*一部のキャラが、酔って多少壊れています。ご注意を。
*私的設定として、酔った時の上戸を決めています。その他にも私的設定を満載してます。ご容赦ください。
*閻魔様の扱いに自信が持てません。ご了承ください。
今日も気に入った場所に屋台を運んで、営業準備開始。長椅子のセッティング、釜の火、赤提灯の灯、お酒の在庫確認、食材の仕込み、その他もろもろ多分良し。
さあ、今日も張り切って焼き鳥撲滅目指して歌っていこう!
~一人目と二人目~
追加注文のお酒と串揚げを用意するために、余り広くない厨房の中をポテポテと動き回る。さっきからこんな調子なので疲れてきちゃったけど、天狗さんが何時になく自棄になっているからなあ。天狗さん、今日はどうしたんだろう?
「ミスティアさん、お酒」
「お客さん、飲みすぎですよ。さっきから一気飲みばかりで、本当に体を悪くしますよ。」
「ほっといてください。それよりもお酒を。面倒臭いから瓶ごとで。」
仕方なく差し出した瓶をひったくる様にして取り、仰ぐ様にして一気飲みをしだす。これはいくら天狗さんでも、お酒が過ぎるんじゃないかなあ。まるでお酒の中に逃げようとしているけど、何か嫌な事でもあったのかな?
「お客さん、もう今日はそこら辺にしておいた方がいいですよ。そんな危険な飲み方ばかりしていると、体を壊しますよ。」
「いいんです、別に。三流新聞記者は酒に酔い潰れているのがお似合いなんです。酒に溺れて、博打に溺れ、借金して、嫁に逃げられて、身包み全部はがされて、人生裏街道爆走して、冴えない終わり方をするんです。ほっといてください。」
あー、うん、重症だね。何の例えだかサッパリ分からないけど、酷く荒れているなあ。今にも魂が飛び出てきそうだよ。
「人が体張って、幻想郷中を眠い目擦りながら奔走して、数々の妨害と弾幕を乗り越えて、残機数をすり減らしながら作り上げたのに、結局は三流新聞記者の書くことです。誰からも評価しませんし、誰も読む訳無いですよ。」
「たまにはそういう事もありますよ。次に頑張ればいいじゃないですか。誰でもそう簡単に毎回成功する訳じゃないんですから、元気出しましょうよ。」
うーん、どうやらこの間発行した新聞の状況が、あまり芳しくないみたいだなあ。よくここで酔っ払いながら愚痴っていたぐらい難航してたのに、結果は良くないのか。ちょっと可愛そうだな。
「やれガセだの、やれヤラセだのと根も葉も無い事で非難轟々。そりゃあ、私は三流新聞記者ですから、たいした事を書けないのは当たり前ですよ。だから取材に行けば弾幕放たれるし、負ければネガ没収されるし、勝てば後でデッチ上げ呼ばわりされるのも仕方ないですよ。所詮、三流新聞記者の宿命と言う奴です。」
「いつか、みんな分かってくれますって。少なくとも、私はいつも楽しく購読させてもらっていますよ。」
天狗さん、拗ねだしちゃっているなあ。歌を歌って心を癒してあげようかな?
「なんですか、その体たらくは。さっきから聞いていれば新聞の事でウジウジと。どうやらまだ私の教えを理解していない様ですね。」
あう、三途の川の向こう側で会った事のある閻魔さんだ。一度説教が始まると長いから、私この人苦手なんだよなあ。天狗さんもさっきまで落ち込んでいたのも何処吹く風、今は驚いているような少し怪訝そうな表情をしているし。
「驚きましたね。映姫さんとこんな所で会うとは。まさか、この屋台に対するガサ入れですか?」
え、ひょっとして私が何時まで経っても言われた事を守らないから、怒って屋台を営業停止処分にさせられちゃうのかな。衛生面とかその他色々な事で監察に来たのかな?
「今日は単純にお客として来ただけです。色々と評判を聞きましたから。しかし、仕事を忘れた訳ではありません。そもそも、新聞というのはですね」
「ああ、ちょっと待ってください。ここで映姫さんの長ったらしいお説教をしたら、この屋台に対する営業妨害もいいところです。それにですね、こういう場にお仕事を持ち込むのはどうかと思いますよ。」
ああ良かった。唸りながらでもお説教を引っ込めてくれたところを見ると、どうやら閻魔さんも分かってくれたみたい。今日の売り上げを諦めかけてたところだったよ。
「それにしても、映姫さんが屋台でお酒とは。意外を通り越していますね。」
「これでも私は働いている身です。雇用者という立場でもありますけど。仕事が終わったらお酒を飲みたくなる気分になるのは貴方達と変わりませんよ。」
うー、なんだか緊張するな。とりあえず高級なお酒とタレがよく効いた串揚げを出してご機嫌を取ろうかな。それと、墓穴を掘らないように気をつけないと。
さて、天狗さんの励ましと閻魔さんの歓迎の意を込めて歌を歌おう。
~♪~♪~♪~
「しかし、天下に名高き閻魔様と一緒に飲むとは思いもしませんでしたよ。と言いますか、閻魔様がわざわざ屋台まで飲みに来るとは思いもしませんでした。」
「私だってたまには外で飲みたいと思う時があります。家で飲むのも良いですが、職場から離れた所で飲みたい時もあるのです。」
「へえ、映姫さんでも仕事を忘れたい時があるんですか。顎で死神を使って、自分は椅子に踏ん反り返っているっていうイメージがあったんですけどね。気に入らない相手は皆地獄送りとか。」
「していません。それに小町を顎で使うも何も、やる気があるかどうか怪しい死神の背中をせっつく毎日。仕事どころじゃないのよ。」
「いいじゃないですか、楽が出来て。いざとなれば全部小町さんの責任にしてまえば良いだけですし。楽して儲ける、まるで税金泥棒のような生活じゃないですか。」
「何か勘違いしているようですが、私と小町のお給料は三途の川の渡し賃から来ているのです。ですから、小町がサボればサボるほどお給料が減るという訳です。どこかの家でゴロゴロしてるだけで食べていける方々が時々羨ましいと思うわ。」
「はあ、映姫さんって結構お金に苦労しているようですね。」
「これも全て小町が真面目に仕事をしないからです。他の同僚は皆ガンガン仕事をして一財産を築いていると言うのに、何故私だけが商品カタログを眺めているだけの毎日を過ごさなければないと言うの!?」
「・・・何故でしょうか。貴方に微妙に親近感を持ってしまうのは。」
~♪~♪~♪~♪~
「そう言えば、何故小町さんを使い続けているんですか。ちゃんと働かない死神なんて映姫さんの権限で首を飛ばしてしまえば良いじゃないですか。」
「それがそうもいかないのです。色々とありますし、小町をクビに出来るほどの理由も無ければしなければならない理由も無い。せいぜい減給程度でしょうね。」
「へえ、意外と寛容なんですね。私が正義ってな感じで言いたい放題やりたい放題だと思っていました。小町さんのお陰で仕事があまり来なくて、余りの暇さにかけて出張説教サービスまで始めていますし。」
「・・・貴方の私に対するイメージを後で問いたださせてもらいます。」
「まあまあそう言わずに、熱燗が冷めちゃいますよ。ああそうだ、そう言えばどうしてこの屋台に来る気になったんですか。やっぱり八目鰻の串揚げの噂を聞きつけて?」
「ええ、夜雀が営業している珍しい屋台の事を小町から聞きました。彼女に言わせればここの串揚げが絶品との事でしたので、鰻が冬に入って姿を消す前に一度食べてみたいと思ったのです。」
「そういえば、この前小町さんとご一緒させてもらいました。熱燗飲んで酔っ払っていましたけど、彼女はここの常連でしたね。」
「あの小町が足げにかよう理由が分かりました。確かにこの串揚げは美味しいですね。熱燗も悪くないですし。」
「・・・その様子だと、何だかんだと言っている割には小町さんの事を結構気に入っているんですね。」
~♪~♪~♪~♪~♪~
「そう言えば、映姫さんはよく誰かと飲みに行ったりとかするんですか。小町さんとか他の同僚の方々とか、友達とかと。」
「殆どありません。小町はたまに一緒に飲むだけで後は一人で勝手に飲みに行きますし、同僚とは殆ど会いませんし、昔の知り合いは誘っても断られますから。ひどい時は、お前が居ると場が重くなって酒が不味くなるって言われた事もあるわ。あの時はショックで二日寝込んで、後で絶対に地獄に送ろうと決めましたけど。」
「・・・とりあえず、気持ちは分からないでもありませんが職権乱用には反対しておきますね。しかし、そうですか。飲み仲間がいないんですか。」
「ええ、一人寂しく家で飲み明かす毎日です。閻魔の役職についてからはと言うものの、かつての友人が一人減り二人減り。やれ説教が五月蝿い、やれ睨まれると地獄に落とされるなど言われ、遂には皆から煙たがられたり避けられたりするようになったわ。」
「閻魔様と聞けば栄えある役職で、実は左団扇の成金主義で俺様正義の嫌な存在だと思っていたんですけどね。なんだかあまりパットしなくて楽しそうじゃありませんね。」
