Coolier - 新生・東方創想話

Gothic Holic Charivaric

2005/12/01 00:45:35
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「咲夜、今日の紅茶はうんと濃い目に淹れてちょうだい」
「はい、かしこまりました」


アールグレイ特有の柑橘と茶葉の香りが空間を埋め尽くし、
カップ一杯の濃い紅が図書館の黴臭さを忘れさせてくれる。
紅茶を淹れる事において、この咲夜に敵う者などここ紅魔館にはいないだろう。

「濃く淹れた紅茶はね、珈琲を上回る程の覚醒効果を持つの。夜更かしをする時には最適よ」
「そうなんですか?珈琲の方が苦味があるから目が覚める感じなんですが」
「それは先入観というものね。刺激が強くて一瞬だけ目が覚める、というのはあるんでしょうけど」
「へぇ・・・パチュリー様のお話は勉強になりますわ」

私の所へ給仕だけをしに来たはずの咲夜は、すぐには帰らず自分の分の紅茶を淹れてすすり始めた。
夜の帳も下りてきて、そろそろレミィが目を覚ます時間。本仕事の前の一休み・・・といったところか。
・・・・・だが私は私で一人になりたいというのに。


「今日はお客様が来るの・・・咲夜、悪いけど外してくれる?」
「・・・・お客様、ですか」
「ええ、そろそろ来るはずなの」

あえて単刀直入に言ってみた。もう少し遠回しに言ってやってもいいが、どうせ咲夜の事だから
全部先読みした上でのらりくらり立ち回る事は間違いない。咲夜に対してはストレートに言ってやるに限る。

「いつものすばしっこいお客様でしたら、丁重におもてなしをして差し上げなければいけませんわね」
「いいのよ、私の方からお招きしたんですもの・・・あなたはレミィを見ていて頂戴」
「そうですか・・・・・・」
「他のメイドにも言っておきなさい。『手出しは一切無用』とね」

まあ、一般メイド程度では束になったところで『彼女』の脛に齧り付くのが関の山といった所だろう。
彼女はその程度の強さを持っている人種―――古今の魔術を求め続ける私より強いのだから。
確かにいつもならそれなりのおもてなし(=弾幕迎撃態勢)をする所だが、今日は大事なお客様。
追い返すような素振りなど見せられるはずもない。

「・・・・・・さあ。そろそろレミィの所に行ってやったら?」
「ああ、もうこんな時間・・・それでは失礼します、パチュリー様」

懐中時計に一瞥をくれて目を丸くする咲夜。私は半分冗談、半分追い出すつもりで軽く言っただけだったが、
どうやら本当にレミィの起床時間――つまり咲夜の仕事時間が迫っていたらしい。
ともあれ、一礼をして茶器だけ残し図書館を後にする咲夜。そしていよいよ私の時間が始まりを迎える・・・・・・

彼女が見たら驚くようなかわいい服・・・はすぐには探して来れないから、せめて服の埃を払って髪を梳いて。
香水でローズマリーをうっすら漂わせておけば、いつ彼女が来ても恥ずかしくない。
できる範囲で邪魔な本は整理しておいたから足の踏み場も十分あるし、彼女が何かするにしても困るような事はないはず。
あとは、彼女がこの静かな雰囲気を壊さず来てくれるのを祈るのみ・・・・・・


(・・・早く来てよね・・・・・・・・)

もはや濃い紅どころではない。黒みがかった紅茶を一口舌に運ぶ・・・・・・・・・・・・
苦い。夜更かしの為、そして良薬口に苦しとは言うけれど・・・でも苦い物はやはり慣れない。
砂糖をスプーン一杯入れてみたところでその苦味がおいそれと消えてくれるはずもなく・・・・・・

苦い紅茶をすすりつつ、ただ彼女が来るのが待ち遠しかった。










「のふぇぃやぁばおゅらぁぁのぅぉのぉぉぉっぱたぁあぁぃ!!!」
(・・・来た!)



