時刻は深夜の1時。
部屋の電気は消している。
窓から差し込む外の月明かりだけが、微かに私達と部屋の中を照らしている。
音は一切無い。あるのは自分の鼓動の音だけ。
ごくりと唾を飲み込む。
意識しているせいか、やけに音が大きく聞こえた。
ふと女苑の方に目を向ける。
女苑の表情は月に照らされてるのもあり、深く険しく見えた。
「……姉さん、行くわよ。準備は良い?」
女苑がこちらを目だけで見ながら小声で尋ねる。
私は返事の代わりに小さくこくりと頷く。
「もう後戻りはできないわ。後悔しないでよね姉さん」
「女苑こそ、やっぱりお家で寝てれば良かったって、泣き言言わないでね」
女苑はフッと笑う。
「上等な返しだわ。意気込みはバッチリみたいね」
女苑がゆっくりゆっくりと扉を開ける。
そして、二人でそそくさと扉の外に出る。
「ちゃんと戸締まりしてね」
分かってるわ、と女苑が呟き、そしてカチャンと鍵の掛かる音が鳴る。
「さ、行くわよ姉さん」
「うん」
私達は真っ暗で誰もいない道を歩み始めた。
* * *
…………。
「あ゛ーっ、美味しい!」
「うんうん、美味しいね」
私達は人里にある24時間営業の牛丼屋に来ていた。
さすがにこの時間だと人はまばら。それでも多少は居るから驚きだ。
……私達が言えた立場じゃないけど。
私と姉さんははテーブル席で向かい合って座っている。
頼んだのは2人とも牛丼の並。
さすがにこんな時間に大盛りなんて食べようものなら……ねえ?
「ふふふ、たまに夜中でもこの味が欲しくなるのよねー」
「分かる」
肉、ご飯、紅生姜を順繰りに頬張る。
たまに水を飲み、口の中をリセット。
そしてまたしっかり味の付いた肉を口に入れ、つゆの染み込んだご飯も掻っ込む。
「はむはむっ……ん?」
ふと姉さんの方を見ると、赤とオレンジの中間のような色で埋め尽くされていた。
「うわっ……また姉さん七味大量に入れてる。辛くないの?」
「……こういうお店の七味はあまり辛くない。このぐらいでちょうどいい」
私もちょっとは入れるけど、ここまで大量には……。
器に盛られた肉の8割以上七味がかかって見えなくなっている。
見てるこっちまで口の中がヒリヒリする感覚になる。
「女苑こそ、よく紅生姜食べられるね」
「え? 何で? 良いアクセントになって美味しいじゃない」
姉さんの器を覗き込んでみると、確かに器には紅生姜は一切無かった。
「うーん……」
姉さんが首を捻りながら再び食べ始める。
確かにそのまま食べても美味しいけど、こういうアクセントがあると更に美味しくなってくれる。
姉さんもったいない、と心の中で呟きながら私も再び牛丼と向かい合った。
* * *
「ふーっ、食べた食べた!」
私と女苑は食べ終えて一服した後、帰るため再び来た道を戻っていた。
「ご馳走様。お代出してくれてありがとね」
「いいよいいよ。はぁ、明日からまたしばらく節制ねー……」
女苑が溜め息交じりにぼやく。
「節制……? お金なら女苑持ってるんじゃ……?」
疑問に思い尋ねると、女苑は苦笑いしながら応えた。
「あはは、違う違う。こっちよ」
そう言うと女苑は自分のお腹をぽんと叩く。
「ああ……お金じゃなくて、ご飯の量の節制」
「そういう事よ」
「じゃあ……私もしばらくご飯減らそうかな」
「は!? 何言ってるの、姉さんは細過ぎるからもっと食べるべきよ!」
「でも……女苑より多く食べるのは何だか忍びない」
女苑はぽりぽりと自分の頬を掻いた。
「あのねえ、姉さん……そこまで私に気を遣う必要は無いのよ?」
「? 別に気を遣ってなんかないよ。女苑と一緒の物を一緒に食べたいだけ」
何気なく、思ってる事を素直に口にしただけなのに、
「っ~~! わ、分かったわよ! 姉さんのご飯も私と同じ量にする! 後で文句言わないでよ!」
女苑が顔を真っ赤にさせ、何とも言えない表情になる。
そしてぷいっとそっぽを向いてしまった。
「……?」
何故か足早にスタスタと歩いていってしまった女苑を、小走りで追いかけていった。
部屋の電気は消している。
