――三度目。
もう一度目を覚ました時、今、自分は一体どうなっているのかと確認する気すら起こらなかった。
また夢の続きかと。
ため息をつきながら、彼女は目の前の女性を見る。
「……永琳。今度は、何をしに出てきたの?」
「何のことでしょう?」
「とぼけないで。
今度は私に……」
と、言いかけて。
周囲の状況を、改めて、彼女は観察してみた。
違う。
ここは、今まで、自分がいた場所ではない。最も住み慣れた場所――そして、もう、二度と還ってくるはずもなかったところ。
「どうして……?」
「姫。不死鳥の伝説をご存知ですか?」
「……永琳? あなた……永琳よね?」
「はい。私は永琳でございます」
「永琳っ……!」
我慢することなど、出来るはずもない。
胸に抱いた、あの冷たさを知っている。胸の中にあった、あの軽さを知っている。
だから、今、ここにいる彼女の暖かさほど、恋しいものはなかった。永琳の胸に飛び込んで、その体を思い切り抱きしめる。ふんわりと柔らかくて暖かな、幸せの感覚に、彼女――輝夜の顔は、優しくとろけていく。
「……どうなされたんですか? 姫」
「何でもない……何でもないから……」
それでも、しばらくの間、永琳から離れたくはなかった。
ただ、抱きついて。その暖かさをいつまででも感じていたかった。
そんな輝夜の気持ちを察したのか、永琳が、そっと彼女を抱きしめる。
「先の話の続きを申し上げます。
不死鳥というのは、古来から、自らがまとった炎で自らを焼き焦がし、滅ぼし、もって、その灰の中から再び黄泉還ると言われています。
そう。まさしく、今の姫のように」
「……え?」
そこで顔を上げて、永琳を見上げる。
優しい笑みを浮かべながら、彼女は、視線で何かを示した。示されるものへと、輝夜は顔を巡らせる。
「……妹紅?」
輝夜の隣には、妹紅が横になっていた。すやすやと、安らかな寝息を立てている。
「やはり、人の作るものに完璧はありません。完全な自信を持って作り上げたのに、まさか、不死鳥の炎で焼き尽くされてしまうなんて」
それでは、と。
彼女は頭を下げて、その部屋を退出した。
――と、いうことは。
ここは、あの世でも何でもなく、ただの永遠亭ということか。死の狭間の記憶が作り出す、あり得ない願望の世界ではなく、確たる存在をもってこの世にあるべき、現実だというのか。
「……妹紅?」
そっと、彼女の肩を掴んで揺さぶってみる。
「ん……んん……」
もぞもぞと、彼女は輝夜に背中を向けた。
「妹紅!」
今度は、強く揺さぶってみる。
「うるさいなぁ……」
ふぁ~、とあくびをしながら、妹紅が起きあがった。
そして、その視線は輝夜を向く。ぱちくりとした瞳で彼女を見ながら、妹紅は、首をかしげた。どうやら、現状が認識できていないらしい。
「……も……」
次の言葉を紡ぐ前に。
「輝夜ぁ~っ!」
「きゃあっ!?」
いきなり、妹紅が抱きついてきた。
そのまま、畳の上に敷かれた布団の上へ、押し倒される。
「ちょっと、妹紅!?」
「輝夜……輝夜、よかった……! 死んでないよね? 生きてるよね? 輝夜は、私の知ってる、輝夜だよね!?」
「……何を言っているの。私が私でないのなら、ここにいるのは、私の姿をした幽霊だとでも言いたいわけ?」
「……ううん」
彼女は、うっすらと浮かんでいた涙をぬぐうと、輝夜の上から身をよけた。
そして、そそくさと輝夜から離れると、
「……よかった」
そうつぶやいた。
「何が『よかった』なのよ。第一、あなたの目的は、私を殺すことでしょう? 私が死んでいた方がよかったんじゃないかしら?」
「それはそうだけど……。やっぱり、私はいつまででも、輝夜と殺し合いをしていたいから。だから、私の知らないところで勝手に死なれたら、すごく困る」
「あなたが殺したんでしょうに」
「いつまででも、殺してやる」
「そう。それなら、私も受けて立つわ。いつまででも」
「……輝夜」
「何?」
「死んじゃえ。ばーか」
軽く振り上げた妹紅の掌が、軽い音を立てて輝夜の頬を張った。やったわね、と輝夜も掌を振り上げる。
小さな音が、もう一つ。
「永琳どの」
「何かしら。慧音さん」
今日も、空には月が輝いていた。
