Coolier - 新生・東方創想話

萃香のある一日

2005/11/24 05:40:46
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地平線の遥か彼方、誰も知らぬ遠い遠い幻想郷の何処かに―――失われたはずの鬼は居た。
「…ん~…、此処に戻ってきたのは良いけど…どうにも…」
誰も知らぬ地で寝そべりながら呟かれる独り言は、途中で欠伸に掻き消された。
伊吹 萃香。幻想郷からも居なくなってしまったはずのこの鬼はついこの間の宴会騒ぎの一件でふらりと姿を現して以来、また幻想の地に住み着いたのである。
勿論、その所在を知る者はある一人を除いては誰も知らぬのだが。
「やっぱり…じっとしてるのは私の性に合わないわねぇ。」
そう呟くと、のっそりと立ち上がって背伸びや屈伸を始めた。
「どれ…私が居ない間にどんだけ此処が様変わりしたか…散歩がてらに探検と行きます…かぁ!」
そう威勢良く言葉を切ると、突如霧が立ち込め…鬼は何処かへと消えた。

消えた鬼が向かった先は…血を吸う鬼が支配する館、紅魔館。
霧の立ち込める湖を通り、紅色の境に入る。
(この辺の湖はなーんにも変わってないわねー…氷精のいたずら好きっぷりとか。)
そう思いつつ、萃香は館のメイド達が守衛を勤める庭をスイスイと気付かれずに抜けていく。
その頃…紅魔館の警備詰所では。
「…ん?何か妙な気配…。」
雑多に置かれた様々な荷物の中、ちょこんと置かれた机に座り麺類らしき物を啜っていた紅魔館の門番、美鈴がふと顔をあげる。
「どうしました?美鈴様。」
その様子に気付いた名も無きメイドが声をかける。
「いや…何。何かがこの紅魔の庭に侵入した様な気がして…」
「特に庭のメイド達が騒いだ様子もありませんし…気のせいじゃありませんか?」
「でも、何か妙な違和感…気の乱れを感じる。ちょっと気のせいでやり過ごす訳にはいかないわね。また怒られちゃうし」
そう言うと、美鈴は食べかけの麺を残し、机を立って門の前へと走り出し、小屋を出ると飛んだ。
「あ、美鈴様!麺が延びちゃいますよぅ~!」
後ろのメイドの呼びかけに、また後で作り直して~と答えながら。

門の前に降りる美鈴。妙な違和感はより強くなっていた。
「何かしら…この変な感じの妖気…それに霧も濃い…。」
「…あら、ちょっとは鼻が利く番犬が居るみたいじゃない。」
そう何処からともなく声がした直後、妖しげな霧が寄り集まり…鬼の姿を為す。
「この妙な妖気…お前の物だったか。何者かは知らないが…侵入者でいいんだな!?」
叫びながら美鈴は戦闘態勢を取る。
「いやぁ、ちょっとあんたんとこのお嬢様に散歩ついでの用事があってね~」
「そんな見た感じからして妖しい奴を通す訳にはいかない!ここでお帰り願おう!」
そう言葉を言い終わると一枚の札を取り出し―――。
「彩符「彩光乱舞」!!」
様々な彩りの、見た目にも美しい魔力の結晶が萃香に降り注ぐ!
「…そう言われて、はいそうですかと帰る程私は素直じゃないんだよね~。」
迫る魔力の結晶に微動だにする事もなく、呟く萃香。
降り注ぐ結晶の破片…美鈴の目からは少なくとも直撃した様には見えた。…だが。
「…なッ!?居ない!?」
驚く美鈴、また霧が立ち込めている事に気付くが…もう遅かった。
「アンタはお呼びじゃないの…ちょーっと眠っててね?」
自らの後ろから聞こえてきた萃香の声、すぐさま振り向く美鈴であったが…。
瞬間、鬼の豪拳が一閃。遥か彼方まで吹き飛ぶ美鈴。
(ああ…またお嬢様…いや咲夜さんに叱られる…)
消え行く意識の中、美鈴が一番に思った事は、何時も通りと言うか…やはりこれであった。

