Coolier - 新生・東方創想話

第一回幻想郷ドッジボール大会

2017/12/13 21:41:12
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幻想郷第一回ドッジボール大会 一回戦 最終試合 
アルティメットゴッズ VS ゲット(月都)だぜ!

 チームメンバーを見る……正確には姫を見る。明らかにやる気が、先ほどまでの闘志がない。多分原因はヒロインユニオンズの敗退……もっと言えば妹紅の敗退だ。
 妹紅がアウトになった瞬間は大歓声を上げてガッツポーズを上げていたのだがそのままヒロインユニオンズが敗退すると落ち込んでしまった。
 姫の思考ならわかる。妹紅をぶちのめすためだけに出場したのに激突前にライバルが敗退してしまったのだ。もう、やる気が一切感じられない。
「師匠、かねてからの打ち合わせ通り……私がまず視線で狂わせます。その隙にボールを取るので……聞いていますか師匠?」
「聞いているわ。打ち合わせ通りにお願いね」
 鈴仙の話は重要ではない。打ち合わせの確認だけなら聞き流す。それより大事なことは姫のことだ。
「姫、いかがいたしますか?」
「……あ~、どうしようか……永琳、あなたはどうしたい? 私は妹紅がぶちのめせればよかったから……わりかし本気であなたの気分で決めていいわよ」
 この言葉を聞いて、永琳が肩の力を抜く。姫の言葉には嘘がない。私がどうしたいか? そんなの決まっている。さっさと敗退して医者に専念したい。はっきりと断言するがこれから大量にけが人が出る。専念できないと困るのだ。
 口に手を当ててしばらく逡巡する。
「八意様……どうするのですか?」
 おおっと、いけない。流石に依姫は優秀だ。こちらのちょっとした躊躇いに違和感を感じたようだ。でも、とても“負けよう”とは言えない。
 手を叩く、みんなの注目を集めて作戦指示を出す。
「鈴仙、予定通りボールをお願いね。てゐ、貴方は適当に。依姫は攻撃をお願い。姫はごゆるりと、私が防衛にまわりますから私がいる限り連中には指一本触れさせません」
 姫はそれでため息ついている。私が普段通りなのがあまりお気に召さないようだ。
「……姫?」
「ん? ああ、なんでもない。ただ私にはボールが来ないだけよね」
 なるほど、少しはスリルがあった方がよいのか……風を感じるぐらいにはボールを近づけてもいいかもしれない。
 審判の宣言によりこれから一回戦最終試合の準備が進められる。
 コートに入場した相手は全員目をつむっている。……鈴仙対策だろうな。だがしかし、目隠ししたままボールにダッシュするのは練習してないと無理だ。
 こちらは鈴仙以外動く必要はない。かねてからの打ち合わせ通りフォーメーション・αを組む。先頭に剣を持った依姫、両翼が鈴仙とてゐ、最終防衛ラインは私、最深部には姫という攻防一体の形をとる。
 ボールを手に入れたら、依姫の神降ろしでスポーツの神“精大明神”を降臨させる。いかな軍神と言えどスポーツの神にスポーツで勝てる道理はない。
 私が口の端で笑う。それが準備完了の合図、試合開始の合図がかかる。
 鈴仙が突進ともいえる速度でボールに突っ込む。そして相手は目を閉じたまま誰一人として動いていない……誰も動かない!?
 相手の作戦を、相手ができることを高速で思考する。……解答は河童だ!! のびーるアームと光学迷彩布の組み合わせだな!?
「鈴仙!! フォーメーション・βに移行!!」
 永琳の叫びで鈴仙が急停止、そして、依姫と永琳の立ち位置を入れ替えた防御を前面に押し出したフォーメーションに切り替える。
 フォーメーションを組んで後ろのメンバーにハンドサインを送る。こちらは最大警戒で全員待機だ。ボールなんかくれてやる。
 ボールに手を出さないでいる私たちにしびれを切らせたのは祟り神だ。
「くふっ! ボールはいらないのかい?」
「その汚い手を引っ込めてくれたら考えるわ」
 図星をつかれたのか諏訪子がゲラゲラと笑いだす。
「おい、神奈子、あいつは早めに片付けないとだめだぞ」
「そのようだ。にとり、構わないから取っちまいな」
 神奈子の指示で目の前でボールが浮かび上がる。やはりな、ボールに向かって突進した奴を一撃必殺するつもりだったのだろう。
 のびーるアームを伸ばしたタイミングはわからないが……恐らく試合開始前だろう。つくづくやってくれる奴らだ。ばれなければ違反ではないが……次はないぞ?
