ーーーあなたのための楽園、だけどあなたはここにはいないーーー
******
要石とは、いつ幻想郷を壊してしまってもおかしくない。まさしく‟爆弾‟なのだ。
要石は地震を抑える力があるが、それはエネルギーが解放されずにただ蓄積していっているだけ。
その要石を不用意に抜いたとすれば、幻想郷前代未聞の大地震が起こるだろう。
しかし、その地震による直接被害が最たる問題ではない。
それを言うなら自然に根差したものが多い幻想郷では、春を集め季節の循環を抑えつけたどこぞの亡霊のほうがよほど悪影響を与える可能性が高い。
問題は地震は震源である幻想郷だけではなく、外の世界にまで余波を与えてしまうということだ。
博麗大結界は幻想と科学の世界の境界に貼ることによって二つの世界を分断している。
しかし、‟大地震とその余波‟だと、地理的に二つの世界の関係を強く示してしまう。
無論、通常でも風や水流の影響を受けているが、それだけでもたまにメンテナンスをしなければならないのだ。
それほど強く関係を示されれば博霊大結界は粉々に砕け散ってもおかしくない。
それなのに…
「らーん。このお饅頭もらってくわよー」
「おいこら天子。なに我が物顔で勝手に入ってきてるんだ」
「あら、いいじゃない、ここで自由にしてても良いって紫の許可は貰ってるんだしー」
「その紫様は今結界のメンテで留守だろうが!!いくら許可をもらっているからと言って、家主がいないときに好き放題するのはおかしいだろう!」
「別にいいじゃないー。頭固いなー。」
…要石という爆弾を、愛する幻想郷に埋め込んだこいつは紫様に許されているのだろうか…
いや、あの時、こいつが要石を博麗神社に埋め込んだその時は間違いなくブチ切れていた。
なぜなら、天子が要石を打ち込んだのを知った後、私に天人用の洗脳の術の準備をさせていたのだから…
******
あの天人、地獄の苦しみを味合わせてやる。
この箱庭は‟彼女‟のために作った楽園だ。
「つーかまーえた」
この楽園に仇する者は許さない。
「こんな神社壊れちゃいなよ」
楽園を壊そうとするならばーーー
「美しく残酷に、この世から往ね!!」
ーーー殺す。
******
その言葉を合図として、もはや弾幕勝負という形だけを保った、二人の殺し合いが始まった。
手加減などない二人の弾幕の余波で、新しくなったはずの博麗神社はもはや見る目も無くなり、集まっていた人妖たちも散り散りになっている。
その勝負は、紫が優勢で進んでいた。
「幻巣『飛光虫ネスト』」
紫の周りに開いた無数のスキマから天子に向かってレーザー弾が飛んでいく
「ぐっ、ぁぁああまだだぁ!!気符『天啓気象の剣』!!」
宣言すると同時、緋想の剣に集められた気質が紫の弾幕をかき消しながら迫っていくが、しかし
「甘い、境符『四重結界』」
その瞬間天子の後ろに転移した紫の一撃によって、天子は吹き飛び地面に叩きつけられた。
「…いい加減諦めたら?そうすればもう痛い思いしなくて済むかもしれないわよ?」
既に天子はかなりダメージを受けておりもはや立つのもやっとだろう。しかし
「はっ、冗談。ここまで来て諦められるわけないじゃない!」
そして天子は緋想の剣を構え、紫を睨みつける
向けられた瞳に、紫は息を呑んだ。その瞳には、ここまで追い詰められても、一切諦めていない強い意志を秘めていて。
「…何があなたをそんなにも追い立てるの?天人は天人らしく、天界で楽しく暮らしていればいいのに」
「ふん。あんな無個性で何にもないような所で一生生きていくなんて真っ平ごめんなの!!気符『無念無想の境地』!!」
スペルカードの力で体を強化した天子は紫と相対する。
(その眼は…)
「わたしはそんな茫漠な人生を送るために生きてきたわけじゃない!!」
「っしまっ…」
紫は、天子の気魄のこもった蹴りを避けきれず思わず仰け反ってしまう
(そのいつも前を、空を、見つめている眼は‟彼女‟と同じ…)
「私はまだ、世界の何も理解していない!!楽しんでいない!!」
未だ体勢が整っていない紫に要石を打ち出しながらステップで距離を詰める
