時は夕暮れ。
昼間、天高くあった太陽は既に山の巣に帰り、空は眠たそうに暮色蒼然。寂しく鳴く鴉の声が、空のあくびの様に響いていた。
刻一刻と迫る夜の闇と静寂に幻想郷が染まり行く中で、それに抗うかのように明るくにぎやかな場所が、地上に一つだけあった。
それは妖怪の山の中でも木々がまばらにしか無い開けた平地で、そこには人工の明かりが灯る即席の柱がいくつか立ち並び、柱のたもとには三十人程の人影が見て伺える。
大勢の人影はせっせと地面にござを敷き詰め、それを大きく囲む様に布の壁を張っていった。
「皆さん、準備は整いましたか?」
布で囲われた空間の上座にある、天狗のうちわを思わせるヤツデの紋章が描かれた立派な横断幕を背に、声をかけたのは鴉天狗の文だった。
その声にはいと返す大勢の声は、その部下にあたる白狼天狗達のものだ。
「それでは、私は大天狗様をお呼びしてくるので、皆さんは所定の位置で待っているように」
文が言い終わり横断幕の外に出る頃には、天狗達は既に数列に及ぶ配列を成してござの上に座っていた。
一糸乱れぬ素早い動きと、漏れなくピンと姿勢を正し正面を見据える天狗達の姿は、訓練を受けた部隊の理想の姿そのものだ。
現に彼女達は、皆妖怪の山を警備する部隊に所属し、その厳しい戒律の元に日夜務めていた。それはこの山で生活する白狼天狗に課せられた使命であり、同時に本人達にとっての誇りでもあった。
「緊張するなあ」
皆が一様に凛として佇む中、その中でただ一人、不安げな表情をうかべてぽつりつぶやく天狗がいた。その天狗は周りの者と比べて小柄で、どんなに背筋を伸ばしても、他の天狗より頭ひとつ分背が及ばなかった。
「しっかりやんなよ、椛」
隣の天狗に椛と呼ばれた小柄な天狗は、犬耳をしおらせながらより一層表情を曇らせ、虚空を見上げて更につぶやいた。
「ええっと、この度伍長の拝命を致しました犬走椛です…… えー、あれ」
「大丈夫?」
「頭まっしろ……」
大勢の部隊を編成する白狼天狗には、それを統率するための細かな階級制度が定められていて、今日はその中で昇格した者を祝う昇任式の日だった。白狼天狗達にとって昇格はさして珍しい事では無いのだが、この日昇格を果たした天狗は、偶然にも椛ただ一人だった。
「はあ、他に一人でも昇格者が居れば、宣言なんてしなくて済んだかもしれないのに」
「居たとしても代表は五十音順で決まるから難しいと思うよ」
「ん、から始まる名前に改名したい……」
昇任式では毎回、昇格者の代表が大天狗の前で宣言を唱える事になっていて、今回唯一の昇格者である椛は否応なしにそれを担わなければならなかった。
皆に一人注目されながら、恐れ多い大天狗の前で慣れない事をするのだから、椛の肩に伸し掛かるプレッシャーというのは相当なものだ。
「こちらへどうぞ」
そうこうしている内に、布の向こうから文の声が聞こえた。うむという返事と共に布が揺れ、そこから大天狗の威風堂々とした大きな体と、威厳のある鋭い眼光が天狗達の目の前に現れる。椛はその迫力に息を飲んだ。
大天狗がヤツデの紋章を背に、天狗達の正面に向き合って腰を落ち着けると、文はすぐに式の進行を始めた。簡単な式次がいくつか終わって、椛の名前はあっという間に呼ばれた。
椛は上ずった返事をして、大天狗の正面へと移動する。正座をして深く頭を下げたあと、大天狗の顔を見据えてすっと息を吸った。
「こ、この度、伍長の拝命をぃ、いたしまった、ぃいぃ犬走も、もみ、もみジっです。
………… ぇぁ、この様な、た、大役を仰せつかり、責任、の、重大さに――」
たどたどしく宣言をする椛の背中を、天狗達は優しい目で見守っていた。しかしその目は時折ひくつき、口元は歪んだ形で硬く閉ざされている。皆、笑いをこらえるのに必死だった。