 ボールが上下に揺れると迷彩布が裏返ったのかのびーるアームが現れ、代わりに布を被ってボールが見えなくなる。
 にとりをにらめば、にとりは目の前でゴーグルを装着しだした。……こいつどれだけ道具を持ち込んだんだ? にとりがつけているのは恐らく赤外線スコープ、熱源探知モードで鈴仙の視線を受けることなくこちらの居場所を視覚化することができる。
「あはははは、丸見え……そしてあんたらにはボールが見えない……河童の科学は世界一ィィィ!!! できんことはないイイィ―――ッ!!」
「調子乗りすぎじゃないか?」
 自分の味方からの突っ込みさえ無視してにとりが絶叫している。
 だがしかしうかつだった。この大会は能力はおろか道具の持ち込みも禁止していない。恐らく、能力を道具に頼った者への配慮だったのだろうが……それを最大限に利用された格好だ。
 迷彩布にくるまれたインビジブルショットが来る。だが対策なら第一試合を見たのだからわかる。
「天網蜘網捕蝶の法」
 からめとられたボールが私の目の前に布がめくれて現れる。
「ふう、危ない、危ない」
「な、何?」
「そっちがその気なら出し惜しみは無しで行くわね」
 布は丁寧にたたんで懐へ、ボールは依姫に投げ渡す。依姫はわかっていたのか空中で一回転、いわゆるオーバーヘッドシュートというやつだ。
降臨「精大明神―ダイレクト・オーバーヘッド・ドライブシュート―」
 地面すれすれまで降下しながらも、そこから浮き上がるような軌道でにとりを……正確には背中のカバンを打ち上げる。背中のカバンはにとりと一緒に結界にたたきつけられた。精密機械に衝撃は厳禁、ボールは雛がカバーしているが、機械が使えなければにとりは戦力外だろう。
 にとりは自身のエアバックで無傷だったが、カバンの機械をほぼすべてダメにしてしまった。
「あーっ、私のメカが!!」
「落ち着いてにとりさん、試合が終わればいくらでも修理する時間はありますから」
 鍵山雛がボールを手にしたまま回り始める。回るたびに厄がボールに封入されていく。
 にこりと雛が笑うとボールがパスのような軌道で放りあがった。
厄符「バッドフォーチュン」
 そのままこちらのコートに飛んでくる。
 あいつ、こちらが月人と知りながら厄の塊を打ち込んできた。
 ハンドシグナルで依姫と鈴仙に指示を出す。
降臨「伊豆能売」
 依姫が剣の一振りで厄を払い落とす。ボールは鈴仙が抑えた。
「あらあら、私じゃ力不足のようね」
「ええ、その通りよ。神の一人や二人、大したことはない。こっちには依姫がいるからね。八百万VS五人じゃ、ちょっと戦力差がありすぎて困っちゃうわよね」
 この挑発に、相手チームの大将は失笑で答える。
「ふふん、たとえそっちが八百万だろうと、この私(軍神)が一人いれば足りるね。それに巫女ならこちらにもいる。家の自慢の娘がね」
「あら……未熟者じゃ役に立たないのではなくて?」
 純粋に早苗は力不足のように見受けられる。依姫は巫女の完成形と言ってよい。早苗がいくら二人の神の神降ろしを得意としていても話にならない。
「そこがいいんじゃないか」
 未熟さを肯定している神を相手に話しながら鈴仙と依姫に指示を送る。自らの背から手によって次の作戦を伝える。
降臨「精大明神」
 依姫のスポーツの神による精密無比なシュートと鈴仙の狂視を合わせた技だ。取るために目を開ければ混乱、開けなければ弾道が見えずにアウト……コンビネーションとしては極悪非道の技だ。
 狙いは鍵山雛……横の軍神、祟り神と比較して弱い。あの二人はなんだかんだで目を閉じていてもボールをよけるだろう。それが正しいと思えるほどの予感がある。
 諏訪子が手を叩いて地面に沈める。途端に相手コートが泥の海になった。そのまま相手が全員泡に包まれて沈む。
 ボールは泥に埋まったがしばらくしてプカリと浮かんだ。
「くふ、くふふふふふ、いちいち神を降ろしちゃいけないね。バレバレだよ?」
 こいつ……ボールで地面を貫通させないとアウトを取らせない気か?
