「あーあ、どうしたらいいのかしら」
机に肘をつくのは行儀が悪いと何度か注意はされたのだけど、時々やってしまう。
そういう気分の時もあるのだ。しょうがないのだ。
「フランドール様、何か悩み事ですか?」
丸テーブルの斜向いでりんごの皮を剥いていた咲夜が、こっちを向いて聞いてくる。
「悩み事ってほどじゃないんだけどね……なんというか、自分のアイデンティティに不安を感じるというか」
「何よ。誇り高き吸血鬼にして悪魔の妹、これ以上ない貴女らしさがあるじゃない」
レミリアお姉さまは腕を組んで鷹揚に言い放つ。
「それだけじゃなくてさ、ほら、私って魔法少女じゃない?」
「そうね、可愛いわね」
「それがどうかなさいましたか?」
「いわゆる『魔法少女』らしいことって、私なんにもしてないなあ、と思って」
「魔法少女らしいこと……ですか。例えばどんなことでしょう」
「可愛いのよ」
「なんかこう、きらきら~でふわふわ~な感じがいいわよね」
「ふむ、ではここに金箔をまぶした綿菓子を用意しましたので、どうぞ」
「あまくておいしい。でもなんか違うわ」
「妹が脅威を感じるほどの可愛さなのはいいとして、魔法少女なんだから、何かしらの魔法をつかうんじゃないの?」
「お嬢様のくせに良いご指摘です。フランドール様は、どんな魔法をお使いに?」
「それも特に考えてないのよねえ。やろうと思えば色々出来るとは思うけど」
「可愛くなる魔法はもはや可愛さがオーバーフローしちゃうからいいとして、例えばどんな魔法よ」
「十メートル先のりんごを置いたお姉さまの頭を微塵に砕く魔法とか」
「それは良いですね。しかし血なまぐさいのは魔法少女というのには少々そぐわないかと」
「そこはほら、アレよ。血の代わりにトマトジュースが飛び散って、脳みその代わりにマロンクリームがはじけ飛ぶようにすれば」
「貴女はそんなものが頭の中に入っているお姉さまでいいの?」
「お嬢様の頭は今度デザートにするとして、魔法少女といえばマスコットがお約束ですね」
「大抵違う生き物なのよね。私の場合は元が吸血鬼だから、コウモリとかだと安直すぎるかしら」
「いっそ人間ってのもありかもしれないわよ」
「ふむ、では全裸になるので少々お待ち下さい」
「なんで?」
「マスコットは大体服を着ていないかと思いますので」
「そんなことないしあんたじゃマスコットには大きすぎるというか、猥褻物陳列になるからやめなさい」
「くぅっ……この身体のエロさがここにきて仇になるとは……」
「マスコットはさておき、魔法少女ってメインの武器があったりするわよね」
「可愛いけど、貴女の場合は剣ってことになるのかしらね。可愛いけど」
「ステッキの方がそれらしいかと存じます。グリップをお嬢様の頭蓋骨にするなどはいかがでしょう」
「お姉さまの頭は砕いちゃうから駄目よ」
「それってもう確定事項なの?」
「では美鈴の頭蓋骨にしましょう。一つや二つ持っていっても気づかれないでしょうし」
「気づかないかなあ……」
「どっちにしてもドクロがシンボルじゃ駄目よ。ファンシーさが足りないわ」
「フランがそこにいる以上に可愛いことなんてないけれど、ファンシーさっていうと、星がくるくるしてたり?」
「ではお嬢様をボコボコにして、頭上を回る星を利用しましょう」
「それだと星じゃなくてヒヨコが出てきちゃうから駄目よ」
「お前らは私をなんだと思っている?」
「フランドール様、お嬢様がお怒りのようです」
「ごめんなさい、お姉さま」
「あぁぁかっわいいぃぃぃーーーー!! 何だこれェッ!?」
お姉さまは頭を抱えてうずくまってしまった。
多分、何らかの攻撃に耐えようとしているのだろう。