門を抜け、紅魔館の紅く永い廊下を鬼が飛ぶ。
飛びながらも萃香は来るであろうある人間の襲来に少しだけワクワクしていた。
(この無駄に永くて趣味の悪い館…紅いのはあいつのせいじゃないけど、永いのはあいつのせいよね。)
外から観た時はそんなに広くなかったであろう、空間の歪められた屋敷の廊下を見て思う。
(自分で弄くった空間の中を飛ばれてて…気付かない訳ないわよね?)
「…それに、犬って物は自分の縄張りを気にするし。」
そこだけ声に出して呟く萃香。
「…誰が犬、かしら?」
萃香の前に立ちはだかりながら、軽く怒気を含んだ声を洩らす。この館のメイドの主…咲夜。
「あら、聞こえてた?まったくこの館には鼻の効く番犬が多いわね~。」
「侵入者に気付けてても、侵入を防げない番犬は要らない。…後で引いておきましょう。給料から。」
そう咲夜が館の中で呟いた瞬間、聞こえる筈はないのだが館の庭で気を失っているはずの美鈴の身体がぴくっ、と動いたのをメイドが見たと言う。
「それはともかく…うちのお嬢様に何の用かしら?」
ナイフを構えながら、萃香に問い掛ける咲夜。
「その理屈だと…アンタも要らなくなっちゃいそうね?」
問いに答えず、拳を咲夜に向けにやりと笑う萃香。
「…通らせないわ。」
「通るのよ。」
両者が言葉を言い終わった後に…一瞬の沈黙の間が流れた。
次の瞬間、萃香の居た場所に銀のナイフが雨霰と降り注ぐ。
「重畳重畳。そうこなっくちゃね」
楽しそうに呟きながら、萃香は降り注ぐナイフの雨を避けつつ手に妖気を凝縮させる。
「でも…今日はアンタがお目当てじゃないんだよねぇ。悪いけどさっきの門番みたく寝ててもらう…よッ!」
言い放つと手に凝縮させていた妖気の弾を、咲夜に向け放り投げる。
咲夜の間の前に到達すると、炸裂する妖気弾。僅かな時間ではあったが、炸裂したそれにより咲夜の視界は遮られた。
妖気が薄まり、視界が開かれる―――と、そこには笑みを浮かべた萃香が迫っていた。
そのまま無造作に蹴りを放つ萃香。咲夜の鼻先を掠める…。
「…ッ!」
軽く舌打ちをしながら、後方に跳ぶ咲夜。
ありゃ、ちょっと失敗と呟きつつ更に間合いを詰めようとする萃香。
無造作に放った蹴りとは言え鬼の身体能力で放たれた蹴り、当たっていればタダでは済まなかったであろう。
冗談ではない。鬼と接近戦をする気なんて更々ないわ。…咲夜は迫る萃香に時間稼ぎついでのナイフを投げる。
軽く避け、逃がさないと言わんばかりに迫ろうとする萃香。が、急にそこで動きが止まる。…いや、萃香の動きだけではなく、ナイフの動きも。蝋燭の炎の揺らめきも。
生きとし生ける者全てに流れる時間の動きが咲夜の能力によって止められたのである。
自分以外、何者も動く事の出来ない数秒だけ許される絶対的な、咲夜の世界。
今の内にと大きく息を吸い込む咲夜。そして萃香に向かってありったけのナイフを投げる。
投げられたナイフは萃香の眼前で止まり―――そこで時が動き出す。
「!」
眼前の幾千ものナイフに気付く萃香。
「これでチェックメイト…お嬢様には会わせない。さっさとお家に帰ってもらうわ。」
しかし、鬼はにやりと笑い―――。
刹那、避けようもないはずの幾千ものナイフが地に落ちカランカランと廊下に音を響かせた。
「そんな…バカなっ!」
信じられないのも無理はない。萃香は目の前のナイフの群れ…瞬間的に全て、自らの拳のラッシュだけで叩き落したのである。
「さあて…本当はもうちょっと遊んであげててもいいんだけど…今日は他に用事があるからね。」
そう言いつつ、こつこつと音を立てながらゆっくりと廊下を歩み、咲夜に近づく萃香。
「…くっ!」
苦し紛れに放った蹴り。とは言え何事にも完璧である咲夜は、体術にもそれなりの自信があった。
―――が、鬼の萃香には通用するはずもなかった。
足を捕まれ、身動きの出来なくなった咲夜に萃香が話し掛ける。
「それじゃ…アンタも眠っててもらうわよ?おやすみグッバイ、いい夢を!」
そう言い終るとまたもや一閃、鬼の豪拳により、一人の人間の意識が遠い彼方へと葬り去られた。

