「――ねぇ」
誰かが私を呼んでいる。
「ねえってば――」
誰なの。私を呼ぶのは。
「ねえ、起きて――」
誰が私を起こそうとしているの。
「蓮子ってば!」
「――ぁ、いて」
頭部に軽い衝撃が響き、思わず声を上げる。目を開けて、折りたたみテーブルの向こうに視線を送ると頬を膨らませたメリーがいた。見慣れた、狭苦しいワンルーム。どうやら私はさっきまで寝ていたみたいね。
「もう、蓮子ってば声をかけても全然起きないんだから……。貴女が倶楽部の打ち合わせしようって言って、わたしを蓮子の部屋に呼びだしたのでしょ?」
「ごめんごめん。家だとつい眠くなっちゃって。それで……どこまで話したっけ?」
「連休を使って東京の結界のほつれを調査しに行くって言いだしのは貴女でしょ!」
メリーは私が貸したブランケットを鳥の翼のようにバサバサと羽ばたかせて言った。
「ごめんね、メリー。ちゃんと思い出したよ」
「ほんとに?」
メリーはブランケットを頭から被り、顔をテーブルに乗せて怪訝そうな瞳で見つめて来た。
「私が交通手段や散策時間を決めて、メリーが宿泊場所の手配をするって所まで話したのは覚えているわよ?」
「……そこまでは覚えていたのね」
「ごめんねって……今度、ケーキおごるからそれで許して?」
私の言葉にメリーはまあいいけれど、と言ってテーブルから顔を上げ、頭に被っていたブランケットをどけて傍らに置いた。
少しご機嫌斜めのようだけれど、機嫌を直してくれたみたいで良かった。
「ねえ、メリー。東京で行きたい場所ってある? 折角だし、観光もしない?」
「いいわね。賛成よ。そうね……原宿あたりに行ってみたいかしら。あと、渋谷の交差点と、秋葉原と……」
「うんうん……」
「当時日本一の電波塔があった浅草にも行ってみたいわね」
私はメリーが希望する場所を倶楽部の活動ノートに書きだしていった。三日あれば、結界の調査と東京観光はこなせるかな。
東京は地元だからメリーのことをちゃんと案内したいよね。原宿と言えば、旧木下通りは欠かせないでしょ。渋谷なら109の跡地に連れて行きたいし。秋葉原は電気街、創作の聖地として有名だし。浅草に行くなら雷門よね。
「ふふっ――」
「……? どうしたのメリー?」
「なんでもないわ」
メリーはそう言って、再びくすくすと笑いだした。メリーも東京に行くのが楽しみなのかな。
メリーとの話し合いも進み、東京での予定が大分決まった。ノートを確認すると、結界の調査より観光目的が多くなっていた。これでは倶楽部の活動というより、メリーとの旅行になってしまう。でも、それでも良い気がして、わたしはノートを閉じた。
「……はあ。なんだか眠くなってきたわ……」
「貴女さっきも寝ていたのに、またなの?」
欠伸をし、眠気を訴える私を見て、メリーは呆れた。
仕方ないじゃない。メリーと一緒に居ると安心して心が休まるのだから。
「……はぁあ。もうダメ、限界だわ。私ちょっと寝るね」
「えぇえぇ……。確かに倶楽部の予定は決まったけど……寝ちゃうの?」
テーブルの対面、呆れているメリーの元に移動し、擦り寄った。
「じゃあ、メリーも一緒に寝ようよ。ほら、そこにあるブランケット貸して」
「わたしは眠くないのだけど……はい」
メリーはそう言って、私にブランケットを渡す。手渡されたブランケットを広げ、私とメリーの二人の肩にかかるように羽織ると、私はテーブルに突っ伏して言った。
「ほらほら、メリーも。おやすみー」
「もう。寝るならベッドで寝ればいいのに……おやすみなさい」
メリーに頭を撫でられて、私は眠気に身を委ねた。メリーが近くに居るから、安心して寝られる。どこでも。いつまでも。ずっと一緒に。
誰かが私を呼んでいる。
