Coolier - 新生・東方創想話

えんそくの味 第3話-あっちがこっちでむこうがそっち-

2017/09/20 07:10:28
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 日の光がわずかに届く程度の鬱蒼とした山の木々と高く伸びた雑草の間。
 その鬱蒼とした緑を裁断するかのように伸びた細い線。
 その線は坂を登ったり下ったり、木や岩を交わし右へ行ったり左へ行ったりと忙しなく蛇行している。
 それは、そこに住む動物達が本能と経験によって導き出した、その場所を通過するのに最も適した導線。
 その導線を幾度となく動物達が行き交い、その地を踏み固めていく事によってできた細い山道を人間は獣道という。

「くそー なかなか追いつかないな」

 博麗神社に続く獣道を先に走りだしたチルノとそれに引っ張られていった大妖精、その2人を追っていったルーミア。そしてまたそれを追う形でリグルも同じ道を走っていた。

「おかしいな、ルーミアってこんなに足速かったっけ」

 4人の中でも一際男勝りなリグルは脚力にも自信があった。
 実際、4人で競争しても勝つのは大体リグルだったし、ルーミアは大妖精とビリを争っていたぐらいなので3人とも追いつけない相手ではなかった。
 もしかするとすぐ前を走っているのかもしれないが、道の周りは高く生えた雑草によって視界が遮られ、また道も忙しなく大きくうねっていたため、せいぜい道の先数メートルまでしか見渡す事が出来ないでいた。

 どれほど経ったか、随分な距離を走り流石のリグルも息が上がって苦しくなってきたその時。
 突然今までより周りの雑草の高さが比較的低くなって、少し見通しのよくなっている道が現れた。
 すると今まで見えなかったルーミアの姿を雑草越しに少し遠くに見つけることができた。
 ルーミアもすっかりばてた様子で、ペースもかなり落ちているようだった。
 しかし、この開けた道はそう長く続いておらず、ルーミアのいるあたりのすぐ先はまた見通しの悪い高い雑草に囲まれた道が続いているようだった。

「おーい! ルーミアー!」

 また見失う前に合流しようと、リグルは少し慌てて大きな声で叫ぶと、ルーミアは幸いにもそれに気づいた。
 リグルに気付いたルーミアは、ふらふらと走りながら上半身だけこちらに向け、息を切らして苦しそうにしながらも笑顔で大きく手を振ってきた。

「待ってくれよー! っていうか、前向かないとあぶ――」

 リグルが言い終わる前にルーミアは何かに足をつまづいたのか、その場で盛大にずっこけた。
 まるでお芝居の台本に『ここでこける』と書いていたかのように完璧なタイミング、完璧なフォームで。

「あー…… 言わんこっちゃ無い」

 そう言いながらリグルは更に走り、そしてようやくルーミアの場所にたどり着いた。
 ルーミアはといえば、こけてひざをすりむいたらしく、今にも泣きだしそうな顔で座り込んでぐずっていた。

「うぁー いたいのだぁ」
「はぁ はぁ やっと追いついた…… ルーミア、お前急ぎすぎだって」
「だって…… だってだって――ッ まけたぐながっだのだぁぁぁ!」

 息を切らしながらリグルが言うと、ルーミアはそのままついに、うわーんと声をあげて泣き出してしまった。
 やれやれ、とリグルが手を差し伸べると、ルーミアは泣きじゃくりながらそれにつかまり、頼りなくゆっくり立ち上がった。
 その後もしばらく大粒の涙を流しながら泣き続けたルーミアだったが、まだチルノとの勝負はあきらめていないようで、泣きじゃくりながらも、体の向きをまた進行方向に向け、ゆっくりと前へ歩きだした。
 リグルもルーミアの動きに気づき、その後に続いた。
 そのまままた背の高い雑草に囲まれた道に入ってしばらくすると、ルーミアは突然立ち止まり、泣くのもピタリとやめて、そのままじっと前を向いたまま微動だにしなくなってしまった。