『メリーメリー!私はね、世界のすべてが分かってるーみたいな顔をして恍けて生きていくのはもう嫌なの!!』
(ああ‟彼女‟が重なって見える…)
「『そんな砂をかむような人生なら死んだほうがマシよ!!」』
渾身のサマーソルトキックで紫を打ち上げ、紫にレーザー弾を撃つ
(自分勝手で乱暴で…)
「『私は!あんなつまらない世界を抜け出して、自分の生きる場所を見つけるって決めたんだ!!」』
紫の方向に飛翔し、蹴りで地面に叩きつけて緋想の剣を振り上げる。
「だからスキマ妖怪!!私の邪魔をするなぁぁああ『全人類の緋想天』!!!!!!」
(真っすぐな…美しい弾幕)
そして天子の渾身の想いを乗せた奇麗な‟光‟は紫を包み込み、地を割った。
******
『だからねメリー!私たちで夢を現実に変えるのよ!!私たち秘封倶楽部なら何でもできるんだから!!』
…もちろんよ、蓮子…
******
「はあっはあっ。これで、どうだ…」
衝撃によって舞い上がった砂が散り、視界が開けたがしかし、
「…最後のはいい一撃だったわ。でもわたしを倒すにはまだ足りませんわね。」
紫は体を傷つけながらもいまだ健在だった。
「っく、ならばもう一回…うぐっ」
「さすがの天人でも、限界の状態から無理やりブーストかけて、全力攻撃したら動けるわけがありませんわ」
「…わたしを、どうするの?」
「ふふ、では、投我以桃、報之以李。としましょう。」
「…え?」
「あら、不良天人はこんなことも知らないのかしら?桃を持ってくれば許す。と言っているのですわ」
「そんなこと知ってるわよ!……さっきまであんなに殺気をぶつけてきたのにどういうつもり?」
「ふふ、ただの気まぐれですわ。それでは失礼いたします。…待っていますわよ。」
(# ゚Д゚)「ちょっと待ちなさい紫。まさかそのまま帰れると思ってるわけ?」
「うひゃっ、れ、れーむ?ちょっとお、落ち着いて?」
「これが落ち着いて居られるわけないでしょう!?どうすんのよこの瓦礫の山!!もうこんな場所誰も神社だとは思わないわよ!?」
(まて、落ち着きなさい妖怪の賢者。賢者の知能を持ってすればこの程度の苦境乗り越えることができるわ)
答え①天才のゆかりんは突如反撃のアイデアがひらめく 。
答え②藍がきて助けてくれる。
答え③たすからない。現実は非常である。
②は…藍は戦闘に巻き込まれないよう橙と避難している。助けを期待するのは難しいでしょう。
ならばやはり①しかないようね!!
「あ、あのね霊夢。これはいわば不可抗力ってやつで…」
「うるさい問答無用!!悪い妖怪を退治してやるわ!!」
答え
―③
答え③
答え③
「いやぁぁあああああ!許して霊夢!」
******
「わたし、あんな奴と殺し合いしてたのかしら…」
******
~数日後~
「紫様、お客様が来ております」
藍の声に振り向くと、そこには不貞腐れた顔をした天子が立っている。
「お客なんて珍しいと思ったら不良天人じゃない。よくここまでこれたわね。ありがとうね、らん。此処はもういいから席外してくれる?」
「…かしこまりました。おい、天人。紫様に害をなしたら許さんぞ。」
「…分かってるわよ」
藍は天子にくぎを刺して部屋を出て行った。
「じゃあねー。さて、よくここまで来れたわね不良天人さん?ずっと恐怖でガタガタ震えてると思ってましたわ。」
「あんなコメディ見せられて、恐怖もクソもあるか。それに、次は絶対わたしが勝つもの。」
「はいはい。忙しいときじゃなければ付き合って差し上げますわ。」
「ふん、まあいいわ。ハイ約束の桃。」
「あら、わざわざ自分で届けに来てくれるなんて。思ってたより律儀なのね。」
「約束は守るわよ。じゃあ、わたし帰るから。ってあれ!?ふすまが開かない!?」
「せっかく来たんだしもう少しゆっくりしなさいなてんこちゃん。」
「誰がてんこちゃんだ!!」
「幻想郷で数日過ごして、どうだった?」
「…良い所ね。天界にいた何百年よりもずっと濃厚な時間だったわ。」
「ふふ、それは良かった。ここを作った甲斐があったってものだわ」
(ねぇ蓮子。あなたはここには居ないけど、あなたがこの世界にいたら喜んでくれたかしら?)