そんな事とは露も知らずに、椛は同じ調子で宣言を続ける。その最中、椛は緊張のあまり無意識に自慢の大きな尻尾を振ってしまい、ばたばたと音をたてながらその動きはどんどんと勢いを増していく。尻尾は風を巻き起こし、風は前列に居た天狗の頬をやさしく撫でた。その時点で、風を受けた殆どの者は耐え切れずに、抑え続けていたものを口や鼻から噴出させた。後列の天狗達も漏れなくそれに続いた。
椛が宣言を終えると、周りからは大きな拍手が送られた。皆精一杯に手を叩き、その中に安堵のため息を隠していた。
その後の式次は滞りなく進み、最後に大天狗の力強く格式張った祝辞を締めとして、無事に式は終了した。
式が終わると、その後には昇格者を祝う祝賀会が予定されていて、天狗達はそのまま同じ場所で待機した。
「はあ、終わった」
「がんばったね」
「毎回こんなならもう昇格なんてしたくないよ」
「そう言うなって、今回昇格したおかげで、念願のあれがやっと飲める様になったんだからさ」
「あれかあ、どんな味がするんだろう」
その会話を見計らった様に、二人の言うあれは、布の外から新たに現れた数人の白狼天狗達によって運ばれてきた。
白狼天狗達の手には、足の付いた漆塗りの食膳があり、それは式に参加していた全員の前に配られていく。食膳の上には、酒の入った小さな盃が一つだけ置かれていた。
前に置かれた盃を椛が覗き込むと、淡く透き通った酒の水面に、好奇心を丸出しにした自分の顔が揺れていた。椛は今まで、一度も酒を口にした事が無かった。
上下関係の厳しい白狼天狗の社会では、一定の階級に昇格するまでは、日ごろから酒を飲む事も、酒の振る舞われる場に参加する事も一切禁じられていた。
先ほど食膳を運んだ白狼天狗達はそれらをまだ許されていない下っ端天狗で、椛もつい先日まではそちらの側だった。
全員に盃が行き渡ると、文が場を見計らって大天狗に乾杯の音頭を促す。
大天狗は、特別に用意された酒が三合は入ろうかという大きな盃を片手に立ち上がり、目前に座っている白狼天狗達を鋭い眼差しで見渡した。
「やれ、毎度毎度格式張った式で肩が凝る。
皆の衆、堅い式はもう終わった。もはやここで説教話等しても聞く者は居るまい。短く済ませよう。これよりは本日昇格した犬走伍長が明日から一層励める様、時間の限り皆でしっかりと祝ってやる様に。以上、乾杯」
先程までの鋭い眼光はどこへやら。大天狗は顔を優しくほころばせながら盃を掲げ、その中身を一気に飲み干した。
その様子に天狗達も緊張の糸を解きながら、揃って大天狗に習った。
乾杯が終わると、下っ端達が慌ただしく料理を配膳し始める。そのざわめきに乗じて、式に参加していた天狗達は自由に立ち歩き、その足を椛の元へと向かわせた。
天狗達はそれぞれ椛を祝う言葉を改めてかけた後、早速宣言の酷さを笑い話にしてからかった。椛は少し不服そうに返しながらも、大勢に暖かく囲まれとても嬉しそうだった。
「おや、椛の盃、中身が全然減ってないじゃないか」
一人の天狗が気付きそれを指摘すると、椛は恥ずかしそうにもじもじとしながら視線を下にそらす。
「うん、今までお酒の飲みすぎで倒れた人を何度も介抱してきたから、自分もそうなっちゃいそうで、なんだか怖くて」
「気にしすぎだって、そんな小さいの一杯ぐらいじゃどうこうはならないよ」
「そうかな」
「大丈夫大丈夫。ほら、キューっとやんなって」
周りの天狗たちも同じように椛をはやし立て、椛はそれじゃあと言って、流れに身を任せて酒を口に運ぶ。
思い切って盃を一口で空にしてみせると、周りの天狗達からは、おおという歓声と拍手が巻き起こった。
「おいしい…… お酒ってこんなにおいしかったんだ」
先程まで怖気づいていたのが嘘のように、椛は初めて感じる酒の味や、喉を焼くアルコールの感覚に大層感動した。
周りの天狗達はそれを見て椛の昇格を改めて実感し、自分の事のように喜んだ。
