Coolier - 新生・東方創想話

彼女は如何にして再び引きこもったのか? ②

2005/11/23 08:26:12
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 万全、という言葉がある。
 “万全”とは少しも手落ちのないこと、きわめて完全なことを意味する。
 パチュリーは今回の計画に当たって、まさにその“万全”の態勢で臨んだはずだった。

 ――それなのに……どうしてこんなことになったの?

 パチュリーは床に座り込んだまま、ただ呆然と、虚ろな視線で宙を見ていた。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇





 彼女の目的は、長年患っていた喘息を治し、健康体になること。
 そのために必要なものを召喚するのではなく、探しに行くための門を開くことにあったのだ。
 そう、この幻想郷にないのなら“別の幻想郷”に。
 それが萃香の残していった魔道書から導き出した、パチュリーの結論だった。

 幸いにして人材はすぐに集まった。

 召喚の魔方陣を描くのは自分がやればいい。
 あれは元々どこかから何かを呼び出すものだ。少し手を加えるだけで二つの場――世界を繋ぐ門に成る。
 だがこの場合、門を維持する必要が出てくる。
 それには魔法に精通し、なおかつその制御に長けた者でなくてはならない。
 一つ間違えば、二つの世界を繋ぐ門が空間の歪みを生み、それが紅魔館を消滅させる危険性を孕んだこの仕事、力技に長けた魔理沙ではなく、数多くの人形と魔法を使いこなすアリスに白羽の矢が立ったのは当然といえる。
 まあ尤も、別の理由で魔理沙が除外されていたのは言うまでもないことだが。
 そして、最悪の事態が訪れた際には、空間を操ることのできる咲夜の出番となる。
 彼女がいれば紅魔館とその面々に被害が及ぶことはないだろう。……門をくぐった者がどうなるかは知らないが。

 ではなぜレミリアが呼ばれたのか?
 その理由は召喚という行為にある。
 目的のものを呼び寄せるこの魔法、実は成功する確率はそれほど高くない。
 博麗神社から酒を呼び寄せたように、場所と物が決まっていればそうでもないのだが、今回の場合は『どこかの幻想郷』にある『喘息治療の特効薬』を探しに行くという、場所も物も決まっていない、いい加減な代物だ。
 成功する確率は0,の後に0が幾つか並んだところで計算をやめた。
 そこでレミリアの『運命を操る』能力に頼ることになる。
 実際のところ、それでどこまで成功する確率が上がるかは定かではないが、パチュリーはかなり高くなるだろうと読んでいる。
 レミリアは嘘はつかない。
 それが自分の沽券に関わることなら余計に、だ。
 そのレミリアが運命を操ることができるというなら、操ることができるのだろう。

 ちなみに美鈴の役目はアリスの補佐である。
 彼女の操る『気』というものは、こういった役に適しているからだ。
 相手の『気』を整え、活性化させる。
 これはそこいらのマジックアイテムなど比べ物にならないほど効果が高い。
 パチュリーの計画にとって十分に必要な存在だと言える。

 最後に、その『どこかにある幻想郷』には誰が行くのか?
 もちろんそれはパチュリーの役目だ。
 最悪の場合こちら側の幻想郷に帰ることができなくなる危険な役目だが、それを誰かに押し付けるような真似はしない。
 それくらいの矜持はあるつもりだと、自分でも思っている。
 ……他の幻想郷がどうなっているか、ということに知的好奇心が刺激されたことは否定しないが。

 レミリアの説得は簡単だった。
 妖怪や悪魔の寿命は非常に長く、長い人生とは往々にして退屈なものである。
 パチュリーのように本だけ読んで生きていられるならいいが、レミリアはそうはいかない。
 本は好きだけど寝食を忘れて没頭できるほどではなく、体を動かす方が好きだからだ。
 かといって『体を動かす』事件ばかり起こしていると、今度こそ本当に博麗の巫女あたりに退治されてしまいそうな気がする。
 それはそれで勝っても負けても満足するような、いい殺し合いができそうだとレミリアは思っているのだが……その機会は永遠に来ないんじゃないかとも思っていたりもする。

