恐怖とゆうものは全ての行為を正当化する。
それゆえ霊烏路空は逃げていた。逃げる、という自らの行為を正当化しながら。
どこに逃げるか、などという些少な問題はもはや彼女の頭の中にはなかった。
そもそもの原因は一年前にさかのぼる。
「原子力発電?」
「ええ。そのために核の力を持つおたくのペットが必要なんです」
お空の主人、古明地さとりを幻想郷の賢者八雲紫が訪ねてきたのだ。
なんでも妖怪の賢者の総意で幻想郷に発電所をつくることになったらしい。
その動力としてこの前異変を引き起こし、その能力に注目が集まっていたお空に白羽の矢がたったという訳だ。
「ふむふむ...。それでウチのペットを貸してほしいと。妖怪の山の神の許可は....既におりているようですね。で、地上の諸勢力は....大方賛同していてごねているのが紅魔館の吸血鬼だけ、ですか。わかりました。お空!こっちに来なさい」
「うにゅ?なんですか、さとりさま」
さとりに呼ばれてなんだか分からぬ顔をしているお空が呼ばれる。まさか自分が発電所の動力として期待されているなんて思ってもいないだろう。
「この子が...そうなのね」
「ええ、そうです。この子が霊烏路空です。お空、この方は八雲紫といって地上の偉い方なの。今日はお前の為に来てくださったのよ」
「そ、そうですか。は、じめぇまして。れいうりおぐぅといいまふ」
お空はびっくりした。まさか久しぶりのお客が自分に会いに来たとは!それも地上の偉い人だという。お空はおっかなびっくり腰を曲げてどもりながら挨拶してしまったのだ。
お空はそのことに羞恥を感じた。天真爛漫な彼女が滅多に感じることの無い感情だが、このときばかりは主人に恥をかかせてしまったのだと思ったのだ。彼女は極度に粗相を恐れてしまう性格でもあった。
「そう。霊烏路空、というのね。私は妖怪の賢者八雲紫よ」
お空は自分の恥ずかしい挨拶をスルーしてくれた客人に対して感謝の念を抱いたが、同時に彼女、八雲紫に軽蔑されているように感じた。
実のところ彼女が彼女自身を軽蔑しているだけなのだが、どうも感情の整理がにがてなお空は軽蔑が相手からきていると勘違いしてしまった。
そして粗相の原因はそもそも今日突然やってきた客人にある、と考えて僅かな憎しみを八雲紫に抱くのだった。
こうやって負の感情を抱いて失敗することを過度に恐れるのが彼女の常であった。
「お空、この方はね、地上を代表して来てくださったのよ。あなたに電気をつくってほしいんですって」
「電気?」
「そう、電気です。貴女にその神の力、核の力で電気をつくっていただきたいのです。大丈夫、貴女は難しいことをする訳ではありません。妖怪の山のものたちが既に設備を整えてくれています。後は試運転だけですわ」
「そう、難しいことはないのよお空。何事もやってみるものですよ」
古明地さとりが突然の話に乗り気なのは理由があった。
古明地さとりはさとり妖怪である。
彼女の心を読むという能力は大抵忌避された。誰でも心の声を黙らせることはできないからだ。怒りと嫉妬と淫欲にまみれた真実の己を知られるのは誰だって嫌に決まっているのだから。
なればどうすればいいか。追いやればいいのだ、読心の能力が及ばないところまで。
そしてさとりは妹のこいしと一緒に地底においやられた。
多くの人間と妖怪に見下されて地下に追いやられたのも悲しいことだったが、同じく追いやられた地底の妖怪にさえ忌み嫌われたのだ。
このことはさとりを深く悲しませ、同時に憎悪を覚えさせた。
