東方創想話作品集その22 ふしぎなフランちゃん第二話?の続編です。先にそちらをお読みください
前回のあらすじ:れみりゃ×ぼいん×すっぱ×ちちくさ=ラグナロク
「わーい、さくやとおそろいっ。おそろいっ」
「(ンフハハハハハハッハ、ご奉仕されてー、むしろ老後介護してもらいてー!)と、とっっっってもお似合いですよお嬢様!」
まったく計画通りじゃないけど計画通り。咲夜の私室に不法侵入した二人は、こじ開けた衣装ダンスからメイド服を引きずり出した。衣装合わせに関しては思ったよりれみりゃの物わかりが良かったお陰で滞りなく終了し、フランドールは鼻血で恋の迷路を造らずに済んだ。
メイド服を完全着装したれみりゃは、まさに天使だった。背に蝙蝠の翼を生やしているにもかかわらず、頭のてっぺんから足先までまばゆいまでの無垢な輝きを放っている。いうまでもなく最高だ。
咲夜のメイド服は大人化したれみりゃには意外にも丁度いいサイズである。だが、幻想郷七不思議の一つに数えられる疑惑のプライベートスクウェア部分については、以前フランドールが風呂場で見た彼女のソレとはなにか食い違っていた。タンスや机、ベッドの下など隅々にわたって探索を行ったが、その矛盾を整合させるような増加装甲の類は見あたらなかった。以上の事実から、フランドールは自分なりに複数の可能性を考察してみたが、今回は物証不足と言うことでそれ以上の追求はやめることにした。
「――しっかし咲夜ってやっぱスタイルいいわよねー。胸以外はまさしく黄金比ってやつ?」
れみりゃの着ている服とタンスから引っこ抜いた別の一着を交互に眺めながら、感心する。メイド長の制服は咲夜自身のスタイルと要望に即してレミリアが用意させた特注品であるため、咲夜にとって最も着心地のいいベストフィットな品だ。よって、服を見るだけで咲夜の体のつくりというのがなんとなく程度だが理解することができるのだ。
「とりあえず一着もらっておいて後で時間があったら着てみよ。メイド服姿でいたずらするってのもまたオツかもしんないしー♪」
「ほう、それはそれは楽しそうなことで」
「そりゃ楽しいのなんの。咲夜の疑惑をQEDしてしまえば、後は今の私なら十分勝て……あれ?」
聞き覚えのある声がして、それに対し振り向こうとして
気が付けば、周囲は銀の針のむしろで埋め尽くされていた。
(――――!!?)
コンマ1秒にも満たない瞬間。気合いで張り巡らせた弾幕バリアがかろうじて殺到するナイフの壁を相殺した。
180度振り返ると同時に、立ち上がる。
正対した先には、誰何の声を上げるまでもなく見知った人物が修羅の如く立ちはだかっていた。
「――驚いたわね、こんなにも正々堂々恥も外聞もなく模範的に理不尽な粗相を働くような賊がこの館に侵入していたとは――門番のふがいなさばかりを責めてもいられないってことかしら?」
(なんて――こと)
こんなにまでタイミング悪く分かりやすい危機が降りかかってくるとは。フランドールは戦慄と同時に歯がみする。
十六夜咲夜は、血液そのものの色を発する紅い瞳で彼女と対峙する。不気味なまでに表情は抜け落ち、一切の感情を見ることはかなわない。
フランドールは学習する。人間は、というより人の形をしている生き物は真に負の感情に満たされたとき、人形の貌になるのだと。
と、そんなことを心に刻みつけようとしていたところにも、躊躇なくナイフが走る。もはや咲夜の殺意そのものが無限の刃になったかのように、ナイフは部屋を満たす洪水として氾濫した。
「うっそー!?」
「やぁぁー!!」
もはや固体ではなく液体の様相を呈したナイフの群れは、この十数メートル四方の空間の端から端までを例外なく蹂躙する。もはやそこに普通の物体は存在することもできない。
「冗談じゃないってーの!」
このままでは間違いなくれみりゃともども血煙になる。フランドールは意を決して空間全体に破壊の能力を波紋の如く広げた。
スペルカードで応戦する暇もないほどの「殺意」を凌ぐには、自分たち以外に空間を満たすもの全てを消し飛ばすしかない。それは一か八かの賭だった。
――――――――!
「!っぷはぁ、はぁ!」
「ひぃ、ふぅ……」
ほんの僅かな時間の連続でしかなかったが、飛び交ったエネルギーと質量はどれほどのものだったか。ともあれ、空間を埋め尽くす金属の塊達は塵一つ残らず姿を消し、フランドールもれみりゃも全くの無傷だった。まぁ、その余波で咲夜の室内も廃墟に変わってしまったわけだが。
「……あれだけの集中砲火を凌ぐなんて」
咲夜の、人形のような顔付きに亀裂が走る。100%仕留められるという確信を持って打って出たルナティック弾幕がイリュージョンの如くなかったことにされてしまったのだから、流石に動揺は隠しきれないだろう。加えて今の攻撃で手持ちのナイフほとんどを消費しきってしまい、今のようなまねをもう一度行うどころか、通常弾幕すら厳しくなった。
「チッ」
スカートの内側のガーターからナイフが二振り取り出される。両手にそれぞれ一本ずつ逆手に持ち、咲夜は自分の体をかき抱くように腕を交差させた。それは、滅多に見られない咲夜の電撃戦闘スタイルである。
「どんな能力かはわからないけどただ者じゃないのは確かね。ブツ切り肉になる前に名前くらいは聞いてあげるわ。冥土のみやげをあげられはしないけど、ね」
こちらの能力を警戒してなのか、時を停止させるそぶりを見せずに咲夜は慎重にフランドールとの距離を計った。しかし、その表情からは未だ揺るぎない殺意が滲み出ている。いかなる手段を以てしても、咲夜はこの侵入者を亡き者とする覚悟を持っていることが分かる。
(フン、上等じゃないのよ)
だが、フランドールも又やられっぱなしですますようなよい子ではない。そもそもよい子は空き巣なんかしないし。咲夜の凄まじい殺気を正面から受け流し、それまでの戦慄は吸血鬼としての闘争本能にすり替わり、全身の血が沸騰するような高揚感を彼女は噛みしめる。
「――『U.N.オーエン』、冥土のみやげに名乗っておきましょうか。貴方にこそ必要な、ね」
ククッ、とU.N.オーエンもといフランドールは不敵に微笑み、相手の調子に合わせて小馬鹿にしたような声で返す。
その顔を横から見る位置にいるれみりゃはボロボロと涙をこぼしてガクガクと震えていた。ただでさえ最愛の従者に有無を言わさず瞬殺されかかったところに、新入り従者が凶悪な面構えで咲夜と対峙する姿は幼い彼女の精神には凄まじい負荷になるのは当然だ。おかげで今のれみりゃからは嗚咽すら発されることはない。ただ、事の成り行きを見守ることしか彼女に出来ることはなかった。
だがフランドールにしてみれば好都合。咲夜は天地がひっくり返ったところで自分たちが実はスカーレット姉妹であると認めることなどないだろう。今でこそ咲夜はフランドールをロックオンしているが、ヘタに動き回ればフランドールより先にれみりゃの方が切り刻まれる可能性もないことはない。体は大人でも所詮中身はれみりゃ故、火の点いたように泣き出されて混乱を招くよりは数段マシだった。
そう、れみりゃさえ大人しくしていれば、フランドールには十分な勝算があった。初撃でこちらを仕留め損ねた咲夜を打ち負かすのに、大した策は必要ではない。
「――は、どこまでも巫山戯た人だこと。まぁいいわ。ならばその舐めた名前に由来する通り……」
咲夜がグッと姿勢を低く縮めた。膝がたわむと同時に、殺意もまた圧縮される。より鋭く、凶悪に。
「なかったことにしてあげるわ!!」
それは跳ぶと言うより、撃鉄に弾かれた弾丸のようだった。交差させた腕を大鳥の如く広げ、咲夜は獲物を狙う銀の迅風となる。
「傷魂――」
ナイフ弾幕による攻撃を封じられた今、咲夜が取る行動は一つ。視界にある者全てを切り刻む、究極の殺戮人工爪。
アドレナリン全開の両者には、コンマ僅かな時間すら遠大なものに感じられる。
だが咲夜がスペルの真名を唱え上げる前に、フランドールも又スペルを宣言する。
「禁忌『フォーオブアカインド』!!」
あらかじめスタンバイしていたのか、スペルの展開はフランドールの方が早い。しかしそれで止まる咲夜ではない。いかなる弾幕であろうと、彼女を止めることはできない。ただ、一つの例外を除いて――
放出される魔力、収束する凶気。須臾を越えて二つの力がぶつかる、その寸前
「ソウルスカル――」
「さくやー」
おっそろしく間の抜けた、ふわんふわんの幼い声が背後からやってきた。
瞬間。
ピュッ
殺意だけをたたえた人形の貌は、至福の蕩笑に反転した。その形の良い鼻から紅い液体を漏らして。
「はーいれみりゃさまー」
究極の殺戮人工爪はどこにいった。むしろなにそれおいしいのと言わんばかりに、咲夜は今にも空を飛びそうなくらい両手を水平に広げて、上半身を地面と平行になるまで折り曲げ片足立ちになり、コマの如く真後ろに向きを変える。もう片方の足は上半身と同じ角度である。ちなみに両手のナイフはあっさりと床に落ちた。
「おーよちよ――」
だが、振り返った先には
「――ち?」
咲夜はとろける笑顔のまま固まった。
そこには、彼女が愛しても愛しても止まない、麗しの声の主はいなかった。代わりにいたのは
「さ く や ー」
悪意たっぷりの笑顔で、平手を口の横に当ててれみりゃの声真似をしていたフランドールの分身の一人だった。
パーフェクトフリーズは数秒続いた。そして
「――しまっ!?」
「もう遅いわパブロフの狗!!」
我に返って大あわてで敵の方へむき直したがもう後の祭り。再び正面に見据えた時には、フランドール本体に鋭い掌底を顔面にお見舞いされ、勝敗は決した。