「じゃあ私も質問。あんたはどうしてあの時私を許したの?元々殺すとまでは行かなくても、最低でも二度と地上に戻れなくする気だったんじゃないの?」
「あら、乙女の秘密ですわ。」
「乙女って年じゃないでしょ。無理しないのおばあちゃん。」
「おばあちゃんっていうな。要石を維持させるのは別にあなたの体だけあれば十分なんだからね?」
「怖っ。洗脳とかもできるのあんた?」
「できることは多いほうが便利ですわ」
「ふーん。で、ごまかされないわよ。結局なんで許したのよ。」
「ふふふしつこいですわね。それじゃ教えてあげようかしら。あなたがわたしの昔の親友と似ていたのよ」
「昔の親友?」
「うん。蓮子っていうのよ。苗字は教えられないけどね。」
蓮子と一緒だったのは幻想郷を作るよりももっとずっと前のことよ。遊ぶときとか、いつも一緒にいたの。
だけど、ある出来事があって私は永い眠りにつかなければいけなかったの。その後私が目を覚ました時には蓮子も、蓮子の痕跡も何処にもなかった。
私はそのあと必死になって彼女を探したわ。けれど、どこにもいなかった。
だから、私が見つけるんじゃなくて、あっちから見つけてもらうことにしたの。
彼女は珍しいものが大好きだったから、日本中から幻想を集めてこの幻想郷を作ったわ。
この幻想郷は蓮子に見つけてもらうための目印なの。だから絶対誰にも壊させない。
「話せるのはこんな所ね。満足した?」
「その蓮子って言う奴と私が似ているのよね?」
「そうね。外見は全然別だけど、性格とかたまにとる偉そーな態度とかは瓜二つよ」
「ふうん、いろいろ言いたいこともあるけど…ちょっとこっち向いてくれるかしら?もうちょっぴり、私の近くに」
「?はい」
「もうちょっと左側に来てくれるとベストだけど…まぁ良いでしょう」
「?」
「オラァァァ!!!」
「!!!?!??」
天子の思いっきり振りかぶった拳に、紫は不意を突かれて受け身も取れずもろに受けてしまった。
「痛っっったぁぁああ!!なにすんのよ不良天人!!」
「あら。天人の拳を受けれるなんて光栄ね。感謝なさい。それに、その蓮子ってやつもこれを知ったら同じことしてたわよ」
「は?どういうことよ。」
「ふん、耳かっぽじってよく聞きなさい。バッカじゃないの!?同じやつのこと何年引きづってんのよ!!粘着ストーカーか!!」
「うっ、えっと、目覚ましてから2000年くらい…」
「2000年!?想像以上に長いな!?あのねぇ、‟想い‟っていうのは重いのよ!!」
「ダジャレ?」
「ちゃうわ!!そういう強い想いを長く溜め込んでいることは良いことなんてひとっつもないの!!
普通の人間の嫉妬の感情一つだけで妖怪化するなんてザラなのよ!?
ましてやあんたみたいな力を持った妖怪がそんなに長い間、発散もせずにため込んでたら絶対に体に不調が出るわ!!