閻魔に地霊殿を任された後はひたすら妹と一緒に引き篭もった。この小さく温かい団らんさえあれば、こいしさえいれば何もいらなかった。そう思っていた。
ある日のこと、こいしが第三の目を閉じていた。驚いたさとりはこいしを問いただしたが、返事は要領を得なかった。こいしの目もさとりの目に焦点が合わなかった。そして可愛らしかった顔も能面のようなのっぺりとした顔に変貌していた。そして次の日には地霊殿から姿を消していた。
さとりは絶叫した。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で一日中地霊殿の中でこいしを探した。
結局再びこいしと会ったのはそれから百年後だった。
孤独と悲しみによって絶望に暮れていた彼女はしばらくしてからペットを飼い始めた。ペットは主人の気持ちを裏切らない。嫌悪の感情をぶつけてこない。
つまりは都合のいい慰みものとしてペットを飼ったのだった。
決して悪いことでは無かったが、孤独と悲しみは薄れても、自分を苦しみにおいやった「他人」への憎悪は消えることは無かった。こいしが帰ってきてもそれは変わらなかった。
もう、すでに彼女にとってこいしは「他人」だったから。
八雲紫の心を読み取った時はさとりの心は喝采を叫んだ。
憎い地上の連中の生殺与奪の権、それでなくても影響力は行使できるだろう。
お前たちが排斥したこの私を見ろ。お前たちなんかよりずっと偉いのだ。這いつくばって懇願でもしてみるがいい。電気は私のものだ。ざまぁ。
彼女の中ではペットは家族であり玩具でもあった。
愛するものであると同時に自由に扱える財産でもあった。
彼女はペットにも感情があることを「知っては」いたが「分かって」はいなかった。
そして肝心の発電所の所有権は地上にあるのだからさとりの好きにはできないのだが、長年の妄執にかられた彼女の心は濁ってしまい都合のいい部分だけみて都合よく考えてしまっていた。
お空はさとりに従った。電気を生産する業務に従事することに逆らいはしなかった。
ただの地獄鴉だった自分を拾って育ててくれた恩義に報いるために。大切な家族のために。
早速お空はそのことを親友のお燐に伝えにいった。
お燐はお空の新しい仕事に難色を示し、反対した。
まず第一にお空は動力として期待されている以上まともな待遇があるか怪しいこと。
次に発電所が地上にあるので地霊殿にもどってこれなくなるだろう、ということだ。
お空はそれでもさとりさまのためだから、といってお燐の反対を押し切った。
お空が発電所の試運転に行く日の朝、地霊殿の玄関でお燐は寂しそうに友人を見送った。
妖怪の山の原子力発電所の試運転はうまくいった。河童や天狗といった雑多な妖怪も皆、この幻想郷の新しい時代が来るのを感じて思わず万歳三唱していた。八雲紫ら妖怪の賢者もそれを嬉しそうに見ていた。
試運転が成功したのを境に幻想郷に電柱などの送電設備の建設が始まった。
飛んでるものたちの迷惑だから、ということで電柱は地下に埋められることになった。
そのため永遠亭まで電線を引くときは竹の地下茎が邪魔で工事に苦労したという。
お空もだんだん増える送電の需要に合わせ電力供給量を上げていった。
初めはさとりさまの役にたって、地上のみんなも喜んでくれて嬉しい、と思っていたのが少しずつ変化してきた。
それはというもの、同じく発電所に勤める同僚の妖怪たちのお空への視線が尊敬する人を見るものから、機械、いやエネルギー源として見るようになったからだ。