満月からはほど遠い欠けた月。それを見上げながら、『いや、何』と慧音は首をゆるゆると左右に振る。
「正直、驚いたんだよ。まさか、あの炎の中から、本当に不死鳥のように、あの二人が戻ってくるとは思っていなかったから」
「……私も、正直に言えば。
私の薬で、蓬莱の薬の力は完璧に打ち消されていたと思ったのに」
それなのに。
「輝夜は還ってきてしまった」
「妹紅も、元通りになって」
何という不思議なことだろうか。
「どうしてかしら」
「どうしてだろうな」
空を眺めれば、月が淡く輝いている。ざぁ――っと風が流れて、さやさやと竹林を揺らす。
「てゐーっ! 待ちなさいーっ! 今日という今日は、お尻ぺんぺんだからねーっ!」
「やーい、ざまみろー!」
「ひにゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
また、てゐの仕掛けた罠に引っかかった鈴仙が、地面の中に腰まで埋没してじたばたともがいている。相変わらずの、にぎやかぶりだ。
「あれから、一ヶ月近くも、よくも眠り続けたものだ」
視線を後ろに向ける。
そちらから、音は聞こえてこない。ただ、少しだけ耳を澄ますと、何だか楽しそうな囁きが聞こえてこないこともなかった。何をしているのかと疑問に思ったが、慧音は、その場に入っていくのは無粋なことだと考えたらしい。肩をすくめるだけだった。
「ウドンゲ、もういい加減、諦めなさい。てゐの方が、あなたよりも何枚も上手よ」
「ししょー! そんなことで納得できるわけないじゃないですかー!」
「とりゃー」
「ぐふっ!」
振り下ろされる、でっかいピコピコハンマーに直撃されて、鈴仙がうめき声を上げた。
「彼女もようやく、元通り」
「……別に、罪の意識は、私にはないけれど?」
「それでも、あなたは、献身的に輝夜どの、鈴仙どの、妹紅の看病をした」
それが罪の意識に基づいていなくとも、あなたは罪に苛まれていたのだ、と。
慧音が語る。
「……そうかしら」
一時期は、妹紅と一緒に心が壊されていた鈴仙も、今ではあの通り。いつも通り、いたずらうさぎの世話に手を焼いている。とても楽しそうに。
「私はね、永琳どの。思うんだ」
「何が?」
「何事にも終わりがあるように、いつまでも続く日々も、いつかは終わりを迎えるだろう、と。
その時まで、私が生きているかどうかは疑問だが……。もしも、私の目が黒いうちにそれがかなえば……この家に、住みたいな」
「そうですね……。新しい同居人が増えるのなら、みんな喜ぶでしょう」
苦労も増えそうだけど、と内心で付け加えるのを忘れない。
さて、と永琳は立ち上がった。
「それじゃ、せっかくの月夜なのだから。欠けた月ではあるけれど、月見酒としゃれこみましょうか」
「いいね。酒なら、私も大好きだ」
「ウドンゲ、てゐ。お酒にするわよ。いらっしゃい」
「やったね!」
「こらぁ~! てゐ~! 助けていけ~!」
庭中に仕掛けられた罠にご丁寧に引っかかりまくる鈴仙を無視して、てゐがとととっと走り寄ってくる。本当に、いつもと変わらないにぎやかな光景だった。
「いつまででも続けばいいわね」
「何がかな?」
「さあ。何がかしら」
「ほんっと。いい加減にして欲しいわよね」
「全くだぜ」
ぶつくさ文句を言いながら、二人の少女が竹林に足を踏み入れる。その後ろには、いつも通り、永琳と慧音が続く。
「まあ、そう言わずに」
「そうそう。お酒がこの後、飲み放題なのだから。悪い話ではないでしょう?」
「ものに釣られてばかりと思ったら大間違いよ」
「でも、つられてるんだよな?」
「……あんたもね」
じろりと、隣に佇む少女を見据えて、彼女。
さて――。
「今日こそ、お前に引導を渡してやる!」
「それはこっちのセリフよ! 覚悟なさい! このもこたん!」
「誰がもこたんだ! てるよのくせにっ!」
「誰がてるよですってぇっ!?」
騒ぎながら、致命的なまでに極悪な騒ぎを展開している二人を見て。彼女たちは、はぁ~、とそろってため息をつく。
「じゃ、お願いね」
「もう実力行使以外にないからな」
はいはい、と二人はうなずいた。
そして、そろって、叫ぶ。
「夢想封印!」
「マスタースパーク!」
炸裂する強烈な一発が、ののしり合いながら、しかし、なぜか、どこか楽しそうに殺人劇を繰り広げている二人に直撃し、問答無用で黙らせたのだった。
