「ふんふふ~ん♪ふんふふ~ん♪」
秋が過ぎ、冬も深まった幻想郷。誰もが寒さに震えて住処に閉じこもっているというのに、一人、いや一羽の夜雀が元気一杯に、紅魔湖 の近くを飛んでいた。
「らんらんらららんらんらん♪らんらんららら~♪」
遊び相手のリグルは冬眠してしまったし、チルノは冬がきてからずっとレティと一緒にいる。
だが、歌さえ歌えればそれで満足、といった具合だ。
「鰻屋も順調だし、歌を歌っても、人がいないから怒られないし。ああっ、なんて素敵なの!」
彼女は今、本当に幸せだった。
そう、今までは。
「うふふふふ、楽しそうね?そんな姿を見ていると、私も嬉しくなっちゃうわ」
瞬間、歌が止まった。いや、ひょっとしたら近くの屋敷のメイドが時を止めたのかもしれない。
空白の一瞬が流れ、夜雀は油の切れた人形のようにして、後ろを振り返った。
そこには、ヤツが、いた。
「よかったわ、妖夢に『紅魔館でご飯は食べてくる』って言ったのに、食べる前にあの吸血鬼に追い出されちゃったのよ?」
酷い話でしょ、と目の前の亡霊は言った。
どうせ追い出されるようなことをしたんで…いや待てこいつ今なんて言った?
───よかった
───食べる前に追い出された
つまり…
「食材を持って帰れば、妖夢も怒らないでしょう。さっ、こっちへいらっしゃい?」
やばい、目が笑ってない!今回は本気だ!!
今までも何度かこういうやり取りはあったものの、側に庭師がいたせいか結局じゃれ合いみたいなものだった。
勿論、必死に逃げるのだが、捕まったとしても庭師が開放してくれる、という余裕があった。
そして今、その庭師はいない。
近寄ってくる亡霊の姿を意識した瞬間、身を翻し全速力で離脱する。捕まったら、今度こそあの世逝きになってしまう。
そしてあの世はヤツの住処だ。つまり永きに渡って食われ続ける。無間地獄だ。
かといって逃げ切れるとは考えにくい。今までだって何度も捕まっている。
誰か、誰か助けて!
「うふふ、逃がさないわよ…!」
西行寺幽々子を追い払えるほどの実力者となると、逃走先は限られる。
紅魔館が一番近いのだが、逆方向に逃げてきてしまった。後ろにはヤツがいる。却下。
異変を解決した実績から考えると、霊夢のところに行ければいいのだが、如何せんここからは遠すぎる。これも却下。
となると…
「魔理沙ぁーっ、開けてーっ!助けてーっ!!」
ドンドンと、ドアを打ち砕かんとする勢いでたたき続ける。
「うるさいなぁ、そんなに叫ばないでも聞こえてるぜ」
中からドアが開き、着膨れしてダルマのようになった魔理沙が出てくる。
いきなりドアが開いたため倒れそうになりながらも、現在の状況を伝え、助けて欲しいと懸命に頼み込む。
「ふむ、話はわかった。で、報酬はどうなんだ?」
「今度店にきた時は代金払わないでいいから!お願い!!」
「OK、商談成立だぜ!」
言うのと同時に、魔理沙は立てかけてあった箒に跨り、凄いスピードで飛んでいく。
乗せてもらって逃げた方がよかったかも、と思う間に魔理沙の姿は点になり、丁度こちらに向かっていたもう一つの点と交戦状態に入るのが、舞い散る星や蝶の存在から分かった。
だがしかし、安心は出来ない。
幽々子は本気だった。対して魔理沙はそこまで真剣ではないだろう。そして魔理沙は立てかけてあった箒を使った。愛用している箒は確かいつも室内で可愛がってると、前に飲みにきた時言っていた。
それに加えてあの格好だ。速いことは速いが、今の魔理沙は普段の魔理沙よりも格段に遅い。
いずれ魔理沙は負ける。そう判断すると、できるだけ目立たないように森から逃げ出す。
負けるであろうが、他の場所に行く時間稼ぎ位にはなるだろう。
そう、幽々子を確実に追い払える巫女のところに行く時間位は。
「ふーん。で、あんたは魔理沙をけしかけておいてここに来た、と。なかなかいい根性してるじゃない」
夜雀は説明を終えると、出された出涸らしのお茶を口に含み、渇いた喉を潤して、再度叫んだ。
「お願い、確実に追い払えるのはあなただけなの!」
「いいわよ。神社の中にいなさい。歓迎するわ」
はて、いつから私は霊夢とこんなに仲良くなったのだろうか?訝しげに顔を覗き込むが、そこからは何も読み取れない。
まあきっと、これでツケをチャラにしろ、とかいうのだろう。助かるならその程度安いものだ。
「それはそれで嬉しいけど…まあいいわ」
じゃあなんなんだろう?ひょっとして私の歌に惚れたとかだろうか。それなら凄く嬉しい。
「あーもう、うるさいわね。すぐにわかるわよ。とりあえず邪魔だから中に入りなさい」
言われた通りにすると、霊夢は懐からスペルカードを取り出し、高らかに宣言する。
──大結界「博麗弾幕結界」──
