Coolier - 新生・東方創想話

新々世紀の秘封倶楽部2  「来客」

2016/12/18 10:13:54
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苺オブストロベリー : そんな面白そうな事やってたなんて!
宇佐見@秘封倶楽部 : 誰かに強制させないでくださいね

苺オブストロベリー : 誰かにはしないわ
North White River : 誰か(知人は含まない)
North White River : あー? もしかして私対象?

苺オブストロベリー : 観測者含めて3人必要。あなた必須
†邪教徒† : 諦めるしかないですね。

苺オブストロベリー : あなたも諦めるのよ
†邪教徒† : えっ
†邪教徒† : やだ
North White River : まあこの集まりなら、そうなるよな
宇佐見@秘封倶楽部 : 言ったそばから酷い事に

†邪教徒† : 実は私は魔法使いなのでそういう不思議系な事はしません。
苺オブストロベリー : 魔法使いって不思議系じゃないの?
North White River : 百年前から魔法使いはファンタジー系。この考古学的資料価値のある漫画にも描かれてるぜ

†邪教徒† : どの事ですかそれ。とにかく科学以外は興味ありませんので。
苺オブストロベリー : 魔法は科学の1ジャンルじゃない?
North White River : (教授の中では)

苺オブストロベリー : 魔法なんて容易く見切れるもの
宇佐見@秘封倶楽部 : それは教授だけです

   ――――へるん@秘封倶楽部 さんが入室しました。

宇佐見@秘封倶楽部 : メリーおかえりー
苺オブストロベリー : いらっしゃい。今日は貴女達の話で持ちきりよ
North White River : ;D;D;D;D
へるん@秘封倶楽部 : ただいま。みんな早い

†邪教徒† : へるんさん聞いてください。このひと達、私を不思議系にするんです。
へるん@秘封倶楽部 : …どういう事なの
宇佐見@秘封倶楽部 : 今日やったアレの話
North White River : アレだぜ

苺オブストロベリー : それで、その石もらっていい?
へるん@秘封倶楽部 : ごめんなさい。もう無いの
宇佐見@秘封倶楽部 : なくしちゃった。けど危険だったし

苺オブストロベリー : 人類史上最も大きな科学的損失だ
†邪教徒† : マジックアイテムなんて無いほうがいいのです。
North White River : 危ないって云うほどかな
宇佐見@秘封倶楽部 : だって精神作用だよ

苺オブストロベリー : トウモロコシだってあるじゃないそんなの
†邪教徒† : じゃあトウモロコシを研究してくださいよ。

苺オブストロベリー : どんだけ魔法嫌いなのよ…
へるん@秘封倶楽部 : 魔法なのかなー
North White River : 魔法だぜ
宇佐見@秘封倶楽部 : 何かみんな魔法知ってるみたい
†邪教徒† : 知らないそんなの知らない

苺オブストロベリー : 今から魔法を掛けよう
†邪教徒† : えっ

苺オブストロベリー : スリープの魔術である。やがて眠気に襲われるだろうドワワ
宇佐見@秘封倶楽部 : えっなにその効果音
North White River : あれは…マントを羽織った教授の後ろに赤い十字架が!
†邪教徒† : やめて本当にやめて

へるん@秘封倶楽部 : あ、もう夜12時回ってるのね
へるん@秘封倶楽部 : ごめんね、遅れちゃって
苺オブストロベリー : さあ、眠れ。しばし現にお別れだ
苺オブストロベリー : という事で二人を祝福して私達は退散しましょう
宇佐見@秘封倶楽部 : そんなんじゃないってば
North White River : 眠くなっただけだからだぜ
†邪教徒† : 教授は寝る時間をキッチリ決めてますから。子供みたいに。

苺オブストロベリー : 一言余計よ。あ、けど明日になれば実験可能ね
†邪教徒† : 明日ー来ないでー
North White River : また明日聞くんだぜ。大学で
宇佐見@秘封倶楽部 : そう?