これは一つのお約束と称するべきなのだろう。
門番の意味不明かつ間抜けな悲鳴がこんな所まで聞こえてきた。そう、それはつまり彼女のご到着。
他に破壊音がしないという事は、私のお目当ての彼女――魔理沙は彗星になって突っ込んできたに違いない。
そして見切るのがやっとという高速で夜を裂き、絶妙なコントロールであらゆる障害を潜り抜けてここまで来るのだ。
哀れ路傍の石のごとく轢かれた門番には何とか生きていてもらうとして、魔理沙の来訪に私の心はキュッと引き締まる。
箒に跨った魔理沙の速度と予想されるルート、距離を踏まえ、彼女がここまで来るのに要する時間を概算してみると・・・・・・

「・・・あと25秒。242322・・・・・・・・・・」

カウントが1つ減るごとに胸の鼓動が速く、激しくなってくるのがよく分かる。
道草を食ってさえいなければもうすぐ魔理沙が扉の前に立って・・・・・・

「1413じゅうn」



「おーす!!」



「!!!!???」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後ろから思い切り背中を押されたような、頭を殴られたような・・・そんな衝撃だった。
肺の中の空気が一気に出尽くし、魂すら半分抜け出したような感じでもう悲鳴すら上げられない。
扉の前で今か今かと魔理沙を待ち構えていたのに、聞き覚えのある声がしたのは私の真後ろ、窓からだったのだから。
しかも、カウントがゼロになるよりずっと早く。
だが窓はちゃんと閉めていたはずなのに、どうやって音もなく窓から入り込んだのか・・・

・・・要するに魔理沙は泥棒猫、という事ね・・・・・・

私がどうにか声を発せられる程度に息を吸い込み、意識がこちら側に戻ってきたのはそれから何秒もしてからの事だった。


「・・・泥棒を呼んだ覚えはないわ」
「いやまあ、開けやすそうな窓だったんでつい・・・開錠の術の実験にもなったし、いいんじゃないか?」
「よくないわよ。今日は誰も邪魔しなかったでしょう?」
「・・・・あー、そこが私的に問題だったんだよなぁ」

お邪魔しますの一言もなしに図書室へ上がりこむ魔理沙。
いつもならこんな事をされれば流石に弾幕の一つでも張って追い返してやる所だが、今日は私の大事な大事なお客様。
箒からぶら下げた大きなトランクが重たそうに見える。だが、不法侵入の貸しが今できたので手伝うのはやめておく。
だが魔理沙はトランクの重さなど意にも介してないようにも見える。
元々見た目ほど重くないのか、それとも何らかの術で重量を軽減しているのかは分からないが、
とにかく箒からトランクを下ろし、今度はそれに跨って魔理沙は話を続けた。

「門の所で何かぶっ飛ばしてからだ、メイドが一人も出てこなかったんだぜ」
「そうよ。あなたの邪魔をしないように控えさせたんだもの」
「そっか・・・それがかえって不気味でしょうがなくてさ。私の恋色の脳細胞が、罠があるに違いないと囁いたってワケさ」

また。断りもなしに、空きのカップに紅茶を淹れて一口。
咲夜が使っていたカップだったから良かったようなものの、もし私が口を付けたカップだったら・・・・・・

えぇと・・・・・・・・・・

とりあえず魔理沙はマナーがなってない。
ここで本を読んでいくなら、女の子の嗜みに関する本も読んでいけばいいのに・・・
そういう本も当然網羅しているのだから。

「どうしてお招きしたお客様を罠にかけなきゃならないのよ」
「ん~・・・お前なら気まぐれでやりかねないと思った」
「・・・・・・ところで。今日は何を見せてくれるのかしら?」


そう、これこそが今日の本題。私が魔理沙を招いた理由。
いつだったか『今度、面白い物を見せてやるぜ』と魔理沙が言い出したのが発端だった。
魔理沙はいつもここ、ヴワルで色々な本を読み漁ったり持ち帰ったりしているが、
そのお返しのつもりなのか自分の蒐集品や新しい術を見せてくれる事もある。
今日はこのトランクが・・・いや、まだ見ぬトランクの中身が何か関係あるはず・・・・・・?

「ああ、その事なんだがな」

トランクの鍵を開け、ほんの少しだけ隙間が空く。
残念な事に中を窺い知る事はできなかったが、空きかけのそれを放ったらかしにして魔理沙が詰め寄ってきた。

「・・・・・・パチュリー、とりあえず脱いでくれ」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





え?

『脱いでくれ』と聞こえたけど・・・・・・私の聞き間違い?