 そんな彼女にこの計画を――多少脚色して――打ち明けると、初めの不機嫌さはどこへやら、喜んで賛成してくれた。
 レミリアが賛成なら咲夜が反対するはずがない。
 美鈴は紅魔館のトップの意向に逆らうことができるわけもなく強制参加決定。

 咲夜が懐中時計の蓋を開いて閉じる。
 時間を進めたのか巻き戻したのか、包帯の下から傷一つない素肌を覗かせて美鈴は立ち上がった。


「始めるわよ」
 パチュリーは手早く地面に魔方陣を書き起こす。
 図案は昨日のうちに完成させておいた。
 大きさは直径二メートルほどだが、余計な手間を省くためにパチュリーが魔方陣の細部に至るまで記憶していたため、作業は十分と掛からず終わった。
「次は私の番ね。上海、蓬莱!」
「「(こくり)」」
 アリスの掛け声とともに、体に幾つかのマジックアイテムをつけた二体の人形が飛ぶ。
 人形が定位置に着いたことを認めると、アリスは魔道書を開いて呪文を唱え始めた。
 魔方陣の円周上、アリスとあわせてちょうど正三角形の形に並んだ三体を繋ぐように魔力が流れ、複雑な術式の描かれた魔方陣を起動させていく。
 やがて魔法陣に魔力が行き渡り、陣そのものが淡く光を放ち始める。
 と、魔方陣の一部が不自然に揺らぐ――
「……貴方のやる気は口先だけなのかしら?」
 チャラリと、鎖をいじる音が聞こえる。
 魔方陣の揺らぎは一秒にも満たない時間で消えていた。
「う、うるさいわね! 気が散るから話しかけないで!」
 目と意識は魔方陣に向けたまま、アリスは怒鳴った。
 咲夜の助けがなかったなら、最悪、陣を破壊していたかもしれない。
 助けてもらったことへの感謝よりも、自分の無能さに対する苛立ちのほうが大きかった。

 ――私は、私の腕を買われたからここにいる。失敗は……許されない。

 すぅと一つ深呼吸。
 この時、アリスの顔から少女らしさが消える。魔法使いのアリスがそこにいた。
 上海と蓬莱と自分と……この三点に均等に魔力を配分し、それらを循環させ続けること。
 どこか一つが多くても少なくても失敗する、きわめて繊細な作業。
 それが自分に与えられた仕事。
「もう一度……!」
 魔力の循環が途切れたことで光を失った魔方陣に、再び魔力を流し込む。
 アリスから上海、上海から蓬莱、蓬莱からアリスへと、三つの魔力が循環し、陣を起動させていく。

 一分……二分……三分……。

 魔方陣が淡い光を放ち、光の柱が立ち上る。
 二つの世界を繋げる門が開いたのだ。
 門へと、パチュリーは歩み寄る。
「――アリス、大丈夫?」
「ええ。……正直言うと少しきついけど、最低でも一日はもたせて見せるわ」
「わかったわ。……レミィ」
 咲夜に何事か耳打ちしていたレミリアがこちらを向く。
「何かしら?」
「あとは貴方に全てを委ねるわ。だから……」
「それは違うわね」
「……え?」
「向こう側に行くのは私ではない。そして探し物をするのも。私の能力で成功する可能性を百に近づけることはできるけれど、それは決して百にはならない――運命に絶対はないから。……わかるでしょう? どんな絶望的な状況にも奇跡の可能性が残されているように、どんなに完全に見えても失敗はあるの。……だから、そんな気持ちは捨ててしまいなさい」
「……それはつまり、『私をあてにするな』ってこと?」
「平たく言えばそうなるわね」
 不安そうなパチュリーに、レミリアは笑いかける。
「安心なさい。大丈夫よ、きっと」
「『きっと』、ね。貴方がそう言ってくれるなら心強いわ。……じゃあ、行ってくるわね」
 光の柱――門へと向き直る。
 知らないうちに手が汗ばんでいた。
 未知の魔法、未知の幻想郷。成功か失敗か。期待と不安とが胸のうちを駆け巡っている。
 でも、レミリアは大丈夫と言った。その一言でどれだけ心が軽くなったか。
 気を落ち着けるために目を閉じてゆっくりと息を吸って、吐く。
 そして目を開いたその時、爆音とともに一枚のドアが弾け飛んだ――。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇





 ――話は少しさかのぼる。







「……なんだぁ? 今日はずいぶんと張り合いがないな」
 攻撃がばらばらというか、まとまりがないというか。これじゃ背負っている荷物がハンデにもなりゃしない。
 穴だらけの弾幕の中を潜り抜け、魔理沙は最短距離で門を目指す。
 警備のメイドたちの攻撃は散漫で、いつもなら何発かは服を掠めるはずのなのに今日はそれがない。
 何か企んでるのか?
 そんな考えが頭をよぎるが、それもすぐに考えすぎだったと知ることになる。
 紅魔館の正面、門番である美鈴の定位置に着いても誰の出迎えもないのだ。
 振り返れば警備のメイドたちもさっさと持ち場に戻っている。
 まるで、魔理沙のことなど端から気にしていないように。
「何だかなぁ……こうも見事に無視されると腹が立つより悲しいぜ」

 こうして難なく正面の門を突破した魔理沙は紅魔館の扉の前に立つ。
 外がああだからといって気は抜けない。
 この扉の向こうには、鬼のメイド長が待ち構えているのだ。
 額に浮かんだわずかな汗を拭い、扉を押し開ける。
 人一人分の隙間を開けたところで一気に中に飛び込み、予め魔力を装填しておいた札を取り出し、
「マスタースパ…………あれ?」
 ごろごろ転がって壁にぶつかった。
 おかしい。恒例のナイフの洗礼によるお出迎えがない。
 それ以前に、ロビーには誰の姿もなかった。
 よっこらせ、と起き上がる。
 門番に続いてあのメイド長までも休業中?
 いったい紅魔館に何が起こったというのか。
 これまではロビーに足を踏み入れたとたん、メイド長に率いられたメイドたちが大挙して押し寄せてきたというのに……。
 奇妙な静けさに不気味なものを感じながらも、魔理沙はロビーの奥へと進んでいった。



「うーん。今日はいったい何の日なんだ? さっぱりわからないぜ……」
 せわしなく働くメイドの姿がない。
 魔理沙を館から追い出そうと襲い掛かってくるメイドもいない。
 のんびりまったり、仕事はマイペースに。
 それだけじゃない。行く道行く道、顔を合わせたメイドたちは皆一様にお辞儀をして、魔理沙の後姿が見えなくなるまで動こうとしない。
 はっきり言って気味が悪い。
 これなら弾幕とナイフで歓迎されたほうがまだましだ。
 これから毎日こんな出迎えを受けると……ますますもって、新しい裏口を探さなくちゃならない。
「……とまあ、そんなわけで到着だな」
 通りなれた道を歩いて無事にヴワル魔法図書館に到着。
 少し……いやかなり廊下が短くなっていた気がするが、いつも空間をいじくっているメイド長が休みなのだ。これが本来の長さ、広さなのだろう。
 魔理沙はそう納得することにした。


 これはあながち間違いではない。
 いかに咲夜が器用だといっても、一つ間違えれば紅魔館消滅の危険があるのだ。別のことに能力と意識を割いている余裕はない。
 よって本日限り――咲夜のいるヴワルを除いて――紅魔館内の時間と空間は咲夜の支配下から離れた。
 ここだけは空間制御を解いたら何が起こっても不思議ではない、というのが咲夜、レミリア、パチュリーの共通見解だった。
 結果、館の内側は狭くなり、メイドたちもゆっくりと仕事をすることができたが、外側は今までどおり。しかも門番である美鈴が不在のため、警備の仕事は負担が増えたという。
 おかげで内側はだらけ放題、外側は不満爆発。
 結局次の日に、どちら側のメイドも咲夜のナイフで粛正されたという話だが。