いち、に、さん、いち、に、さん。
ぐるぐる回って、元通り。ぐるぐるぐるぐるぐるぐると。
ほらほら、回るよ。いつまでも。
回って回って、元の位置。
三拍子のステップを踏んで。
生きて、死んで、生き返る。
いち、に、さん、のステップで。いつまでも回り続けよう。
「次こそ、絶対に殺してやる」
「それはこっちのセリフよ」
「ん? 酒がないな」
「あら、ほんと。
イナバー、お酒の追加ー」
「は、はーい」
「……ふと思うんだが」
「何よ?」
酒を酌み交わしながら、悪口雑言の応酬をする二人を見て、ふと、彼女は言う。
「あいつら、意外に仲良くないか?」
「まぁ……確かにね。もっとも、あんな友情はお断りだけど」
「そうだな。殺し合いで確かめる友情なんて、まっぴらごめんだぜ」
今日のお酒は、また格別だった。
夜空に浮かぶ満月は、この世を淡く照らし出す。雲の姿もどこにもなく、今宵はとてもよい月を拝めそうだった。
「霊夢さん、魔理沙さん。あれは、殺し合いじゃないのよ」
「そうだな。さしずめ、殺し愛。『殺したいほどに愛してる』というところか」
「げっ」
「その愛情表現もまっぴらごめんだぜ……」
その気持ちはもっともだ、と。
永琳も慧音も笑ったのだった。
いつになったら終わるのか。
誰も知らない、わからない。
いつまででも続く、この踊り。
それは誰もが、こう呼んでいる。
――生と死のワルツ――
いち、に、さん、いち、に、さん、いち、に、さん、いち、に、さん。ぐるぐるぐるぐるぐるぐると。
踊り踊って、元の位置。
生きて、死んで、生き返る。いつまででも、踊り続けましょう。
私とあなたで、いつまでも。
もう一度目を覚ました時、今、自分は一体どうなっているのかと確認する気すら起こらなかった。
また夢の続きかと。
ため息をつきながら、彼女は目の前の女性を見る。
「……永琳。今度は、何をしに出てきたの?」
「何のことでしょう?」
「とぼけないで。
今度は私に……」
と、言いかけて。
周囲の状況を、改めて、彼女は観察してみた。
違う。
ここは、今まで、自分がいた場所ではない。最も住み慣れた場所――そして、もう、二度と還ってくるはずもなかったところ。
「どうして……?」
「姫。不死鳥の伝説をご存知ですか?」
「……永琳? あなた……永琳よね?」
「はい。私は永琳でございます」
「永琳っ……!」
我慢することなど、出来るはずもない。
胸に抱いた、あの冷たさを知っている。胸の中にあった、あの軽さを知っている。
だから、今、ここにいる彼女の暖かさほど、恋しいものはなかった。永琳の胸に飛び込んで、その体を思い切り抱きしめる。ふんわりと柔らかくて暖かな、幸せの感覚に、彼女――輝夜の顔は、優しくとろけていく。
「……どうなされたんですか? 姫」
「何でもない……何でもないから……」
それでも、しばらくの間、永琳から離れたくはなかった。
ただ、抱きついて。その暖かさをいつまででも感じていたかった。
そんな輝夜の気持ちを察したのか、永琳が、そっと彼女を抱きしめる。
「先の話の続きを申し上げます。
不死鳥というのは、古来から、自らがまとった炎で自らを焼き焦がし、滅ぼし、もって、その灰の中から再び黄泉還ると言われています。
そう。まさしく、今の姫のように」
「……え?」
そこで顔を上げて、永琳を見上げる。
優しい笑みを浮かべながら、彼女は、視線で何かを示した。示されるものへと、輝夜は顔を巡らせる。
「……妹紅?」
輝夜の隣には、妹紅が横になっていた。すやすやと、安らかな寝息を立てている。
「やはり、人の作るものに完璧はありません。完全な自信を持って作り上げたのに、まさか、不死鳥の炎で焼き尽くされてしまうなんて」
それでは、と。
彼女は頭を下げて、その部屋を退出した。
――と、いうことは。
ここは、あの世でも何でもなく、ただの永遠亭ということか。死の狭間の記憶が作り出す、あり得ない願望の世界ではなく、確たる存在をもってこの世にあるべき、現実だというのか。
「……妹紅?」
そっと、彼女の肩を掴んで揺さぶってみる。
「ん……んん……」
もぞもぞと、彼女は輝夜に背中を向けた。
「妹紅!」