「脱いで欲しいんだよ、パチュリー・・・・何も全裸とは言わない、上だけ脱いでくれればいいから」
「・・・ちょ、ちょっ・・・・・・何をいきなり・・・・・!?」
「服を着たままじゃ駄目って事もある・・・・・分かるだろ?」
「わっ・・・分からないわよッ・・・・・・・!」
「嫌でも分かるさ、コイツを見れば・・・・・・ほれ」

そう言って黒塗りのトランクを大きく開ける。


「・・・・これ・・・・・・・?」
「な?脱がなきゃ駄目だろ?」
「・・・うん・・・・・・・ちょっと早とちりしてたわ」

中から出てきたのは見慣れない物で、同時に私を納得させるには十分だった。
明らかに説明不足ではあったけど、魔理沙の発言は正当な物だったというわけだ。
なるほど、確かに『これ』を使うのなら今来ている服は邪魔でしかない。
流石に勝負下着の着用までは考えていなかったが、仕方ない。
ほんのちょっぴりの不安を抱きつつ、私は服のボタンに指をかけ・・・・・・・・・・・・























「何やってるの、咲夜」
「いえ、いつもの白黒が図書館にいるようなのですが・・・」
「それで盗み聞き?いい趣味でいらっしゃる事」
「いやそういうわけじゃ・・・ドアに結界が張ってあって入れないんですよ」
「・・・でもまあ、魔理沙が来るのなんていつもの事じゃない。放っておけばいいわ」
「それが、パチュリー様が『自分が呼んだ』と仰っているのです・・・本当なのでしょうか?」
「仮にそういう嘘をついてたとして・・・それがあの子にとって何のメリットとなる?」
「・・・・・・・・・」
「それに、私と咲夜がいるんだから魔理沙が暴れるとも思えない。パチェなら心配いらないわよ」




『おぉ~。やっぱり出不精なだけあってお肌真っ白だな、パチュリーは』
『誰が白豚なのよ』
『そこまで言ってないぜ。キレイだし、スベスベのぷにぷにで・・・・・・』
『やっ・・・・どこ触ってるのよ・・・やめて・・・・・・・』
『別にいいだろ?減るもんじゃないし、女同士だし』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もぅ』


「おぉッ!?」
「うふふ・・・誰も見てないと思って大胆なのね」
「私達にも見えてないんですが・・・でもまさか、こんな事する為に?」
「そんな事どうだっていいじゃない、咲夜。小姑になるにはまだ早いわ」




『へぇ、パチュリーはMなんだな。てっきりSかと思ってたぜ』
『人を見かけで判断しちゃ困るわね・・・まあ、Sには限りなく近いでしょうけど』
『むしろ好都合さ。私だってこれでもMなんだ、これから色々楽しめそうだな』


「・・・・・何やってるんですかねぇ、二人とも?」
「大した事ないわ。SかMかっていうお話でしょう?」
「・・・魔理沙じゃないですけど、パチュリー様がMというのは信じがたいのですが・・・・・・」
「・・・・ねぇ。咲夜の目には、私はどう見える?」
「・・・・・・どうせ『誰に言われるまでもなく、私はSよ』とでも仰るんでしょう?」
「正解。まあ、咲夜は勘違いしてるのかも知れないんだけどね」
「・・・・・・・・・・・・・・はぁ」




『へへ・・・・・よく似合ってるぜ、パチュリー』
『あ、ありがとう・・・・でも何だかスースーするわ』
『お前はいつもヌクヌクしすぎなんだよ。たまにはこれくらい涼しくていい』


「着せ替え・・・?」
「よね。パチェが生きたお人形さんになって」
「お嬢様、その発言は主に七色の誤解を招きますわ」




『さーて仕上げだ。コイツで縛って・・・・・・どうだパチュリー、苦しくないか?』
『ん・・・・・・もう少しキツくしても大丈夫・・・』
『はいよ・・・っとぉ、こんなもんか?』
『・・・魔理沙、上手なのね』
『霊夢から教わったんだ。あいつは私より全然巧いぜ』


「・・・霊夢は何でもできるのね」
「『何でも』の中身が途轍もなく気になるのですが」
「だから、きっと何でもできるのよ。縛ったりとか・・・」
「・・・・実はお嬢様もMなんじゃありません?」
「 お 黙 り な さ い 。 正真正銘Mのくせに」
「・・・・・・・・・はぃ」




