Coolier - 新生・東方創想話

メイド長・咲夜さん

2005/11/21 13:49:52
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「わたしはメーイド♪ あなたのメーイド♪
そうじ せんたく おりょうり だんまく~♪」
 軽く鼻歌を歌いながら拭き掃除。お屋敷の顔とも言うべきロビーを掃除している。
 そう言う場所だけあって高価な美術品などもあるため、ここは案外馬鹿にならない場所だったりする。
 そんなわけで、メイド長たる私自身が直に掃除をしている。
「メイド長、ちょっとよろしいです…か?」
「♪あなたがのぞめb……っと、あら、何かしら?」
 と、たまには気持ちよく仕事をこなしていたのに、そこに新人のメイドが声をかけてきた。
 が、その顔は急に蒼白になる。私は笑顔を返してるだけなのに。
 ――手元から、金属が光を反射してるけど。
「あ、え、えと、この備品はどこに……」
 おどおどしながら新人の子は聞いてくる。
 見ると香霖堂から仕入れた銀だった。
 これを紅魔館で精錬し、武器に変える。主に使うのは私だけれど、最近では人間の
メイドたちにも銀の武器を装備させている。
「銀は武器庫の3番倉庫ね。この幻想郷では貴重なんだから丁寧に扱いなさい」
「は、はい、わかりました!」
 新人の子はぎこちなく返事をする。もはやかちんこちんだ。
「それから――さっき見て聞いたものは、忘れなさいね?」
「ひゃ、ひゃい!」
 にこりと絶対零度の笑顔を向けてあげると、声が裏返って妙な音になった。
 ちょっとやりすぎたかも。まあ、せっかく気持ちよく掃除していたところに割り込まれたんだし、
いいかな。

「メドイ長、ちょっといいですか?」
「何よ今度は」
 また呼ばれた。というかメドイ長って何よ。
 そんな暇なわけでもないので軽く目をやる。長くて綺麗な紅い髪。それに……聞き覚えのある
鈴の鳴るような声。あれ、でもこんなメイドうちにいたっけ?
「他に掃除とかするところないですか?」
「そうね…廊下とかまだ終わってないと思うからそっちにいって頂戴」
「りょうかいしました~」
 言うと、その子はたたた、と駆けていく。
 ――――って。

「ち ょ っ と 待 て」

 ぐわし、と腕を伸ばしてその子の頭を後ろから鷲掴みにする。
「いたたた痛い痛い痛い痛いですってば咲夜さん」
「美鈴! 貴女何やってるのよ」
 紅い髪の、鈴の鳴る声…それは美鈴だった。
 あまりにもナチュラルに話しかけられたから、最初わからなかった。
 というか。
「何ってぇ…門番の仕事も暇だから、たまには中でメイドさんの真似事を~と……」
 うつむきがちに言い訳する美鈴。
 そう。美鈴は、普段着ているような地味な色合いの服ではなく、鮮やかな紅のチャイナドレスに
エプロンをつけ、頭もいつもの帽子ではなく白いフリルのヘッドドレスをつけている。
 脚は黒のサイハイソックスをはき、それを色を合わせたガーターでとめている。
「貴女ねぇ…ええい突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込んだらいいやら。

とりあえず自分の仕事しろっていうのは当たり前すぎるから後回しにするとして、その服装は何?
確かに私たちメイドには基本的に『制服』として規定されているものはないわ。もっとも、
このお屋敷ではエプロンドレスが支給されるけどね。まあ支給品は支給品だからいいんだけど、
でもその派手な色の服は何? 私たちメイドは、あくまでも主人にお仕えする立場のものよ。
それがそんなに目立つ服でいいと思ってるの? 私たちはあくまでも控えめに主人の側に控えて
いなければならないのよ。白いエプロンは仕事に必要なものであるのと同時に私達の清廉さを
示しているのよ。そしてそのエプロンを止めるリボンは身だしなみ…って聞いてる、美鈴?」

「むぎゅう」
 変な声でうなったかと思うと、気がつけば私は美鈴の襟首を締め上げていて、彼女は
目を回していた。
「あら、失礼」
 ぱっと手を離してやる。すると、けほ、けほと美鈴は咳き込んだ。
「死ぬかと思いましたよ~」
「嘘おっしゃい、貴女なら湖の底に沈めても生きてるでしょうに」
「死にますって」
 美鈴の抗議は軽く流す。
「ともかく。貴女は貴女の仕事に戻――」
「あら、どうしたのそれ」
 私の言葉は、横からの声に遮られた。
「これはお嬢様。実は美鈴が仕事をサボって、あまつさえこんな格好をして――」
「へぇ、中国の服装にエプロンっていうのもなかなかに似合うわね。スキマ妖怪のところの
式がこの国の服にエプロンをつけた『割烹着』を着てよく似合ってるのと同じなのかな」
 お嬢様に美鈴の懈怠ぶりを報告しようとするのだけど、肝心のお嬢様が美鈴の今の服装に
興味を持って、間近でじーっと見ている。
 ……なんとなく、美鈴に殺意を覚えた。うん、私は間違ってない。
「えへへ、そうですか?」
 なんて、美鈴は美鈴で無邪気にうれしそうにしてるし。やっぱり後でナイフの刑。
「そうね…気に入ったわ。今日からこの服装をうちのメイドの制服として採用しましょう」
「な……」
 思わず、絶句。

「あんですとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
























「あー? 今日は門番もサボりか」
 例のごとく図書館へ強奪という名の貸借をしにきた魔理沙は、いつもと違う紅魔館の
門の様子を見てつぶやく。
「ま、楽に入れるのはいいことだーね」
 言って、門をくぐり扉を開ける。
 ちなみに、世では招かれざる客が断り無しに入ってくることを不法侵入という。






