「この水を作ったのは誰だぁ!」
地霊殿の執務室の扉を足で蹴り飛ばし、開口一番。
私の右手には『地底深層水 パル水』とラベルの貼られた一升瓶。
なお裏側には、『あの橋姫が清めた地底666階の深層水 橋姫様のありがたいありがとう水』などと、わけの分からない煽り文句まで書かれている。
「おや、どうしましたパルスィ」
抜け抜けと目の前で椅子に座ってふんぞり返っているさとりを見て、こいつだと確信する。
「これ作ったのあんたでしょう」
「ふむ。地底深層水 パル水ですか。何々、あの橋姫が……」
「読まなくて良い!」
「で、これがどうかしました」
「これを持って来てくれた親切な友人が居てね。旧都では良い値段で取引されてるとかで、思い切り心配されたわ」
「それで?」
「三つ数える内に正直に吐きなさい。吐かなきゃぶん殴るわ。ひとーつ」
「吐くも何も私はこんなもの知りませんよ。大体扉を蹴り飛ばして来るなんて無作法にも」
ズゴン!
「はい、ふたーつ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。何で三数える前に殴られないといけないんですか!」
「その澄ました顔がむかついたから。はいみーっつ」
ズゴン!
「痛たたた、だから私は」
「何、もう百発くらいいっとく? 今回ばかりは、あんたが吐くまで何発でもいくわよ」
「お、落ち着いて下さいパルスィ」
「良ーし、次はこの瓶が良さそうね」
瓶を大上段に構えて、緑眼を光らせ思いっきりの笑顔をさとりに向けてやる。
ああ、割れた瓶で〇×△□ってのも良いわね。
「良くないです! 喋ります! 喋りますから一旦落ち着いて下さい」
「最初からそうすれば良いのよ」
とりあえず瓶は下ろしてやった。
「でも、何で私だって思ったんですか」
「こんな事考え付いて、且つ実行までしそうな奴があんたしか居ない。ってのも有るけど、私が部屋に入った時の反応よ」
「反応?」
「あんた自分が知らない時は、状況の把握に努めようとする癖が有るの」
「……なるほど」
私が部屋に入った時、こいつはのんびりと椅子に座って何もしようとしなかった。
する必要が無かったからだ。
事情を知っていたから。
さとりは顔に手を当てて考え込む。
「油断、と言うよりは怠慢でしょうね。気を付けます」
癖を見抜かれる事は弱点に繋がる。
敵の多いさとりは癖になりそうな動作に『振りをする』『わざとしない』『一つ余計な動作を入れる』ありとあらゆる偽の動作を、日常に刷り込むようにして癖を消す努力をする。
余計な事を教えてしまったかと思ったが、どうせ心を読まれたら一緒だから仕方が無い。
あぁ、次から別の癖を見つけなきゃ。
***
「予算がなかったんです」
「は?」
「だから、怖い顔しないで下さい……ほら、近年地底の金産出量が減っているのは知っていますよね」
「そりゃね」
怨霊の数は変わらないが、生み出される金の量が徐々に減って来ている。
このままではいずれ金が枯渇するのではと、瓦版でも大々的に扱われ、地底ラジオでも特番が組まれたりするくらいだ。
「それで、地霊殿の財政も年々厳しくなって来ていてですね、今年は遂に公的資金までも不足する有様で」
「これまでの貯蓄はどうしたのよ、結構余ってるわよね」
「有るには有りますが、これを使ってしまうと今後も貯蓄に頼る癖が付きます。そして貯蓄は無限ではないので、金の量が元に戻らない限り最後の手段にしたいんです」
「なるほどね、まぁその辺の事情は分かったわ」
「分かってくれましたか」
ほっと息をつくさとり。
「で?」
「で、とは?」
「それが何で、これに繋がるのって聞いてるのよ!」
ドン、と一升瓶をさとりの前に置く。
「あー、その、地底って金以外の産物が何も無いじゃないですか。それで最近読んだ本にただの水をどうやって売るか、と言う興味深い話が有って、色々と考えた結果……」
「考えた結果がこれ?」
「その、あの時はお酒も入っていて、考え付いた時は私に電流走る、みたいな感じだった、と言うか」
分からなくはない。
思いついた時は最良に思えた事が、後に何でこんな事考えたんだろう、となってしまう事はよくある。
徹夜、酩酊、締切り前の焦り、場の雰囲気エトセトラエトセトラ。
いわゆる魔が差したと言う奴だ。
そうならないように作家は、作品を作り上げたら一週間程度放置して、冷静になって見直してみると言った事をするらしい。