『ときに、外のメイド長とちっこいの』


「「・・・・・・・・・はっ、はいィ!?」」


『えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?』























「盗み聞きとは結構な趣味だな、お前ら」
「あら、言いがかりも甚だしいわね。通りかかったらあなた達の声が聞こえてきただけなのに」
「ほぉ~ぅ・・・ここのお嬢様とメイド長様は相当の牛歩なんだな。ドアの前を通るだけで何分もかかるってか?」
「・・・たまには牛歩でも独歩でもしたくなる時もあるのよ」
「まあいいさ、別に私たちは如何わしい事してたんじゃないしな」


魔理沙の一声でレミィと咲夜が図書館に引っ張り込まれてきた。

・・・ていうか、二人そろって盗み聞きしてたのね・・・・・・

私ときたらお着替えを魔理沙に見られてそれだけで頭の中が一杯で、周りの事に全く気がつかなかったのに・・・
魔理沙には応じているものの、二人とも明らかに私の方ばかりを見ている。
プチお説教をたれている魔理沙など全く眼中にないらしい。
確かに今の私のこの格好、二人の気を引く事請け合いなのだけど・・・

「・・・・こういう事さ、似合ってるかい?」

魔理沙に背中を押されて一歩前へ。
頻繁に向いていた咲夜とレミィの視線が全て私に注がれ、嬉しいような恥ずかしいような。
だが仕方のない事、今私が着せられている服は私の知識の中にも存在しなかったのだから。
外の世界からやって来た咲夜はどうか知らないが、レミィはもしかしたら500年生きてきた中で初めてお目にかかったのかも知れない。変わり果てた私の姿を見て茫然自失となるのも無理からぬ事だ。

・・・この、寝間着というかローブというか、薄手であまりにも無防備な『浴衣』とかいうシロモノ・・・・・


「どうだ?パチュリーの髪や肌の色に合わせて薄紫ベースの奴を探してきたんだが・・・」
「・・・・・・いや、似合うか似合わないかという以前に」
「パチェがいつもの服以外のを着てるというのが私たちも珍しくて」
「・・・・ズボラさじゃ私といい勝負ってか、パチュリー」
「あなたに言われたくないわ」

咲夜もレミィも余計な事を・・・
私の服もきっと魔理沙の日常も、合理性を考えて現状に落ち着いているだけだというのに。

「まあ、似合ってない事はないけど・・・・・魔理沙にはこんな可愛らしい趣味があったのかしら?」
「まさか。ただの着せ替えだけだったら堂々と昼間に来てやってるぜ」

そう、そこは私も気になっていた所。
魔理沙の事だからまだ何か隠しているとは思ってはいたけれど・・・この浴衣がレアな蒐集品か何かとは思えないし、
仮にそうだとしてもそんな稀少品を易々と使わせてくれるとも思えない。

「まあそんなわけで」
「どんなわけよ」
「・・・・・・今夜一晩、パチュリーを借りたい」


グッ


私の手に温かい感触。
魔理沙の言葉の意味を理解しようとするよりずっと早く、魔理沙が私の手を握っていた。










「・・・え!?ぁ、ぁ、ちょっ・・・えぇっ!?わ、私をっ・・・・・・・?」

魔理沙の手。いつも人一倍努力している為か、大きくない手は思った以上に硬く、ゴツゴツしているような感じだった。
これじゃまるで男の人の手・・・図書館に引きこもってばかりの私なんかとは全然違う。
・・・でもそんな事を考えている場合じゃない。魔理沙が私を借りていく、って一体・・・?

「面白い物を見せてやるって約束したんでね。まぁ悪いようにはしないぜ」
「ちょっと、魔理沙・・・・・外に出るなんて聞いてないわっ・・・・・・!」
「言ってなかったからな。それに、いきなりネタをバラしたら面白くないだろう?」
「そ、そんな・・・・・!」

ただ外に出るというだけなら問題ない。
私だってたまには外の空気を吸いたいし、魔理沙が見せたい物というのにも興味はある。

しかし今のこの格好はどうだろう。
生地は薄いし、胸元がほんの少し開いているし、帽子も脱がされ、恥ずかしい事この上ない。
魔理沙と二人きりの時でも、私の胸の鼓動は一向に収まろうとはしなかった。
そして咲夜とレミィに見られているだけでも全身が熱くなってくるのに、こんな格好で外に出たりなんかしたら・・・・・・