このことを悟ったお空は恐怖を覚えた。お空は決してエネルギーの塊などではなく、可愛い女の子なのだ。スタイルだって悪くはないし、その恐怖を感じやすい性格を除けば、素直で優しい可愛い女の子なのだ。大事なことなので二回言いました。
一年間発電所で過ごしているうちにお空は発電が嫌になってきた。お燐には強がりを言ったが、やはりさとりさまに頭をなでなでしてほしいし、お燐からぎゅうっと抱きしめて欲しかった。
孤独はお空の心を弱くしていたのだ。
試運転から約一年が過ぎた頃、お空は脱走した。
とにかく地霊殿に向かった。さとりさまだって一年頑張ったのだから許してくれるはず。
そう考えて地霊殿にお空は向かった。
「仕事はどうしたの、お空」
地霊殿に帰ったお空を待っていたのはさとりからの厳しい言葉だった。
そのころさとりはお空を貸し出すことでお金を得ることができていて、けちくさい閻魔からの給料よりも多かった。
それにペットのお空が電気を生産していることは彼女の優越感や自己顕示欲を刺激した。
それに彼女は電気が通り始めた地底でも一目置かれるようになっていた。
今更お空を地霊殿に帰そうとは思わなかった。
今のさとりは幸せだったから。
妹を見限り、ペットを金と心の快感で売り払っても。しあわせだった。
清潔そうな若い青年のはきはきした言葉と共に放たれる性欲。
感謝の言葉の裏の嫉妬。
助けた老婆からの恐怖。
仲良くなった妖怪からの嘲笑と侮蔑。
数百年に及ぶ不健康で不健全なさとりの人生は彼女の人生観を歪なものにしていたのだ。
「さとりさま。もう発電は嫌です。地霊殿に帰りたいです」
その言葉にさとりは激怒した。
口汚い言葉で罵った。
誰だって自分の幸福の障害は排除するものなのだから。
さとりの場合、それはお空の帰還だった。
お空は逃げた。そのまま発電所にも戻らなかった。
この事態に八雲紫ら幻想郷の妖怪は驚いた。そしてお空を必死で捜索した。
そしてようやく見つけた時はお空は博麗大結界を突破しようとしていた。
彼女は恐怖に駆られていた。もうどの世界にも安穏とした自分の居場所はないのだ。
でも博麗大結界を超えれば居場所があるかもしれない。
お空は錯乱していた。彼女の激しい恐怖はとんでもない行為も正当化した。
「待て!止まらねば斬る!致命傷以外は負うものと思え!」
白狼天狗の集団が追撃してきた時も、彼女は核の力を容赦なく使った。
それでも沢山の負傷者は生んだが、死者は出さなかった。殺すことができないほど彼女は優しかった。異変の時の教訓を彼女なりに理解していたのだ。
殺したらもう二度と命は戻らない。
追っての妖怪だって友人や家族、恋人がいるのだから。
私にとってのさとりさまやお燐のように。
それでも分かっていた。もうお空は家族の元には戻れないことを。
幻想郷にいる限り幸せにはなれないことを。
その可憐な顔を歪めて悲しそうにお空はうつむいたが、それでももう覚悟はきまっていた。
「待ちなさい!貴女には重要な役目が..」
「待て!お前には電気を作ってもらわないといけないんだ」
「こたつも電気が必要だ」
「冷蔵庫の食べ物も腐っちゃう!貴女が必要なの」
「待てよ!逃げるな、卑怯者!」
八雲紫を始めとする沢山の妖怪と人間が追って来ていた。
皆お空に懇願した。どうか逃げないで。あなたはまだ必要とされている。責任が君にはある。最後までやれよ!お空、貴女は何が不満なの?博麗大結界を超えると死ぬぞ!あきらめろ!この壺を五百万円で...。引っ張ってでも連れて帰る!逃がす訳にはいかない!
