、いざというときに限って動かないのはどういうことだ。
ともあれ動かないものはどうしようもない。
と、私が途方に暮れていると。
「おい。そこにいるのは誰だ?」
突然前から人懐っこい笑顔を浮かべた少女が現れた。
第一村人発見だ。
これで助かる。
ぬか喜びだった。
どうやら私はまだ助かっていないらしい。
この霧雨という少女が言うには、ここは幻想郷という異界の地で、私は外の世界から迷い込んできたのだという。
最初は何を言ってるんだこのキチガイは。とも思ったが、少女の珍妙な恰好や不思議な力を見せられるとどうにも信じざるを得なかった。
空を飛んだり、強く光る光弾を飛ばしたり。 極めつけは治癒の魔法だ。
さっきまでとても辛かった二日酔いがさっぱり吹き飛んだ。まさに魔法だ。是非とも教えてほしい。
今は箒の後ろに乗せてもらって空を飛びながら霧雨の住む家に案内してもらっている。
魔女は箒で飛ぶのは異界でも同じらしい。
霧雨はバランスを取るのが下手なのか、ものすごくグラつくスリル満点の遊覧飛行だ。
気温もだいぶ下がってきていてだいぶ肌寒く感じる。
霧雨は夜が明けたら、元の世界に送り返してくれる場所に案内してくれると言っていた。
どうやら私はラッキーな部類だったらしい。
外来人は保護される前に妖怪(ここには実在するらしい。恐ろしい。)に食べられてしまう人が大半だそうだ。
色々霧雨から教えてもらうと不安も和らいで、景色を楽しむ余裕も出てきた。
幻想郷の空から見る星はきれいだ。ビルの密林のスキマから見える星々とは比べ物にならないほど力強く輝いている。
これが異界の星空ならば納得だ。
「おい、もうすぐ着くぜ。そうそう、言うのを忘れていたな。うちには同居人がいるんだ。まぁ仲良くしてやってくれ。あいつ、さびしがり屋なんだ。」
言われて前方を見ると確かに家が見えてきている。
森の中の開けた場所にぽつんと立っている煙突のついた洋風の家だ。もし外の世界に立っていたら魔女の家としてすぐ有名になるだろう。
まぁ、本当に魔女の家なのだが。
家の前に降り立って霧雨が家のドアを開ける。どうやら鍵は閉めてないらしい。
聞いてみると、最近鍵を回すのが重労働になってしまったからだと言う。
家の中は真っ暗だ。外よりも暗い。
霧雨が電気をつける。が、やはり真っ暗だ。
「おいルーミア。帰ったぞ、闇を仕舞ってくれ。」
るーみあ?それが同居人の名前なのだろうか。
思うと同時に家に光が満ち、家の奥から少女が駆けてくる。
「おそいー。おなかへったー。」
少女は霧雨に走りの勢いのまま抱き着くと、勢いに耐え切れず倒れてしまう。
二人の何気ないやり取りを私は微笑ましいと思い、ルーミアという娘の顔を見る。
背筋が、凍った。
私の第六感が告げている。今すぐ逃げろと。
このルーミアという娘、間違いなく妖怪だ。
姿かたちは確かに少女だが、全身から放つオーラが人外であると告げていた。
今すぐにでも逃げ出したい。しかし、足が動かない。
ルーミアという少女がこちらを見る。
「この人間は…食べてもいい人間?」
「まだ駄目だぜ。ステイ。」
私は理解した。私は身代わりなのだ。
この霧雨という女性の。
私がこの女性が魔女だからだと思っていた特徴。
私は勝手に実験か何かを失敗して無くしただけだと思っていたんだ。
左腕の肘から先がない。おかげで箒の上でもバランスがとりづらそうだった。
右手の小指と中指がない。鍵を閉めるのも難儀だと言っていた。
右足のふくらはぎの先が切断された様になくなっていた。踏ん張ることも難しいようだった。
霧雨が私に近づいてくる。
「uoymai-ierauoy-emeblliwuoy」
何かを私に唱えていく。言葉の意味は分からない。
霧雨が赤い何かを私の口の中に押し込んで来る。
抵抗するが、少しも動くことはできない。
押し込まれる。舌で感じて分かった。肉だ。生臭い。
無理やり咀嚼させられる。
私が飲み込んだのを見届けると満足したように妖怪の元に戻る。
何の肉か全く分からない。そこまで考えて、この肉が何の肉かに予想がついた。クソっ!クソっクソっ!!!
ああ、畜生。どうして私がこんな目に。
「どうしてか? …そうだな、私はルーミアが好きなんだよ。だから、望むものは何でもあげたくなっちゃうのさ。」
畜生…。
「じゃあ、最後にお前の名前を聞こうか。」
私の…私の名前は…
「ふぅ、ごちそうさま。ずっと食べたかったんだ。いつもはすこししか食べさせてくれないからおなかいっぱい食べれてうれしいな。」
「そうか。そいつはよかったな。きっとあいつもお前に食べられて幸せだっただろうよ。」
「そうかな?人間てみんな食べられるときは悲鳴を上げて泣き叫ぶのに。」
「そうに決まってるさ。」
じゃあ、最後にお前の名前を聞こうか。
私の…私の名前は…「理沙」。
そうか、じゃあお前はこれからは魔理沙だ。霧雨魔理沙だ。
魔女の肉を食い人外になったお前にふさわしいぜ。
そう言って彼女はルーミアに食われに行った。
何のことはない。ルーミアが欲しがったのは人間の肉でも魔女の肉でもなく、彼女自身だったというだけだ。
「きっとあいつは幸せに逝ったんだよ」
「そうかなー? わかんないや。」
あの夜以降わたしの身体の様子がおかしい。
「霧雨」に食べさせられた彼女の肉のせいか、体の調子がおかしい。
調子が悪いのではなく、よすぎる。おそらくこれも私が人外に近づいて行っているという証左なのだろう。
そしてもう一つ。
段々とルーミアの事が怖くなくなっていくのだ。
いや、それどころか…。
そうか。あの時の呪文の意味が分かった。
「uoymai-ierauoy-emeblliwuoy」
畜生。最悪の呪いだ。
これも愛なのでしょうか
なかなかに意表を突かれました。面白く、興味深い作品でした。