Coolier - 新生・東方創想話

鈴奈庵のお客さんになろう 第二話前編 SSって『シェーグレン症候群』の略だと思ってた

2018/04/01 10:53:52
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 最初に前回があった。だから今回がある。続編ってことだね。

 前回は色々あって失敗したけど、今回こそは小鈴と仲良くなろうと思ったんだ。
 もちろん博麗神社の宴会に参加するためだよ。前回説明したこと覚えてるよね。

 だからさっそく鈴奈庵に来たわけだけど、なんか入口のところに張紙があんのよ。
 黒髪でノッポ、顔が胡散くさい不審者、バカな行為について身に覚えがあるバカは入店禁止――って、ちょっと剣呑な書式で記載してあるんだ。

 俺は阿部寛似だし、まあ身に覚えが無かったけど、まあ万が一ってこともあるじゃない。
 間違えられちゃ嫌だなって思ってさ、最近のオープンワールドゲームでよくあるふうにヘアカラースプレーで髪を茶色に染めてから入店したよ(伏線)。
 そしたら小鈴のやつ「うわあ」って顔をしたのさ。あくまでも顔ね。声じゃないよ。

「バカが増えてるらしいね、調子どう?」俺はフランクなふうにきいた。
「最悪よ。今しがたバカが入店した。てっか、なによあんた、髪の色が違うじゃないの」
「カラーリングしたんだよ」

 そんな無意味な会話をも楽しみながら、俺は借りていたムーミン・シリーズを小鈴の前のデスクに置いた。個人的なベストは『ムーミン谷の十一月』かな。

「返しに来たよ。お代はこれで」と、高額紙幣一枚。「お釣りは結構ですよ」
「……はい、どーも」どこか釈然としない顔で、小鈴は頷いた。
「さって、次は何を借りようか」

 ちらちらと本棚を物色する俺に、小鈴が差し込むように言った。

「あの、領収書のお名前をお願いできますかね?」
「領収書? 要らないよ、そんなの――」
「いやいや、お名前だけで良いので」食い気味に、小鈴は言った。

 そこで俺はピーンときたね。つまり小鈴は、入店禁止の張紙に載せる名前、特徴とかまどろっこしい指定じゃなくて、俺を特定する個人名を欲しているに違いない、ってね。

「俺の名前はお客さんだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「いや、そんな名前があってたまるか」
「だから入店禁止の張紙には『お客さん入店禁止』って書くと良いよ」

 すると小鈴は「ぐぬう」って顔をしたよ。あくまでも顔ね。声じゃないってば。

「それで、俺はどの本を借りれば良いのかね」キザっぽく、言った。「金ならあるんだ」
「なによ、バカにして。勝手にすれば良いでしょ。ふん、だ」

そう言って、小鈴は本に眼を下ろしてしまった。

「『たぶんスコッチの酔いが快適な温もりを与えてくれたから、僕は非道な発想を得た。ベルが死ぬまで眠る必要はあるのか。向こうが老婆となりながら、こちらがまだ青年であれば、その状況は立派な復讐となるのではなかろうか』」

 朗読してるね、ハインライン。こりゃあ怒ってるよ、もはや明らかだ。こういう時はやっぱり謝らないといけない。それが英国紳士ってやつだからね、日本人だけど。

「俺はここを追い出されたら辛いし、寂しいよ。だから許して、許してクレマチス」

 真摯に言ったよ。紳士っぽく、真摯にね。プッ、プフッ。

「……まあね、そりゃあ、別に悔い改めてくれるのなら文句はないけどさ。お金の払いも悪くないみたいだし、延滞する人も多い幻想郷では珍しくちゃんと返しに来たし」

 俺の心の中での戯れを知らない小鈴は本から顔を上げてくれた。この子、良い子ねえ。

「んで、今回はなあに?」と、本に栞を挟みながら小鈴がきいてきた。「リクエストはございますかねえ、お客さん?」最後の部分だけ何だか皮肉っぽいなあ、嫌味ったらしい。
「そうだね、前回がファンタジーだったから、今度はSFにしてみようか」
「SFって一口に言うけどねえ、色々あるのよ?」

 俺の返事に不服げに、小鈴は唇を尖らせて上目を向けてくる。

「そこはとっつきやすそうなものを頼むよ。宇宙とかロボットとか」
「そんなこと言ったって、またそこに行くんでしょ。怖いところは嫌よ、私」

 小鈴は口を尖らせつつ告げた。狐みたいで可愛いね、基本は猫顔のくせに。

「ううんと……じゃあ、そこの『きまぐれロボット』という本は如何かしら?」

 そう言って、小鈴は『き』の本棚を指差した。

「星新一のショートショート集ね。表題の『きまぐれロボット』は、人間の健やかな生活のためにロボットはどういう存在であるべきか、というのを主題にした物語よ」
「えっと、き、きま、『きまぐれエトセトラ』じゃなくて『きまぐれフレンドシップ』じゃなくて――ああ、これか」と、俺は背表紙だけで本のタイトルを確認して、懐から短冊と筆ペンを取り出した。

 短冊に『きまぐれロボット』とサラサラ書いてから、それをおもむろに口に運ぶ。

「ムンチャ、ムンチャ、ムンチャクッパス」

 味は紙、口から鼻に昇る芳香も紙、歯ごたえは紙で、飲み込んだ後の余韻も紙だった。あと墨。ほんっとに美味しくないんだよ、マネしないように。

 ああ、前回の設定を忘れちゃった読者さんもいるかもしれないから説明するけど、俺は『短冊に本のタイトルを書いて食べるとその世界に飛べる程度の能力』の持ち主なんだ。最近になって、フッとね、覚醒したんだ。
 え、覚醒した理由? ……あれだよ、デウス・エクス・マキナのキッスで開眼したのさ。ドラえもんがネズミに熱烈なキッスをされて青くなったのと同じ同じ。

 まあとにかくさ、俺達はこれから『きまぐれロボット』のSF世界に行くってわけだよ。時代という枠組みを越えたスリル、サスペンス。ワクワクするね。しない? しようね、しよう。

 けど、本の世界に行くってことは幻想郷じゃないところで物語が進むわけで、それって創想話でやる意味あんのって、そういう幻聴が聞こえてくる気もするけど、そこはホラ、この本があるところは鈴奈庵なわけで、鈴奈庵あっての本との出会いなわけさ。つまり俺達がどこに行っても鈴奈庵ありきなんだよ。カンペキな理屈。そもそも俺が大好きなSSでは無人島で早苗さんがサバイバルしてたからね。それが良いならこれも良いでしょうの、前例主義的な法曹の精神に則ろうね。

 んで、新たな冒険の予感にワクワクしている俺を尻目に、小鈴は、その外見に似合わない老いた猫みたいな目をした。

「ねえ、ちょっと急ぎすぎじゃない? もっと内容の確認とかしないの?」
「いや、本読みにストーリー語らせると折角のショートショートが無駄に長くなりそうだし、こんなところ(鈴奈庵)でウダウダしてても、ねえ。つまんないよ」
「こんなところ(鈴奈庵)って、あんたね、ここはうちのお店なんですけ――」

 と、小鈴が俺の失言に食いついたところで、世界が暗くなった。
 真暗だけど、その時間は大したことないよ。エレベーターが一階から二階に移動するくらいの暗転で、周囲が光を取り戻した時にはもうそこは鈴奈庵(こんなところ)ではなかった。

 そこはモノトーンの一室だった。現代風、というより、近未来風かな。壁は白いんだけど壁紙の白さってよりも材質が白色に擬態してるって感じの、そういう壁だよ。
 それと、白を基調とした機材の合間にネジだの配線だの金具類が転がっていて、およそマシーンの開発室ってもんを見たことがない俺でも、すぐそこがそういう意図の部屋だって分かった。
 まあ、この本のタイトルからしてきまぐれロボットなんだから、ここはそういう不束者な人工知能を開発した、もしくは開発中の研究機関に違いないよね。