一連の光景を見ていた大天狗は満足気に頷き、既に三杯目となる盃を空にした。
しばらくすると、椛の周りにいた天狗達の何人かは料理の用意された各々の席へと散り、残った数人は自分の食膳を移動させて椛の元に留まった。
あちらこちらで酒盛りが始まり、あれよあれよと酒瓶を空にしていく。酒と料理と共に、楽しい時間はあっという間に経過した。
「もぅ、飲めなぃ……」
「え、もう? みんなでまだ一升瓶三本しか飲んでないよ?」
「殆どは椛が一人で飲んだんだろぉ」
「椛がこんなに酒豪だったなんてぇ……」
周りの天狗が顔を赤くして、廻らない口で限界を訴える中、誰よりも多く酒を飲んだ椛は、顔色一つ変えずに余裕綽々な様子だった。
「これはぁ、もしかしたら大天狗様と対等に飲み合える、千年に一度の逸材かもしれないねぇ」
「あっ、私そういえば大天狗様にお酌しに行ってない! ちょっと行ってくる」
椛が慌てて周りに言って一升瓶を手に立ち上がろうとした、その時だった。
「やあやあ、随分といい気が萃まっていると思って来てみれば」
その声が聞こえた瞬間、騒がしく聞こえていた天狗達の声は一瞬にして消えた。椛を含め、全員が体を強張らせて、動かなくなった。
「萃香殿……」
声を絞り出す様に名前を呼んだ大天狗の目には、固まる白狼天狗達の向こう側に佇む、鬼の伊吹萃香の姿が写っていた。
天狗は元より、妖怪の山に住む全ての者にとって、鬼というのは絶対的な権力を持つ恐るべき存在であり、その中でも目の前にいる萃香は山の四天王の一人ともされる強大な力の持ち主だった。
萃香は大天狗の顔を見据えながら、真っ直ぐその歩みを進める。白狼天狗達はすぐさま道を空け、隅に寄り集まって怯えながらそれを見送った。
「こんなに楽しそうな宴会に私を誘わずのけ者にするだなんて、いい度胸してるじゃないか、え? 大将」
「そ、その様なつもりは。ただ、この会は白狼天狗共の昇進をささやかに祝ぐだけの大変粗末な物ゆえ、お誘いするのは逆に失礼に当たるやもと」
「ほお、祝いの席かい。だったらこの萃香様がそいつらを直々に祝ってやろうじゃないか。そうすれば粗末と言い捨てるこの席にも箔がつくってもんだ」
「お気持ちは大変有り難いが、それは……」
「で、どいつだい? 奇遇にも私の篤志を頂戴できる、ラッキーな輩は」
その問いに、大天狗は答える事を躊躇った。大天狗から見れば白狼天狗というのはちっぽけで取るに足らない存在ではあったが、自分の大切な部下を易々と差し出すような真似は、大天狗にはできなかった。
「私です!」
静まり返っていたその場に、一人の声が響く。萃香を始めその場にいた全員が驚き声のする部屋の中央の方を見やる。そこには尻尾を丸く縮込まらせながらも勇ましく立つ、椛の姿があった。
「なんだ、お前一人かい?」
「はい、この度伍長の拝命を致しました、犬走椛と申します」
「椛か、どこかで聞いたことのある名だね。どれどれ」
萃香は椛の元へじりじりと近づくと、その体をなめ回す様にじっくりと眺め始める。
椛は恐ろしさのあまり手や足が震えそうになるのを、必死に押さえ込んだ。
周りの天狗達は、固唾を呑んでそれを見守るしかなかった。
「ふーん、気に入った。柄の割りに中々度胸が有りそうだ。それに、臭うね。お前さんに萃まった酒気が、ここまでぷんぷん届いて来るよ。中々飲める口の様じゃないか」
そう言うと萃香はその場にドサリと座り込み、顎で自分のすぐ正面の床を指して、椛にそこへ座るよう促す。
椛は顔を強張らせたまま、素直にそれに従った。
「そんなに恐い顔をするんじゃないよ。なに、昇進の祝に一杯注いでやろうってだけじゃないか」
萃香は取り出したぐい呑を椛に乱暴に手渡すと、腰に提げていたひょうたんを差し出す。
それを見た天狗達はどよめいた。
