パタパタと騒がしい足音。
「かなこかなこー!」
そして騒がしい声。
ここは幻想郷、妖怪の山の守矢神社。
ここに来てばかりで色々やる事があるというのに一体なんなのだ。
バタン!と勢いよく襖を開けるに瞬きの間に。
「ふぁっしょんだよ!」
「急にどうしたんだ」
襖を開けた人物はその名を洩矢諏訪子。
見た目はちんちくりんな餓鬼にしか見えないが、これでもこの神社で私と共にあるもう一柱の神だ。
だが今日の格好は些か変だった。
確かに夏ではあるが、普段の着物の袖をばっさり切って……
「っておい、まさかそれどうしたんだ!」
「ん?見ての通りさ。可愛いだろ」
「ああ、大分涼しそうだな。太陽にでも焼かれてくるか?」
こんがり焼けたら美味しそうだからな。
腕を丸々出すだけじゃなく、大きく脇まで露出している。
なんだそれは、恥ずかしくないのか。
「で、その服はなんだ」
「麓の巫女の影響でね、流行を取り入れてみたんだよ」
「はぁ、それでわざわざそんなものを」
勝手気ままにポーズをとって本人は、ん?と何事かわからぬ様子。
「そのサラシだよ、見られるのが恥ずかしいならわざわざそんな派手に開ける事なかっただろうに」
そう、派手に脇下も開けてるお陰で、そのだ、横や後ろから見ると前がよく見えるんだ。
「なんでそんな破廉恥な格好してるんだ」
ガーンとまさに効果音が鳴りそうな顔をしてぱたり、と崩れ落ちてしまう。
「脇から丸見えだぞ、恥ずかしくないのか」
沈黙。
あれ、なにかまずい事を言っただろうか。
諏訪子はプルプルと震えだしたかと思うとキッ、とこちらを睨んでがなりたてる。
「神奈子のえっち!すけべ!変態!長年付き添ってきた相棒をそんな目で見ていたなんて見損なったぞ!この、馬鹿!」
「おい、待て待て、そういう意味で言ったんじゃない」
「ふん!知らない!」
そう言ってドシドシと部屋を立ち去って行った。
まさに暴風雨か災害か。
荒らすだけ荒らして最後は勝手に怒って去っていくんだから訳がわからない。
「まったく。こちらは仕事が残っているというのに」
「ふん、神奈子のバカめ」
あんまり腹が立ったから私は適当に川の水を浴びに来ていた。
石の上にはカエルが3匹。
ゲコゲコ歌ってる。
適当に歌って、泳いで、ご飯を食べて。
私達もそうしていれば良いのに全くままならない。
そのまま体が濡れるのも厭わず私は川に入っていく。
少し深いみたいで腰まで浸かってしまう。
あーあ。後で早苗に怒られるかな。
けど今は別にいいか。
だってこんなに水が気持ちいいんだから。
少し気がラクになって来た。
周りを見回すと綺麗な木々に陽の光。
気持ちのいい日だ。
側にいた魚に話しかける。
「ひどいと思わないか?せっかくファッションをして来たのに神奈子はプンプンなんだから。私は褒めて欲しかっただけなのにさ」
お魚は知らんぷり。
そのまま、すいーっと泳いで何処かに行ってしまう。
「まったく。破廉恥だなんて神奈子は前時代的なんだよ。博麗のだってあんなに出してるじゃないか。ならこっちも負けてられないだろ。そうともそれ故に腕出し。それ故の腕出し。ふん、まさに神様。驚天動地の閃きだ。なにせ画期的だからな。うんうんこれは流行る」
そして何より中はサラシだけ。通気性も良い。
これから先の見通しも抜群だ。
うんうん。
「すわこ様ーーーー」
うんうん。
「諏訪子様ーーーー!!!」
うん?早苗の声がするぞ。
「あ、いらっしゃいましたね!探したんですよ!」
「ありがとう早苗、どうかしたの」
「どうかしたじゃありません!何も言わずに神社から出て行ってしまうんですから心配するに決まってるじゃありませんか!」
「いやいや、私神様だから呼んでくれれば一瞬で行けるのに」
「はっ、っていやいやそれは召喚するにも奇跡の力使うんですよ、あんまり使いたくないんです!」
このおっちょこちょいな可愛い娘が私達の巫女、東風谷早苗。
今日は緑の髪を後ろで一つに纏めている。
こう言うの外界でなんて言ったっけ。
さて、なんと言ったか。
むむむ、尻尾だった気はするんだが。
「うん、ありがとう。わざわざ探しに来てくれて」
「いえ、別に。巫女として当然の事をしたまでです」
頰を赤らめちゃって素直じゃないんだから。
「それで、どうかされたのですか?」
真剣な表情で聞いてくるけど、それは少し違うんだよ早苗。
「早苗、私の格好を見てなにか思う事はないかい?」
はっ、と何かに気づいたようだ。
流石私達の巫女。勘が鋭い。
「秋の川に浸かるなんて、風邪をひいてしまいます!」
私は頭から川に突っ込んでしまった。
「違う、ほら見てみろ」
「見ろと、言われまし……なるほど。諏訪子様も巫女の仕事に興味があると?」
「着眼点はいいが、違う!これはおしゃれだ!」
「なるほど。これは失礼しました。とっても良く似合っていますよ」
くうううぅ。流石だ。道に迷っていたものの最後は目的地にたどり着いてくれるんだから流石早苗!さすさな!
