Coolier - 新生・東方創想話

お前んちの大根全部ニトログリセリンに変えておいたからな

2018/01/19 02:55:26
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お前んちの大根全部ニトログリセリンに変えておいたからな

 
 伝書鳩が窓ガラスを突き破り、寝室へ突入する朝であった。
 鳩は霧雨魔理沙の枕元へ着地し、ポックルポックル呑気に鳴いていた。今すぐその顔を殴りつけてやりたい。しかし、脚に括られたメモに気が付いて、まずはその中身を確かめることにする。メモを取り外し、くるくると開いてみれば、前述の通りである。

 状況が飲み込めなかった。寝起きの頭が茫漠としていることもあったが、それ以上に、なんというか、あまりに非日常過ぎて、なるほどなあとは行かなかったのである。しかし、段々と思考がスッキリしてきて、嫌な予感がふつふつと沸き始めた。心当たりがあったのだ。魔理沙はベッドから飛び起きると、二階の寝室から一階のリビングルームに下りて、窓を覆うカーテンを開いた。窓の向こうには、霧雨魔法店、すなわち魔理沙の自宅、その庭が広がっている。そして、特に土色に染まったエリアには、占めて48本に及ぶ収穫寸前の大根が突き刺さっていた。
 魔理沙は家庭菜園の趣味があった。例年、何らかの野菜をこの庭で栽培している。きゅうり、トマト、ピーマン、茄子……経験に経験を重ね、そして今冬のテーマは『大根』であった。大根に限った話ではないが、野菜は極寒の環境で栽培されると、その身を守るために糖度を増すのだという。たくさん種も手に入ったし、折角うまい大根を作れるのなら、ということで、蒔けるだけ蒔きまくったらこのようになった。
 
 そんな状況下、魔法使いとしての、そして化学者としての知識が、魔理沙の脳内で危険信号を放っていた。手紙には、要約すれば、大根をニトログリセリンに変えてやった旨が記されていたはずだ。ニトログリセリン。爆薬の原料である。取り扱いには細心の注意を要する。それだけならばまだよかったかもしれない。
 魔理沙は、ニトログリセリンの取り扱いを多少は心得ていた。第一に、凍らせてはいけない。衝撃に対してより敏感となるからだ。第二に、それが溶けるともっとやばい。あまりに敏感過ぎて、とても扱えるレベルにはない。これらの知識から総合的に判断して、魔理沙の口から出てきた言葉は「やばくね?」であった。
 
「ニトログリセリンは14℃以下で凍るから、こんな真冬に、外へ放っぽりだしたら……」

 魔理沙の背中がぞわぞわと粟立つ。本当に、48本の大根全てがニトログリセリンとなっているならば、明け方の冷え込みで漏れなく凍りついているだろう。しかも本日、冬にしては、太陽が爛爛と照り付けている。もしかすると、南中の頃合いにはニトロ大根が溶けてくるかも分からない。そうしたらおしまいだ。
 
 突如送り付けられた荒唐無稽な書簡、それを魔理沙が狂言と疑わないのは、心当たりがあるからだ。アリス・マーガトロイド。魔理沙は彼女が犯人であると確信していた。魔理沙とアリスが、些細なことで論争になったのはつい昨日のことである。アリスが「ブリ大根の大根ってカブじゃ駄目なのかしら」などと言い始めたのに対し、魔理沙が人格を否定するレベルで壮絶批判したところ、激怒し帰っていったのだった。
 こういった口論は、二人の間ではよくあることであった。大抵、魔理沙がアリスの琴線に触れる発言をし、アリスが激怒して解散、その後アリスの仕返しを経て、二人は和解する。この流れが常であるのだが、重要なのは、アリスは絶対に仕返しを実行する、この点に尽きる。絶対である。魔理沙は確信していた。アリスは絶対やる女だ。
 
