ある日の昼前。
私、紫苑は部屋で横になっていた。
朝ご飯は食べていない。
ヒビの入った空の茶碗だけが机の上に転がっている。
「……」
半ば夢の世界へ身を委ねようとしていると、突然、
「姉さん、ご飯食べに行くわよ!」
机をバンッと叩いて女苑が言う。
体を起こして女苑を見る。
「びっくりした……。どうしたの、急に……」
「だ!か!ら! ご飯食べに行くって言ったでしょ!」
「……いってらっしゃい」
私は再び横になった。
ゆさゆさゆさ。
女苑が体を揺すってきた。
「何言ってるの、一緒に行くのよ!」
「えぇ…?私はいいよ……」
「良いから早く!」
無理矢理起こされ、手を引かれて連れて行かれる。
ぐぅ、と鳴るのはお腹の虫。
……そういえば、お腹空いたなぁ。
* * *
「着いた着いた。ここよ」
女苑が立ち止まる。
ここは人里の中。
女苑の向いてる方を見ると、こじんまりとした料理屋があった。
「ここがね、美味しいって聞いたのよ」
「……女苑、1人でもっと良いお店へ行けばいいのに」
女苑の煌びやかな服装とはそぐわない、小さなお店。
普段もっと豪華なお店とか行ってそうなのに。
「姉さんまだ寝ぼけてんの。姉さんと一緒じゃなきゃ美味しくないわ」
「……」
手を引かれて一緒に店の中へ入る。
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
受付の若い女性の店員が尋ねる。
「2人よ」
こちらへどうぞ、と店員が先導する。
私と女苑は後を付いて行く。
案内された窓際の席に私達は向かい合って座った。
「どう?こういう雰囲気のも悪くないと思わない?」
私はきょろきょろと周りを見渡す。
建物自体はやや古そうだが、掃除や手入れはきっちり行き届いているように見える。
「……うん」
「ほら、メニューよ。私がお金出すから好きなの選びなさい」
女苑がメニューをぽんと投げて渡す。
私は開いて一通り目を通した。
「んー……じゃあ……この銀シャリのおにぎりで」
「おばか。もっと良いの選びなさいよ」
「うー……」
* * *
「お待たせしました。こちら焼き鮭定食です」
姉さんが20分ほど悩んで選んだ定食。
もっと良いの頼めばいいのに。
……ま、私も同じの頼んじゃったけど。
「おおお……」
姉さんは目をキラキラさせて運ばれてきた定食を見つめる。
炊きたてで湯気が立ち上る、キラキラと輝く白米。
焼きたての鮭から出る香ばしい匂いは食欲をそそる。
他にもお味噌汁や、漬け物と牛蒡の金平の小鉢と、シンプルながら申し分無い品目。
姉さんほど大袈裟じゃあないけど、私も期待と食欲が高まる。
「ほら、食べよ。冷めちゃうわ」
「うん……いただきます」
「いただきます」
手を合わせ、箸を持って手を付ける。
まずは味噌汁から一口。
「ん、美味し」
白味噌の味噌汁。具はワカメのみだけどしっかり出汁も効いててとても飲みやすい。
続いてご飯に箸を伸ばす。
「……料理屋のご飯って、何で自分で炊くよりも美味しいのかしらねぇ……」
「何でだろうね……」
周りの小鉢も一通り味を堪能したところで、メインの鮭へと手を付ける。
箸を入れると身がほろりと取れた。
それでいて身自体はしっかりとしていて、塩加減もちょうど良い。
「どう?姉さん」
途中で箸を止めて尋ねる。
「ん……美味しい」
姉さんが微笑みながら答える。姉さんの箸は止まってなかった。
それは良かった、と小さく呟き、私も食事を堪能した。
* * *
「ふぅ……ご馳走様」
「ご馳走様でした」
全て食べ切った私達は少しの間一服していた。
「どうよ?来て良かったでしょ?」
女苑がにこにことしながら聞いてくる。
「うん……。美味しいご飯、久々に食べた」
「何よ、私の作るご飯は美味しくないって言うの?」
女苑がムッとした顔になる。
「ううん……女苑のご飯もとても美味しいよ」
当たり前よ、とぼやきながら女苑がぷいっと窓の方へ顔を向ける。
「女苑」
「何、姉さん」
顔は窓へ向けたまま目だけで私の方を見る。
「……ありがとう」
「……ん。良いわよ、別に」
再び目は窓の方へ。
ご飯の味と女苑の優しさを噛み締め、私達はお店を後にした。
* * *
「美味しかったわ、ご馳走様」
「ご馳走様」
お代を支払って私達はお店を後にした。
「ふーっ、たまにはこうして一緒に散歩するのも良いわねー」
腹ごなしがてら、私と姉さんは雑談に花を咲かせながら外をぶらついていた。
「そうそう。でさ、こないだ博麗の巫女がー……って、あれ、姉さん?」
横を歩いてたはずの姉さんの姿が見えない。
ふと後ろを振り返ると、
「…………」
甘味処の前でじっと立ち止まってる姉さんがいた。
「まったく……。姉さん、何が食べたい?私が奢るわ」
「ん。えっとね……」
世話の焼ける姉さん。
ま、たまにはこういうのも悪くないわ。
私、紫苑は部屋で横になっていた。