「やはり後で貴方を問い詰めるとして、実際には楽しい事なんてありません。体調が悪くても仕事は待ってくれませんし、生理的に受け付けれないような死人でも公平に裁かなければいけません。しかも、最近では難癖つけて弾幕撃ってくる輩もいますし、そういうのに限ってやたらと強いのです。たまに命の危険すら感じる時もあるし、ボロボロにされる時も少なくありません。ほんと、割に合わない仕事だわ。」
「そうですか。いつも変な難癖つける、実は世間知らずの可能性がある頭でっかちの変な人と思っていましたけど、そんな苦労をしていたんですね。いやあ、失礼しました。」
「非常に失礼されました。まあ、もう慣れましたから良いですけど。はあ、あの頃は閻魔という役職がこれほど大変だとは思いもしなかったわ。」
「・・・このお酒、私の奢りです。飲みましょう。」
ありゃ、なんだかしんみりとした雰囲気になっているなあ。何があったかは知らないけど、もうちょっと盛り上がる歌を歌えばよかったのかな。悪くない感じがするけど。
~三人目~
「今晩は。お酒を貰えるかしら?」
あ、また珍しいお客さんだなあ。ごくたまに竹林の方で見かける薬師さんで、月兎さん達の関係者。月兎さんからはあまりいいお話を聞かないけど、見た感じは悪い人には見えないんだけどなあ。
「これまた珍しい人が来ましたね。輝夜さんの傍にいなくても良いんですか、永琳さん?」
「私から見れば貴方達の組み合わせの方が珍しいけど。姫は今日は家で大人しくするようですし、何も四六時中姫に張り付いている訳じゃないわ。たまには息抜きにがてらに噂で聞いた屋台にでもって思ったのよ。」
へえ、薬師さんが来る気になるほど私の屋台って有名になっているのか。なんだか嬉しいなあ。
「それにしても、想像していたよりもちゃっちい造りね。ところどころ傷んでいるし、いかにも安物って感じがするわ。こんな屋台で本当に美味しい物なんか出せれるの?」
「・・・永遠亭のような豪邸を基準にしたら可哀そうって物ですよ。味の方は私が保証しますけど。」
ううう、手厳しい指摘だなあ。そりゃあ豪勢な造りじゃないし、たまに酔って暴れて壊す人がいるからボロッちっくなるけど、味の方は日々精進しているつもりだよ。私の歌と一緒に見返してあげる。
「貴方が映姫さんね。こうして話すのは初めてですけど、以前鈴仙がお世話になりました。」
う、何か今の言葉には裏が有りそうな感じがする。閻魔さんは何か計るような目つきになっているし、天狗さんは顔色が変わっているし。
「いえ、私がしなければならない事をしたまでです。ところで、貴方はある薬を作った事があるそうですね。禁断の秘薬と呼ばれる蓬莱の薬を。いいですか、そもそも不老不死と言うのはですね、」
あう、飛び交う弾幕、吹き飛ぶ屋台。辺り一面火の海に包まれるのが幻視できる・・・
「はい、ストップ。そこまで。こういう場ではそういう話を持ち出さないでください。って言うか、仕事は忘れて楽しくお酒を飲みましょう。ついでに過去の事もです。ね、ね?」
ふう、天狗さんの取り計らいでなんとか事無を得たみたい。危険なほどまでに下がっていた周囲の温度が戻っていくのを感じる。ありがとう、天狗さん。今日は割り引いておくね。
さて、また変な緊張に包まれないように心が穏やかになれるような歌を歌おう!
~♪♪~♪♪~♪♪~
「ふう、噂に上るだけあって意外と美味しいわ。特にこの串揚げ、タンピンとしてでも美味しいしお酒との相性も抜群ね。」
「流石は永琳さん、よく舌が肥えていらっしゃいます。ささ、お酒をもう一杯どうぞ。」
「どうしたのです、文。さっきから私達のお酌をしてばかりで。貴方の性格上そういう行動をするには裏が有るように思えて仕方が無いのですが。」
「有りません。有りませんから皆さんお酒を楽しく飲みましょう。ええ、飲みましょうとも。あ、ああ、そう言えばその後の胡蝶夢丸の売れ行きはどうです?」
「まあまあね。ナイトメアタイプと合わせてそこそこの売れ行きよ。もっとも、マイナー新聞の宣伝効果は殆ど無かったけど。鈴仙やてゐ達を使って地道に販売網を広げていった方が早かったわ。結局貴方の新聞は妖怪兎一匹分の役にも立たなかったって事よ。」
「あはは、笑顔でひどい事を言いますね。まあ事実ですけど。」
「胡蝶夢丸とは確か楽しい夢を見てストレスの発散を行う薬でしたね。まったく、嘆かわしい事です。薬の力を借りなくては満足にストレスを発散できないとは。そもそも薬という物はですね」
「ああ、映姫さん。お酒が空になっていますね。ささ、どうぞどうぞ。ああそれと、売り上げ増大おめでとうございます、永琳さん。」
「ありがとう。でも売り上げが伸びた分調合と材料調達が面倒臭くなってしまったわ。分かってはいたけど、商売を始めると結構どうしてもね。この際習慣性が非常に強いだけの単純な薬でも作って売ろうかしら。これ無しじゃあもう生きていけないってくらいの。」
「さらりと笑顔で怖い事言いますね。是非止めてください。」
~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~
「鈴仙もね、もうちょっと役に立ってくれると助かるのに。ここぞと言う時にいつも役に立たないのよ。まあ、ここぞと言う時に限らない話でもあるけど。」
「ははは、非常に手厳しいですね。鈴仙さんも必死になってやっている訳ですから、大目に見てあげてくださいよ。鈴仙さんは永琳さんじゃないんですから。」
「てゐは腹の底が見えないけど、あれはあれで使い道があるから良いのよ。兎達もてゐに従っているし。本当なら鈴仙がまとめるはずなんだけど、あの通りだから。薬の知識にしろ屋敷の事にしろ、いまいち使えないわね。」
「分かります、その気持ち。何度言っても真面目に働こうとしない部下は、本当に困ったものです。」
「あのー、映姫さん?」
「そもそも部下というのは、私達の言う事をただ率直に聞いていれば良いのです。変に自己流を振りかざさないで、言われた事を黙々とこなしていれば良いのです。やれと言えば異論を挟まずにやる、死ねと言われれば疑問を抱かずに死地に赴く。部下とは本来こうあるべきです。」
「あの、映姫さん・・・?」
「あら、貴方意外と話が分かるわね。そうよね、近頃の連中は口が多すぎるわ。大した事の無いくせに、要求だけは一人前。まったく、ふざけた話よ。部下に求められているのはただ従順で絶対服従という事だけ。それ以外は何も要らないわ。」
「あ、あの、永琳、さん・・・?」
「どうやら永琳さん、貴方とは気が合いそうですね。今日は気が済むまで飲みましょう。」
「ああ、御免鈴仙、御免小町。私にはこの酔っ払い達を止めれそうにありません・・・」
~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~
「姫もね、もう少し建設的な生活をしてくれればどれだけ助かる事か。仕事をしろとか家事を手伝えとかは言わないけど、せめて身の回りのことぐらいは出来るようになってもらいたいわ。」
「だらけきっていますね。いくら働く必要がない使用者の立場とは言え、善行は行うべきです。幻想郷中のゴミを拾って集めるとか、博麗神社にお賽銭を入れて来るとかでも良い、どんなに小さい事でも善行は行うべきです。」
「・・・何故そこに使用人の手助けをするとかお給料を上げてあげるとか仕事量を減らしてあげるとかが含まれていないんですか?」
「あら、何を馬鹿な事を言っているの。使用人が苦労するのは当たり前じゃない。これでもまだ慈悲を持っている分よ。」
「いや、もういいです。聞かなかったことにします。」
「あら、そう。しかし善行を行うという話はまず無理ね。姫にボランティア精神なんてあるはずが無いわ。せいぜい場がより混乱しない為に何もしないと言うのが関の山ね。」
「笑顔で輝夜さんをボロクソに言ってますけど、まあ確かに幻想郷はみんな自分の周りさえ良ければ世間なんてどうでもいいって人ばかりです。しかし、それを差し引いたとしても、いくらなんでも言いすぎなのでは?」
「あら、貴方は私が自己中心的な視野の狭い人間だとでも言いたいの?」
「あ、いえ、そういう意味で言った訳では・・・」
「どうしたのです。貴方は私もそうだと言いたい訳でしょう。貴方に言われるとは心外ですね。そもそも貴方という天狗は」
「勘弁してくださいよ・・・」
「じゃあ、この薬を飲んでみる。心に思っている事を何でも話したくなる薬。簡単に言えば、非常に強力な自白剤ね。この際貴方が私達の事をどう思っているのか、とことん追求させてもらおうかしら。」
あれ、なんだか天狗さんが閻魔さんと薬師さんの間で小さくなっている。顔も生きた心地がしていないって感じだし、どうしたんだろう?