苺オブストロベリー : しう
North White River : 典型的なミスタイプ!おねむの時間だ!
†邪教徒† : 私ももう寝ます。また明日、面白い話聴かせてください。

宇佐見@秘封倶楽部 : おやすみー
へるん@秘封倶楽部 : おやすみー
†邪教徒† : おやすみなさい。
North White River : おやすみぜ

   ――――†邪教徒† さんが退室しました。

苺オブストロベリー : つゆりあtpでころs

   ――――North White River さんが退室しました。

宇佐見@秘封倶楽部 : メリーこれからどうする?
へるん@秘封倶楽部 : 蓮子が平気ならもうすこし
へるん@秘封倶楽部 : 今日の事とかさ
宇佐見@秘封倶楽部 : まだ全然眠くないし、そうしようか
宇佐見@秘封倶楽部 : じゃあさ…――――



 私、宇佐見蓮子は、困惑している。
 話だけでは、それが本当かどうか、判別できないからだ。



「始めまして。宇佐見蓮子です」
 秋の終わりの、寒々しい円山公園に、丈の長いファーコートを着た女学生が居る。彼女は、白いリボンを付けた黒帽子を押さえて、身を切るような風に耐えつつ歩いてくる。
 場所は祇園枝垂桜の見える、広場の東の、小さな時計の下だった。迎える女性も同じく大学生で、毛皮のついたフードコートを羽織り、下にはもっと厚手のドレスを着ているようだった。
「始めまして。マエリベリー・ハーンよ」
 季節はすでに消沈していたが、枝垂れ桜には、まだ、桜の花びらが残っていた。二人は2、3の言葉を交わしてから、寒さに耐え切れなくなり、視界の中にある喫茶店の中に入る。
 テーブル席の、向かい同士に座って、彼女達は話し込み始めた。
「えっと、まず、何をします?」
 慣れない調子で、宇佐見はそう切り出した。迷っている時間が長かったせいか、注文したオレンジジュースとジンジャーエールに先を越されてしまった。ハーンはオレンジジュースを手元に寄せて、ようやく言葉を返した。
「とりあえず、メールで相談した通りの予定に従いましょう」
 二人とも飾り気のないミニバッグを持ってきており、その中から、各々考えてきた通りの物品を取り出す。
 宇佐見は、図書館で借りてきた地誌に、コンビニエンスストアにありそうな観光ガイド、水晶製のダウジングストーンに、小さな、まっさらなメモ帳。
 ハーンは、図書館の古書、A4のノート、録音テープと小型のビデオカメラに、何の変哲もない灰色の石。
 奇異な行動とアイテム類は、嫌でも周りの目を惹いてしまう。
「……見られてる。恥ずかしい」
「今使う物以外は片付けましょう」 宇佐見は言い、テーブルには古書と地誌だけが残された。
「ハーンさんは、××大学の助教授なんですよね」
「ええ。宇佐見さんの方は、◯◯の院生なのよね?」
「はい。物理学を専攻してます」
 他愛無い話が続く。二人が未だ大学生の歳であって、親元を離れて暮らしているだとか、どんな勉強をして、何を研究しているのか、軽く、流れるように自己紹介をする。
「どうしてオカルトに興味を持ったの?」 ハーンはテーブル上で掌を組んで顎を乗せ、身を乗り出すように聞いた。
「……浪漫。ちょっと変かもしれないけど、浪漫です」
 うつむきつつ、バツが悪そうに宇佐見は言った。小声であったので、喫茶店内の誰も彼女達の会話を気にしていない。しかし彼女は、過剰に意識しているよう、目だけで周囲を警戒する。
「良い理由じゃないの」 その羞恥心を察して、ハーンはすぐに言葉を拾った。怖ず怖ずと見直して、宇佐見は聞き返す。
「ハーンさんは、どういう経緯ですか?」
「私?」 一瞬、躊躇して、しかし苦笑いを浮かべたあと、「この石のせいよ」 と、一度見せたアイテムを再びバッグから出して置いた。
「石? ですか?」
「そう。石。説明するより、持ってみたほうが解りやすいと思うわ」
 至極普通の石ころだ。彼女は、重さも大して無いような当たり前の手つきで、手渡してきた。宇佐見はそれを何の障害もなく受け取った。
「え、……え、え?」
「解ったでしょ?」
「はい」 素直に頷いて、石を返却する。「何ですかコレ」
「私は、万能感の石って呼んでるわ。そのまんまの意味で、持つと幼児的万能感がふつふつと湧き上がってくるの」
「へぇー。ちょうど良いくらい不思議」
「でしょ? 子供の頃からの宝物なのよ。身の回りにオカルトがあると、興味を持ちやすくなるのかしら?」
「羨ましいです」
「そう? 意外に転がっているものなのよ? 例えば、あれ」
 ハーンは、唐突に喫茶店の窓の外を指差した。彼女の示したオカルトとは、円山公園にある枝垂れ桜のことであった。まだ、花が、ある。
「……気付かなかった」
「百年前に比べると海面がもう7cmも上昇してるから、その影響かもしれないけれど」
「塩分を含んだ風の影響があって、夏の間にすべて葉が散ると、気温の変化次第で秋に咲くときもあるらしいですね」
「――科学の可能性は、オカルトよりもずっと便利よね。例えば桜の下で幽霊を見ても、『魂だ』とオカルトで解説するよりも、科学的に論じたほうが信じやすい」
「光や幻覚、フェイクとか理由としては万能ですよね」
「私は満開の下で人間が花びらと化したり、死体が蘇ったりする方が好みだけどね」
「私もです」
「そろそろ行こうか? オカルトに」
 ゆっくりと立ち上がり、荷物をまとめていく。昼の1時を過ぎ、町は鮮やかに色づいていた。喫茶店の支払いを終え、再び枝垂れ桜を見遣る。幽霊などおらず、風だけが凪いでいる。
「夜じゃなくてもあるんですか?」
 公園を往く人々は、ほとんど皆端末と睨み合いをしている。宇佐見とハーンの声が孤立したように立ち昇った。
「闇があるのは月の裏側も一緒。影を探せばいいのよ」
 鞄より取り出した万能感の石を持ち上げ、彼女はどこか、オカルトへ近い場所へと誘い入れてくる。宇佐見は追い掛けるように歩みに従った。