 ――などと、これが何とか名SSとなるように俺が考察を務めている隣りで、「うわあ、白い!」って、雪景色を見た旅番組の女子アナみたいな耳にするだけでもアホらしくなる感想を小鈴がもらした。
 そんなん見りゃ分かるじゃんか、なんて、俺は頭ごなしに言ってしまいそうになったんだけどさ、小鈴のほうを見て、すぐ考えを改めたね。
 小鈴は周りなんて見ちゃいなかったんだ。
 ただ天井の電灯をジッと見つめてさ、目をキラキラさせてるんだよ。

 俺は馬鹿だから気付かなかったんだけど、幻想郷での読書って、夜は大変なんだよね。
 だって普通の一般家庭には油と行燈でしょ。あってもランプとかさ、少しくらいなら電灯もあるのかもしれないけど、現代のLEDほど明るい光じゃないだろうしね。

 小鈴は読書家だからさ。夜だって本を読みたい、根っからの読書家だからさ。
 きっと夜でも目に優しい、あざやかな光に感動していたんだよ。

「幻想郷だと、あの光は千金に値するわ」
「まあ、確かに未開地(アマゾン)では千円の光だね」

 そんな会話をしていると、カチャリって、向かいの扉が開いた。
 入ってきたのは白衣を着た男性だった。顔一面がもうもうの白髭に覆われてる、いかにもな老博士だ。

 正直、俺はオタオタしちゃったよ。だってそうだろ、俺達の状況って、この博士から見りゃあ不法侵入者じゃんか。隣りで小鈴もワタワタしてたから、たぶん気持ちは同じだったよ。
 二人してモンキーダンスみたいにアタフタしてるのを見て、案の定、博士は目を丸くさせていたんだけども……その次の言葉は、却って、俺達を驚かせる言葉だった。

「小鈴ちゃん?」老人の、枯れた渋声。
「え?」小鈴の、鈴みたいな声音。
「なんて?」俺の、阿部寛ばりの美声。
「まさか、まさか、小鈴ちゃんかね? 本当に?」

 初めは息遣いすら弱々しかったんだけど、枯れた声音は精気を芽吹き、やがて香るような息吹で満ちた。――こうやって書くと何だか花咲か爺さんみたいだね、花開いたのは爺さんだけども。

「小鈴ちゃんじゃ、この子、本物の小鈴ちゃんじゃあ」

 ともあれ博士は嬉しそうな顔して、ミーハーな高校生みたいな、どっかで聞き覚えのあるセリフを言った。
 あんまり嬉しそうだったからさ、俺も自分のことみたいに嬉しくなっちゃってね、一緒になって言ったんだよ。

「そうさ、そうさ。小鈴ちゃんだよ、本物の小鈴ちゃんだよ」
「そうじゃ、そうじゃ。小鈴ちゃんじゃ、本物の小鈴ちゃんじゃ」

 俺と博士は手を取り合い、ちっちゃな小鈴を中心にしてクルクル回った。

「ちょ、まっ、待て、回るな、待てっ! うるさい! うるさあい!」

 そうやって二人してはしゃいでたら、おーやおや、小鈴が両手を挙げて叫んじゃった。
 ちびっこが楽譜見ないで振り回すジングルベルの鈴みたいな声音、つまり部屋でいっちゃん騒々しいってことだよ。
 俺も博士も大人で紳士だからね、レディファースト、小鈴の話を聞くことにしたのさ。

「とりあえず、あんた誰よ」
「阿部寛です。代表作はバブルへGO!!」と、俺はそんな気分だったんでそう名乗った。
「あんたは黙って」小鈴はいちいちツッコミしてくれるね。良い子だよ、本当に。
「わしかね。わしはエヌ博士じゃ」

 エヌ博士だってさ! アルファベットだけとか、そういう安直なネーミング大好き。
 だって俺、自分の名前すら考えついてないし、第一この物語に俺の名前とか不要だし、もうこのまんまで良いかななんて思ってるからね。気が合うなあ、星新一。

「それじゃ、エヌ博士。悪ふざけか何か知らないけど、もう私の名前を連呼しないで。私、ただでさえ今の状況が訳分かんなくて苛々してるんだから」
「そもそも自分が訳分かんないからって喚き散らすのもどうなのかね、ん?」
「まるでどこぞのスレじゃわい」
「うっさい! 私が不満に思わないくらい分かりやすく状況を説明しなさい!」

 小鈴はわりと自分本位なことを言った。まあ女の子ってのは我儘なもんだよね、尊い。

「んで、爺さん博士。どうして小鈴を知ってんの?」
「ふむ、その質問に答える前に、まず諸君がいつの時代から来たのか、諸君が今いる時代がいつなのか、それを互いに確認するべきじゃろう。タイムトラベルの配慮がなければ、無闇に会話するだけで時空間に歪みを産んでしまいかねん」

 爺さんは何故だか急にマジメっぽくなって、某有名映画のエメット・ブラウン博士みたいに整然と言った。……さっきまで立ち枯れていたくせに、きっと小鈴の前で恰好付けてるんだろうね。

「その口ぶりだと、博士は俺達が過去から来たって思ってるみたいだね」

 それって変な話だよね。だって俺達は『きまぐれロボット』って本の世界に来たんじゃなかったっけか。これじゃまるで現実世界の未来に来たみたいじゃない?

 これを、足りない頭でムリに考察するとすれば――。
 大体においてSF小説ってのは未来を空想して書いていく代物だから、どうしても作者が存在する、ひいては俺達の居る現実世界から派生した世界になってしまうものなのかも知れないね。
 つまりほら人間ってのは生物だから自我に囚われちゃってマッスィーンみたいに完全な客観視ができないんだよ。
 すると主観の影響が不可避だから創作された世界はどうしても現実に似通っちゃう。コギト・エルゴ・スムの限界ってやつさ。
 そんなことを、俺はごんじりさんのSSで学んだからね。やっぱり創想話は万能なんだ、俺は詳しいんだ。

 って、おんや、御納得頂けない?
 そんなに『きまぐれロボット』の世界に東方があるのが御都合主義的?
 ならね、そう、この『きまぐれロボット』を、星新一って作家の夢と考えれば良いよ。『東方プロジェクト』はZUNの夢、このSSは俺の夢、全ての生き物が見る夢は実は根底部分で繋がっている(原文ママ)から、何も不思議じゃない。
 ほら、ドラビアンナイトって映画でさ、絵本に取り残されたヒロインの女の子をタイムマシンで助けに行くって話があったじゃない。あれも似たような理屈なのかね、知らんけど。

 まあ少なくとも言えることは一つ、この世界にも俺達の大好きな東方プロジェクトは存在するってことさ。サンキュー、星新一。サンキュー、ZUN。サンキュー、ドレミー。

「うむ、その通りじゃ。何せ小鈴ちゃんが居るんじゃからのう」博士は遠い目をしてそう言った。「わしにとって小鈴ちゃんは数百年前を夢想させる、懐かしき遥か東方の、燦然たる青春の余韻なのじゃよ」
「はっはっは、なるほど、なるほど。博士は詩人だなあ」

 ちょっと意味分かんないです、なんて実際のところ俺は思ったわけだけど、その矛先である小鈴は健気にも爺さんのポエミィな発言を真正面から受け止めたよ。良い子ねえ、この子。

「あの、数百年前ってどういう意味なの?」
「ふむ、あくまでもわしの記憶が正しければじゃが、小鈴ちゃんの生きた時代と現在にはそれほどの隔たりがあるんじゃよ。今は西暦2X99年、世はまさに世紀末なのじゃ」
「北斗の拳かな」
「世界は核の炎にゃ包まれんかったがのう」

 ってことは、平和裏に世界が進んだ、そういう未来なわけだね。良かったね。安心だね。
 まあ、SFって聞いてディストピアとかマッポーカリプスを期待してた読者=サンには申し訳ない。……そんなの書けるわけないだろ、ハイクを詠め、インガオホー!