咲夜が大きく体勢を崩したところに、フランドールは間髪入れず紅美鈴(という漢字を書くらしいが、フランドールは読み方が分からなかった)仕込みの寸剄をその懐に叩き込む。ただでさえ凄まじい吸血鬼の膂力で、しかも現在のフランドールは本来より体格が大きくなっている分単純に筋肉量が増加しているので、まともに打ち込めば人間の体はたやすく破裂するだろう。さすがにそこらへんはフランドールも加減はできるようだった。しかし、威力はセーブしても打撃力の貫通度はそのままなので、咲夜は後ろから勢い良く引っ張られたように部屋の外を放り出され、向かい側の壁をぶち破って彼方へと消えた
「れーみーりゃーさーまーッ!!!」
咲夜が完全に黙視できなくなったところで、フランドールはフンッと鼻を鳴らして、闘いの終わりを締めくくった
「495年早いのよ」
微妙な勝ちゼリフを吐いたところで、フランドールは分身を退避させる。
「このU.N.オーエンを暗殺することはできん……つーわけでおさらばよ。あーつかれた。さて、お嬢様大丈夫ですか?」
「う、あ……さ、さくやは……?」
「メイド長はいささかお疲れの模様です、少しお休みさせてあげましょう」
何事もなかったかのように腰の抜けたれみりゃを立たせるフランドール。
そこで、きゅ~という音ときゅるきゅるきゅるという音が同時に交差する。
「あ」
「う」
二人の腹の虫の鳴き声だった。
(無駄にエネルギー使っちゃったしね。お姉様もお菓子が食べたいっていってたもんだから、お腹空いてるわよね)
ということで
「お嬢様、気分転換も兼ねまして、ここらでお食事を取ることにいたしましょう。私もご一緒致します」
「う、うん。れみりゃおなかすいたの。おかし、たべたいの」
ポンポン、と空腹のジェスチャーのつもりらしく自分のお腹を両手で叩くれみりゃ。成人女性の姿になっているにもかかわらず、本来のれみりゃの姿に負けず劣らずいちいち破壊力が高い。しかしいい加減フランドールもなれたもので、さっさとこの廃墟から立ち去るべく口を開く。
「それでは厨房に参りましょう」
「あ……でも、れみりゃはいつもさくやのおかし……」
しかし、どうやらまだ咲夜のことが心配らしいれみりゃは歯切れが悪かった。むむっ、とフランドールは内心うなる。
(咲夜はもうなんとかできたんだし、なんとか言いくるめるか)
「お嬢様」
心持ち神妙な顔付きで、冗談の混じらない声音でフランドールは語り始める。
「先ほどもご覧になったでしょう。メイド長はいささかお疲れでご乱心なさった様を。メイド長はあなた様に仕えて死ぬことこそ本望でありましょうが、人間であるが故にその寿命は短いもの。いかに忠実な従者といえども限界はあるのです。日頃からの激務が祟って今日のような惨事が起こってしまったとするならば、れみりゃ様が成すべき事は一つ。メイド長に暇を出して、その間に自分の力で色々なことにチャレンジすることです」
今この場にヤマザナドゥがいたら、説教する以前に喉ちんこごと舌を引きづり出されかねないような戯れ言だった。しかし有無を言わさずまくし立てたものだから、理解力に乏しいれみりゃはあっさりと騙された。
「さくや――たいへんなの、わたしがしっかりしないと――」
「そうそう、その意気です。というわけでとっとと厨房へ行きましょうね」
しめしめと言わんばかりに内心でほくそ笑み、フランドールはれみりゃの手を引いてもはや部屋としての形を失った咲夜の部屋を後にした。
入り口だったところを踏み越えて厨房へ目指すその去り際、フランドールは貫通した壁の向こうを一瞥して
「それじゃあね咲夜、お姉様の事は全て私に任せて安らかに眠りなさい」
「おーえん、どうかした?」
「いえいえなんでもございませんよー。ささ、参りましょう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ではお嬢様、ここでお待ちになっていてください。すぐお持ちして参ります」
「うん、れみりゃよいこにしてまってる」
紅魔館の文字通りの台所、食事の用意に必要なものが全て集中している厨房の入り口にれみりゃを待たせて、フランドールは新たなるスニーキングミッションを開始した。
(記憶が正しければ、作り置きのおやつがいくつかあるはず)
実は空腹を覚えたときこっそり厨房に忍び込んでのつまみ食いが常習化していたフランドールは、主に自分用のスイーツがある程度作り置きされている事を把握していた。たびたび冷蔵庫を荒らされることに頭を抱えた咲夜並びに厨房担当が苦肉の策として用意した、いわばおとりだ。それをフランドールが何食わぬ顔で取り出しては胃に収めるという暗黙の了解が、この厨房に成立している。
たびたび忍び込んでいるだけあって、フランドールの潜入手段は大した物であった。暴れん坊のくせにこーいう事にはやたらと注意深く真剣になるあたり、やはり彼女は子供である。本人にそんなことを言えば容赦なく吹っ飛ばされるが。
とまれ、体が大きくなっているにもかかわらず、厨房で忙しく働く従業員に気配も悟られることなくあっさりと目的の冷蔵庫に辿り着いた。案の定、作り置きのケーキやプリン等数種類の菓子が冷蔵庫内の分かりやすいところに収められていた。
軽く吟味した結果、歩きながらでも食べられるクレープのチョイスする。これかられみりゃをつれてあちこち飛び回ることを見越してである。幸先がいいことに、ストレートティー入りの水筒まで見つけたので、これでれみりゃが喉の渇きを訴えても大丈夫。ビバ、ご都合主義。
「よーっし、これで外に出かけることになっても大丈夫ねー。――んー、それにしても厨房はやっぱいい香りがするわー」
クンクンと思う存分厨房に満ちた芳醇な匂いを堪能する。彼女がわざわざここに忍び込んでつまみ食いをするのは、この香しい空気を味わいたいがためでもあった。
と、そんな中でも特に美味しそうな香りがすぐ近くの鍋から立ち上っていた。
「ん~、これは……」
コンロに置かれた大きな寸胴鍋二つ。どちらの鍋の横にもマジック書きで『夜勤分』と書かれていた。夜勤帯の従業者に振る舞われるシチューのようである。火がかけられていないようで、これから食堂の方へ出されるのだろうか。
「……ということは」
ピキーン。早速フランドールのいたづら心に火が点いた。
「くっくっく……」
おもむろに肌身離さず持っていた瓶からパチュパチュパを取り出していく。そして、二つの鍋の一方には青色の、一方には赤色のキャンディーをポンポンと放り込んでいった。なんて悪行。単純に瓶を傾けて注ぎ込むのではなく、しっかり色を分けて投入しているあたり、彼女はやはり悪魔の妹と呼ばれるにふさわしい悪魔っ娘だ。
瓶の三分の一ほどを投入したところで炎を展開していないレーヴァティンで軽く混ぜ合わせて、すぐさまずらかった。そして厨房の出入り口付近の棚に隠れたところで鍋の様子を観察し始めると、ほどなくして配膳当番らしいメイド達が鍋を抱え上げて厨房に隣り合った食堂へ運び込んでいく様子が見れた。
「任務完了だ、大佐――」
「たいさってだーれ?」
「いえなんでもありません、それよりはい、クレープですよー」
「わーい、ちょこばななとべりーべりーだー」
なんとも分かりやすいくらいに大喜びのれみりゃは、差し出されたクレープに一も二もなく食らい付いた。
「はむうむはむぅ」
(くうぅ、たまらん。実にたまらん! ついでに私の指にもむしゃぶりついてぇぇぇ――じゃない、KOOLになれフランドールスカーレット。咲夜と同じ穴のパブロフの狗になってどうする!)
「ほらほらお嬢様、ちゃんとご自分の手でもってお食べください」
「ふぁーい」
一口分をゆっくりと飲み込んだのち、フランドールの手から二本のクレープを受け取り今度は交互にパクつき始めた。実に満足そうである。
(嗚呼……何コノ胸をときめくぱらいそは。こんなに嬉しいことはない――今日はもう死んでもいい。いや、死なないけど)
どちらが何をいうわけでもなく、二人はクレープを口に運びながら歩き始めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
もしかしたらごく普通に実現していたかも知れない、だけれど至ることが出来なかった情景。おもえば500に達するほどの年月、この姉妹はこんなごく普通の道を歩くことがなかったのだ。
振り返ってみればフランドールにとっての姉との思い出というのは、今ベリーの甘酸っぱさと共に噛みしめる幸せに比べれば信じられないくらいに虚ろなものだ。無機質な地下室で決められた時間に与えられるだけの食事、時折やってくる姉とのちょっとしたままごとやトランプ遊び、そして弾幕ごっこ。それらが僅かな楽しみであり、そしてそれ以外の圧倒的に長かった時間、何をしていたのか彼女には思い出せるようなことなどなかったし、思い出したくもなかった。
地下室を出て、あの人間達と出会うまでは、それがあまりにつまらない日々であったことも分からなかった。そう、人間というものがあまりにも愉快な奴らだと、そしてそんな連中が生きる世界が、とんでもなく面白いところだと知って――
「あー、まりさだー」
「――え?」
ふと去来した叙情的な懐古の念に浸りかけたところで、れみりゃの発した言葉で現実に引き戻される。ああ、そいつは今私を物思いから意識を向け直させたように、私を虚ろから連れ出した――
「ふあーあ……眠いぜ眠いぜ、眠くて死ぬぜ」
(ま、魔理沙だ!)
