今晩、雷が落ちる。
何処にだって?そんなの私が知るか。
とりあえず、おちるものは落ちるんだ。覚悟しておけ。」
大樹の元に立つ少女がそのように抜かした。
それはまるで、自分が雷の神かのような、尊大な振る舞いだった。
そして、少女は手に持つ二つの箒を用いて、円を描きはじめた。
まるで、自分が世の円の中心にいるかのような、そんな弧の描き方だった。
「君、いったい何者なんだ?」
少年が少女を問い質す。
「神だ。この世のな。あの世の事は知らないが、私はこの世の神だ。」
少女が再び、尊大な態度で折り返す。
ギラリ、と、少年に少女の箒が突き付けられた。
「お前、神であるこの私に逆らうつもりなのか。」
いいや、そうじゃない、と少年は返そうとしたが、それよりも少女が一歩前へ出て、魔法の間合いに入る方が早かった。
少年は危険を察知し、口を止める。
「お前、私の前で偉そうだな。頭も地につけず、棒立ちのままで、さらには「君」呼ばわりだと?冗談にも程がある。神を何だと思っている」
なるほど、少年がいまの少女の間合いに入り、少年を殺そうとしているという感覚は間違いなさそうだった。そして、少年がふぅ、と息を吸い込んでその問答に答える。
「御前様、御前様、どうか無礼をお許しください」
少年は深々と頭を下げた。
神に対する敬礼。それは幻想郷で生きる人間にとって必須のものだった。
少年は人間と妖怪のハーフだった。
しかしながら、彼は能力としては人間寄りで、神に立ち向かう力を持つものでは無かった。
したがって、彼は彼女への敬服の態度を示したのだ。
「さてさて神様」
おそれながら、少年が声を出す。
「私の店には、パソコン、ティーカップ、ゲーム機にコーラ、なんでもございます」
「どれかひとつ、いや、どれか一つとは言いません。すべてでも、あなたに御捧致しましょう」
少年は命乞いをするかのように、自らの持ち得るもの全てを列挙して見せた。
「そうだな、コーラが良いな」
神を自称する少女は、とたんに上機嫌になった。
「まるではじけるような感覚、今でも新しいと思える飲み物。最高なものだ」
神様は、大層かわいらしかった。
「さてさて少年よ。私は君に会ったことがあるかね?」
「君からは、とても懐かしい香りがする」
「そうかい、それは何らかの縁の証しだろうなあ」
「そうかもしれませぬ。神様、神様、雷の神様」
人間と妖怪のハーフの少年は、神様へ敬服の態度を示したままだ。
しかし一方で、「懐かしい香りがする」などと言っており、神様と少年の縁は以前からあったものと推定される。
「ははは、お陰で上機嫌になった。ここらで一発、ドラゴンメテオでも撃ってやろうか」
「冗談をおっしゃいなさんな、神様。私の店まで吹き飛んでしまいます。それではコーラもゲーム機も、全てはじけ飛んで、あなた様のように神になってしまいましょう。」
少年は神様の気を取り持つために、神様をなだめにかかった。
「御前様、御前様、あなたはもともと、さまざまなものを蒐集するのがお好きだったとか。こうしてお会いできたのも何かの縁。ドラゴンメテオをの前に、私の店にぜひいらしてみてはいかがでしょうか」
生と死。あいまいな記憶。交差する上下関係。
時間とは酷なものだ。
それらの関係すら、一変させる。
まるで今の少年と少女のように。
◇ ◆ ◇
『こーりん!あっちあっち!』
『はいはい、待ってよ魔理沙』
『あっちの方にキノコがあるの!みてみて!』
『このあたりのキノコは毒があるものも多いから、注意してみなければいけないよ』
そんなこともあったと、少年は思う。
そんなことはあったのか?と神は顔を斜めにする。
あったんだ。あったんだとも。
どんな神様にだって、そんな時期は、誰にでもあるものなのだ。
◇ ◆ ◇
「ここが私の店、香霖堂にございます。」
「ここに御前様がお入りするのは、私の推測ではこれで111回目となります。覚えておいででしょうか。」
「知らん。私は雷の神として顕現してまだ11日しか経っていないんだ。私は何も知らないし、何もできない。せいぜいマスタースパークを撃つ程度ができる限界だ。」
「他の神々どもは、やれ自然の権能を駆使して焼けた林をいっぺんに元通りにしたり、逆に一気に林を焼け野原にしたりだのなんだのできるが、私にはスパークがめいっぱいだ。」
「私の神の力を増強させるものがこの店にあれば、容赦なくかっさらっていくからな」
「あれあれ、まあまあ、かつての御前様と同じようなことを言っていらっしゃる。三つ子の魂なんとやら、でしょうか。」
少年はかつての少年のままだった。少女もまた、少女のままであった。
時間は、なにもかもを変えてしまう。
幻想郷に流れる、やわらかく優しい、そして過酷な時さえ、さまざまな紬を変えてしまうのだ。
「君、君、君は、私の11日前以前のことについて、何か知っているのか。私はこの場所に覚えがあるぞ。」