あなた今までに私以外の誰かにその話した事ある!?」
「…いいえ。藍や幽々子にも話したこと無いもの。この事を話したのはあなたが初めてよ。でも私不調なんて…」
「あんたが気づいていないだけ。あんたの気質って天気雨でしょ?そんな二つの天気が混ざったみたいな不安定な気質、普通じゃ有り得ないわ。」
「そうなの?確かに見たこと無いけれど」
「あんたの溜め込んだ呪いともいうべき想いが気質に悪影響を与えてるのよ。」
「さすが天気博士。じゃあわたしの不調って何なの?」
「だれが天気博士だ。ともかく、そんなに長く溜め込んでたんならかなり目立つ物のはずよ。何かないの?その親友と別れてからの体の変化。」
「えぇ?うーん……あ!あああ!もしかして、あれ?」
「あれじゃわかんないわよおばあちゃん。」
「おばあちゃんて言うな。えっとね、昔よりも疲れやすくなってて、眠る時間も長くなってるの。冬眠も500年前まではしてなかったもの。」
「やっぱりおばあちゃんじゃないの。」
「だからおばあちゃんって言うな。昔と比べて、力をよく使うようになったからだと思ってたんだけど、もしかしたら想いの呪いなのかしらね」
「まぁ原因が分かったところで、あんたが変わらないと意味ないの。未練を断ち切れないと遠くないうちにあんた、死ぬわよ。その親友とやらだって、自分のせいであんたが死んだら悲しむと思うわよ?」
「…それならたぶんもう大丈夫よ。心配いらないわ。あなたと話したらなんだかスッキリしたもの。」
「…そう。溜め込んだ量が多いから、全部毒が抜けきるのには時間かかると思うけど、しばらく経てば健康体になるはずよ」
「ありがとう。あなた思ったより優しいのね。」
「わたしもこのあなたの作った幻想郷が好きだし、無くすわけにはいかないもの。出来ることなら相談に乗るわよ。」
「ふふ、ありがとう。今度幻想郷の管理の件で呼び出すからその時はよろしくね。」
「へ?管理?」
「当り前じゃない。要石を扱うことが出来るのはあなただけなのよ?もはやあなたはこの幻想郷になくてはならない存在なの」
「ふふふ。必要って言われたら悪い気はしないわね!!私にどーんと任せなさい!」
「ふふ、頼むわよ。‟天子‟」
「こっちこそ、あなたの力はあてにしてるわよ、‟紫‟」
あなたのための楽園に、あなたはきっと来れないけれど、あなたが見たら羨ましがるような楽しい生活を送って見せるわ。
だから、いい加減あなたから離れて独り立ちしなきゃね。
ありがとう、蓮子。
ありがとう、天子。
******
「ぐぬぬ…紫様はああいったものの、心配だ…しかし席をはずせと言われた以上、盗み聞きは紫様に失礼だし…」
紫様は確かに強いし、とても聡明なお方なのだが、どうもどこか抜けている部分があるのだ。
それに、一度心を許した相手にはとことん甘くなる。そこが魅力でもあるが。
「あの天人に不意を突かれて殴られてはいないだろうか…いや、逆に誑されているかも…紫様はああ見えて初心だし…」
うーんうーん。うーんうーん。
******
「らーん。もう天子は帰ったから入ってきていいわよー。」
「…気づいていらっしゃいましたか。申し訳ありません。」
言って、ふすまから中に入る。…あの天人の事を呼び捨て…だと?なにか…嫌な予感がする…
「別に構わないわよ、どっちにしてもあなたじゃ中は結界で伺えないし。それよりも藍。私決めたわ。」
「紫…様…?」
「妖怪の賢者の名に懸けて、天子を我が物にするわよ!!」
重大なエラーが発生しました。再起動します。
######
再起動しました。
「…は?」
あのクソ天人!!いったいどんな手を使いやがったぁ!?!?
「ゆ、紫様!?お、落ち着いてください!!紫様ぁ!?」
~終~
******
要石とは、いつ幻想郷を壊してしまってもおかしくない。まさしく‟爆弾‟なのだ。
要石は地震を抑える力があるが、それはエネルギーが解放されずにただ蓄積していっているだけ。
その要石を不用意に抜いたとすれば、幻想郷前代未聞の大地震が起こるだろう。
しかし、その地震による直接被害が最たる問題ではない。
それを言うなら自然に根差したものが多い幻想郷では、春を集め季節の循環を抑えつけたどこぞの亡霊のほうがよほど悪影響を与える可能性が高い。
問題は地震は震源である幻想郷だけではなく、外の世界にまで余波を与えてしまうということだ。
博麗大結界は幻想と科学の世界の境界に貼ることによって二つの世界を分断している。
しかし、‟大地震とその余波‟だと、地理的に二つの世界の関係を強く示してしまう。
無論、通常でも風や水流の影響を受けているが、それだけでもたまにメンテナンスをしなければならないのだ。
それほど強く関係を示されれば博霊大結界は粉々に砕け散ってもおかしくない。
それなのに…
「らーん。このお饅頭もらってくわよー」
「おいこら天子。なに我が物顔で勝手に入ってきてるんだ」
「あら、いいじゃない、ここで自由にしてても良いって紫の許可は貰ってるんだしー」
「その紫様は今結界のメンテで留守だろうが!!いくら許可をもらっているからと言って、家主がいないときに好き放題するのはおかしいだろう!」
「別にいいじゃないー。頭固いなー。」
…要石という爆弾を、愛する幻想郷に埋め込んだこいつは紫様に許されているのだろうか…