 
 で、一応礼儀正しくノックしてみるが、向こうからは何の返事も返ってこない。
 それも当たり前。
 魔法図書館には読書のために一切の物音を消す魔法が掛けられているし、例え聞こえたとしても、パチュリーは自分から動こうとはしない。
 それなら何のためにこんなことをしているのか?
 ネズミ扱いされたときに言ってやるためだ。「残念だったな、ノックならしたぜ!」と。
 ……何の意味もないことはわかっているけど。とにかくそういうことをやりたいお年頃なのだ。
「さて……おぉ?」
 ドアを開けようとした手を止めて、魔理沙はドアに張り付いた。
 中からもの凄い量の魔力を感じる。
 一つはパチュリー、もう一つはアリス。それにレミリアに咲夜に美鈴と。
 紅魔館を代表する面々と、何故かアリスが集まって何をやってるのか。
 ヴワル魔法図書館とパチュリーとアリスという組み合わせから察するに、これは魔法の実験だろうけど。
「……私を除け者にしようとはいい度胸じゃないか」
 ちょっとした疎外感。ちくちく胸が痛んだ。
 で、私も混ぜろと勢いよくドアを開くつもりが、

 ――ゴッ!

 と、聞いて思わず目を瞑りたくなるような音を立てて頭突きをする羽目になった。
「痛ぁ……」
 ぽろりと涙がこぼれた。
 よく見れば、ドアには「入ってくるな」と言わんばかりに何重にも施錠の魔法が掛けてあった。
 しかもやたらと複雑で、どうやって解除するのか皆目見当もつかない。
 箒でドアを殴ってみたが、対物理障壁でも張ってあるのかびくともしない。逆に箒が折れそうになったので慌ててやめた。
 お次はマジックミサイル、ストリームレーザーと試してみたけどこれも駄目。
 衝撃で少しゆれるくらいでドアはまったくの無傷。
 どうやら対魔法障壁もセットで付けられているらしい。魔理沙はこのドアをお持ち帰りしたいと思った。

 ……それは次の機会にということで。

 物理・魔法と強固な障壁を備えたドアを前に万策尽きたかに見える。
 がしかし、これで諦めるような霧雨魔理沙ではなかった。
 ごそごそとポケットを漁る。
「どっちにするかなあ……」
 これはもう破壊するしかない。
 それもとびきり強力な奴で。
 で、取り出したるは二枚のスペルカード。
 『恋符・マスタースパーク』と『彗星・ブレイジングスター』。
 二枚とも威力抜群、代わりに手加減不可。
 どちらをとっても通ったあとは焼け野原という、常人ならば室内どころか屋外でも使用をためらうスペルである。
 しかし魔理沙にそれはない。
「マスタースパークだと巻き添えが出るから……こっちかな」
 ブレイジングスターのスペルカードを選択する魔理沙。
 彼女には五十歩百歩という言葉の意味を知って欲しい。
「よし……じゃあ、いっくぜぇー!」
 威力全開、手加減無用。
 文字通り彗星となった魔理沙は、行く手を阻む障害に向かって突撃した。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇





 ――そして今に至る。




 誰しも一つのことに目を奪われると周りが見えなくなるもの。
 パチュリーとてそうだ。
 確かにこれだけの人材を集めれば計画に失敗は有り得ないだろう。
 ただ、パチュリーはそれが『計画を邪魔する者がいない』という大前提の上に成り立っていることを忘れていたのだ。
 ついでに言ってしまえば、彼女らにその邪魔者を止める力がないということも。