「ちょ、ちょっと待ってよ」と、小鈴がうろたえて言った。「どうしてそんな先の時代の人が私のことを知っているの?」
「そりゃ、わしゃあ鈴奈庵のファンなんじゃよ」
「うちの店の?!」

 博士のカミングアウトに、小鈴はビックリ仰天さ。おめめ真ん丸、子猫みたい。
 いや、俺はもちろん漫画のことだって分かったけどさ、小鈴は自分が漫画のキャラクターであることを知らないわけじゃん。
 つまり博士が口にした鈴奈庵って単語を、文字通り、貸本屋の屋号として受け取ったわけだね。

「どうしてうちの店が未来で知られてるの?!」
「それは、ううむ、あれじゃ――禁則事項ってやつじゃよ。すまんのう、すまんのう」
「そんなあ。うう……まさかSF物の常套句を実体験することになるだなんて」

 しょんぼりしちゃったけど、小鈴はもう食い下がるつもりはないみたいだ。禁則事項ってのは読書家を黙らせる魔法の呪文か何かなのかね。俺、ちょっと感心しちゃったよ。
 だってほら、物語ってのは、登場人物とか読者とかに内緒にしなくちゃいけないことも出てくるでしょう。こういう感じで情報制限するのは物語の手法としてなかなか悪くないのかもしれない。
 第一この場合、まさか本人に、本人が出てくる漫画を読んでるとは言えないだろ。この爺さんも踏んじゃいけないラインをわきまえているみたいだね。

「そもそも、わしゃあ東方プロジェクトのファンで――」
「止めろ止めろ、ジジイ!」

 踏んでるね、ライン。踏みに行ってる。何一つわきまえていなかったね。
 俺はもう大慌てで爺さんの言葉を遮ったんだ。

「それ言い出したら、小鈴、もっと訳分かんないことになるじゃないか」
「オウ、グレート・スコット(なんたることだ)!」
「エメット、なりきり止めろ、エメット!」

 俺は叱りつけたよ。彼は悪い博士じゃないけど、わりと困ったちゃんな博士だ。
 もちろん、制止は手遅れもいいとこで、小鈴は首を捻っていたよ。空気を読んで、いたずらに問いただすとかはしなかったけどね。ほんと良い子なんだよ、この子は。

「とにかく、博士。本題に入るんだけど、俺達はきまぐれロボットを見に来たんだ」
「きまぐれロボットとな?」

 博士は少し考えるような仕草をしてから、いかにも困ったちゃんな顔して言った。

「諸君らの目的は恐らくアレであろうけども、そのロボットは現在外出中じゃ」
「ああ、じゃあストーリーは今ここじゃなくて、もう別のところまで進んじゃってる感じですね」と、小鈴はどこか納得した感じで告げた。

 いや、けど、俺は納得できないぞ。せっかく来たのに、それじゃ何にも面白くない。
 このSSがこんなところで終わってみろ、創想話でのコメント欄とかスレが大変なことになっちゃうぞ。作者はマジで脳味噌洗って来いとか言われちゃう。待って。やめて。

「博士、他には何かないの? できればポイントが稼げそうな物珍しいヤツが良いよ。でかくなるあうんちゃんとか(便乗)」
「ふうむ、でかくなるあうんちゃんはさておき、小鈴ちゃんのポイントを稼ぐのならば……アレとかどうかのう」

 そう言って、微妙にズレた解釈をしたエヌ博士は俺達を別室に案内した。
 そこの間取りは元の部屋と殆んど同じだったけれど、唯一違っていたのが、机の上に乗っている小型の印刷機みたいな機械だった。

「なにこれ」
「ほっほっほ、小説マシーンじゃよ」

 博士は自慢げにヒゲを撫で付けながら言った。
 あらまあ、って――俺は横目にチラリと小鈴を見たんだけどね、案の定、凄い目をしているんだよ。まるで猫さ。さっきの子猫ってのとは別の意味での、光る目って感じ。

「この機械にタグを入れてスイッチを押せば様々な文豪達の新作小説が楽しめるのじゃ。例えば【芥川龍之介 ロマンス】と入れてスイッチをオンにすると、芥川龍之介の新作である恋愛小説がアウトプットされるというわけじゃ」

 俺は「へえ」とか「ははあ」とか、もったいぶった相槌をうちながら、しげしげ機械を眺めた。でもどう見たって、それは俺の家にだってある卓上印刷機と大差なかったんだ。

「なあんか眉唾だなあ。どんな作家でも大丈夫なの?」
「大抵は大丈夫じゃが、一応、制限がある。タグは既に亡くなった作家しか受け付けん。さもなくば作家が生きているのに見ず知らずの作品が世に溢れてしまいかねぬからのう」
「博士!」

 突然の大声、俺が驚いちゃって瞬きする間に、小鈴がエヌ博士の手を取って言った。

「なんて画期的な発明でしょう! 博士は天才ですわ!」おもねるみたいな、小鈴の口調。
「ほっほっほ、小鈴ちゃんが喜んでくれて何よりじゃよ」博士はうっれしそうな顔してるよ。
「この類稀なる発明はどう使うんですか?」
「それはのう、まずこのカードにタグを書き入れてじゃな、そう、こんな感じで――」

 博士はカードに【トリスタン・ツァラ 小鈴】と書き、機械のカード差込口に入れて、横の丸ボタンを押した。すると機械は内部から明滅して、ウィンウィンの音が少し続いた後、一枚の紙がパラっと吐き出された。

『小鈴 作:トリスタン・ツァラ
鈴を燃やすんじゃない ランカスターは夢のまた夢
暴露された標識は虹色のサルを掲げ 針の穴を覗いている
星の光がまたたく蝋燭で メジロの顔は元よりシャレコウベなのだ
それは実証だ 勇気 陥没 クレヨンの船を持ち上げて
数多くのカミソリに追われ 時には未来を尋ねるのも良いだろう
ミサイルの枝は直線の緊張を帯びて この極悪人どもにはそれも感動的だ
稲妻は墓に埋められたのだろうか? あの手この手のラッパがチャリン
虚空の闇に浮かんだシミは きっと羊を寝かしつけているに違いないんだ
目から溢れてきた たった一粒の二酸化炭素は
数多の意識を黄金に はたしてそれは名誉の時計だ
チリン チリン けぶる音にこそ甘味がある』

 ……何これ。いや、ちょっと、ほんと、これ理解できた人いる? いるの? いないでしょ、こんなん。ムリ。ダメだ。理解できるやつarcaさん以外ゼロ人説を提唱しちゃう。
 俺だってもうね、何が何やら訳分かんなかったよ。心がプクッとしてイライラしちゃう!