思わず声が裏返るほど大声を上げたくなった。れみりゃが残り半分となったチョコバナナクレープを持った手で示した先には、黒と白のコントラストが良く目立つ魔法使い霧雨魔理沙がいた。まだかなり遠くにいるが、吸血鬼の聴覚と視覚ははっきりと彼女をとらえた。
「まったく、パチュリーも心が狭いぜ。おかげでこんな時間に僻地くんだりで持ってこなきゃならんとは……あ、ふあぁぁう」
相当に眠いのか、たびたびあくびをしては眠気を誤魔化すようにぶつぶつと独り言をぼやいている。
見れば、空を飛ぶために跨っている箒には本の束がヒモでつり下げられていた。パチュリーの名前を口にしていたあたり、どうも本を返しにやってきたようだが、しかし今は昼間ではなく真夜中だ。普段こんな時間に魔理沙がやってくることはそうそうない。
(よりによってこんなときに来るなんて……お姉様じゃないけど、運命ってヤツを信じてしまいそうになるわー)
みょんな気分だった。しかし、これはまたとないハンターチャンスでもある。曲者と呼ぶにふさわしい魔理沙の意表をつくというのは存外に困難な事だ。そこで今の自分の姿を生かせば、念願の魔理沙へのいたずらが成就するのだ。今夜はとことん楽しむと決めたのだから、やるなら徹底的にやるべきだ。
ということで、フランドールのいたずら第四のターゲットはめでたく霧雨魔理沙に確定した。
(とりあえず、何でこの時間に来たのかというのを聞き出す意味も込めて、第一次接触開始よ)
と、その前に
「まりさーこっちこむが」
「失礼致します」
フランドールはれみりゃを近くの曲がり角にまで後退させた。
「むーおーえん?」
「お嬢様はここで少しお待ちください。魔理沙さんは私がお出迎えに上がりますので」
「うん、わかったー」
(あー聞き分けはよくて助かるわー)
今のれみりゃを伴った状態で魔理沙に話しかけたら、間違いなくれみりゃは変なメイドとして魔理沙に狙われてしまうだろう。それは色々と面倒であるので、ひとまず応対はフランドール一人で行うことにした。こういうところが瞬時に頭が回るあたり、彼女はやはり天稟があるのかもしれない。
何食わぬ顔で近づいていき、普通に会話して不自然にならない距離まで近づいたところでフランドールは魔理沙に恭しく頭を下げた。
「こんばんは、いらっしゃいませ魔理沙さん」
「ん? ああ、見かけない顔だな。制服もエプロンドレスじゃないなんて珍しいな。まぁ、その他大勢のメイドなんぞ覚えちゃいないんだがな」
普通に丁寧な挨拶をかけられたせいか、服装の違いはあるが魔理沙は彼女をメイドの一人と判断したようだ。
(むう、魔理沙でも私が誰だか分からないのね……ちょっと残念)
内心見破られることを期待してしまったが、流石にそれは無理だった。鏡を見ても意味がないフランドールには自分がどれほど劇的に変化しているか客観的に知ることは出来ないので、仕方がないことではあったが。
しかしわからないならわからないで問題はない。気を取り直してフランドールは気になった事を聞いてみる。。
「あはは、そうですよね。私はよく魔理沙さんのことは見ているのですが……それで、今日は一体どうしてこんな夜更けに?」
「あーいやな、話せばちと長くなるんだが……パチュリーのヤツが私が本を返さないもんだからって、この前借りていった本にあらかじめ呪いをかけたんだよ。解呪しようにもあいつかなり本気で施したらしくて、呪いの種類すら判別できなくてなぁ。おまけに、その呪いは明日というか今日の夜明けに発動するようにしといたなんて昨日の夕方に伝えてきたもんだから、家の中ほじくり返して呪いのかかっている本を見つけ出して、解呪試してみて全然だめで――てなことやってたら今まで時間がかかってしまってな。結局今ここに至るわけさ」
まったく私は返さないなんて一言もいってないのにな、酷いぜ、と魔理沙は口をとがらせて締めくくったのだった。
客観的に見れば日頃の横暴とずぼらさからくる自業自得となるわけだが、魔理沙の悪癖とゴミ屋敷をくわしく知らないフランドールはそうは思わなかった。
「それは、大変ですねぇ……」
(ちっ、パチェのやつ、いくら本が大切だからって、魔理沙に大変な目に遭わせるなんて捨て置けないわ……薬を作ってもらった恩はあるけど、後で何かしら魔理沙と一緒にいたずらしてやるわ!)
魔理沙に対して決して浅からぬ思慕と尊敬を抱くフランドールにとっては、魔理沙に迷惑をかける輩は誰であれ看過することは出来ない。そこら辺いたずらしたいという欲求と矛盾するような気もするが、そこはそれ。発想を逆転させれば、魔理沙にいたずらしていいのはこの世で私一人だというわけである。それが妹様クオリティ。
なんにせよ、よもやこんなところで彼女の恨みを買うことになるとは、Drパチェは予測することなどできなかっただろう。
「つーわけでだ、本をとっとと返したら問答無用でベッドに飛び込んで休みたいんだが。悪いけど部屋貸してくれないかな。咲夜あたりにばれないように一つ、な?」
(ま、魔理沙が家にお泊まりですって!!?)
よもやのラッキーロール。わざわざこちらに無防備な状態を晒してくれるとは。フランドールは高揚する自分の感情を抑えるのに内心必死だった。
(これは、以前パチェが言ってた据え膳食わぬはなんとやらってこと!? くっはー、女将! どんぶり飯山盛りでwelcome!)
「しょしょしょ、承知致しました! 私が全身全霊! 誠意と真心と魂を込めて支度させて頂きます! 一度潜り込んだら二度と目覚めないくらいに最高のベッドメイキングを!」
「なんかテンション高いなあんた……それと二度と目覚めないってのはやばいだろ。贅沢はいわないから普通でいいぜ、普通で」
「ご遠慮なさらずに! ささ、どうぞすぐさま図書館へ行ってロクデナシ引きこもり呪詛を払い落としてくださいませ。その間に私が準備致します。音速が遅いなんて言わせませんよ!」
「さりげなーく危険な発言してるよーな気がしないでもないが……眠いから聞き流しておくぜ。んじゃ、本返し終わったらどこにいきゃいい?」
「図書館のすぐ外にいてくだされば、準備でき次第すぐお迎えに上がります」
流石に中で待たれてパチェと顔を合わせるのは面倒そうなので、フランドールはそのような確約を魔理沙に取り付けた。
「りょーかい。ずいぶん自信があるみたいだから、私が図書館を出たらさっさと迎えにきてくれよな。そんじゃなー」
無茶な注文を残して、魔理沙はややふらつきながら図書館への廊下を低速移動していった。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送ったところで、すぐさまフランドールは行動を開始した。まずフランドールは、廊下の曲がり角に待たせたれみりゃの元に戻る。
「おーえん、まりさは?」
「魔理沙さんは図書館へ本を返しに行かれました。さて、お嬢様」
ガシッ、とおもむろにフランドールはれみりゃの両肩を掴み、そのつぶらな瞳と真っ向から対峙する。
「ふぇ、な、なに?」
「今からお嬢様に面白い余興をお見せしたいと思います」
「よきょー? おもしろい?」
「ええ、とっても面白いはず。しかしそれを実行するためには、お嬢様のお力が必要なのです。今から私が言うことをよぉーっっっくお聞きなさってくださいませ」
「う、うん、わかった」
「ありがとうございます。必ずやお嬢様をご満足させられることでしょう。それでは、これより準備を始めます。ついてきてくださいませ。お嬢様にやっていただくことは道中説明致します」
「はーい」
(これでよし……まずは下準備はおっけーね。さて、後は魔理沙が図書館での用事を済ませるまでの間に配置を整えて――うふふ、まっててね魔理沙。楽しい夜はもうけっして止まらないわよ)
くくくっと邪な含み笑いが沸き上がってくる。既に彼女の単純ではない思考回路は、魔理沙を籠絡する1から10までの手順がシミュレート済みだった。そして、れみりゃという不安要素を抱えながらも彼女は己が計画の成就をルナティックレベルの弾幕の隙間ほども疑っていない。
恐るべき天災、フランドール・スカーレット。またの名はU・N・オーエン。今宵幻想郷を席巻する大騒動は、彼女によって演出され、彼女の手によって下される。
これまでの話は、まだその前半を通り過ぎただけに過ぎなかった。
次回に続く。
おまけ
「はいそれローン!」
「ええええ! 隊長また上がりですか!?」
「クッ……あそこで鳴いたのはそーいう布石だったのね!」
「ちゅうg……もとい隊長、恐ろしい人だ……」
紅魔館門番隊詰め所。僅か四畳半の空間に、少なくとも外見はうら若き乙女達が雀卓を囲っていた。いわずもがな、隊長の紅美鈴(なぜか読めない)を初めとする門番隊の夜勤組である。
しかし、幻想郷では既に紅魔館の恐ろしさというのが十分すぎるほど浸透しているため、日勤であろうが夜勤であろうが、彼女たちの仕事というのは実に暇なものだった。わざわざ好きこのんでフリークスの巣窟に近寄る物好きは白黒やその知り合いの人形遣い程度だし、やるやつなどいないが紅魔館入場のアポイントも香霖堂経由なら大して取得困難なものではなかった。よってメイド長の目を盗んで徹マンなど日常茶飯事であり、巧い具合にサボリを誤魔化す小細工の開発に彼女たちは全精力を注ぐ日々である。天狗のブン屋達に『紅魔館警備陣、驚くべき腐敗の実態!!』などという見出しですっぱ抜かれる日もそう遠くはないだろう。
「ふっふっふ……まったく相手にならないわあなた達。とはいえ勝負は勝負、明日の昼食は全て私のものということでいいわね!」
「そ、そんな殺生な! せめて、せめてコッペパンだけは!」
「明日は念願の骨髄液スープなんですよ! お願いです、どうかお慈悲を!」
メイド長すらまともに給金をもらってない紅魔館では、当然彼女たちも幻想郷通貨などの給金はもらっていない。というか警備陣は内勤に比べて圧倒的に勤務条件が劣悪で、支給される食事は簡素なものだった(ほとんど仕事がないのである意味仕方はないが)。ささやかな食事を横取りされるという冷酷な仕打ちに五体倒置して懇願するのは当然だろう。