いろとりどり弾幕がお空に向かって空の上を走った。
お空はしばし瞑目した。そして目を開くと同時に弱く核融合の力をぶっ放した。世界は真っ白になった。
そこからは死闘だった。数百の弾幕。襲い掛かるたくさんのスキマ。それらをかいくぐりお空はひたすら撃ち続けた。
気づいた時にはお空は砂浜で寝ていた。
海が見える。知識ではさとりから聞いていたので、これが海だと直感で理解した。
波は柔らかく浜に打ち付けられては沖の方に還って行った。
遠くには帆船が見えた。
ここは何処なのだろう。
とりあえずお空は砂浜から沖の方に飛び立った。
海は蒼くたゆたうだけ。
空も白く輝く太陽が昼だということを示していた。
お空はただただ寂しかった。
海の水平線の向こうには町が見えた。尖塔がたくさんあるのが分かる。
嗚咽をもらして涙を空にまき散らしながらお空は町の方へと飛んで行った。
それゆえ霊烏路空は逃げていた。逃げる、という自らの行為を正当化しながら。
どこに逃げるか、などという些少な問題はもはや彼女の頭の中にはなかった。
そもそもの原因は一年前にさかのぼる。
「原子力発電?」
「ええ。そのために核の力を持つおたくのペットが必要なんです」
お空の主人、古明地さとりを幻想郷の賢者八雲紫が訪ねてきたのだ。
なんでも妖怪の賢者の総意で幻想郷に発電所をつくることになったらしい。
その動力としてこの前異変を引き起こし、その能力に注目が集まっていたお空に白羽の矢がたったという訳だ。
「ふむふむ...。それでウチのペットを貸してほしいと。妖怪の山の神の許可は....既におりているようですね。で、地上の諸勢力は....大方賛同していてごねているのが紅魔館の吸血鬼だけ、ですか。わかりました。お空!こっちに来なさい」
「うにゅ?なんですか、さとりさま」
さとりに呼ばれてなんだか分からぬ顔をしているお空が呼ばれる。まさか自分が発電所の動力として期待されているなんて思ってもいないだろう。
「この子が...そうなのね」
「ええ、そうです。この子が霊烏路空です。お空、この方は八雲紫といって地上の偉い方なの。今日はお前の為に来てくださったのよ」
「そ、そうですか。は、じめぇまして。れいうりおぐぅといいまふ」
お空はびっくりした。まさか久しぶりのお客が自分に会いに来たとは!それも地上の偉い人だという。お空はおっかなびっくり腰を曲げてどもりながら挨拶してしまったのだ。
お空はそのことに羞恥を感じた。天真爛漫な彼女が滅多に感じることの無い感情だが、このときばかりは主人に恥をかかせてしまったのだと思ったのだ。彼女は極度に粗相を恐れてしまう性格でもあった。
「そう。霊烏路空、というのね。私は妖怪の賢者八雲紫よ」
お空は自分の恥ずかしい挨拶をスルーしてくれた客人に対して感謝の念を抱いたが、同時に彼女、八雲紫に軽蔑されているように感じた。
実のところ彼女が彼女自身を軽蔑しているだけなのだが、どうも感情の整理がにがてなお空は軽蔑が相手からきていると勘違いしてしまった。
そして粗相の原因はそもそも今日突然やってきた客人にある、と考えて僅かな憎しみを八雲紫に抱くのだった。
こうやって負の感情を抱いて失敗することを過度に恐れるのが彼女の常であった。
「お空、この方はね、地上を代表して来てくださったのよ。あなたに電気をつくってほしいんですって」
「電気?」
「そう、電気です。貴女にその神の力、核の力で電気をつくっていただきたいのです。大丈夫、貴女は難しいことをする訳ではありません。妖怪の山のものたちが既に設備を整えてくれています。後は試運転だけですわ」
「そう、難しいことはないのよお空。何事もやってみるものですよ」
古明地さとりが突然の話に乗り気なのは理由があった。
古明地さとりはさとり妖怪である。
彼女の心を読むという能力は大抵忌避された。誰でも心の声を黙らせることはできないからだ。怒りと嫉妬と淫欲にまみれた真実の己を知られるのは誰だって嫌に決まっているのだから。
なればどうすればいいか。追いやればいいのだ、読心の能力が及ばないところまで。
そしてさとりは妹のこいしと一緒に地底においやられた。
多くの人間と妖怪に見下されて地下に追いやられたのも悲しいことだったが、同じく追いやられた地底の妖怪にさえ忌み嫌われたのだ。
