Coolier - 新生・東方創想話

日常:鼠の縁談を聞いて

2016/12/20 20:52:10
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注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリ設定が存在します。





火鉢に炭を熾し、広がる暖気に季節を忘れる。 掘りごたつの下に熾した炭を置き暖気で満たす。 炭の置かれた場所は籠状の格子で覆われた櫓になっており足を火傷する事はない。 紙と木で構成されている筈の家屋の中が春の陽気が満ち満ちている。それは遥か以前の話。 彼女達が生きた千年以上も前の話。
幻想郷には外から持ち込まれた技術、電気がある。 苦労して炭を熾す必要はない。 強力な妖力で寒さを克服する事も、厚着によって寒さに耐える事も、死んでいるから寒さを気にしない事も必要ない。電気で暖気を生み出すこたつや敷布がある。 技術の進歩によって手に入れた安寧を享受していた。
こたつに入る一輪と水蜜、部屋の暖気に包まれ宙に浮いているぬえ。 妖怪である彼女らが、これ程までに心を解きほぐしている場面を見る事も少ない。 潰れた饅頭の様になっている。 観察するまでもなく、見たままで緊張感なくくつろいでいる事は解り切っている。
そこに入って来たのは、寺の本尊である星。 静かに引き開けられる障子の音に水蜜が目線だけを向けた。 本尊に祀り上げられただけあって、作法に乱雑さがない。 後ろ手で閉めようと柱と接した時の音がほとんど鳴る事がない。 静々と歩み、裾を纏めてこたつに足を入れる。
くつろぐのだろうな。 そう思った水蜜が見たのは、何かを思い出して苛立ちが込み上げていく星の表情であった。

ドンッ!

こたつの天板を一叩きした星。 事態を見ていた水蜜や同じくこたつに居た一輪は鼓動が跳ねようとも、事態の重大さを感じなかった。 こたつから、やや離れていたぬえは慌てふためく事は無くとも、事態を追っていなかった為に多大に驚く事となった。

「ナズーリンは……私が養います! 他の誰にも渡しません!」

星が時折激昂する事は皆の知る所。 皆が慌てた心を沈静し冷静に物事を見られるのは普段の事があるからだ。 水蜜や一輪にとっては以前の事もあってか、星がただ悪戯に怒っているのかどうかを見定めるのは容易い。

「ふむ……詳しく」

落ち着き払った水蜜が星に投げかける。 優秀と称される星。 その一言に制せられたのか一つ息を吐くと、いつもの状態に戻り言葉尻に激昂具合を残しながらも温和な口調で語りだした。

「実は、ナズーリンに縁談がありまして……ああ、気が気ではありません」

普段の取り繕う様な冷静さを取り戻した星。 同時に言葉、態度、何もかもが慌てふためいていた。 ぬえは多大に驚かされた事からか歯を見せて笑みを浮かべる程に楽しげに見ている。

「あんな性悪ネズミのどこが良いのかしら?」
「一輪」

頬杖をついて、独り言を零した一輪をすぐさま制したのは星である。 愛する部下の事で心を乱しているのに、その言い草が激昂の治まり始めた星に再び火を灯す。

「そんなに心配なら縁談をぶち壊してくれば良いじゃない」

灯った火に油を注いだのは、ぬえであった。 仕返しを込めた相手の立場に立たない助言。火に油を注ぐとは正にこの事。 ある種、追い詰められている状態の星には悪い方向にしか転ばない。

「駄目よ。 姐さんの名に泥を被せる事になるわ」
「星を止めろ!」

ぬえに返答する一輪を余所に星が無言で部屋から出ようとしていた。 咄嗟に叫んだ水蜜の言葉で一輪が金輪を掲げる。 直後、一輪の能力で現れた雲山が星を止めようと掴みかかった。

「くっ……駄目。 止まらない」

何とか止めようとする一輪と水蜜。 その横で宙に浮きながら、かんらかんらと笑っているのはぬえ。

「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて……虎に蹴られてしまえ」

白蓮が危うい立場になれば、いの一番に駆けつけるであろう妖怪が何か言っている。 一輪は苛立ちを覚えながらもぬえに叫んだ。

「あんたも虎でしょ。 姐さんを慕っているんだから、虎の力で止めなさいよ」
「やだね。 放っておいた方が面白そうだし」

寺の誇る怪力が二人、雲山と水蜜が引き摺られていく。 ズズッ、と数寸ずつ。 僅かな時間。 争い合いと言うには余りに短い時間。 障子に至り、外に出ようと戸に手を掛ける星。
その戸が開け放たれる事は無かった。 何故なら、星の心を支配しているナズーリン、その妖怪が戸を開けて星の前に現れたからだ。

