「…いつ来ても、この居心地は良いわね」
「そーでしょ?」
所は博麗神社近くの森。
魔法の森と比べるといささか明るいこの森の中に、闇の大きな球体が1つ。
「全く、なんで『吸血鬼は日光に弱い』なんて話が人間の中で広まってしまったのかしらね。お陰で本当の吸血鬼まで日光に弱くなっちゃったじゃないの」
「でも日傘差して外を歩いてるよね」
「まあ気分の問題よ。『日光に当たっていない』という気分にさえなっていれば案外大丈夫なものよ」
「そーなのかー」
「でも、『日光に当たるかもしれない』という懸念がある以上、完全な対策とはいえない。その点、ここは安心ね」
「…吸血鬼ってめんどくさいんだね」
闇の中で聞こえる声は2つ。
吸血鬼の館の主、レミリア・スカーレット。闇を操る野良妖怪、ルーミア。
「しかし、アンタのような能力をもった妖怪がいるなんて知らなかったわ」
「あなたほど有名な妖怪も珍しいけど、わたしほど知られてない妖怪も珍しいかもね。いつも闇に紛れてるから」
「いや、あの姿は目立っていたわよ」
レミリアが初めてルーミアと出会ったのは博麗神社からの帰り。
たまたま気分で森の中をうろついて帰ろうと思ったら、闇の球体が浮かんでいるのを見つけてしまったのだ。
白昼の森に浮かぶ真っ黒い球体、不審物以外の何物でもなかった。
「あまりに不審だったから弾幕をぶち込んじゃったけど、まさかその1発で気絶するなんて」
「いやーぁ、面目ない」
流石に慌てふためいたレミリアだったが、程なく眼を覚ましたので事なきを得た。
そしてルーミアの能力を知り、自身の弱点をものともしない空間として利用させてもらっている。
正直、この能力をレミリアはかなり気に入っている。
「…ねえ、ルーミア。あなた、紅魔館に来るつもりはない?」
「うーん、今のところ興味ないかな―。てかこの前来たときもそれ言ってたよね」
「うっ、覚えてたか」
「まったく、あなたはわたしをおバカさんとでも思ってるの?」
「正直ちょっと」
「…全く。わたしは気楽だから野良妖怪やってるんだよ。どこかの勢力についたら面倒じゃない」
「うーん、案外強情なのね」
「それにわたしを抱き込んでも何もメリットないよ? この状態だとこちらからも何も見えないからろくに移動もできないし」
「結構居心地いいのにねぇ」
割と本気で残念がるレミリア。ルーミアのことを気に入っているのは本気なのだ。
だが、本人にその気がないのに無理やり連れて行こうという気もない。
「遊びに来てくれるんだったらいつでも大歓迎だよ」
「そう、ならまた来るわ」
なんだかんだで結構長居をしている。そろそろ咲夜も心配している頃だ。
日傘を広げようとしたとき、ルーミアの声がかかる。
「その必要はないよ」
「え?」
ルーミアが闇を晴らす。思わず眼を手で覆うレミリアだったが、日の光が肉体に突き刺さることはなかった。
「…夜?」
「うん。もしかしてどれくらい時間が経ってるかわかってなかった?」
思ったより時間を忘れているようだった。いけない傾向だな、と思いながら立ち上がる。
「また遊びに来てねー」
「また来るわ、ごきげんよう」
正直、あの空間と比べると月の光がある今でさえ明るく感じるほどだ。
ルーミアに別れを告げたレミリアは紅魔館に向けて飛び立つのであった。
◆ ◆ ◆
「うっ…眩しい」
紅魔館の自室。眠りから醒めたレミリアは、自分でも意味がわからない感想を呟いた。
紅魔館は吸血鬼の館。その主の部屋にはもちろん日光が差し込まないような構造になっている。
「咲夜のやつ、部屋のランプでも変えたのかしら」
今まで自室でここまで眩しさを感じたことはない。違和感を感じながら、レミリアは咲夜を呼びつけた。
「お嬢様のお部屋のランプですか? 変えていませんよ」
