Coolier - 新生・東方創想話

ホットラック.4

2016/12/22 12:23:42
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 嘘の発表をする、私たちの地上への作戦はいよいよ先輩のいう通り、どんどん遠くへいっている気がした。私たちの戦争はなんのために行われたのだろう。
「表の地上人と、こちらの月はそもそも干渉できないはず」
 こんなチグハグな放送など、月の住民は信じるのだろうか。月の姉妹たちに呼ばれ、豪奢な部屋まできていた。彼女達は私のことをどうやら本当に愛玩うさぎにするつもりらしい。そこらの子うさぎでも連れてくればいいものを。
「月の兵士が、地上の妖怪と戦って、苦戦をした。そんなことを住民達が知れば、皆がパニックになってしまいますからね」
彼女達が用意した映像は、地上、表の世界の人間たちが、表の月までやってきて旗を立てるものだった。映像の彼らの波長は、月への侵略などというたいそれた事を考えている気配はない。ただ単に、遠くに行くことを望んだ、地上の人々の達成感、大きく激しい波長が彼らの胸の中に流れている様子だけだ。 さしあたってはこの映像を民衆に見せて、地上との戦争はあった、しかし月が大勝利を収めた。という嘘で持ってまとめるそうだ。
「兵士達が納得するでしょうか」
「するもなにも、彼らの殆どはもういないでしょう」
地上の妖怪と実際に戦ったベテランの兵士達は、殆どいなくなっていた。いま月に配備されている兵士たちは、兵士とは名ばかりの、見るも無残な少女達だけだ。
「そんなことよりも、ほら、これ、面白いでしょう」
彼女達は今は、卓上遊具に熱心なようだ。私もたまにそれに参加して彼女達の機嫌を伺う、
それが今の私の仕事だった。あまりに、無残だと思った。死んだウサギたちはなんのために戦ったのだろうか。
「なぜ、そこまで地上の浄化作戦にこだわるのです」
わざわざ、地上のうさぎの殆どが適応できない危険な地上に兵士を送り、あの場所を植民地化する意味など果たしてあるのだろうか。
「民衆にこうして嘘までついて、地上の妖怪相手に月の兵士が疲弊する利点など皆無です」
うさぎの兵士がこうして月人に意見するなど、恐れ多いことだった。しかし、先輩のように地上への侵攻作戦を諦めている兵士が多いのも事実だった。これらの作戦が月人の戯れと考えても仕方の無いことだ。多少の憤りをこめて私は彼女達に言った。
おそらく、怒りを受けるか、茶化されるか、そういった対応をされると予想していたが、彼女達の反応は思いのほか、深刻なものだった。
月の姉妹は、顔を見合わせてから、ため息をついた。
「どうします」
「いっちゃいましょうか」
どうせ、彼女が戦わなくてはならない相手だ、次が最後の作戦になる。彼女達は意味ありげな視線を交わした後に、咳払いをした。
「いいでしょう、レイセン」
「あなたも不思議なことが沢山あるでしょう」
「いまからいうことは、決してほかの人に入ってはいけませんよ」
頬を撫でられ、彼女達に左右に立たれる。私は、予想と違ういつもおちゃらけた二人の変貌ぶりに姿勢を正した。
「地上への侵攻作戦は、次善の作戦です」
「私たちの本当の敵は、地上の妖怪などではありません」
その点は、地上の生き物には悪いとは思っています。彼女達はそういう。
「もし、次の作戦に失敗した場合、我々月の都の住民は逃亡先を探さなくてはならない、地上の浄化作戦は、我々が地上に移住できるかの試金石です」
まったく頭に入らなかった。意味がまったくわからない。地上の妖怪が目標でないのなら一体誰が敵だと言うのか。それに地上への移住など馬鹿げている。住みやすい月の都を離れてまで、地上に行かなければならない理由はなんだ。
「私たちは、もう随分前から、月に大変な恨みのある存在から攻撃を受けているのです、この名前を知っているのは、私たちを含めて、地上浄化作戦の責任者である神、私たちの師くらいのものでしょう」
兵士達を殺したのは、その存在だと姉妹はいう。
「あなた達兵士を地上に送った理由は、2つ。 まず、いざと言う時に月の住民を移動させるために地上の妖怪を殺し、土地を浄化させること」
こちらは、失敗してしまいました。彼女達は今までと打って変わって沈痛な面持ちになる。我々の部隊が全滅しかけた、黒いきり、汚れた小さな妖精の群れ、あれがその存在の攻撃だったそうだ。
「そして、二つ目。地上の穢れに染まり、その存在の攻撃に耐えられるウサギ達を選抜する」
その選抜された兵士達で、その月に恨みのある存在を殺すこと。
「いま、最もその見込みのある兵士があなたです」
私をペット扱いにして、手元に置いておいたのは、私が切り札だから。と彼女達はいう。もしかすると、私は担がれているんじゃないだろうか、適当な嘘をついて、私をからかっているのか。
「一体、どんな名前なのですか、敵は」
次の作戦で、貴方はその敵と戦う。選抜されたチームを率いて、月のために戦ってきてほしいと彼女達はいう。
「その敵の名は」






