注意、このお話は東方projectの二次創作です。
オリ設定があります。
「ねぇ、ネズミ。あんたってさぁ……」
主人の身の回りの世話をする為に寺を訪れたナズーリン。そんな彼女を見るなり開口一番に種族名を呼ぶ一輪。自尊心の高いナズーリンであれば、その様な不躾な呼び方を認める筈がない。であるが、今に至っては普通の出来事。
「私が、何だ?」
一輪が親身な相手を種族で呼ぶのは寺の仲間であれば誰もが知っている。当然、ナズーリンもその輪の中に含まれている。一輪の問いかけには皮肉や誹りが含まれている訳では無い。表情から単純な疑問としてである事は読み取れた。
「あんたって……」
「まったく、ふざけている」
不機嫌を露わにして部屋に入って来たかと思えば、定位置にドカリと座って言い放った言葉がこれである。部屋の主人である星は一部始終を見ていたが、これではどちらが部屋の主か判らぬ状況。愛想笑いを浮かべるので精一杯であった。
「はは……一体どうしました?ナズーリン」
聞いてくれ、といった態度で入って来た部下を大して咎める事もない。捻くれ者の多い幻想郷において素直に気持ちを察してくれる人格者がいるだろうか。ナズーリンの主人である星が正にその人格者である。
「聞いてくれ、ご主人様。一輪の奴が言うに事欠いて私の事を、通い妻と言いやがったんだ」
待っていましたとばかりに星に言うナズーリン。先に一輪に呼び止められて言われた事をそのまま伝えた。うんうん、と頷いて話を聞く星であるが、必要以上に饒舌に語るナズーリンに少々心中穏やかならぬ表情を浮かべる。
「ナズーリン」
「話の最中になんだ?」
話しの腰を折られて少々不満げなナズーリンであったが、星の表情から穏やかではないものを察した。
「ナズーリンは、私の妻と呼ばれるのは不服ですか?」
そこから、ナズーリンの弁舌はまるで湧水でも溢れるかのようであった。不服はない、とか部下としての手前など本心と心の揺れ動きがつらつらと述べられていく。次いで口から出て来たのは星の魅力について。釣り合いが、やこんな魅力的な主人がなど、普段の冷静な自分が見たら、高速で否定する言葉を述べ続けるくらい歯が浮くような台詞を自然と言っている。
「それで、ナズーリンは私の妻としてある事は不服なんですか?」
一人自問自答気味にしていたナズーリンに星が再び疑問をぶつける。時が止まるナズーリン。先までの様子を見て聞いて頬を染めている星。どうなんですか、と詰め寄り近づく星。顔が随分と近い事に気が付いた時には行動は既に終わっていた。
「ご主人様、ごめん。その回答は後で」
「ま、待ちなさい、ナズーリン」
去る姿に追い縋ろうと手を伸ばす星を後ろにナズーリンは走り去っていった。
「くそっ、私とした事が……」
「不悪口ですわよ、ナズーリン」
僧衣を纏っている水蜜が後ろから声を掛ける。その姿は僧そのものであり、平素より水兵服に身を包む姿とは似ても似つかない。
「余り口が悪いと旦那様に愛想を尽かされてしまいますわよ」
「船長。私とご主人様は、そういう関係では無い」
先に一輪や星に言われた手前。少々、強めの反論をしてしまう。しかしながら相手は話し上手の水蜜。加えて今から説法会である。軽く流されてしまう。
「あら?私は星の事を言ったのではありませんわ。それよりも今からお話をします。よろしければ如何ですか?」
「悪いが、遠慮させてもらうよ」
「あら、それは残念」
水蜜がナズーリンの脇を抜け、その先にあった広間に入って行く。後に着いて入り口から中を眺めた所、里の人々で満員御礼となっていた。上座に水蜜が座る。後ろには命蓮上人が描かれている一幕が飾られている。中啓かと思っていた物は、実際には経典調のメモであった。