まぁこいつの場合、絶対やるタイプでないのはよく分かっている。
でなきゃこんなものが世に出回っているわけがない。
「で、そのまま私に許可も得ずに、勢いで売りに出したと」
「だって、相談したら反対すると思って」
あ、こいつは思い立ったら誰にも相談しないで突っ走ってしまう、とことん駄目な奴だ。
「そうね、今度こそ分かったわ」
「分かって貰えましたか」
「ええ、その駄目で無駄なでかい目玉を絞った汁を、ガラナジュースとして売り出す」
さとりの胸元のでかい物体を握り締め、中身が飛び出す程度に力を込める。
「ぃたたた!」
「こんな役立たず潰してしまった方が、世のため人のため妖怪のためよ」
「お願いですから、これだけは、これだけはやめて下さい! 他の事なら何だってしますから」
逃げられない程度に、手に込めた力を緩める。
「じゃあまず一つ、商品の回収」
「仕方無いですね、貯蓄から回収予算に割り当てます」
「次に、私がこれに一切関わっていない事の周知徹底」
「それも分かりました、回収時に一緒にやるようにします」
「最後に虚偽の内容についての訂正。大体私が清めたとか、そんな嘘まででっち上げるなんてねぇ……」
「あ」
そこまで言ってさとりの顔を見ると、目を逸らして思い切り不審な顔をしている。
――非常に嫌な予感がする。
「ねえさとり。一つ確認したい事が有るのだけど」
「あ、いえあの、非常に言い難い事で、その、何と申したら良いか。流石に嘘は良くないと思ったと言うか」
「言え。言わなきゃ玉潰す」
「パルスィが入った後の温泉がちらりと目に入って!」
虚偽である事を肯定せず言い淀む。
そして私が入った温泉が目に入った。
この二つから導き出される結論は、一つしかない。
残酷な現実だ。
「そう……」
「あ、あのパルスィ私は」
「良いのよ、さとり。あなたはただ魔が差してしまっただけよね」
握っていたサードアイから手を離す。
「あ、あの?」
「何よ。正直に話してくれたんだから、もう潰すような事はしないわ」
「あ、ありがとうございま」
「ところでさとり、私ね、以前こいしからあなたの書いた小説の場所を教えて貰った事があるの」
書棚に近付き、聞いた通りに、三段目にある分厚い赤い本を引き出して開く。
くり抜かれた本の中には、よれた原稿の束が詰め込まれていた。
あからさまにさとりの顔色が変わる。
作家の中には、未完成の原稿、出来が悪い原稿を見られる事を死ぬ以上に嫌がる奴が居るらしい。
こいしの話では、間違いなくさとりもそんな作家の習性を持っているとの事だった。
「中には余りにも酷くて、封印しているものもある。と聞いたけど、意外とそう言うものが売れたりするのよね」
「や、やめてそれだけは」
「この際作家業で、収入を得られるようにしたら良いんじゃないかしら。地上にも売り出せば規模も大きくなるでしょうし」
「お、お願いですから」
「そうだ、地上の天狗って新聞を発行してるのよね。そこに連載を持たせて貰ったらどうかしら」
「そ、そんな事したら死んでしまいます」
真っ青になって、懇願をするような顔をしていた。
「もう、さとりったら大丈夫よ。あなたは私に何も言わなかった、でも私はちゃんとあなたに言ったんだから、私のほうが遥かに優しいわ」
「何も大丈夫じゃないです! お願いですからそれだけは」
「あら、止める権利があなたにあると思ってるの」
泣きそうな顔をしているが、何を言われても聞くつもりはない。
サードアイを潰される以上の苦痛を味わって貰う以外にないのだから。
「それじゃ旧都に『古明地さとりの書いた小説』として売り込んで来るわ。名前を聞けば中身に関わらず出版してくれると思うから。あ、それと回収の方はよろしくね」
何かを言おうとするさとりをよそ目に、執務室の立てかけの悪い扉を閉めた。
原稿料が出たら、記念にこの立てかけの悪い扉も買い換えてあげよう、と思いながら。
***
後日。
「おーい、お姉ちゃん、お姉ちゃんってば。いい加減仕事しないと閻魔様に叱られるよ」
「仕事なんてもう知りません、誰にも会わないように、ここで死ぬまで引き篭もって過ごすんです」
「またそんな事言って。そりゃ私もパルスィにお姉ちゃんのあれの事話したのは悪かったと思うけど、結局出版されなかったんだからもう良いじゃん」
「パルスィに見られました」