「さておき、魔法少女というからには、何かしらの得意魔法があるのだと思われます。魔法を使う者たちなら、魔理沙などは火力重視のレーザーを使いますね」
「アリスなら人形ね。私だったら、やっぱり攻撃に特化したものがそれらしいかな」
「あまりにもかわいい。でも攻撃と言っても、飛び道具なり近接なりいろいろあるわよ」
「剣で斬ったりするだけじゃインパクトが弱いわね。何かないかしら」
「攻撃のたびにお嬢様が血を流して倒れ、首が落ちるというのはどうでしょう」
「いくらお姉さまでもそんなに頻繁に復活はできないから駄目よ」
「問題そこなの?」
「しかし、魔法についてのことなら、パチュリー様がうってつけの相談相手かと思います。呼んできましょうか?」
「だめ。……こんな子供みたいな悩み、恥ずかしくて打ち明けられない……」
「やっべなにこれ可愛すぎでしょやっべ」
「そうですね、有り体に言って陵辱したいほどの可愛さです」
「おいお前何つったおい」
「うーん、衣装ももっとフリフリの方がいいかしらね」
「これ以上の可愛さは死者がでるけど、今の衣装だって結構フリル多いわよ?」
「もっとモコモコするくらいフリルだらけだったり、ヒラヒラが風に舞ったりするのがそれっぽいと思うの」
「裁縫ならおまかせください。寸法を図りますので全裸になっていただけますでしょうか」
「それだけは許さん」
「では足を舐めるだけで我慢しますので靴下を脱いでいただけると」
「衣装ならアリスに作ってもらうわ。あの娘センスいいわよね」
「かしこまりました。人形使い殲滅のため襲撃の準備を整えます」
「目的が違う」
「それと、魔法少女なら決めポーズが必要ね」
「決めポーズですか、たしかに個性を出すためには重要でしょう」
「フリルをなびかせてクルッと回って、ビシっと敵を指差す!」
「なんというか、可愛さって上限がないものなのね」
「ではその可愛さを叫び声でどうぞ」
「ホワアー! ホゥアゥアアアー!」
「お姉さまうるさい」
「フゥアアアー!?」
ばた、とお姉様は膝と肘を曲げて倒れ込んだ。
きっと辛いことがあったのだろう。
「チャオズのマネ」
「ヤムチャです」
口もきけないほど辛かったわけではないらしい。何よりだ。
「決めポーズに合わせて決めゼリフも必要かしらね。こう、ビシっと敵を指差しながら」
「『この世の悪とレミリア・スカーレットは、この私が許しません!』」
「そんな手段で私の名前を広めるんじゃない」
「登場時の決め口上があるなら、敵を倒した後の去り際にもお決まりのセリフがあるべきかと存じます」
「うーん?『悪い人には、コンティニューさせません!』とか」
「なんてこった可愛いなんてもんじゃない可愛すぎる死ぬわ」
「どうぞ。しかし決めゼリフには敵が何者であるかも重要かと。『何々の野望を打ち砕く!』というようなセリフも良いと思われますわ」
「レミリア・スカーレットの野望を打ち砕く!」
「敵の選択肢少なすぎない?」
「お嬢様は一匹見たら三十匹はいると言いますし、敵として丁度よいかと」
「お姉さまがたくさんいる絵面は気持ち悪いから駄目ね」
「あなたたち、知らないようだから言っておくけど、私にも心はあるのよ」
「フランドール様、お嬢様が傷つかれているようです」
「ごめんなさい、お姉さま」
「ホワアー! ハゥアアットゥワァアアーー!!」
「魔法少女って可愛らしさが何より重要だろうし、なかなか簡単にはいかないかしらねえ」
「フランドール様はそのままでも十分に愛らしいです。股間に顔を埋めてもよろしいでしょうか」
「それは殺す」
「そんな感じでなかなか結論が出なかったんだけど、魔理沙はどう思う? 私が魔法少女らしくなるために」
「まず家を出ろ」
机に肘をつくのは行儀が悪いと何度か注意はされたのだけど、時々やってしまう。