このことはさとりを深く悲しませ、同時に憎悪を覚えさせた。
閻魔に地霊殿を任された後はひたすら妹と一緒に引き篭もった。この小さく温かい団らんさえあれば、こいしさえいれば何もいらなかった。そう思っていた。
ある日のこと、こいしが第三の目を閉じていた。驚いたさとりはこいしを問いただしたが、返事は要領を得なかった。こいしの目もさとりの目に焦点が合わなかった。そして可愛らしかった顔も能面のようなのっぺりとした顔に変貌していた。そして次の日には地霊殿から姿を消していた。
さとりは絶叫した。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で一日中地霊殿の中でこいしを探した。
結局再びこいしと会ったのはそれから百年後だった。
孤独と悲しみによって絶望に暮れていた彼女はしばらくしてからペットを飼い始めた。ペットは主人の気持ちを裏切らない。嫌悪の感情をぶつけてこない。
つまりは都合のいい慰みものとしてペットを飼ったのだった。
決して悪いことでは無かったが、孤独と悲しみは薄れても、自分を苦しみにおいやった「他人」への憎悪は消えることは無かった。こいしが帰ってきてもそれは変わらなかった。
もう、すでに彼女にとってこいしは「他人」だったから。
八雲紫の心を読み取った時はさとりの心は喝采を叫んだ。
憎い地上の連中の生殺与奪の権、それでなくても影響力は行使できるだろう。
お前たちが排斥したこの私を見ろ。お前たちなんかよりずっと偉いのだ。這いつくばって懇願でもしてみるがいい。電気は私のものだ。ざまぁ。
彼女の中ではペットは家族であり玩具でもあった。
愛するものであると同時に自由に扱える財産でもあった。
彼女はペットにも感情があることを「知っては」いたが「分かって」はいなかった。
そして肝心の発電所の所有権は地上にあるのだからさとりの好きにはできないのだが、長年の妄執にかられた彼女の心は濁ってしまい都合のいい部分だけみて都合よく考えてしまっていた。
お空はさとりに従った。電気を生産する業務に従事することに逆らいはしなかった。
ただの地獄鴉だった自分を拾って育ててくれた恩義に報いるために。大切な家族のために。
早速お空はそのことを親友のお燐に伝えにいった。
お燐はお空の新しい仕事に難色を示し、反対した。
まず第一にお空は動力として期待されている以上まともな待遇があるか怪しいこと。
次に発電所が地上にあるので地霊殿にもどってこれなくなるだろう、ということだ。
お空はそれでもさとりさまのためだから、といってお燐の反対を押し切った。
お空が発電所の試運転に行く日の朝、地霊殿の玄関でお燐は寂しそうに友人を見送った。
妖怪の山の原子力発電所の試運転はうまくいった。河童や天狗といった雑多な妖怪も皆、この幻想郷の新しい時代が来るのを感じて思わず万歳三唱していた。八雲紫ら妖怪の賢者もそれを嬉しそうに見ていた。
試運転が成功したのを境に幻想郷に電柱などの送電設備の建設が始まった。
飛んでるものたちの迷惑だから、ということで電柱は地下に埋められることになった。
そのため永遠亭まで電線を引くときは竹の地下茎が邪魔で工事に苦労したという。
お空もだんだん増える送電の需要に合わせ電力供給量を上げていった。
初めはさとりさまの役にたって、地上のみんなも喜んでくれて嬉しい、と思っていたのが少しずつ変化してきた。
それはというもの、同じく発電所に勤める同僚の妖怪たちのお空への視線が尊敬する人を見るものから、機械、いやエネルギー源として見るようになったからだ。
このことを悟ったお空は恐怖を覚えた。お空は決してエネルギーの塊などではなく、可愛い女の子なのだ。スタイルだって悪くはないし、その恐怖を感じやすい性格を除けば、素直で優しい可愛い女の子なのだ。大事なことなので二回言いました。
一年間発電所で過ごしているうちにお空は発電が嫌になってきた。お燐には強がりを言ったが、やはりさとりさまに頭をなでなでしてほしいし、お燐からぎゅうっと抱きしめて欲しかった。
孤独はお空の心を弱くしていたのだ。
試運転から約一年が過ぎた頃、お空は脱走した。
とにかく地霊殿に向かった。さとりさまだって一年頑張ったのだから許してくれるはず。
そう考えて地霊殿にお空は向かった。