「……とりあえず避難するぜ」
 
 今や、魔理沙の家庭菜園は地雷原も同然である。しかも踏んでいないのに、勝手に爆発するかもしれない最悪のやつだ。こんなところで待機していては、命がいくらあっても足りないというものである。
 魔理沙は簡単な転移魔法を習得していた。いつでも好きなときに、とまでは行かないが、こと自宅に関しては「すぐ使えるように」と魔法陣が組まれていた。魔法陣の上で簡単な詠唱をすれば、魔理沙は爆発圏外まで逃れることができる。……48本のニトロ大根が爆発したらどうなるのだろうか。魔理沙はにわかに想像できなかった。少なくとも、この自宅に関しては灰塵と帰すだろう。それは間違いない。
 とにかく、迷っている時間はなかった。自宅は放棄する他あるまい。失うものは大きいが、命あっての物種である。この『仕返し』をなんとかやりすごし、なんやかんやでアリスとの和解に至れれば、大惨事になることなく、軟着陸できることだろう。

 本当に? 魔理沙の脳裏に、一抹の疑問がよぎる。
 
 口論、破局、仕返し、和解。自宅を爆破され全てを失った結末の先に、このプロセスを履行できる可能性はどれ程あるだろう。魔理沙は、皆無であると感じていた。まず魔理沙がアリスを赦せるのか。いつもの通り「まりさごめ^^;」などと謝罪されて済む話ではないだろう。一切の誇張無しで全財産を失うのだ。ごめ^^;ではない。一方アリスとて、今は感情的になっているが、そこまで無神経な女ではない。むしろ責任感の強い方である。仕返しの次元を越えた大損害を魔理沙に与え、そして冷静になった時、アリスは多大なる自責の念に駆られることだろう。そうしたら、魔理沙とアリスは、これまで通りの関係に戻れるだろうか。
 
「~~、くそったれめ」

 魔法陣を飛び出した魔理沙は「家がこのまま吹き飛んだ場合蒐集したアイテムも培ってきた魔導の技術も全てを失うことになるためそれは事実上の魔法使いとしての死を意味しここで命を賭けても防衛するだけの価値があるのだ」などと念仏のように唱え続けていた。
 魔理沙は家の奥へ入り、普段の白黒の装束へと着替えた。それから、物置をがさがさ漁ると、一足のブーツと一枚の緩衝材(ぷちぷちしたやつだ)を取り出した。緩衝材を半分に切り分けると、それぞれブーツの底に貼りつけた。即席緩衝ブーツの完成である。これで、地雷原を踏み抜く覚悟ができたというわけだ。
 気後れせぬうちにと、魔理沙は玄関まで直行する。ブーツに足を入れ、しっかりと靴ひもを締めて、すわと玄関扉を開いた。風が冷たいが、陽光は穏やかに頬へと照り付けた。晴天の真冬の午前中である。こんなにも気持ちが良いのに、今はただ間が悪いとしか言えない。ニトロ大根が解凍されるのも、時間の問題のようであった。
 魔理沙は、玄関の傍にひっくり返っていた台車を引き上げた。車輪が一つ付いている代物だが、ゴロゴロと移動させる衝撃で爆発しては堪らない。無論、持ち上げて運ぶ。もはや台車が車である意義は皆無であった。しかも非常に重い。帰り道には、いつ爆発するか分からぬ大根を48本載せることになる。魔理沙の精神は急激に萎え始めた。しかし得意の根性論で持ち直す。気合だ霧雨魔理沙、いくつもの困難を乗り越えてきた霧雨魔理沙、これしきのことでなんとする。無理やりに己を奮い立たせ、両腕に青筋を立てると、錆びた台車をやっとこさ持ち上げた。
 その勇猛果敢は誰の目にも疑われない。重量級の台車を抱え、緩衝材で土を踏みしめ、爆発の気配あれど、当然逃げることはできない状況である。しかし魔理沙はたどり着いた。よく耕された豊かな畑の傍らであった。ここでも気を抜かず、ゆっくりと台車を地面に降ろした。そして、目の前に広がる家庭地雷菜園を見下ろした。
 だらしなく土壌に広がる緑の葉と、わずかに覗える純白の根。総勢48本。その全てを抜き取り、台車へ積みこみ、屋内へと搬送し、合理的かつ安全な「処理」を行う。ここまでが本任務の使命である。迷っている時間など存在しない。南中までには幾許だ。タイムリミットは刻々と迫る。
 魔理沙は一本目に右手を伸ばした。葉と根の境目ほどをおそるおそる握る。幸い、大根側からのレスポンスはない。しかし、魔理沙の人差し指――第二関節が根に触れた――が、まごうこともない、ぐにゅとした感触を捉えた。背筋がすっと寒くなる。あなや。解け始めているではないか。一本目からこれではお先真っ暗である。やんぬる哉。魔理沙の心に帳が下り始めた。これはもうおしまいだぜ。^^
 ところが、中途半端な絶望感は一転、魔理沙の腹を括らせる結果となる。魔理沙は合理的な性格である。この尻に火が付いた状況、もはや逃亡すらも許されないのだ。ならば突き進む他ないだろう。残されているのは勝利か死のみ。魔理沙はいざ大根を引き抜いた。大根は想像以上に、大人しい。荒い息をつきながら、大根をそっと台車に置いた後、魔理沙には謎の自信がみなぎってきた。