「いよーぅ。今日も勉強しにきたぜ」
 ……いや~な声がする。こんな時に限って。
 人様の家に平気で不法侵入した挙句こんなことを声を大にして言える。
 そんな奴は、魔理沙しかいない。
「おーい咲夜、いるんだろー? お茶でも出してくれよ~」
 そんな具合に傲慢不遜な言葉を吐き出してくる。これが普段だったら迷わず殺人ドールを
ぶっ放すところだけれど……
「おーい、さく…や…?」
 そして、見つかった。本当なら見つかりたくなかったけど、こそこそしたくもないし、
まして仕事がはかどらないから隠れるわけにもいかない。
 でもって、私を見るや否や…魔理沙の言葉が途切れた。
「……うぅ、何よ~」
 鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている魔理沙に、いたたまれなくなって口を開く。
 すると魔理沙は、ぽかんと口を半開きにしたまま、人差し指を立てて私を指差す。
「いや、お前、そのカッコ……」
「~~~~っ」
 息を呑むような声をあげてしまう。

 今の私は――
 鮮やかな蒼いチャイナドレスに、フリルエプロン、そしてヘッドドレスという、割とありえない
組み合わせの服を着こなしていた。
 ちなみに脚は白のサイハイソックスをはいてたりする。お嬢様たってのご命令だったので、
逆らうわけにもいかず……でもって、なぜかガーターベルトも着用らしくて……
 服のすそが、膝元ぐらいまであるのが、せめてもの救いなのかなぁ……
 でも、スリットは割りと深くて……

「ど、どうしたんだ? いつものメイド服は」
「メイド服なんてものは存在しないわ。紅魔館の従者向けの支給品ならあるけどね。
まあ、それはともかく。これはね、その……お嬢様の、お戯れなのよ……」
「お戯れぇ?」
 私の言葉に、魔理沙は大げさに鸚鵡返しに言葉を返してくる。
「美鈴がね、仕事サボって、彼女の民族衣装にエプロンとヘッドドレスをつけて、館内でメイドの
真似事をしてたのよ……それを見たお嬢様がね、その衣装をいたく気に入られたらしくて……」
「あー、だからすんなり入れたのかぁ…」
 魔理沙はぼそっとつぶやいてから、はっとしたように口をふさぐ。
 が、もう遅い。その言葉に、私も気付いてしまったから。
 ……なんとなく、いつもの完全で瀟洒な私らしくない気はするけど。
「美鈴が役に立たないんだから仕方ないわ、館内への不法侵入は認められない。
出て行ってもらおうかしら」
 双手の指の間から銀の刃をのぞかせて、言い放つ。
「いや、ちょ、待て、落ち着け。今日は本を返しにきたんだって、本当だ! 早まるな咲夜!」
 魔理沙はあわてて両手を振って言うと、証拠とばかりに懐から本を取り出す。
 それを見て、動きを止める。多分私は大きく眼を見開いているんだろう。
 『ありえないものを見た』とばかりに。
「今日は土砂降りかしら、それとも……えーと、お赤飯を用意したらいいのかしら」
「何かすごい失礼だなおい……ついでに言うと、赤飯は祝い事のときに用意するもんだ……」
 ジト目になりながら、しかし盛大に疲れた感じで魔理沙は言った。
 それにあわせるように、私もナイフをしまい、その手で頭をかいた。なんだか、調子が狂う。
「まあ、その、何? ちゃんとしてくれるんなら、パチュリー様に取り次いであげるわ。
もっとも、返す分、ごっそり奪い取っていくんでしょうけど」
「うっ」
 最後のほうを嫌味たらたらに言ってあげると、魔理沙は図星を突かれたようにぎょっとした。
 結局そうなのか、あんたは……



「パチュリー様、魔理沙が見えておりますが、いかがいたしましょうか」
 図書館のドアをノックし、要件を告げる。
「いよ~う、パチュリー! 今日も勉強しにきたぜ!!」
 と、横からいきなり大きながさつな、だけれど女の子らしい声。
「ってあんた、何取次ぎ中に顔出してるのよ!!」
「いいじゃんか、どうせ勝手に上がりこむつもりだったし」
 突っ込むと、しれっとした表情で魔理沙は言い放つ。
 こいつ、いつか一度徹底的に白黒つけたほうがいいのかしら。
 って、黒白は魔理沙のことだったわね。

「かまわないわ。入って頂戴」

 と、中からパチュリー様の声がした。お許しが出た以上、ここはぐっとこらえるしかない。
「失礼いたします」
「お邪魔するぜ」
 私と魔理沙は、言葉はともかく態度は対照的に図書館の扉をくぐる。


 だけれど、二人同時に吹いた。


「パ、パチュリー様!? そ、その格好はいったい……」
「パチュリー、お前……」
 そして二人同時にパチュリー様に言葉を投げかけるわけで……
「あら、何かおかしい?」
 なんて、本人は小首を傾げて返してくるわけで。

 ――手元の豪奢な扇で口元を隠して。
「いや、そりゃそうだろ! 他の連中ならいざ知らず、おま、お前が、
いつものネグリジェじゃなくてチャイナドレスだとおっ!!?」
 魔理沙がパチュリー様を指差して叫んだ。やたら煩いぐらい耳元で叫んだ。
 パチュリー様を指差したことや、煩い声を図書館であげたことを、普段の私なら光の速さを
超えて警告しただろう、実力行使で。
 だけれど、私も目前の光景に、ただただ口を開いてぽかんとしているばかりだった。