3秒で部屋に駆けつけた咲夜の返答は、レミリアの想定とは反するものであった。
「本当に? こんなに眩しいのに」
「ええ。私にはいつもと変わらないように思いますわ」
咲夜は人間だ。人間というのは弱い存在だが、一方その感性には確かなものがある。人間どもの信じる"幻想"によって成り立つ妖怪ではなく、人間は確かな「存在」を持つだけに信頼をおける部分も数多い。
恐らくは自身を構成する幻想が「変えられてしまった」のだろう。ここまで急に変わるということはそうないことだが。
「咲夜、この部屋のランプを少し暗いものに変えてくれるかしら?」
「承りましたわ、お嬢様」
起床早々光を浴びて疲れた。
ルーミアのところに行って癒してもらうことにする。
日傘を差して紅魔館を飛び立ったレミリア。
日傘の外に見える景色は、やはりいつもより眩しく感じた。
◆ ◆ ◆
「…うーん」
「お、起きたかー」
ルーミアの膝の上で目を覚ました。
「んー…よく眠れたわ。ありがとうね、ルーミア」
「お安い御用だよ」
ルーミアのところに現れたレミリアは、しばし雑談を交わした後眠気に襲われ、そのまま眠り込んでしまっていた。
あの明るいランプの元では、自室といえどイマイチ熟睡できていなかったのかもしれない。
「今、外はどんな感じ?」
「とっくに夜だね。そろそろ帰らなくて平気?」
もうそんな時間か。かなり長い時間眠りこけていたようだった。
「そうね、そろそろお暇させて頂くわ」
「また遊びに来てね―。待ってるから」
レミリアはルーミアの闇の外に飛び出る。
眩しいまでの月の光が周囲を照らしていた。
「…月ってこんなに明るかったかしら。今夜は満月でもないのに」
◆ ◆ ◆
「ぐあっ」
眩しい、眩しい、眩しい!
「咲夜! 咲夜、すぐに来なさいっ!」
「どうしましたか、お嬢様!」
一瞬でレミリアのもとにメイド長が現れる。
「どうしたか、じゃないわよ! あれほどランプを暗いものに変えておいてと言ったでしょう!」
「え…?」
完璧な仕事ぶりに定評がある咲夜がこんなミスをするなんて珍しい。
だが、今のレミリアにはそのミスが我慢ならなかった。
「すぐ出かけるわ! アンタは反省してなさい!」
「は、はあ…」
そそくさと日傘を差して紅魔館から飛び出してしまうレミリア。
取り残された咲夜は、レミリアの居室を見てただただ困惑するのだった。
咲夜の眼に映るその部屋は、確かに昨日の朝のものより暗くなっていた。
日傘を差しているとは思えないほどに光が突き刺さる。
その光から与えられる痛みに半狂乱になりながら、レミリアはルーミアのもとに疾走していた。
眼にその闇が映った時、レミリアはたまらず叫んでいた。
「ルーミア!!」
「――!?」
超高速で闇に飛び込んできたレミリアに面食らうルーミア。
思わず抱きとめると、レミリアの眼には涙まで浮かんでいた。
「もう、どうしたの、レミリア」
「どうしたもこうしたも…世界が光に包まれているのよ」
「『気分の問題』って言ってたじゃない」
「そうよ、そのはずだったのよ。でも世界は眩しいの、光が痛いの…!」
泣きじゃくるレミリアをあやすように撫でるルーミア。
しばらく泣き続けたレミリアは、そのままルーミアの胸の中で眠ってしまった。
◆ ◆ ◆
「もう、そろそろ帰らないとまずいんじゃない」
「いや」
「とっくに夜だよ」
「外は光に満ちているじゃない。星の光も、月の光も」
眼を覚ましたレミリアは光に怯えきっていた。
ルーミアの傍を離れようとせず、闇の球体から外に出ようともしない。
「そっかー…。じゃあさ、レミリア」
「なに、ルーミア」
「ここに居ていいよ。あなたはわたしのお友達だから」
「うん…そうするわ」
「ここに居て…光なんて忘れて…
ずっと、ずっとわたしのそばで暮らそう?」
「そーでしょ?」
所は博麗神社近くの森。