「ふふん、そうね……次の半荘で私をトップから引きずり落としてみせれば、賭はチャラにしましょう。5万という差と場の流れを覆すことが出来ればね!」
何故かは分からないが、彼女はイカサマなしで麻雀が強かった。先ほどの半荘でも、その他3名が裏で結託して包囲体制を築いていたのにもかかわらず、美鈴は次々とイカサマを見破り彼女たちの努力を水泡に帰した。流石本場中国で修羅場にもまれただけのことはある、らしい。
「いいましたね! 今度こそ隊長に一泡吹かせてやりますから! 明日のプッチンプリンのために、私たちは負けられない!」
「「「応!」」」
「その心意気や良し! 私の屍を越えて勝利を掴んでみなさい!!」
端から見れば三流芝居のような盛り上がりだが、明日の食事がかかっている以上本人達は侵入者を撃退するときよりもずっと真剣である。
ジャラジャラと麻雀牌の山をかき回していくたびに、狭い詰め所の気温は上昇していくようだった。張りつめるテンション、みなぎる闘志。決戦と呼ぶにふさわしい舞台が、この場に整った。
「さぁ、いざ尋常に!」
「「「勝負!」」」
親である美鈴が、開始の合図といわんばかりに力強く最初の牌を持ち上げようとしたそのときだった。
「――――――――ぁぁぁぁあああぁぁぁああああああっっっ!!!」
安普請の詰め所の天井をたやすくぶち抜いて、何かが部屋中央に置かれていた雀卓にピンポイントで着弾した。
「「「「のぉぉぉぉぉ!!?!!?」」」」
一体何が起こったのか。謎の絶叫が聞こえた瞬間、美鈴ほか門番隊は瞬時に雀卓から可能な限り遠ざかって、直撃を免れた。しかし、門番隊のなけなしの予算で購入した麻雀セットは、ものの見事に粉砕させられた。
「い、一体なにが……」
落下した所を一同おそるおそるのぞき込む。もうもうと立ちこめる煙と埃が収まってくると、その中からふらふらと落下してきた何かが起きあがってきた。
「う、くぅぅ……おのれ侵入者め! 私の部屋を灰燼に帰しただけにあきたらず、れみりゃ様のお声を声帯模写するなどというこの上なく邪悪な罠で陥れて――この罪、万死に値するわ!!」
がおーっといわんばかりの気概で、その幼女は荒々しく天を仰いだ。
――ん? 幼女?
「えーっと……」
「ん? だれかと思えば美鈴じゃない。ここは警備隊の詰め所みたいね……ってちょっと待ちなさい! 貴方今の時間は夜間の見回りのはずでしょう! 思いっきり賊の侵入許してるじゃない!」
埃が晴れて姿を現したその幼女は、銀色のお下げを振り乱して美鈴にくってかかった。しかし、美鈴は呆然と呻くことしかできない。
「ちょ、なによこの麻雀牌は! さてはもしやあなた達、私の目の届かないところで賭け麻雀なんてやってたりしてるんじゃないでしょうね!」
「いや、その、咲夜、さん?」
美鈴は、あまりに突拍子のない現実に直面していた。そして、それを信じざるを得なくなった。
「ええい、何をぼんやりとしているの! 賊を片づけたら操りドール3セットは堅いから覚悟しておきなさい! ともかく、今は侵入者の排除を優先するわ!」
銀色の髪の幼女のボルテージがヒートアップしていくのと対照的に、美鈴以下門番隊の表情はマヌケもいいところだった。まぁそれだけ直面した現実がおかしなものであったせいもあるが。
「ええと確認しますよ、咲夜さん……ですよね」
「だからなんだっていうのよ、そんなの当たり前でしょう。私が十六夜咲夜以外のなんだって――っえ」
おかしな反応を返す美鈴を不審に思い、そこでようやく彼女――十六夜咲夜は自分の体を顧みることに思い当たった。
「……」
「「「「……」」」」
「……え」
「「「「……」」」」
「……ええええええっ!? ど、どどどどどどうなっているわけぇ!?」
世界が裏返ったかのような衝撃だった。咲夜はまぎれもない子供の姿になっていたのだから。
彼女の体格は、丁度普段のスカーレット姉妹と同等の背丈と肉付きになっていた。故にその身長の違いは劇的の一言だった。元々かなり背が高いほうであった彼女は、その抜群のスタイルがメイド長としての一種の存在感と威圧感を演出していたとも言える。しかし、体が急激に縮んだ今、威圧感も何もあったものではない。
だが、それ以上に、というかそんなの目じゃないくらい問題なのが、身につけているものだ。
大体の読者はもはやお気づきであろうが、彼女が侵入者(大人化したフランドールだが)と交戦した際不意をつかれて受けた掌底には密かに赤いキャンディが仕込まれており、命中と同時に咲夜の口の中に放り込まれていたのだった。吹っ飛ばされて詰め所に落下するまでの間に彼女の体は瞬く間に縮み、サイズの合わなくなったメイド服は空中分解の如く四方八方にすっ飛んでいった。
つまり
そう
答えは
一つ
「い、いや!いや! 美鈴! シーツでも毛布でもなんでもいいから布頂戴! 私はおにゃのこを愛でるのは大好きだけどナルシズムの気はないわ! そんなの幻想郷ではスッパテンコーだけで十分間に合ってます!」
「「「「……」」」」
「な、なによ! なにボサッとしてるのよ! さっさと言うとおりにしないと、後でエターナルミーク4セット追加よ! いいのね!?」
「「「「……」」」」
「ちょっと! 聞いてるの!? 早くしなさいったらしなさい!」
「「「「……」」」」
顔を真っ赤にして泣きわめく咲夜を尻目に、門番隊は彼女に背を向けて、ボソボソとなにやら身をかがめながら話し始めた。
「あんた達! いい加減にしないと……!」
「「「隊長」」」
「応」
「……??」
門番隊の呼び声に、美鈴は応えた。その後、すぐ4人は立ち上がる。そして
「これは」
一人が、どことなく幽鬼のように振り返る。
「うん」
一人が、さび付いたブリキ人形のようにゆっくりギギギと振り返る。
「まぎれもなく」
一人が、矢印を逆さまにしたかのように一瞬で振り返る。
そして、最後に美鈴が、振り返ると同時に言葉を紡ぐ。それが、ボーダーを振り切る合図だった。
「どう見ても幼女です」
「「「「本当にありがとうございました」」」」
4人の声が唱和する。あまりにも完璧に、一分の狂いもなく重なり合った、一切の感情を含まないカルテット。
その響きが持つおぞましさを、咲夜が分からないわけがなかった。
当たり前か、それは今の自分に向けられたものであるのだから。
「あ――ああ」
先ほどまで朱に染まっていた頬は、一瞬で氷精の湖のように青ざめた。
「隊長」
「やろうか」
「やろう」
「やろう」
そういうことになった。
「い、いやいやいやいやいやいや美鈴! 正気になりなさい! あなた達が感じている感情は精神的疾患の一種よ! 治し方は私は知らないし私に任せられても困るけど、ともかく落ち着きなさい!」
「「「メイド長」」」
「咲夜さん」
「わ、わかったわ! これからはすぐナイフ投げるの止める! 門番隊の配給もまともにする! 麻雀でさぼってたのも見なかったことにするから! だから! お願いだから!」
悲鳴はヒステリックを通り越して、悲惨としかいいようがなかった。目からボロボロと大粒の涙をこぼして懇願する彼女は、もうメイド長十六夜咲夜ではない。ただの無力で乳臭い子供だった。なにより致命的に哀れだったのが、彼女が泣きわめくほどに、彼女たちは止まらなくなるということだ。
もはや、この世界に彼女の逃げられる場所はない。さよなら、僕のプライベートスクウェア。僕って誰だ
「「「「いっただっきまぁぁぁぁぁ~~~~~~~~すッ!!!!」」」」
「いやぁぁぁぁ~~~~~~~!???1?」
神などいない。
前回のあらすじ:れみりゃ×ぼいん×すっぱ×ちちくさ=ラグナロク
「わーい、さくやとおそろいっ。おそろいっ」
「(ンフハハハハハハッハ、ご奉仕されてー、むしろ老後介護してもらいてー!)と、とっっっってもお似合いですよお嬢様!」
まったく計画通りじゃないけど計画通り。咲夜の私室に不法侵入した二人は、こじ開けた衣装ダンスからメイド服を引きずり出した。衣装合わせに関しては思ったよりれみりゃの物わかりが良かったお陰で滞りなく終了し、フランドールは鼻血で恋の迷路を造らずに済んだ。
メイド服を完全着装したれみりゃは、まさに天使だった。背に蝙蝠の翼を生やしているにもかかわらず、頭のてっぺんから足先までまばゆいまでの無垢な輝きを放っている。いうまでもなく最高だ。
咲夜のメイド服は大人化したれみりゃには意外にも丁度いいサイズである。だが、幻想郷七不思議の一つに数えられる疑惑のプライベートスクウェア部分については、以前フランドールが風呂場で見た彼女のソレとはなにか食い違っていた。タンスや机、ベッドの下など隅々にわたって探索を行ったが、その矛盾を整合させるような増加装甲の類は見あたらなかった。以上の事実から、フランドールは自分なりに複数の可能性を考察してみたが、今回は物証不足と言うことでそれ以上の追求はやめることにした。
「――しっかし咲夜ってやっぱスタイルいいわよねー。胸以外はまさしく黄金比ってやつ?」
れみりゃの着ている服とタンスから引っこ抜いた別の一着を交互に眺めながら、感心する。メイド長の制服は咲夜自身のスタイルと要望に即してレミリアが用意させた特注品であるため、咲夜にとって最も着心地のいいベストフィットな品だ。よって、服を見るだけで咲夜の体のつくりというのがなんとなく程度だが理解することができるのだ。
「とりあえず一着もらっておいて後で時間があったら着てみよ。メイド服姿でいたずらするってのもまたオツかもしんないしー♪」
「ほう、それはそれは楽しそうなことで」
「そりゃ楽しいのなんの。咲夜の疑惑をQEDしてしまえば、後は今の私なら十分勝て……あれ?」
聞き覚えのある声がして、それに対し振り向こうとして
気が付けば、周囲は銀の針のむしろで埋め尽くされていた。
(――――!!?)