 紫を基調とした、赤――というよりはピンクのかかったチャイナドレス。足元まで届く
その長いドレスには、ところどころきらびやかな刺繍が縫い付けられている。
 そして極めつけは――スリット。深い。深いなんてもんじゃない。どう見たって足の付け根は
おろか、腰ぐらいまであるとしか思えないそのスリット。
 パチュリー様のほっそりした身体と、それと不釣合いな豊かな胸があいまって――セクシーと
いうよりむしろ淫靡という言葉が似合いそうなぐらいの色気をかもし出していた。
 ちなみに脚に特にサイハイソックスとかははいてない。まったくもってはいてない。でもって、
ハイヒール。
 そんなおみ足は、優雅にたっぷりと足を組むパチュリー様の姿勢によって、これでもかと
いうぐらい露出していた。

「あら、レミィが館のほうにチャイナドレス着用令を出したんでしょ? それならせっかくだし
私もって思って。そもそもが、かつて最強の策士と謳われたメイド兼薬師は、
自らの最終奥義の際にチャイナドレスをまとってガード不能の超必殺技を叩き込んだらしいわよ」
「そ、そうだったのか……って、あー、うーん」
 パチュリー様の妙に力強い解説に押されて、さしもの魔理沙もたじたじになる。
 まあ、その解説も……うーん、間違ってはいないと思うんだけど……
「それで、今日も強奪にきたの?」
「あ、ああ、そう……いや、なんでそうなる?」
 何もいえないでいる私たちに対して、パチュリー様は話を進める。
 出だしから、鋭い台詞を突きつけるけれど。
「持っていったまま返さないのを、世間では泥棒って言うのよ」
「だから、今日はほら、この通りちゃんと返しにきたって」
 ジト目のパチュリー様に、魔理沙は本を取り出しながら弁解する。それを見たとたん、
パチュリー様の表情が見る見るうちにあっけに取られたそれに変わっていく。
 やがて我に返って大きく息をすると、私のほうへと顔を向ける。
「咲夜」
「はい」
「今日のレミィは博麗神社へは行けそうにないわね。雨が降って」
「かもしれないですわね」
「いやだからなんでそうなる!?」
 私達の会話に猛然と魔理沙は抗議してくる。哀れを覚えなくはないけれど、これも日ごろの
行いによるところ。あきらめろと言うしかない。
「まあ、今後もちゃんと今日みたいにしてくれるなら、お客様として迎えてもいいわ。
いつも言っていることだけれど、館内では静かにしてね。それから、本はあっちのカウンターで
小悪魔に返しておいて頂戴」
「わかった…なんか調子狂うなぁ」
 目を細め、ぽりぽりと頭をかきながら魔理沙はカウンターのほうへと歩いていく。
「おーい、小悪魔。借りた本はここ置いておくぞ」
 言われたそばから大きな声をあげて小悪魔を呼ぶ魔理沙。こいつに人の話を聞くという
スキルはないのかと思ってしまう。
 でも、そこでふと気付く。どうも小悪魔は司書室にいるようだけれど、小悪魔って
いつも館内の整理で忙しくなかったっけ? そういえば今日は、姿を見ていないような。
「う…うぅ…魔理沙さん、そこにおいてくれるだけでいいですよ、後で片しておきますから」
 なんて思っていると、司書室からひょっこりと、小悪魔が顔をのぞかせた。拍子に
赤い髪の毛がゆらりと揺れる。
「て、何やってるんだお前? 隠れたりしないでちゃんと出てくればいいじゃないか」
「……い、今は嫌なんですっ!」
「あー? 姿を見せられないほど恥ずかしい状況なのか、今」
 魔理沙が言うと、小悪魔はぎくりとして表情を青ざめさせる。それを見た魔理沙は、逆に
自身が驚いていた。図星を言い当てたのか、と。
「小悪魔。今日はちゃんとしてくれているのだから、お客様をお出迎えしないと失礼よ。
それに、貴女今日はずっと司書室に引きこもっているじゃない。こっちにもこないと、仕事が
はかどらないでしょう?」
 と、横からパチュリー様が口を出してくる。その言葉に、小悪魔は観念したかのように
目を伏せる。
「うぅ……わ、わかりました……」
 ゆっくりとおどおどしながら司書室の入り口から姿を現す小悪魔。


 そして、その姿を見て、私と魔理沙は盛大にずっこけるわけで。


「ちょ、小悪魔!? 貴女、いくらなんでもその格好って……」
「ぶっ!? って、お、お前もなのか小悪魔!?」
「だ、だから嫌だったんですよぉ……」
 私達の突っ込みを受けて、小悪魔は顔を真っ赤にしてうつむき、顔を背ける。
 ――両手で、丈の短い服のすそを、押さえて。

 いつもの黒のベストに白のワイシャツ、赤のネクタイ、そしてゆったりとした黒の
ロングスカートという清楚な服装もどこへやら。
 今の小悪魔の身を包んでいるのは、黒のチャイナドレス。
 それも、すその丈が短い。どれぐらい短いかというと、それこそ腰よりちょっとしたぐらい
までしかない。その癖にしっかりとスリットは入っているので、動くたびにどきどきしてしまう。
 その一方、小悪魔の健康的な脚は、黒のオーバーニーソックスで覆われていた。その分、
服とソックスの間の領域が、ひどくなまめかしくて。

「そ、それはパチュリーが着ろ、と?」
「……うー」
 半ばぐずりながら、魔理沙の言葉を受けた小悪魔は自分の主人へと視線を向ける。
 恨めしげでもあり、恥ずかしさも混じり、それらが涙のようなもので潤んでいる目で。
「レミィが言ったことなんだし。それにあなたもたまには違う服装してみるのもいいんじゃない?
いつもあの格好だと代わり映えしないでしょ?」
「しなくていいです……」
 まったく訴えを気にかけてくれない主人の言葉に、小悪魔は盛大にため息をついた。
 仕方ないです、あきらめてます、と、表情や仕草全体が言い表していた。