そういう気分の時もあるのだ。しょうがないのだ。
「フランドール様、何か悩み事ですか?」
丸テーブルの斜向いでりんごの皮を剥いていた咲夜が、こっちを向いて聞いてくる。
「悩み事ってほどじゃないんだけどね……なんというか、自分のアイデンティティに不安を感じるというか」
「何よ。誇り高き吸血鬼にして悪魔の妹、これ以上ない貴女らしさがあるじゃない」
レミリアお姉さまは腕を組んで鷹揚に言い放つ。
「それだけじゃなくてさ、ほら、私って魔法少女じゃない?」
「そうね、可愛いわね」
「それがどうかなさいましたか?」
「いわゆる『魔法少女』らしいことって、私なんにもしてないなあ、と思って」
「魔法少女らしいこと……ですか。例えばどんなことでしょう」
「可愛いのよ」
「なんかこう、きらきら~でふわふわ~な感じがいいわよね」
「ふむ、ではここに金箔をまぶした綿菓子を用意しましたので、どうぞ」
「あまくておいしい。でもなんか違うわ」
「妹が脅威を感じるほどの可愛さなのはいいとして、魔法少女なんだから、何かしらの魔法をつかうんじゃないの?」
「お嬢様のくせに良いご指摘です。フランドール様は、どんな魔法をお使いに?」
「それも特に考えてないのよねえ。やろうと思えば色々出来るとは思うけど」
「可愛くなる魔法はもはや可愛さがオーバーフローしちゃうからいいとして、例えばどんな魔法よ」
「十メートル先のりんごを置いたお姉さまの頭を微塵に砕く魔法とか」
「それは良いですね。しかし血なまぐさいのは魔法少女というのには少々そぐわないかと」
「そこはほら、アレよ。血の代わりにトマトジュースが飛び散って、脳みその代わりにマロンクリームがはじけ飛ぶようにすれば」
「貴女はそんなものが頭の中に入っているお姉さまでいいの?」
「お嬢様の頭は今度デザートにするとして、魔法少女といえばマスコットがお約束ですね」
「大抵違う生き物なのよね。私の場合は元が吸血鬼だから、コウモリとかだと安直すぎるかしら」
「いっそ人間ってのもありかもしれないわよ」
「ふむ、では全裸になるので少々お待ち下さい」
「なんで?」
「マスコットは大体服を着ていないかと思いますので」
「そんなことないしあんたじゃマスコットには大きすぎるというか、猥褻物陳列になるからやめなさい」
「くぅっ……この身体のエロさがここにきて仇になるとは……」
「マスコットはさておき、魔法少女ってメインの武器があったりするわよね」
「可愛いけど、貴女の場合は剣ってことになるのかしらね。可愛いけど」
「ステッキの方がそれらしいかと存じます。グリップをお嬢様の頭蓋骨にするなどはいかがでしょう」
「お姉さまの頭は砕いちゃうから駄目よ」
「それってもう確定事項なの?」
「では美鈴の頭蓋骨にしましょう。一つや二つ持っていっても気づかれないでしょうし」
「気づかないかなあ……」
「どっちにしてもドクロがシンボルじゃ駄目よ。ファンシーさが足りないわ」
「フランがそこにいる以上に可愛いことなんてないけれど、ファンシーさっていうと、星がくるくるしてたり?」
「ではお嬢様をボコボコにして、頭上を回る星を利用しましょう」
「それだと星じゃなくてヒヨコが出てきちゃうから駄目よ」
「お前らは私をなんだと思っている?」
「フランドール様、お嬢様がお怒りのようです」
「ごめんなさい、お姉さま」
「あぁぁかっわいいぃぃぃーーーー!! 何だこれェッ!?」
お姉さまは頭を抱えてうずくまってしまった。
多分、何らかの攻撃に耐えようとしているのだろう。
「さておき、魔法少女というからには、何かしらの得意魔法があるのだと思われます。魔法を使う者たちなら、魔理沙などは火力重視のレーザーを使いますね」
「アリスなら人形ね。私だったら、やっぱり攻撃に特化したものがそれらしいかな」