 何処かへ移動している。地下鉄京中線に乗り込み、コマーシャルディスプレイに映る市案内の様子を眺めていた。
「ハーンさん。本当にココが目的地なんですか?」
「そうよ。最近面白い噂が出始めたのよ」
 彼女達は電車を降りてはいない。櫛型に並んだ座席に二人並び、コートを脱いで車内の暖房風に当っていた。宇佐見は飾り気のない白いワイシャツに黒スカート、ハーンはフリルの付いた紫色のワンピースを着込んでいる。
「都市伝説ですか?」
「そう。怪談に近いかな。“見知らぬ他人同士が座席に座って、環状線を一周してしまうと別世界に飛ばされてしまう”ってやつ」
「……今日しか出来ない系ですね」
「だから本を後回しにしたの」
「ほうほうそういう理由が。あれ……けどハーンさんも古書を持ってきたような」
「一周するまで空いた時間があるから、持ってきたのを読みつつ色々話し合いましょう」
 地上の路線と違い、揺れも、景色もない。窓に投影された映像には、かつてあったはずの京の歴史が3DCGを伴って描写されている。商業的コマーシャルが、車内上部の荷物棚付近の空きや、開閉扉周辺で賑やかに語り掛けてきて、しかしほとんどの乗客は手元の端末を凝視していた。向い合って話しているのは、たった、ふたりきり。
 持ち寄った本のページをぺらり捲っていく。
「この本だと、京の都は結界を敷くように造られた、とあるわ」
「東西南北に四神を置くようにするやつですね。あと陰陽に五芒星の図形とか」
「そう。今乗ってる京中線が都をぐるりと廻る感じで新造されたものだから、案外信憑性ある噂な気がするのよ」
「結界の外側を回るうちに……。そういえば異世界がどうなってるかって部分はあるんですか?」
「特に向こう側の描写はなかったわ。噂が真実だとすると、こうやって大衆的に広まっているのだから帰還者は居るはずよ」
「…………何だか成功したら成功したで危険な気がします」
「不安なときはこの石を握ればいいのよ」
 宇佐見とハーンは、万能感を求めて石を挟んで手を重ねた。ぽつり、ぽつり、降り始めた雨のように会話はまばらになり、時間はやがて迫ってくる。電車内の人間達は次々と入れ替わり、取り残された二人は苔むした伝説の話に花を咲かせた。
 乗り込んだ駅の名前が、再びコールされた。戻ってきた。最後のひと駅分、その瞬間もただ、話していた。