「何が何だか訳分かんないぞ!」俺はワアワア喚いた。
「わしのせいじゃないわい! どこぞのスレみたく喚くな!」博士もガアガア喚いた。
「黙って! 訳分かんないからって二人して喚き散らさないで!」小鈴だってキイキイ喚いていた。
「【作品集】184
【タイトル】リグル・ナイトバグは蠢かない  【書いた人】 南条 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/184/1370648077
【あらすじ】
素敵な巡り合わせがリグル・ナイトバグに与えた初めての『家』。それは2階建て物件で、その時、彼女は野良妖怪でした。
その状況は甘くてクリーピィで、こんなに素晴らしい偶然を貰った彼女は『僕は特別になれるかもしれない』と感じました。
今では彼女が家主さん。同居させてるのは五人のいかれた仲間。何故なら彼女達もまた特別な存在だからです。
【感想】
リグル君が人生を楽しむSS(楽そうではない)。
南条さんの『〇〇は△△ない』シリーズの、現時点での最新作です。
574KB? 愛なんでしょうね。愛です。もしくは創想話の住人達への信頼といえるのかも知れません。初読、四時間くらいかかりました。
生き生きとした仲間達がそれぞれの思念・理屈を持って動き回る様子は群像劇の醍醐味であります。
自分としてはリグルとミスティア、あとは鳴子が良いキャラをしていたと思います」

 結局、どこぞのスレみたいに大騒ぎになっちゃったけど、熱しやすさ冷めやすさも、レビューの人のマイペースも、どこぞのスレと同じで、少ししたら三人みんな嘘みたいに落ち着いた。
 レビューの人? ああ、今さっき小鈴と握手して普通に帰ってったよ。お疲れ様です。

 んで、とにもかくにも使いかたが分かったってんで、小鈴がカードにタグを書き始めたんだ。

「まず【リチャード・マシスン 大災害】でしょ。次に【カート・ヴォネガットJr 諷刺】と【宮沢賢治 科学】、【日野啓三 都市】、【エリナー・ファージョン ばあや】、それと【アルベール・カミュ 憎悪】に【灰谷健次郎 少年A】、【ガルシア・マルケス 葛藤】ってのも良いわね。【井上靖 夢】に【乾富子 動物】、【トールモー・ハウゲン 子供】、ああ忘れるところだったわ、【舟崎克彦 湖畔】ね」
「おいおい、よせよ、冗談じゃないぞ。え、おい、冗談じゃないぞ」

 俺は小鈴を大慌てでたしなめたよ。焦燥して狼狽しつつ周章して、スウィベット(アタフタってこと)にたしなめたよ。
 だって困るじゃないか、このSS書いてんの俺なんだよ。何に困るのかって、そりゃ、詳しくは言えないけど……その、つまり、禁則事項です。

「そんなに沢山どうするつもりだい。大変になっちゃうよ」
「何が大変なのよ。あんたが書くんじゃないでしょ」小鈴は痛いとこを突いた。痛い!
「いや、読むほうも大変ってことさ。まずはどれか一つにしなよ」

 そう言って、俺は小鈴が最後に書いたカードを取って機械に入れた。スイッチ・オン。
 すると――とんでもない速度で、それこそ印刷所の輪転機がトップスピードで稼働してるくらいの速度でパタパタと原稿用紙が放出された。消防車の放水みたいにね。
 舞い散る紙に包まれて四方八方がカーボンホワイト、幻想的のようでいて、ただどっか白けた感じもある。容赦なく顔とかにもぶつかってくるもんだからね、うっとうしい。

「やあれ、酷いなあ。これはまるでアルゼンチンのイナゴみたいだ。連中は翅が白くってね、こんな感じに視界が真白になるんだよ」と、俺はなけなしの知識を語った。
「かじられちゃわないだけマシじゃないの。変なこと言ってないで拾うの手伝って」

 ザッと三百枚ほどの紙が舞ったところで、ようやく機械は止まったよ。
 残骸ってか、床に散らばる用紙を拾い集めながら、俺は皮肉たっぷりに言ってやった。

「ああ、ああ、君は実に立派な読書家だよ。小説のために膝を屈めてるってんだから」
「そうよ、そうよ、私はあんたと違って読者家なのよ」小憎らしく、小鈴も応酬した。

 やがて山盛りの原稿を腕に抱えて、小鈴はすっくと立ち上がった。
 その先ではエヌ博士が手招いている。

「こっちの部屋に読書用のデスクを用意したぞい。お菓子やジュースもある。おいで、小鈴ちゃん。さあ、その紙束をわしに――おっとっと、こいつはヘビィだ」
「うふふ、素敵ですわマクフライ、うふふ」
「ほっほっほ、お菓子好きかい?」
「ええ、大好きですわ」

 よたよたな博士の案内に促されて、その腕を可愛らしく組み付いた小鈴が去っていく。

「ワザ。ワザ」俺は竹一っぽく低い声でこう囁いた。

 博士はともかく、小鈴には聞こえていただろうけどね。何の反応も無かったよ。

 若干の物淋しさ……ま、やんややんや言ってたけども、これで俺のターンというわけだ。
 俺も創想話の常連だからね、好きな作家の一人や二人くらい居る。居るよ。居るともさ。

「さってと、こうやって誰のでも読めるってなると迷っちゃうなあ」

 まず俺の頭に浮かんだのは、さっきの台詞もあってか、昭和の大文豪・太宰治だった。できれば『グッド・バイ』の結末が見たいって思ったんだよ。
 知らない人に説明すると、この『グッド・バイ』って小説は太宰の未完の小説なんだ。ユーモラスな恋愛小説で、これからいよいよ面白くなるぞって時に、何故だか急に終わっちゃった小説なんだよね。
 何で終わったのかって? ……禁則事項です。たぶん飽きたんじゃないかな、きっと。

 とにかく俺はペンを取ってカードを一枚取った。

 でもカードを前にして凄く困っちゃったよ。どんなタグを書けば『グッド・バイ』の続きになるのかって、正直な所、小鈴ほどの読書家じゃない俺には分かんなかったのさ。
 仕方ないってんで、別の、それこそ続きとかじゃなくて新作を読みたい作家ってふうに考えることにしたんだ。

「ええと、じゃあレビューの人に感謝を込めて【南条 リグル ミスティア 鳴――」

 そこでガッ――と、手を掴まれた。部屋に戻ってた、エヌ博士だった。さっきまでの浮かれた雰囲気は微塵もなく、その老いぼれた手で俺の手を痛いくらいに掴んでいるのさ。

「え、何、博士、どうしたん?」
「それは、いかん」博士はゆっくり首を振った。
「え、何だい、博士は創想話作家を知っているのか? わりとコアだな」
「ん、まあのう。――それより、このマシーンのタグに彼の名を入れてはいかん」

 有無を言わせず、という博士の雰囲気に、俺はちょっぴり息を呑んだ。すごい迫力だ。
 だけど理由もなしにってんじゃ、俺だって面白くない。だから博士をジッと見つめて、その理由を沈黙の裡に求めたんだ。
 博士は目元を押さえて、何か深い考えごとをしているようなポーズで立ち尽くしていたけど、やがて言った。

「彼はのう、タグ関連で、呪われているのじゃよ」
「えっ、誰からも好かれる優しくてイケメンな南条さんが? どうしてホワイ?」
「ほっほっほ、皆目分からん。じゃが、これだけは言えようぞ。彼がタグを正常に用いると世界が滅ぶ。このカードもタグを用いておるゆえ、結果的にその呪いは有効なのじゃ」
「まさかっ! そんな世界のシステムは知りませんよ?!」

 そんな歪んだ真実、信じられなかった。青天の霹靂ってやつさ。未曾有の衝撃って言っても良い。
 俺は義侠心に駆られ、自分の握りこぶしに思いっきり力を込めた。けれど身体の中の総てのパゥアーを結集させたとしても、この義憤は払拭できない。それは間違いなかった。

 ああ、でも、可哀想な南条さん。誰からも好かれる優しくてイケメンで、きっとこうした一ファンの些細な悪戯にも決して、決して、決して怒らないくらい寛容な、南条さん。
 なんとおいたわしや。

「俺は、俺は、南条さんがタグを普通に使わないのは伊達や酔狂からだと思っていた。なのに……なのに、分かってやれなかったんだ! 彼は世界を護っていたってのにさっ!」
「うん、まあ、そうなんじゃよ」
「俺はっ――俺は……俺ってやつは、何と愚かなんだ……。屑だ、ゴミムシだ……戸隠さんの足元にも及ばない……。ゴミが瘴気にあてられて動いてるだけです……」