今も、私の顔は真っ赤になっているのだと思う。
色白の私の事だからその赤さはさらに際立って、きっと茹っているように見えるに違いない。


「まあ、いいんじゃない?」

「!?・・・レミィ!?」


黙っていても紅の悪魔であるレミィだが、この時ばかりはレミィが本当に悪魔に思えた。
私が真っ赤になっているであろう事は分かっているはずなのに、彼女と来たらそれを見た上で魔理沙に肩を貸すのだから。

「見聞を広める為の外出、結構な事じゃない。パチェ」
「レ、レミィ・・・私こんな格好っ・・・・・・・!」
「あなたは服で本を読むわけじゃないんでしょう?なら、何一つ問題はないわ」
「で・・・・・でもっ・・・」
「ハハッ、流石にお嬢様は話が分かるな」

・・・・・・彼女たちはグルなのだろうか。
魔理沙が私にこんな服を着せれば、何を思ったかレミィは魔理沙に賛同する。
咲夜はどうせ、何も言わずレミィに合わせるのだろう。
魔理沙と二人きりになれる(かも知れない)というのは嬉しいんだけど・・・

「咲夜も異存はないわよね?」
「私の答えは既に決まってますわ」
「ん・・・じゃあ決まりね。魔理沙、パチェをよろしく」
「・・わ、私の意見はどうなるのよっ!?」
「私がコイツを着せてレミリアがここにいる・・・それだけでお前の答えは決まってたんだよ。まあ、私に任せときな」


みんなして鬼だ。



「じゃあ早速行くぜ。夜は限られてるからな」
「ちょ、ちょっとどこへっ・・・・・きゃ!?」

肩が外れそうなほど腕を引っ張られ、気がついたら私の体は開けっ放しの窓に向かっていた。
・・・・・・いや、魔理沙に引っ張られていた。
このまま窓から飛び出しても、私も魔理沙も空を飛べるから投身自殺という事にはならないが・・・

そして、走る魔理沙が窓枠に足をかけ、濃紺の海に躍り出た。
魔理沙から一歩遅れて、私も仕方なく窓枠を飛び越える。
とりあえず手を握っていれば、彼女は私を連れてどこかへ飛んで行ってくれるのだろう。
ならば魔理沙から離れないように小さな手をしっかり握り締め・・・・・・


「よっ・・・とぉ」

魔理沙の目の前には箒が浮いていた。彼女がそれを宙に放ち、魔力を与えたのだろう。
いかにも頼りなさげに漂う箒に、魔理沙は飛びかかるように跨ぎこむ。
グン、と箒は一瞬沈んだがそのまま落ち続ける事はなく、魔理沙の重さを受け止めて元の高度に舞い戻る。
そして私に目配せをして・・・どうやらこの箒に乗って行けという事らしい。

ならば次は私。柄の部分には魔理沙が陣取っていて座れないから、その後ろの毛の部分に腰を下ろす。
毛羽立ちがチクチクしてくすぐったいが致し方ない。落ちないように(空を飛べるけど)柄をしっかり握り締め・・・


「私につかまれ、パチュリー。振り落とされちまうぞ」
「・・・・・・いいの?」
「お前よりは頑丈さ。それにコイツの扱い方はよく知ってる、お前が落ちない程度の速さでかっ飛ばしてやるぜ」

箒の柄をポンポンと撫でて魔理沙が言う。
魔理沙の攻守走の要となるこの箒、外での活動の大半がこれに依るのだとすれば彼女の発言は信用に足る。
だが、魔理沙にしがみ付くというのは・・・・・

「・・・どうした?それとも自分で飛んで行くのか?」
「え・・・と、本当にいいの?」
「何だよ水くさいな、私に対してそんな遠慮なんていらんぜ」
(・・そうじゃなくてっ・・・・・・!)

魔理沙はあっけらかんとしているが、私はもうそれどころではない。
魔理沙にしがみ付く、それは即ち彼女の体に腕を回すという事。
しかも、ただ腕を回すだけでは自分の体が安定しない。必然的に魔理沙に寄り添わなければならないわけだが、
触り所が悪かったら魔理沙が何か言ってくるかも知れない。

・・・・・魔理沙に近づきたいとは何度何十度と思ったのに、
いざその機会が訪れるとただ迷ってしまうだけだなんて歯痒いったらない。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