 眠りの瞬間はいずれくる。
 瞼が落ちたのかと勘違いした宇佐見は、目を見開いた。
「ハーンさん……!」
 閉じたのは眼ではなく、経路であった。目的地に辿り着く緩やかな慣性が突如として止まり、座席が大きく揺れる。
「ええ。本当に起きるなんて」
 電車内の電気供給がその瞬間から完全にダウンして、周辺は広大な闇に包まれた。吐き出されていた暖房がストップして、じわじわと冷たい空気が入り込んでくる。手探りでハーンは懐中電灯を取り出した。明かりをつける。
「宇佐見さん。これ見て」
 彼女がまず気付いたのは、光によって照らし出された窓の外の光景であった。電気的に投影された映像はなくなり、透明なガラスに鏡のよう反射した光が、自分達二人の姿と、その奥の、地下鉄のホームには見えない、自然的な色を映し出していた。
「森……?」
「行きましょう。はぐれないよう、手を繋いで」
 万能感の石を左手に、宇佐見の掌を右手に、ハーンは率先して動き始めた。手動で電車のドアをこじ開けて、一歩、未知なる領域へ踏み出す。
「……ちゃんと駅のホームだ」
 宇佐見が呟く。彼女は一度、身震いをして寒さを身体から追い出そうとした。現代文明によって暖められた身体から出た息は、白く濁っていた――月明かりだ。
 地下を走っていたはずの列車は、苔生した石造りのホームに収まっていた。トタン屋根で拵えられた古風な屋根はツタ植物で覆われていて、構内を囲む鉄柵は赤錆びていた。駅名の描かれた看板は、何か、大きな力で引き剥がされたようにひしゃげ、歪に切り取られていた。
「見て、宇佐見さん」
 ハーンが、周囲を確認するためにスライドさせた照明の向きを、電車の上部で止めた。機構を確立させていた電線はない。それどころか、何十年も放置されていたように、粉塵や枯れ葉、植物が積もり、文明らしさは失われていた。
「東京みたい」 宇佐見が再び呟く。
「東京に行ったことがあるの?」
「あ、私、そこ出身なんです」
 声調には未だ危機感はなく、話題は、それから首都東京に移り、月の位置、星座の種類、木々の植生へと変化していき、探索をしよう、という決意によって締めくくられる。
 月と星を眺めた二人の知識曰く、今が夜26時過ぎであり、ここが長野県山中であるとの予測が生まれた。森林も、非常に珍しい自然的な手法――つまり、何十年も人の手を入れずに、虫や風が媒介する植林によって作製されているようであった。
「人家を探しましょう」
「別世界探索のよくあるパターンですね」
 童話の粗筋を道にするように、彼女達二人は駅のホームを降りた。線路はなく、獣道もない。振り返り、後戻りできない感傷に耽る。まるで最初からここに、電車という建造物が作られていたかのように、不自然にターミナルは存在していた。石で繋がり、森林に踏み込んでいく。
 万能感はハーンと宇佐見に疑問を抱かせなかった。ハーンの持つ懐中電灯は、手前に広がる疎らな陽樹と、奥に鎮座している闇を次々と映していく。
 下草は少なく、枯れ葉を踏む音が反響し、なだらかな傾斜を昇り、梟の声を遠くで聴き、しかし空間的な広がりは、いつまで経っても変容の兆しを見せない。
 ――――10分。
 光景は変わらない。
「例えば、私達が、見ず知らずの人間じゃなくなれば、帰れるかしら?」
 退屈さを紛らわせるために、ハーンが会話を始める。
「何か、親密そうな行動をするとかですか?」
「ええ。電車内で少し待っても、帰還できなかったでしょ? ここが単なる長野山中で、SF小説にある“ジョウント”のような空間移動だったら良いのだけど」
「“ブルージョウント”だったらどうしよう。壁の中へのワープって、やっぱり死にますかね?」
「ロストするでしょうね」