 懊悩、煩悶、葛藤、息が吐けなくなり、俺はCO2ナルコーになった気分だった。
 ちなみに『ナルコー』ってのはあれだ、人工呼吸器を取り付けた際のトラップで、救急科に配属されたての研修医とかが引っかかると患者さんの気道音が鳴らなくなるやつ。
 俺は哀しさのあまりに「頭の中が爆弾だ! 南条さん、お許しください!」と言った。

「いやいや、そんなそんな、そう気を落とさんでも」

 エヌ博士は俺の迫力に押されたのか、ほんのちょっぴり引き気味に言った。
 けど、俺にはその博士の対応が、仕草が、俺の人間性を見捨てるみたいに感じられたんだ。
 こいつもこの程度の、誰かをからかってふざけてばかりいる、ぐうたら三昧な、大人になりきれていない精神的な童子に過ぎないって、そう言われている気がした。

 自分の無力が辛くて、世界の目が悲しくて、南条さんの心境を想うと申しわけなくて、たまらなくなった。だから俺はひざまずき、この世に存在しうるありとあらゆる神に懺悔する気持ちで告げた。

「この愚かな一ファンは彼の崇高な行いを無駄にするところでした。もしそんな愚行を仕出かしたら、残忍な火男に『よく俺の前で創想話投稿できるな』みたいなことを言われたに違いありません。すると衝撃を受け心身が衰弱し、日常生活を送ることも困難になってしまうことでしょう。栄えあるレスリングのプロでさえそうなのですから、私のような三流がアンチに晒されれば『山月記』の李徴みたくなってしまったに違いありません。……分かりました、博士。違う人にします」
「それが良い」○チョウみたくってのはまずいぞ、と小声で付言しつつ、博士は頷いた。
「じゃあ前作の天丼になるけど【火男 チルノ】で」
「それもダメじゃね」

 博士は今度はあっさりと言った。

「んっでだよ!」
「彼はまだ死んでおらん。現在も新生・東方創想話VRへの投稿を続けておる。最新作は『きょんちィ・ワズ・エレクテッド・ヴィープ』」
「ええ……なあにそれ」俺は絶句した。「やっぱり妖怪だったのか……」

 そんなこんなで日が暮れて、俺達は幻想郷に戻ってきたんだ――。



 鈴奈庵の店の前に戻ってきた時には、もう辺りはすっかり暗くなっていたよ。人通りも殆んどなくって静かでね、聞こえてくるのは犬の吠え声と戸隠さんの悲鳴くらいだった。

「こんなに暗くなってたのね」
「まいったなあ、こんなに長くなるとは」

 そう、シークバーを見てもらえれば分かる通り、実はもうちょっと長いんだけどね。
 とにかく今日のところは戻ってきたんだよ。だって、あんまり遅くなっちゃ親御さんが心配するでしょう――って、もう手遅れだったよ。

「小鈴」と、店の暖簾をたわませて、小鈴ママが卓上ランプを手に持って出てきた。
「あ、お母さん。ただいま」
「ただいまじゃないわよ、こんな遅くまで。店を放って、いったい何処で遊んでいたの」

 PTA様としては、ごもっともな御言葉だね。すごく心配そうな顔をしてるしさ。
 だけど小鈴はプイと顔を背けてしまった。
 別に不機嫌ってるわけじゃないと思うよ。小鈴だって、小鈴ママが自分を心配しているから怒ってるってことくらいは分かってるはずさ。
 それでも素直になれないのは、そういう過保護をダサいと思ったりとか、反抗期とか、まあ色々あるわけだけど、基本的には自分が好きで夢中でしていた事柄を理解してくれないって、そういう気分になってしまうからなんだろうね。

 ほら、みんなにだって覚えがあるだろ。友達との付き合いで夜遅く帰ったり、夜更かししすぎて朝に起きられなかったり、ゲームにかまけて宿題しなかったり、そんで大人から叱られちゃうってことがさ。
 お客さんにも子供だったころはあるから分かるんだよ。いや、あるんだよ。あるから。

 子供達にとってはね、少なくとも彼らの世界では、友達だとかゲームだとかが何より大切なものでさ、時には崇高なものにまで見えちゃってさ、そんでも親や大人は分かってくんないからムスッとしちゃうんだよね。
 この時の小鈴もそうだったわけさ。彼女の場合は読書かな。遅くなったのは、まあ、小鈴がなかなかデスクを離れようとしなかったからだし――。

 いやまあね、もちろん分かってるとも。
 そもそも小鈴は好きで店番を放棄したわけじゃない。同意もそこそこに、勝手に未来へ連れてった無責任なオリキャラがいる。
 はっきり言って、叱られてんのはそのけしからんオリキャラのせいだよ。……俺だよ。

 まったく何やってんだよって話だよね。
 大体さ、創想話ってえ場所じゃあ、オリキャラなんてやつはプロット段階で殺されて当然なんだよ。ばかのひさんのブログで見たもん。二回見たもん。
 このSSにはプロットが無いから幸い俺はまだ生きてるけど、ここは創想話のオリキャラとして、東方少女である小鈴のためにも死ぬ気で庇ってやるべきじゃないのか。

 そんなわけで、俺は、土下座をする覚悟をしたよ。
 儚月抄のゆかりんがしたであろうくらい、それは強い覚悟だったんだよ。

 ところがね。小鈴は、俺が膝をついて「許してクレマチス」とか言う前に、「別に良いでしょ」なんて小鈴ママに減らず口を叩いたんだ。隣りで片膝をついてた俺はびっくりさ。
 こんなん小鈴ママが怒るのは当然だよね。その優しそうな顔を精一杯に険しくしてさ、小鈴ママは「今夜はお説教よ。早く中に入りなさい」って言って店に入ってっちゃった。

「あーあ、あんまり長くならないと良いなあ」なんて、小鈴は呑気なことを言ってる。
「……んじゃまあ俺も帰るよ、小鈴。また来月ね」
「は?」

 夜闇へとクールに消えようとした、俺の後ろ裾を小鈴が掴む。なあに、この手は。

「来月? また来月って言った?」小鈴は信じられないとばかりに言った。
「そりゃそうさ。鈴奈庵って毎月じゃなかったっけ?」このSSもその予定だよ。
「毎日やってるわよ、何を言ってるの」

 いやそりゃ鈴奈庵であって、東方鈴奈庵は月刊コンプエースの看板だったわけだから、毎月でしょうよ――と、いうことを言いたかったけれど、俺はラインをわきまえているので言わない。

「明日よ。明日の朝七時にまた来てね。エヌ博士のところに行くんだから」
「ええ……今さっき叱られたばっかじゃん。こういうのは少し間を開けたほうが――」
「良いから!」

 有無を言わせずって、そんな調子だった。
 可愛らしい小鈴に迫られると断れなくて困っちゃうよ。だって、その強引さときたら、さながらスカーレットみたいなんだ。レミリアでもフランでもなくて、オハラね。
 俺は厳しく、バトラーっぽい気分で言った。

「あのね、ここで率直に言うこともできるんだよ。スカーレット、俺には関係ないってね」
「あらそう――でも、明日は明日の風が吹く。待つわ、レット、あなたが戻るまで」
「おーやおや、大人も顔負けなセリフだね。……まさか君は彼が戻ったと思うのかい?」
「戻らないって思うレディなんていないわ」

 そう口にして、小鈴はエヘンとばかりのドヤ顔で悠々と鈴奈庵に入ってったよ。

 さしもの俺も苦笑させられちゃった。まさしくビブロフィリアの名に相応しい傲慢な返事だ。
 笑ったら負けさ。だから、その小さな読書家を尊重してやろうって気持ちになったんだ。

 んで、次の日、言われた時間通りくらいに来たら、小鈴が外で待ち構えていた。
 俺を見た瞬間「遅いわよ!」って、何でやねんねんねん。

「まあまあ許してクレマチス。遅刻したつもりはなかったんだけどな」
「常識ある大人は十分前行動が当然じゃない!」
「いや、ドクの所の時計が二十五分遅れててさ」
「マクフライ、なりきり止めろ、マクフライ!」