「あまりにもかわいい。でも攻撃と言っても、飛び道具なり近接なりいろいろあるわよ」
「剣で斬ったりするだけじゃインパクトが弱いわね。何かないかしら」
「攻撃のたびにお嬢様が血を流して倒れ、首が落ちるというのはどうでしょう」
「いくらお姉さまでもそんなに頻繁に復活はできないから駄目よ」
「問題そこなの?」
「しかし、魔法についてのことなら、パチュリー様がうってつけの相談相手かと思います。呼んできましょうか?」
「だめ。……こんな子供みたいな悩み、恥ずかしくて打ち明けられない……」
「やっべなにこれ可愛すぎでしょやっべ」
「そうですね、有り体に言って陵辱したいほどの可愛さです」
「おいお前何つったおい」
「うーん、衣装ももっとフリフリの方がいいかしらね」
「これ以上の可愛さは死者がでるけど、今の衣装だって結構フリル多いわよ?」
「もっとモコモコするくらいフリルだらけだったり、ヒラヒラが風に舞ったりするのがそれっぽいと思うの」
「裁縫ならおまかせください。寸法を図りますので全裸になっていただけますでしょうか」
「それだけは許さん」
「では足を舐めるだけで我慢しますので靴下を脱いでいただけると」
「衣装ならアリスに作ってもらうわ。あの娘センスいいわよね」
「かしこまりました。人形使い殲滅のため襲撃の準備を整えます」
「目的が違う」
「それと、魔法少女なら決めポーズが必要ね」
「決めポーズですか、たしかに個性を出すためには重要でしょう」
「フリルをなびかせてクルッと回って、ビシっと敵を指差す!」
「なんというか、可愛さって上限がないものなのね」
「ではその可愛さを叫び声でどうぞ」
「ホワアー! ホゥアゥアアアー!」
「お姉さまうるさい」
「フゥアアアー!?」
ばた、とお姉様は膝と肘を曲げて倒れ込んだ。
きっと辛いことがあったのだろう。
「チャオズのマネ」
「ヤムチャです」
口もきけないほど辛かったわけではないらしい。何よりだ。
「決めポーズに合わせて決めゼリフも必要かしらね。こう、ビシっと敵を指差しながら」
「『この世の悪とレミリア・スカーレットは、この私が許しません!』」
「そんな手段で私の名前を広めるんじゃない」
「登場時の決め口上があるなら、敵を倒した後の去り際にもお決まりのセリフがあるべきかと存じます」
「うーん?『悪い人には、コンティニューさせません!』とか」
「なんてこった可愛いなんてもんじゃない可愛すぎる死ぬわ」
「どうぞ。しかし決めゼリフには敵が何者であるかも重要かと。『何々の野望を打ち砕く!』というようなセリフも良いと思われますわ」
「レミリア・スカーレットの野望を打ち砕く!」
「敵の選択肢少なすぎない?」
「お嬢様は一匹見たら三十匹はいると言いますし、敵として丁度よいかと」
「お姉さまがたくさんいる絵面は気持ち悪いから駄目ね」
「あなたたち、知らないようだから言っておくけど、私にも心はあるのよ」
「フランドール様、お嬢様が傷つかれているようです」
「ごめんなさい、お姉さま」
「ホワアー! ハゥアアットゥワァアアーー!!」
「魔法少女って可愛らしさが何より重要だろうし、なかなか簡単にはいかないかしらねえ」
「フランドール様はそのままでも十分に愛らしいです。股間に顔を埋めてもよろしいでしょうか」
「それは殺す」
「そんな感じでなかなか結論が出なかったんだけど、魔理沙はどう思う? 私が魔法少女らしくなるために」
「まず家を出ろ」
にやにやしながら画面を見ていました。
次回作も期待しております。
最後のオチ?が面白かったです!
咲夜とフランが酷いww
斬新でいい咲夜さんを見せてもらいました…
話のテンポやオチも良く、お嬢様のダメっぷりも見ていて微笑ましかったです