いや、あの時、こいつが要石を博麗神社に埋め込んだその時は間違いなくブチ切れていた。
なぜなら、天子が要石を打ち込んだのを知った後、私に天人用の洗脳の術の準備をさせていたのだから…
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あの天人、地獄の苦しみを味合わせてやる。
この箱庭は‟彼女‟のために作った楽園だ。
「つーかまーえた」
この楽園に仇する者は許さない。
「こんな神社壊れちゃいなよ」
楽園を壊そうとするならばーーー
「美しく残酷に、この世から往ね!!」
ーーー殺す。
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その言葉を合図として、もはや弾幕勝負という形だけを保った、二人の殺し合いが始まった。
手加減などない二人の弾幕の余波で、新しくなったはずの博麗神社はもはや見る目も無くなり、集まっていた人妖たちも散り散りになっている。
その勝負は、紫が優勢で進んでいた。
「幻巣『飛光虫ネスト』」
紫の周りに開いた無数のスキマから天子に向かってレーザー弾が飛んでいく
「ぐっ、ぁぁああまだだぁ!!気符『天啓気象の剣』!!」
宣言すると同時、緋想の剣に集められた気質が紫の弾幕をかき消しながら迫っていくが、しかし
「甘い、境符『四重結界』」
その瞬間天子の後ろに転移した紫の一撃によって、天子は吹き飛び地面に叩きつけられた。
「…いい加減諦めたら?そうすればもう痛い思いしなくて済むかもしれないわよ?」
既に天子はかなりダメージを受けておりもはや立つのもやっとだろう。しかし
「はっ、冗談。ここまで来て諦められるわけないじゃない!」
そして天子は緋想の剣を構え、紫を睨みつける
向けられた瞳に、紫は息を呑んだ。その瞳には、ここまで追い詰められても、一切諦めていない強い意志を秘めていて。
「…何があなたをそんなにも追い立てるの?天人は天人らしく、天界で楽しく暮らしていればいいのに」
「ふん。あんな無個性で何にもないような所で一生生きていくなんて真っ平ごめんなの!!気符『無念無想の境地』!!」
スペルカードの力で体を強化した天子は紫と相対する。
(その眼は…)
「わたしはそんな茫漠な人生を送るために生きてきたわけじゃない!!」
「っしまっ…」
紫は、天子の気魄のこもった蹴りを避けきれず思わず仰け反ってしまう
(そのいつも前を、空を、見つめている眼は‟彼女‟と同じ…)
「私はまだ、世界の何も理解していない!!楽しんでいない!!」
未だ体勢が整っていない紫に要石を打ち出しながらステップで距離を詰める
『メリーメリー!私はね、世界のすべてが分かってるーみたいな顔をして恍けて生きていくのはもう嫌なの!!』
(ああ‟彼女‟が重なって見える…)
「『そんな砂をかむような人生なら死んだほうがマシよ!!」』
渾身のサマーソルトキックで紫を打ち上げ、紫にレーザー弾を撃つ
(自分勝手で乱暴で…)
「『私は!あんなつまらない世界を抜け出して、自分の生きる場所を見つけるって決めたんだ!!」』
紫の方向に飛翔し、蹴りで地面に叩きつけて緋想の剣を振り上げる。
「だからスキマ妖怪!!私の邪魔をするなぁぁああ『全人類の緋想天』!!!!!!」
(真っすぐな…美しい弾幕)
そして天子の渾身の想いを乗せた奇麗な‟光‟は紫を包み込み、地を割った。
******
『だからねメリー!私たちで夢を現実に変えるのよ!!私たち秘封倶楽部なら何でもできるんだから!!』
…もちろんよ、蓮子…
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「はあっはあっ。これで、どうだ…」
衝撃によって舞い上がった砂が散り、視界が開けたがしかし、
「…最後のはいい一撃だったわ。でもわたしを倒すにはまだ足りませんわね。」
紫は体を傷つけながらもいまだ健在だった。
「っく、ならばもう一回…うぐっ」
「さすがの天人でも、限界の状態から無理やりブーストかけて、全力攻撃したら動けるわけがありませんわ」
「…わたしを、どうするの?」
「ふふ、では、投我以桃、報之以李。としましょう。」
「…え?」
「あら、不良天人はこんなことも知らないのかしら?桃を持ってくれば許す。と言っているのですわ」
「そんなこと知ってるわよ!……さっきまであんなに殺気をぶつけてきたのにどういうつもり?」
「ふふ、ただの気まぐれですわ。それでは失礼いたします。…待っていますわよ。」
(# ゚Д゚)「ちょっと待ちなさい紫。まさかそのまま帰れると思ってるわけ?」
「うひゃっ、れ、れーむ?ちょっとお、落ち着いて?」
「これが落ち着いて居られるわけないでしょう!?どうすんのよこの瓦礫の山!!もうこんな場所誰も神社だとは思わないわよ!?」
(まて、落ち着きなさい妖怪の賢者。賢者の知能を持ってすればこの程度の苦境乗り越えることができるわ)
答え①天才のゆかりんは突如反撃のアイデアがひらめく 。
答え②藍がきて助けてくれる。
答え③たすからない。現実は非常である。
②は…藍は戦闘に巻き込まれないよう橙と避難している。助けを期待するのは難しいでしょう。
ならばやはり①しかないようね!!