 当然のことながら審判から警告が行われる。
「諏訪子さん、気持ちはわかりますが……今後一切地面に潜らないでください。流石に卑怯すぎます」
「くふ? そうかい? ま、いいかな。じゃあ相手ボールでもう一度再開するといいよ」
 ちなみに諏訪子はいきなり地面に潜らされて泥だらけになった味方からも非難ごうごうだった。
 舌打ちしながら諏訪子が地面を乾かす。相手コートだけ乾きたての沼の底みたいにひび割れている。
 ボールはこちら側で相手は全員目をつむっている。
 今、珍しく自分が迷っている。同じ技でいくか否か? 何だろうなこの感覚……珍しく嫌な予感がする。
 こんな時はフェイントで様子を見る。ハンドシグナルで全員に指令を伝達し、自らボールを真上に蹴り上げる。
 連中は目を閉じている以上、声と音に反応するはずだ。
「依姫!!!」
 叫ぶと同時に神風が吹く。もちろん相手コートからこちらに向けて、乾いてひび割れた地面から砂煙を上げてこちらに風が吹き抜ける!
 やはりな……地面を元に戻さず、乾かしただけというのが気になった。砂煙を巻き上げるつもりだったのか……狙いは鈴仙の目つぶしだろう。シュートの威力を減殺し、礫(つぶて)で鈴仙の視界を殺す。そうすれば恐らく鈴仙は撃ち取られただろう。
「あれま、引っかからなかったようだな」
「いいや違うぞ諏訪子、こっちが釣り出されたんだ」
 言葉ほど相手は落胆していない。
 しかし、相手の手の内を明かし、さらにはボールがある。流れはこちらにあるのだ。
 武神、建御雷大神を出し、一気に圧倒してしまえば勝てる。
 ハンドシグナルで依姫に次に出す神を伝える。鈴仙は健在、押し切る!!!
 稲妻が走る。
 日本神話、最強の武の神を呼び出す。
御光臨「建御雷大神」
 相手チームにも呼び出している神がわかったようだ。八坂神奈子がずいと前へ出る。他の連中は神奈子の陰に隠れる。今呼び出してもらったのはそれだけの実力がある神なのだ。
 依姫がボールを放り上げそのボールに雷が直撃する。
 まさに光球!
 雷数本の力を蓄えたところで依姫が全力で蹴りだす。狙いは神奈子!! 相手のチームリーダを力でへし折る! そうすればチームそのものが瓦解する。
 踏ん張る姿勢の神奈子だが、電光をまとったボールが直撃した。
 視力を失うほどの光が舞う。同時に落雷の轟音が耳をつんざく。このぐらいでないと軍神は撃ち取れない。
 審判の宣告がなされる。
「八坂神奈子選手アウト」
 この声を聴くと同時にガッツポーズ。相手チームの最大の障害を取り除いた。あとは徐々に相手を削っていけばいい。笑おうとしたそばから審判の声が刺さる。
「鈴仙優曇華院イナバ選手アウト」
 何!? そんなわけがない。威力で視力を失うのを当然として「天網蜘網捕蝶の法」で防御をしている。これに手ごたえを残さず通り抜けられるわけがない。
 鈴仙を見ればおなかを抱えてへたり込んでいる。そして鈴仙の目の前には盛り土のようなものが見えた。
「策というのは二重三重に手を打って初めて効果が出る。こちらのコートを泥の海にしたときに、ついでにそちらのコートの一部に穴を開けさせてもらったのさ、むろんお前に気が付かれないようにお前以外のところにな」
 つまりこちらが視力を失った一瞬の隙を突いたのか? しかし偶然にも鈴仙が穴の前にいるとは……! 違うな、鈴仙がフォーメーションの練習をしすぎたんだ。
 必ず自分の担当エリアの中央にいるようにと私が指示したのがあだになった。
 ……てゐはその性格からあまり命令を守らない。