「ふっふっふ。ありがとう早苗。それでこそ我らが巫女だ。褒めてつかわす」
「ははー有難きお言葉」
なんて二人でふざけ合うのは楽しい。
ちょいちょい、と手招き。
「滝の近くに大きな石があるからそこまで行こう」
二人で腰掛ける。
早苗に少し距離を置かれているのが寂しい。
服が濡れてるので仕方ないか。
「聞いてくれよ早苗」
「はいはい、なんですか諏訪子様」
うん、と言っても何を言おうか。
愚痴を言うか……
「神奈子のやつにさこの服見せたんだよ。ファッションって言ってさ」
「はい」
「だのにヤツは服がどうのう脇がどうのう腕を出しすぎだの」
「はい」
「挙句には破廉恥呼ばわり、ひどいと思わないか?」
そう言って早苗を見るが苦笑い。
まったく、どっちつかずなんだから。
ぽいっと石を水面と水平に投げる。
二、三度跳ねて沈んでいく。
つまらない。
「神奈子様は怒ってらしたんですか?」
「うん、あれは怒っていたかな」
「はい、私も少し怒っています」
早苗の顔を見るがニコニコと笑顔でなかなかに中々だ。
「何故だと思いますか?」
こういう所は母親似かなぁ。
「さて、何故だ」
「一つ目は大事な服を無断で切ってしまった事です」
「服なんか代わりがあるだろ?」
「それでもです。そしてもう一つは勝手にいなくなってしまった事。これは私だけかも知れませんけど、心配したんですから。怒ってます」
「う、ごめん」
「はい、許します」
そう言い終わると早苗は立ち上がった。
「帰りましょう、家に」
「そうだね」
「神奈子様には後で私が言っておきますから」
夕暮れ。
山脈に沈む太陽は生きているかのように揺らぎ、最後の最後まで輝きを放ち続けた。
夜の帳が下りる。
ここからは妖怪の時間だ。
我が家では関係ないけど。
部屋にいるとかすかないい香り。
夕ご飯がもう少しでできそうだ。
そうそう、服は干してある。
濡れっぱなしにしとくわけにもいかないからって早苗が丁寧に洗ってくれた。
今は何時もの服だ。代わり映えなし。
「ご飯できましたよー!」
では行くとしよう。
ドロン。
一瞬で景色が自室から食卓へ。
境内であれば如何なる場所にも出現可能なのだ。
机にはあつあつご飯。真っ白なお米はとても甘くて綺麗だ。
そしてたくわん。漬物は食欲を刺激するからね。欠かせない。
そして今日のメインは野菜炒め。根野菜やキャベツ、のような物に鹿か何かのお肉。
あいにく幻想郷の食糧事情は詳しくないからよくわからないけど。
「我らが神に日々の実りの感謝を込めて」
「「「いただきます」」」
我が家、ご飯を食べる時は比較的静かでみんな黙々と食べるからこういう時の話題は少し目立つ。
「なあ、諏訪子」
「どうしたの」
「その、今朝の服、似合ってたぞ」
「かなこかなこー!」
そして騒がしい声。
ここは幻想郷、妖怪の山の守矢神社。
ここに来てばかりで色々やる事があるというのに一体なんなのだ。
バタン!と勢いよく襖を開けるに瞬きの間に。
「ふぁっしょんだよ!」
「急にどうしたんだ」
襖を開けた人物はその名を洩矢諏訪子。
見た目はちんちくりんな餓鬼にしか見えないが、これでもこの神社で私と共にあるもう一柱の神だ。
だが今日の格好は些か変だった。
確かに夏ではあるが、普段の着物の袖をばっさり切って……
「っておい、まさかそれどうしたんだ!」
「ん?見ての通りさ。可愛いだろ」
「ああ、大分涼しそうだな。太陽にでも焼かれてくるか?」
こんがり焼けたら美味しそうだからな。
腕を丸々出すだけじゃなく、大きく脇まで露出している。
なんだそれは、恥ずかしくないのか。
「で、その服はなんだ」
「麓の巫女の影響でね、流行を取り入れてみたんだよ」
「はぁ、それでわざわざそんなものを」
勝手気ままにポーズをとって本人は、ん?と何事かわからぬ様子。