 それからは破竹の勢いであった。破大根の勢いであった。大胆かつ丁寧な作業に、大根は爆ぜることもなく、台車の上に積み上がっていった。魔理沙はほとんど勝利を確信していた。ハマった状態、とでも言うだろうか。肉体的にも精神的にも全てが充足している。アドレナリンは無尽蔵に湧き上がり、エンドルフィンが脳髄からじわじわ染み出していた。大根を抜く手は休まず、決して粗相もない。いつしか魔理沙には笑顔が浮かんでいた。もう負ける気がしない。もう何も怖くない。それこそ、決定的なイレギュラーでも起きない限りは、絶対に……
 
「あれれ。魔法人間の魔理沙じゃない。精が出るねえ」

 お前は魔法地蔵の成子じゃないか。

「こんなにいっぱい大根を抜くのは大変でしょう。私が手伝ってあげる」

 地雷原の畑から前方10メートル、魔法地蔵の矢田寺成美は、両の手のひらを合わせながら、にっこりと、既に目と鼻の先であった。そして今にも、波乱を巻き起こそうとしている。魔理沙の笑顔は引きつり、脂汗がとめどなく滴っていた。善意の申し出であることは勿論、分かっている。しかし間が悪いのだ。成美が大根と思って、引き抜くであろうこれらはニトログリセリンなのだ。通常の感覚で引き抜けば集団自殺は避けられない。
 魔理沙の脳内で一瞬のうちに、思考が大回転する。どうする。事情を説明するか。どう説明しろというのだ。「今大根全部ニトロになってるから触らんといて」など阿呆のギャグ同然である。チルノですら笑わない。丁重にお断りするか。それがいい。もはや時間はない。それしかない。

「気持ちは嬉しいが、心配無用だぜ。大した仕事じゃない」
「大した仕事じゃないことないわ。まだ数十本も残ってるのに」
「大した仕事じゃないことないことないぜ。本当に大丈夫なんだ」
「またまた強がっちゃって。勝手に手伝っちゃうから」
「ア」

 魔理沙は成美のお節介を呪った。呪っている場合ではないと気を取り直す。成美は再び、畑へと近づき始めた。その無遠慮な足取りだけでも恐ろしい、しかし、とにもかくにも、成美にはお引き取り願わなければならない。魔理沙の脳裏に、悪魔の着想が浮かんだ。魔理沙は成美の、メンタルの弱さをよく知っている。一人で勝手に花占いをして、勝手に悲しんでいたことを知っている。天狗の新聞に、石の密度から体重を推定され悲しんでいたことを知っている。辛い現実に直面すると、逃避することを知っている。
「成子」と魔理沙は声をかけ、成美は「ん?」と返事をする。一言で決めねばならない。決め損ねて、諍いになればおしまいだ。わずかな時間で魔理沙は、思考を巡らせて、決心する。静かに息を吸ってから、