コンマ1秒にも満たない瞬間。気合いで張り巡らせた弾幕バリアがかろうじて殺到するナイフの壁を相殺した。
180度振り返ると同時に、立ち上がる。
正対した先には、誰何の声を上げるまでもなく見知った人物が修羅の如く立ちはだかっていた。
「――驚いたわね、こんなにも正々堂々恥も外聞もなく模範的に理不尽な粗相を働くような賊がこの館に侵入していたとは――門番のふがいなさばかりを責めてもいられないってことかしら?」
(なんて――こと)
こんなにまでタイミング悪く分かりやすい危機が降りかかってくるとは。フランドールは戦慄と同時に歯がみする。
十六夜咲夜は、血液そのものの色を発する紅い瞳で彼女と対峙する。不気味なまでに表情は抜け落ち、一切の感情を見ることはかなわない。
フランドールは学習する。人間は、というより人の形をしている生き物は真に負の感情に満たされたとき、人形の貌になるのだと。
と、そんなことを心に刻みつけようとしていたところにも、躊躇なくナイフが走る。もはや咲夜の殺意そのものが無限の刃になったかのように、ナイフは部屋を満たす洪水として氾濫した。
「うっそー!?」
「やぁぁー!!」
もはや固体ではなく液体の様相を呈したナイフの群れは、この十数メートル四方の空間の端から端までを例外なく蹂躙する。もはやそこに普通の物体は存在することもできない。
「冗談じゃないってーの!」
このままでは間違いなくれみりゃともども血煙になる。フランドールは意を決して空間全体に破壊の能力を波紋の如く広げた。
スペルカードで応戦する暇もないほどの「殺意」を凌ぐには、自分たち以外に空間を満たすもの全てを消し飛ばすしかない。それは一か八かの賭だった。
――――――――!
「!っぷはぁ、はぁ!」
「ひぃ、ふぅ……」
ほんの僅かな時間の連続でしかなかったが、飛び交ったエネルギーと質量はどれほどのものだったか。ともあれ、空間を埋め尽くす金属の塊達は塵一つ残らず姿を消し、フランドールもれみりゃも全くの無傷だった。まぁ、その余波で咲夜の室内も廃墟に変わってしまったわけだが。
「……あれだけの集中砲火を凌ぐなんて」
咲夜の、人形のような顔付きに亀裂が走る。100%仕留められるという確信を持って打って出たルナティック弾幕がイリュージョンの如くなかったことにされてしまったのだから、流石に動揺は隠しきれないだろう。加えて今の攻撃で手持ちのナイフほとんどを消費しきってしまい、今のようなまねをもう一度行うどころか、通常弾幕すら厳しくなった。
「チッ」
スカートの内側のガーターからナイフが二振り取り出される。両手にそれぞれ一本ずつ逆手に持ち、咲夜は自分の体をかき抱くように腕を交差させた。それは、滅多に見られない咲夜の電撃戦闘スタイルである。
「どんな能力かはわからないけどただ者じゃないのは確かね。ブツ切り肉になる前に名前くらいは聞いてあげるわ。冥土のみやげをあげられはしないけど、ね」
こちらの能力を警戒してなのか、時を停止させるそぶりを見せずに咲夜は慎重にフランドールとの距離を計った。しかし、その表情からは未だ揺るぎない殺意が滲み出ている。いかなる手段を以てしても、咲夜はこの侵入者を亡き者とする覚悟を持っていることが分かる。
(フン、上等じゃないのよ)
だが、フランドールも又やられっぱなしですますようなよい子ではない。そもそもよい子は空き巣なんかしないし。咲夜の凄まじい殺気を正面から受け流し、それまでの戦慄は吸血鬼としての闘争本能にすり替わり、全身の血が沸騰するような高揚感を彼女は噛みしめる。
「――『U.N.オーエン』、冥土のみやげに名乗っておきましょうか。貴方にこそ必要な、ね」
ククッ、とU.N.オーエンもといフランドールは不敵に微笑み、相手の調子に合わせて小馬鹿にしたような声で返す。
その顔を横から見る位置にいるれみりゃはボロボロと涙をこぼしてガクガクと震えていた。ただでさえ最愛の従者に有無を言わさず瞬殺されかかったところに、新入り従者が凶悪な面構えで咲夜と対峙する姿は幼い彼女の精神には凄まじい負荷になるのは当然だ。おかげで今のれみりゃからは嗚咽すら発されることはない。ただ、事の成り行きを見守ることしか彼女に出来ることはなかった。
だがフランドールにしてみれば好都合。咲夜は天地がひっくり返ったところで自分たちが実はスカーレット姉妹であると認めることなどないだろう。今でこそ咲夜はフランドールをロックオンしているが、ヘタに動き回ればフランドールより先にれみりゃの方が切り刻まれる可能性もないことはない。体は大人でも所詮中身はれみりゃ故、火の点いたように泣き出されて混乱を招くよりは数段マシだった。
そう、れみりゃさえ大人しくしていれば、フランドールには十分な勝算があった。初撃でこちらを仕留め損ねた咲夜を打ち負かすのに、大した策は必要ではない。
「――は、どこまでも巫山戯た人だこと。まぁいいわ。ならばその舐めた名前に由来する通り……」
咲夜がグッと姿勢を低く縮めた。膝がたわむと同時に、殺意もまた圧縮される。より鋭く、凶悪に。
「なかったことにしてあげるわ!!」
それは跳ぶと言うより、撃鉄に弾かれた弾丸のようだった。交差させた腕を大鳥の如く広げ、咲夜は獲物を狙う銀の迅風となる。
「傷魂――」
ナイフ弾幕による攻撃を封じられた今、咲夜が取る行動は一つ。視界にある者全てを切り刻む、究極の殺戮人工爪。
アドレナリン全開の両者には、コンマ僅かな時間すら遠大なものに感じられる。
だが咲夜がスペルの真名を唱え上げる前に、フランドールも又スペルを宣言する。
「禁忌『フォーオブアカインド』!!」
あらかじめスタンバイしていたのか、スペルの展開はフランドールの方が早い。しかしそれで止まる咲夜ではない。いかなる弾幕であろうと、彼女を止めることはできない。ただ、一つの例外を除いて――
放出される魔力、収束する凶気。須臾を越えて二つの力がぶつかる、その寸前
「ソウルスカル――」
「さくやー」
おっそろしく間の抜けた、ふわんふわんの幼い声が背後からやってきた。
瞬間。
ピュッ
殺意だけをたたえた人形の貌は、至福の蕩笑に反転した。その形の良い鼻から紅い液体を漏らして。
「はーいれみりゃさまー」
究極の殺戮人工爪はどこにいった。むしろなにそれおいしいのと言わんばかりに、咲夜は今にも空を飛びそうなくらい両手を水平に広げて、上半身を地面と平行になるまで折り曲げ片足立ちになり、コマの如く真後ろに向きを変える。もう片方の足は上半身と同じ角度である。ちなみに両手のナイフはあっさりと床に落ちた。
「おーよちよ――」
だが、振り返った先には
「――ち?」
咲夜はとろける笑顔のまま固まった。
そこには、彼女が愛しても愛しても止まない、麗しの声の主はいなかった。代わりにいたのは
「さ く や ー」
悪意たっぷりの笑顔で、平手を口の横に当ててれみりゃの声真似をしていたフランドールの分身の一人だった。
パーフェクトフリーズは数秒続いた。そして
「――しまっ!?」
「もう遅いわパブロフの狗!!」
我に返って大あわてで敵の方へむき直したがもう後の祭り。再び正面に見据えた時には、フランドール本体に鋭い掌底を顔面にお見舞いされ、勝敗は決した。
咲夜が大きく体勢を崩したところに、フランドールは間髪入れず紅美鈴(という漢字を書くらしいが、フランドールは読み方が分からなかった)仕込みの寸剄をその懐に叩き込む。ただでさえ凄まじい吸血鬼の膂力で、しかも現在のフランドールは本来より体格が大きくなっている分単純に筋肉量が増加しているので、まともに打ち込めば人間の体はたやすく破裂するだろう。さすがにそこらへんはフランドールも加減はできるようだった。しかし、威力はセーブしても打撃力の貫通度はそのままなので、咲夜は後ろから勢い良く引っ張られたように部屋の外を放り出され、向かい側の壁をぶち破って彼方へと消えた
「れーみーりゃーさーまーッ!!!」
咲夜が完全に黙視できなくなったところで、フランドールはフンッと鼻を鳴らして、闘いの終わりを締めくくった
「495年早いのよ」
微妙な勝ちゼリフを吐いたところで、フランドールは分身を退避させる。
「このU.N.オーエンを暗殺することはできん……つーわけでおさらばよ。あーつかれた。さて、お嬢様大丈夫ですか?」
「う、あ……さ、さくやは……?」