「皆様、ようこそお集まり下さいました。説法会と言われておりますが、そう固い話は致しません……」
柔らかな物腰で始まった説法会。話し上手の水蜜であればこそ。他愛のない話から始まり本日の題目へと移っていく。経典調のメモを広げて墨で描いていく。後ろにある命蓮上人の絵とは似ても似つかない。しかしながら彼女の会話から、描いた物がどうにも話した通りに見えてくる。老若男女、それぞれが各々別々に受け止める。ナズーリンは、そっと入り口から離れると星の部屋へと戻って行った。
星の部屋。部屋の主にしてナズーリンの主人である星は寺の業務で忙しく部屋内を行き来していた。部下であるナズーリンは、定位置に座って虚空をボーっと眺めている。
「おーっす、邪魔するぞ」
障子を開け放ち、元気に言い放ったのはぬえである。いらっしゃい、という星を尻目にナズーリンは特に何も言わずに目を向けていた。
「お?ふーん?ナズーリン、主人が忙しく働いているのに何もしていないだなんて、さっそく尻に敷いているのか?」
口を押えて笑いを堪えるニヤけた目。皮肉と悪戯心たっぷりに言われた言葉。
「あああああ~。もう、知らない~」
後ろにドタと倒れるナズーリン。大の字に寝転がり、最早なにもしたくないと体で宣言した。なんだなんだ、と面を食らうぬえ。ナズーリンは言葉にも出さず、来ただけで星の妻と言われる、何かすれば星の妻と言われる、何もしなくても星の妻と言われる、と拗ねた。
「あらあら、駄々っ子のよう。で、何か用かな、ぬえ」
「いや、日常の務めをしていたと思ったから、本当に邪魔しに来ただけなんだけど」
ナズーリンの行動を見て笑うのとは、また別の笑顔を浮かべる星にゾクリとしたぬえは嫌な予感を察する。
「これは、聖に報告ですね」
「や、それは勘弁」
「それにしても……」
大の字に寝転がるナズーリンに迫る星。音も無く、四足で獲物に迫る猫のように。
「私は用事を思い出したから退散するよ。聖には他言しないでな」
そそくさと逃げ去るぬえ。先とは違い逃げる気もないナズーリン。上から覆いかぶさり見下ろす星の目が捕食者のそれであった。
「さっきの返事……まだ聞いていませんでしたね」
「さっき?」
「私の妻と言われるのは不服ですか?」
顔を背けて、鼻で笑う。下にいながら侮る余裕を崩さず、心の奥底でも見透かした様に言った。
「ば~か。不服だったら戻って来るものかよ……おっ……おお」
その言葉をどれだけ待っていたのか。覆いかぶさっていた星が抱き締める。胸に埋めた顔。いつも言っている大好きの裏返しなのだとナズーリン思った。ナズーリンを愛している星が、愛されているか不安に思っていたのだ。
「やれやれだ。君の妻って奴は本当に大変だよなぁ……」
主人の我儘に応え望みを叶える。財宝神の君なら、もっと簡単に叶えられるのに。ナズーリンはそう思いながら、癖っ毛だらけの星の髪をくしゃりと撫でた。
「皆、聞いて。今度から寺で夫婦円満の御利益を増やそうと思って……」
「ああ~もう~。どうして君まで、そういう事を言い始めるかな~」
皆が集まる居間。務めも終わり雑談や就寝までの時間を緊張感無く過ごしていた中に住職の白蓮が時間帯にそぐわない元気さで現れた。事情を知らない彼女は先日より考えていた御利益の話を皆に伝えた。
だが、その話がナズーリンの逆鱗に触れたのだ。
「ねぇ、ナズーリン。どうしたの?」
「先日より、皆から星の妻と言われ続けた事が随分と不満だったようですわ」
夫婦円満のお守りと札を持った白蓮が水蜜に小声で事情を聞く。星の膝上で不満を喚くナズーリンはまるで童のようである。ただ、怒ってはいるが、その表情に純粋な怒りは微塵もなく、照れからくる行動であり見ている皆が幸せを享受できるありがたさを放っていた。
オリ設定があります。