「あ、あのね霊夢。これはいわば不可抗力ってやつで…」
「うるさい問答無用!!悪い妖怪を退治してやるわ!!」
答え
―③
答え③
答え③
「いやぁぁあああああ!許して霊夢!」
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「わたし、あんな奴と殺し合いしてたのかしら…」
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~数日後~
「紫様、お客様が来ております」
藍の声に振り向くと、そこには不貞腐れた顔をした天子が立っている。
「お客なんて珍しいと思ったら不良天人じゃない。よくここまでこれたわね。ありがとうね、らん。此処はもういいから席外してくれる?」
「…かしこまりました。おい、天人。紫様に害をなしたら許さんぞ。」
「…分かってるわよ」
藍は天子にくぎを刺して部屋を出て行った。
「じゃあねー。さて、よくここまで来れたわね不良天人さん?ずっと恐怖でガタガタ震えてると思ってましたわ。」
「あんなコメディ見せられて、恐怖もクソもあるか。それに、次は絶対わたしが勝つもの。」
「はいはい。忙しいときじゃなければ付き合って差し上げますわ。」
「ふん、まあいいわ。ハイ約束の桃。」
「あら、わざわざ自分で届けに来てくれるなんて。思ってたより律儀なのね。」
「約束は守るわよ。じゃあ、わたし帰るから。ってあれ!?ふすまが開かない!?」
「せっかく来たんだしもう少しゆっくりしなさいなてんこちゃん。」
「誰がてんこちゃんだ!!」
「幻想郷で数日過ごして、どうだった?」
「…良い所ね。天界にいた何百年よりもずっと濃厚な時間だったわ。」
「ふふ、それは良かった。ここを作った甲斐があったってものだわ」
(ねぇ蓮子。あなたはここには居ないけど、あなたがこの世界にいたら喜んでくれたかしら?)
「じゃあ私も質問。あんたはどうしてあの時私を許したの?元々殺すとまでは行かなくても、最低でも二度と地上に戻れなくする気だったんじゃないの?」
「あら、乙女の秘密ですわ。」
「乙女って年じゃないでしょ。無理しないのおばあちゃん。」
「おばあちゃんっていうな。要石を維持させるのは別にあなたの体だけあれば十分なんだからね?」
「怖っ。洗脳とかもできるのあんた?」
「できることは多いほうが便利ですわ」
「ふーん。で、ごまかされないわよ。結局なんで許したのよ。」
「ふふふしつこいですわね。それじゃ教えてあげようかしら。あなたがわたしの昔の親友と似ていたのよ」
「昔の親友?」
「うん。蓮子っていうのよ。苗字は教えられないけどね。」
蓮子と一緒だったのは幻想郷を作るよりももっとずっと前のことよ。遊ぶときとか、いつも一緒にいたの。
だけど、ある出来事があって私は永い眠りにつかなければいけなかったの。その後私が目を覚ました時には蓮子も、蓮子の痕跡も何処にもなかった。
私はそのあと必死になって彼女を探したわ。けれど、どこにもいなかった。
だから、私が見つけるんじゃなくて、あっちから見つけてもらうことにしたの。
彼女は珍しいものが大好きだったから、日本中から幻想を集めてこの幻想郷を作ったわ。
この幻想郷は蓮子に見つけてもらうための目印なの。だから絶対誰にも壊させない。
「話せるのはこんな所ね。満足した?」
「その蓮子って言う奴と私が似ているのよね?」
「そうね。外見は全然別だけど、性格とかたまにとる偉そーな態度とかは瓜二つよ」
「ふうん、いろいろ言いたいこともあるけど…ちょっとこっち向いてくれるかしら?もうちょっぴり、私の近くに」
「?はい」
「もうちょっと左側に来てくれるとベストだけど…まぁ良いでしょう」
「?」
「オラァァァ!!!」
「!!!?!??」
天子の思いっきり振りかぶった拳に、紫は不意を突かれて受け身も取れずもろに受けてしまった。
「痛っっったぁぁああ!!なにすんのよ不良天人!!」
「あら。天人の拳を受けれるなんて光栄ね。感謝なさい。それに、その蓮子ってやつもこれを知ったら同じことしてたわよ」
「は?どういうことよ。」
「ふん、耳かっぽじってよく聞きなさい。バッカじゃないの!?同じやつのこと何年引きづってんのよ!!粘着ストーカーか!!」
「うっ、えっと、目覚ましてから2000年くらい…」
「2000年!?想像以上に長いな!?あのねぇ、‟想い‟っていうのは重いのよ!!」
「ダジャレ?」
「ちゃうわ!!そういう強い想いを長く溜め込んでいることは良いことなんてひとっつもないの!!