朝ご飯は食べていない。
ヒビの入った空の茶碗だけが机の上に転がっている。
「……」
半ば夢の世界へ身を委ねようとしていると、突然、
「姉さん、ご飯食べに行くわよ!」
机をバンッと叩いて女苑が言う。
体を起こして女苑を見る。
「びっくりした……。どうしたの、急に……」
「だ!か!ら! ご飯食べに行くって言ったでしょ!」
「……いってらっしゃい」
私は再び横になった。
ゆさゆさゆさ。
女苑が体を揺すってきた。
「何言ってるの、一緒に行くのよ!」
「えぇ…?私はいいよ……」
「良いから早く!」
無理矢理起こされ、手を引かれて連れて行かれる。
ぐぅ、と鳴るのはお腹の虫。
……そういえば、お腹空いたなぁ。
* * *
「着いた着いた。ここよ」
女苑が立ち止まる。
ここは人里の中。
女苑の向いてる方を見ると、こじんまりとした料理屋があった。
「ここがね、美味しいって聞いたのよ」
「……女苑、1人でもっと良いお店へ行けばいいのに」
女苑の煌びやかな服装とはそぐわない、小さなお店。
普段もっと豪華なお店とか行ってそうなのに。
「姉さんまだ寝ぼけてんの。姉さんと一緒じゃなきゃ美味しくないわ」
「……」
手を引かれて一緒に店の中へ入る。
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
受付の若い女性の店員が尋ねる。
「2人よ」
こちらへどうぞ、と店員が先導する。
私と女苑は後を付いて行く。
案内された窓際の席に私達は向かい合って座った。
「どう?こういう雰囲気のも悪くないと思わない?」
私はきょろきょろと周りを見渡す。
建物自体はやや古そうだが、掃除や手入れはきっちり行き届いているように見える。
「……うん」
「ほら、メニューよ。私がお金出すから好きなの選びなさい」
女苑がメニューをぽんと投げて渡す。
私は開いて一通り目を通した。
「んー……じゃあ……この銀シャリのおにぎりで」
「おばか。もっと良いの選びなさいよ」
「うー……」
* * *
「お待たせしました。こちら焼き鮭定食です」
姉さんが20分ほど悩んで選んだ定食。
もっと良いの頼めばいいのに。
……ま、私も同じの頼んじゃったけど。
「おおお……」
姉さんは目をキラキラさせて運ばれてきた定食を見つめる。
炊きたてで湯気が立ち上る、キラキラと輝く白米。
焼きたての鮭から出る香ばしい匂いは食欲をそそる。
他にもお味噌汁や、漬け物と牛蒡の金平の小鉢と、シンプルながら申し分無い品目。
姉さんほど大袈裟じゃあないけど、私も期待と食欲が高まる。
「ほら、食べよ。冷めちゃうわ」
「うん……いただきます」
「いただきます」
手を合わせ、箸を持って手を付ける。
まずは味噌汁から一口。
「ん、美味し」
白味噌の味噌汁。具はワカメのみだけどしっかり出汁も効いててとても飲みやすい。
続いてご飯に箸を伸ばす。
「……料理屋のご飯って、何で自分で炊くよりも美味しいのかしらねぇ……」
「何でだろうね……」
周りの小鉢も一通り味を堪能したところで、メインの鮭へと手を付ける。
箸を入れると身がほろりと取れた。
それでいて身自体はしっかりとしていて、塩加減もちょうど良い。
「どう?姉さん」
途中で箸を止めて尋ねる。
「ん……美味しい」
姉さんが微笑みながら答える。姉さんの箸は止まってなかった。
それは良かった、と小さく呟き、私も食事を堪能した。
* * *
「ふぅ……ご馳走様」
「ご馳走様でした」
全て食べ切った私達は少しの間一服していた。
「どうよ?来て良かったでしょ?」
女苑がにこにことしながら聞いてくる。
「うん……。美味しいご飯、久々に食べた」
「何よ、私の作るご飯は美味しくないって言うの?」
女苑がムッとした顔になる。
「ううん……女苑のご飯もとても美味しいよ」
当たり前よ、とぼやきながら女苑がぷいっと窓の方へ顔を向ける。
「女苑」
「何、姉さん」
顔は窓へ向けたまま目だけで私の方を見る。
「……ありがとう」
「……ん。良いわよ、別に」
再び目は窓の方へ。
ご飯の味と女苑の優しさを噛み締め、私達はお店を後にした。
* * *
「美味しかったわ、ご馳走様」
「ご馳走様」
お代を支払って私達はお店を後にした。
「ふーっ、たまにはこうして一緒に散歩するのも良いわねー」
腹ごなしがてら、私と姉さんは雑談に花を咲かせながら外をぶらついていた。
「そうそう。でさ、こないだ博麗の巫女がー……って、あれ、姉さん?」
横を歩いてたはずの姉さんの姿が見えない。
ふと後ろを振り返ると、
「…………」
甘味処の前でじっと立ち止まってる姉さんがいた。
「まったく……。姉さん、何が食べたい?私が奢るわ」
「ん。えっとね……」
世話の焼ける姉さん。
ま、たまにはこういうのも悪くないわ。
紫苑にはおいしいものを食べさせたくなります
もっとたくさんお姉ちゃんに食べさせたい……。