~四人目~
「えーと、ここってお酒が飲めるんだよね?」
ありゃ、たまに会う猫さんだ。そうだよって教えたら何となく嬉しそうな緊張したような表情で椅子に座ったけど、猫さんにお酒を出してもいいのかな。後で狐さんに何か言われそうだけど。
「あら、橙じゃない。どうしたの、こんな夜分にこんな場所で?」
「あ、永琳さんに文さん、それに後の人今晩は。今日はちょっとお酒を飲んでみたいなと思って。」
うーん、お客さんに注文されたお酒を出さないのもなんだけど、猫さんにお酒を出してもいいのかなあ。何て言うか、まだお酒を飲んでいい感じがしないし。
「感心しませんね、子供の飲酒は。いくら式とは言え見過ごせぬものがあります。そもそもお酒と言うのはですね」
「むー、藍様と同じような事を言う。いっつも藍様は橙を子ども扱いしかしてくれないんだから。みんなで橙を子ども扱いしないでよ!」
うーん、なんだか変な事になっちゃっているなあ。閻魔さんも薬師さんもお互いに顔を見合しているし、どうしたものかな。天狗さんはやっと二人から解放された喜びに浸っているけど。
「えーと、じゃあ橙さんは本当にお酒を飲むために屋台に来たと?」
「そうだよ。あんな事で橙を怒る藍様なんか、知らない。だいたいいっつも藍様は橙の事を怒ってばかりだし、いい加減橙だってあったまにきたんだから。藍様をいっぱい困らせてやるんだ。」
あー、要するに猫さんは狐さんと喧嘩をして、家にいづらくなって屋台に来たと。それでなんだか意地になっちゃってお酒を飲むって言い出しちゃったんだな。なんだか微笑ましいなあ。頬っぺたをムーって膨らまして怒っているし。
でも、私も困った事に、お酒を飲む来満々な猫さんだけど流石にお酒を出すのは躊躇うなあ。どうしたらいいんだろう?
「それじゃあ、どうしてもお酒を飲むと?」
「うん、たくさんお酒を飲むまで橙は帰らないからね。いっぱいお酒を飲んで、橙は悪い子になるんだもん。」
さて困ったな。猫さんはお酒を飲むまでテコでも動かない様子だけど、やっぱりお酒を飲ませる訳にはいかないしなあ。どうせならお酒じゃなくて私の歌に酔わしてあげたいところだから、適当に誤魔化そうかな。
それじゃあ、猫さんをお酒じゃなくて私の歌に酔わしてあげる為に、情熱的な歌を歌っていこう!
~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~
「藍様ったら、いっつもそれは駄目だこれは駄目だってそればかり。いい加減やんなっちゃう。」
「はあ、教育熱心な事は良い事なのではないんですか。橙さんも未熟な訳ですし。放置されて野生化されるよりはよっぽどマシだと思いますよ、周囲の者としては。」
「むー、何よそれ。だいたい藍様のお説教を聞いた事が無いからそんな事が言えるのよ。藍様は橙の事を嫌っているから、毎日橙の事をあんなに叱るんだ。」
「ほう、お説教ですか。今はこんな事を言っていますが、真っ直ぐに育っている所を見ると教育は正しく出来ているようですね。いささか説教が足りないくらいですが。式を溺愛するのも良いですが、もう少し厳しくするべきですね。そもそも式と言うのはですね」
「うー、閻魔様は藍様の肩を持つって言うの?」
「人の説教の邪魔をしない。それに、そもそも事の発端はいつも貴方の方にあると言うのならば、多かれ少なかれ貴方に問題があると言うことです。それと勘違いしているようですが、叱ると言う事は貴方の事を本気で思ってくれているという事です。私は仕事ですが、どうでもいい相手に叱ってくれる者がいるものですか。よく考えて見なさい。」
「うー・・・」
~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~
「橙さんの話から藍さんが教育熱心だと言うことが分かりましたが、紫さんはどうなんです?」
「んー、紫様はいつも寝てばかりいるから別に。藍様と違って橙が何をしても大抵の事は許してくれるよ。寝ているのを起こしたりご飯を取ったりすると怒るけど。」
「予想通りの食っちゃ寝の生活ね。羨ましいわ、どうせ家でゴロゴロしているんだったら寝ててくれたほうが手間がかからなくて良いのに。姫にも一日中寝ててもらおうかしら。」
「・・・本当に永琳さんってさらりと笑顔で怖い事を言いますよね。まあそれは置いといて、あまり藍さんの世話を焼かせるべきじゃないですよ。唯でさえグータラな紫さんの事で手一杯なんですから。」
「そうね、本人も近頃脱毛が増えて困っているって言ってたし。あまり手を煩わしちゃあ駄目よ、取り返しがつかなくなるから。貴方だって帽子を脱いだらバイオハザード跡地が見えるなんて嫌でしょう。」
「詳しいお話を聞きたいところですが、流石に立ち入ってはいけない領域ですね。そうですか、そんなに藍さんは苦労しているのですか。」
「何もしない主に、元気一杯の式。唯でさえ家事全般で忙しい中主の思いつきに振り回され、式の世話に手を焼き、夜な夜な涙ぐましい努力を繰り返さなくてはならない毎日。私だったら遠慮するわね。」
「うー、藍様・・・」
~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~
「あらあら、来た時の威勢はどうしたの?」
「うー・・・」
「自分でも少しは自覚があったようですね。これで少しは現状が理解できたでしょう。まあ、甘えれるのは子供の特権ですから良しとしましょうか。それにしても、この娘ぐらい率直な部下が欲しい物です。どこかの死神もこの娘の半分の素直さがあれば良いのに。」
「そうね、うちの兎達も見習って欲しいわ。ついでに姫も別人格になるぐらい見習って欲しいわね。いっそうの事洗脳薬でも作ろうかしら。」
「・・・ああいう人達は放っといて、もう少し元気を出しましょうよ。ほら、せっかくミスティアさんが橙さんの為に特別にお酒入り牛乳を作ってくれたんですから、楽しくいきましょう。ほらほら、串揚げも冷めちゃいますよ。」
「うん、そうだね。でも、これっていつも飲んでる牛乳とほとんど変わらないけど、本当にお酒が入ってるの?」
「何言ってるの、入ってないと思うから入ってないのよ。貴方の様な子供には本格的に飲ませるわけには行かないから、微量のお酒を牛乳に入れているんだから。だからよく味わって飲みなさい。」
「そうそう、落ち込んでないでパーといきましょう。あれ、映姫さん、どうしました?」
「いえ、何でもありません。本来子供の飲酒よりも咎めるべき事なのですが、今は目を瞑る事にします。気が乗りませんが、今はそういう事にしておきましょう。」
ふう、どうやら猫さんは機嫌を直してくれたみたい。今は他のお客さんと仲良くしているよ。この分ならもう大丈夫かな。
でも少し残念なのだが、少しも酔った所が無い様子だけど、私の歌に酔ってくれなかったのかなあ。
~五人目~
「何ででも良いから、何か食べる物頂戴・・・」
う、博麗神社ご在住の巫女さんだ。たまに屋台にも来てくれるんだけど、今までにお金を払ってくれた事は無いんだよなあ。でも、今にも空腹で死にそうな顔をして来るから仕方なく串揚げを出しているけど、いつかツケを払ってくれる日は来るのかな・・・
「相変らずのサバイバル生活ですね。今回は何日間の絶食だったんですか?」
「うっさいわね、そもそも私がこんなに苦労しなきゃならないのはあんた達のせいでしょう。少しでも同情する気持ちがあるんだったら、お賽銭をガンガン入れなさいよ。」
相変らず巫女さんは無茶言うなあ。でも、みんながお賽銭を巫女さんに入れてあげないと、私もツケを返してもらえないから困る。タダで食べさせてあげれるほど私の屋台には余裕が無いんだよね。
「とは言え、無銭飲食は見逃せれませんね。だいたい貴方は私達のせいにしていますが、元はといえば貴方が精力的に活動をしないのが悪いのです。巫女の存在をアピールしないで神社が潤うと思っている方が間違っています。そもそも貴方の怠けぶりは」
あ、またまたお説教モードになった閻魔さんを天狗さんが止めてる。あわてて猫さんが閻魔さんにお酌をして、お説教を止められて不機嫌そうな閻魔さんも渋々引き下がっちゃった。天狗さんと猫さんありがとう、今日は割り引いておくね。
「それにしても霊夢さんは無銭飲食する気満々ですか。どうせ霊夢さんの事ですから、余りの空腹に耐えかねてそこら辺で食べれそうな物を探しているうちに八目鰻の串揚げの匂いに釣られてやって来たってな所でしょうけど。ミスティアさんが可哀そうですね。」