少し時が経ち―――紅いロビーに、萃香は居た。
紅魔館の紅いロビー、そこでは鬼と吸血鬼による、熾烈な拳同士のラッシュの応戦が繰り広げられていた。
「うらうらうらうらうらうらッ!」
押しているのは萃香、楽しげにさえ見える表情を浮かべつつ猛然と拳打を繰り出す。
「くッ…このッ…!」
応戦しているものの、苦しげな表情を浮かべる吸血鬼、レミリア。
次の瞬間、レミリアの拳が弾き飛ばされる。
「う―――らぁッ!」
渾身の一撃をここぞとばかりに放つ萃香。
咄嗟にガードするものの、鬼の一撃はその程度では防げない代物であった。
遠くまで跳ね飛ばされるレミリア、地に手を付き留まるが…
「…ぐッ!」
鬼の一撃によるダメージは吸血鬼の再生能力と言えどもまだ響いている様だ。
が、その表情には苦痛だけではなく明らかな怒りが見て取れる。
「いきなり現れて…何だって言うのかしら?」
ぱんぱんと服に付いた埃を払いながら、苦々しげにレミリアが呟く。
「ん~、そうね。遊びに…そしてついでに、強いて言えば思い上がってる自称鬼に…格の差って奴を教えてあげようと思って。」
「…格の差?何時ぞやも言ったけど…私の様に誇り高き貴族と泥臭い土着の民じゃぁ最初から格の差なんて分かり切ってるわよ。」
「何時ぞや?……ああ、そうねぇ。その台詞、前にも聞いたっけね。でも…その様子じゃ、あの時の敗北はあまり身に染みてないみたいね~」
「そうだわ、丁度いいわね…。」
話の流れを切り、レミリアが何かを思い出したかの様に言う。
「覚えてる?あんたは次の機会に倒す、って言ったの…。」
「お、ようやくやる気になった?そうこなくっちゃねぇ」
楽しげに笑う萃香に対し、それを聞いたレミリアもクックッと低く笑う。
「今度は不覚を取らないわよ―――鬼!!」
そうレミリアが叫ぶと、両者共にシュッと風切り音を立てながら動いた。
空中で紅い悪魔と鬼が何度も爪と拳をぶつけ合う。その度にロビーにガキィン、と音が響く。
人間の目には止まらないぐらいの高速の空中戦闘、妖怪同士だから出来る闘い。
そして何度目かのぶつかり合いの直前、急にレミリアが萃香の眼前から消えた。
「ここよ」
そう告げられ上を見上げた瞬間、レミリアの腕が振り下ろされ萃香は地に向かい叩き落された。
しかし、大地に身体を打ち付けられる直前に横から思いっきり蹴飛ばされ、壁に豪快に身体を打ちつけた。
萃香が落ちるより早く先回りし、落ちてくる萃香に合わせて渾身の力を込めてレミリアが蹴飛ばしたのである。
「あいてて…」
ぶつかった瞬間の衝撃でガラガラと崩れる壁の瓦礫の中から立ち上がる萃香。
「…どうかしら?力じゃ負けるけど、スピードでは貴方に負けるつもりは更々ないわ」
それを聞いて萃香がはっ、と鼻で笑う。
「スピードがあろうと、あんな雑多な攻撃じゃ倒れてはやれないね」
と、言い放つ萃香だったが、内心実は結構なダメージを受けていた。
(…流石に脆弱な人間の一撃と違って、重いわね~…)
何の勝負であろうと、負けず嫌いの萃香は相手を喜ばせる様な事は決して言ってやらないのである。
「…やっぱり気に入らないわ、貴方。いいわ、もうこれ以上遊ぶ気もないし…これで決めてあげる。」
そう言うと同時に手を掲げると、その二本の腕の中にエネルギー状の巨大な紅き槍が現れた。
「神槍―――「スピア・ザ・グングニル」!!」
そう高らかに宣言すると、萃香目掛け槍を投擲した。
「この速度なら…避けられはしない!」
だが、次の瞬間萃香はにやりと笑ったと思うと何と受け止める構えを見せた。
エネルギー状の紅き槍と萃香の手とがぶつかり合い、ジジジと派手な音がロビーに鳴り響く。
「…バカなッ!?正気!?いくら鬼と言えど私のグングニルを受け止めようなんて…」
「…ッ!流石に痺れるわね…けど!」
そう言い終るか否か…次の瞬間、紅き槍は握り潰されるかの様に散って消えた。
「…化け物め!」
ぎりり、と歯を噛み締めながら苦々しい表情を浮かべるレミリア。
「お互い様でしょ。さ、これでお終いかしら?吸血鬼さん。」
得意げな表情を浮かべながら、萃香が言い放つ。…その時。