「メイド長はいささかお疲れの模様です、少しお休みさせてあげましょう」
何事もなかったかのように腰の抜けたれみりゃを立たせるフランドール。
そこで、きゅ~という音ときゅるきゅるきゅるという音が同時に交差する。
「あ」
「う」
二人の腹の虫の鳴き声だった。
(無駄にエネルギー使っちゃったしね。お姉様もお菓子が食べたいっていってたもんだから、お腹空いてるわよね)
ということで
「お嬢様、気分転換も兼ねまして、ここらでお食事を取ることにいたしましょう。私もご一緒致します」
「う、うん。れみりゃおなかすいたの。おかし、たべたいの」
ポンポン、と空腹のジェスチャーのつもりらしく自分のお腹を両手で叩くれみりゃ。成人女性の姿になっているにもかかわらず、本来のれみりゃの姿に負けず劣らずいちいち破壊力が高い。しかしいい加減フランドールもなれたもので、さっさとこの廃墟から立ち去るべく口を開く。
「それでは厨房に参りましょう」
「あ……でも、れみりゃはいつもさくやのおかし……」
しかし、どうやらまだ咲夜のことが心配らしいれみりゃは歯切れが悪かった。むむっ、とフランドールは内心うなる。
(咲夜はもうなんとかできたんだし、なんとか言いくるめるか)
「お嬢様」
心持ち神妙な顔付きで、冗談の混じらない声音でフランドールは語り始める。
「先ほどもご覧になったでしょう。メイド長はいささかお疲れでご乱心なさった様を。メイド長はあなた様に仕えて死ぬことこそ本望でありましょうが、人間であるが故にその寿命は短いもの。いかに忠実な従者といえども限界はあるのです。日頃からの激務が祟って今日のような惨事が起こってしまったとするならば、れみりゃ様が成すべき事は一つ。メイド長に暇を出して、その間に自分の力で色々なことにチャレンジすることです」
今この場にヤマザナドゥがいたら、説教する以前に喉ちんこごと舌を引きづり出されかねないような戯れ言だった。しかし有無を言わさずまくし立てたものだから、理解力に乏しいれみりゃはあっさりと騙された。
「さくや――たいへんなの、わたしがしっかりしないと――」
「そうそう、その意気です。というわけでとっとと厨房へ行きましょうね」
しめしめと言わんばかりに内心でほくそ笑み、フランドールはれみりゃの手を引いてもはや部屋としての形を失った咲夜の部屋を後にした。
入り口だったところを踏み越えて厨房へ目指すその去り際、フランドールは貫通した壁の向こうを一瞥して
「それじゃあね咲夜、お姉様の事は全て私に任せて安らかに眠りなさい」
「おーえん、どうかした?」
「いえいえなんでもございませんよー。ささ、参りましょう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ではお嬢様、ここでお待ちになっていてください。すぐお持ちして参ります」
「うん、れみりゃよいこにしてまってる」
紅魔館の文字通りの台所、食事の用意に必要なものが全て集中している厨房の入り口にれみりゃを待たせて、フランドールは新たなるスニーキングミッションを開始した。
(記憶が正しければ、作り置きのおやつがいくつかあるはず)
実は空腹を覚えたときこっそり厨房に忍び込んでのつまみ食いが常習化していたフランドールは、主に自分用のスイーツがある程度作り置きされている事を把握していた。たびたび冷蔵庫を荒らされることに頭を抱えた咲夜並びに厨房担当が苦肉の策として用意した、いわばおとりだ。それをフランドールが何食わぬ顔で取り出しては胃に収めるという暗黙の了解が、この厨房に成立している。
たびたび忍び込んでいるだけあって、フランドールの潜入手段は大した物であった。暴れん坊のくせにこーいう事にはやたらと注意深く真剣になるあたり、やはり彼女は子供である。本人にそんなことを言えば容赦なく吹っ飛ばされるが。
とまれ、体が大きくなっているにもかかわらず、厨房で忙しく働く従業員に気配も悟られることなくあっさりと目的の冷蔵庫に辿り着いた。案の定、作り置きのケーキやプリン等数種類の菓子が冷蔵庫内の分かりやすいところに収められていた。
軽く吟味した結果、歩きながらでも食べられるクレープのチョイスする。これかられみりゃをつれてあちこち飛び回ることを見越してである。幸先がいいことに、ストレートティー入りの水筒まで見つけたので、これでれみりゃが喉の渇きを訴えても大丈夫。ビバ、ご都合主義。
「よーっし、これで外に出かけることになっても大丈夫ねー。――んー、それにしても厨房はやっぱいい香りがするわー」
クンクンと思う存分厨房に満ちた芳醇な匂いを堪能する。彼女がわざわざここに忍び込んでつまみ食いをするのは、この香しい空気を味わいたいがためでもあった。
と、そんな中でも特に美味しそうな香りがすぐ近くの鍋から立ち上っていた。
「ん~、これは……」
コンロに置かれた大きな寸胴鍋二つ。どちらの鍋の横にもマジック書きで『夜勤分』と書かれていた。夜勤帯の従業者に振る舞われるシチューのようである。火がかけられていないようで、これから食堂の方へ出されるのだろうか。
「……ということは」
ピキーン。早速フランドールのいたづら心に火が点いた。
「くっくっく……」
おもむろに肌身離さず持っていた瓶からパチュパチュパを取り出していく。そして、二つの鍋の一方には青色の、一方には赤色のキャンディーをポンポンと放り込んでいった。なんて悪行。単純に瓶を傾けて注ぎ込むのではなく、しっかり色を分けて投入しているあたり、彼女はやはり悪魔の妹と呼ばれるにふさわしい悪魔っ娘だ。
瓶の三分の一ほどを投入したところで炎を展開していないレーヴァティンで軽く混ぜ合わせて、すぐさまずらかった。そして厨房の出入り口付近の棚に隠れたところで鍋の様子を観察し始めると、ほどなくして配膳当番らしいメイド達が鍋を抱え上げて厨房に隣り合った食堂へ運び込んでいく様子が見れた。
「任務完了だ、大佐――」
「たいさってだーれ?」
「いえなんでもありません、それよりはい、クレープですよー」
「わーい、ちょこばななとべりーべりーだー」
なんとも分かりやすいくらいに大喜びのれみりゃは、差し出されたクレープに一も二もなく食らい付いた。
「はむうむはむぅ」
(くうぅ、たまらん。実にたまらん! ついでに私の指にもむしゃぶりついてぇぇぇ――じゃない、KOOLになれフランドールスカーレット。咲夜と同じ穴のパブロフの狗になってどうする!)
「ほらほらお嬢様、ちゃんとご自分の手でもってお食べください」
「ふぁーい」
一口分をゆっくりと飲み込んだのち、フランドールの手から二本のクレープを受け取り今度は交互にパクつき始めた。実に満足そうである。
(嗚呼……何コノ胸をときめくぱらいそは。こんなに嬉しいことはない――今日はもう死んでもいい。いや、死なないけど)
どちらが何をいうわけでもなく、二人はクレープを口に運びながら歩き始めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
もしかしたらごく普通に実現していたかも知れない、だけれど至ることが出来なかった情景。おもえば500に達するほどの年月、この姉妹はこんなごく普通の道を歩くことがなかったのだ。
振り返ってみればフランドールにとっての姉との思い出というのは、今ベリーの甘酸っぱさと共に噛みしめる幸せに比べれば信じられないくらいに虚ろなものだ。無機質な地下室で決められた時間に与えられるだけの食事、時折やってくる姉とのちょっとしたままごとやトランプ遊び、そして弾幕ごっこ。それらが僅かな楽しみであり、そしてそれ以外の圧倒的に長かった時間、何をしていたのか彼女には思い出せるようなことなどなかったし、思い出したくもなかった。
地下室を出て、あの人間達と出会うまでは、それがあまりにつまらない日々であったことも分からなかった。そう、人間というものがあまりにも愉快な奴らだと、そしてそんな連中が生きる世界が、とんでもなく面白いところだと知って――
「あー、まりさだー」
「――え?」
ふと去来した叙情的な懐古の念に浸りかけたところで、れみりゃの発した言葉で現実に引き戻される。ああ、そいつは今私を物思いから意識を向け直させたように、私を虚ろから連れ出した――
「ふあーあ……眠いぜ眠いぜ、眠くて死ぬぜ」
(ま、魔理沙だ!)