「ねぇ、ネズミ。あんたってさぁ……」
主人の身の回りの世話をする為に寺を訪れたナズーリン。そんな彼女を見るなり開口一番に種族名を呼ぶ一輪。自尊心の高いナズーリンであれば、その様な不躾な呼び方を認める筈がない。であるが、今に至っては普通の出来事。
「私が、何だ?」
一輪が親身な相手を種族で呼ぶのは寺の仲間であれば誰もが知っている。当然、ナズーリンもその輪の中に含まれている。一輪の問いかけには皮肉や誹りが含まれている訳では無い。表情から単純な疑問としてである事は読み取れた。
「あんたって……」
「まったく、ふざけている」
不機嫌を露わにして部屋に入って来たかと思えば、定位置にドカリと座って言い放った言葉がこれである。部屋の主人である星は一部始終を見ていたが、これではどちらが部屋の主か判らぬ状況。愛想笑いを浮かべるので精一杯であった。
「はは……一体どうしました?ナズーリン」
聞いてくれ、といった態度で入って来た部下を大して咎める事もない。捻くれ者の多い幻想郷において素直に気持ちを察してくれる人格者がいるだろうか。ナズーリンの主人である星が正にその人格者である。
「聞いてくれ、ご主人様。一輪の奴が言うに事欠いて私の事を、通い妻と言いやがったんだ」
待っていましたとばかりに星に言うナズーリン。先に一輪に呼び止められて言われた事をそのまま伝えた。うんうん、と頷いて話を聞く星であるが、必要以上に饒舌に語るナズーリンに少々心中穏やかならぬ表情を浮かべる。
「ナズーリン」
「話の最中になんだ?」
話しの腰を折られて少々不満げなナズーリンであったが、星の表情から穏やかではないものを察した。
「ナズーリンは、私の妻と呼ばれるのは不服ですか?」
そこから、ナズーリンの弁舌はまるで湧水でも溢れるかのようであった。不服はない、とか部下としての手前など本心と心の揺れ動きがつらつらと述べられていく。次いで口から出て来たのは星の魅力について。釣り合いが、やこんな魅力的な主人がなど、普段の冷静な自分が見たら、高速で否定する言葉を述べ続けるくらい歯が浮くような台詞を自然と言っている。
「それで、ナズーリンは私の妻としてある事は不服なんですか?」
一人自問自答気味にしていたナズーリンに星が再び疑問をぶつける。時が止まるナズーリン。先までの様子を見て聞いて頬を染めている星。どうなんですか、と詰め寄り近づく星。顔が随分と近い事に気が付いた時には行動は既に終わっていた。
「ご主人様、ごめん。その回答は後で」
「ま、待ちなさい、ナズーリン」
去る姿に追い縋ろうと手を伸ばす星を後ろにナズーリンは走り去っていった。
「くそっ、私とした事が……」
「不悪口ですわよ、ナズーリン」
僧衣を纏っている水蜜が後ろから声を掛ける。その姿は僧そのものであり、平素より水兵服に身を包む姿とは似ても似つかない。
「余り口が悪いと旦那様に愛想を尽かされてしまいますわよ」
「船長。私とご主人様は、そういう関係では無い」
先に一輪や星に言われた手前。少々、強めの反論をしてしまう。しかしながら相手は話し上手の水蜜。加えて今から説法会である。軽く流されてしまう。
「あら?私は星の事を言ったのではありませんわ。それよりも今からお話をします。よろしければ如何ですか?」
「悪いが、遠慮させてもらうよ」
「あら、それは残念」
水蜜がナズーリンの脇を抜け、その先にあった広間に入って行く。後に着いて入り口から中を眺めた所、里の人々で満員御礼となっていた。上座に水蜜が座る。後ろには命蓮上人が描かれている一幕が飾られている。中啓かと思っていた物は、実際には経典調のメモであった。
「皆様、ようこそお集まり下さいました。説法会と言われておりますが、そう固い話は致しません……」