 夜は曇っておらず、街や道路を明るく彩る電気的照明が無いおかげで、満天の星空だった。月明かりが、木々の輪郭をぼんやり浮かび上がらせる。しかし、ハーンの持つ懐中電灯と、それに照らされた扇状の範囲と周辺は、光の対比効果によって、暗く、闇が纏わりついているように見えていた。
 祭り囃子なのか、どこかから、心音のようなリズムが届いてくる。二人は足を早めて、方角も距離も失ってしまった道無き道を進んでいった。
 と。
 光――のような、賑やかな変化が、遥か森林の樹柱のかなたにチラリと覗いた。こちらから視認できれば、向こう側も、懐中電灯の明かりに気付くだろう。万能感の石は、その都市伝説が、『怪談』の枠組みの中にあることを忘れさせていた。
 気付くのが一瞬遅れ、先行くハーンは何者かの影にぶつかってしまう。
「あー?」
 それは人間の声を発した。ハーンの肩ほどの位置に頭がある……形は、怪しい影、から懐中電灯に照らされて、人間の少女へと姿を変えた。
 長野山中には珍しい金髪だ。頭髪は茶のリボンによって、お団子状にして後ろに結われていた。彼女は地味な、スカート先がフレアになったブラウンのワンピースを着込んでいて、その衣服は、身体をぐるりと巻かれるように黄の絹帯に飾られていた。
 表情は幼い。ハーンは尋ねる。
「ぶつかってごめんね。ここに住んでる子?」
 だが、帰ってきたのは、子供らしからぬ顔の変化だった。
 まず嘲りの笑み。
「――把ゝん。アンタら迷い子さんね?」
 少女は落ち着いていた。あともう少しの距離にある祭り囃子の太鼓音が心地よい。言葉が通じて、二人は、彼女の様子なんて知ったことなしに安堵の息を吐く。ハーンは続ける。
「そうなの。だから人の居る場所に戻りたくて」
「ふぅん」 と一瞬考えた少女は、あらぬ方向、小さな灯りと音のある喧騒から、90度違った森の中を指差した。
「アッチだよ。今お腹いっぱいだから普通に教えてあげる」
「え? あっち?」
 どう眺めても闇しかない。
「そう。一寸遠いけどね」
「けど、向こうに光が見えるよ?」 横から宇佐見が口を挟んだ。
 何かを察したようで、少女は鼻で笑った。愉悦を堪えているような震えを持って、現地民は語る。
「天狗倒しならまだマシさ。ありゃホンモンよ。近寄らぬが仏。いや、近寄ったらホトケさんかな」
「どういう事なの……」 嘆息混じりにハーンが呆れた。
 次の瞬間、少女はその反応を待ち望んでいたように歓喜した。荒げたその息からは珈琲の香りが漂う。
「アレだろ。対等な人間として話しているフリだったんだろ? けど、心の中では子供だからと莫迦にする。嘘を吐いているのだと、未だに思い込んでいる。目の前のそれが、救いの光だと、飛んで火に入る夏の虫のような欲求に諭されている」
「そんなつもりじゃ……」 予想外の声に、二人はたじろいだ。
「そういうの好きだよ。無意味に沸き起こる“万能感” そういう“病気”は大好物さ。そこに信仰心は無いけどね」
 言い返せる言葉がなかった。そもそも、何を言っているのか、二人には理解できなかった。
「あの、どういう事か、教えてほしいんだけど」 此処は都市伝説の中。二人は、石に支えられてはいるが、見ず知らずの場所で、見知らぬ他人と、不気味な会話をしているのだ。
「嫌ァね。たまには親切心を振り撒いて毒抜きしないと、人間病になっちゃうからさ。気紛れだよ。地獄の底から垂らされた蜘蛛の糸なんだから、大事にね。あー、あとさ。私は喰ったからいいけど、アソコを見つけられず空腹のままウロウロしてるのが居るから気を付けてね」