普通の人間の嫉妬の感情一つだけで妖怪化するなんてザラなのよ!?
ましてやあんたみたいな力を持った妖怪がそんなに長い間、発散もせずにため込んでたら絶対に体に不調が出るわ!!
あなた今までに私以外の誰かにその話した事ある!?」
「…いいえ。藍や幽々子にも話したこと無いもの。この事を話したのはあなたが初めてよ。でも私不調なんて…」
「あんたが気づいていないだけ。あんたの気質って天気雨でしょ?そんな二つの天気が混ざったみたいな不安定な気質、普通じゃ有り得ないわ。」
「そうなの?確かに見たこと無いけれど」
「あんたの溜め込んだ呪いともいうべき想いが気質に悪影響を与えてるのよ。」
「さすが天気博士。じゃあわたしの不調って何なの?」
「だれが天気博士だ。ともかく、そんなに長く溜め込んでたんならかなり目立つ物のはずよ。何かないの?その親友と別れてからの体の変化。」
「えぇ?うーん……あ!あああ!もしかして、あれ?」
「あれじゃわかんないわよおばあちゃん。」
「おばあちゃんて言うな。えっとね、昔よりも疲れやすくなってて、眠る時間も長くなってるの。冬眠も500年前まではしてなかったもの。」
「やっぱりおばあちゃんじゃないの。」
「だからおばあちゃんって言うな。昔と比べて、力をよく使うようになったからだと思ってたんだけど、もしかしたら想いの呪いなのかしらね」
「まぁ原因が分かったところで、あんたが変わらないと意味ないの。未練を断ち切れないと遠くないうちにあんた、死ぬわよ。その親友とやらだって、自分のせいであんたが死んだら悲しむと思うわよ?」
「…それならたぶんもう大丈夫よ。心配いらないわ。あなたと話したらなんだかスッキリしたもの。」
「…そう。溜め込んだ量が多いから、全部毒が抜けきるのには時間かかると思うけど、しばらく経てば健康体になるはずよ」
「ありがとう。あなた思ったより優しいのね。」
「わたしもこのあなたの作った幻想郷が好きだし、無くすわけにはいかないもの。出来ることなら相談に乗るわよ。」
「ふふ、ありがとう。今度幻想郷の管理の件で呼び出すからその時はよろしくね。」
「へ?管理?」
「当り前じゃない。要石を扱うことが出来るのはあなただけなのよ?もはやあなたはこの幻想郷になくてはならない存在なの」
「ふふふ。必要って言われたら悪い気はしないわね!!私にどーんと任せなさい!」
「ふふ、頼むわよ。‟天子‟」
「こっちこそ、あなたの力はあてにしてるわよ、‟紫‟」
あなたのための楽園に、あなたはきっと来れないけれど、あなたが見たら羨ましがるような楽しい生活を送って見せるわ。
だから、いい加減あなたから離れて独り立ちしなきゃね。
ありがとう、蓮子。
ありがとう、天子。
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「ぐぬぬ…紫様はああいったものの、心配だ…しかし席をはずせと言われた以上、盗み聞きは紫様に失礼だし…」
紫様は確かに強いし、とても聡明なお方なのだが、どうもどこか抜けている部分があるのだ。
それに、一度心を許した相手にはとことん甘くなる。そこが魅力でもあるが。
「あの天人に不意を突かれて殴られてはいないだろうか…いや、逆に誑されているかも…紫様はああ見えて初心だし…」
うーんうーん。うーんうーん。
******
「らーん。もう天子は帰ったから入ってきていいわよー。」
「…気づいていらっしゃいましたか。申し訳ありません。」
言って、ふすまから中に入る。…あの天人の事を呼び捨て…だと?なにか…嫌な予感がする…
「別に構わないわよ、どっちにしてもあなたじゃ中は結界で伺えないし。それよりも藍。私決めたわ。」
「紫…様…?」
「妖怪の賢者の名に懸けて、天子を我が物にするわよ!!」
重大なエラーが発生しました。再起動します。
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再起動しました。
「…は?」
あのクソ天人!!いったいどんな手を使いやがったぁ!?!?