柔らかな物腰で始まった説法会。話し上手の水蜜であればこそ。他愛のない話から始まり本日の題目へと移っていく。経典調のメモを広げて墨で描いていく。後ろにある命蓮上人の絵とは似ても似つかない。しかしながら彼女の会話から、描いた物がどうにも話した通りに見えてくる。老若男女、それぞれが各々別々に受け止める。ナズーリンは、そっと入り口から離れると星の部屋へと戻って行った。
星の部屋。部屋の主にしてナズーリンの主人である星は寺の業務で忙しく部屋内を行き来していた。部下であるナズーリンは、定位置に座って虚空をボーっと眺めている。
「おーっす、邪魔するぞ」
障子を開け放ち、元気に言い放ったのはぬえである。いらっしゃい、という星を尻目にナズーリンは特に何も言わずに目を向けていた。
「お?ふーん?ナズーリン、主人が忙しく働いているのに何もしていないだなんて、さっそく尻に敷いているのか?」
口を押えて笑いを堪えるニヤけた目。皮肉と悪戯心たっぷりに言われた言葉。
「あああああ~。もう、知らない~」
後ろにドタと倒れるナズーリン。大の字に寝転がり、最早なにもしたくないと体で宣言した。なんだなんだ、と面を食らうぬえ。ナズーリンは言葉にも出さず、来ただけで星の妻と言われる、何かすれば星の妻と言われる、何もしなくても星の妻と言われる、と拗ねた。
「あらあら、駄々っ子のよう。で、何か用かな、ぬえ」
「いや、日常の務めをしていたと思ったから、本当に邪魔しに来ただけなんだけど」
ナズーリンの行動を見て笑うのとは、また別の笑顔を浮かべる星にゾクリとしたぬえは嫌な予感を察する。
「これは、聖に報告ですね」
「や、それは勘弁」
「それにしても……」
大の字に寝転がるナズーリンに迫る星。音も無く、四足で獲物に迫る猫のように。
「私は用事を思い出したから退散するよ。聖には他言しないでな」
そそくさと逃げ去るぬえ。先とは違い逃げる気もないナズーリン。上から覆いかぶさり見下ろす星の目が捕食者のそれであった。
「さっきの返事……まだ聞いていませんでしたね」
「さっき?」
「私の妻と言われるのは不服ですか?」
顔を背けて、鼻で笑う。下にいながら侮る余裕を崩さず、心の奥底でも見透かした様に言った。
「ば~か。不服だったら戻って来るものかよ……おっ……おお」
その言葉をどれだけ待っていたのか。覆いかぶさっていた星が抱き締める。胸に埋めた顔。いつも言っている大好きの裏返しなのだとナズーリン思った。ナズーリンを愛している星が、愛されているか不安に思っていたのだ。
「やれやれだ。君の妻って奴は本当に大変だよなぁ……」
主人の我儘に応え望みを叶える。財宝神の君なら、もっと簡単に叶えられるのに。ナズーリンはそう思いながら、癖っ毛だらけの星の髪をくしゃりと撫でた。
「皆、聞いて。今度から寺で夫婦円満の御利益を増やそうと思って……」
「ああ~もう~。どうして君まで、そういう事を言い始めるかな~」
皆が集まる居間。務めも終わり雑談や就寝までの時間を緊張感無く過ごしていた中に住職の白蓮が時間帯にそぐわない元気さで現れた。事情を知らない彼女は先日より考えていた御利益の話を皆に伝えた。
だが、その話がナズーリンの逆鱗に触れたのだ。
「ねぇ、ナズーリン。どうしたの?」
「先日より、皆から星の妻と言われ続けた事が随分と不満だったようですわ」
夫婦円満のお守りと札を持った白蓮が水蜜に小声で事情を聞く。星の膝上で不満を喚くナズーリンはまるで童のようである。ただ、怒ってはいるが、その表情に純粋な怒りは微塵もなく、照れからくる行動であり見ている皆が幸せを享受できるありがたさを放っていた。
通い妻は妻の序の口?
キャプテンの口調が更に良かったです
みんなしてナズーリンを突っつく命蓮寺の連携が良かったです
好きです