「おっと、この紅魔館で暴れるのもそれまでよ。幻想郷から消えたはずの鬼よ。」

「………ッ!?」
そう声が聞こえた瞬間、萃香が飛び退いた。先程まで居た地面を業火の剣が切り裂く。
「これは…レーヴァテイン!?」
レミリアが見覚えのあるスペルカードによる攻撃を見て驚く。
業火の剣の持ち主は、特徴的な水晶の様な羽をバサバサと羽ばたかせながらレミリアの横に降り立った。
レミリアの妹、フランドールである。
「私が連れてきたの。退屈そうにしてたし…フランの遊び相手には丁度いい相手みたいだしね。」
先程の声の主、パチュリーがローブをずりずりと引きずりながら姿を現す。
「ふぅん、誰かは知らないけど…選手交代?それとも…3人で私にかかってくる?どっちでもいいよ~」
「…ふざけるな!私一人で―――」
レミリアが怒気を孕んだ声をあげ終わる前に横からパチュリーが口を挟んだ。
「いえいえ。貴方のお相手はレミィの妹、フランがするわ。相手にとって不足はないと思うわよ?」
喋っている最中に口を挟まれ、ぐっと言葉を飲み込む羽目になったレミリア。
まるで玩具を取り上げられた様な、子供の様な不満顔でパチュリーにひそひそと話し掛ける。
(ちょっと、どういう事よ?私は相手を譲る気は毛頭ないんだけど)
(まあまあ、ちょっとムキになり過ぎよレミィ。実はさっきからフランがとっても退屈そうにしててね…それこそ暴れ出しそうな程)
それを聞いてレミリアがちょっとだけ眉をひそめる。
(…それは困った物ね。霊夢と魔理沙に会って以来…あの子の地団駄はどんどん激しくなってたから)
(でしょう?それを抑えてもらう為にも、あの遊び相手は丁度いいのよ。ここはお姉さんなんだから、譲ってあげなさい。レミィ。)
(…むー。仕方がない、分かったわ。)

「…貴方が私と遊んでくれるのかしら?」
萃香をまじまじと見つめるフランドール。
「ええ、どうやらアンタのお姉様のお話によるとそうみたいね?」
俗に言う地獄耳である萃香は、どうやら二人の内緒話を目敏く聞いていたらしい。
「しょうがないわ、お姉様は次に回すとして、まずはアンタの相手を…」
萃香が喋っている間にフランドールは地を蹴り加速し、猛スピードで萃香の眼前にまで迫っていた。
「…!!」
精度の甘い、だがスピードだけは圧倒的に速い無造作な蹴りを放つフランドール。
完全に舐め切っていた萃香はモロに直撃を食らい、地を横転しながらふっ飛ばされる。
「あはははははーっ!燃えちゃえぇ!」
そう言うと同時に、業火の剣レーヴァテインを転がる萃香目掛けて振り下ろす。
「…やるじゃない、でもね…甘いよッ!」
瞬間、体勢を瞬時に立て直し迫る業火の剣を紙一重で避けフランドールに飛び込んで行く萃香。
剣を振り終えた直後のスキだらけのフランドール目掛け、渾身の一撃を放つ!
あえなく直撃し、紅魔のロビーの壁に叩き付けられるフランドール。
「フランッ!?」
何だかんだ言ってお姉さんのレミリア、フランの身を案じつい叫ぶ。
崩れるガレキ…パラパラと言う破片が落ちる音が無音のロビーに響く。
ゆっくりとガレキの中から立ち上がり、すぐに再生するであろう額の怪我から流れる己の血を、ペロリと舐めるフランドール。
「ヘ…へへっ、見つけたよ、いい遊び相手…!」
そう言い放つその顔は、狂気と凶気に満ちていた。