「それにしても…貴女、今日は全然仕事してないのね」
 言いながら私は辺りを見回した。
 ぼんやりとした室内の照明は、ふわふわと浮かぶ埃を浮かび上がらせる。
 辺りの本も片付いておらず雑然としているし、今日一日まったく仕事に手がついてない状態
なのが良くわかる。
「だって…しょうがないじゃないですかぁ」
「やれやれ、しょうがないわね……私が手伝ってあげる」
「いいんですか、咲夜さん?」
 手伝いを申し出ると、嬉しそうにしつつも意外そうに目を見開いて小悪魔は言う。
 そんな小悪魔にため息をついてから、いつもの表情を直して向き直る。

「当然でしょう? 私は完全で瀟洒なメイドだもの。主人のご友人のお部屋を、
汚れたり散らかったままにしておけるもんですか」



 せっせと広い館内を飛び回って、雑巾がけ。
 何しろ半端じゃない広さを誇るこの図書館を綺麗に拭き掃除するには、手際のよさとスピードが
要求される。
 四つ折にした雑巾が汚れたら、それを裏返して。また汚れたら、今度は反対に折りなおして。
一面使い終わったら裏面を、また四つ折にして。それも使い終わったら、水でゆすいで。
 それが終わったら箒とちりとりで塵を集める。散らばらないように、一箇所に集めていく。
 さっさっさと乾いた音が小刻みに響く。同じところをずっと掃いていても仕方ない。
だから、スピードを上げて全体を掃くほうが効率が良い。

「「――――」」

 そこで、ふと視線に気付いた。
 小悪魔や魔理沙が、感心したようにこちらをじっと見つめている。
「……何?」
 近くにいる小悪魔に声をかけると、彼女は夢から覚めたかのように鋭く息をついて正気に返る。
 その拍子に、手に積んでいた本を危うくぶちまけそうになる。
「あ、えーっと……咲夜さんって、すごい手際いいなぁって……」
「当たり前でしょう? これが本業なんだから」
 今更何を、といわんばかりに答える。私はこの紅魔館を仕切るメイド長。その私が、みんなの
模範になれるぐらいの能力がなくてどうしようというのだろう。
「それに、よくもこの服装でそんなに仕事できるなぁって……」
「なれれば何とでもなるわ。服装なんてその場その場でいつもと違うことがあって当然だし。
どんなときでも、仕事を平然とクールにこなせてこそ、一人前のメイドよ」
 確かにこの服装は…少し気恥ずかしい気もするけれど、かといってそれを理由にして
仕事の能率を下げているようでは半人前なのだ。
「で、何をボサっとしているの小悪魔? 私は誰の手伝いをしているのかしら」
「あ、そ、そうでしたっ! ごめんなさい!」
 鋭く刺し込むように睨んであげると、声を裏返して慌てふためいて小悪魔は仕事に戻った。
 手に持った本を本棚に戻すため、棚を探す。割と高いところに置いてあったもののようだ。
 と、突然その手がとまる。ゆっくりと、こちらへ顔を向ける。
「……のぞかないでくださいね?」
「誰がのぞくのよ」
 その台詞を聞いて、思わず顔を手で支えてしまうぐらいあきれた。
 この環境で何を気にするのか…とも思ったけれど、恥じらいがあるだけ小悪魔は
常識人なのかもしれない。
「安心しろ、私が見てるからな」
「だからやめてくださいってば!」
 ここぞとばかりに茶々を入れる魔理沙。噛み付くように言う小悪魔。
 本当、どうしてこういうところで煽るのかしらね、コイツは。

「しかしあれだな、いつも見慣れた服じゃないから違和感を覚えるが、こうして手際よく
掃除したりしているのを見ると、やっぱり咲夜はメイドなんだなって思うよ」
 一通り小悪魔をからかった後で、魔理沙は唐突にそんなことを言い出した。
「どういうことよ? 今の私は、見た感じ、メイドに見えない?」
「いやぁやっぱりさ、今だってエプロンはしてるけど、やっぱいつもの『メイド服』じゃないしな。
なんかまるで別人に見える」
 そんな魔理沙の言葉を聴いて、思わず盛大にため息をついてしまう。
 こいつもそうだし、美鈴なんかもそうだけど……メイドを何だと思っているのだろう?
「じゃあ魔理沙。逆に聞くけど、普段の私と同じ服装を貴女がしていたとして、そのときの貴女は
メイドといえる存在なのかしら?」
「え? あーっと、それは……」
 私の問いかけに面食らったのか、魔理沙は口に言葉を詰まらせて答えられない。
 大方予想通りだったので、さして間を空けずに私は口を開く。

「つまりそういうことよ。『メイド服』なんて様式化したモノなんて存在しないの。
ただ紅魔館においては、一般的な『メイド』のイメージに合致したエプロンドレスが制服として
採用されているに過ぎないのよ。その機能として、とても優秀だから。
つまり、一般的な『メイド』のイメージに合致した服装なり、紅魔館の制服なりを貴女が
着たところで、貴女は『メイド』ではないわよね? だって貴女は『魔法使い』だもの」