「えー、もう贅沢だなぁ。折角パルスィが『これは本当に(社会的に)死にかねないから返す』って持って来てくれたのに」
「それが最悪なんです」
結局私の書いた小説は、心を読まなくても分かるほど顔に出た、何とも言えない表情のパルスィから返却された。
その時不覚にも情けなくて泣いてしまったのを、パルスィに慰めて貰ったのがまた情けなくなった。
「こいし、私はもう駄目です。後の事はペットと相談して下さい、地霊殿を頼みます」
「もう駄目なのは構わないけどさ、ちゃんとパルスィとの約束だけは守ってよね。あれはお姉ちゃんの仕事なんだから」
「う、それもお願い出来ませんか」
「そっかぁ、お姉ちゃんは、相手に失礼な事しても妹の私に押し付けて責任を取らせるんだ、ふーん。良いよ、やってあげるからそこで引き篭もってて。じゃあね」
「ま、待って」
部屋を出て行こうとするこいしを呼び止める。
「何かな、情けないお姉ちゃん」
「その、あなたに押し付けようとしてごめんなさい。あれは私の取らなくてはいけない責任ですね」
「うん、だから?」
「引き篭もりはお仕舞いです。仕事もちゃんとやります。だから、私にやらせて」
「うん、良いよお姉ちゃん。それじゃ私もお手伝いの準備してくるね」
「ええ、お願いします」
その後、『地底深層水 パル水』は事情を説明して回収。
使用済み分に関しては戻せるものでもないため、手打ちとなった。
が、使用者から病気が治った、健康になったので引き続き購入したいとの要望が有り、協議の結果パル水の元になった温泉を開放する事となった。
その温泉は非公式ながら、パル水の元となった温泉『パル水泉』と呼ばれるようになったそうだ。
地霊殿の執務室の扉を足で蹴り飛ばし、開口一番。
私の右手には『地底深層水 パル水』とラベルの貼られた一升瓶。
なお裏側には、『あの橋姫が清めた地底666階の深層水 橋姫様のありがたいありがとう水』などと、わけの分からない煽り文句まで書かれている。
「おや、どうしましたパルスィ」
抜け抜けと目の前で椅子に座ってふんぞり返っているさとりを見て、こいつだと確信する。
「これ作ったのあんたでしょう」
「ふむ。地底深層水 パル水ですか。何々、あの橋姫が……」
「読まなくて良い!」
「で、これがどうかしました」
「これを持って来てくれた親切な友人が居てね。旧都では良い値段で取引されてるとかで、思い切り心配されたわ」
「それで?」
「三つ数える内に正直に吐きなさい。吐かなきゃぶん殴るわ。ひとーつ」
「吐くも何も私はこんなもの知りませんよ。大体扉を蹴り飛ばして来るなんて無作法にも」
ズゴン!
「はい、ふたーつ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。何で三数える前に殴られないといけないんですか!」
「その澄ました顔がむかついたから。はいみーっつ」
ズゴン!
「痛たたた、だから私は」
「何、もう百発くらいいっとく? 今回ばかりは、あんたが吐くまで何発でもいくわよ」
「お、落ち着いて下さいパルスィ」
「良ーし、次はこの瓶が良さそうね」
瓶を大上段に構えて、緑眼を光らせ思いっきりの笑顔をさとりに向けてやる。
ああ、割れた瓶で〇×△□ってのも良いわね。
「良くないです! 喋ります! 喋りますから一旦落ち着いて下さい」
「最初からそうすれば良いのよ」
とりあえず瓶は下ろしてやった。
「でも、何で私だって思ったんですか」
「こんな事考え付いて、且つ実行までしそうな奴があんたしか居ない。ってのも有るけど、私が部屋に入った時の反応よ」
「反応?」
「あんた自分が知らない時は、状況の把握に努めようとする癖が有るの」
「……なるほど」
私が部屋に入った時、こいつはのんびりと椅子に座って何もしようとしなかった。
する必要が無かったからだ。
事情を知っていたから。
さとりは顔に手を当てて考え込む。
「油断、と言うよりは怠慢でしょうね。気を付けます」
癖を見抜かれる事は弱点に繋がる。
敵の多いさとりは癖になりそうな動作に『振りをする』『わざとしない』『一つ余計な動作を入れる』ありとあらゆる偽の動作を、日常に刷り込むようにして癖を消す努力をする。
余計な事を教えてしまったかと思ったが、どうせ心を読まれたら一緒だから仕方が無い。
あぁ、次から別の癖を見つけなきゃ。
***
「予算がなかったんです」