『ホットラック』



「なにか、聞こえません?」
「聞こえるな」
私たちうさぎは、大きな耳でほかの生き物にはできないやりとりをする。特別な波長とでもいうべきだろうか、遠くのうさぎたちともこれで会話することが出来たが、彼女は耳を失っているために、この力が極端に落ちているようだった。
実際に聞こえる音量というのは、なにか聞こえる、という程度のものではなく、耳をつんざく大音量だったので、私はもちろん、他のうさぎたちにも聞こえた。内容は以下のようなものだった。
『狐が、地上の妖怪を連れて月に攻めてきている、これから私たちは全面戦争に入る、だが戦況はこちらの方が不利だ。敵の能力はこちらをはるかに上回る。だが、私たちには何千年と培った誇りがある、決して負けない。レイセン、お前が地上にいるのはわかっている。月はもうすぐ戦場になる、レイセン、お前も戦いに加わってほしい。そして一緒にいる地上人たちにも伝えて欲しい、もうすぐレイセンを迎えにいく』
うどんげは、怯えて言った。
「脱走、ばれちゃったんでしょうか」
「いや、どうかな」
それにしては、内容が妙だ。彼女は耳が悪いので、あまり聞こえていないようだったが、この文面だと、月のうさぎは、この耳のない哀れなウサギにかなりの期待を持っているような印象を受ける。
どのみち、月からこんな形で連絡が来るというのは普通のことではない。月の医者や
姫から話を聞く必要があると感じた。
「お師匠、月から妙な連絡が」
「うさぎの連絡網かしら」
「えぇ、まぁ」
私は、月から届いた内容をそのまま月の医者に伝える。しばらく、医者は目を瞑ってじっと思考にふけっているようだった。
「てゐ、あの子の様子はどうかしら」
「どうって」
「元気になったかしら?」
「まぁ、それなりに元気なんじゃないのか」
私はそんな話よりも、月の連絡がいったいどういう訳なのかを知りたかった。うどんげはいったい月で何をしたというのだろう。ただの戦いが恐ろしくて逃げ帰った脱走兵というのならば、戦力のアテにするはずもない。
「まだ、薬は完成していない」
「はぁ」
「戦いは、遅らせましょう」
月の医者は、どうやら、月と連絡を取るようだ。月の姫とあれこれ相談を続けた後、私たちの地上と、月の情報を遮断することになった。空に偽の月を浮かべ、身を隠す、それが彼女達の決定だった。
「てゐ、今回のことは、あなた達には関係の無いことです、しかしもしもあの子のことが知りたいというのならば、その鏡で彼女の罪を見るといい」
どうやら、月の医者や姫がうどんげを地上に匿ったのには、ただの病人保護、という理由だけではないようだ。
「まずは、どのくらい回復したのか、図ります。 丁度いい、巫女たちがこれを異変と捉えてこちらに来る。連中には適当な理由をつけて、誤魔化しておきましょう」
医者は、レイセンを呼んでこい。と私に申し付けると、部屋の奥に引っ込んだ。どうやら、巫女の迎撃にレイセンを加えるつもりらしい。レイセンを連れて、月の医者の部屋に行くと、医者は彼女に、洋服を差し出す。彼女が以前に好んできていた月の服のようだ。
「レイセン」
「は、はい」
医者は、彼女におおよその経緯を説明した。説明したと言っても、月の真実とは食い違った内容ではあったが。 私たちは、月から隠れるために、偽の月を空にあげた。しかし、この異変に地上の巫女が解決にこちらに向かっている。これを撃退してほしい。そういう内容だった。
「な、なるほど」
彼女は、この月の医者が月から逃げた人々であるという理由で持って納得したようだった。実際は月から救援を求められているので、逃げる必要などないのだったが、記憶障害真っ只中の彼女にはどうでもいいことだったのだろう。
「これを」
レイセンが言うには、これは月の兵士の制服なのだそうだ。なるほど、彼女が最初に好んでこれを着ていたのはこのためだったのか。今の冷戦の服装は地上のうさぎと同じ簡素な生地の衣類だ。
「あなたも、脱走兵とはいえ、月の兵士」
うどんげは、頼りなさげにうなづく。レイセンは今の自分を、実践前に逃げ出した新兵だと思っている。月の医者は、記憶を失った彼女がどこまでやれるのか試そうとしているのか。
「兵士らしく、仲間のために戦いなさい」