 依姫は最強の武の神を降ろしている、不意打ちなんて食らわない。
 私は警戒中。
 そして姫は……活躍していないから戦力外だ。
 くっ、鈴仙に対する配慮が足りなかった。相手からすれば邪魔以外の何物でもない、ターゲットにならないわけないのに……
 申し訳ありませんと頭を下げる鈴仙に初めて「いいのよ、今回は私が悪かったわ」と告げる。
 しかし、相手の大将は撃ち取った。相手の戦力は大幅ダウン……してなかった。おい、そりゃいくら何でも反則だろう。
 目の前で早苗に神奈子が強制降臨している。早苗の手を動かして調子を確かめているのだ。
「早苗には悪いが少し眠っててもらう。なにせ“建御雷大神”には借りが多いからな」
 大将を撃ち取ったら大将が出てきた。つまり相手の戦力はダウンしていない。こちらが鈴仙を失った分だけ圧倒的に不利になった。
「さあて、今度はさっきみたいにはいかないぞ、なにせ目を閉じている必要はないからな」
 早苗の口から神奈子の口調が飛び出す。
 ボールはまだこちら側……依姫に背中で指示を送る。
 依姫がボールを放り上げて、もう一度、雷を集める、先ほどよりも多くの雷を宿したそれは……早苗の体が耐えきれる威力ではない! しまった!! 武神である建御雷大神は手加減を知らない!!! 手を伸ばすが間に合わない。依姫の全力シュートが雷光をまとって直進する。
 そのボールを受けたのは諏訪子、すべての電撃を体を張って地面に流す。しかしボールの威力は殺しきれない。そのまま、早苗と一体化した神奈子にぶち当たる。
「ふん、ふははははは! 懐かしいじゃないかこの感じ!! 止めるぞ、諏訪子!」
「人遣いの荒い……、ま、早苗のためさ仕方ないかな」
 二人して全力で神の力をふるう。諏訪子は足にミシャグジをからませブレーキ、早苗に憑いた神奈子は風の塊をぶつけて減速する。
 冷汗が滴る。結界に激突する前にボールを抑え込んでくれた。キャッチ成功……だが、ボールが直撃した諏訪子は腹を抱えて震えているし、早苗さんの体はボロボロだ。
 早苗が口を拭う。ぬぐった手を見てちょっと驚いているようだ。だが、それは当然、衝撃で口を切ったのだろう。それぐらいで済んだことの方が驚きである。
「何度も受けられんな……」
「当たり前だ。次で仕留めろ。取られたらこっちは降参しかないぞ。早苗の体がもたん」
「わかっているさ」
 早苗が神奈子の様に御柱を呼ぶ。降り注いだ柱は一本、それを神奈子の剛腕を再現して振りかぶる。
「あちゃ~、早苗に少し筋トレするよう言うか。持ってるだけであちこちプルプルするぞ」
「絶対にやめろ、早苗がゴリラになる」
 二人は楽しそうに会話をしているが、諏訪子の手元では恐ろしいことが起きている。諏訪子が手元でボールを回転させている。そのボールの周りに風の守りをつけてボールを浮かべる。
「回転方向は一方向だけしかかけられんぞ」
「いーさ、その方が狙いを定めやすいし。じゃあ一丁ぶちかましてやるか。“建御雷大神”よ、これでもくらえ!」
一打入魂「ホームランスイング」
 極太の御柱を木製バットの如く振り回す。ただし、御柱が長い分、先端速度はバットのそれとは比較にならない。
 神の力を受けたボールは丸くちぎったパン生地に伸ばし棒をめり込ませたような変形を起こしてあらかじめ加えられていたスピンの力を解放して飛んだ。
 恐ろしいことにボールが螺旋を描いて飛んでくる。
 とっさの軌道計算……一直線に並んだ私、依姫、姫のうち依姫だけを打ち抜く軌道だ!