「お前、鼻から3本くらい毛出てるぞ」
「バカう〇こ魔理沙死ね~~~~!!」

 成美は踵を返し、うええええええええんと泣き叫びながら森に消えていった。僅かに土煙が上がったが、ニトロ大根は大人しい。成功であった。波風(爆風)を立てることなく、成美を地雷原から立ち去らせたのだ。尾を引くとすれば、自責の念である。成美は人一倍、身なりに気を使う性分である。鼻毛の話は勿論嘘だ。しかし傷つけたであろう。魔理沙は、こんなはずではなかったのだ、私の弱さ故である、成子よ、許しておくれぜ、などと繰り返し唱えていた。
 魔理沙は思う。こんなことになったのは全て、アリス・マーガトロイドという女が悪いのだ。だが、私はアリスのために悪魔になるのだ。アリスのために大根を抜くのだ。私とアリスの将来のために、命を賭けるのだ。忌野際では人間、案外正直になるものである。
 仕切り直して魔理沙は、残りの大根に向き合った。トラブルこそあったが、緊張の糸は太く繋がっている。新たに大根を掴むと、絶妙な力加減でそれを引き抜く。達人の域に達しつつあった。ニトロ大根の分野では幻想郷随一だろう。外界の爆弾処理班も、こぞって頭を下げに来るに違いない。
 油断禁物を肝に命じつつも、魔理沙はニトロ大根を、存外大人しい奴らだと感じ始めていた。丹精込めて育ててきた魔理沙への、恩義でも感じているのか。ならば一種の神様のようなものだ。敬えば恩恵を与えられ、ぞんざいに扱えば祟られる。敬っても爆発物に代わりはないが、爆発さえしなければ可愛い愛玩ベジタブルである。
 余計なことを考えているうちも魔理沙は、黙して大根を抜き続けた。気づけば、掴んだ大根は最後の一本だ。奇妙な緊張感が背中を汗で濡らす。腕の筋肉が不随意に揺れる。臆するなと両手で大根を抜いた。大根は訝しく、ぷるりと揺れ、とはいえ泣き叫ぶこともなく、沈黙していた。
 勝鬨を上げかけて、危うく踏み留まる。魔理沙のアドレナリン分泌は頂点であった。見よ、更地となった霧雨家の畑を。山積みとなった台車上の大根を。最大の山を越えた魔理沙には自信が満ちていた。無論、戦いは未だ終わりでない。台車に積まれた大根、総勢48本を輸送しなければならない。衝撃を考慮し、台車は持ち上げて運ぶ必要がある。想像を絶する重量であろう。しかし魔理沙には秘策があった。にわかに目を瞑り、体内の魔力を一気に練り上げると、赤い光として発現させ、身体に纏う。身体強化の魔法である。命蓮寺の住職など、一部を除いては、多用されることのない魔法だ。勉強熱心な魔理沙は習得していたのだった。それが今役に立つ。
 魔理沙の細い両腕は、軽々と台車を持ち上げると、引越業者さながらスタスタ歩く。玄関扉に辿り着くまでは間もなくだ。扉を開けるのに、台車を置く必要もない。左手を台車から離し、すなわち右手一本で台車を支え、扉を引き開けたのである。まっちょりさであった。これほどの身体強化を初めから使わなかったのは、時間的制約があるからだ。慣れない技ということもあり、もって十数秒である。魔理沙が最も危険と判断した、この瞬間のために温存していたのだ。それ故に、大根収穫の仕舞は勝利も同然であった。
 尚、玄関を開けたこの瞬間で、身体強化の時間は十分に残されていた。戦いの終わりは目の前にある。家に入り、リビングルームを抜け、先ごろ逃走に使いかけた魔法陣へ台車ごと押し込めばよい。空の彼方へ飛ばしてしまえば終わりである。そのような状況下においてこそ、魔理沙は唯一の懸念を見落とした。綻びは無いかに思われた、事実九割九分盤石であった、しかし偶然とは常に、主人公を苦しめるためあるのだ。晴天の霹靂。
 扉を開いた瞬間、屋内側から、勢いよく何かが飛び出した。あろうことか、台車の大根へ一直線である。「うわ」と叫びつつ魔理沙は、その飛翔体を左手でがっちり掴み上げた。これも身体強化魔法の賜物だ。ところが魔理沙は、慣れない身体強化中に、肉体的バランスが不安定であった。脳が指示した以上に筋肉が動いてしまった。振動が台車まで伝わると、積まれた大根が大きく跳ねた。宙に舞う大根48本。魔理沙の目にスローモーションで再生される。は。なんだこれは。まったく思考が追いつかない。ただ一つ、魔理沙の視界の片隅には、左手で掴み上げた一匹の飛翔体。
 
