「いぃぃぃぃやっほぉ~~~~~う!」
ヴワル魔法図書館を魔理沙が駆ける。
「霧雨魔理沙様のお通りだ~~~~~!!」
魔術書、毛玉何のその。今日も魔理沙は絶好調。
「さってさて、今日は『侵略者の書』『西欧における魔女信仰』『トゥルバ・フロイゾフアルム』辺りの本を借りていくか。確かX列だったよな」
すでに図書館の陳列場所も覚えてしまっている。
X列は確か図書館の奥の方。
奥にいけばいくほど、帰りの妨害が厳しくなる。
特にメイド長が出張ってくると厄介だ。
時間を止められ、魔法書を文々。新聞にすりかえられた事も一度や二度ではない。
霊夢やアリスが思っているほど、成功率は高くないのである。
「だからこそ燃えるんだけどなっ!」
本棚の影から出てきた毛玉を撃ち落す。
「そういやぁ、今日はあいつがまだ出てこないな」
いつもいつも、あの手この手で襲い掛かってくる赤髪の悪魔の事を思い出す。
どんな手で来ようとも返り討ちにする自信があるだけに、魔理沙はそれを少し楽しみにしているのだった。
「今日は門番でも見習って背水の陣のつも……おおっとぅ!」
突如、上空から飛来するクナイ弾をローリングして避わす。
見上げればそこには。
「よう小悪魔。今日は力押しか?」
答える暇もあらばこそ、無言で撃ちだされるクナイ弾を床スレスレを疾走して避ける。
「挑発に乗らないのはいいが、無視するのは嫌われるぜ?」
低空からの加速上昇で本棚に平行に駆け、レーザーを照準。
が、天井方向から襲来する大弾に緊急回避を余儀なくさせられる。
間合いをとれば、そこには二人の小悪魔。
「今日は分身殺法……いや、フォーオブアカインドか」
魔理沙を中心とした四方に小悪魔が4人。
「おいおい、後でフランに怒られても、――知らないぜっ!!」
そのセリフを合図に、無表情で動き出す小悪魔4人。
二人が空間制圧力の高い大弾で魔理沙の進行を妨害誘導し、二人がクナイ弾で落としにかかる。
魔理沙は急制動急加速を駆使して、小悪魔の裏をかきつつ回避。
慣性を無視した機動と、本棚を盾に小悪魔の死角へを回り続ける。
信じがたいことに、魔理沙劣勢。
理由は明白。いくら広いといってもここは図書館内。更に加えて天井付近まで聳え立つ本棚。
スピードで翻弄する魔理沙の持ち味は殺されてしまう場所なのだ。
都合4度目の慣性無視の機動で内臓が潰れるような感覚。
それもそのはず、魔法で慣性を殺しているとはいえ完全ではない。
何度もやれば、体に負担がかかるのは当然といえよう。
「さすがにそろそろヤバイか。やっぱ舐めてかかると痛い目みるのはお約束だな」
そろそろ決着をつけないと、パチュリーが加勢に来てしまう。
慣性無視の機動もあと1回が限度といったところだろう。
「じゃ、そろそろ行くぜー!」
今までの動きとはうってかわって、一つの本棚を螺旋状に上昇していく魔理沙。
後ろからの大弾をグレイズして回避。あの歴史喰いの半獣のスペカの方よりは避けやすい。
本棚の上に陣取っている小悪魔2体からのクナイ弾。
――スペルカード発動。
クナイ弾がミルキーウェイの無数の星型弾幕と相殺される。
そして、魔理沙は本棚上の小悪魔の横をすり抜け急上昇。
それを追い、上昇する小悪魔達。
「――引っ掛かったな」
天井付近で最後の慣性無視の超機動で180度反転。
その手に握られるのは鈍色の輝き、八卦炉。
吐き出されるのは光の螺旋。
――恋符「マスタースパーク」
ほぼ射線上にいた小悪魔達は膨大な光の奔流に飲み込まれる。
光線はそのまま図書館の床に激突、轟音、爆発。
「今日はいいとこまで行ったんだがな、まだまだ甘いぜ?」
息を整えつつ、強がる。
さすがに本気で撃つわけにもいかないので、手加減はしてある。
煙が晴れるとそこには黒コゲの小悪魔がいるはずだった。
煙が晴れる。
「……お?」
そこには、小悪魔の姿など無く。
あるのはただ黒く焦げた4冊の魔法書。
つまりそれは、さっきまでの小悪魔はすべて魔法書の造りだした影武者という意味。
それじゃ本物はいったいどこに?
突如感じる魔力の気配。
位置は――直下!?