「天網蜘網捕蝶の法」
 無駄とわかって網を張る。ボールには風の守りが付いている。網をあり得ない変形ですり抜けてしまう。
 迎撃は不可能! それだけの速さと威力がある。振り返れば“建御雷大神”を宿した依姫がボールを叩き切ったところだった。
 大音響を響かせてボールがコートを跳ね回る。
 依姫が無傷であったことにほっと胸をなでおろせばよいのか? しかし、依姫がしかめっ面をしている。
 攻撃を迎撃するために体に降ろした“建御雷大神”が強すぎた。超神速を超える刀の振りに腕がついていかない。衝撃だけで腕の筋肉が悲鳴を上げている。
 日ごろの鍛錬を怠らない依姫ですらたった一回、全力を発揮しただけで腕が限界だ。
「よくやってくれました依姫……あとは外で休憩なさい」
 依姫は何にも言えずに頭を下げてギブアップしている。
 向こうのコートでは早苗が同様にギブアップだ。あちらは自分のあずかり知らぬところで神奈子の依り代にされた挙句、丸太みたいな御柱を振り回した。私の見立てでは依姫が腕なら向こうは全身……「何故ですか、どうしてですか? 神奈子様、答えてください!」と悲痛な叫びが聞こえる。
 これでようやく三対三……だが相手に祟り神が残っている。
 真っ二つになったボールは相手コートとこちらのコートに転がっている。
 審判の映姫の裁定で新しいボールはアルティメットゴッズの手に渡った。ボールの破損原因がこちらにあったからだ。仕方ない。
「ではボールはアルティメットゴッズからで試合を再開します」
 ボールを持っているのは諏訪子だ。
「人数が減ったねぇ……試合時間もあるし……一気に片を付けようか?」
 私がにらむ先で諏訪子が二人増える。恐らく土着神「宝永四年の赤蛙」だろう。ボールを持ったままニタリと笑う。流石に祟り神なだけはある、背中がぞくっとする。
 パスのような軌道で放り上げる、軌道計算で狙いは私であることは明白……だが何の変哲もないというのはおかしい。
 空中に三体同時で諏訪子が出現する。一人は縦に、一人は横に、一人は前に蹴りを放つ、そしてボールの軌道は変わらない。三方向異軸同時回転を加えているにもかかわらずだ。
「さあ、アウトになるまであと三秒、念仏でも唱えるんだね」
 ボールの軌道なら読める。これなら歩いてでもよけられる。だから姫の前に立つ。着弾後の軌道計算ですら終わっている。着弾後はスピンを解放してコートの結界を超高速でらせん状に巻きあがる。到達点は今、諏訪子が浮いている場所だ。
 それで、隙をつくつもりか?
恐らく、そのあとは諏訪子のドロップキックで高速カウンターだろう。ふふ、後の問題は諏訪子のシュート力だ。だがボールの回転で大体推定できる。生身でとれるほどには甘くはないかな。
 ボールが地面に触れるのと同時に疾走を開始する。瞬く間に螺旋を描きながら結界を駆け上がり諏訪子の元へと戻っていく。
 そこから予想の通りというかドロップキックだ。
 しかしそれが予想もしていなかった角度で放たれる。
 ドロップキックは真下に放たれる。そして諏訪子自身ははるか上空に飛び立つ。直下では二体の分身体が待ち構えている
 ボールは直上から直下へ、そしてまた直上へ、はるか上空に舞い上がったボールを追いかけて分身体がもう一体を踏み台にして飛び上がる。 
 非常に嫌な予感がする。相手は全力の重ね打ちをしている。通常のパンチなら全力の二倍を出すことは不可能だがこれは球技だ。ボールが蓄えられるだけエネルギーをつぎ込むことができる。
 威力が高すぎたらそれが原因で敗退するのに……そうか、私たちは蓬莱人だった。遠慮も手加減も不要と判断されたのか。
 全力をもって迎撃しなければならない。上空の諏訪子は二人! これから計算される最大火力は……? ヤバイ! 受け損なうとこちらのコートが全壊する。
 懐から弓を出し、力を集中して初めて矢を構築する。狙いははるか上空のボール、太陽と重なった程度では見失わない。迷いなくつがえる。
 矢を放つ瞬間ぐらりと体が傾く。視線を相手コートに向ければ赤い口でにたりと笑う邪神が、分身体の分際で泥沼を創造している。足場を崩された!
 わずかに一センチ、狙いが傾く。
 ぐぐっ、クソッ、外れた! 二の手は次げない!! 相手が速すぎる!!!