「えっと、どういう――」 ハーンが言い終わる前に、少女が両手を突っ撥ねて二人を突き飛ばした。ほんの刹那、大きな、6つの足を持つ巨大な虫のシルエットが見えたような気がしたが、立ち上がって周りを見渡すと、そこには誰も居なかった。
「何なのよ、もう!」
「ハーンさん。落ち着きましょう」
 衣服の尻についた土をはたき落としながら、少女の姿を探す。二人に選択の時間が訪れた。周囲には3つの判断材料がある。
 ひとつは明るい宴会の光。ひとつは少女の指差した闇の奥。最後のひとつは自分達の足跡。あとは人間の姿形無く、昏い森林と虫の鳴き声が道を閉ざすばかりだ。
「そうね。これからどうする? 宇佐見さん」
「どこに進むか、ですよね」
 一時的に歩みを止めようが、彼女達は探索を中断しなかった。先程の巨大な虫の事なんてとうの昔に忘れてしまっている。
「じゃあ、いっせーので行きたい方面を指差しましょう」
「いいですね、それ」
 子供じみた多数決は、すぐにも結論を出した。二人とも、同じ方向を選んだのだ。石を握った手を重ね合わせて、ハーンと宇佐見は、森を進んでいった。徐々に、遠くに見えていた光が、大きくなる――――
 なだらかな傾斜は、緩い谷になった底へと誘っていた。次第に早まる歩みが気分の高揚について行けなくなり、ハーンは足を滑らせてしまう。盛大に転ぶ事こそなかったが、もつれた足は、姿勢を大きく崩して、傍立った木に額をぶつける結果となった。
「大丈夫ですか。ハーンさん」
 血が滲んで、涙も滲む。手持ちのハンカチで痛みを2、3度拭うと、すぐにも血は止まり、「大丈夫。行きましょう」 の声を皮切りに、二人は旅路を終わらせようとしていた。
 光が、揺れていた。実像を伴った光源は、紙を四方に張り巡らせた、大きめの提灯であった。螺旋を描く紋様が描かれており、文明の味を二人へと齎した。
「あの――――」 声は、何故だか、途中で掻き消えてしまった。
 ハーンの誘導する懐中電灯の明かりが、何やら、黒い塊に遮られた。始めは熊や猪かと思った宇佐見は、その正体を探るうち、自分の置かれている状況を理解し、戦慄して絶句した。
 そこには、何もなかった。
 光は、それを照らす事が出来なかったのだ。
 遠近感のない黒色が二人を、正面から眺めていた。どれぐらいの大きさかは把握できない。ただし、予測は最小でも、眼前の宴会を覆い隠すほどにもなる。
 ゆっくりと蠢くものに、懐中電灯の先端が触れた。それは固くはなく、まるで宇宙空間に浮かぶ水球のよう、ずぶずぶと光を飲み込んでいく。
「逃げましょう!」
 叫んで、ハーンが道具を放り出した、時すでに遅し。踵を返した二人の存在を知ったのか、その黒色は明らかに行く先を変え、じりじりと追尾してきた。
「ハーンさん、どうしよう!」 宇佐見が言う。声は号令となって、すでに宴会の方へも届いていたが、考えている暇はない。
「『メリー』でいいわ! “他人ごっこ”はここまで! 蓮子、はぐれな――――……」
 無常にも、言い終わる前に彼女は闇に飲まれてしまった。繋いだままの手を引っ張り、「メリー! 離さないで!」 と力を込めて何とか脱しようと足掻くが、
「あ……ッ!」
 その手は、向こう側から解き放たれてしまう。闇の内側で、もう逃げられないと悟り、宇佐見だけでも先に行かせようとして、彼女は手を離したのか。そんな感傷に浸る余裕もなく、闇は進軍を続ける。宇佐見蓮子は、残された万能感の石を持って、月明かりだけの昏い森を駈け出した。
 枝を折る音が靴の裏側から響いてくる。耳が暖まり、息は激しくなる。木々を避けるために蛇行さしたせいで、体重の掛かった膝がすぐにも笑い始める。宇佐見が捕まるのは、時間の問題だった。
 そして、救いの手、蜘蛛の糸は垂れること無く、逃げる宇佐見の視界が、突如として闇に呑まれた。