「さぁ…もっと、もっと!私と遊んでよ!禁忌…「フォーオブアカインド!」」
スペルカードを発動させ、4人に増えるフランドール。
萃「…何?ただ増えるだけなの?そんなの、私なら百万鬼ぐらいに―――」
「アンド…禁忌、レーヴァテイン!!」
萃香が言葉を言い終わる前に、4体のフランドールの手の内に炎が収束し、剣の形を取る。
「フォーオブアカインドを維持したままのレーヴァテインの発動…!」
レミリアが目を丸くして驚く。
「…アレじゃあ、既に複合技って言うより新しい別のスペルカードみたいな物ね。」
と、冷静にパチュリーが解説する。
「さぁ、今度こそあんたはゲームオーバーだ!」
そう言い終るや否や、四人のフランドールは四散し…
「「「「あはははははーっ!!」」」」
萃香を全方位から取り囲み凄まじい勢いでレーヴァテインを振り回す!
「―――ちいっ!」
全方位から降り注ぐ炎の剣の雨、全て紙一重で避わしつつも流石の萃香も舌打ちを洩らす。
(このお壌ちゃん、なかなかどうして…この厄介なスペルカードをどうにかして攻撃に転じな…!?)
思考を巡らせた一瞬の内に不意に背中に強い衝撃を受ける。
1人のフランドールが隙を見せた萃香を後ろから蹴り飛ばしたのだ。
「「「「あははっ…チャーンスッ!!」」」」
それに合わせ吹っ飛ぶ萃香に残りの3人のフランドールが一斉にレーヴァテインを振り下ろす。
次の瞬間、紅魔館のロビーに烈火と轟音が広がった。

「もう終わり?…つまんないの。」
1人に戻ったフランドールが不服そうに呟く…。が、彼女は気付いていなかった。辺りに妖しい霧が広がっていた事を。
「危ない危ない、危うく消し炭になる所だったわ…。」
霧が一箇所に集まり…萃香の形を為す。
「あの状況から脱出したって言うの?それがあんたの能力かしら?」
「そういう事。自らを限りなく「疎」にして…被害を最小限に抑えたの。まだまだ勝負はこれからよ?悪魔の妹さん。」
「何百年も閉じ込められて…退屈だったんだろう?私がもっと遊んであげるよ!」
萃香がフランドールに向かい、指を差し向け…ちょいちょい、と向かって来いの意思を秘めた挑発をする。
「面白い…面白いよ、貴方!なら御望み通り、一欠片の妖気も無くなるまで…壊してあげる!」
フランドールの顔が楽しげに歪む。その形相は…悪魔そのものと形容できそうな程。
二人の闘気がぶつかり合い…辺りにゴゴゴゴ、と地響きの様な音が鳴り響く。
「ちょっと…不味いわよパチェ。二人とも本気でやり合う気だわ…。」
「…うーん、ここでやられるとちょっと困るわね…。」
既に外野となったレミリアとパチュリーが暢気そうに話し合う。