今度は、強く揺さぶってみる。
「うるさいなぁ……」
ふぁ~、とあくびをしながら、妹紅が起きあがった。
そして、その視線は輝夜を向く。ぱちくりとした瞳で彼女を見ながら、妹紅は、首をかしげた。どうやら、現状が認識できていないらしい。
「……も……」
次の言葉を紡ぐ前に。
「輝夜ぁ~っ!」
「きゃあっ!?」
いきなり、妹紅が抱きついてきた。
そのまま、畳の上に敷かれた布団の上へ、押し倒される。
「ちょっと、妹紅!?」
「輝夜……輝夜、よかった……! 死んでないよね? 生きてるよね? 輝夜は、私の知ってる、輝夜だよね!?」
「……何を言っているの。私が私でないのなら、ここにいるのは、私の姿をした幽霊だとでも言いたいわけ?」
「……ううん」
彼女は、うっすらと浮かんでいた涙をぬぐうと、輝夜の上から身をよけた。
そして、そそくさと輝夜から離れると、
「……よかった」
そうつぶやいた。
「何が『よかった』なのよ。第一、あなたの目的は、私を殺すことでしょう? 私が死んでいた方がよかったんじゃないかしら?」
「それはそうだけど……。やっぱり、私はいつまででも、輝夜と殺し合いをしていたいから。だから、私の知らないところで勝手に死なれたら、すごく困る」
「あなたが殺したんでしょうに」
「いつまででも、殺してやる」
「そう。それなら、私も受けて立つわ。いつまででも」
「……輝夜」
「何?」
「死んじゃえ。ばーか」
軽く振り上げた妹紅の掌が、軽い音を立てて輝夜の頬を張った。やったわね、と輝夜も掌を振り上げる。
小さな音が、もう一つ。
「永琳どの」
「何かしら。慧音さん」
今日も、空には月が輝いていた。
満月からはほど遠い欠けた月。それを見上げながら、『いや、何』と慧音は首をゆるゆると左右に振る。
「正直、驚いたんだよ。まさか、あの炎の中から、本当に不死鳥のように、あの二人が戻ってくるとは思っていなかったから」
「……私も、正直に言えば。
私の薬で、蓬莱の薬の力は完璧に打ち消されていたと思ったのに」
それなのに。
「輝夜は還ってきてしまった」
「妹紅も、元通りになって」
何という不思議なことだろうか。
「どうしてかしら」
「どうしてだろうな」
空を眺めれば、月が淡く輝いている。ざぁ――っと風が流れて、さやさやと竹林を揺らす。
「てゐーっ! 待ちなさいーっ! 今日という今日は、お尻ぺんぺんだからねーっ!」
「やーい、ざまみろー!」
「ひにゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
また、てゐの仕掛けた罠に引っかかった鈴仙が、地面の中に腰まで埋没してじたばたともがいている。相変わらずの、にぎやかぶりだ。
「あれから、一ヶ月近くも、よくも眠り続けたものだ」
視線を後ろに向ける。
そちらから、音は聞こえてこない。ただ、少しだけ耳を澄ますと、何だか楽しそうな囁きが聞こえてこないこともなかった。何をしているのかと疑問に思ったが、慧音は、その場に入っていくのは無粋なことだと考えたらしい。肩をすくめるだけだった。
「ウドンゲ、もういい加減、諦めなさい。てゐの方が、あなたよりも何枚も上手よ」
「ししょー! そんなことで納得できるわけないじゃないですかー!」
「とりゃー」
「ぐふっ!」
振り下ろされる、でっかいピコピコハンマーに直撃されて、鈴仙がうめき声を上げた。
「彼女もようやく、元通り」
「……別に、罪の意識は、私にはないけれど?」
「それでも、あなたは、献身的に輝夜どの、鈴仙どの、妹紅の看病をした」
それが罪の意識に基づいていなくとも、あなたは罪に苛まれていたのだ、と。
慧音が語る。
「……そうかしら」
一時期は、妹紅と一緒に心が壊されていた鈴仙も、今ではあの通り。いつも通り、いたずらうさぎの世話に手を焼いている。とても楽しそうに。
「私はね、永琳どの。思うんだ」
「何が?」
「何事にも終わりがあるように、いつまでも続く日々も、いつかは終わりを迎えるだろう、と。
その時まで、私が生きているかどうかは疑問だが……。もしも、私の目が黒いうちにそれがかなえば……この家に、住みたいな」
「そうですね……。新しい同居人が増えるのなら、みんな喜ぶでしょう」