 弾着までの刹那、黒い髪が視界を遮る。まぶしいほどのきらめきでボールを叩き返す。
神宝「ブディストダイヤモンド」
 大きな光の盾が目の前にあるボールをはじき返した。それは誰の専用道具だったか……弾着の刹那に潜り込めるのは誰だったか? 答えは決まっている……姫様!!
 威力だけで、あっという間に永琳の盾となった人物が吹っ飛ぶ。永遠と須臾を操ると言っても衝撃を殺せたりはしない。結界にたたきつけられている。
 私は即刻試合中止を審判に宣告して、姫のもとに駆け付ける。
「えーりん……私も役に立ったでしょう?」
「そんな、私が姫の盾だったのに……」
「私一人残ってどうしろと……あれと戦えるのはあなただけよ。地上の神とはいえ流石に頂点なだけはあるわ」
 姫は最後に「あなたの好きにしていいから」と告げて結界を自力で出ていく。
「蓬莱山輝夜選手アウト」
 くくく、あはははははは、たとえ狂っていると言われようと……、敵は討たねばならない。ボールは相手コート……祟り神がきつい弧を描いて笑う。
「くふふふふふ、ようやっと三対二でリードか……、全く情けないもんだねぇ、神奈子も早苗も」
 味方を馬鹿にしたような口を叩く、祟り神は考え方そのものが異なるらしい。
「早くかかってきたらいかが?」
「年寄りのわりにせっかちだねぇ。こういうのはもう少し楽しむものだろう?」
 諏訪子にしては珍しく、分身体を消してボールを雛に投げ渡す。
「厄が消せるといいよねぇ?」
 おのれ……こちらが最も嫌がる攻撃を繰り出してきやがる。
 雛が回るたびに厄が収束する。再び放り上げられたボールには前以上の力が込められている。
 このボールは取りたくない。例え地面に落ちた後でも……いくら穢れた大地に暮らしてきたとはいえ、“元”月人……進んで厄を受けようと思わない。
 私が拒絶してよけた後、その着弾点に現れた人影がある。
 因幡てゐ、幻想郷最強のラッキーガールだ。ボールの直撃を受けるが、厄は直撃しない。ボールを振って厄をすべて吐き出させる。
 雛は笑ってその吐き出された厄を吸収した。
「お師匠様も苦手なものがあるんだね」
「てゐ……助かったわ」
 一球だけ投げたいと言うので、てゐに任せる。
 てゐは右から左へと結界の壁を自在に蹴る。その動きは次第にボールをたたきつけるように変わっていく。
強打「ボール ポウンディング」
 最終的にこねた餅の如く平らにしたボールを蹴りだした。恐らくキャッチの瞬間に弾力解放……相手を弾き飛ばしてしまうつもりだ。
 狙いは雛……しかし、弾道を遮る形で邪神が割り込む。
「くふふふふふ、この程度じゃ話にならないね」
 弾力解放もお構いなしに真上に蹴り上げる。即座にボールを追いかけて抱え込む。邪神は着地すると、片足でボールを押さえつけた。まるでサッカーのPKのようである。
「そろそろ時間かな?」
 その言葉でちらりと審判を見る。審判が示した残り時間はあと一分……それをわざと確認させたうえで諏訪子がボールを回し始める。
「例えばの話だけどね……このボールを一分ホールドし続けたらどうなるかねぇ?」
 ざわりと背中がざわつく、何もできずに敗退するじゃないか、ここまで試合を引っ張ってタイムアップで敗退なんて納得できるもんじゃない。
 試合の経過を察したのか審判からの忠告が入る。
「諏訪子選手、戦う意思がないなら棄権扱いにしますよ?」
「くふっ、そんなわけないじゃないか……これはただの力溜めだよ。チャージに時間がかかるだけさ」
 そういってさらにボールを蹴って回転速度を上げていく。
 ……ダメだ、このまま回転数を上げ続けて一分後タイムアップになる。諏訪子の顔がそう断言している。
 すっと、てゐが前に出る。
「お師匠様、あたしに任せてくださいな」
「どうする気?」
「あたしは最強のラッキーガールですよ?」
 てゐが髪の毛を数本抜く、ニカッと笑うと手のひらの上のそれをふっと風に舞わせた。