思わず声が裏返るほど大声を上げたくなった。れみりゃが残り半分となったチョコバナナクレープを持った手で示した先には、黒と白のコントラストが良く目立つ魔法使い霧雨魔理沙がいた。まだかなり遠くにいるが、吸血鬼の聴覚と視覚ははっきりと彼女をとらえた。
「まったく、パチュリーも心が狭いぜ。おかげでこんな時間に僻地くんだりで持ってこなきゃならんとは……あ、ふあぁぁう」
相当に眠いのか、たびたびあくびをしては眠気を誤魔化すようにぶつぶつと独り言をぼやいている。
見れば、空を飛ぶために跨っている箒には本の束がヒモでつり下げられていた。パチュリーの名前を口にしていたあたり、どうも本を返しにやってきたようだが、しかし今は昼間ではなく真夜中だ。普段こんな時間に魔理沙がやってくることはそうそうない。
(よりによってこんなときに来るなんて……お姉様じゃないけど、運命ってヤツを信じてしまいそうになるわー)
みょんな気分だった。しかし、これはまたとないハンターチャンスでもある。曲者と呼ぶにふさわしい魔理沙の意表をつくというのは存外に困難な事だ。そこで今の自分の姿を生かせば、念願の魔理沙へのいたずらが成就するのだ。今夜はとことん楽しむと決めたのだから、やるなら徹底的にやるべきだ。
ということで、フランドールのいたずら第四のターゲットはめでたく霧雨魔理沙に確定した。
(とりあえず、何でこの時間に来たのかというのを聞き出す意味も込めて、第一次接触開始よ)
と、その前に
「まりさーこっちこむが」
「失礼致します」
フランドールはれみりゃを近くの曲がり角にまで後退させた。
「むーおーえん?」
「お嬢様はここで少しお待ちください。魔理沙さんは私がお出迎えに上がりますので」
「うん、わかったー」
(あー聞き分けはよくて助かるわー)
今のれみりゃを伴った状態で魔理沙に話しかけたら、間違いなくれみりゃは変なメイドとして魔理沙に狙われてしまうだろう。それは色々と面倒であるので、ひとまず応対はフランドール一人で行うことにした。こういうところが瞬時に頭が回るあたり、彼女はやはり天稟があるのかもしれない。
何食わぬ顔で近づいていき、普通に会話して不自然にならない距離まで近づいたところでフランドールは魔理沙に恭しく頭を下げた。
「こんばんは、いらっしゃいませ魔理沙さん」
「ん? ああ、見かけない顔だな。制服もエプロンドレスじゃないなんて珍しいな。まぁ、その他大勢のメイドなんぞ覚えちゃいないんだがな」
普通に丁寧な挨拶をかけられたせいか、服装の違いはあるが魔理沙は彼女をメイドの一人と判断したようだ。
(むう、魔理沙でも私が誰だか分からないのね……ちょっと残念)
内心見破られることを期待してしまったが、流石にそれは無理だった。鏡を見ても意味がないフランドールには自分がどれほど劇的に変化しているか客観的に知ることは出来ないので、仕方がないことではあったが。
しかしわからないならわからないで問題はない。気を取り直してフランドールは気になった事を聞いてみる。。
「あはは、そうですよね。私はよく魔理沙さんのことは見ているのですが……それで、今日は一体どうしてこんな夜更けに?」
「あーいやな、話せばちと長くなるんだが……パチュリーのヤツが私が本を返さないもんだからって、この前借りていった本にあらかじめ呪いをかけたんだよ。解呪しようにもあいつかなり本気で施したらしくて、呪いの種類すら判別できなくてなぁ。おまけに、その呪いは明日というか今日の夜明けに発動するようにしといたなんて昨日の夕方に伝えてきたもんだから、家の中ほじくり返して呪いのかかっている本を見つけ出して、解呪試してみて全然だめで――てなことやってたら今まで時間がかかってしまってな。結局今ここに至るわけさ」
まったく私は返さないなんて一言もいってないのにな、酷いぜ、と魔理沙は口をとがらせて締めくくったのだった。
客観的に見れば日頃の横暴とずぼらさからくる自業自得となるわけだが、魔理沙の悪癖とゴミ屋敷をくわしく知らないフランドールはそうは思わなかった。
「それは、大変ですねぇ……」
(ちっ、パチェのやつ、いくら本が大切だからって、魔理沙に大変な目に遭わせるなんて捨て置けないわ……薬を作ってもらった恩はあるけど、後で何かしら魔理沙と一緒にいたずらしてやるわ!)
魔理沙に対して決して浅からぬ思慕と尊敬を抱くフランドールにとっては、魔理沙に迷惑をかける輩は誰であれ看過することは出来ない。そこら辺いたずらしたいという欲求と矛盾するような気もするが、そこはそれ。発想を逆転させれば、魔理沙にいたずらしていいのはこの世で私一人だというわけである。それが妹様クオリティ。
なんにせよ、よもやこんなところで彼女の恨みを買うことになるとは、Drパチェは予測することなどできなかっただろう。
「つーわけでだ、本をとっとと返したら問答無用でベッドに飛び込んで休みたいんだが。悪いけど部屋貸してくれないかな。咲夜あたりにばれないように一つ、な?」
(ま、魔理沙が家にお泊まりですって!!?)
よもやのラッキーロール。わざわざこちらに無防備な状態を晒してくれるとは。フランドールは高揚する自分の感情を抑えるのに内心必死だった。
(これは、以前パチェが言ってた据え膳食わぬはなんとやらってこと!? くっはー、女将! どんぶり飯山盛りでwelcome!)
「しょしょしょ、承知致しました! 私が全身全霊! 誠意と真心と魂を込めて支度させて頂きます! 一度潜り込んだら二度と目覚めないくらいに最高のベッドメイキングを!」
「なんかテンション高いなあんた……それと二度と目覚めないってのはやばいだろ。贅沢はいわないから普通でいいぜ、普通で」
「ご遠慮なさらずに! ささ、どうぞすぐさま図書館へ行ってロクデナシ引きこもり呪詛を払い落としてくださいませ。その間に私が準備致します。音速が遅いなんて言わせませんよ!」
「さりげなーく危険な発言してるよーな気がしないでもないが……眠いから聞き流しておくぜ。んじゃ、本返し終わったらどこにいきゃいい?」
「図書館のすぐ外にいてくだされば、準備でき次第すぐお迎えに上がります」
流石に中で待たれてパチェと顔を合わせるのは面倒そうなので、フランドールはそのような確約を魔理沙に取り付けた。
「りょーかい。ずいぶん自信があるみたいだから、私が図書館を出たらさっさと迎えにきてくれよな。そんじゃなー」
無茶な注文を残して、魔理沙はややふらつきながら図書館への廊下を低速移動していった。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送ったところで、すぐさまフランドールは行動を開始した。まずフランドールは、廊下の曲がり角に待たせたれみりゃの元に戻る。
「おーえん、まりさは?」
「魔理沙さんは図書館へ本を返しに行かれました。さて、お嬢様」
ガシッ、とおもむろにフランドールはれみりゃの両肩を掴み、そのつぶらな瞳と真っ向から対峙する。
「ふぇ、な、なに?」
「今からお嬢様に面白い余興をお見せしたいと思います」
「よきょー? おもしろい?」
「ええ、とっても面白いはず。しかしそれを実行するためには、お嬢様のお力が必要なのです。今から私が言うことをよぉーっっっくお聞きなさってくださいませ」
「う、うん、わかった」
「ありがとうございます。必ずやお嬢様をご満足させられることでしょう。それでは、これより準備を始めます。ついてきてくださいませ。お嬢様にやっていただくことは道中説明致します」
「はーい」
(これでよし……まずは下準備はおっけーね。さて、後は魔理沙が図書館での用事を済ませるまでの間に配置を整えて――うふふ、まっててね魔理沙。楽しい夜はもうけっして止まらないわよ)
くくくっと邪な含み笑いが沸き上がってくる。既に彼女の単純ではない思考回路は、魔理沙を籠絡する1から10までの手順がシミュレート済みだった。そして、れみりゃという不安要素を抱えながらも彼女は己が計画の成就をルナティックレベルの弾幕の隙間ほども疑っていない。
恐るべき天災、フランドール・スカーレット。またの名はU・N・オーエン。今宵幻想郷を席巻する大騒動は、彼女によって演出され、彼女の手によって下される。
これまでの話は、まだその前半を通り過ぎただけに過ぎなかった。
次回に続く。
おまけ
「はいそれローン!」
「ええええ! 隊長また上がりですか!?」
「クッ……あそこで鳴いたのはそーいう布石だったのね!」
「ちゅうg……もとい隊長、恐ろしい人だ……」
紅魔館門番隊詰め所。僅か四畳半の空間に、少なくとも外見はうら若き乙女達が雀卓を囲っていた。いわずもがな、隊長の紅美鈴(なぜか読めない)を初めとする門番隊の夜勤組である。
しかし、幻想郷では既に紅魔館の恐ろしさというのが十分すぎるほど浸透しているため、日勤であろうが夜勤であろうが、彼女たちの仕事というのは実に暇なものだった。わざわざ好きこのんでフリークスの巣窟に近寄る物好きは白黒やその知り合いの人形遣い程度だし、やるやつなどいないが紅魔館入場のアポイントも香霖堂経由なら大して取得困難なものではなかった。よってメイド長の目を盗んで徹マンなど日常茶飯事であり、巧い具合にサボリを誤魔化す小細工の開発に彼女たちは全精力を注ぐ日々である。天狗のブン屋達に『紅魔館警備陣、驚くべき腐敗の実態!!』などという見出しですっぱ抜かれる日もそう遠くはないだろう。