少女の「かみさま」が声を出す。
「そりゃ、当然、そうだとも。いいや、失敬、そうですとも。」
少年が声を出す。
「あのキノコは神前に捧げられる神前茸じゃないか!」
「神の権能を上げたい!あれ欲しいんだぜ!」
皆様はお気づきだろうか。
二人は、今初めて、「だぜ」と言い、「そうだとも」と言った。
先ほど、時間の流れは何もかもを変えてしまうと言った。
あれは訂正しよう。111年の時が流れようとも、変わらぬものは変わらないのかもしれない。
「なぁ君、君!名前はなんだ!私の事を知っているのかね!」
少女の尊大な態度は、転じてかわいらしいものに変わる。
「さぁ、私の魔法の範囲に入ったな」
香霖堂の中で、少年は神の魔法の範囲に入った。
それは恋符。マスタースパーク。
カードが一枚、ひらりと二人のあいだに舞い落ちた。
それは星で彩られた、あざやかな魔法のカード。
彼女がまだ神様ではなかった時の、恋のカード。
「君、君、このカードはなんだい」
「それは君のものですよ、神様。」
「そうかい、それじゃ、それは私のもんだな。」
少女がカードに触れる。
瞬間、魔法があたりを包み込んだ。
◇ ◆ ◇
『こーりん!あたらしいまほうをつくったの!みてみて!』
『星がダイヤモンドみたいだね』
『そうなの!ダイヤモンドなの!こーりん、わかってくれるんだね!うれしい!』
『魔理沙には魔法の才能があるね。頑張ってね』
◇ ◆ ◇
111年前の魔法。それは今でも残っている。
時は、時間は、優しかった。
神様の手には、恋符が一枚。
人間と妖怪のハーフには、それが111年ぶりの事に思えて。
ほほえましく、思った。
時間とは何だろうか。
人間とはなんだろうか。
妖怪とは何だろうか。
恋とは、なんだろうか。
答えは、少年には出せそうにはなかった。
だけれども、神様の笑顔は鮮烈で。かわいらしくて。
「ありがと、こーりん」
神様は、ひとこと、魔法をかけて帰って行った。
少年に、小さなかわいらしい雷が一つ、落ちて行った。
何処にだって?そんなの私が知るか。
とりあえず、おちるものは落ちるんだ。覚悟しておけ。」
大樹の元に立つ少女がそのように抜かした。
それはまるで、自分が雷の神かのような、尊大な振る舞いだった。
そして、少女は手に持つ二つの箒を用いて、円を描きはじめた。
まるで、自分が世の円の中心にいるかのような、そんな弧の描き方だった。
「君、いったい何者なんだ?」
少年が少女を問い質す。
「神だ。この世のな。あの世の事は知らないが、私はこの世の神だ。」
少女が再び、尊大な態度で折り返す。
ギラリ、と、少年に少女の箒が突き付けられた。
「お前、神であるこの私に逆らうつもりなのか。」
いいや、そうじゃない、と少年は返そうとしたが、それよりも少女が一歩前へ出て、魔法の間合いに入る方が早かった。
少年は危険を察知し、口を止める。
「お前、私の前で偉そうだな。頭も地につけず、棒立ちのままで、さらには「君」呼ばわりだと?冗談にも程がある。神を何だと思っている」
なるほど、少年がいまの少女の間合いに入り、少年を殺そうとしているという感覚は間違いなさそうだった。そして、少年がふぅ、と息を吸い込んでその問答に答える。
「御前様、御前様、どうか無礼をお許しください」
少年は深々と頭を下げた。
神に対する敬礼。それは幻想郷で生きる人間にとって必須のものだった。
少年は人間と妖怪のハーフだった。
しかしながら、彼は能力としては人間寄りで、神に立ち向かう力を持つものでは無かった。
したがって、彼は彼女への敬服の態度を示したのだ。
「さてさて神様」
おそれながら、少年が声を出す。
「私の店には、パソコン、ティーカップ、ゲーム機にコーラ、なんでもございます」
「どれかひとつ、いや、どれか一つとは言いません。すべてでも、あなたに御捧致しましょう」
少年は命乞いをするかのように、自らの持ち得るもの全てを列挙して見せた。
「そうだな、コーラが良いな」
神を自称する少女は、とたんに上機嫌になった。
「まるではじけるような感覚、今でも新しいと思える飲み物。最高なものだ」
神様は、大層かわいらしかった。
「さてさて少年よ。私は君に会ったことがあるかね?」
「君からは、とても懐かしい香りがする」
「そうかい、それは何らかの縁の証しだろうなあ」
「そうかもしれませぬ。神様、神様、雷の神様」
人間と妖怪のハーフの少年は、神様へ敬服の態度を示したままだ。
しかし一方で、「懐かしい香りがする」などと言っており、神様と少年の縁は以前からあったものと推定される。
「ははは、お陰で上機嫌になった。ここらで一発、ドラゴンメテオでも撃ってやろうか」
「冗談をおっしゃいなさんな、神様。私の店まで吹き飛んでしまいます。それではコーラもゲーム機も、全てはじけ飛んで、あなた様のように神になってしまいましょう。」