魔法の森と比べるといささか明るいこの森の中に、闇の大きな球体が1つ。
「全く、なんで『吸血鬼は日光に弱い』なんて話が人間の中で広まってしまったのかしらね。お陰で本当の吸血鬼まで日光に弱くなっちゃったじゃないの」
「でも日傘差して外を歩いてるよね」
「まあ気分の問題よ。『日光に当たっていない』という気分にさえなっていれば案外大丈夫なものよ」
「そーなのかー」
「でも、『日光に当たるかもしれない』という懸念がある以上、完全な対策とはいえない。その点、ここは安心ね」
「…吸血鬼ってめんどくさいんだね」
闇の中で聞こえる声は2つ。
吸血鬼の館の主、レミリア・スカーレット。闇を操る野良妖怪、ルーミア。
「しかし、アンタのような能力をもった妖怪がいるなんて知らなかったわ」
「あなたほど有名な妖怪も珍しいけど、わたしほど知られてない妖怪も珍しいかもね。いつも闇に紛れてるから」
「いや、あの姿は目立っていたわよ」
レミリアが初めてルーミアと出会ったのは博麗神社からの帰り。
たまたま気分で森の中をうろついて帰ろうと思ったら、闇の球体が浮かんでいるのを見つけてしまったのだ。
白昼の森に浮かぶ真っ黒い球体、不審物以外の何物でもなかった。
「あまりに不審だったから弾幕をぶち込んじゃったけど、まさかその1発で気絶するなんて」
「いやーぁ、面目ない」
流石に慌てふためいたレミリアだったが、程なく眼を覚ましたので事なきを得た。
そしてルーミアの能力を知り、自身の弱点をものともしない空間として利用させてもらっている。
正直、この能力をレミリアはかなり気に入っている。
「…ねえ、ルーミア。あなた、紅魔館に来るつもりはない?」
「うーん、今のところ興味ないかな―。てかこの前来たときもそれ言ってたよね」
「うっ、覚えてたか」
「まったく、あなたはわたしをおバカさんとでも思ってるの?」
「正直ちょっと」
「…全く。わたしは気楽だから野良妖怪やってるんだよ。どこかの勢力についたら面倒じゃない」
「うーん、案外強情なのね」
「それにわたしを抱き込んでも何もメリットないよ? この状態だとこちらからも何も見えないからろくに移動もできないし」
「結構居心地いいのにねぇ」
割と本気で残念がるレミリア。ルーミアのことを気に入っているのは本気なのだ。
だが、本人にその気がないのに無理やり連れて行こうという気もない。
「遊びに来てくれるんだったらいつでも大歓迎だよ」
「そう、ならまた来るわ」
なんだかんだで結構長居をしている。そろそろ咲夜も心配している頃だ。
日傘を広げようとしたとき、ルーミアの声がかかる。
「その必要はないよ」
「え?」
ルーミアが闇を晴らす。思わず眼を手で覆うレミリアだったが、日の光が肉体に突き刺さることはなかった。
「…夜?」
「うん。もしかしてどれくらい時間が経ってるかわかってなかった?」
思ったより時間を忘れているようだった。いけない傾向だな、と思いながら立ち上がる。
「また遊びに来てねー」
「また来るわ、ごきげんよう」
正直、あの空間と比べると月の光がある今でさえ明るく感じるほどだ。
ルーミアに別れを告げたレミリアは紅魔館に向けて飛び立つのであった。
◆ ◆ ◆
「うっ…眩しい」
紅魔館の自室。眠りから醒めたレミリアは、自分でも意味がわからない感想を呟いた。
紅魔館は吸血鬼の館。その主の部屋にはもちろん日光が差し込まないような構造になっている。
「咲夜のやつ、部屋のランプでも変えたのかしら」
今まで自室でここまで眩しさを感じたことはない。違和感を感じながら、レミリアは咲夜を呼びつけた。
「お嬢様のお部屋のランプですか? 変えていませんよ」
3秒で部屋に駆けつけた咲夜の返答は、レミリアの想定とは反するものであった。
「本当に? こんなに眩しいのに」