「騒々しいぞ」
「な、ナズーリン?」
「私以外に誰がいる」

狼狽する星を余所にナズーリンの口調はいつもの通りであった。 彼女を止めていた雲山も水蜜も足が止まった事により、その手を離し星から離れた。

「縁談があったんじゃ……」

混乱し、立ち尽くしながらもナズーリンに問いを投げかける星。 混乱しようとも、その切り替えの早さ、流石は優秀と称されるだけの事はある。

「余りに熱心な者がいた様で、聖でさえ押し切られた。 彼女の顔を立てただけだ」

他人行儀で他人事。お見合いに行って来たとは到底思えない言い草であった。 無感動、無関心。 まったく興味さえない様子であった。

「で?」
「で? とは?」
「いや、成果だよ」

疑問を投げかけたのは水蜜。 本人の様子が余りに無関心なので興味本位で聞いてみた様だ。 決して星を気遣っているのではない。 白蓮の心配をしている一輪やぬえでさえ、事の顛末を知りたい様子である。 妖怪と言えども女の子。 人の口を戸で閉める事は出来ない。
皆の視線を集めるナズーリンは、面倒臭いとばかりに溜息を一つ吐いた。 半開きの眼が前述の様子を物語っている。 いつもの様子だと皆は知りながらも、興味本位の熱視線を送り続けていた。

「断った。 長年連れ添った大切な人が居るからお付き合いする事は出来ない。 とね」

我ながら、お人良しだ。 説明したナズーリンの状態が、いや全身が言っていた。 星とナズーリンの関係は、寺の皆が知る所だ。 上司と部下と言うには親しい。 夫婦と言うには離れている。 皆の知る状態にあるからこそ軽く語られた。

「ごちそうさま」
「うるさいな」

一輪が反射に近い状態で漏らした。 お熱い関係が羨ましくて、少々の嫉妬が込められている。 言われ過ぎた所為か、それとも生来の捻くれた性格故か、ナズーリンは咄嗟に一輪に返す。 余り詮索しないでくれという差異を含めて。

目の前にありながら、固まっていた星がナズーリンを抱き締める。 安心と安堵と、今ここにいる感謝を含めて。 長年連れ添った大切な人の香りに包まれ、ナズーリンの顔が紅潮した様に見える。 とは言え、半開きの眼が見開かれる事も白虎の如き美しい白肌が赤に染まる事もなかった。
背中を伸ばす仕草と共に両手で愛する主人を押し離すナズーリン。 背の低い彼女である。 星ならば抱き寄せる事はあまりに容易い。 それでも、抱き寄せる事はしなかった。
間髪入れずに一輪とぬえが言い放つ。

「本当に大変だったのよ。 ナズーリンは私が養います。 と言いだしてね」
「縁談をぶち壊してやる。 とも言っていたぞ」

一輪とぬえの言葉を聞いて笑い始める水蜜。 星の気持ちも普段の態度も知っているのに、何故かおかしく感じ笑いとなって沸き上がった。

「二人とも……」

一輪とぬえの説明。 水蜜の笑いに、星の普段からの優秀さは影を潜めた。 汗を浮かべて慌てる様子の星を見て、一輪も水蜜もぬえも、部屋に入って激昂したお返しとばかりに満足げな表情であった。
最初の状態を知らないナズーリンは、知らないなりの行動を取る。 知らないのだから当然だ。
その言葉は、白蓮が持ち込んだ面倒への多大な皮肉が含まれている。 心配をする主人を安心させる意味がこもっている。 意識はしていない。 それが彼女の根底にある気持ちなのだろう。

「ふふ……何故、私に惚れたかは知らないが、彼には言っておいたよ。 私の拒絶が不服なら、私の夫に腕力でも財力でも勝ってみなさい。 とね」

皆の時間が止まった。 同時に星がナズーリンを再び抱き締めた。
ナズーリンが夫と言葉を出しただけでも時間が止まる事態である。 それも本人である星の前で。
皆と星の気持ちは真逆であった。 今が早朝でなくて良かった。 今が早朝であれば良かった。
寒気を多大に含んだ乾風が外で吹き荒んでいた。然れども室内を寒気に満たす事は叶わない。 心を満たす温かさの為。 文明によって作られた暖かさの為。
思い出したかの様に皆がこたつに脚を入れて囲み始めた。

騒がしさが時折訪れ様とも、同じ仲間達の日常は平々凡々に過ぎて行くのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。気晴らしに書いてみました。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
まいん
http://twitter.com/mine_60
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コメント



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4.100名前が無い程度の能力削除
まいん!
よかった
5.100名前が無い程度の能力削除
やだぁ、もぉ読んでるこっちが恥ずかしくなるじゃない。
7.80名前が無い程度の能力削除
力自慢のムラサと一輪が星を止められずに引きずられるシーンに迫力を感じました。
幻想郷の中では良識派が多いように感じることの多い命蓮寺組ですが、やんちゃが似合う側面が上手く魅力的に描かれていると思いました。
10.100南条削除
寅がテンパってるのに努めて冷静な他のメンツが面白かったです
13.100名前が無い程度の能力削除