「ん? どうかした?」
「まえ、なにかがくるおとがするのだ」

 そう言われてリグルも耳をすませると、確かに前から何かが近づいてくる音が聞こえた。
 その音はどんどんと近づいてきて、やがてそれが人の足音だとわかった。
 大勢ではない、だが1人でもない、2人か3人か。
 その音は確実に2人の方に向かって近づいてきていた。
 博麗神社が近いとはいえ、こんな山奥の獣道に来る者はそう居ない。
 ましてや日ももう落ち始めようかというこんな時間に。
 そう考えると、もう目の前まで近づいてきた足音が2人にはひどく不気味に聞こえた。
 2人は警戒して息を殺しながら神経を尖らせ、足音の主が今から姿を現すであろう目の前の曲がり角をじっと見つめた。
 すると――
「んぁ? リグル? ルーミア?」
「え? どうして?」

 2人の見つめる曲がり角から姿を見せた足音の主。
 それはずっと先に行ったはずのチルノと大妖精の足音だったのだ。

「なんだー チルノとだいようせいだったのかー」
「ふー、脅かすなよ」

 足音の正体がチルノと大妖精のものだと分かり、リグルとルーミアは肩の力を抜いて安堵した。
 そしてリグルは冷静になるとすぐに、ふと気になることが思い浮かんだ。

「あれ、でもどうしてこっちに戻ってきたんだ?」
「もどってないよ、じんじゃはこっちだもん!」
「え、リグルとルーミアちゃんがいつの間にか私達を追い越して待っててくれたんじゃないの?」
「それはないのだ、わたしたちはだれもおいこしてないのだ」
「え?」

 そう、リグルとルーミアが走ってきた道は分かれ道の無い一本道だった。
 恐らくチルノと大妖精が通った道も同じだろう。
 それにもし別の道があって、リグル達がいつの間にかそこを通ってチルノ達を追い越していたとしても、 進行方向が同じなら両者が出会い頭に向かい合って会う事は絶対にありえない。

「これは、なんだかマズいかもね……」
「だいちゃん、なにくったの?」
「わたし、おなかはへってるけどまずいものならいらないのだ」
「あたいもおなかへった!」
「おまえらうっさい」

 リグルは呆れたようにつっこんだあと、ぶんぶんと頭を振って冷静さを取り戻し、今までの状況を頭の中で整理し始めた。
 しかし、いくら考えても、自分達の置かれている状況と、これからどうすればいいのか、といった答えはなかなか導き出せなかった。
 すると、横で同じように頭を悩ませていた大妖精が何かを思いついたように言った。

「ねぇ、この場所に何か目印しとかない?」
「ん? 目印?」
「うん、もしかしたらどっちかの道がぐるっと回って戻る道に繋がってるんだと思う。だとしたらまたこの場所に出ると思うから、そしたらそこから逆の道を行けば、少なくとも元の入り口までは迷わず戻れると思うんだけど」
「そっか! 流石大妖精、頭いいな」
「えへへー」
「あ! あたいもおなじかんがえだった!」
「ホントかー?」
「うん! このきにめじるし!」

 そう言ってチルノが指差したのは、リグル達の進行方向から見て道の左側にあった木だった。
 次にチルノは近くにあった小石を拾い上げ、先ほどの木にガリガリと何かを書き始めた。

「ほら めじるし!」
「さ……る……の……?」
「ちがう、『ちるの』ってかいたの! あたい!」
「いや、『さるの』だろ」
「『さるの』……だね」
「さるなのかー」
「ちがう! いじめか!」

 そんなやりとりをしつつも、一先ず目印はこれで完成した。
 その後は目印からどちらへ向かうかなのだが、またも大妖精の提案で、
 リグルたちが向かっていた方向へ向かう事になった。
 この先がUターンする形で元の道に戻るようになっているのなら、先に進んでいたチルノ達がリグル達の正面から現れた事も説明がつく。
 それを目印で再度確かめる意味も込めてそう決めたのだった。

「よーし! それじゃあもっかいれっつごー!」
「ちょっと待った」

 またも走り出しそうになったチルノの肩をリグルがぐっとつかみ、待ったをかけた。

「私達は一応道に迷ってるんだからさ、走らずに周りをよく見て、見落としてた道とかが無いか注意して進まないとだめだろ?」
「わたしももうはしるのはいやなのだー」
「そうだね、チルノちゃん、ゆっくり行こう?」
「うーん、だいちゃんがそういうのなら、わかった!」