 そこまで誰にも割って入らせない勢いで言ってのける。その言葉に、魔理沙も、小悪魔も、
パチュリー様までもが呑まれて何も言えないでいる。
 いえ、パチュリー様だけは、現場の人間の語る言葉として、自分の知識を認識しなおすかの
ようにしてうんうんとうなずいていた。
「そうね……もしもその服を着てその存在になれるなら、コスチュームプレイでだって、
あるいは私や小悪魔や魔理沙でだって、その服を着さえすればメイドになれてしまうものねぇ」
 独り言のように言って、パチュリー様は大きくうなずいた。
「そういうことです。だから、いつものエプロンドレスをしておらず、美鈴の故郷の民族衣装に
身を包んでいようとも、私はメイドなのよ。レミリアお嬢様に『お仕えする』ね」
「じゃあ、『メイド』っていったい何なんだ? ただの従者なのか? それなら妖夢だって、
美鈴だって、ウドンゲやてゐみたいなのも『メイド』って言えそうだが」
 私の説に、魔理沙が尋ねてくる。彼女の言うことは、もっともだといえよう。制服を纏うことが
メイドたる証でないならば、従者であることなのか、という考えはわからなくもない。
 けれどやはりそれは、大切な要素が欠けている。ゆえに魔理沙の言うことは、正しくない。
妖夢も美鈴もウドンゲもてゐも、みんな『メイド』とはいえない。
「そうね……まずは主人と一緒に生活するのが大前提といえるかしら」
「それだけだったら、私が挙げた連中はふるいに落とされないな」

「でも、彼女らにはそれぞれの領域があるわ。妖夢は庭師だし、美鈴は門番。ウドンゲは
輝夜との関係で見れば食客と言ってもいいぐらいだし、永琳との関係でみれば弟子よ。
てゐは永遠亭の兎たちの統括。それぞれ、主人たる存在とは独立して己の存在を自立させている
ともいえるわ。
逆に言えば、メイドという存在は主人を前提としている、とも言えるかしら。
主人とともにあり、そこに存在することに意味を見出すことができる存在、それがメイドよ」

 一つ一つ筋道を正して言うと、三人はそれぞれ魅入られたかのように聞き入っていた。
 思わず苦笑してしまう。今、彼女らの時は私のものになっている。言葉を語るこの空間は、
私だけの独壇場。咲夜の世界。
「じゃあお前は――レミリア無しに、自分の存在を定義することはできないと?」
「そうね……『十六夜 咲夜』という名前も、今こうして生きていられるのも、お嬢様のおかげ。
私はもとより人の中からははみ出てしまった存在だし。少なくとも、人の中に在って『私』という
存在を定義し、価値を見出せるとはあまり思っていないわ。
お嬢様にお仕えして、お嬢様のおそばにいて、そのお力となり、その半身として生きること。
それが私の存在、かしらね」
 鋭い銀のナイフを、鮮やかに切り込ませるかのように、はっきりと言い切る。強くもなく、
弱くもない言葉で。だけれどそれは、揺るぎのない心に満ちている。
 誰も口を開かなかった。まさかメイドという存在に、それほどの重き意味があったとは思いも
よらなかったのだろう。
 だけれどそれは、本当はどんな存在といえども持ち合わせている重さなのだ。

 例えば魔法使いである魔理沙にも。
 例えば魔女であるパチュリー様にも。
 例えば使い魔である小悪魔にも。

 なぜなら、それはとても簡単な言葉で言い表せるものだから。

「なあ、咲夜。それじゃあ、メイドって、いったい何なんだ?」
 ようやく口を開いたのは魔理沙。その言葉に、思わず苦笑してしまう。何を聞いていたのだろう。
 多分、みんなうすうすわかっているはずなのだ。だけれど、うまく言葉にできていないだけ。
 でもせっかくだから、答えてやることにした。
 その場の空気を払拭するかのように、軽く息を吐いて、空気を流す。
 ふわりとそよぐその空気の中を、私は三人を目の前に改めて姿勢を正す。
 柔らかな微笑みを浮かべて、優雅に一礼をして、口を開く。


「メイドというのは生き様よ。生き方とも言えるかもしれない。
主人に仕えることで己の存在を見出すもの。そう言う生き方をし、主人とともに歩き続けるもの。
主人の望みに応じて、いかなる仕事も完全に瀟洒にこなす。だけれどそれは、主人とともに
在るものとして、当然付随的についてこなければならないものに過ぎない。
主人に依存し、その影のように在り、太陽の光を受けて輝く月のような存在。

それが――メイドよ」

 主人の輝きを受けて存在する影。
 眩しいレミリアお嬢様の命の輝きをうけて時を刻む月時計。
 それが私・十六夜 咲夜。


 私の言葉が終わっても、誰も何も言わないでいた。
 じーんとするような空気だけがそこにある。魔理沙も、パチュリー様も、小悪魔も、
瞬きすら忘れて、私へと見入っていた。
 その空間は、時が止まっていた。魅入られることで、誰もが時間を感じられずにいた。
 私の世界に、誰もが魅入られていた――


「すいませ~ん、おやつをお持ちしました~」


 ――なんて世界は、長く続かなかった。
 私の世界は、いともあっさり侵入者によってバラバラに壊されてしまった。
 その悪気なんてかけらもない、明るい声で。
 入ってきたのは美鈴だった。台車におやつを載っけて、図書館に入ってきたのだった。
 その美鈴本人は、『間が悪かったかな?』とばかりにばつの悪そうな顔をしている。
 私自身も一瞬あっけに取られたけれど、すぐに理性を取り戻す。
 メイドは影。いつまでも主役でいてはいけないのだから。ここで、私の独壇場の劇は、いったん
幕を下ろそう。
 美鈴のそばに寄っていき、お客様と主人のご友人とその使い魔へ向けて、完全な笑みを向ける。