 そういう微妙に打ち解けた会話をしながら、俺達はエヌ博士のもとへとバック・トゥ・ザ・フューチャーした。短冊? 食ったよ、美味しくなかったけど。

 んで、どうやら博士は小鈴を待ちわびてたみたいでね、なんか、すっごく快適な読書空間を作り上げていたよ。ふわふわな椅子に手頃な高さの机、ドラえもんで見たような未来のお菓子に甘ったるそうな飲み物、BGMはヴィヴァルディの『四季』ときたもんだ。これは、あちこちの壁に埋め込まれたマルチスピーカーが擬似オーケストラを演出するって寸法だよ。
 いやあ、すごいね。未来っぽいね。現代にもあるけど(コギト・エルゴ・スムの限界)。

 ああ、それとね、小鈴が昨日書いたタグはもう全て印刷しておいてくれたらしいよ。だから改めて俺が目を通す必然性は無いみたいだね。
 ホッとしたよ……本当にホッとした(これは作者力量の限界)。
 だから机には重量感のある紙束が机にドサドサッて重なっていてね、右上のパンチされた穴には紐が通されて綴じられてる。もうバラバラにならない。膝を屈める必要もない。
 これには小鈴も大喜びだよ。博士も余裕のダブルピースなんてしちゃったりしてさ、上機嫌なほっほっほが止まらない。バルタン星人みたい。

「ちょいと博士。読書も良いけど、きまぐれロボットはどこだよ」
「それがまだ帰ってきておらんのじゃよ」
「そんなの良いじゃないですかあ、気長に待ちましょうよお」

 博士の用意したチョコスムージィをぐるぐるストローでチュッチュしつつ、愛用のガネメ(眼鏡ってこと)を装備した小鈴が、いかにも夢見心地って感じに間延びした声で告げた。
 その表情ときたら情けないもんでね、たとえるならチーズ・フォンデュとかチョコレート・ファウンテンみたいに蕩けてるのさ。
 んで、博士は、そんなだらしない顔した小鈴を眺めて、孫でも愛でるみたいに喜んでいたよ。まあ年を取ると、どうしてもこうなる。仕方ないね、老化のシステムってやつさ。

 取り残された空気になった俺は、パッと頭に浮かんだ【寺村輝夫 王さま】とかやって読んでたんだけどね。絵がないから、いまいち面白くないの、コレが。嫌になっちゃう。
 もしかして和歌山さんはまだ生きてんだろうか、残忍な火男より(検閲)ああいう人こそ長生きすべき、なんて誰に示すでもないオベッカを心に強く念じつつ、俺は小鈴が読み終わったらしい【舟崎克彦 湖畔】を読んでたんだ。

 そのストーリィなんだけども――まず、ある湖に棲んでるメスの恐竜が出てくるんだ。ほら、のび太の恐竜に出てきたやつみたいな、ああいうヒレのある首長竜ね。
 わりかし平和に暮らしてたんだけども、ある日、乱暴なお魚が棲み着いちゃってさ、どうにかしないといけないってんで、同じく湖に棲んでる二匹の精霊に、そのお魚を大人しくさせられる人を連れてきてって、頼むんだよ。
 たぶん、それで連れてこられる人が主人公だね。いったい何っぺん先生だろう、謎だ。

 ああ、どうして『たぶん』なのかってえとだね、そこまで読んだだけで窓の外が橙色になってしまっていたのさ。あっはっは、読むのが遅いんだよ、俺は。
 でもほら、ここまででも舟崎先生っぽく読めてるでしょ、ね? 禁則事項だけども。

「小鈴、もう帰んないといけないよ」
「今日、泊まるわ」小鈴が無茶なことを言った。「本を読むのに忙しいの」
「なーに言ってんだ君は」

 俺は呆れちゃったよ。確かに、読書は楽しいけどね。時間を忘れるけどね。
 でも、おうちのことを忘れっちゃうほどではないはずだと思うけどね。

「そんなんね、いきなり言われたってね、エヌ博士だって困っちゃうよ」
「わしはかまわん」

 そんなふうに博士が言い出したもんだから、俺は驚いちゃったよ。
 およそ大人の台詞とは思えないよね。小鈴が不良になっちゃうじゃないか。

「いやいや、ちょいと、博士。そこは空気を読んでよ」
「わしはかまわん」博士は繰り返したよ。

 そんな力強くトートロジられても困るってんで、俺は博士を説得しようとした。

「博士、ダメだよ。そんなん言い出して、小鈴が本気にしたら――」
「わしは一向にかまわんッッ」三度目、それはまるであの漫画のキャラクターみたいで。
「博士、ありがとうございます。太謝々了」小鈴は猫撫で声ならぬ猫撫でられ声で言った。
「ほっほっほ」困ったちゃんな博士は満足そうに笑ってる。

 俺は物語の登場人物らしく嘆息したよ。ため息を付いたってことだよ。
 そんな俺に対して、博士は反駁したよ。あげつらってきたってことだよ。

「小鈴ちゃんの賢さはもう大人のそれじゃ。その分別を尊重するべきじゃろう」
「いや、子供だよ。博士へのふるまいも、態度も、ぜんぶ幼稚な甘えん坊じゃないか」
「そうは思わん。小鈴ちゃんの内面に秘められた強さが、お主には分からんと言うのか」
「そんなディズニー・プリンセスみたいなこと言われても……」

 そりゃあね、俺だってこの小さな読書家を尊重するって思ってたけどね、流石に限度があろうもん。
 それにさ、みんな、小鈴のあの顔を見てよ。ごらんよ。ご照覧あれ。
 ……うんまあ見えないだろうから文章で説明するけど、まるでカラスとサギの区別すら付きそうもないくらいに締まりのない表情をしているよ。あれじゃあ西行もびっくりさ。

「博士、あんただって分かってるはずだろう。こんな子供がそんな強いわけねえだろ?」
「何を言うか。そんなことを迂闊に言ったら周囲から総スカンを食うことになるんじゃぞ」
「ええい、保身に走ってたまるか。俺はトガることを怖れないぞ」

 いったん、その人に憧れたって口にした以上は、もうトガるぞ。俺はトガるんだ。
 昨日褒められた人に今日貶されて、それでもトガるんだ。それが俺の存在証明なんだ。
 脳味噌くらい、こっちは結構な頻度で洗ってるんだからな! ……自分のじゃないけど。

 とにかく俺はだいぶムキになって、さも立派な大人が言いそうっぽいことを言ったよ。

「俺だって小鈴はすごいし、賢いと思うよ。けど子供個人の強さや賢さの議論はそもそも不毛で、まず大人って立場から子供をどう見守るのか、その判断には慎重さが必要だと言っているんだ」

 つまり厳しすぎんのもダメだけど甘すぎんのもやっぱダメで、その塩梅が大切だから、良く考えて行動しないといけないねっていう主張だよ。
 改めてそれを主張することで、博士の溺愛っぷりを非難してるわけだね。

 実際、博士の態度はあんまり小鈴に甘すぎるよ。年寄りっ子の三文安を地で行ってる。
 まあ気持ちは分からないでもないけど、やっぱり甘やかしすぎるのは良くないよ。
 甘いぬるま湯で育ったらさ、きっと子供は風邪を引きやすくなるよ。その時のくしゃみは大きすぎて、もしかしたら涙が出ちゃうかもしれないよね。
 その時に拭ってやれれば良いけど、拭いきれないほどの涙だったら大変だよ。

 だから、確かに小鈴の意思は尊重されるべきだけど、たぶん最優先ってわけでもない。
 社会で陥りやすい危険とか、誘惑とか、そういう悪いふうに突き進んでしまわないように、どこかでストップをかけたほうが良い時もある。今とか、たぶん、その時だよ。