「は?」
「だから、怖い顔しないで下さい……ほら、近年地底の金産出量が減っているのは知っていますよね」
「そりゃね」
怨霊の数は変わらないが、生み出される金の量が徐々に減って来ている。
このままではいずれ金が枯渇するのではと、瓦版でも大々的に扱われ、地底ラジオでも特番が組まれたりするくらいだ。
「それで、地霊殿の財政も年々厳しくなって来ていてですね、今年は遂に公的資金までも不足する有様で」
「これまでの貯蓄はどうしたのよ、結構余ってるわよね」
「有るには有りますが、これを使ってしまうと今後も貯蓄に頼る癖が付きます。そして貯蓄は無限ではないので、金の量が元に戻らない限り最後の手段にしたいんです」
「なるほどね、まぁその辺の事情は分かったわ」
「分かってくれましたか」
ほっと息をつくさとり。
「で?」
「で、とは?」
「それが何で、これに繋がるのって聞いてるのよ!」
ドン、と一升瓶をさとりの前に置く。
「あー、その、地底って金以外の産物が何も無いじゃないですか。それで最近読んだ本にただの水をどうやって売るか、と言う興味深い話が有って、色々と考えた結果……」
「考えた結果がこれ?」
「その、あの時はお酒も入っていて、考え付いた時は私に電流走る、みたいな感じだった、と言うか」
分からなくはない。
思いついた時は最良に思えた事が、後に何でこんな事考えたんだろう、となってしまう事はよくある。
徹夜、酩酊、締切り前の焦り、場の雰囲気エトセトラエトセトラ。
いわゆる魔が差したと言う奴だ。
そうならないように作家は、作品を作り上げたら一週間程度放置して、冷静になって見直してみると言った事をするらしい。
まぁこいつの場合、絶対やるタイプでないのはよく分かっている。
でなきゃこんなものが世に出回っているわけがない。
「で、そのまま私に許可も得ずに、勢いで売りに出したと」
「だって、相談したら反対すると思って」
あ、こいつは思い立ったら誰にも相談しないで突っ走ってしまう、とことん駄目な奴だ。
「そうね、今度こそ分かったわ」
「分かって貰えましたか」
「ええ、その駄目で無駄なでかい目玉を絞った汁を、ガラナジュースとして売り出す」
さとりの胸元のでかい物体を握り締め、中身が飛び出す程度に力を込める。
「ぃたたた!」
「こんな役立たず潰してしまった方が、世のため人のため妖怪のためよ」
「お願いですから、これだけは、これだけはやめて下さい! 他の事なら何だってしますから」
逃げられない程度に、手に込めた力を緩める。
「じゃあまず一つ、商品の回収」
「仕方無いですね、貯蓄から回収予算に割り当てます」
「次に、私がこれに一切関わっていない事の周知徹底」
「それも分かりました、回収時に一緒にやるようにします」
「最後に虚偽の内容についての訂正。大体私が清めたとか、そんな嘘まででっち上げるなんてねぇ……」
「あ」
そこまで言ってさとりの顔を見ると、目を逸らして思い切り不審な顔をしている。
――非常に嫌な予感がする。
「ねえさとり。一つ確認したい事が有るのだけど」
「あ、いえあの、非常に言い難い事で、その、何と申したら良いか。流石に嘘は良くないと思ったと言うか」
「言え。言わなきゃ玉潰す」
「パルスィが入った後の温泉がちらりと目に入って!」
虚偽である事を肯定せず言い淀む。
そして私が入った温泉が目に入った。
この二つから導き出される結論は、一つしかない。
残酷な現実だ。
「そう……」
「あ、あのパルスィ私は」
「良いのよ、さとり。あなたはただ魔が差してしまっただけよね」
握っていたサードアイから手を離す。
「あ、あの?」
「何よ。正直に話してくれたんだから、もう潰すような事はしないわ」
「あ、ありがとうございま」
「ところでさとり、私ね、以前こいしからあなたの書いた小説の場所を教えて貰った事があるの」
書棚に近付き、聞いた通りに、三段目にある分厚い赤い本を引き出して開く。
くり抜かれた本の中には、よれた原稿の束が詰め込まれていた。
あからさまにさとりの顔色が変わる。
作家の中には、未完成の原稿、出来が悪い原稿を見られる事を死ぬ以上に嫌がる奴が居るらしい。
こいしの話では、間違いなくさとりもそんな作家の習性を持っているとの事だった。
「中には余りにも酷くて、封印しているものもある。と聞いたけど、意外とそう言うものが売れたりするのよね」