「さあ、ティータイムにいたしましょう。取って置きの紅茶を振舞いますわ」






 コトリ、と滑らかな音を立てて、お皿が並べられていく。
 お皿を並べているのは美鈴。彼女が動くたびに、やわらかく滑らかな長い髪の毛が、
草原がそよ風に吹かれるようにしてゆれる。一緒に、ふわりとシャンプーのいいにおいがする。
 今の美鈴の服装は、普段の割と地味な色合いのツーピースのドレスとは違う。
 鮮やかな、彼女の髪色に似た紅。ゆったりとしていて服の裾は足首まで届いていて、
深いスリットがセクシーさをかもし出している。
 胸元はほんのり開いており、そこからのぞく豊かな胸は、よりその艶めかしさを増していた。
 ちらりちらりとのぞくその脚は黒のサイハイソックスをはいていて、それをガーターベルトで
つるしていた。
 ただ、この服は、裾が広くサイドが大きく開いている。それを腰帯でぎゅっと縛ることで
補っているのだけど……
「? どうかしました、咲夜さん?」
「いえ……」
 いつの間にか私はじっと美鈴を見つめてしまっていた。それに気がついた美鈴が何事かと
聞いてくるけれど、あいまいに返事をしただけで打ち消した。
 サイドが大きく開いているこの服。とどのつまり――美鈴のような豊かな胸であればこそ、
着こなせる服だということ。
 ふと、目線を落とす。
 私とて人並みにはあるのだけれど、こればかりは……ね。
「おいしいなこれ。これは…果物を使ったプリンか?」
 そんなことを思っていると、早くもおやつに手をつけた魔理沙が、口の中にものを含んだまま
言った。行儀が悪い。
「ええ、そうですよ。これはマンゴーを使ったプリンですね。さっぱりした果肉が
ちょうど良い具合でおいしいでしょう?」
「んむ、んむ…意外だ、お前がこんなもの作れるなんてな」
「一言余計です」
 魔理沙の言葉に眉を寄せて美鈴は釘をさした。もっとも。そんな言葉も小うるさいと
言わんばかりの表情をして、魔理沙は聞き流しているけれども。
「でもこれはおいしいですよ美鈴隊長。細切れになったマンゴーの食感が、歯ごたえが良くて
とてもいい感じですよ」
「小悪魔の言う通りね。これならおかわりもほしくなるぐらいだわ。
ただの門番かと思っていたけど、人は見かけによらないものね」
「パチュリー様まで……」
 はぁ、とため息をついて美鈴は両腕をだらんとさせて気を落とした。
 意外な一面を見せても、所詮いじられる役回りというのは変わらないのだろう。
「まあまあ、美鈴いじめもその辺にして、紅茶でもいかがですか?」
 そこへティーポットを持って割ってはいる。後ろで美鈴がいじめられてませんとか
言っている気がするけれど、聞かなかったことにして無視する。
「ちょうど飲み物がほしいと思っていたのよ。いただけるかしら」
 真っ先に言ったのはパチュリー様だった。その求めににこやかに答え、すっとパチュリー様の
後ろに立つと、静かにティーカップに紅茶を注いでいく。温かな湯気が、立ち上った。
「……おいしい。咲夜、貴女も座っておやつをいただいたらどう?」
 紅茶に口をつけたパチュリー様が、不意にそんなことを言い出した。
「ありがたいお言葉ですけれど、しかし……」
「いいんじゃないか。一人でも多いほうが、楽しいティータイムにと思うぜ。遠慮しないで
咲夜も席についたらどうだ?」
 遠慮する私に言葉を言い募ったのは魔理沙だった。その言葉は妙に力強く説得力がある。
「咲夜さん、ちょっと多めに作ってきちゃいましたから、一緒にいただきましょうよ。
みんなこう言ってくださってるんですし、好意を無下にするほうが悪いですよ」
 すでに席についていた美鈴も、一緒になって勧めてくる。そう言われると、断り続けるほうが
角が立つ。
「そうね…じゃあ、私もいただこうかしら」
 ちょっぴり遠慮がちに笑いながら、私も席をいただくことにした。

「あら、これ本当においしい……美鈴、これ作り方を教えて頂戴。お嬢様にも是非召し上がって
いただきたいから」
「あ、えーっとですねぇ」
「わ、魔理沙さん、私の分取らないでくださいよ!」
「小悪魔の癖にぼーっとしてるから悪いんだ」
「……あなたたちは少し静かにできないのかしら、特に魔理沙。貴女よ貴女」
 図書館での、いつになく賑やかなティータイム。
 ちょっと普段と違った服装で、そんな時間は穏やかに流れていく…………






 夜。
 お嬢様の時間。その時間にあっては、私はそのそばに侍り、主人を遮らないようにそっと
そばに控えてたたずんでいる。
 いつもの目立たない紺色のワンピースに白いエプロンを着た、いわゆる『メイド服』で。
 テラスから差し込む月光が、背もたれに身を預けるお嬢様を淡く照らしていた。
 その光は、ぼんやりとしていた。天空に浮かぶ月は朧に霞んでいた。
「明日は雨になるわね――」
「はい、そのようで」
 一人ごちるお嬢様の、どこか気の抜けたような言葉に、間を空けずに相槌を打つ。
 そうしながら、昼間のことを思い返す。
 お嬢様が気まぐれに新制服の着用令を出したこと、魔理沙が本をちゃんと返しにきたこと。
 随分と、些細なことだけれど、でもおかしなことが続いた。今日といわずとも明日にでも
雨降りになっても別段おかしいことではないように思える。
「雨が降れば私は自由に動くことはできない。そうしたら、思うように知り合いに会いに
行くこともできないわね。そうしたら――私は、一人かしら?」
 問いかけるように、だけれど独り言のように、そしてはっきりとした強さでお嬢様は言う。
 私はすぐには答えなかった。ただ、目を閉じて、お嬢様の言葉を闇の中で反芻する。
 やがて目を開けると、ゆっくりと口を開く。
「たとえいかなるときであっても、私がおります。メイドは主人とともに在るもの。
この命ある限り、お嬢様の在るところに、私もまたともに在りましょう。
お嬢様の歩き続ける道を、私もまた歩みましょう」
「――例えばそれは、光を受けるものから切り離せない、影のように?」
 私の言葉を聴いたお嬢様は、くすくすといたずらっぽく笑い、椅子から立ち上がって言う。
 お嬢様に……昼間の話を、聞かれていたらしい。ちょっとだけ、恥ずかしさがこみ上げてくる。
「ねぇ、咲夜? 私はね、メイドとは影ではないと思うわ」
 気がつけば、すぐ目の前にお嬢様がいた。
 目を薄く見開いて、甘い微笑を携えたまま、どこかおかしげに、そして割れ物を扱うかのように、
そっと手を伸ばして、私の頬に触れる。
 私は身じろぎひとつしないでいる。なすがままに、されるままに。
「確かに貴女に名前と生きる糧を与えたのは私よ。だから、貴女が私に依存していると
考えてしまうのも仕方ないことなのかもしれない。でもね、そこに貴女がいて、みんなの中心に
いるだけで、そこにはこれまでになかった活気が生まれたわ。私の従者としての役目を
全うしている貴女は、その時『脇役という名の主役』なのだと思うわ」
 お嬢様は、頬に当てた手をそのまま首に回して、私を抱きすくめようとする。つ、と
背伸びをしながら。
 私は自然にゆっくりと身をかがめ、そしてお嬢様の背に手を回した。
 お嬢様の言葉に応えるかのように、小さな背をなでる。