「ふっふっふ……まったく相手にならないわあなた達。とはいえ勝負は勝負、明日の昼食は全て私のものということでいいわね!」
「そ、そんな殺生な! せめて、せめてコッペパンだけは!」
「明日は念願の骨髄液スープなんですよ! お願いです、どうかお慈悲を!」
メイド長すらまともに給金をもらってない紅魔館では、当然彼女たちも幻想郷通貨などの給金はもらっていない。というか警備陣は内勤に比べて圧倒的に勤務条件が劣悪で、支給される食事は簡素なものだった(ほとんど仕事がないのである意味仕方はないが)。ささやかな食事を横取りされるという冷酷な仕打ちに五体倒置して懇願するのは当然だろう。
「ふふん、そうね……次の半荘で私をトップから引きずり落としてみせれば、賭はチャラにしましょう。5万という差と場の流れを覆すことが出来ればね!」
何故かは分からないが、彼女はイカサマなしで麻雀が強かった。先ほどの半荘でも、その他3名が裏で結託して包囲体制を築いていたのにもかかわらず、美鈴は次々とイカサマを見破り彼女たちの努力を水泡に帰した。流石本場中国で修羅場にもまれただけのことはある、らしい。
「いいましたね! 今度こそ隊長に一泡吹かせてやりますから! 明日のプッチンプリンのために、私たちは負けられない!」
「「「応!」」」
「その心意気や良し! 私の屍を越えて勝利を掴んでみなさい!!」
端から見れば三流芝居のような盛り上がりだが、明日の食事がかかっている以上本人達は侵入者を撃退するときよりもずっと真剣である。
ジャラジャラと麻雀牌の山をかき回していくたびに、狭い詰め所の気温は上昇していくようだった。張りつめるテンション、みなぎる闘志。決戦と呼ぶにふさわしい舞台が、この場に整った。
「さぁ、いざ尋常に!」
「「「勝負!」」」
親である美鈴が、開始の合図といわんばかりに力強く最初の牌を持ち上げようとしたそのときだった。
「――――――――ぁぁぁぁあああぁぁぁああああああっっっ!!!」
安普請の詰め所の天井をたやすくぶち抜いて、何かが部屋中央に置かれていた雀卓にピンポイントで着弾した。
「「「「のぉぉぉぉぉ!!?!!?」」」」
一体何が起こったのか。謎の絶叫が聞こえた瞬間、美鈴ほか門番隊は瞬時に雀卓から可能な限り遠ざかって、直撃を免れた。しかし、門番隊のなけなしの予算で購入した麻雀セットは、ものの見事に粉砕させられた。
「い、一体なにが……」
落下した所を一同おそるおそるのぞき込む。もうもうと立ちこめる煙と埃が収まってくると、その中からふらふらと落下してきた何かが起きあがってきた。
「う、くぅぅ……おのれ侵入者め! 私の部屋を灰燼に帰しただけにあきたらず、れみりゃ様のお声を声帯模写するなどというこの上なく邪悪な罠で陥れて――この罪、万死に値するわ!!」
がおーっといわんばかりの気概で、その幼女は荒々しく天を仰いだ。
――ん? 幼女?
「えーっと……」
「ん? だれかと思えば美鈴じゃない。ここは警備隊の詰め所みたいね……ってちょっと待ちなさい! 貴方今の時間は夜間の見回りのはずでしょう! 思いっきり賊の侵入許してるじゃない!」
埃が晴れて姿を現したその幼女は、銀色のお下げを振り乱して美鈴にくってかかった。しかし、美鈴は呆然と呻くことしかできない。
「ちょ、なによこの麻雀牌は! さてはもしやあなた達、私の目の届かないところで賭け麻雀なんてやってたりしてるんじゃないでしょうね!」
「いや、その、咲夜、さん?」
美鈴は、あまりに突拍子のない現実に直面していた。そして、それを信じざるを得なくなった。
「ええい、何をぼんやりとしているの! 賊を片づけたら操りドール3セットは堅いから覚悟しておきなさい! ともかく、今は侵入者の排除を優先するわ!」
銀色の髪の幼女のボルテージがヒートアップしていくのと対照的に、美鈴以下門番隊の表情はマヌケもいいところだった。まぁそれだけ直面した現実がおかしなものであったせいもあるが。
「ええと確認しますよ、咲夜さん……ですよね」
「だからなんだっていうのよ、そんなの当たり前でしょう。私が十六夜咲夜以外のなんだって――っえ」
おかしな反応を返す美鈴を不審に思い、そこでようやく彼女――十六夜咲夜は自分の体を顧みることに思い当たった。
「……」
「「「「……」」」」
「……え」
「「「「……」」」」
「……ええええええっ!? ど、どどどどどどうなっているわけぇ!?」
世界が裏返ったかのような衝撃だった。咲夜はまぎれもない子供の姿になっていたのだから。
彼女の体格は、丁度普段のスカーレット姉妹と同等の背丈と肉付きになっていた。故にその身長の違いは劇的の一言だった。元々かなり背が高いほうであった彼女は、その抜群のスタイルがメイド長としての一種の存在感と威圧感を演出していたとも言える。しかし、体が急激に縮んだ今、威圧感も何もあったものではない。
だが、それ以上に、というかそんなの目じゃないくらい問題なのが、身につけているものだ。
大体の読者はもはやお気づきであろうが、彼女が侵入者(大人化したフランドールだが)と交戦した際不意をつかれて受けた掌底には密かに赤いキャンディが仕込まれており、命中と同時に咲夜の口の中に放り込まれていたのだった。吹っ飛ばされて詰め所に落下するまでの間に彼女の体は瞬く間に縮み、サイズの合わなくなったメイド服は空中分解の如く四方八方にすっ飛んでいった。
つまり
そう
答えは
一つ
「い、いや!いや! 美鈴! シーツでも毛布でもなんでもいいから布頂戴! 私はおにゃのこを愛でるのは大好きだけどナルシズムの気はないわ! そんなの幻想郷ではスッパテンコーだけで十分間に合ってます!」
「「「「……」」」」
「な、なによ! なにボサッとしてるのよ! さっさと言うとおりにしないと、後でエターナルミーク4セット追加よ! いいのね!?」
「「「「……」」」」
「ちょっと! 聞いてるの!? 早くしなさいったらしなさい!」
「「「「……」」」」
顔を真っ赤にして泣きわめく咲夜を尻目に、門番隊は彼女に背を向けて、ボソボソとなにやら身をかがめながら話し始めた。
「あんた達! いい加減にしないと……!」
「「「隊長」」」
「応」
「……??」
門番隊の呼び声に、美鈴は応えた。その後、すぐ4人は立ち上がる。そして
「これは」
一人が、どことなく幽鬼のように振り返る。
「うん」
一人が、さび付いたブリキ人形のようにゆっくりギギギと振り返る。
「まぎれもなく」
一人が、矢印を逆さまにしたかのように一瞬で振り返る。
そして、最後に美鈴が、振り返ると同時に言葉を紡ぐ。それが、ボーダーを振り切る合図だった。
「どう見ても幼女です」
「「「「本当にありがとうございました」」」」
4人の声が唱和する。あまりにも完璧に、一分の狂いもなく重なり合った、一切の感情を含まないカルテット。
その響きが持つおぞましさを、咲夜が分からないわけがなかった。
当たり前か、それは今の自分に向けられたものであるのだから。
「あ――ああ」
先ほどまで朱に染まっていた頬は、一瞬で氷精の湖のように青ざめた。
「隊長」
「やろうか」
「やろう」
「やろう」
そういうことになった。
「い、いやいやいやいやいやいや美鈴! 正気になりなさい! あなた達が感じている感情は精神的疾患の一種よ! 治し方は私は知らないし私に任せられても困るけど、ともかく落ち着きなさい!」
「「「メイド長」」」
「咲夜さん」
「わ、わかったわ! これからはすぐナイフ投げるの止める! 門番隊の配給もまともにする! 麻雀でさぼってたのも見なかったことにするから! だから! お願いだから!」
悲鳴はヒステリックを通り越して、悲惨としかいいようがなかった。目からボロボロと大粒の涙をこぼして懇願する彼女は、もうメイド長十六夜咲夜ではない。ただの無力で乳臭い子供だった。なにより致命的に哀れだったのが、彼女が泣きわめくほどに、彼女たちは止まらなくなるということだ。
もはや、この世界に彼女の逃げられる場所はない。さよなら、僕のプライベートスクウェア。僕って誰だ
「「「「いっただっきまぁぁぁぁぁ~~~~~~~~すッ!!!!」」」」
「いやぁぁぁぁ~~~~~~~!???1?」
神などいない。
本当にありがとうございました
オマケがいい味出してました
本当にありがとうございました
今の笑顔は、それよりずっと長い暗闇の中の涙の上にあるんだろうなぁ……
閑話休題咲夜さん小さくなっちゃったよ……(つД`)
おまけのさくやん最高です。
( ゚∀゚)彡 ふらん! れみりゃ! さくやん!
⊂彡
どう見ても幻想の郷です。
本当にありがとうございました
しかし、門番隊いいなぁ。こんなところに就職したいよほんと。
いや、飯なしは勘弁だが。
本当にありがとうございました。
本当にありがとうございました