急上昇してくる小悪魔に、咄嗟に振り向く魔理沙。
「魔理沙さん、今日こそ取りましたよ!!」
***
すべて作戦通りだった。自らの分身を作り出す魔法書を用いて魔理沙を消耗。
マスタースパークを撃った直後を狙う。
積年の恨み骨髄まで。これでパチュリー様に褒めて貰える。奪われた本も戻ってくる。咲夜さんのおやつのレートも急上昇。
トドメのクナイ弾を放とうとしたその瞬間。
こちらを振り向く魔理沙の手には八卦炉。
もう遅い、今から魔力をチャージしてもこちらの方が早い。
「惜しいな小悪魔」
不敵に笑う魔理沙。
何故、何故そこまで余裕がある。
何か自分は思い違いをしていないか?
どこか見過ごしていないか。
背筋を悪寒が走る。
「八卦炉のマスタースパーク用の魔力チャージ量はな、――――二発分だぜ!!」
視界を光が覆う。
即座に防御結界を発動。
クナイ弾に使うはずの魔力をすべて防御結界に回す。
結界が音を立てて軋む。
魔力が全然足りていない。
破られないよう更に魔力をつぎ込む。
これを凌げば勝てる。そう思い空中に浮く為の魔力すらつぎ込んで必死に耐える。
すべての魔力を注いだ防御結界に不気味な音と共に亀裂が走る。
そして、小悪魔の視界は光に包まれた。
***
「……今日のおまえにゃ、合格点を上げてもいいかもな」
八卦炉を構えたまま、肩で息をする魔理沙。
口では余裕はああ言ったものの、実際は余裕はほとんどなかった。
小悪魔が魔力のチャージ量を計算していれば、負けていたのはこちらだろう。
「おーい、大丈夫か小悪魔」
最後のマスタースパ-クは咄嗟に放った為、あまり加減はできなかった。
死んではいないだろうが、さすがに怪我でもされていると寝覚めが悪い。
いまだ収まらぬ煙を掻き分け小悪魔を呼ぶ。
煙の奥に人影。
「おー、大丈夫だった……か?」
魔理沙に衝撃走る。
ぶかぶかのロングスカートに、ダブダブのワイシャツを着て、上着がずり落ちないように胸元必死で押さえている少女がいる。
しかも、涙目だ。
赤髪で頭から羽が生えているその少女は――。
「ま、まさか、小悪魔……なの……か?」
「う……うっ……びぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~ん!! 魔理沙しゃんのバカぁぁぁーーーーー!!」
「うわ、こら泣くな小悪魔!」
あまりの大声に耳を塞ぐ。
「ま、待て。落ち着くんだ小悪魔」
宥めても逆効果。さらに泣き声が大きくなる。
どうすればいいのか、オタオタしていると泣き声を聞きつけたのかメイド達がやってきた。
「あー! 魔理沙さんが子供泣かしてる~~~!!」
「うわー魔理沙さんひどーいきちくー」
「さすがの魔理沙さんも泣く子には勝てないんですねぇ」
遠巻きに魔理沙を眺めて、好き勝手言う。
「ううう、ちくしょ~」
どう考えても状況的に、魔理沙が悪者である。
いまだ泣き続ける小悪魔。
泣きたいのはこっちだった。
「まったく、図書館で騒がないでもらえる?」
そんな魔理沙に救いの手。
「パチュリー!!」
「パチュリーしゃま!」
小悪魔が魔理沙を突き飛ばして、パチュリーに抱きつく。
「はいはい、大丈夫よ。あなたはよくやったわ小悪魔」
「うぅ~ひっく……ひっく」
優しく頭を撫でてやるパチュリー。
「いったいぜんたい何がどうなってるんだーー!!」
子供となった小悪魔、普段とはまったく違う表情をみせるパチュリー、魔理沙の思考回路はショートした。
片付けもひと段落した頃。
小悪魔をあやした後、自分の研究室に篭っていたパチュリーが出て来た。
「お、お疲れさん。ちゃんとパチュリーの分も取ってあるぜ」
先ほど咲夜が持ってきた紅茶とケーキを差し出す。
「ありがとう魔理沙。で、小悪魔は?」
「小悪魔なら、ほれ」
魔理沙が指差す方向。子供用の小さな机でメイド達にちやほやされながら、おいしそうにケーキを食べている小悪魔の姿があった。
ちなみに咲夜は小悪魔を見た瞬間、目の色が変わったので追い出した。
魔理沙曰く、あれはれみりゃを見る時と同じ目だったぜ――。
「追い出して正解ね。他のメイド達がいなかったら多分血を見る羽目になってたわ」
ケーキを食べながら、パチュリーがため息をつく。
「今後は気をつけないとね。咲夜用のネコイラズ、いやイヌイラズも必要かしら」
「おーい、不穏な事をケーキ食べながら呟くな」
呆れ声の魔理沙。
「それにしても、今日は不覚を取ったわね」
誤魔化すように話題を変えられる。