「ゆ、紫様!?お、落ち着いてください!!紫様ぁ!?」
~終~
ともあれゆかてん10周年おめでとうございます。
でもそれを感じさせちゃうようじゃまだまだですなぁ
2>10年おめですー
4>チョロゆかいいゾ〜
5>ありあとやす!
まず紫がメリーであることを絡めて、過去への束縛から影響が出るというのは、新鮮で面白いと感じました。なるほどこういうゆかてんの可能性もあるのですね。
話の筋はそれで良いと思いますが、紫→天子への好意は蓮子の影を重ねたということで納得できますが、天子の側から「紫を助けたい、アプローチを掛けたい」と思うきっかけを具体的に用意すればもっと良くなったと思います。
作品全体としてみれば、キャクターのシミュレートに慣れてなくて台詞がチグハグなように感じました。これではキャラについていけず読みにくいです。
地の文もまだまだですが、キャラの掛け合いが本当に生きてる人っぽくで面白ければ地の文が多少不足しててもとりあえず読める、なんならまったく地の文なくても読めるんですよ(それで面白いかは内容によりますが)なので台詞を練り込めば一気に読みやすくなるかなと。
取り急ぎ問題かなと感じたのは、キャラから感情の起伏が感じられないこと。作中、キャラクターがストーリーラインに沿って行動してるだけで、感情らしいものが中々感じ取れませんでした。全体的にキャラの台詞と行動がいきなりなんです。
キャラクターたちは各々が言葉や行動で自分の考えを表しますが、その合間にも笑ったり、呆れたり、怖がったり、意気込んでみたり、焦ったり、感心したり、悩んだり、色々な反応があるはずです。
例えば天子が桃を持ってきたところも、まず桃を差し出す、ここまでは良いです、でもその直後に桃を持ってきた理由が語られない。その結論に行き当たり実際に行動に移すまで葛藤があるはずでしょうし、逆にそういうのがすんなりできる人なのなら「この人はそういう人なのだ」とわかる説明が必要です。そこが前後の流れで補完されてないからいきなりで、どうしてそうしたのかよくわからない。
また途中でパロネタも見かけられましたが、自分はあまり合いませんでした。個人的意見では、大事な見せ場の台詞は安易に他の作品に頼らず、作者本人から発した言葉を感じてみたい、と思います。
考えられた末のオマージュなどなら、それもまた作者の芯がこもった台詞や展開などになるので、それはありだと思いますけどね。
こういうパロネタを使う選択を取ったということには、作者なりの理由があります。単にその元ネタが好きということもありますが、自分自身の選ぶ台詞に自身が持てないので他作品に頼っていたりすることもありますし、単に面倒がって手に取れるネタを貼り付けただけだったりもする。
その理由を見定めて、今度は自分自身から創作したほうが、読者的にも、また作者的にも満足できるかなと思います。
物語の向きとしては、非常に真っ直ぐだと思います。真っ直ぐすぎると、それはそれで融通が利かない面もありますが、それは自分の物語を深く追及してるうちにおいおいわかるかと思います。
むしろこうやって真っ直ぐな話を書けることはとても素晴らしいことだと思います、そこから学んで別種の展開ができるようになるのも素晴らしいですし、ここから更に長所を伸ばして真っ直ぐで若々しい話を書けるならそれも素晴らしい才能だと思います。
自分の芯、書きたいものを疑う必要はないと感じます。むしろそこは思いっきりはっちゃけて、もっと書きたいように書いてみて欲しいです。長文失礼しました。