「ふん、ミスティアが哀れだと思うんだったらお賽銭を入れなさい。素敵なお賽銭箱は二十四時間年中無休で受け付けてるから。」
うわ、相変らず無茶苦茶言ってるよ。でも巫女さんも生きるのに必死なんだから強くは言えないし、空腹で困っているのを放っとけないし。
さて、それはそうとしてお賽銭不足で困窮している巫女さんを応援する為に、張り切って歌っていこうかな。
~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~
「あーあ、何で私がこんなに苦労しなきゃいけないんだろう。不公平だわ、何かが絶対に間違っている。」
「何もしないで食べていける訳ないでしょう。そもそも貴方と言う人はですね」
「止めましょうよ、映姫さん。霊夢さんに何言っても無駄ですって。むしろ勤勉になった霊夢さんなんて想像できません。多分幻想郷が滅びますね。」
「さっきから聞いてれば好き勝手言ってくれるわね、文。それにダラダラしていても食べていけてる連中がいるじゃない。レミリアとか幽々子とか紫とか輝夜とか。なんで私だけ楽して食べていけないわけ。不公平じゃない。」
「それはその人達の分まで頑張っている人達がいるからですよ。」
「良いなあ、私も欲しいわ。そういう私の代わりに全部頑張ってくれる人。ああ、せめて姉妹がいればなあ、全部押付けれるのに。」
「いい、橙。あそこで嘆いている巫女の姿をよく見ておきなさい。ああなったら人としても妖怪としても式としても終わりよ。間違ってもああはなっちゃ駄目ね。」
「うっさいわね。って橙も真剣に頷かない!」
~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~
「ねえ永琳、ふと思ったんだけどお腹が減らなくなるような画期的な薬とか無い?」
「無いけど、私としては巫女のサボり癖を治す薬を作る方に意欲をそそられるわ。二十四時間休み無く働き続ける巫女が出来たら便利かもしれないし。今度までに作っておくから、いっぺん試してみない?」
「・・・あーあ、有ったら便利だと思ったのにな。冬までもう時間が無いし、困ったわね。」
「冬になると何かあるんですか?」
「植物が枯れるじゃない。そこら辺に生えてる食べれる草や花とかで今まで飢えを凌いでいたって言うのに、これから何を食べていけばいいって言うの?」
「動物は・・・狩るのが面倒くさいって言いますか。冬になると弱くなるのは魔理沙さんだけだと思っていましたが、霊夢さんにとっては致命傷ですね。どうでもいいですけど、私の所にたかりに来ないでくださいよ。」
「橙の所も駄目だよ。藍様の作ったご飯を食べて良いのは、紫様と橙だけなんだからね。」
「誰かに寄生しなければ生きていけないなんて、まるで犬ね。皆に断られて路頭に迷うなんて、なんて哀れな犬。薬の実験台になるなら家で飼ってあげても良いわよ。」
「・・・永琳、あんたお酒入ると良い性格になるわね。って橙、お願いだから可哀そうな物を見る様な目で私を見ないで!」
~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~
「それにしても、食べるだけでお酒を飲みませんね。屋台だって言うのにお酒を飲まないなんて、ある意味冒涜ですよ。」
「うっさいわね、お酒みたいにお腹に溜まらない物なんか飲んでも意味無いじゃない。せっかくの機会なんだから、少しでも食べ物を詰め込まないと勿体無いでしょう。」
「まったく、その努力を何故もっと他の所に使おうと思わないのですか。こんな所で生きるか死ぬかの博打をしていないで、日頃からこまめに行動を起こせば良いだけなのに。」
「仕方ないわよ、きっと霊夢は飢えか死かの境界線上に立っていなければ落ち着かないのよ。ワイルドね。正気の沙汰じゃあないわ。」
「・・・私の久しぶりのまともな食事の邪魔をしないで。ああ橙、それもう食べないなら私に頂戴。」
「ううう、取られた。せっかく藍様にって思って取っておいたのに。」
「こら、子供の食事を取るとは何事ですか。少しは恥を知りなさい。」
「体面を気にしてお腹がふくれたら誰も苦労しないわ。私はね、生きていく為には子供だろうが神様だろうが容赦をするつもりは無いわ。貧困に喘いでいる人間の苦悩を理解できない苦労知らずのブルジャワは黙ってて。」
「・・・貧困の原因は間違いなく霊夢さんにあるんですけどね。それにしても、何故幻想郷にはこういう人達しかいないんでしょうね。橙さんも大きくなるとこういう風になっちゃうのでしょうか。」
「あら、それどう言う意味。詳しく教えて欲しいわ。」
「あ、いえ、何でもありません。タダの独り言です。気にしないでください。」
「いえ、聞き捨てなりません。丁度良い、少し説教をしましょう。ほら、霊夢も一緒にそこに並びなさい。」
「な、何で私まで!?」
「当然でしょう。霊夢は私達が苦労知らずのブルジョワだと言ったけど、私達が日々どれだけ苦労しているかこの際知ってもらうわ。安心して、拒否権は無いから。」
「ふえ、なんだかこの二人、怖い・・・」
寝ちゃった猫さんを迎えに来た狐さんを見送った後、残りの眠っている人達に毛布をかけて回る。天狗さんと巫女さんが憔悴しきった表情になっているけど、眠る前に自棄になってお酒を飲んでいたのに関係しているのかな。こう、逃げるように飲んでいたけど。
そろそろ冬の時期がやって来た。八目鰻の時期も、もうお終い。冬眠しちゃうから仕方が無いんだけど、しばらくこの屋台の看板メニューが消えちゃうな。
来春まで八目鰻は取れなくなるけど、それまでは歌を歌って過ごそうかな♪
~~~ミスティアの人物名簿~~~
ミスティア・ローレライ:私の事だよ。八目鰻は冬眠しちゃうけど、まだ取り溜めしておいた分があるから安心して。しばらくは通常営業をするよ。それと年末と年始も営業する予定だから、宴会の予約を受付中。
射命丸 文:常連中の常連さん。とりたてて普通に酔う良い妖怪だけど、たまに新聞の事で拗ねちゃう時があるの。そういう時は私が歌を歌って元気付けるんだけど、その時の飲みっぷりは必見物。通称、天狗さん。
四季映姫・ヤマザナドゥ:今回始めてのお客さん。私もちょっと苦手意識を持っていたんだけど、一緒に飲んでみると意外と良い人。でも説教魔を通り越して説教マシーン。意外にも薬師さんとの相性は抜群。通称、閻魔さん。
八意 永琳:今回始めてのお客さん。普段はちょっと冷たいイメージがあるんだけど、実は良い人。でも飲むと危険。笑顔で相手を辛らつな言葉でバッサリと切り捨てる、キラースマイル。閻魔さんと一緒に飲んでいるときは、更なる注意が必要。最近話題を呼んでいる薬は育毛剤で、なんでも効力が強すぎて乱用しすぎると危険だとか。通称、薬師さん。
橙:今回始めてのお客さん。まだお酒を飲む年齢じゃないので、この人の為に特別メニューを追加。って言ってもただのホットミルクだけど。本人以外は公然の秘密。後日談だけど、飲みに来た狐さんの表情が良くなった気がしたなあ。通称、猫さん。
博麗 霊夢:たまに来る常連さん。でも全部がツケで返済の見通しは立っていないの。飲むよりは食べるという人で、様々な条件で飲み屋の店主泣かせ。本当は酔うと頭の春度がアップするとかなんとか。毎年冬になると様々な伝説を樹立するらしい。普段はノンビリしていて良い人なんだけど、食べ物の事となると目の色が変わるから要注意。通称、巫女さん。
*私的設定として、酔った時の上戸を決めています。その他にも私的設定を満載してます。ご容赦ください。
*閻魔様の扱いに自信が持てません。ご了承ください。
今日も気に入った場所に屋台を運んで、営業準備開始。長椅子のセッティング、釜の火、赤提灯の灯、お酒の在庫確認、食材の仕込み、その他もろもろ多分良し。
さあ、今日も張り切って焼き鳥撲滅目指して歌っていこう!
~一人目と二人目~
追加注文のお酒と串揚げを用意するために、余り広くない厨房の中をポテポテと動き回る。さっきからこんな調子なので疲れてきちゃったけど、天狗さんが何時になく自棄になっているからなあ。天狗さん、今日はどうしたんだろう?
「ミスティアさん、お酒」
「お客さん、飲みすぎですよ。さっきから一気飲みばかりで、本当に体を悪くしますよ。」
「ほっといてください。それよりもお酒を。面倒臭いから瓶ごとで。」
仕方なく差し出した瓶をひったくる様にして取り、仰ぐ様にして一気飲みをしだす。これはいくら天狗さんでも、お酒が過ぎるんじゃないかなあ。まるでお酒の中に逃げようとしているけど、何か嫌な事でもあったのかな?