私の最後の作戦が始まろうとしていた。
作戦チームは、狂気の夜を生き延びた最後の兵士達が選ばれる。しかし、その中に蒼い先輩の姿はない。今回の作戦では、私が実行隊長なので、先輩がいると指揮系統が乱れるという理由から先輩は外された。
ホットラックを出る私たちは、最後の作戦に向けてお互いの幸運を祈りあう。
「グッドラック」
地上の穢れに染まりすぎた私たちにとって、最後の作戦。これに失敗、地上に取り残された場合は、我々は、死亡、仮に生き残ったとしても脱走扱いとなる。
「なんで2階級特進させてくれないんだ」
「今回の標的のことは、極秘扱いだ」
前回までの作戦行動で、純狐の操る魔術は、月の穢れのないことが前提の装備は役に立たないことがわかっていたので、かなり原始的な装備で戦うことになる。
「みんな、あの夜のリベンジだ」
隊員達は、もう、生きて帰ってくるつもりはない。作戦の成否が月の住民の命の運命を分ける作戦だと全員が聞いていた。
「敵はどんな化け物なんですか」
「不明だ」
だからといって、作戦を中止できない。例え敵を倒すことが出来なくとも、相手の戦い方やを探る、相手の攻撃をやめさせる痛手をおわせなくてはならない。
地上降下が始まる。地上に降りると、すでに降下地点は黒い霧、無限に思える妖精達が充満していた。選抜された隊員達は、黒い霧を吸い込んでも、ほかの脆弱な月のうさぎと違い発狂するようなことは無かった。あまりに清潔な生活を送る月のうさぎたちは、穢という激しい生命の力に不慣れなため、穢れを受けると、命の力に押し負けてしまうらしい。 相手が、それを狙って月に大量の妖精を送っているのか、敵のことはまだまだ未知の部分が覆い作戦だった。
黒い霧が濃く立ち込める方向へ私たちは、どんどん進んだ。時折、穢れに染まった要請たちが私たちに絶望的な言葉を囁いたが、もう私たちはそんなものを気にしなかった。絶対に負けられない、そういう気持ちで私たちはいっぱいだった。
「あれだ」
黒い霧の中心に、彼女がいた。 赤い衣装に身を包んだ、豪奢な女だった。その女が、妖精に手を差し伸べると、妖精は見る見るうちに力強さを増している。
「囲め」
原始的な装備に身を包んだ私たちは素早く、敵を囲んだ。私の合図で攻撃をしかける。私の眼の力も、皮肉なことにあの女の力のせいか、今までにないくらいに高まっているように感じた。
私は攻撃の波長を全員に送った。












「なーんだ」
そんなの、関係ないわよ。 博麗の巫女は肩を竦めた。
「幻想郷はそもそも隔離されてるんだから、関係ないわよ」
レイセンは巫女を相手取って、まぁまぁ健闘したとのことだ。月兵士の制服に袖を通した彼女は、それ以来好んでその服を着るようになった。
服に袖を通した彼女は、多少の月への愛国心というか、そういうものを思い出し始めたようだ。わたしの訓練と称したいたずらも形骸化していた。一緒に寝なければ落ち着かないという癖は抜けきらないが、最初に来た頃と比べれば、彼女の心も随分と安定したようだ。
彼女が持っていたと思われる、超能力らしきものも、少しずつ強くなっていた。終わらない夜の事件が終わり、レイセンは地上の人間達とも仲良くなり始めた。
たまには外に出かけて、友達と遊んで来るようにもなった。この永遠亭にきた当初と比較すれば大きな変化だ、というより、取り戻し始めたと言うべきなのだろうか、私は彼女の昔のことをよく知らないので、はっきりとは言えなかったが。
「それ、そろそろ返したら?」
月の医者に閻魔の浄瑠璃のことを言われた。
「まだ、見てないんだよね」
「別に、みてもバチは当たらないと思うわよ」
閻魔が見ていいっていってたんだし、そりゃそうかもしれなかったが、もしも昔の彼女が実はすごい大悪党だったなんで事実を見てしまって、態度がギクシャクしないかどうか不安だったのだ。医者は、私がレイセンの昔のことを見た方がいいと言った。仕方がなく、私はひとり部屋に篭って、浄瑠璃をのぞき込む。
すぐに、今と大して変わらない、多少初々しい彼女が見えた。浄瑠璃は彼女の昔のことを、レイセンの視点で見せてくれた。