 諏訪子はそんなこと気にしていない、ますます回転数を上げたボールが周囲の空気を巻き上げている。
 ふわりと浮いた毛が風に乗って流されて到達した先は諏訪子の顔面だ。鼻を目をくすぐって流れ去る。回転数を上げるための蹴りの最中にだ。流石の諏訪子も姿勢が乱れる。
 蹴りそこないのボールが飛んでくる。流石、最強のラッキーガール、ふわりと浮いたボールは打ち返しやすいことこの上ない。
 そして残り時間は三十秒、相手のダメージ、立て直し時間、すべてを考慮に入れる。
 全身を一回転させる。ローリングソバットと言えばわかりやすいだろうか? 自身の全力による全体重を乗せた蹴りだ。たがいなく回転中心をぶち抜く。
 軌道は諏訪子の顔面だ。姫をアウトにされた腹いせも込めて矢の如き速さで迫る。
 諏訪子は体をひねってよけようとするが、不運にも足を滑らせる。……私を泥沼ではめたりするからだ。まあ、自陣の地形を戻し忘れたってのも幸運のうちか。
 諏訪子は防御もままならず顔面直撃、さらに自分自身で加えていた回転の力をもろに受ける。
 ちょっとこっちが心配になる勢いで、地面に、壁にたたきつけられている。
 ボールが転々とする中、諏訪子が手をついてようやく起き上がる。
 その顔は邪神そのもの……目が赤黒く染まって、口が耳まで割れている。
「くふ! くふふふふ、やってくれるじゃないか!! 十倍にして――」
「時間です、タイムアップ、試合終了です」
 諏訪子がさあ、いよいよと立ち上がったところで審判から無情の時間切れが告げられる。
 してやったり、うまく敗退し、その上姫の敵を討った。強烈な邪神の視線に微笑を返す。
「まて! 審判、あと十秒ぐらい いいだろう!!」
「あなたが時間稼ぎをしなかったら、そのぐらいの時間はひねり出せたはずですよ?」
 映姫は厳正かつ厳格、たとえ邪神の言いがかりだろうと聞く気はない。
 そのまま勝利コールが行われる。勝者、アルティメットゴッズ、タイムアップによる二対三だ。
 こちらは私とてゐ、あちらは諏訪子、にとり、雛、諏訪子は顔面セーフを適用だ……そうなることを見越して顔面に撃った。
「ふふ、どう? 自分のしたことをやり返されるのは? タイムアップ寸前の攻撃をするつもりだったでしょう?」
「く、くふふふふ、やってくれる。もういい、こうなったら――」
「仕返しはやめた方がいいと思うわ。早苗さんの治療ができなくなっちゃうから」
 これで邪神が完全に止まった。完全に復讐にとらわれた自身の顔を帽子で隠すと、ぺこりと頭を下げる。帽子の裏でどんな顔をしているのか知らないが……医者としての義務は果たさないといけない。
 私は自身のチームへの説明もそこそこに救急所に向かう。依姫に早苗……患者が増えたのだから張り切らないといけないのだ。


「諏訪子、よくあそこで感情を抑え込んだじゃないか」
 諏訪子が答えない。気になって顔を覗き込むと全然、感情が収まっていない。顔はどす黒いままだし、目は赤黒い。
「まあ、こちらとしては試合に勝てて万々歳だ。なにせあっちには“建御雷大神”がいたからな、神威として威厳はばっちりだ。次は二回戦……白雲、八雲紫が相手だ、頼むぞ相棒」
 諏訪子が手を上げる。それをハイタッチと解釈して手をはじく。無言でそれを流して、諏訪子は姿を消した。まあ、放っておいても何とか大丈夫だろう。二回戦開始までには戻ってきてくれるはずだ。
 一回戦から二回戦までの間には一時間の休憩時間が設けられている。早苗も筋肉痛だけなら何とかなるだろう。あの医者は優秀だし。
 休憩後はシードチームが出てくる二回戦が始まる。さらに激化する戦いには諏訪子の力が絶対に必要だ。
 久しぶりの戦いに身を震わせる。こういう戦いは願ってもない、楽しくて仕方ないのだ。

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