「お客さん、もう今日はそこら辺にしておいた方がいいですよ。そんな危険な飲み方ばかりしていると、体を壊しますよ。」
「いいんです、別に。三流新聞記者は酒に酔い潰れているのがお似合いなんです。酒に溺れて、博打に溺れ、借金して、嫁に逃げられて、身包み全部はがされて、人生裏街道爆走して、冴えない終わり方をするんです。ほっといてください。」
あー、うん、重症だね。何の例えだかサッパリ分からないけど、酷く荒れているなあ。今にも魂が飛び出てきそうだよ。
「人が体張って、幻想郷中を眠い目擦りながら奔走して、数々の妨害と弾幕を乗り越えて、残機数をすり減らしながら作り上げたのに、結局は三流新聞記者の書くことです。誰からも評価しませんし、誰も読む訳無いですよ。」
「たまにはそういう事もありますよ。次に頑張ればいいじゃないですか。誰でもそう簡単に毎回成功する訳じゃないんですから、元気出しましょうよ。」
うーん、どうやらこの間発行した新聞の状況が、あまり芳しくないみたいだなあ。よくここで酔っ払いながら愚痴っていたぐらい難航してたのに、結果は良くないのか。ちょっと可愛そうだな。
「やれガセだの、やれヤラセだのと根も葉も無い事で非難轟々。そりゃあ、私は三流新聞記者ですから、たいした事を書けないのは当たり前ですよ。だから取材に行けば弾幕放たれるし、負ければネガ没収されるし、勝てば後でデッチ上げ呼ばわりされるのも仕方ないですよ。所詮、三流新聞記者の宿命と言う奴です。」
「いつか、みんな分かってくれますって。少なくとも、私はいつも楽しく購読させてもらっていますよ。」
天狗さん、拗ねだしちゃっているなあ。歌を歌って心を癒してあげようかな?
「なんですか、その体たらくは。さっきから聞いていれば新聞の事でウジウジと。どうやらまだ私の教えを理解していない様ですね。」
あう、三途の川の向こう側で会った事のある閻魔さんだ。一度説教が始まると長いから、私この人苦手なんだよなあ。天狗さんもさっきまで落ち込んでいたのも何処吹く風、今は驚いているような少し怪訝そうな表情をしているし。
「驚きましたね。映姫さんとこんな所で会うとは。まさか、この屋台に対するガサ入れですか?」
え、ひょっとして私が何時まで経っても言われた事を守らないから、怒って屋台を営業停止処分にさせられちゃうのかな。衛生面とかその他色々な事で監察に来たのかな?
「今日は単純にお客として来ただけです。色々と評判を聞きましたから。しかし、仕事を忘れた訳ではありません。そもそも、新聞というのはですね」
「ああ、ちょっと待ってください。ここで映姫さんの長ったらしいお説教をしたら、この屋台に対する営業妨害もいいところです。それにですね、こういう場にお仕事を持ち込むのはどうかと思いますよ。」
ああ良かった。唸りながらでもお説教を引っ込めてくれたところを見ると、どうやら閻魔さんも分かってくれたみたい。今日の売り上げを諦めかけてたところだったよ。
「それにしても、映姫さんが屋台でお酒とは。意外を通り越していますね。」
「これでも私は働いている身です。雇用者という立場でもありますけど。仕事が終わったらお酒を飲みたくなる気分になるのは貴方達と変わりませんよ。」
うー、なんだか緊張するな。とりあえず高級なお酒とタレがよく効いた串揚げを出してご機嫌を取ろうかな。それと、墓穴を掘らないように気をつけないと。
さて、天狗さんの励ましと閻魔さんの歓迎の意を込めて歌を歌おう。
~♪~♪~♪~
「しかし、天下に名高き閻魔様と一緒に飲むとは思いもしませんでしたよ。と言いますか、閻魔様がわざわざ屋台まで飲みに来るとは思いもしませんでした。」
「私だってたまには外で飲みたいと思う時があります。家で飲むのも良いですが、職場から離れた所で飲みたい時もあるのです。」
「へえ、映姫さんでも仕事を忘れたい時があるんですか。顎で死神を使って、自分は椅子に踏ん反り返っているっていうイメージがあったんですけどね。気に入らない相手は皆地獄送りとか。」
「していません。それに小町を顎で使うも何も、やる気があるかどうか怪しい死神の背中をせっつく毎日。仕事どころじゃないのよ。」
「いいじゃないですか、楽が出来て。いざとなれば全部小町さんの責任にしてまえば良いだけですし。楽して儲ける、まるで税金泥棒のような生活じゃないですか。」
「何か勘違いしているようですが、私と小町のお給料は三途の川の渡し賃から来ているのです。ですから、小町がサボればサボるほどお給料が減るという訳です。どこかの家でゴロゴロしてるだけで食べていける方々が時々羨ましいと思うわ。」
「はあ、映姫さんって結構お金に苦労しているようですね。」
「これも全て小町が真面目に仕事をしないからです。他の同僚は皆ガンガン仕事をして一財産を築いていると言うのに、何故私だけが商品カタログを眺めているだけの毎日を過ごさなければないと言うの!?」
「・・・何故でしょうか。貴方に微妙に親近感を持ってしまうのは。」
~♪~♪~♪~♪~
「そう言えば、何故小町さんを使い続けているんですか。ちゃんと働かない死神なんて映姫さんの権限で首を飛ばしてしまえば良いじゃないですか。」
「それがそうもいかないのです。色々とありますし、小町をクビに出来るほどの理由も無ければしなければならない理由も無い。せいぜい減給程度でしょうね。」
「へえ、意外と寛容なんですね。私が正義ってな感じで言いたい放題やりたい放題だと思っていました。小町さんのお陰で仕事があまり来なくて、余りの暇さにかけて出張説教サービスまで始めていますし。」
「・・・貴方の私に対するイメージを後で問いたださせてもらいます。」
「まあまあそう言わずに、熱燗が冷めちゃいますよ。ああそうだ、そう言えばどうしてこの屋台に来る気になったんですか。やっぱり八目鰻の串揚げの噂を聞きつけて?」
「ええ、夜雀が営業している珍しい屋台の事を小町から聞きました。彼女に言わせればここの串揚げが絶品との事でしたので、鰻が冬に入って姿を消す前に一度食べてみたいと思ったのです。」
「そういえば、この前小町さんとご一緒させてもらいました。熱燗飲んで酔っ払っていましたけど、彼女はここの常連でしたね。」
「あの小町が足げにかよう理由が分かりました。確かにこの串揚げは美味しいですね。熱燗も悪くないですし。」
「・・・その様子だと、何だかんだと言っている割には小町さんの事を結構気に入っているんですね。」
~♪~♪~♪~♪~♪~
「そう言えば、映姫さんはよく誰かと飲みに行ったりとかするんですか。小町さんとか他の同僚の方々とか、友達とかと。」
「殆どありません。小町はたまに一緒に飲むだけで後は一人で勝手に飲みに行きますし、同僚とは殆ど会いませんし、昔の知り合いは誘っても断られますから。ひどい時は、お前が居ると場が重くなって酒が不味くなるって言われた事もあるわ。あの時はショックで二日寝込んで、後で絶対に地獄に送ろうと決めましたけど。」
「・・・とりあえず、気持ちは分からないでもありませんが職権乱用には反対しておきますね。しかし、そうですか。飲み仲間がいないんですか。」
「ええ、一人寂しく家で飲み明かす毎日です。閻魔の役職についてからはと言うものの、かつての友人が一人減り二人減り。やれ説教が五月蝿い、やれ睨まれると地獄に落とされるなど言われ、遂には皆から煙たがられたり避けられたりするようになったわ。」
「閻魔様と聞けば栄えある役職で、実は左団扇の成金主義で俺様正義の嫌な存在だと思っていたんですけどね。なんだかあまりパットしなくて楽しそうじゃありませんね。」
「やはり後で貴方を問い詰めるとして、実際には楽しい事なんてありません。体調が悪くても仕事は待ってくれませんし、生理的に受け付けれないような死人でも公平に裁かなければいけません。しかも、最近では難癖つけて弾幕撃ってくる輩もいますし、そういうのに限ってやたらと強いのです。たまに命の危険すら感じる時もあるし、ボロボロにされる時も少なくありません。ほんと、割に合わない仕事だわ。」
「そうですか。いつも変な難癖つける、実は世間知らずの可能性がある頭でっかちの変な人と思っていましたけど、そんな苦労をしていたんですね。いやあ、失礼しました。」
「非常に失礼されました。まあ、もう慣れましたから良いですけど。はあ、あの頃は閻魔という役職がこれほど大変だとは思いもしなかったわ。」
「・・・このお酒、私の奢りです。飲みましょう。」
ありゃ、なんだかしんみりとした雰囲気になっているなあ。何があったかは知らないけど、もうちょっと盛り上がる歌を歌えばよかったのかな。悪くない感じがするけど。
~三人目~
「今晩は。お酒を貰えるかしら?」
あ、また珍しいお客さんだなあ。ごくたまに竹林の方で見かける薬師さんで、月兎さん達の関係者。月兎さんからはあまりいいお話を聞かないけど、見た感じは悪い人には見えないんだけどなあ。
「これまた珍しい人が来ましたね。輝夜さんの傍にいなくても良いんですか、永琳さん?」
「私から見れば貴方達の組み合わせの方が珍しいけど。姫は今日は家で大人しくするようですし、何も四六時中姫に張り付いている訳じゃないわ。たまには息抜きにがてらに噂で聞いた屋台にでもって思ったのよ。」
へえ、薬師さんが来る気になるほど私の屋台って有名になっているのか。なんだか嬉しいなあ。
「それにしても、想像していたよりもちゃっちい造りね。ところどころ傷んでいるし、いかにも安物って感じがするわ。こんな屋台で本当に美味しい物なんか出せれるの?」
「・・・永遠亭のような豪邸を基準にしたら可哀そうって物ですよ。味の方は私が保証しますけど。」
ううう、手厳しい指摘だなあ。そりゃあ豪勢な造りじゃないし、たまに酔って暴れて壊す人がいるからボロッちっくなるけど、味の方は日々精進しているつもりだよ。私の歌と一緒に見返してあげる。
「貴方が映姫さんね。こうして話すのは初めてですけど、以前鈴仙がお世話になりました。」
う、何か今の言葉には裏が有りそうな感じがする。閻魔さんは何か計るような目つきになっているし、天狗さんは顔色が変わっているし。
「いえ、私がしなければならない事をしたまでです。ところで、貴方はある薬を作った事があるそうですね。禁断の秘薬と呼ばれる蓬莱の薬を。いいですか、そもそも不老不死と言うのはですね、」
あう、飛び交う弾幕、吹き飛ぶ屋台。辺り一面火の海に包まれるのが幻視できる・・・
「はい、ストップ。そこまで。こういう場ではそういう話を持ち出さないでください。って言うか、仕事は忘れて楽しくお酒を飲みましょう。ついでに過去の事もです。ね、ね?」
ふう、天狗さんの取り計らいでなんとか事無を得たみたい。危険なほどまでに下がっていた周囲の温度が戻っていくのを感じる。ありがとう、天狗さん。今日は割り引いておくね。
さて、また変な緊張に包まれないように心が穏やかになれるような歌を歌おう!