隊員は、いともたやすく死んだ。私だけが辛うじて、目の力を使い、やっと女の攻撃をかわしている。結論からいえば、もう私に勝ち目はなかった。死んだ隊員達は、見るも無残に死んだ、体の内から何かが膨れ上がったように爆発するものや、喉をかきむしって死ぬ者。
私たちの戦いの様子は、通信機器を通じて、月に送られている。私たちは、やっと敵の姿と、持っている力を知ることが出来た。 目の力を使い、相手がどんな考えを持っているか、どれほどの恨みを持っているのかを私は月に伝えた。
無限に続くように思えた戦いは、私の疲労によって終わりを迎えた。彼女の知覚できない攻撃が私に直撃した。
「月の穢れたウサギよ、お前は穢に満ちているな」
終わった、動けなくなると、急激な失意が私を襲った。 隊員は死に、この女はとうとう、月の人々を殺し尽くすだろう。
目の前の女がひたすら憎かった。
「なぜ、そこまでの穢れを受け入れる、万策尽きて暴挙にでも出たというのか?」
そんな月の醜態を見たくはなかった。と女はいいう。私は、お前が憎いと言った。
「お前も私が憎いのか」
「お前は、ただの狂気の塊だ。絶対の狂気、そうでなければ、こんなことをするはずがない」
女は、面白い。といった。何が面白いというのか、私は死ぬ。だが、あの時もう、隊長が私の代わりに死んだ日に、私は死ぬはずだった。
「月のうさぎよ、お前も、醜く、穢と生にしがみつくがいい」
私の首を、万力のような力でつかみ持ち上げた。
「嫦娥よ見ているか! 私の名は、月に仇なす仙霊、純狐」
この女の名前は純狐、私は頭に刻みつけようとした。
「月のウサギに何が出来るのか、月の住民が何を考えているのか。そして見ていろ! 穢れた月の民の成れの果てを」
 女は私を高い山の谷間へ放り投げた。
 気がついたときには、すべてが終わっていた。 隊員たちは全員死に、私だけが生き残った。 そして、純狐のによって純化された穢によって、私は二度と月に戻れない体になった。日に日に高まる目の力は、月の住民達が日に日に消えていく様を私に見せ続けた。
月に戻る手立てもなく、地上をさまよっていると、過去に地上に逃亡した月の姫の住居を見つけた。
もしかすると、彼女達は、純狐に対抗するために地上の穢を研究していたのかもしれない。私の眼は、次第に私にあることを語りかけるようになった。私の無力さ、責務を果たせなかった事を。月の住民達の知らない間に、純狐は月に攻撃を仕掛け続け、月の住民達は次第に死んでいく。私の眼には、月の住民の無念が突き刺さった。仲間を死なせ、月を救えなかった私は、とうとう地獄に行くだろう。いや、それ以外にどんな贖罪の方法があるのだろうか。ひたすらに純狐のことが憎かった。
そんなある日、地上のうさぎたちのリーダーと知り合った。彼女は、優しく、わたしをうけいれた。ほかのうさぎたちからすれば、私などは不審極まる存在だっただろう。地上のうさぎとして、何もかも忘れて生きればいいのか、彼女と接しているうちにそんな気分になっていた。
ある日、彼女が私に作り物のうさぎの耳をくれた。それを受け取った時、私の中にあった、純粋な憎しみや殺意が、和らいだ気がする。ほかのうさぎたちと一緒に並んで雑魚寝をしていると、ホットラックで感じた仲間達の体温を思い出した。
今までの狂気の世界が、なんだか、悪夢の世界だったような気がする。目が覚めたら、そこには先輩や隊長たちがいるのではないか、そんな気分になった。
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