Coolier - 新生・東方創想話

春夢

2017/04/10 01:57:36
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 夢に……眠りに落ちるときって、どんな感じになるか覚えてる? うん、そうね、人によって違うかも。何も感じない人もいるでしょうね。私は敏感な方なのかしら、夢に入り込む瞬間の感じを起きてからも覚えているの。
 眠るときは私は、まず温かいお茶、それか紅茶を一杯飲むの。おなかがあったかくなったらベッドに入る。天井の方をまっすぐ向いて、肩までタオルをかけて、それで目をつぶったら横たわっている自分の身体を想像するの。ゆっくりとベッドに……うん、ベッドに沈んでいくところをね。手や足は動かさないようにしてる。タオルや服と擦れるとどうしてもそれを意識しちゃうから、なるべく考えないように、ただまっくらな視界だけがここにある、というように。はじめのうちは、産毛が肌を擽ったり、つい重ねてしまった脚が鈍く痛かったりするけれど、そういうのもじきに気にならなくなる。……いえ、きっと忘れてしまうのね。そうしたらあとは落ちていくだけ。身体を置き忘れて、心だけが深く、ふかーく、マットや床を通り抜けて沈んでいくの。人肌よりほんの少しだけ温かいお風呂で大の字になるような……実際にはそんなことしないけど、そんな心地よさに身を任せていると、ある瞬間にすべてが一変するの。ふっと、トンネルを抜けたとき、明るさが急に変化する感じに近いのかしら。私はいつの間にか広いところにぽつりと立ちすくんでいて、そこは、朝だったり昼だったり、朝と夜が混じっていたり……とにかく別の世界にいることに気づくの。私たちが"幻想郷"と呼んでいる、あの世界にね。
 でも、その日は違った。いつもみたいに眠りに落ちて、夢に入り込んだ私は、とくに周囲の感じが変わらないことに気づいた。なんていうか、空気が変わらなかったの。よどんでいた、というのかしら。私はそろそろと目を開いたわ。そこでようやく、私は自分自身の状態を客観的に捉え始めたの。
 私はかかしみたいに突っ立っていた。明るさに目が慣れると、そこが見慣れた風景だってことが分かってきた。見慣れたどころじゃないわね、そこは自分の部屋だったんだから。そこは自分の部屋で、ベッドでは、私が眠っていたわ。
 夢の中と現実とで、時間の流れが違っている節があることは、前に話したよね。カーテンの隙間から差し込む光は、今が明け方だってことを示してた。間抜けな顔で眠っている私の顔を見ていたらつっついて邪魔してやりたくなったけど、それはできなかった。触ろうとしても触れなかったのよね。カーテンとか、シーツとかも同様だった。
 突然大きな音がして、所在なく立ちすくんでいた私は飛び上がってしまった。それからすぐに、また緊張したわ。それは、私の携帯のアラームだったから。私はここにいるのに目の前にいる私が目を覚ましたらいったいどうなってしまうのか、そんなこと誰も知らないでしょう? 今ここにいる自分が消えて肉体に戻るのか、それとも、目が合って二人でパニックになるか。もしかしたら、私たちは対消滅する可能性だってある。結局、そのどれにもならなかった。むくりと起きた私はアラームを止めて部屋中を見渡すと、私がつっ立っている方をじっと見つめたから、きゅっと肝が冷えた。ベッドから這い出ると、こちらへまっすぐ向かってきたわ。でも、それはきっと私が窓のそばに立ってたからだったのね。私は私のそばを素通りしてカーテンを開け放った。外は春らしい風景が広がっていて、どこからか運ばれてきた桜の花びらが一枚、ガラス越しに宙を舞っていたわ。そして、部屋には暖かい日差しが差し込んできた……なんだか幽霊にでもなったような、おかしな気分だったわ。
 私はベッドに腰掛けると、携帯を弄り始めた。なんとなく覗き込むのははばかられて、私は所在なくうろうろしてたんだけど、そのうち、電話をかけ始めたの。「ねえ蓮子、取れたてのおかしな話があるんだけど、午後にでもうちに来ない?」って。蓮子の答えは聞き取れなかったけど……私の顔を見ていれば分かったわ。……知らなかったわ、あんなに表情に出るなんてね。チャイムが鳴ったのは、それからすぐのことだった。私ときたら、まだ寝ぼけ眼を擦ってぼんやりしているところだったのよ。急いで来てくれたみたいで、額には薄い汗が滲んでたわね。運動の後らしく頬は上気してて、靴を揃えるのもお構いなしに、つんのめりながら駆け込んできてくれた。
 蓮子は、私が腰掛けている隣に元気よく腰を下ろして……押し倒さんばかりの勢いだったわ。ほら、蓮子は、部屋に二人以外に誰かがいるなんて思ってなかったでしょうからね。それで、久しぶり、とか、言葉を交わすのも早々に、蓮子は私に抱き着いて、そのままベッドに押し倒して……。私は「ち、ちょっと待って……」と言って、蓮子を押しのけようとした。……多分ね。あのとろけ切った表情を見た限りだと、ぜんぜん本気じゃなかったのかも……。蓮子は、でも、そこで踏みとどまって、「あっ、ごめんね、久しぶりだったから、顔を見たら我慢できなくなっちゃって……うん、先に、メリーの話を聞かせて」って。
 そこで、私は意識がすうっと遠くなるのを感じた。手足の感覚が希薄になって、重力の方向が分からなくなって……そして、遠くから、アラームの音がわんわんと近づいてくる感覚ね。
 はっ、と目が覚めて、私は枕元の携帯のアラームを止めた。部屋は眠る前とまったく変わっていなかったわ。カーテンを開くと、春らしい風景が広がっていて、どこからか運ばれてきた桜の花びらが一枚、ガラス越しに宙を舞っていたわ。そして、部屋には暖かい日差しが差し込んできた。私はベッドに腰掛けると貴女に電話をかけて……あとは、ふふ、もう繰り返さなくてもいいわよね。

 これが、昨日の晩から今朝にかけて、私の身に起こったおかしな体験。……それじゃあ、しましょうか? さっきの、つ・づ・き。
今日の一本勝負がメリーだったのでやってみました。一時間では無理でした。
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コメント



0.210簡易評価
1.20名前が無い程度の能力削除
締まりの無い中途半端な作品でした。
4.100名前が無い程度の能力削除
疾走感と没入感が両方とも堪能できて面白かったです。
習作としてならば、これは大成功しているのではないでしょうか。
5.100名前が無い程度の能力削除
一時間でこれとは、やりおる(偉そう)
幽体離脱ふう予知夢って感じでしょうか。嬉々として話す、駆けつけてくる倶楽部活動でもないふたりのプライベート感がよかったです
とても楽しめました
6.70名前が無い程度の能力削除
ちょっと入りきれなかったかも
でもやろうとしていることは面白いと思いました
7.100南条削除
面白かったです
少し不思議でいい感じでした
最終的にどうしてもいちゃつく2人が良かったです
10.80奇声を発する程度の能力削除
良い感じでした