~♪♪~♪♪~♪♪~
「ふう、噂に上るだけあって意外と美味しいわ。特にこの串揚げ、タンピンとしてでも美味しいしお酒との相性も抜群ね。」
「流石は永琳さん、よく舌が肥えていらっしゃいます。ささ、お酒をもう一杯どうぞ。」
「どうしたのです、文。さっきから私達のお酌をしてばかりで。貴方の性格上そういう行動をするには裏が有るように思えて仕方が無いのですが。」
「有りません。有りませんから皆さんお酒を楽しく飲みましょう。ええ、飲みましょうとも。あ、ああ、そう言えばその後の胡蝶夢丸の売れ行きはどうです?」
「まあまあね。ナイトメアタイプと合わせてそこそこの売れ行きよ。もっとも、マイナー新聞の宣伝効果は殆ど無かったけど。鈴仙やてゐ達を使って地道に販売網を広げていった方が早かったわ。結局貴方の新聞は妖怪兎一匹分の役にも立たなかったって事よ。」
「あはは、笑顔でひどい事を言いますね。まあ事実ですけど。」
「胡蝶夢丸とは確か楽しい夢を見てストレスの発散を行う薬でしたね。まったく、嘆かわしい事です。薬の力を借りなくては満足にストレスを発散できないとは。そもそも薬という物はですね」
「ああ、映姫さん。お酒が空になっていますね。ささ、どうぞどうぞ。ああそれと、売り上げ増大おめでとうございます、永琳さん。」
「ありがとう。でも売り上げが伸びた分調合と材料調達が面倒臭くなってしまったわ。分かってはいたけど、商売を始めると結構どうしてもね。この際習慣性が非常に強いだけの単純な薬でも作って売ろうかしら。これ無しじゃあもう生きていけないってくらいの。」
「さらりと笑顔で怖い事言いますね。是非止めてください。」
~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~
「鈴仙もね、もうちょっと役に立ってくれると助かるのに。ここぞと言う時にいつも役に立たないのよ。まあ、ここぞと言う時に限らない話でもあるけど。」
「ははは、非常に手厳しいですね。鈴仙さんも必死になってやっている訳ですから、大目に見てあげてくださいよ。鈴仙さんは永琳さんじゃないんですから。」
「てゐは腹の底が見えないけど、あれはあれで使い道があるから良いのよ。兎達もてゐに従っているし。本当なら鈴仙がまとめるはずなんだけど、あの通りだから。薬の知識にしろ屋敷の事にしろ、いまいち使えないわね。」
「分かります、その気持ち。何度言っても真面目に働こうとしない部下は、本当に困ったものです。」
「あのー、映姫さん?」
「そもそも部下というのは、私達の言う事をただ率直に聞いていれば良いのです。変に自己流を振りかざさないで、言われた事を黙々とこなしていれば良いのです。やれと言えば異論を挟まずにやる、死ねと言われれば疑問を抱かずに死地に赴く。部下とは本来こうあるべきです。」
「あの、映姫さん・・・?」
「あら、貴方意外と話が分かるわね。そうよね、近頃の連中は口が多すぎるわ。大した事の無いくせに、要求だけは一人前。まったく、ふざけた話よ。部下に求められているのはただ従順で絶対服従という事だけ。それ以外は何も要らないわ。」
「あ、あの、永琳、さん・・・?」
「どうやら永琳さん、貴方とは気が合いそうですね。今日は気が済むまで飲みましょう。」
「ああ、御免鈴仙、御免小町。私にはこの酔っ払い達を止めれそうにありません・・・」
~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~
「姫もね、もう少し建設的な生活をしてくれればどれだけ助かる事か。仕事をしろとか家事を手伝えとかは言わないけど、せめて身の回りのことぐらいは出来るようになってもらいたいわ。」
「だらけきっていますね。いくら働く必要がない使用者の立場とは言え、善行は行うべきです。幻想郷中のゴミを拾って集めるとか、博麗神社にお賽銭を入れて来るとかでも良い、どんなに小さい事でも善行は行うべきです。」
「・・・何故そこに使用人の手助けをするとかお給料を上げてあげるとか仕事量を減らしてあげるとかが含まれていないんですか?」
「あら、何を馬鹿な事を言っているの。使用人が苦労するのは当たり前じゃない。これでもまだ慈悲を持っている分よ。」
「いや、もういいです。聞かなかったことにします。」
「あら、そう。しかし善行を行うという話はまず無理ね。姫にボランティア精神なんてあるはずが無いわ。せいぜい場がより混乱しない為に何もしないと言うのが関の山ね。」
「笑顔で輝夜さんをボロクソに言ってますけど、まあ確かに幻想郷はみんな自分の周りさえ良ければ世間なんてどうでもいいって人ばかりです。しかし、それを差し引いたとしても、いくらなんでも言いすぎなのでは?」
「あら、貴方は私が自己中心的な視野の狭い人間だとでも言いたいの?」
「あ、いえ、そういう意味で言った訳では・・・」
「どうしたのです。貴方は私もそうだと言いたい訳でしょう。貴方に言われるとは心外ですね。そもそも貴方という天狗は」
「勘弁してくださいよ・・・」
「じゃあ、この薬を飲んでみる。心に思っている事を何でも話したくなる薬。簡単に言えば、非常に強力な自白剤ね。この際貴方が私達の事をどう思っているのか、とことん追求させてもらおうかしら。」
あれ、なんだか天狗さんが閻魔さんと薬師さんの間で小さくなっている。顔も生きた心地がしていないって感じだし、どうしたんだろう?
~四人目~
「えーと、ここってお酒が飲めるんだよね?」
ありゃ、たまに会う猫さんだ。そうだよって教えたら何となく嬉しそうな緊張したような表情で椅子に座ったけど、猫さんにお酒を出してもいいのかな。後で狐さんに何か言われそうだけど。
「あら、橙じゃない。どうしたの、こんな夜分にこんな場所で?」
「あ、永琳さんに文さん、それに後の人今晩は。今日はちょっとお酒を飲んでみたいなと思って。」
うーん、お客さんに注文されたお酒を出さないのもなんだけど、猫さんにお酒を出してもいいのかなあ。何て言うか、まだお酒を飲んでいい感じがしないし。
「感心しませんね、子供の飲酒は。いくら式とは言え見過ごせぬものがあります。そもそもお酒と言うのはですね」
「むー、藍様と同じような事を言う。いっつも藍様は橙を子ども扱いしかしてくれないんだから。みんなで橙を子ども扱いしないでよ!」
うーん、なんだか変な事になっちゃっているなあ。閻魔さんも薬師さんもお互いに顔を見合しているし、どうしたものかな。天狗さんはやっと二人から解放された喜びに浸っているけど。
「えーと、じゃあ橙さんは本当にお酒を飲むために屋台に来たと?」
「そうだよ。あんな事で橙を怒る藍様なんか、知らない。だいたいいっつも藍様は橙の事を怒ってばかりだし、いい加減橙だってあったまにきたんだから。藍様をいっぱい困らせてやるんだ。」
あー、要するに猫さんは狐さんと喧嘩をして、家にいづらくなって屋台に来たと。それでなんだか意地になっちゃってお酒を飲むって言い出しちゃったんだな。なんだか微笑ましいなあ。頬っぺたをムーって膨らまして怒っているし。
でも、私も困った事に、お酒を飲む来満々な猫さんだけど流石にお酒を出すのは躊躇うなあ。どうしたらいいんだろう?