 そういって4人は改めて足並みをそろえて、リグル達から見て進行方向、チルノ達から見て元来た方向へと歩き出した。

 歩き出してしばらく4人は各々に左右を見渡し、見落とした道等が無いか注意しながらゆっくりと道を進んだ。
 しかし相変わらず周りの雑草は高く生い茂り、道も忙しく蛇行し、いくら目を凝らしてもやはり道の先数メートルほどしか見渡すことができず、分かれ道らしい場所も見当たらなかった。

 そうやって歩きはじめて、10分ほどたっただろうか。
 4人の目の前に、突然今までより周りの雑草の高さが比較的低くなって少し見通しのいい道が現れた。

「あれ? ここって……」
「見覚えある?」
「うん、ここでルーミアを見つけて、声をかけたらその先で転んじゃってさ、そうこうしてたら大妖精達が――」
「あ! めじるしなのだ」
「きれいなじだ われながらさいきょー」
「お前ら、ホントのん気だよな」

 大妖精が予想していたように、やはり4人は元の位置まで戻ってきてしまったのだった。
 冗談なのか本気なのか、のん気に目印に喜ぶ2人と、それにつっこみつつ、やっぱりか と軽くため息をつくリグル、その3人には特に危機感のある雰囲気はまったく無かった。
 いざとなれば、大妖精が言ったように目印からリグル達が来た逆の方へ向かえば獣道の入り口までは戻れる。
 そう考えていたからだ。
 しかし大妖精だけは違った。
 大妖精は1人真剣な顔をして、他の3人には目もくれず、じっとチルノの書いた目印を見つめていた。

「やっぱりおかしい……」
「ん? 目印のことか?」
「ううん、目印は変わり無いんだけど、さっき私たち、今向いてる方へこの目印の先に進んだでしょ?」
「あぁ、うん 私達が進んでた方、大妖精達が戻ってきた方にな」
「じゃあやっぱり変だよ。この先がUターンしてるならさっきと同じように、私達は私とチルノちゃんが歩いてきた方から目印にたどり着くはずなのに、目印からリグル達が向かってた方へ向かって、またリグル達が来た方向から目印にたどり着いちゃった」
「……あ」
「引き返してきたというより……」
「ループしてる……?」

 この時初めて2人は事の重大さに気付いた。
 周りを確認しながら歩いたが、他の道などには誰も気付かなかった。
 という事は先ほどチルノ達が歩いた道をそのまま歩いたはずなのだが、どういうわけか先ほどと違う現象が起きてしまったのだ。
 これが意味するのは、ただ道が実質行き止まりだったというだけの単純な話しではなく、もっと複雑で厄介な事が起きているという事だった。
 それに気付いた2人は、一気に不安と恐怖心に襲われ、顔はみるみるうちに青ざめてしまった。
 そんな2人の様子をチルノとルーミアも察したのか、不安そうな顔をして2人の顔を見ていた。

「……どうなってるのか分からないけど、今度は目印から逆に進んでみよう」

 リグルの提案に4人は黙って うん、とうなずき、重い足取りで歩き始めた。
 もう4人は博麗神社に向かう事よりも、まずこの獣道から脱出することを優先していた。
 そのまま進んで、獣道の入り口か森の出口にたどりつければどんなによかっただろうか。
 しかし、4人がたどり着いたのは入り口でも出口でもなく、やはり目印のあるあの木の前だった。

「な、何で……」
「しかも、またループしてる……?」
「なんでなのだー」
「もー、わけわかんない」

 目の前の目印に絶望感を覚える4人だったが、それに打ちひしがれている時間は無かった。
 木々の間から僅かに差し込む光はすでに橙色に色を変え始め、光が射す方向もかなり下がっていた。
 こうなるともう1時間もしないうちに日が沈んでしまうだろう。
 それに焦った4人はその後も休まず歩き続けた。
 目印から右へ、左へ、何度も、何度も。
 しかし、焦る4人をあざ笑うかのように、目印はその度に姿を表し、
 4人を絶望の淵へと立たせるのだった――。

 
 
 
 
 
 
 
 公式設定で、博麗神社へ歩いて行くには見通しの悪く危険な獣道を通らなければならない。となっているのですが、あまりメジャーではありませんよね。

恥を忍んで投稿してきました処女作シリーズ、次回で完結です。
自他共に認める、読みにくく幼稚な作品ではありますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
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コメント



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2.70仲村アペンド削除
この雰囲気からこの展開はなかなか予想外でした。
3.90南条削除
良かったです
こんな展開になるとは思ってなかったのでかなり面白かったです