「ねえってば――」
誰なの。私を呼ぶのは。
「ねえ、起きて――」
誰が私を起こそうとしているの。
「蓮子ってば!」
「――ぁ、いて」
頭部に軽い衝撃が響き、思わず声を上げる。目を開けて、折りたたみテーブルの向こうに視線を送ると頬を膨らませたメリーがいた。見慣れた、狭苦しいワンルーム。どうやら私はさっきまで寝ていたみたいね。
「もう、蓮子ってば声をかけても全然起きないんだから……。貴女が倶楽部の打ち合わせしようって言って、わたしを蓮子の部屋に呼びだしたのでしょ?」
「ごめんごめん。家だとつい眠くなっちゃって。それで……どこまで話したっけ?」
「連休を使って東京の結界のほつれを調査しに行くって言いだしのは貴女でしょ!」
メリーは私が貸したブランケットを鳥の翼のようにバサバサと羽ばたかせて言った。
「ごめんね、メリー。ちゃんと思い出したよ」
「ほんとに?」
メリーはブランケットを頭から被り、顔をテーブルに乗せて怪訝そうな瞳で見つめて来た。
「私が交通手段や散策時間を決めて、メリーが宿泊場所の手配をするって所まで話したのは覚えているわよ?」
「……そこまでは覚えていたのね」
「ごめんねって……今度、ケーキおごるからそれで許して?」
私の言葉にメリーはまあいいけれど、と言ってテーブルから顔を上げ、頭に被っていたブランケットをどけて傍らに置いた。
少しご機嫌斜めのようだけれど、機嫌を直してくれたみたいで良かった。
「ねえ、メリー。東京で行きたい場所ってある? 折角だし、観光もしない?」
「いいわね。賛成よ。そうね……原宿あたりに行ってみたいかしら。あと、渋谷の交差点と、秋葉原と……」
「うんうん……」
「当時日本一の電波塔があった浅草にも行ってみたいわね」
私はメリーが希望する場所を倶楽部の活動ノートに書きだしていった。三日あれば、結界の調査と東京観光はこなせるかな。
東京は地元だからメリーのことをちゃんと案内したいよね。原宿と言えば、旧木下通りは欠かせないでしょ。渋谷なら109の跡地に連れて行きたいし。秋葉原は電気街、創作の聖地として有名だし。浅草に行くなら雷門よね。
「ふふっ――」
「……? どうしたのメリー?」
「なんでもないわ」
メリーはそう言って、再びくすくすと笑いだした。メリーも東京に行くのが楽しみなのかな。
メリーとの話し合いも進み、東京での予定が大分決まった。ノートを確認すると、結界の調査より観光目的が多くなっていた。これでは倶楽部の活動というより、メリーとの旅行になってしまう。でも、それでも良い気がして、わたしはノートを閉じた。
「……はあ。なんだか眠くなってきたわ……」
「貴女さっきも寝ていたのに、またなの?」
欠伸をし、眠気を訴える私を見て、メリーは呆れた。
仕方ないじゃない。メリーと一緒に居ると安心して心が休まるのだから。
「……はぁあ。もうダメ、限界だわ。私ちょっと寝るね」
「えぇえぇ……。確かに倶楽部の予定は決まったけど……寝ちゃうの?」
テーブルの対面、呆れているメリーの元に移動し、擦り寄った。
「じゃあ、メリーも一緒に寝ようよ。ほら、そこにあるブランケット貸して」
「わたしは眠くないのだけど……はい」
メリーはそう言って、私にブランケットを渡す。手渡されたブランケットを広げ、私とメリーの二人の肩にかかるように羽織ると、私はテーブルに突っ伏して言った。
「ほらほら、メリーも。おやすみー」
「もう。寝るならベッドで寝ればいいのに……おやすみなさい」
メリーに頭を撫でられて、私は眠気に身を委ねた。メリーが近くに居るから、安心して寝られる。どこでも。いつまでも。ずっと一緒に。
二人が幸せならそれでいいっちゃいいんですけどね。