 黒の境界に、追いつかれたのだ。僅かな視力すら奪われて、直立することすら困難になった宇佐見は、フラフラと走る勢いを弱めて、倒れないように務めるしか出来なくなった。
 闇の中は中空だった。ハーンの姿はない。体の感覚だけが残っている。
「私達が、何をしたっていうのよ……」 ただただ口をつくのは愚痴だけだった。
 ――――それに応える声がある。
「そうなのか?」
 まるで禅問答のように感じ、宇佐見は眉根を狭めた。
(すぐに死ぬわけじゃないのね)
 当惑が態度となり、握り締めた石が感情の発露を与えた。宇佐見は、言葉を解す闇に語り掛けた。
「私達は何もしてないわ」
「本当に何も?」
 云うと、すぐさま答えは戻ってきた。暗闇は、声を反響させるらしい。
「……そうよ。メリーもそう。返してよ」
「居るじゃない」
 宇佐見は振り返る。何も視えない。
「居ないわ」
「お前は居る」
「私じゃない」
「お前はお前じゃないのか?」
「私は、私よ」
「お前は居る。つまり、何かをしている」
「そういう事じゃなくて!」
 会話が噛み合わない。相手は何者なのか、万能感は、果敢にも対等にそれと話す事を望んだ。
「一体何なのよ! 何もかも」 言葉をぶつければ、変わるだろうか? 宇佐見は行動をさきにして手段を探す。
「……私も探してる。夜になって、真っ暗で見えなくなったから、匂いとか、音で探してた」 変わらない。解らない。
「じゃあ見えないのをやめれば良いじゃない」 続いて、そのまま言葉を拾ってみる。
「あー? できるのか?」
「できるわ」
「お前に?」
「……できるわ」 宇佐見は、その言葉を石に言わされた。
「やってみて」
「……………………」
 出来る訳がない。何しろ、闇は、二人が逃げ出すような代物だからだ。
「お前は嘘吐きなのか? それとも遊んでいるのか?」
「……」 声は出なかった。
 沈黙は虫の音を耳に知らせた。目に頼らなければ、此処はまだ、森の中だ。
「じゃあ、あなたは、どうして見えないのをやめないのよ」 遺言のよう絞り出す。
「そうなのか? 私は見えないのをしているのか?」
「わからないわ」
「だが、どうすれば見えるのだろう?」
「光を持てばいいじゃない」
「光を持っていても見えなくなる」
「目を開けるか、それとも、諦めれば?」 誰と話しているのだろう? 瞼を奪われて、宇佐見は完全に意志の世界へと落ち込んでいた。論理と、対話の世界。
「目が開いているかどうか、真っ暗闇で解るのか? ココが夢ではないと。お前は、空腹のまま諦めて満足か?」
「知らないわよ!」
 月は無い。時間も、場所の感覚も喪失した。
「そうなのか」
 ふと、宇佐見は気付いた。
 右肘から先、左肘から先の感覚が、無い。
「なら、お前が知っているものって何だ?」
 光るものが、一瞬見えた気がした。だが、目を凝らし始めると、視界は暗闇に埋もれてしまう。宇佐見は答えた。
「もう他は、月の裏側にも闇があるって事くらいよ! 影があるなら光がある。夜には明るい月が出る。ただそれだけよ!」
 骨盤の裏から、震えが訪れた。腕の感覚とともに失ったのは、託された万能感と石であった。恐怖が、宇佐見の目を見開かせて、その背筋に冷たい汗を生じさせた。
 すべてを悟る。突然の異世界に、戻れない道、正体不明の宴、怪物の影、黒い闇。異常に気がつく。血が通っていることすら認識されない黒の範囲は、腕を遡り、肩、鎖骨へと忍び寄ってくる。
「そうか。そうなのか。そんな、見分け方があったのか。夜は、月が出ているのか。見上げれば、見えないのと、暗いのの見分けがつくのか」
 声は謂い、「ああ、お腹減った」
 そう最後に呟くと――――――