苦労も増えそうだけど、と内心で付け加えるのを忘れない。
さて、と永琳は立ち上がった。
「それじゃ、せっかくの月夜なのだから。欠けた月ではあるけれど、月見酒としゃれこみましょうか」
「いいね。酒なら、私も大好きだ」
「ウドンゲ、てゐ。お酒にするわよ。いらっしゃい」
「やったね!」
「こらぁ~! てゐ~! 助けていけ~!」
庭中に仕掛けられた罠にご丁寧に引っかかりまくる鈴仙を無視して、てゐがとととっと走り寄ってくる。本当に、いつもと変わらないにぎやかな光景だった。
「いつまででも続けばいいわね」
「何がかな?」
「さあ。何がかしら」
「ほんっと。いい加減にして欲しいわよね」
「全くだぜ」
ぶつくさ文句を言いながら、二人の少女が竹林に足を踏み入れる。その後ろには、いつも通り、永琳と慧音が続く。
「まあ、そう言わずに」
「そうそう。お酒がこの後、飲み放題なのだから。悪い話ではないでしょう?」
「ものに釣られてばかりと思ったら大間違いよ」
「でも、つられてるんだよな?」
「……あんたもね」
じろりと、隣に佇む少女を見据えて、彼女。
さて――。
「今日こそ、お前に引導を渡してやる!」
「それはこっちのセリフよ! 覚悟なさい! このもこたん!」
「誰がもこたんだ! てるよのくせにっ!」
「誰がてるよですってぇっ!?」
騒ぎながら、致命的なまでに極悪な騒ぎを展開している二人を見て。彼女たちは、はぁ~、とそろってため息をつく。
「じゃ、お願いね」
「もう実力行使以外にないからな」
はいはい、と二人はうなずいた。
そして、そろって、叫ぶ。
「夢想封印!」
「マスタースパーク!」
炸裂する強烈な一発が、ののしり合いながら、しかし、なぜか、どこか楽しそうに殺人劇を繰り広げている二人に直撃し、問答無用で黙らせたのだった。
いち、に、さん、いち、に、さん。
ぐるぐる回って、元通り。ぐるぐるぐるぐるぐるぐると。
ほらほら、回るよ。いつまでも。
回って回って、元の位置。
三拍子のステップを踏んで。
生きて、死んで、生き返る。
いち、に、さん、のステップで。いつまでも回り続けよう。
「次こそ、絶対に殺してやる」
「それはこっちのセリフよ」
「ん? 酒がないな」
「あら、ほんと。
イナバー、お酒の追加ー」
「は、はーい」
「……ふと思うんだが」
「何よ?」
酒を酌み交わしながら、悪口雑言の応酬をする二人を見て、ふと、彼女は言う。
「あいつら、意外に仲良くないか?」
「まぁ……確かにね。もっとも、あんな友情はお断りだけど」
「そうだな。殺し合いで確かめる友情なんて、まっぴらごめんだぜ」
今日のお酒は、また格別だった。
夜空に浮かぶ満月は、この世を淡く照らし出す。雲の姿もどこにもなく、今宵はとてもよい月を拝めそうだった。
「霊夢さん、魔理沙さん。あれは、殺し合いじゃないのよ」
「そうだな。さしずめ、殺し愛。『殺したいほどに愛してる』というところか」
「げっ」
「その愛情表現もまっぴらごめんだぜ……」
その気持ちはもっともだ、と。
永琳も慧音も笑ったのだった。
いつになったら終わるのか。
誰も知らない、わからない。
いつまででも続く、この踊り。
それは誰もが、こう呼んでいる。
――生と死のワルツ――
いち、に、さん、いち、に、さん、いち、に、さん、いち、に、さん。ぐるぐるぐるぐるぐるぐると。
踊り踊って、元の位置。
生きて、死んで、生き返る。いつまででも、踊り続けましょう。
私とあなたで、いつまでも。
この作品だけ、まだレスをつけてなかったのです。前の日曜日につけようと思っていたのですが、感謝イラストに思った以上に時間をとられてままならなかったのです……
ギャグっぽい過去作品に対して、今回のシリアス作品。しかし、氏の筆力や豊かな知識などもあいまって、とても優しく仕上がっていると思います。
が。やはり、第一弾があまりにもパンチが強すぎました。なんといいますか…
第一弾を見た後→うおおおおお!?
第二弾を見た後→……え?
エピローグを見て→……ええ~?
こういった印象がぬぐえなかったです。
でも私は、それでもこんな風に終わってくれて、ほっとしているのです。みんないつものみんなに戻れて、良かったね。そういいたくて。
良作、ありがとうございました。