 朝に見た伝書鳩がそこにはいた。
 
 
「鳩オオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
 
 魔理沙の慟哭と、それをあざ笑うかのように、弧を描きながら自由落下する48本の大根。万事休した。いくら身体強化中でも腕は2本である。全てをキャッチするのは不可能だ。壮絶爆死はもはや避けられない。魔理沙は腰から、地面に崩れ落ちた。頭を隠しても尻を隠しても全て無駄だ。骨が残るかも分からない。分子レベルまで分解され、魔法の森を彷徨い続けるかもしれない。それは嫌だ。しかし選択権がない。
 遂に、大根の一つが地面に墜落し、瞬く間に炎を上げた。数秒も経たず大爆発する。歯を食いしばり、覚悟を決めた。命爆発。
 
「――魔理沙!!」

 そんな声が耳に入ったのと、目の前の大根48本が立体魔法陣に囲まれたのは、全く同時のことであった。魔法陣は速やかに収縮し、中身の大根を圧縮したかと思えば、続いて消えてなくなった。一瞬、魔理沙は呆然としていたが、すぐに転移魔法であると気づいた。数秒遅れて、遥か上空から爆発音が届いた。幻想郷中をびりびりと揺らす、物凄い音の波であった。
 魔理沙は次に、声の聞こえた方へ視線を向けた。旧大根畑の上空である。ホバリングしているのは、先ほど走り去った筈の成美であった。
 
「成子、お前なんで」
「ふふん」成美は得意げである。「さっき別れた後、冷静になって考えてみれば、魔理沙が私を畑から遠ざけようとしてたって気づいたの。それから、化学、物理学、心理学、地球科学、様々なファクターから検証し考察した結果、大根がニトログリセリンに変わっていたのでは? という仮説に辿りついたわ」
「お前の頭ン中どうなってんだよ」
「それに、魔理沙はあんな酷いこと言わないもの。優しい魔理沙のこと。ね?」
「いやそーでもないよ」
「キレそう」

 それよりも魔理沙はもう一つ、気になることがあった。先ほど、魔理沙を呼んだ声。それは成美のものではなかった。もっと聞き慣れた、もっと身近な人の声。
「さっきの魔法陣、お前がやったのか?」魔理沙は成美に問うが、成美は「助っ人を呼んだの」と首を振り、それから肩ごしに背後を覗いた。空間がじわじわ揺らいだと思えば、そこに女の姿が見えた。紛れもなく首謀者の女である。女は恐る恐る、魔理沙の顔色を窺ってきた。魔理沙が肩を竦めてみせると、女は、顔をくしゃくしゃにして、魔理沙の下に飛び出し、がっしと抱きついた。

「ごめんなさい、魔理沙。こんなつもりじゃなかったの」
「分かってるよ」
「ちょっとニトログリセリンで自宅もろとも数百ヘクタール分吹き飛んでもらえれば私の怒りも分かってもらえると思っただけなの」
「悪魔かよ」

 アリス・マーガトロイド、とんでもない女であると魔理沙は再認識した。同時に、戻ってこれたのだなと安心する。割に合っていないかもしれないが、命を賭して守りたかったものを、魔理沙は守り切ったのだ。アリスの体温を感じながら、魔理沙はしんみりと実感していた。
 しばらくの沈黙ののち、それを破ったのは成美であった。「お二人とも。その様子だと喧嘩してたみたいだけど、何が原因なの?」などと、面白半分に言う。余りにも危うい問いかけであったが、魔理沙もアリスも、予測される剣呑に気づくことはなかった。
 
「ブリ大根の大根はカブでもいいんじゃないかなー、って」とアリス。
「はあ……?」成美は全く分かっていない様子である。
「まだそんなこと言ってるのか?」魔理沙は笑い飛ばした。「ブリ大根の大根がカブで良い訳ないだろ。まるで別もんじゃないか。大体名前はブリカブになるのか? ダサすぎる、人間性を疑うね」
「あ?」