萃香の持つそのひょうたんは伊吹瓢と呼ばれ、鬼が酔う程の強烈な酒が入っているという代物だった。鬼以外の人間や動物がその酒を飲めば、命に関わる。それが今、椛の持つぐい呑に注がれようとしているのだ。
「………… 有難く、頂戴致します」
椛に逃げる道は無かった。大天狗を始め、周りの天狗達にも助ける術は無かった。
無情にも酒は注がれ、辺には一瞬の時を待たずして鼻を突く尋常ではない酒の臭いが立ち込める。あまりの刺激に、皆激しく咳き込んだ。椛の顔は青ざめ、手は大きく震えていた。
「こぼすんじゃないよ?」
「……………………ッ!」
椛は意を決して、その酒を一気に口へ流し込む。
口に入れた瞬間、火に焼かれる様な激痛が襲い、身体が拒絶反応を起こして激しい吐き気を催す。飲み込む前からアルコールが体を巡り始め、意識が遠退き、体の軸がブレた。
それでも椛は、その酒を飲み込んだ。ひゅーひゅーと音がする荒い呼吸をしながら萃香に頭を下げて、そのまま突っ伏した状態で動かなくなった。
「おお、普通なら口に入れた瞬間卒倒するものなんだがね、やはり中々飲めるじゃないか」
萃香はそう言うと満足気な顔をしながら立ち上がり、椛に背を向けて大天狗の方へと歩き始める。
萃香が離れるや否や、天狗達は椛の元へと駆け寄った。
「気をつけるんだよ? しばらくは火気から遠ざけてないと吐息に引火するからね」
冗談とも付かない冗談を言って、萃香は歯を食いしばりうつむく大天狗の横に座り、椛を介包する天狗達の様子を眺めた。
「椛さん! しっかり、椛さん!」
天狗達に混じり駆け寄った文の声かけに、仰向けに寝かされた椛は目を開けないまま弱々しくうめくばかりだった。
動揺しながらも天狗達はそれぞれ声をかけ続け、濡れた布で火照った顔を拭いてやるなど介抱を続ける。
「中々仲間思いな連中じゃないか、なあ大将」
返事をしない大天狗の様子など気にも留めず、萃香はひょうたんの酒をぐいっと煽り、げらげらと笑った。
「囲いがあるとはいえ、屋外では体に障ります。とりあえず屋内へ運びましょう」
文の提案に皆頷き、椛の肩や腰に手を回そうとする。しかしその時、椛は突然目を開け、先程までぐったりとしていたのが嘘のように、自力でむくりと立ち上がった。
立ち上がりはしたが、体は右へ左へと不規則に揺れ、言葉は発さず、目は据わっていた。
天狗達はどうして良いか判らず、しばらく動けなかった。
「椛…… 大丈夫?」
ようやく一人の天狗が心配そうに話しかけ、体を支えてやろうと近づいた。
「私に触るな!」
突然椛が怒鳴り、平手が飛んだ。殴られた天狗は吹き飛ばされ、何人かを巻き添えにして地面に崩れ落ちる。
「椛!?」
「私が周りよりちょっと小さいからって馬鹿にしやがって! 覚悟しろ!」
椛は近くにいた天狗たちを手当たり次第に襲い始め、拳を受けた者は皆一撃で卒倒した。
「萃香殿…… これは」
「あー、何ていうかなあ、副作用ってやつ? この酒は私ら鬼の力の源にもなってる酒だからね。鬼以外のもんが飲むと一時的にあんな風に凶暴になっちまうのさ。もっとも、あの子を突き動かしてるのは酒の力よりも、日頃の鬱憤の方が強そうだけどね」
大天狗は椛を止める気力さえも失って、両手で頭を抱えた。
「これは! 楽しみにしてたプリンを勝手に食べられた時の恨みぃぃぃ!」
「身体測定の時、去年より身長が縮んでた時の絶望ぅぅぅ!」
「にとりちゃん! 大好きだぁぁぁ!」
椛が叫ぶ度、天狗たちが倒れていった。
「椛! もうやめて!」
「おらぁぁぁ! 任務に支障出るほどのデカ乳揺らして抵抗すんな! 羨ましいんだよこらぁ!」
「ごめん! もう揺らさないから! あと椛がちっこいからって、影でみんなでチワワとかあだな付けてたのも謝るから!」
「……何それ。私知らない」
「へ?」
「ちくしょーめぇ!」
最後の天狗が、地面に伏した。