でも、いつまでも待ってるわけにはいかない。魔理沙の気が変わらないうちに、私の方から動かないと。

腕を回してみて初めて分かる。魔理沙の身体が、手とは裏腹に思った以上に細い事を。
いつも図書館で動かない私などとは違う。これではちょっとした事でも壊れてしまいそう・・・
こんな細い体で普通の人の何倍も頑張っているなんて・・・・・・


「あんまり・・・・・・速く飛ばないでよね」
「分かってるって。でも、慣れると案外病みつきモノだぜ?」
「そこまでのめり込むほど度胸はないわ」

脇腹から腕を通して、お臍の前で手を組み合わせる。本当に落ちてしまわないように身体もほんの少しすり寄せて・・・
蜂蜜のような金髪が鼻をくすぐる。くんくんと嗅いでみれば微かに甘い香り、一体何を使っているのだろう。

その甘く、柔かで心地いい香りをもっと感じていたい・・・・・・露骨にくっ付き過ぎるのはイケナイ事と頭のどこかで分かっていながら、私の心と体は私の理性を足蹴にしてさらに魔理沙に近づいていく。



これは、まさか媚薬か何か・・・?

まさか、魔理沙に限ってそんな事・・・

でも、もしそうだとしたら・・・魔理沙はこれから・・・・・


そして私は・・・・・・?





「よし、じゃあ行くか。しっかりつかまってろよ?」
「・・・・・・え、ぁ?・・・え、えぇ」
「・・・おいおい、寝るにはまだ全然早いぜ」

魔理沙の事を考えていたら、一瞬反応が遅れたらしい。
ハッと我に返り、魔理沙に窘められた事を悔やんでも遅い。羞恥と緊張で体がどんどん熱くなり・・・


気がつけば、周りの景色が信じられないほどの速度で流れていた。
ほんの数瞬だけ別の世界に行っている間に、魔理沙は私に構わず出発していたらしい。
紅魔館が、館を取り囲む湖が、更にその周りの森が。どんどん後方に流れていく。
跨いでいる箒に魔力を通し、圧縮して一気に放出する事でこれだけの速度を出しているのだろう。
もし私が単独でこれほどの速度を出そうと思ったら・・・シルフィホルン程度ではどうにもならないかも知れない。

「・・・・・なぁパチュリー、怖くないか?」
「え・・・?」
「これだけのスピードなんだ、怖かったら遠慮なく言えよ。ゆっくり飛ぶからさ」
「ん・・・・・・・」

だが、魔理沙が言うほど私は恐怖を感じていなかった。
隼でさえ追いつけないであろうほどの速度を出しているのに、笑ってしまうような速さで景色が動いているのに、
まるでそこに障壁が張られているかのように、当たる風は身を切り裂くほどの鋭さではないし揺れもほとんどない。
きっと魔理沙が気を利かせてくれているのだろう・・・・・・今夜はもう少し甘えても罰は当たらないはず。
なぜなら、いつもは私が魔理沙の理不尽な行動を見逃しているのだから。


「魔理沙・・・・・・もう少しだけ、ゆっくり飛んでくれる?」

そう。
欲を言えば、私は魔理沙と二人きりの時間を一秒でも長く味わっていたかったのだ。
振り返り、無言で微笑む魔理沙。合わせて流れる景色も遅くなり、その動きが目で追える程度になってきた。


紅魔館を出てまだそれほどでもないのに、もうずいぶん遠くまで来てしまったような気がする。
既に館の灯りは見えなくなっていて、周りの山々の輪郭もすっかり形が変わっていた。
魔理沙は私をどこへ連れて行こうというのだろう・・・

(next)
どうにも、

魔理沙:恋符投げまくり(しかも天然)のイケイケ少女、霊夢には弱い
パチュリー:ツンデレ、言葉では結構突っ張るが脳内では妄想酒池肉林

というイメージが頭から離れないのですがw

ていうか11月も末だっていうのに季節感のないネタですね。
魔理沙あたりに「お前は音速が遅いな」と・・・・・・言われてみたいかも(ぇー
0005
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コメント



0.2610簡易評価
9.90まっぴー削除
あー、口の中が甘いと思ったら砂糖入ってた。

咲夜さんがいい感じに煩悩馬鹿やってますね。
この主従コンビで漫才やれば金儲けできませんか?(ぉ
35.100名前が無い程度の能力削除
パチュマリ!パチュマリ!
もっと甘くていいので、続き期待してますよ~

むしろ甘死するくらいまで甘くしてくだs(マスタースパーク&ロイヤルフレア