へるん@秘封倶楽部 : 石を持ったままだったら、最後まで“他人ごっこ”してたかもね
宇佐見@秘封倶楽部 : 夢だったとはいえ最後まで他人同士なのは嫌だしねー

へるん@秘封倶楽部 : 本当に夢だったのかしら?
宇佐見@秘封倶楽部 : どうなんだろう。あ、おでこ平気?

へるん@秘封倶楽部 : うん。大丈夫。夜の森なのか、電車で前の座席にぶつけたのか、わからないわねコレ
宇佐見@秘封倶楽部 : けど、もう石は無いよ

へるん@秘封倶楽部 : もし“結界の向こう側”だったのなら、色々と杜撰よね
宇佐見@秘封倶楽部 : そうねー。都市伝説通りなのはいいけど、他人のフリで行けちゃったものね

へるん@秘封倶楽部 : 案外、選ぶ側にはしっかり見えていないのかもね
宇佐見@秘封倶楽部 : 「神様の目」かー

へるん@秘封倶楽部 : _
へるん@秘封倶楽部 : _
宇佐見@秘封倶楽部 : ?

へるん@秘封倶楽部 : いやはや。
宇佐見@秘封倶楽部 : どうしたの? メリー

へるん@秘封倶楽部 : お友達のふりも大変だなと思ってさ。
へるん@秘封倶楽部 : 宇佐見蓮子ちゃんだっけ?
へるん@秘封倶楽部 : どうして画面の向こうにいるのが私だと思った?

宇佐見@秘封倶楽部 : 冗談やめてよ。怖いよ
へるん@秘封倶楽部 : ジョークかどうか確かめてみようか?
へるん@秘封倶楽部 : 無知なのとは違って、情報を多く持てるっていうのは、こういう事も出来るんだよ?



 コンコン……。
 音だ。それは、宇佐見蓮子の部屋の玄関扉を、チャイムも使わずにノックする音だった。すでに深夜。探索を終え、マエリベリー・ハーン含め、みな帰宅しているはずだ。
「もしかして、別世界から、何か連れて来ちゃった?」
 独り小さく呟いて、怖ず怖ずと蓮子は玄関に向かっていく。当たり前だが、夜間の戸締まりとして鍵を掛けていたのは幸いだった。寝間着靴下のまま土間を踏み、玄関戸の覗き窓に目を近づけていく。
 廊下には――誰の姿もない。
「……怪奇現象?」 その時、握りしめていた総合端末から新しいメッセージの着信があった。

へるん@秘封倶楽部 : 私、メリー。あなたの、後ろに居るの。

「えっ!?」
 成されるがまま、誘われて蓮子は振り向いた。
 誰も、居ない。
 コンコン。再びノック。
 一歩たじろいで、彼女は次の行動をためらった。万能感を演出してくれる石はもうない。現実だ。
 宇佐見蓮子は困惑していた。話だけでは、それが本当かどうか、判別できないからだ。今日、他人として会ったマエリベリー・ハーンは、果たして、本物だったのだろうか?
 宇佐見蓮子は思い出していた。あの世界。闇の声との会話は、彼女に、ひとつのメッセージを送らせる結果となる。

宇佐見@秘封倶楽部 : あなたは、嘘吐きなの? それとも遊んでいるの?

 すると、もう一度、ノック。
 意を決した蓮子が、見えないものへと再挑戦すると、扉を隔てた其処には、
「今しか出来ないような気がしたからしたの」
 電子的な質問の答えを、境界一枚挟んで発して、額に絆創膏をつけた人物が居た。意地悪そうな笑みと、当たり前のような、見知った顔。


   ――――へるん@秘封倶楽部さんが入室しました。
 それから、現実にも戻った二人は、「何故異世界から戻れたのか」のではなく、「どうしてそんな夢を見てしまったのか」と語り合った。
「もし、あの石が本当にすごいマジックアイテムで、怪異の手に渡ったらどうなるのだろう?」
「人間には過ぎた代物だけど、精神性の優位が重要視される妖怪が拾ったのなら、有効に使えるかもね」
「けどさ、そんな効果のあるものって、もうそれ自体が妖怪なんじゃない?」
「石に支配されるのは変わらないのね」
「“何でこんな事考えてるんだろう”」



執筆中お世話になった音楽
Celephaïs - Tir n'a n'Og(アトモスフェリックブラックメタル)
alcest - kodama(シューゲイザーブラックメタル)
R‐TYPE⊿ - 生命
判読眼のビブロフィリア
henry
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コメント



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ルーミアちゃんが怖いです。

とても面白かった。