「椛さん!」
声がしたと同時に、椛の顔面を水が襲った。顔を両手で覆い動きを止めた椛の傍に、水の滴る空の桶を手にした文の姿があった。
「これは……」
覆っていた手から顔を覗かせた椛の目には、困惑の色が伺えた。
あたり一面には、折り重なってうなり声を上げる、仲間達の姿があった。
「酷い…… 誰がこんな事を」
「何んだい何んだい、もう終わりかい? 張り合いの無い奴らばっかりだね」
正気を取り戻しかけていた椛の視界に、下品に笑う萃香の姿が写る。拳が振るえ、目が再び据わり始める。
「まずい、椛さん!」
「お前の仕業かぁ!」
文の制止は寸での所で間に合わず、椛は足元に転がっていた一升瓶を片手に萃香の元へあっという間に詰め寄り、一升瓶をそのまま振りかざした。一升瓶は萃香の頭を的確に捕らえ、瓶の割れる音と共に萃香の体が後ろへと倒れる。椛はそのまま萃香に馬乗りになり、拳を打ちつけ続ける。あまりの勢いと迫力に圧倒されながら、この後の事が頭を過ぎった大天狗と文は口をあんぐりとあけたまま、わなわなと手を無意味に動かす事しかできなかった。
「なんだ、やっぱり弱っちいね」
萃香の手がすっと伸び、椛の額の前で止まる。
「!?」
「でこぴん」
轟音が鳴り響き、椛の体は重力を忘れたかのように高く宙を舞う。そして、思い出したかのように再び重力に従って、地面に体を叩き付けた。
「やれやれ、ちょっとはできる奴かと思って試しにされるがままにしてみたはいいが、所詮白狼天狗は白狼天狗だね」
萃香はまるで蚊にちょっと刺された程度の事の様に涼しい顔をして、身なりを整えた。そしてその後、未だ手をわなつかせている大天狗と文の二人をじろりと睨んだ。
「あやややややや! も、申し訳ございませんでした!」
「部下の無礼、どうかお許しを」
潔く土下座をする二人を尻目に、萃香は大きなため息をつきながら、再びひょうたんの酒を煽ってみせる。
「まあ面をあげなって。折角の酒の席だ、過ぎた事をとやかく言うつもりは無いよ」
そう言われ、二人はおずおずと顔を上げ、萃香の表情を伺う。
「だがね大将、過ぎた事は言わないが、あの椛とやらの今後の処遇には一こと言わせてもらうよ」
「…… もちろん承知の上。今すぐにでも処分を」
「いや、そうでなくて」
「…………?」
翌朝――
巣に帰っていた太陽が再び顔を出し、眠っていた鳥達が朝もやのまだ消えきらない空に飛び立ち始めたその頃。
妖怪の山の、木がまばらにしか生えていない開けた平地に、大勢の白狼天狗の姿が見て取れた。
その天狗達は複数に渡る列を成し、ござの上に座っていた。そのうちの一人が列から抜け、列の前まで進むと、天狗達全員と向き合う様に体の向きを変えた。
「この度、ぅ、山の四天王である伊吹萃香様直々の命により、伍長を改めまして、しょ、ぅ、少佐の拝命を致しました、犬走、椛でぅ。
…… この様な大役を仰せつかり、責任の、重大さに――」
今にも嘔吐しそうな青い顔をして宣言をする椛を、青いあざだらけの天狗たちが静かに見守った。
宣言が終わると、天狗たちからは盛大な拍手が送られた。皆懸命に手を叩き、その中に様々な思いのこもったため息を隠していた。
式が終わると、昇格を祝う祝賀会が予定されていて、天狗達はその場で待機した。
傍らにある高い木の上で、一人の鬼がほくそ笑んでいた。
椛ちゃんの今後の苦労が忍ばれますね。
椛はあれでしたが射命丸は可愛かったです。
いやぁ~面白かった。書き手が違うとお話もここまで変わるんですね。
初めてお酒をのんだ椛は、初めて読みました。
椛はこのままどんどん昇格していくのかな。
椛、文と結婚しろ。
椛ちゃんがこの先生きのこるには……。
後半の叫びがただ、にとりへの告白になってて笑いました笑
あと緊張しながら宣言をする椛が大変可愛かったです!
がんばれ