「それじゃあ、どうしてもお酒を飲むと?」
「うん、たくさんお酒を飲むまで橙は帰らないからね。いっぱいお酒を飲んで、橙は悪い子になるんだもん。」
さて困ったな。猫さんはお酒を飲むまでテコでも動かない様子だけど、やっぱりお酒を飲ませる訳にはいかないしなあ。どうせならお酒じゃなくて私の歌に酔わしてあげたいところだから、適当に誤魔化そうかな。
それじゃあ、猫さんをお酒じゃなくて私の歌に酔わしてあげる為に、情熱的な歌を歌っていこう!
~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~
「藍様ったら、いっつもそれは駄目だこれは駄目だってそればかり。いい加減やんなっちゃう。」
「はあ、教育熱心な事は良い事なのではないんですか。橙さんも未熟な訳ですし。放置されて野生化されるよりはよっぽどマシだと思いますよ、周囲の者としては。」
「むー、何よそれ。だいたい藍様のお説教を聞いた事が無いからそんな事が言えるのよ。藍様は橙の事を嫌っているから、毎日橙の事をあんなに叱るんだ。」
「ほう、お説教ですか。今はこんな事を言っていますが、真っ直ぐに育っている所を見ると教育は正しく出来ているようですね。いささか説教が足りないくらいですが。式を溺愛するのも良いですが、もう少し厳しくするべきですね。そもそも式と言うのはですね」
「うー、閻魔様は藍様の肩を持つって言うの?」
「人の説教の邪魔をしない。それに、そもそも事の発端はいつも貴方の方にあると言うのならば、多かれ少なかれ貴方に問題があると言うことです。それと勘違いしているようですが、叱ると言う事は貴方の事を本気で思ってくれているという事です。私は仕事ですが、どうでもいい相手に叱ってくれる者がいるものですか。よく考えて見なさい。」
「うー・・・」
~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~
「橙さんの話から藍さんが教育熱心だと言うことが分かりましたが、紫さんはどうなんです?」
「んー、紫様はいつも寝てばかりいるから別に。藍様と違って橙が何をしても大抵の事は許してくれるよ。寝ているのを起こしたりご飯を取ったりすると怒るけど。」
「予想通りの食っちゃ寝の生活ね。羨ましいわ、どうせ家でゴロゴロしているんだったら寝ててくれたほうが手間がかからなくて良いのに。姫にも一日中寝ててもらおうかしら。」
「・・・本当に永琳さんってさらりと笑顔で怖い事を言いますよね。まあそれは置いといて、あまり藍さんの世話を焼かせるべきじゃないですよ。唯でさえグータラな紫さんの事で手一杯なんですから。」
「そうね、本人も近頃脱毛が増えて困っているって言ってたし。あまり手を煩わしちゃあ駄目よ、取り返しがつかなくなるから。貴方だって帽子を脱いだらバイオハザード跡地が見えるなんて嫌でしょう。」
「詳しいお話を聞きたいところですが、流石に立ち入ってはいけない領域ですね。そうですか、そんなに藍さんは苦労しているのですか。」
「何もしない主に、元気一杯の式。唯でさえ家事全般で忙しい中主の思いつきに振り回され、式の世話に手を焼き、夜な夜な涙ぐましい努力を繰り返さなくてはならない毎日。私だったら遠慮するわね。」
「うー、藍様・・・」
~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~
「あらあら、来た時の威勢はどうしたの?」
「うー・・・」
「自分でも少しは自覚があったようですね。これで少しは現状が理解できたでしょう。まあ、甘えれるのは子供の特権ですから良しとしましょうか。それにしても、この娘ぐらい率直な部下が欲しい物です。どこかの死神もこの娘の半分の素直さがあれば良いのに。」
「そうね、うちの兎達も見習って欲しいわ。ついでに姫も別人格になるぐらい見習って欲しいわね。いっそうの事洗脳薬でも作ろうかしら。」
「・・・ああいう人達は放っといて、もう少し元気を出しましょうよ。ほら、せっかくミスティアさんが橙さんの為に特別にお酒入り牛乳を作ってくれたんですから、楽しくいきましょう。ほらほら、串揚げも冷めちゃいますよ。」
「うん、そうだね。でも、これっていつも飲んでる牛乳とほとんど変わらないけど、本当にお酒が入ってるの?」
「何言ってるの、入ってないと思うから入ってないのよ。貴方の様な子供には本格的に飲ませるわけには行かないから、微量のお酒を牛乳に入れているんだから。だからよく味わって飲みなさい。」
「そうそう、落ち込んでないでパーといきましょう。あれ、映姫さん、どうしました?」
「いえ、何でもありません。本来子供の飲酒よりも咎めるべき事なのですが、今は目を瞑る事にします。気が乗りませんが、今はそういう事にしておきましょう。」
ふう、どうやら猫さんは機嫌を直してくれたみたい。今は他のお客さんと仲良くしているよ。この分ならもう大丈夫かな。
でも少し残念なのだが、少しも酔った所が無い様子だけど、私の歌に酔ってくれなかったのかなあ。
~五人目~
「何ででも良いから、何か食べる物頂戴・・・」
う、博麗神社ご在住の巫女さんだ。たまに屋台にも来てくれるんだけど、今までにお金を払ってくれた事は無いんだよなあ。でも、今にも空腹で死にそうな顔をして来るから仕方なく串揚げを出しているけど、いつかツケを払ってくれる日は来るのかな・・・
「相変らずのサバイバル生活ですね。今回は何日間の絶食だったんですか?」
「うっさいわね、そもそも私がこんなに苦労しなきゃならないのはあんた達のせいでしょう。少しでも同情する気持ちがあるんだったら、お賽銭をガンガン入れなさいよ。」
相変らず巫女さんは無茶言うなあ。でも、みんながお賽銭を巫女さんに入れてあげないと、私もツケを返してもらえないから困る。タダで食べさせてあげれるほど私の屋台には余裕が無いんだよね。
「とは言え、無銭飲食は見逃せれませんね。だいたい貴方は私達のせいにしていますが、元はといえば貴方が精力的に活動をしないのが悪いのです。巫女の存在をアピールしないで神社が潤うと思っている方が間違っています。そもそも貴方の怠けぶりは」
あ、またまたお説教モードになった閻魔さんを天狗さんが止めてる。あわてて猫さんが閻魔さんにお酌をして、お説教を止められて不機嫌そうな閻魔さんも渋々引き下がっちゃった。天狗さんと猫さんありがとう、今日は割り引いておくね。
「それにしても霊夢さんは無銭飲食する気満々ですか。どうせ霊夢さんの事ですから、余りの空腹に耐えかねてそこら辺で食べれそうな物を探しているうちに八目鰻の串揚げの匂いに釣られてやって来たってな所でしょうけど。ミスティアさんが可哀そうですね。」
「ふん、ミスティアが哀れだと思うんだったらお賽銭を入れなさい。素敵なお賽銭箱は二十四時間年中無休で受け付けてるから。」
うわ、相変らず無茶苦茶言ってるよ。でも巫女さんも生きるのに必死なんだから強くは言えないし、空腹で困っているのを放っとけないし。
さて、それはそうとしてお賽銭不足で困窮している巫女さんを応援する為に、張り切って歌っていこうかな。
~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~
「あーあ、何で私がこんなに苦労しなきゃいけないんだろう。不公平だわ、何かが絶対に間違っている。」
「何もしないで食べていける訳ないでしょう。そもそも貴方と言う人はですね」
「止めましょうよ、映姫さん。霊夢さんに何言っても無駄ですって。むしろ勤勉になった霊夢さんなんて想像できません。多分幻想郷が滅びますね。」
「さっきから聞いてれば好き勝手言ってくれるわね、文。それにダラダラしていても食べていけてる連中がいるじゃない。レミリアとか幽々子とか紫とか輝夜とか。なんで私だけ楽して食べていけないわけ。不公平じゃない。」
「それはその人達の分まで頑張っている人達がいるからですよ。」
「良いなあ、私も欲しいわ。そういう私の代わりに全部頑張ってくれる人。ああ、せめて姉妹がいればなあ、全部押付けれるのに。」
「いい、橙。あそこで嘆いている巫女の姿をよく見ておきなさい。ああなったら人としても妖怪としても式としても終わりよ。間違ってもああはなっちゃ駄目ね。」
「うっさいわね。って橙も真剣に頷かない!」