「私も、貴女からとても大切なものをもらったから。貴女に出会わなければ――
誰かを思う、なんてことはしなかったでしょうね、きっと。
メイドの存在によって、主人も変わっていくのよ。だから、メイドは影ではないわ。
太陽の光を受けて輝く、あの月のような存在。互いに依存し、求め合い、影響しながらともに歩いていく。
それが、主人とメイドなのかもしれないわね」

「……もったいないお言葉でございます」

 抱きしめあったまま、それだけを言った。
 それを言うのが、精一杯だった。

 うれしくて。
 私が、お嬢様の中に、こんなに在ったんだっていうことが。
 付き従うただの影ではなくて、こんなにも、お嬢様の近くにいられたということ。
 お嬢様に影響するほどに、私が紅魔館で大きな存在になっていたということ。
 私はお嬢様の運命と絡み合って、新しい形を、織り成していた。
 月と水が絡み合って、あの朧月の光となるように。

「咲夜――」
 私の名前を呼ぶと、お嬢様は少しだけ体を離して、真っ直ぐに私を見つめた。
 顔と顔が触れ合いそうに近い。お嬢様の真紅の瞳が、すぐ目の前で、私を飲み込んでいる。
 お嬢様の瞳に飲み込まれた私は、そらすことなくお嬢様を見つめている。
 そのまま続きの言葉を待つけれど、それが聞こえてくることはなかった。
 だってもう、重なり合っていたのだから――


~FIN~





























========おまけ。=========


 時間を少し遡る。
 図書館でちょっと賑やかなお茶会が開かれたそのとき。
 ゆったりと、少しのざわめきと一緒に時間が流れていく


「まりさー!」


 ――はずだった。
 どたばたと、図書館にあるまじき騒々しい音が響く。
 入り口のドアが勢いよく開かれるのと一緒に、ひときわ大きな音がする。
 そこから飛び出てくるのは、紅い、虹色の羽根をきらめかせた、元気いっぱいの少女。
「おーフランか、図書館は静かにしないと……ぶっ!?」
 飛び出てきた少女――フランに声をかけようとした魔理沙は、その姿を見とめて噴出した。
 なぜならフランもまた、咲夜や美鈴たちのようにチャイナドレスを着ていたからだ。
 ピンク色の半そでのちょうちん袖に、鮮やかな紅のドレス。脚は健康的な白タイツで
覆われており、膝まである服の裾を、軽やかに躍らせていた。
「魔理沙~」
 そのまま勢いよく跳躍するように舞い上がり、魔理沙に抱きつくフラン。
 それをもつれる手で何とか抱きとめる魔理沙。ふわりと、甘い香りが魔理沙の鼻をくすぐる。
 勢いで、頭にいつもつけているピンクの帽子がふわっと浮いた。
「い、妹様、その格好はいったい……」
 咲夜が唖然とした表情で声を搾り出すようと、フランは、無邪気な笑顔をしたまま、咲夜の
ほうを向く。
「えへへ、美鈴に着せてもらったんだこれ」
「妹様が是非に着てみたいとおっしゃられるので……」
 美鈴が言い訳するように言うと、咲夜はとがめるように美鈴を睨む。ひっ、とのけぞる美鈴
だけれど、やがて妹様のお願いであれば仕方ないわね、と咲夜はあきらめため息をついた。
「どう~、似合う?」
 魔理沙から離れたはにかんで笑うとフランは、そのままくるっと回って一礼する。それは、
紅い妖精と言ってもいいぐらい、可憐な仕草だった。
 よく見ると、そのチャイナドレスは、背中が大きく開いていた。翼のあるフランにと、
美鈴が気を使って選んだのだろう。
「ん~……だがしかしなぁ」
 じー、っとあごに手を当てて見つめていた魔理沙が、おもむろに口を開く。
「チャイナドレスって……もっと大人にならないと似合わなくないか?」
 ぼそっ、と出てきた言葉が、その場を凍りつかせた。
 言ってから、魔理沙はあっと口をふさいだが、もう遅い。
 さっきまで無邪気に振舞っていたフランは顔をうつむかせ、影がかかっていた。その手は
ぐっと握り締められ、わなわなと震えている。
「ちょ、魔理沙、あんたなんてこと言うのよ!? 妹様、どうかお気を確かに――」
「そ、そうですよ! それにチャイナドレスには――」
 咲夜と美鈴がとっさに割ってはいる。だがしかし、フランにその声はまるで届いていない。
 そして美鈴が『チャイナドレスには子供用だってあるんです!』と続けようとしたその瞬間。
「魔理沙の――」
 ゆっくりと、その手が振り上げられる。握り締められたレーヴァテインという名の鉄槌が、




「――ばかぁああああぁぁぁああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「「「「「いやああああああああああああああああああああああっ!!!!」」」」」




 轟、と唸りを上げて、鞭のようにしなる爆炎となりて打ち下ろされる。
 ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
 …………そして、誰も、いなく、なるか?