「まぁな、まさか4人――いや本人いれて5人か。さすがにあれは驚いたぜ」
魔理沙も不毛な会話に付き合う気はないとばかりに話に乗る。
「本棚が前よりも高くなってるのも、あの子の案よ。それも有効だったみたいね」
「まったくだ、動きづらいったらありゃしないぜ。こりゃ今後は油断できないな」
「そうね、おかげであの子もどんどん強くなってくれてありがたいわ」
「やれやれ、私は師匠にして最大の敵ってわけか」
肩をすくめる魔理沙。
「ぱちゅりーしゃまー、すいませんねむいですー……」
ケーキを食べ終わってお腹が膨れたのか、眠そうな顔で小悪魔がこっちにやってくる。
「あらあら、じゃこっちで寝なさい」
ソファーに座り、自分の膝を叩くパチュリー。
「ありがとうございます、ぱちゅりーしゃま……」
膝に頭を乗せると、直ぐに小悪魔は寝入ってしまった。
「やれやれ、ほんとに子供だな。で、なんで小悪魔はこうなったんだ?」
「そうね。無関係じゃないのだし、最初から教えてあげるわ」
「一言でいうと、これがこの子の本来の姿なのよ」
パチュリーは、自分の膝枕で眠っている小悪魔の髪を梳く。
「この子は私が召喚魔法を覚えた頃に初めて契約した子でね」
いざ召喚してみれば、まだ年端もいかぬ幼い悪魔に当時のパチュリーは落胆した。
送還しようと思ったのだが、如何せん召喚陣に不備があり、それもままならぬ状態。
仕方なく、涙目で訴えてくるその悪魔とパチュリーは契約したのだった。
「最初のうちはそりゃ酷かったわ。すぐ転ぶしすぐ泣くし」
それでも、契約を破棄しなかったのは情が移っていたせいだろうか。
「その内、この子が魔力を与えることで成長を促進できるとわかってね」
「それでパチュリーは自分の魔力を与えて成長させたってわけか」
「そうよ。でも、成長するといっても魔力を与えての成長は所詮かりそめ。注いだ分の魔力が切れれば元に戻るわ」
今回元の姿に戻ったのは、自分の分身を4体作ったこと、マスタースパークの防御にありったけの魔力を注いだのが原因だろう。
「また魔力を提供してあげないとダメね」
「成長させないとダメなのか? そのままでも可愛いじゃないか」
「嫌よ、図書館の仕事が滞るじゃない。他にも私の身の回りの事は一切任せてあるんだから」
「そうか、水差して悪かったな」
本気で睨みつけられ、さすがの魔理沙も一歩引く。
「そう思うなら本の一冊でも返して頂戴。そうすれば、この子も少しは楽になるわ」
「……考えとく」
罰が悪そうに返事をする。
「そう、この子はまだ子供。まだまだ子悪魔。でも本人もそれを気にしている。だから小悪魔なのよ」
「将来が楽しみだな」
「そうね、きっとこの子は将来魔神級になるわ、もしくはそれ以上。私はその時が楽しみで仕方ないの」
あどけない今の寝顔からは、想像もできないほど強くなる。
何百年何千年かわからないけど、その時までずっと私が主人でいてあげよう。
そして、その時が来たら……。いや、そんな先の事まで考えるのはよそう。
「さ、今日はこれで図書館は閉めるわ。この子に魔力注ぐ儀式しないと」
「お、それは見学していっていいか?」
「ダメ」
「ちぇ」
舌打ち一つで、箒に跨る。
「じゃ今日はこれで帰るぜ。小悪魔に免じて、今日は本を持っていくのは無しだ」
そういって流星の如く帰っていく。
「今日はよく頑張ったわね。明日になれば元に戻ってるから、今はゆっくりお休みなさい」
今日が特別。明日は普通。
できれば、いつまでも普通が続けばいい。
そう想いながら小悪魔を抱いたパチュリーは自室へ戻った。
子悪魔良いよ…
小悪魔の設定は人によって違うから楽しいです。
子悪魔かわいいよー。
子悪魔さんが素敵です。
またひとり、幻想郷にろりぃのが増えたなw
メイド長が暴走しないといいのですが。
いや、むしろ期待。
でも確かに小悪魔の存在にはパチェの術が絡んでいるだろうし、これはこれで♪
序盤の格好良い小悪魔と、終盤の可愛い子悪魔の対比が素敵でした。
いやもー何も言うこともあるまい。
かぅわぃいよ! つーかぶかぶか服はやりすぎー!!w
小悪魔ほど一生懸命が似合う娘もいるまい
だれか絵をかけはやkくぁwせdrftgyふじこlp;@
別でかっこいい小悪魔を見たかと思えば、今度はかわいい小悪魔が…
ダブルコンボは効くぜ…ガク(血の海
おお、ジャスティス&ロマンティック!!
子悪魔かぁいいよ
小悪魔かわいいよ小悪魔。
魔力の配給方法が気になるんだぜ!
メイド長歓喜w
子悪魔でもだえ死ぬ……!