「仕事はどうしたの、お空」
地霊殿に帰ったお空を待っていたのはさとりからの厳しい言葉だった。
そのころさとりはお空を貸し出すことでお金を得ることができていて、けちくさい閻魔からの給料よりも多かった。
それにペットのお空が電気を生産していることは彼女の優越感や自己顕示欲を刺激した。
それに彼女は電気が通り始めた地底でも一目置かれるようになっていた。
今更お空を地霊殿に帰そうとは思わなかった。
今のさとりは幸せだったから。
妹を見限り、ペットを金と心の快感で売り払っても。しあわせだった。
清潔そうな若い青年のはきはきした言葉と共に放たれる性欲。
感謝の言葉の裏の嫉妬。
助けた老婆からの恐怖。
仲良くなった妖怪からの嘲笑と侮蔑。
数百年に及ぶ不健康で不健全なさとりの人生は彼女の人生観を歪なものにしていたのだ。
「さとりさま。もう発電は嫌です。地霊殿に帰りたいです」
その言葉にさとりは激怒した。
口汚い言葉で罵った。
誰だって自分の幸福の障害は排除するものなのだから。
さとりの場合、それはお空の帰還だった。
お空は逃げた。そのまま発電所にも戻らなかった。
この事態に八雲紫ら幻想郷の妖怪は驚いた。そしてお空を必死で捜索した。
そしてようやく見つけた時はお空は博麗大結界を突破しようとしていた。
彼女は恐怖に駆られていた。もうどの世界にも安穏とした自分の居場所はないのだ。
でも博麗大結界を超えれば居場所があるかもしれない。
お空は錯乱していた。彼女の激しい恐怖はとんでもない行為も正当化した。
「待て!止まらねば斬る!致命傷以外は負うものと思え!」
白狼天狗の集団が追撃してきた時も、彼女は核の力を容赦なく使った。
それでも沢山の負傷者は生んだが、死者は出さなかった。殺すことができないほど彼女は優しかった。異変の時の教訓を彼女なりに理解していたのだ。
殺したらもう二度と命は戻らない。
追っての妖怪だって友人や家族、恋人がいるのだから。
私にとってのさとりさまやお燐のように。
それでも分かっていた。もうお空は家族の元には戻れないことを。
幻想郷にいる限り幸せにはなれないことを。
その可憐な顔を歪めて悲しそうにお空はうつむいたが、それでももう覚悟はきまっていた。
「待ちなさい!貴女には重要な役目が..」
「待て!お前には電気を作ってもらわないといけないんだ」
「こたつも電気が必要だ」
「冷蔵庫の食べ物も腐っちゃう!貴女が必要なの」
「待てよ!逃げるな、卑怯者!」
八雲紫を始めとする沢山の妖怪と人間が追って来ていた。
皆お空に懇願した。どうか逃げないで。あなたはまだ必要とされている。責任が君にはある。最後までやれよ!お空、貴女は何が不満なの?博麗大結界を超えると死ぬぞ!あきらめろ!この壺を五百万円で...。引っ張ってでも連れて帰る!逃がす訳にはいかない!
いろとりどり弾幕がお空に向かって空の上を走った。
お空はしばし瞑目した。そして目を開くと同時に弱く核融合の力をぶっ放した。世界は真っ白になった。
そこからは死闘だった。数百の弾幕。襲い掛かるたくさんのスキマ。それらをかいくぐりお空はひたすら撃ち続けた。
気づいた時にはお空は砂浜で寝ていた。
海が見える。知識ではさとりから聞いていたので、これが海だと直感で理解した。
波は柔らかく浜に打ち付けられては沖の方に還って行った。
遠くには帆船が見えた。
ここは何処なのだろう。
とりあえずお空は砂浜から沖の方に飛び立った。
海は蒼くたゆたうだけ。
空も白く輝く太陽が昼だということを示していた。
お空はただただ寂しかった。
海の水平線の向こうには町が見えた。尖塔がたくさんあるのが分かる。
嗚咽をもらして涙を空にまき散らしながらお空は町の方へと飛んで行った。
物語の後半部分にお燐が登場しなかったのは
作者の優しさだったのかな?
正直、胸くそ悪い話だったけど
小説としての出来はとても良いと思えた
ただ、所々に挟まれてる小ネタは余計だったように思う
『ゆう』じゃなくて『いう』ね。重箱の隅と言いたいところだけど、初っ端がこれじゃ後々まで印象はよろしくない。
まあ、それを差っ引いても各描写はじめとした諸々が足りてないんで物語への感情移入もできようがないのですが。もうちょい、腰を据えた作品作りは出来んもんですかね