 爆音とともに一枚のドアが弾け飛ぶ。
「そんな……! 出入り口には念入りに固めておいたはず……」
 アリスと二人で組み上げた施錠の魔法は複雑で、その上、それを何重にも仕掛けておいた。
 しかも一つ手順を間違えば、手痛いダメージを受ける罠が発動する。
 言うなれば、複雑に絡み合った全て同じ色の糸の束から、たった一本の正解を選び続けていくようなもの。
 もちろん間違えた時点でゲームオーバー。罰は上から金ダライが降ってくる程度では済まされない。
 加えて物理・魔法障壁は強固で、外側からはもちろん、内側からの衝撃も防ぐことができる。
 レミリアの蹴りでひび一つ、といえばどれだけの力を持っているか想像に易いだろう。
 だが、それをはるかに上回る力をぶつけられれば、障壁も破られてしまう。
 そう、例えば……。
 思わず振り返ったパチュリーの頭に嫌な想像が浮かんだ。
 そして、その想像を裏付けるかのように、
「どけどけー!」
 元気いっぱいな魔法少女の声が聞こえてきた。
 目を凝らすと、迎撃用の魔道書を蹴散らしながら、遠くから凄まじい勢いで光の塊が飛んでくるのが見える。
 戦力差は圧倒的。驚異的な速度。おそらくここに着くまで三十秒と掛かるまい。
 ……でも、私はあと一歩踏み出すだけでいい。
 考えてみればどうということはなかった。
 魔理沙がどれだけ速く飛ぼうとも、彼女の邪魔をするには足りないのだから。
 だから、本当ならパチュリーは余裕を持って門をくぐれたはずだった。
「――おわっ!?」
 切羽詰った魔理沙の声が聞こえなければ。
「――魔理沙!?」
 アリスが集中を途切れさせなければ。
 そして何より、彼女自身が足を止めてさえいなければ。
「何だ……魔法の、制御が……っ!」
 点滅するように、光が強くなったり弱くなったりしながら魔理沙はなおも突っ込んでくる。
 不規則に減速と加速を繰り返していること、それから彼女の様子から察するに、スペルが暴走している可能性が大きい。
 パチュリーは内心歯噛みする。
 大きすぎる力をむやみに使うなとあれほど言っていたのに……!
「アリス! 早く門を閉じて! このままだと魔理沙が……」
「――わかってるわ……ああっ! 上海!」
 声の方で、パリン、という陶器の割れたような音が聞こえた。
 顔を向けると上海人形に取り付けられていたマジックアイテムの一つに大きな亀裂が入っている。
 この瞬間、目に見えて魔力の流れの均衡が崩れていった。
 原因は焦ったアリスが均衡の和を乱したためなのだが、そんなことよりも、魔力の均衡が崩れたせいで門に歪みが生じていた。
 門の歪みは空間の歪み。
 それはあらゆる物を飲み込もうと口を開けかけたところで、その口を閉じられた。
「早くしなさいアリス! 悪いけど、長くは持ちそうにないわ……!」
 余裕のない咲夜の声が緊迫感を強める。
「精一杯やってるわよ! ……あと少し……でも……」
 「でも」。
 その続きを誰も口にしない。
 門を閉じるよりも早く。
 確実に、
 彼女は、
 この門をくぐってしまうのだと。
 大きく弧を描き、彼女の真正面から飛んでくる魔理沙。
「――うわああああああああ……!!」
 叫ぶ魔理沙の顔が、姿が、スローモーションのようにパチュリーの目に映る。
 体を動かそうとするが、腕を少し上げるまでに、魔理沙の姿はどんどん大きくなる。
 徐々に閉じていく門。
 しかし、それもわずかに間に合わない。
 見開かれた互いの目に映った自分の姿が見える距離、まさに薄い壁一枚隔てた向こう側で、魔理沙は消えてしまった。
 同時に、門が閉じる……。






 不測の事態に備えて、万全の態勢で臨んだはずだった。

 ――それなのに……どうしてこんなことになったの?


 パチュリーは床に座り込んだまま、ただ呆然と、虚ろな視線で宙を見ていた。
 誰も何も言わない。
 ヴワル魔法図書館を重苦しい静寂が包み込んだ。

話を区切るのって難しいです。
いやしかし中篇の短いこと短いこと。
その分後編をもっさり長くしたい気分です…。

前編がアレな終わり方だったので、そんな感じの続きを期待していた方はごめんなさい。
aki
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コメント



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17.70no削除
つ、続きをぉぉぉぉぉ。
気になる終わり方ですね。