「ええ。私にはいつもと変わらないように思いますわ」
咲夜は人間だ。人間というのは弱い存在だが、一方その感性には確かなものがある。人間どもの信じる"幻想"によって成り立つ妖怪ではなく、人間は確かな「存在」を持つだけに信頼をおける部分も数多い。
恐らくは自身を構成する幻想が「変えられてしまった」のだろう。ここまで急に変わるということはそうないことだが。
「咲夜、この部屋のランプを少し暗いものに変えてくれるかしら?」
「承りましたわ、お嬢様」
起床早々光を浴びて疲れた。
ルーミアのところに行って癒してもらうことにする。
日傘を差して紅魔館を飛び立ったレミリア。
日傘の外に見える景色は、やはりいつもより眩しく感じた。
◆ ◆ ◆
「…うーん」
「お、起きたかー」
ルーミアの膝の上で目を覚ました。
「んー…よく眠れたわ。ありがとうね、ルーミア」
「お安い御用だよ」
ルーミアのところに現れたレミリアは、しばし雑談を交わした後眠気に襲われ、そのまま眠り込んでしまっていた。
あの明るいランプの元では、自室といえどイマイチ熟睡できていなかったのかもしれない。
「今、外はどんな感じ?」
「とっくに夜だね。そろそろ帰らなくて平気?」
もうそんな時間か。かなり長い時間眠りこけていたようだった。
「そうね、そろそろお暇させて頂くわ」
「また遊びに来てね―。待ってるから」
レミリアはルーミアの闇の外に飛び出る。
眩しいまでの月の光が周囲を照らしていた。
「…月ってこんなに明るかったかしら。今夜は満月でもないのに」
◆ ◆ ◆
「ぐあっ」
眩しい、眩しい、眩しい!
「咲夜! 咲夜、すぐに来なさいっ!」
「どうしましたか、お嬢様!」
一瞬でレミリアのもとにメイド長が現れる。
「どうしたか、じゃないわよ! あれほどランプを暗いものに変えておいてと言ったでしょう!」
「え…?」
完璧な仕事ぶりに定評がある咲夜がこんなミスをするなんて珍しい。
だが、今のレミリアにはそのミスが我慢ならなかった。
「すぐ出かけるわ! アンタは反省してなさい!」
「は、はあ…」
そそくさと日傘を差して紅魔館から飛び出してしまうレミリア。
取り残された咲夜は、レミリアの居室を見てただただ困惑するのだった。
咲夜の眼に映るその部屋は、確かに昨日の朝のものより暗くなっていた。
日傘を差しているとは思えないほどに光が突き刺さる。
その光から与えられる痛みに半狂乱になりながら、レミリアはルーミアのもとに疾走していた。
眼にその闇が映った時、レミリアはたまらず叫んでいた。
「ルーミア!!」
「――!?」
超高速で闇に飛び込んできたレミリアに面食らうルーミア。
思わず抱きとめると、レミリアの眼には涙まで浮かんでいた。
「もう、どうしたの、レミリア」
「どうしたもこうしたも…世界が光に包まれているのよ」
「『気分の問題』って言ってたじゃない」
「そうよ、そのはずだったのよ。でも世界は眩しいの、光が痛いの…!」
泣きじゃくるレミリアをあやすように撫でるルーミア。
しばらく泣き続けたレミリアは、そのままルーミアの胸の中で眠ってしまった。
◆ ◆ ◆
「もう、そろそろ帰らないとまずいんじゃない」
「いや」
「とっくに夜だよ」
「外は光に満ちているじゃない。星の光も、月の光も」
眼を覚ましたレミリアは光に怯えきっていた。
ルーミアの傍を離れようとせず、闇の球体から外に出ようともしない。
「そっかー…。じゃあさ、レミリア」
「なに、ルーミア」
「ここに居ていいよ。あなたはわたしのお友達だから」
「うん…そうするわ」
「ここに居て…光なんて忘れて…
ずっと、ずっとわたしのそばで暮らそう?」
闇に依存するレミリアから緊張感が伝わりました
ただもうちょっとじわじわ苦しんでいく過程が見たかったです
ルーミアの貴重な捕食小説