窓から差し込む外の月明かりだけが、微かに私達と部屋の中を照らしている。
音は一切無い。あるのは自分の鼓動の音だけ。
ごくりと唾を飲み込む。
意識しているせいか、やけに音が大きく聞こえた。
ふと女苑の方に目を向ける。
女苑の表情は月に照らされてるのもあり、深く険しく見えた。
「……姉さん、行くわよ。準備は良い?」
女苑がこちらを目だけで見ながら小声で尋ねる。
私は返事の代わりに小さくこくりと頷く。
「もう後戻りはできないわ。後悔しないでよね姉さん」
「女苑こそ、やっぱりお家で寝てれば良かったって、泣き言言わないでね」
女苑はフッと笑う。
「上等な返しだわ。意気込みはバッチリみたいね」
女苑がゆっくりゆっくりと扉を開ける。
そして、二人でそそくさと扉の外に出る。
「ちゃんと戸締まりしてね」
分かってるわ、と女苑が呟き、そしてカチャンと鍵の掛かる音が鳴る。
「さ、行くわよ姉さん」
「うん」
私達は真っ暗で誰もいない道を歩み始めた。
* * *
…………。
「あ゛ーっ、美味しい!」
「うんうん、美味しいね」
私達は人里にある24時間営業の牛丼屋に来ていた。
さすがにこの時間だと人はまばら。それでも多少は居るから驚きだ。
……私達が言えた立場じゃないけど。
私と姉さんははテーブル席で向かい合って座っている。
頼んだのは2人とも牛丼の並。
さすがにこんな時間に大盛りなんて食べようものなら……ねえ?
「ふふふ、たまに夜中でもこの味が欲しくなるのよねー」
「分かる」
肉、ご飯、紅生姜を順繰りに頬張る。
たまに水を飲み、口の中をリセット。
そしてまたしっかり味の付いた肉を口に入れ、つゆの染み込んだご飯も掻っ込む。
「はむはむっ……ん?」
ふと姉さんの方を見ると、赤とオレンジの中間のような色で埋め尽くされていた。
「うわっ……また姉さん七味大量に入れてる。辛くないの?」
「……こういうお店の七味はあまり辛くない。このぐらいでちょうどいい」
私もちょっとは入れるけど、ここまで大量には……。
器に盛られた肉の8割以上七味がかかって見えなくなっている。
見てるこっちまで口の中がヒリヒリする感覚になる。
「女苑こそ、よく紅生姜食べられるね」
「え? 何で? 良いアクセントになって美味しいじゃない」
姉さんの器を覗き込んでみると、確かに器には紅生姜は一切無かった。
「うーん……」
姉さんが首を捻りながら再び食べ始める。
確かにそのまま食べても美味しいけど、こういうアクセントがあると更に美味しくなってくれる。
姉さんもったいない、と心の中で呟きながら私も再び牛丼と向かい合った。
* * *
「ふーっ、食べた食べた!」
私と女苑は食べ終えて一服した後、帰るため再び来た道を戻っていた。
「ご馳走様。お代出してくれてありがとね」
「いいよいいよ。はぁ、明日からまたしばらく節制ねー……」
女苑が溜め息交じりにぼやく。
「節制……? お金なら女苑持ってるんじゃ……?」
疑問に思い尋ねると、女苑は苦笑いしながら応えた。
「あはは、違う違う。こっちよ」
そう言うと女苑は自分のお腹をぽんと叩く。
「ああ……お金じゃなくて、ご飯の量の節制」
「そういう事よ」
「じゃあ……私もしばらくご飯減らそうかな」
「は!? 何言ってるの、姉さんは細過ぎるからもっと食べるべきよ!」
「でも……女苑より多く食べるのは何だか忍びない」
女苑はぽりぽりと自分の頬を掻いた。
「あのねえ、姉さん……そこまで私に気を遣う必要は無いのよ?」
「? 別に気を遣ってなんかないよ。女苑と一緒の物を一緒に食べたいだけ」
何気なく、思ってる事を素直に口にしただけなのに、
「っ~~! わ、分かったわよ! 姉さんのご飯も私と同じ量にする! 後で文句言わないでよ!」
女苑が顔を真っ赤にさせ、何とも言えない表情になる。
そしてぷいっとそっぽを向いてしまった。
「……?」
何故か足早にスタスタと歩いていってしまった女苑を、小走りで追いかけていった。
24時間営業の牛丼屋があるかどうかは置いておいて、姉妹同じものを美味しそうに食べ続けてほしい
紫苑ちゃんにはいっぱいご飯を食べさせたくなります