「そのサラシだよ、見られるのが恥ずかしいならわざわざそんな派手に開ける事なかっただろうに」
そう、派手に脇下も開けてるお陰で、そのだ、横や後ろから見ると前がよく見えるんだ。
「なんでそんな破廉恥な格好してるんだ」
ガーンとまさに効果音が鳴りそうな顔をしてぱたり、と崩れ落ちてしまう。
「脇から丸見えだぞ、恥ずかしくないのか」
沈黙。
あれ、なにかまずい事を言っただろうか。
諏訪子はプルプルと震えだしたかと思うとキッ、とこちらを睨んでがなりたてる。
「神奈子のえっち!すけべ!変態!長年付き添ってきた相棒をそんな目で見ていたなんて見損なったぞ!この、馬鹿!」
「おい、待て待て、そういう意味で言ったんじゃない」
「ふん!知らない!」
そう言ってドシドシと部屋を立ち去って行った。
まさに暴風雨か災害か。
荒らすだけ荒らして最後は勝手に怒って去っていくんだから訳がわからない。
「まったく。こちらは仕事が残っているというのに」
「ふん、神奈子のバカめ」
あんまり腹が立ったから私は適当に川の水を浴びに来ていた。
石の上にはカエルが3匹。
ゲコゲコ歌ってる。
適当に歌って、泳いで、ご飯を食べて。
私達もそうしていれば良いのに全くままならない。
そのまま体が濡れるのも厭わず私は川に入っていく。
少し深いみたいで腰まで浸かってしまう。
あーあ。後で早苗に怒られるかな。
けど今は別にいいか。
だってこんなに水が気持ちいいんだから。
少し気がラクになって来た。
周りを見回すと綺麗な木々に陽の光。
気持ちのいい日だ。
側にいた魚に話しかける。
「ひどいと思わないか?せっかくファッションをして来たのに神奈子はプンプンなんだから。私は褒めて欲しかっただけなのにさ」
お魚は知らんぷり。
そのまま、すいーっと泳いで何処かに行ってしまう。
「まったく。破廉恥だなんて神奈子は前時代的なんだよ。博麗のだってあんなに出してるじゃないか。ならこっちも負けてられないだろ。そうともそれ故に腕出し。それ故の腕出し。ふん、まさに神様。驚天動地の閃きだ。なにせ画期的だからな。うんうんこれは流行る」
そして何より中はサラシだけ。通気性も良い。
これから先の見通しも抜群だ。
うんうん。
「すわこ様ーーーー」
うんうん。
「諏訪子様ーーーー!!!」
うん?早苗の声がするぞ。
「あ、いらっしゃいましたね!探したんですよ!」
「ありがとう早苗、どうかしたの」
「どうかしたじゃありません!何も言わずに神社から出て行ってしまうんですから心配するに決まってるじゃありませんか!」
「いやいや、私神様だから呼んでくれれば一瞬で行けるのに」
「はっ、っていやいやそれは召喚するにも奇跡の力使うんですよ、あんまり使いたくないんです!」
このおっちょこちょいな可愛い娘が私達の巫女、東風谷早苗。
今日は緑の髪を後ろで一つに纏めている。
こう言うの外界でなんて言ったっけ。
さて、なんと言ったか。
むむむ、尻尾だった気はするんだが。
「うん、ありがとう。わざわざ探しに来てくれて」
「いえ、別に。巫女として当然の事をしたまでです」
頰を赤らめちゃって素直じゃないんだから。
「それで、どうかされたのですか?」
真剣な表情で聞いてくるけど、それは少し違うんだよ早苗。
「早苗、私の格好を見てなにか思う事はないかい?」
はっ、と何かに気づいたようだ。
流石私達の巫女。勘が鋭い。
「秋の川に浸かるなんて、風邪をひいてしまいます!」
私は頭から川に突っ込んでしまった。
「違う、ほら見てみろ」
「見ろと、言われまし……なるほど。諏訪子様も巫女の仕事に興味があると?」
「着眼点はいいが、違う!これはおしゃれだ!」
「なるほど。これは失礼しました。とっても良く似合っていますよ」
くうううぅ。流石だ。道に迷っていたものの最後は目的地にたどり着いてくれるんだから流石早苗!さすさな!