~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~
「ねえ永琳、ふと思ったんだけどお腹が減らなくなるような画期的な薬とか無い?」
「無いけど、私としては巫女のサボり癖を治す薬を作る方に意欲をそそられるわ。二十四時間休み無く働き続ける巫女が出来たら便利かもしれないし。今度までに作っておくから、いっぺん試してみない?」
「・・・あーあ、有ったら便利だと思ったのにな。冬までもう時間が無いし、困ったわね。」
「冬になると何かあるんですか?」
「植物が枯れるじゃない。そこら辺に生えてる食べれる草や花とかで今まで飢えを凌いでいたって言うのに、これから何を食べていけばいいって言うの?」
「動物は・・・狩るのが面倒くさいって言いますか。冬になると弱くなるのは魔理沙さんだけだと思っていましたが、霊夢さんにとっては致命傷ですね。どうでもいいですけど、私の所にたかりに来ないでくださいよ。」
「橙の所も駄目だよ。藍様の作ったご飯を食べて良いのは、紫様と橙だけなんだからね。」
「誰かに寄生しなければ生きていけないなんて、まるで犬ね。皆に断られて路頭に迷うなんて、なんて哀れな犬。薬の実験台になるなら家で飼ってあげても良いわよ。」
「・・・永琳、あんたお酒入ると良い性格になるわね。って橙、お願いだから可哀そうな物を見る様な目で私を見ないで!」
~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~
「それにしても、食べるだけでお酒を飲みませんね。屋台だって言うのにお酒を飲まないなんて、ある意味冒涜ですよ。」
「うっさいわね、お酒みたいにお腹に溜まらない物なんか飲んでも意味無いじゃない。せっかくの機会なんだから、少しでも食べ物を詰め込まないと勿体無いでしょう。」
「まったく、その努力を何故もっと他の所に使おうと思わないのですか。こんな所で生きるか死ぬかの博打をしていないで、日頃からこまめに行動を起こせば良いだけなのに。」
「仕方ないわよ、きっと霊夢は飢えか死かの境界線上に立っていなければ落ち着かないのよ。ワイルドね。正気の沙汰じゃあないわ。」
「・・・私の久しぶりのまともな食事の邪魔をしないで。ああ橙、それもう食べないなら私に頂戴。」
「ううう、取られた。せっかく藍様にって思って取っておいたのに。」
「こら、子供の食事を取るとは何事ですか。少しは恥を知りなさい。」
「体面を気にしてお腹がふくれたら誰も苦労しないわ。私はね、生きていく為には子供だろうが神様だろうが容赦をするつもりは無いわ。貧困に喘いでいる人間の苦悩を理解できない苦労知らずのブルジャワは黙ってて。」
「・・・貧困の原因は間違いなく霊夢さんにあるんですけどね。それにしても、何故幻想郷にはこういう人達しかいないんでしょうね。橙さんも大きくなるとこういう風になっちゃうのでしょうか。」
「あら、それどう言う意味。詳しく教えて欲しいわ。」
「あ、いえ、何でもありません。タダの独り言です。気にしないでください。」
「いえ、聞き捨てなりません。丁度良い、少し説教をしましょう。ほら、霊夢も一緒にそこに並びなさい。」
「な、何で私まで!?」
「当然でしょう。霊夢は私達が苦労知らずのブルジョワだと言ったけど、私達が日々どれだけ苦労しているかこの際知ってもらうわ。安心して、拒否権は無いから。」
「ふえ、なんだかこの二人、怖い・・・」
寝ちゃった猫さんを迎えに来た狐さんを見送った後、残りの眠っている人達に毛布をかけて回る。天狗さんと巫女さんが憔悴しきった表情になっているけど、眠る前に自棄になってお酒を飲んでいたのに関係しているのかな。こう、逃げるように飲んでいたけど。
そろそろ冬の時期がやって来た。八目鰻の時期も、もうお終い。冬眠しちゃうから仕方が無いんだけど、しばらくこの屋台の看板メニューが消えちゃうな。
来春まで八目鰻は取れなくなるけど、それまでは歌を歌って過ごそうかな♪
~~~ミスティアの人物名簿~~~
ミスティア・ローレライ:私の事だよ。八目鰻は冬眠しちゃうけど、まだ取り溜めしておいた分があるから安心して。しばらくは通常営業をするよ。それと年末と年始も営業する予定だから、宴会の予約を受付中。
射命丸 文:常連中の常連さん。とりたてて普通に酔う良い妖怪だけど、たまに新聞の事で拗ねちゃう時があるの。そういう時は私が歌を歌って元気付けるんだけど、その時の飲みっぷりは必見物。通称、天狗さん。
四季映姫・ヤマザナドゥ:今回始めてのお客さん。私もちょっと苦手意識を持っていたんだけど、一緒に飲んでみると意外と良い人。でも説教魔を通り越して説教マシーン。意外にも薬師さんとの相性は抜群。通称、閻魔さん。
八意 永琳:今回始めてのお客さん。普段はちょっと冷たいイメージがあるんだけど、実は良い人。でも飲むと危険。笑顔で相手を辛らつな言葉でバッサリと切り捨てる、キラースマイル。閻魔さんと一緒に飲んでいるときは、更なる注意が必要。最近話題を呼んでいる薬は育毛剤で、なんでも効力が強すぎて乱用しすぎると危険だとか。通称、薬師さん。
橙:今回始めてのお客さん。まだお酒を飲む年齢じゃないので、この人の為に特別メニューを追加。って言ってもただのホットミルクだけど。本人以外は公然の秘密。後日談だけど、飲みに来た狐さんの表情が良くなった気がしたなあ。通称、猫さん。
博麗 霊夢:たまに来る常連さん。でも全部がツケで返済の見通しは立っていないの。飲むよりは食べるという人で、様々な条件で飲み屋の店主泣かせ。本当は酔うと頭の春度がアップするとかなんとか。毎年冬になると様々な伝説を樹立するらしい。普段はノンビリしていて良い人なんだけど、食べ物の事となると目の色が変わるから要注意。通称、巫女さん。
いつも楽しく読ませて頂いてます。
そっかぁー。もう、八目鰻の季節も終わりなんですね。
なんだかんだ言って、幻想郷の面々は苦労人が多いようで。
毎回酔いつぶれる文さんが可愛いです。
よかったら是非またなにか書いてください。お疲れ様でした。
相変わらずいい雰囲気で楽しませてもらいました(^^)
映姫さん、とてもよい味出していたと思います。説教してくれる人がいるっていうのは幸せなことだなあ……改めて、実感。
素敵なミスティアと、あったかい屋台に集う人妖たちのお話、ありがとうございました。
よい作品でしたが、残念です。
宴会の予約受付けとか言ってるからまだ続くと思ったんですが(;;
それぞれのキャラがよくたってるし、イメージどおりなのですごく楽しみでした。
ご苦労様でした。また違う作品でお会いできることを切にお祈りします。
この温かい雰囲気大好きでした。
また鰻が捕れる時期になったら………復活して欲しいな~と。(笑)
でも、またネタがあったら復活していただきたいものです
なんにせよ、ごちそうさまでした
お代置いておきますね つミ◎
特に霊夢はなんというか…すごいダメ人間っぷりが…。
それでこのシリーズも終わりなんですねぇ、おつかれさまでした。
会話だけでしっかりと情景を描写できているのはいいですね。
それはともかく、お疲れ様でした。次回作も期待させて頂きます
それにしても相変わらず酒が飲みたくなる作品ですね
次回があるなら期待してますよ!
春になったら復活するのをひそかに期待しておきますね。
とりあえず対価として点数入れときますね( ´∀`)つ[点]
愚痴と雑談と説教が織り成す雰囲気が目に見えるようで、とても面白いです。
蝙蝠な鴉天狗。相乗効果で増長する薬師と閻魔。成長する猫。そしてからっけつ巫女。キャラがメインで話の雰囲気を作っているはずなのに、雰囲気もまたメインとなっていますねー。
完結、お疲れ様でした。そして楽しい作品、ありがとうございます。
>最後のものがしょぼい物になってしまったのが心残りではありますが。
ということは納得いくできの作品はもっと面白いということだ! 自分でそう思えるのなら次はもっと面白くできますよー。
ああ、アバンティだ
って言うか性質悪いな薬師と閻魔w
終わってしまうのが残念ですが、ご馳走様でした~
宴会編が幻視出来ただけに悲しいです
今回の閻魔様が大好きです。小町とのツーショットが拝みたかったなぁ。
残念です~。
まぁ気がむいたら赤提灯シリーズを再び希望です
お酒みたいですね