スペルの出来に「よしっ」と小さく呟きながら霊夢は向き直る。
「これで大丈夫。もう幽々子はあんたに手出しできないわ」
「えっ…でも時間が切れたら…」
「大丈夫よ。ここは博麗大結界に近い。そして私は結界を守る巫女。そして逆に、結界から守られてもいる」
ここで結界を張れること自体がその証明よ、と巫女は言う。
「この結界を超えるのは、幽々子やレミリアでも難しいでしょうね」
「じゃあ…」
「そう。ここはもはや密室。簡単に出入りできるのは術者である私か、スキマを使って移動する紫くらいね」
紫と聞いて、夜雀の緩みかけた顔に再び緊張が戻る。紫といえば確か、ヤツの知り合いであり、一番の理解者とも言える、深い間柄の人物ではなかったか。
「あー、大丈夫よ。あいつ、今冬眠してるから。滅多なことじゃ起きないわよ」
「よかったぁ…」
完全に気が抜けてその場に座り込む。どうやら腰も抜けてしまったらしい。情けない。
あ、そういえばさっきから疑問があったんだ。
「でも、なんで霊夢は私を助けてくれたの?」
空気が、変わった。
さっきまでは微塵も感じなかった禍々しさが辺りを覆う。
この感じは知っている。しかもつい最近感じた。これは…!
「あら、助けるなんて言って無いわよ?幽々子を追い払うとは言ったけど、ね…」
霊夢はこちらに一歩一歩近寄ってくる。立とうにも、腰が抜けてしまっている。くそっ!動け動け動け…!!
「立ったところで無駄よ。さっき言ったじゃない?」
───ここはもはや密室。
「冬がきてから食糧難でね。もうちょいで危なかったのよ。そこへあなたがきたってわけ。おまけにツケも帳消しじゃない。まさに鴨がネギ背負ってやってきたってやつよね。うふふふふ…」
怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
「無駄だってば」
きゃーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!
「という歴史があるように、禍福は糾える縄の如し、順風満帆でもドン底に落ちたりするんだ。逆もまた然り。輝夜に連敗してるくらいでそんなに落ち込むな、妹紅」
「全然慰めになってないよ、慧音…」
初SSですか。面白かったですよ。
これからも頑張ってください。
雀捕食ネタは確かにたくさんありますけど
良くも悪くも問題になるほどの内容ではないと思いますので
あまり気にする程の事も無いと思います。
感想
みすちー哀れ
まあ、霊夢や幽々子相手じゃねぇ(笑)
オチも良いし、きちんとSSとして読ませますよ。
って、何か偉そうな評価だ・・・
この様な高い評価をいただき、とても驚いています。
皆様、本当にありがとうございます。
お恥ずかしい話ですが、投稿した後から気になった点が二点ありました。
・魔理沙は余り必要ないのでは?
・幽々子がはじめしか出てないのはどうなのか?
この点について、皆様のご感想をいただけると幸いです。
>>名前?知らんなそんなモノは様
ぱっと思いついた話ですので、今後も書き続けるかはちょっと微妙です。
次回がありましたら是非見てやってください。
>>那須様
使い古されたネタだけに、被ってしまうかとびくびくしておりました。
そう言っていただけると幸いです。
>>王にはなれない程度の能力(?)様
>>774様
悲鳴のみで終わらせると、暗い話かネチョい方向にしかいかないと思ったのでこういった終わりにしました。もうちょっと話をまとめる力をつけようと思います。
>>都市制圧型ボン太君
恐縮です。今後がありましたらどんどん偉そうな評価でお願いします(w
題名はよく大阪の堀に投げ込まれる人を無理矢理和訳してみました。
それと、あえて『ミスティア』の名前を出しておりませんので、不快になられた方は焼き鳥撲滅運動の同盟員と脳内変換して読んで頂ければ幸いです。
最後に、もう一度になりますが、皆様本当にありがとうございました。
では。
作者様が気になったという点について(いまさらですが)考えてみました。
>魔理沙の必要性
魔理沙である必要があったかはともかく、落ちの前に1クッション挟むのは悪くないと思います。ここを上手く活かせば、ラストでの落差が際立つ、のかも。
>幽々子投げっぱなし
自分はあまり気にならなかったのですが。でも慧音たちに締めを任せるよりは、幽々子で上手く落とした方が全体のまとまりは良かったかもしれません。
以上、構成力に悩んでる者の私見なので、見当外れなことを欠いてしまったかもしれません。参考程度に受け取ってください。
次の作品も楽しみにしています。
そのうち良い事あるよ・・・・・・・・
何時か・・・・・・