「こらぁ!!あんた達っ!!」
突如、張り詰めた紅魔のロビーにあっけらかんとした怒鳴り声が響く。

「「「「!?」」」」
「すっごい轟音がしたから慌てて飛んできてみれば…一体何をやってるの?」
…と、怒鳴り声の主らしき紅白の目出度い衣装を来た巫女がズカズカとロビーに歩み寄る。
「「霊夢っ!」」
萃香とレミリアが同時に妙に嬉しそうな黄色い声をあげる。
「まあ、そう怒らなくてもいいじゃないか。喧嘩と弾幕ごっこは幻想郷の華、だぜ?」
巫女に続き、暗がりからスッと楽しそうに出てきたのは魔理沙。霧雨魔理沙だ。
「よかぁないわよ!あんな幻想郷中に響き渡る様な音を出して…」
「そうは言うがな、霊夢。何事も派手にやらなきゃつまらないだろう?」
「あんたは話がややこしくなるから黙ってなさいってば。…ともかく!」
「これ以上続けるって言うのならもう少し広くて被害の出ない場所でやりなさい!分かった?」
「「はーい…」」
先程まで闘気をバリバリと出し合っていたフランドールと萃香が珍しく素直に返事をした。
皆、巫女に逆らうと碌な事がないと身に染みて分かっていたのであった。
「…それなら魔理沙、せっかく来たんだから私と遊んでってよ」
先程までとは別人の様な無邪気な笑顔でフランドールが魔理沙に話し掛ける。
「おう、いいぜ。ただし弾幕ごっこ以外でな。また霊夢が怒るから。あ、そうそう。パチュリー、後でまた本借りてくぜ?」
「…好きにすれば?どうせ止めても聞かないんでしょう。」
そう言うとパチュリーはついっ、とそっぽを向いてしまった。
一方、霊夢の方は…。
「霊夢、それなら貴方は私とお茶でもどうかしら?」
「そうね、せっかく此処まではるばる来たんだから…少しゆっくりしていこうかしら。あ、私に血の紅茶とか飲ませないでよ?」
「そこは大丈夫よ。そうと決まれば…咲夜ーっ!お茶を入れて頂戴。咲夜ーっ?」
「…あ、そういえば。来る最中…あんたんとこのメイド、廊下で寝てたわよ。」
何処までも暢気な、巫女の思考。

「…さてっ。それじゃあ邪魔が入っちゃった事だし…私はおいとまするかな。」
萃香が一連の流れを見てから、んーっと背伸びをしてそう言った。
「あら、あんたもどうせだから一緒に飲んでいけばいいのに。」
と、霊夢が言ったが傍でレミリアがそんな奴には飲ませないわよ、と呟いていた。
「心配ご無用。誰もあんたと血の紅茶なんて飲まないわよ。それに…お酒以外は飲まないの、私。」
そう言いながら出口へと向かってぽてぽてと歩き始める。
「…あ、そうそう。」
何かを思い出した様に足を止め、スカーレット姉妹の方へ振り向く。
「そこの吸血鬼姉妹…また暇になったら遊びに来るから、よろしくね」
「…ふんっ、次こそ何時ぞやの借りをきっちりと返させてもらうわ。」
と、レミリアが答え…
「また遊んでくれるの?…何時でも歓迎するわよ。」
フランドールも、こう答えた。
それを聞いて萃香は満面の笑みを浮かべ―――。
次の瞬間、その場から煙の様に消えていた。後に残っていたのは僅かな妖気だけだったと言う。

地平線の遥か彼方、誰も知らぬ遠い遠い幻想郷の何処かに―――失われたはずの鬼は居た。
「…ふふん、何時の時代も…この幻想郷には、骨のある奴が居るみたいね。」
そう満足げに呟くと、萃香はごろんと横になった―――。
初投稿です。
拙い所があったらゴメンナサイ。
少年漫画的なバトルをちょっとさせてみたくて書いちゃいました。
CielArc
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コメント



0.1360簡易評価
16.50無為削除
いやぁ、笑った笑った。萃香vsレミリアのシーン誰か描いてくれないかな。例えばzpさんとか。
あと、後書きの少「年」漫画的を少「女」漫画的って読み間違えて「最近の少女漫画はラッシュ合戦とかやるのかー」って思ったのは秘密。
17.20削除
うーん、展開としてはやや不自然な気が…
中国や咲夜のバトルもちょっとやられかたがおかしかったような
萃香vsフランのバトルはよかったのに、いきなり霊夢&魔理沙の割り込みで強制終了は味気がなさすぎる。
会話一つ一つもとびとびな印象を受けました。次回作に期待します。
22.30sasa削除
展開が早いかなー。門番はいいとしても咲夜とかレミリアが
あっさりしすぎかと。あと終盤これからってときに霊夢が乱入して
来るのも微妙。迷惑にならないところでやれっていっても紅魔館なわけだし
別にいいんじゃない?って思う。
ただ、バトルの雰囲気自体は悪くないと思いますし、
もうちょっと展開に時間をかければもっとよくなると思います。
また何か書くのでしたら頑張ってください。