少年は神様の気を取り持つために、神様をなだめにかかった。
「御前様、御前様、あなたはもともと、さまざまなものを蒐集するのがお好きだったとか。こうしてお会いできたのも何かの縁。ドラゴンメテオをの前に、私の店にぜひいらしてみてはいかがでしょうか」
生と死。あいまいな記憶。交差する上下関係。
時間とは酷なものだ。
それらの関係すら、一変させる。
まるで今の少年と少女のように。
◇ ◆ ◇
『こーりん!あっちあっち!』
『はいはい、待ってよ魔理沙』
『あっちの方にキノコがあるの!みてみて!』
『このあたりのキノコは毒があるものも多いから、注意してみなければいけないよ』
そんなこともあったと、少年は思う。
そんなことはあったのか?と神は顔を斜めにする。
あったんだ。あったんだとも。
どんな神様にだって、そんな時期は、誰にでもあるものなのだ。
◇ ◆ ◇
「ここが私の店、香霖堂にございます。」
「ここに御前様がお入りするのは、私の推測ではこれで111回目となります。覚えておいででしょうか。」
「知らん。私は雷の神として顕現してまだ11日しか経っていないんだ。私は何も知らないし、何もできない。せいぜいマスタースパークを撃つ程度ができる限界だ。」
「他の神々どもは、やれ自然の権能を駆使して焼けた林をいっぺんに元通りにしたり、逆に一気に林を焼け野原にしたりだのなんだのできるが、私にはスパークがめいっぱいだ。」
「私の神の力を増強させるものがこの店にあれば、容赦なくかっさらっていくからな」
「あれあれ、まあまあ、かつての御前様と同じようなことを言っていらっしゃる。三つ子の魂なんとやら、でしょうか。」
少年はかつての少年のままだった。少女もまた、少女のままであった。
時間は、なにもかもを変えてしまう。
幻想郷に流れる、やわらかく優しい、そして過酷な時さえ、さまざまな紬を変えてしまうのだ。
「君、君、君は、私の11日前以前のことについて、何か知っているのか。私はこの場所に覚えがあるぞ。」
少女の「かみさま」が声を出す。
「そりゃ、当然、そうだとも。いいや、失敬、そうですとも。」
少年が声を出す。
「あのキノコは神前に捧げられる神前茸じゃないか!」
「神の権能を上げたい!あれ欲しいんだぜ!」
皆様はお気づきだろうか。
二人は、今初めて、「だぜ」と言い、「そうだとも」と言った。
先ほど、時間の流れは何もかもを変えてしまうと言った。
あれは訂正しよう。111年の時が流れようとも、変わらぬものは変わらないのかもしれない。
「なぁ君、君!名前はなんだ!私の事を知っているのかね!」
少女の尊大な態度は、転じてかわいらしいものに変わる。
「さぁ、私の魔法の範囲に入ったな」
香霖堂の中で、少年は神の魔法の範囲に入った。
それは恋符。マスタースパーク。
カードが一枚、ひらりと二人のあいだに舞い落ちた。
それは星で彩られた、あざやかな魔法のカード。
彼女がまだ神様ではなかった時の、恋のカード。
「君、君、このカードはなんだい」
「それは君のものですよ、神様。」
「そうかい、それじゃ、それは私のもんだな。」
少女がカードに触れる。
瞬間、魔法があたりを包み込んだ。
◇ ◆ ◇
『こーりん!あたらしいまほうをつくったの!みてみて!』
『星がダイヤモンドみたいだね』
『そうなの!ダイヤモンドなの!こーりん、わかってくれるんだね!うれしい!』
『魔理沙には魔法の才能があるね。頑張ってね』
◇ ◆ ◇
111年前の魔法。それは今でも残っている。
時は、時間は、優しかった。
神様の手には、恋符が一枚。
人間と妖怪のハーフには、それが111年ぶりの事に思えて。
ほほえましく、思った。
時間とは何だろうか。
人間とはなんだろうか。
妖怪とは何だろうか。
恋とは、なんだろうか。
答えは、少年には出せそうにはなかった。
だけれども、神様の笑顔は鮮烈で。かわいらしくて。
「ありがと、こーりん」
神様は、ひとこと、魔法をかけて帰って行った。
少年に、小さなかわいらしい雷が一つ、落ちて行った。
小説上のおていさい的なところは直しても直さなくてもいいと思います
ただ、謎が残るエンドになりました、とか、次回にこう御期待、とか書くなら、この作品の内ですべて表現してほしかったなあと、わがままを言わせてください
二人の掛け合いがなかなか心地いい一方で、それぞれの表現が気になってしまったという感じです。こーりんが少年呼びは少し違和感かと思いましたが、けれどそれは作者様の裁量によるのかもしれませんね。
あるいは平行世界的なもしもの物語なのか
などと色々と妄想してみましたが
正直、よく分からなくて掴みどころのない作品かなと
それは決して悪い意味という訳ではなく
なんとも不思議な気持ちになる読後感でした