今度こそ、おしまい。
メイドさんと主人は、ずっと一緒に思いあうから美しいのさ。

と、例のごとくこんにちわ、銀の夢です。今宵の銀色の夢はいかがでしたか?
今回の作品は、私のメイドさんに関する哲学を突っ込んでみました。といっても、私がメイドさんに関して師とあがめるお方のおっしゃることを引用していたりしますけれど。

ちなみに私は基本的には本当は咲×レミ派だったり。でも咲×美も大好きです。要するに、咲夜さんが幸せでありさえすればそれでよいのです。節操ないですね、自分。

ところでこの作品をとある方々に、チラ見せしたんですね。
状況は10時間ほど徹夜でチャットしてたとき。うpろだのリレーSSの後の話でしょうか。
そうでなくとも私は何でか『エロい人』という称号をいただいてしまってまして。
違うんだ! と訴えでても一言で『却下』されてしまいました。
ひどいですよね。却下ってことは訴訟審理もしてない門前払いですよ。
あんまりだー! と言ったら『あー? 聞こえんなぁ』とか言われる始末。
ひどいですよね。こんな声高に『私のえちさはデフォ仕様だ!』と叫んでいるのに……
で、このSSのパチェの描写をチラ見せしてみたんですが……
やっぱりえちぃ人扱いでした。しくしく……
で、パチェの描写は『ある可能性』を示唆しているんですが、それについて気付いたかと聞いたらあるえらい人がこうおっしゃいました。
『こつえーフェノメノン?』
正解、と言ったら、ほぼ全員から『ばればれやっ!』と突っ込まれました。やっぱりみんなえちぃと思います。
さて、ここまでお付き合いいただいた読者様にぜひともお聞きしたいと思います。
パチェの描写が示唆する『ある可能性』とは何でしょう? もしよろしければ、コメントいただけたら、と思います。正解した方には漏れなく『えちぃ人』の称号をば差し上げたいと思います!

それではまた、銀色の夢の中でお会いいたしましょう
銀の夢
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コメント



0.3210簡易評価
1.50床間たろひ削除
や 銀 エ な
2.60低速回線削除
や 銀 ウッ な
3.10名前が無い程度の能力削除
長いだけでまとまりの無い感じがします
もっと余分な部分をばっさりいってはいかがでしょうか?
人物の名前が連呼されるのも気になります
もっと表現の幅を広げてみることも必要です
11.70名前を消された程度の能力削除
ど 銀 エ です。
本当にありがとうございました。
14.60削除
チャイナでも紅魔館のメイドはメイド。
相変わらず楽しそうな所です。

>最強の策士と謳われたメイド兼薬師
ちょwww割烹着の悪魔wwwwwwww
16.無評価名前が無い程度の能力削除
着せられた服に恥ずかしがる小悪魔萌え。
かっこいい咲夜さんに親指立て。
最後のオチで笑い。

つまり何が言いたいかというと、パチェ萌え(え
17.70名前が無い程度の能力削除
パチェに萌えすぎて点数忘れました。
いいねえチャイナドレス・・・・(帰ってこい
18.無評価名前が無い程度の能力削除
エ!
23.60名前が無い程度の能力削除
やや長いかな?
それさえ除けば、gj!
29.70世界爺削除
―――なんて、えろい。

そのこだわったチャイナ描写に感服しました。
どうみてもえろいです。どうもありがとうございました。
38.60名前が無い程度の能力削除



44.80無為削除
>チャイナドレスをまとってガード不能の超必殺技
アークドライブ「開打靠靭琥珀脚」ブラッドヒート時は「開打散靭琥珀失脚」なのかー。
ガードは出来ないけどジャンプとかで避けると面白いですよね。

最後の妹様のセリフがCV:南央美で聞こえた私はどこまでも月厨なんだな、と思いました。
ブラッドヒート「怒ったんだからっ……!」最後のふっとばし。
48.80名前が無い程度の能力削除
チャイナドレスな紅魔館の人達・・・いい・・・
腹黒割烹着のガード不能技というところから
咲夜さんがブラッドヒート中にシールド決めて
「極死、咲夜・・・!」
なんて幻視が・・・
52.70名前が無い程度の能力削除
咲夜さんvお嬢様に1票。
54.40名前が無い程度の能力削除
みんなのおねーさん咲夜さんと、
レミリアの出番少ないながらも堂々とした立ち位置。
紅魔館の顔が綺麗に書かれていると思いました。

ただ、ガーターとサイハイは同時につけたらあかんと思う(超重要)
76.70時空や空間を翔る程度の能力削除
今度は「和服」で・・・・・
和風メイドを希望します!!
79.100名前が無い程度の能力削除
いいですね、チャイナ服。
咲夜さんなら似合いそうだw
87.80名前が無い程度の能力削除
咲夜さんや美鈴なんかは何着ても似合いそうだな~
94.100レベル0削除
あー……とりあえずその話に出てきた伝説のメイドさんの事なら多分知っていますね。(笑)
あなたのメイドについての考え方がわかりました。
あとすみません、質問に関しては全く分からんかったです