「や、やめてそれだけは」
「この際作家業で、収入を得られるようにしたら良いんじゃないかしら。地上にも売り出せば規模も大きくなるでしょうし」
「お、お願いですから」
「そうだ、地上の天狗って新聞を発行してるのよね。そこに連載を持たせて貰ったらどうかしら」
「そ、そんな事したら死んでしまいます」
真っ青になって、懇願をするような顔をしていた。
「もう、さとりったら大丈夫よ。あなたは私に何も言わなかった、でも私はちゃんとあなたに言ったんだから、私のほうが遥かに優しいわ」
「何も大丈夫じゃないです! お願いですからそれだけは」
「あら、止める権利があなたにあると思ってるの」
泣きそうな顔をしているが、何を言われても聞くつもりはない。
サードアイを潰される以上の苦痛を味わって貰う以外にないのだから。
「それじゃ旧都に『古明地さとりの書いた小説』として売り込んで来るわ。名前を聞けば中身に関わらず出版してくれると思うから。あ、それと回収の方はよろしくね」
何かを言おうとするさとりをよそ目に、執務室の立てかけの悪い扉を閉めた。
原稿料が出たら、記念にこの立てかけの悪い扉も買い換えてあげよう、と思いながら。
***
後日。
「おーい、お姉ちゃん、お姉ちゃんってば。いい加減仕事しないと閻魔様に叱られるよ」
「仕事なんてもう知りません、誰にも会わないように、ここで死ぬまで引き篭もって過ごすんです」
「またそんな事言って。そりゃ私もパルスィにお姉ちゃんのあれの事話したのは悪かったと思うけど、結局出版されなかったんだからもう良いじゃん」
「パルスィに見られました」
「えー、もう贅沢だなぁ。折角パルスィが『これは本当に(社会的に)死にかねないから返す』って持って来てくれたのに」
「それが最悪なんです」
結局私の書いた小説は、心を読まなくても分かるほど顔に出た、何とも言えない表情のパルスィから返却された。
その時不覚にも情けなくて泣いてしまったのを、パルスィに慰めて貰ったのがまた情けなくなった。
「こいし、私はもう駄目です。後の事はペットと相談して下さい、地霊殿を頼みます」
「もう駄目なのは構わないけどさ、ちゃんとパルスィとの約束だけは守ってよね。あれはお姉ちゃんの仕事なんだから」
「う、それもお願い出来ませんか」
「そっかぁ、お姉ちゃんは、相手に失礼な事しても妹の私に押し付けて責任を取らせるんだ、ふーん。良いよ、やってあげるからそこで引き篭もってて。じゃあね」
「ま、待って」
部屋を出て行こうとするこいしを呼び止める。
「何かな、情けないお姉ちゃん」
「その、あなたに押し付けようとしてごめんなさい。あれは私の取らなくてはいけない責任ですね」
「うん、だから?」
「引き篭もりはお仕舞いです。仕事もちゃんとやります。だから、私にやらせて」
「うん、良いよお姉ちゃん。それじゃ私もお手伝いの準備してくるね」
「ええ、お願いします」
その後、『地底深層水 パル水』は事情を説明して回収。
使用済み分に関しては戻せるものでもないため、手打ちとなった。
が、使用者から病気が治った、健康になったので引き続き購入したいとの要望が有り、協議の結果パル水の元になった温泉を開放する事となった。
その温泉は非公式ながら、パル水の元となった温泉『パル水泉』と呼ばれるようになったそうだ。
ダメなさとり好きです
パル水泉……万病に効く温泉か……w
あー猫額さんのさとパル距離感いいよぉ…
萌えて笑って冷えた心が温まりました!
一ヶ月以上経ちましたが、返信を(番号については敬称略で)
>>1 ダメなさとり様大好きです。
>>2 地底限定なので、まずは地底に知人を作るところから・・・!
SPIIさん
ひどい話系が好きです。
>>4 タ イ ト ル 詐 欺
>>5 多分千円じゃ足りないです。
>>7 ありがとうございます。
>>9 昔思い付いたのですが、使いどころが無いのでここで(どっかで使ってたかも知れませんが)。
>>11 ガラナだよこれー!!
>>12 やめてさしあげろ下さい。
南条さん
パル水だけに。
大根屋さん
嫉妬パワーが何やかんやで温泉に作用して・・・。
>>15 楽しく読んで頂けてよかったです。
>>20 後でアイデアには使えたりするのと、心情的に結構捨てにくいと言うのがあったとか。
>>23 そう言って頂けると、ありがたいです。