「ふっふっふ。ありがとう早苗。それでこそ我らが巫女だ。褒めてつかわす」
「ははー有難きお言葉」
なんて二人でふざけ合うのは楽しい。
ちょいちょい、と手招き。
「滝の近くに大きな石があるからそこまで行こう」
二人で腰掛ける。
早苗に少し距離を置かれているのが寂しい。
服が濡れてるので仕方ないか。
「聞いてくれよ早苗」
「はいはい、なんですか諏訪子様」
うん、と言っても何を言おうか。
愚痴を言うか……
「神奈子のやつにさこの服見せたんだよ。ファッションって言ってさ」
「はい」
「だのにヤツは服がどうのう脇がどうのう腕を出しすぎだの」
「はい」
「挙句には破廉恥呼ばわり、ひどいと思わないか?」
そう言って早苗を見るが苦笑い。
まったく、どっちつかずなんだから。
ぽいっと石を水面と水平に投げる。
二、三度跳ねて沈んでいく。
つまらない。
「神奈子様は怒ってらしたんですか?」
「うん、あれは怒っていたかな」
「はい、私も少し怒っています」
早苗の顔を見るがニコニコと笑顔でなかなかに中々だ。
「何故だと思いますか?」
こういう所は母親似かなぁ。
「さて、何故だ」
「一つ目は大事な服を無断で切ってしまった事です」
「服なんか代わりがあるだろ?」
「それでもです。そしてもう一つは勝手にいなくなってしまった事。これは私だけかも知れませんけど、心配したんですから。怒ってます」
「う、ごめん」
「はい、許します」
そう言い終わると早苗は立ち上がった。
「帰りましょう、家に」
「そうだね」
「神奈子様には後で私が言っておきますから」
夕暮れ。
山脈に沈む太陽は生きているかのように揺らぎ、最後の最後まで輝きを放ち続けた。
夜の帳が下りる。
ここからは妖怪の時間だ。
我が家では関係ないけど。
部屋にいるとかすかないい香り。
夕ご飯がもう少しでできそうだ。
そうそう、服は干してある。
濡れっぱなしにしとくわけにもいかないからって早苗が丁寧に洗ってくれた。
今は何時もの服だ。代わり映えなし。
「ご飯できましたよー!」
では行くとしよう。
ドロン。
一瞬で景色が自室から食卓へ。
境内であれば如何なる場所にも出現可能なのだ。
机にはあつあつご飯。真っ白なお米はとても甘くて綺麗だ。
そしてたくわん。漬物は食欲を刺激するからね。欠かせない。
そして今日のメインは野菜炒め。根野菜やキャベツ、のような物に鹿か何かのお肉。
あいにく幻想郷の食糧事情は詳しくないからよくわからないけど。
「我らが神に日々の実りの感謝を込めて」
「「「いただきます」」」
我が家、ご飯を食べる時は比較的静かでみんな黙々と食べるからこういう時の話題は少し目立つ。
「なあ、諏訪子」
「どうしたの」
「その、今朝の服、似合ってたぞ」
プリプリ怒る諏訪子が可愛らしく、なんだかんだ折れてくれる神奈子に大人っぽさを感じました
2人の間をつなぐ早苗も無二な存在のように思えます