 アリスから極妻顔負けのドス声が聞こえる。ユーラシアプレートを3メートルはズラせそうな、低く重い響きであった。成美はようやく、自分が極めて余計な一言を投げかけたと気付き、大いに焦った。睨み合う二人、すわ戦争という雰囲気に「どーどーどー」と無理やり分け入る成美。「そんなに重要なことだったら、実際に作ってみればいいじゃない!」
 魔理沙とアリスは、しばらく成美をぽかりと見つめていたが、不意に顔を見合わせて、同時に怪しく笑った。
 
「少し、待っていなさい魔理沙。私が最高のブリカブを作ってきてあげるから」
「それなら私は、最高のブリ大根を用意してくるぜ。本家には遠く及ばないことを教えてやる」

 依然、火花を散らし合う二人。諦めたように苦笑する成美。
 新たな戦いはここから始まる。

 
ブリカブはまあまあうまいらしいです(クッ〇パッド情報)
あどそ
http://twitter.com/adsorb_organize
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コメント



0.1300簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
勢いだけのギャグだと思って見てたけど
「まりさごめ^^;」とか「鳩オオオ(略)」「悪魔かよ」みたいなツッコミでかなり笑ったので細かいことは気にしない事にした
2.90名前が無い程度の能力削除
おもしろすぎる 人間性を疑うね
3.100怠惰流波削除
まりさごめ^^;で完敗でした

魔法の森トリオが好きになりつつあります。
いいなるマリアリだった(?)
5.80名前が無い程度の能力削除
勢いがあって良かった
6.70奇声を発する程度の能力削除
面白くて良かったです
7.80名前が無い程度の能力削除
ぶっ飛んでて面白かったです
9.100名前が無い程度の能力削除
大いに笑わせて頂きました!
大変に面白かったです!
10.90名前が図書程度の能力削除
コメディというものに求められる要素をテンポよく刻みつつ、魔理沙、アリス、成美のキャラクターが程よく立っているように思える。
必要十分な構成良いです。
12.80名前が無い程度の能力削除
ぶっ飛んでた…漫画で読んでみたいかも。
13.100南条削除
面白かったです
理不尽な導入からいいテンポで進んで行ってストンと落ちた面白いお話でした
キレそう
14.100名前が無い程度の能力削除
笑いました。気持ちよく笑えました。
面白かったです。
18.100SPII削除
この後大根がどうなったのかを考えると昼も眠れませんね…
20.100大豆まめ削除
タイトルから冒頭からラストまで流れるようなギャグに笑うw
もうね、大好き。
21.100名前が無い程度の能力削除
ごめ^^;じゃないが
23.100名前が無い程度の能力削除
破大根の勢いで笑わされましたわ。
ニトロ大根の達人となった魔理沙さんの今後の職人技が期待されますな。
24.100kosian64削除
数百ヘクタールふっ飛ばすことを厭わないアリスに、ご都合主義にも程がある成美、機転を利かせてどうにかする魔理沙。どのキャラも立っていて、なおかつ導入もギャグも完璧で最後まで笑いの止まらぬ作品でした。
25.100もなじろう削除
悪魔かよ
29.100名前が無い程度の能力削除
深夜に笑いが止まらなくなった。悪魔かよ。
32.100乙子削除
勢いで攻めるギャグかと思いきや、要所要所に散りばめられた言葉のセンスと、キャラのステレオタイプに脱帽です……大変笑わせて頂きました、ありがとうございました。
40.100仲村アペンド削除
ネタの勢いだけではなく、折りに触れ挟まれる狂気の文言が笑えて仕方がありません。お見事です。
47.100水十九石削除
丁寧な文体からどうしてこの様な与太みのあるシュールギャグが錬成されているのでしょう、最後まで読み通しても終ぞ分からず…と言うか最初っからブリ大根とブリ株お料理対決してれば良かったのにアリスはどうして…
大根がニトログリセリンに変わるというますます意味不明なストーリーをしっかり纏めつつ魔理沙の焦りや驚きといった感情で味付けされているのがとても面白かったです。成美ちゃんは今回のNVP。

>大根がニトログリセリンに変わっていたのでは? という仮説に辿りついたわ
いやなんで…?