「ならば……」って、博士が苦々しく口を開いたよ。「わしの優しさが小鈴ちゃんをダメにしてしまうと、お主はそう言うのか」
「今みたいに猫っ可愛がりばかりしてたんじゃダメだい」
「わしは別に猫可愛がりしていたつもりはないのじゃが……」

 そう口では言うものの、博士は明らかにトーンダウンしていた。
 そんで、上っ面こそ猫みたく澄ましてる小鈴のほうを見ると、たぶんさっきまでよりずっと優しい声で、こう言った。

「なあ、小鈴ちゃん。明日はな、もっとビックリするような準備をして待っておるから、それを楽しみにして今日のところは帰りんさい」
「博士……」途端に失望の表情、首根っこを捕まえられた子猫みたいな顔をしたよ。
「三十時間後にまた会おう」
「エメットォ……」

 結局、裏切られたかたちになった小鈴は、プウっと頬をムクれさせたけれどさ、別に言い返すこともしなかった。やっぱ根は良い子だからね、渋々にでも頷いたんだ。

 そんで、後ろ髪を引かれる小鈴の手を引きつつ、ちょっと駆け足な展開で、俺達は幻想郷に戻ってきたんだ――。



 んで幻想郷に戻ってきたは良いけどね、もう辺りはすっかり日が暮れちゃってて、俺は壮絶に嫌な予感がしていたわけだよ。
 だって、昨日の今日でさ、貸本屋を放って来ちゃったわけじゃん。しかも昨日より遅い帰宅じゃん。ってことは、小鈴ママが怒っていないはずがないよね。

 幸いってか、小鈴ママは鈴奈庵の外で待ち構えているなんて、そういう漫画みたいなことは無かったんだけど、でも仄かな明かりの漏れ出てくる暖簾からは嫌な予感ってもんが滲み出てたわけさ。
 分かるかなあ、部外者が立ち入っちゃマズそうな、そういう感じがね、もはや透けて見えてるって言っても過言じゃないくらい感じられたんだよ。

「あーあ、今日もお小言かなあ。ま、いっか。また明日ね」

 とうの小鈴は脳天気に躊躇もしないで、軽い感じに鈴奈庵の中に入っていった。
 んで当たり前ってか当然、言い争うような喧騒が外にも聞こえてきたんだ。

 あーらら、小鈴のやつ叱られてらあ――なんて思ってたわけなんだけど、そのうちにドシンって、ちょっと看過できない音がした。
 ヤバみMAXってんで、俺も、これまで一番の大慌てさ。そりゃ躾は大事だけど、打擲とかは、こんなジョークみたいなSSでは場違いっていうか、ちょっとイキスギだよね。
 それに、ほら、さっき書いたでしょ。叱られる大本が俺ってことも考えるとさ、寧ろ、ぶっ飛ばされんのは俺であるべきじゃない?

 そんなわけで俺は「はいはいサンドバッグの到着ですよ」って口早に言いながら、急いで鈴奈庵の暖簾をくぐったんだ。
 とりあえず『マタイの福音』的に、俺の右頬チェケラッチョ、とか思いながらね。

 そしたらさ、もうびっくり、小鈴ママが本棚に背中を凭れて尻もち着いちゃってんの。
 一方の小鈴は肩で息して、怒った猫みたく歯を剥き出しに鼻をフーフーさせてた。んで、こっちをチラとも見ようとしない……小鈴ママをずっと睨んでいるんだ。

「おいおいおいおいおおい、こりゃあ、え、小鈴……」

 たぶん、おそらく、けだし、さだめし、これって小鈴が突き飛ばしたのかね。
 でもそれっておかしいよ。だって小鈴は良い子なのに、え、そのはず……だよね?

「お母さんは何にも分かってない!」

 小鈴がすごく大きな声で叫んだ。耳がキィンとしちゃうくらい強い声だよ。

「私は選ばれた人間なんだ! 霊夢さんとかマミゾウさん達の宴会にだって参加できて、もう今じゃ幻想郷で特別な存在なんだよ!」

 いや、確かにそうだろうけどね。あの宴会に参加できるのは羨ましいことなんだけどね。
 でも、それと、小鈴ママを突き飛ばすのと、どういう関係があるのんかしらん。

「なのに、お母さんは私を子供扱いするばかりで私のことをちっとも分かってくれない!」
「小鈴……」

 小鈴ママは顔を歪めたよ。痛みもあったのかも知れないけど、でもたぶん、その痛みの本質は肉体的なものじゃないんじゃないかな。理屈は無いけどさ、そんな気がしたんだ。
 なにせ苦しいってより悲しそうだったもんね。眼がうるうるしちゃって、口元が震えてるんだもの。

「鈴奈庵だって、今は全然だけど、数百年後には有名になるのよ! これだってきっと、幻想郷の偉い方々の仲間入りした私が成功するからだもん!」

 そうだけど、確かにそうなんだけど……でも、それを大声にするのは如何なものかな。

 これは花ぞとも知らぬが為手の花なり。
 インターネット百科事典によると、世阿弥っていう、すごく偉い人の言葉なんだけどね。こういう時に使う言葉らしいよ。――何かきっと、お花屋さんの訓戒とかだろうね。
 この名言を元に、どうにか五行くらい使って巧いことを言おうと思ったんだけど、作者の頭じゃ古文とか理解できないし、ちょっと今は取り込み中なんで、ごめんなさいね。

 とりあえず、えっと、夜に大声で騒ぐとご近所さんに迷惑だから、今の小鈴はいけないと思うな。
 それにそんなナルスィなことを言い触らしちゃったら、せっかく読んでくれてる読者さんも興醒めになっちゃうぞ。花も暴けば泥だらけだしね(作者ギリギリの巧いことです)。

「でも、もう良い、家出する! もう知らないわ、こんなところ!」

 こんなところ(まさか鈴奈庵?)って、そう悲鳴みたいに叫んで、小鈴は鈴奈庵の外の暗がりに走ってっちゃったよ。

「小鈴!」
「あ、あの、俺、連れ戻してきます!」

 こりゃあハチャメチャが押し寄せてきたってんで、俺も、慌てて外に駆け出した。

 いや、だって、泣きべそかいた小鈴ママと二人きりとか気まずいし、何より小鈴を見失ったら大変なことになっちゃうよ。
 小鈴を見失ったら、このSSの本質まで見失ってしまいかねないからね。

 ……って、そんなことを考えてたんだけどさ、そもそも小鈴を見失うなんて杞憂だった。
 だって彼女は、俺の能力を使って、博士のもとにバック・トゥ・ザ・フューチャーしたくて仕方なかったんだから――。

 ――次回につづきます。
 気になるよね。ならない? なろうね、なろう。
次回予告

  言うなれば運命共同体
  互いに頼り 互いに庇い合い 互いに助け合う
  作者が読者の為に 読者が作者の為に
  だからこそ幻想郷で生きられる
  創想話は兄弟 創想話は家族

  嘘を言うなっ!

  猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら嗤う

  無能
「このお菓子のオブラートって透明じゃないし、何だか分厚いね」
「うふふ、食べごたえがありますね。それ食べ終わったら、私は大人しく鈴奈庵に戻って、お母さんにちゃんと謝って、明日からまた貸本屋の店番を頑張ろうと思います。それ食べ終わったらね」
「うわあ、俺がこれを食べればぜんぶ解決ってことだね。良かったなあ、良かったねえ」

  怯懦
「助けて、誰か、助けて!」
「助けたいのは山々なんだけど暴力的な解決は興醒めになるからしたくないんだよなあ」
「ふぎいいい!」

  虚偽
「あのロボット、お客さんの自己犠牲には何の反応もしなかったわ」
「あれが自己犠牲か。あっはっは、小鈴のコンチキショーは記憶を美化するのが得意だなあ」

  杜撰
「とにかくドクター・ヴィオラさんのツイッターに釈明のDMを送っ――圏外だわ」
「ちょっと何しようとしてるか分かんないけど、一応言っとくわ。ここ数百年後よ」

  どれ一つ取っても創想話では命取りとなる それらを纏めて幻想で括る
  誰が仕組んだ地獄やら 初投稿が嗤わせる

  お前もっ!
「これこそがRoomy Imperative Good Great Low Error Robot(広範囲対応命令型超高品質ロボット)じゃよ」
「なんてハイレベルなイングリッシュなんだ! でも最初ってWじゃなかったっけ?」

  お前もっ!
「それが二次創作の限界っす。どんなキャラクターも原作者を一番愛しているに決まってるんすよ。それこそ、本能として子供が親の愛情を欲するのと同じように」

  お前もっ!
「舟崎先生を船崎先生だなんて、こういうミスはダメだよ。次からは気を付けようね」
「はい……」
「それと『リグルの墓』とか『イサオ、なんで死んでまうのん?』とか、読んだ人が笑顔になれない不謹慎なジョークは止めておこうよ。風刺は死者や弱者をからかうためのものじゃない。それを忘れないでね」

  だからこそ 創想話の為に生きろっ!

 次回の初投稿、鈴奈庵のお客さんになろう 第二話後編 ロボット・ストーリー
  彼女達は何の為に造られたのか――

 むせる

次回予告、ここまで(実際と異なる可能性があります)

 よんでくれてありがとう。
 またごがつに会いましょう。

 それと、このSSの中になまえが出てきたかたで不快に感じたかたは、どうぞごえんりょなく、あなたのさくひんで好き勝手にお客さんを煮るなり焼くなり貶めるなりしてください。かくごはあります。

 ――もちろん、これはじょうだんです。
 お客さんは、このクソSSを読んでくださった読者さんが、その作者さんのさくひんに興味を持つ、あるいは懐かしんでくれたらと思い、うんこなりに一助になれればという臭いきもちで書いています。
 けど、それでも不快だなあってかたはここに書いてください。ふつうに直します。

4/12
 舟崎先生を船崎先生と誤記していると、ガタガタさんにしてきしていただきました。いつもごめんなさいね。
 そう、だからね、たいだるさん。ここの作者には貴方ほどの才能はないんだから、やっぱり誤字はあるよ。機関車トーマスがじこはおこるさって歌ってるみたいにね、あるもんなんだよ。

 ボブ・ゲイル(1951- )
 ミズーリ州ユニバーシティの出身。幼少よりH・G・ウェルズを好み、中でも『タイム・マシン』を愛読書としていた。名門・南カリフォルニア大学に入学後、クラスメートのロバート・ゼメキスと意気投合する。卒業後、同大学の先輩であるジョン・ミリアスの紹介でスピルバーグ監督の映画『1941』の脚本を任されるも、クソ映画と正当に酷評される。当時のユニバーサル・スタジオの社長ネッド・タネンに「ハローハロー、お留守ですか」「靴紐が解けていますよ」などと励まされつつ、ゼメキスと共に細々と映画製作を継続し、やがて旧知の俳優を博士役に抜擢したタイム・マシン物を脚本することとなる。ハリウッド映画史上に燦然と輝く金字塔『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の出来である。ちなみに当映画に登場する悪役ビフ・タネンのモデルはドナルド・トランプであるらしい。……本当かな。

 山田順子(1948- )
 福岡県出身、英米文学のベテラン翻訳家であり、愛すべきマダム・マーダー。1975年、ハンナ・セネシュの『ハンナの日記』でデビュー。文学性と緊迫感を兼ね備えた翻訳が持ち味であり、その最たる例が1987年に翻訳した『恐怖の四季』中の一節『スタンド・バイ・ミー ―秋の目覚め』である。この『スタンド・バイ・ミー』というタイトルこそ1986年の映画タイトルの流用であろうが、その本質は本文にあり、キングの幻想的な世界観が見事なまでに描出されている。また『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のノベライズ・シリーズ全三部作において翻訳を担当しており、本作の魅力に一層の磨きをかけた和訳を上梓している。他の翻訳としては『魔法の国ザンス・シリーズ』、『ダーク・クリスタル』、『レッド・プラネット』などが在る。なおミステリ好きを公言しているが、当のミステリの翻訳については……好みの分かれるところでしょう。私は大好きですよ、私は。
お客さん
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コメント



0.360簡易評価
1.100ばかのひ削除
出てくる表現や比喩、引用してくる映画や名言などから察するに相当な熟練物書きなんだなと察せられます
最高に面白かったです
3.90名前が無い程度の能力削除
二話目から前後編分けは少々早いんじゃあないかと思ったっす
でも鈴奈庵リスペクトを狙ってるというのなら理解できるっすね
5.100名前が無い程度の能力削除
医学的なやつとか難しい単語をちゃんと説明するようにしたのは偉い、のか?
なんか違和感があるようなないような

でもとにかく来月?楽しみに待たせてもらいます
7.100南条削除
正直ここまでやる人がいるとは思っていませんでした
一見するとトンデモ設定なのですが、きわどい所でキッチリと話として成り立っているところに地力の高さを感じます
越えちゃいけないラインを越えんとする博士を止める際に思わずお客さんのキャラが崩れるシーンが最高でした

ゴミが瘴気にあてられて動いてるだけですってセリフはぼくも気に入っているやつです
そこを持ってくるとは渋い
相当真剣に読んでいただかなければそこは出て来ないだろうと思えたのでとてもうれしかったです

煮るなり焼くなり好きにしていいらしいのでとりあえず貴様には小鈴ちゃんを助けるため勇敢にも燃え盛る無人の鈴奈庵に飛び込んでいく役をやってもらおうと思います
よろしくお願いします

後編にもぼくは出るんですよね?
8.90名前が無い程度の能力削除
完全にネタ作品なのに作者さんスゲエなって思える作品は中々無いぜよ
小ネタにも色んな知識や読書体験の片鱗があるって無知な自分にもわかる
メタ・パロディじゃなくてストーリー物も見てみたいってのは自分だけかな
9.100名前が無い程度の能力削除
面白い
10.100怠惰流波削除

お客さんってーのは、一体何者なんだ。ふだんなら目も当てられないような、目を覆ってしまうようなノリノリノリの文章も、あなたのならスイスイ読めてしまうんだ。何が辛いっていうのは、自分の無知さが露呈するところだね。コンプ刺激されちゃうから、百点満点から10点引いて100点にしておくさ。

とにかくお客さん(これはあなたであってあなたじゃない、作品中のお客さんってことなんだけど)の、妙にしつこい言い回しや、なんていうか、部を弁えてる所が大好きでさ、全然嫌いになれないんだよね。オリキャラはそそわでは生きていないけど、彼はきっとこのそそわがなければ生まれなかったオリキャラだから、きっとお客さんの死はこのそそわの死なんだろうって思うよ。南条さんが言ってた。
単純に続きが気になる。来月が楽しみっていう感覚があるのは、生きる上で素晴らしいことだね。

誤字報告をしてやろうと思ったんだけど、困ったことに誤字がないんだ。すごいなぁ。
11.70奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
12.90名前が無い程度の能力削除
凄い上手い人であるのは間違いないのに自分から下手な方面に走っていて草も生えない
もったいない気がしました
13.100名前が無い程度の能力削除
めっちゃ面白いし鈴奈庵の二次創作としても続きが気になるので絶対に書いてください
14.100名前が無い程度の能力削除
君ハイセンス。
15.100最近絵を描いてる人間削除
なんでこんな面白いんだ!
続きを待つ!
18.100名前が無い程度の能力削除
どういう対応で見ればよいのやら
20.100名前が無い程度の能力削除
堪能しました
21.100名前が無い程度の能力削除
レベルたけー