「ほぇあ……」
「また独特な溜息ね、メリー」
「あら、いけないわね」
ハンバーガーの包装を広げながら、マエリベリー・ハーンは小さく苦笑しながら、特段大きな問題では無いことを、相棒の蓮子に表情で伝える。
「不吉な夢でも見た? あ、もしかしてちょっと太ったとか?」
「溜息吐きながらハンバーガーに手を出すほど、逞しくはないわ」
「それもそうね」
ピークの過ぎた午後一時過ぎ。テーブルに置かれたトレイには、贅沢にもパティが三段積まれたハンバーガーに、Lサイズのポテトとコーラ。メリーさん、かなり空腹である。魚のフライが挟まれたバーガーを頼んだ蓮子さんとはスケールの違いが感じられるかも知れないが、これはきっと、日本人特有の奥ゆかしさが生み出した和の心若しくは蓮子さんがそこまで空腹でないか。恐らく後者であろう。
「でも、何もなかったわけじゃないんでしょ?」
「あらやだ、話さなきゃ駄目?」
「隠す必要がある顔には、見えなかったけど?」
「分かった、分かったわよもぐ、ん、蓮子、でも大したことじゃないわよ?」
「今すごいタイミングでバーガー食べたわね」
メリーさん、かなりの空腹なのか、ハンバーガーを愛して止まない異国文化なのか、そのままポテトを一本口に運ぶと、ふっと軽く息を吐いてコーラの紙カップの縁をなぞった。
「小さい頃、お母さんから誕生日にもらったプレゼントがあったの。昔はよくそれで通学してたわ。今じゃ小さすぎるから使ってなかったんだけど」
「子供の頃乗ってた自転車って、愛着湧くわよね。私も補助輪外すまでは苦労したわ」
「違うわ」
「へ?」
「ママチャリー・ハーンよ」
「は?」
ハンバーガーを両手で持ち、口まで近付けていたメリーさん。手を止めて、真っ直ぐに蓮子さんを見つめている。
「自転車じゃないの?」
「ママチャリー・ハーンよ」
「ママチャリ、なのよね?」
「ママチャリー・ハーンよ」
ハンバーガーを両手で持ち、口まで近付けていたメリーさん。手を止めて、真っ直ぐに蓮子さんを見つめている。ハンバーガーより大事なことが、メリーさんにもあるのだ。それこそ『ママチャリー・ハーン』と名前をつけてまで愛情を捧げている物なのだ。蓮子さん、とりあえずそういう理解。
「わ、分かったわ、で、ママチャリー・ハーンがどうしたのよ」
「昨日、盗まれたみたいなの」
「なんですって?」
これには蓮子さんも、魚フライのハンバーガーに伸ばした手が止まる。誰よりも信頼している親友の愛車が盗まれたのだ。ハンバーガー食べてる場合じゃない。でも少し食べたかったのが本音の蓮子さんである。
「そんな大袈裟に驚かなくても」
「いーやよくないわ! メリーの大事な愛車を盗むなんて許せない! ちゃんと警察に届けて犯人探ーー」
「ズゾゾゾゾ」
「何でそのタイミングでコーラ飲み干すの!?」
メリーさん、喉が乾いていた様子。ハンバーガーが大きいのだから仕方がない。全ては贅沢にもハンバーガーにパティが三枚も乗せられてるのが悪いのだ。でもハンバーガーはまだ半分以上残ってるぞ? 大丈夫かメリーさん?
「いや、本当にいいのよ蓮子。元々子供の頃買ってもらったから、今乗ったら壊れちゃうかも知れないし、古くなりすぎて錆びだらけだから置き場もなくなってきてたし、だからといって粗大ゴミに出すにはお金がかかるし解体も手間だからとりあえず鍵もかけずに誰かが持っていくのを期待して放置ーー」
「愛着ゼロなの!?」
どっこいメリーさん、取捨選択の判断は意外と容赦が無い様子。蓮子さんも捨てられないよう気を付けよう。
「だったら捨てる手間も省けたんでしょう? 万々歳じゃない」
「それはそうなんだけど……無くなっちゃったら、何だか急に、寂しく思えちゃったのよ。昔は毎日乗ってたから……かしらね」
ポテトをつまみつつはにかむメリーさん。使えぬ駒に慈悲は不要と思いきや、意外と捨てるに捨てられない、実際捨てたけど、子供っぽいところもある様子。可愛いぞメリーさん。
「せめて、最後にお礼くらいしてあげればよかったかったなって」
「メリー……」
「きっと、バチが当たったのよ。ちゃんとお別れするべきだったんだわ。放置なんかせずに、最後くらいしっかり整備して、錆びも落として、綺麗に磨いてから、この手でゴミ処理場まで持っていって、破砕処理されたママチャリー・ハーンの姿をこの目でーー」
「火葬場じゃないんだから持ち運びで止めよう? ね?」
メリーさん、ママチャリー・ハーン専用の骨壺を用意するくらいには愛着があったのかも知れない。でもバチあたり以前に自業自得なメリーさんである。
「でも、ママチャリー・ハーンは昨日盗まれたんでしょう? 錆びだらけなくらい古いなら、そのまま近くに乗り捨てられてるかも」
「運がよければ、見つけられるかしら」
「特徴が分かりやすいなら、私も探してあげるわよ?」
「ありがとう、蓮ズゾゾゾゾ子」
「何でそのタイミングってか私のコーラよねそれ!?」
メリーさん、やっぱりコーラが足りなかった。ハンバーガーを完食するために、蓮子さんの喉は犠牲となったのだ。頑張れ蓮子さん。魚フライのハンバーガーにはまだ口すらつけていないぞ?
「で、ママチャリー・ハーンの色なんだけどーー」
「まず私のコーラ飲み干したことを問い詰めていいかしら!?」
「美味しそうだったからつい」
「いやメリーのコーラと同じ普通のコーラだから!」
「蓮子が口をつけたコーラが普通のコーラのわけ無いじゃない?」
「~ッッッ……! ママチャリー・ハーンの特徴は……!?」
唐突に恥ずかしいことを真正面からぶっ込むメリーさん。ずるいぞメリーさん、効果は抜群だ。
「元々子供用だから、そんなに大きくはないわ。せいぜい中学生くらいまでかしら。色は全体的にシルバーだけど、ハンドルはピンク色のゴム製カバーが付けられてるわ。でも、ハンドルのカバーも劣化してかなりぼろぼろになってた。右ハンドル部分にライトが取り付けてあるけど、多分灯りは点かない」
「なるほどなるほど……ん?」
蓮子さん、何かを発見。店の窓越しには、向かい側に位置するファミリーレストラン。そこに、一台の自転車があった。随分と錆び付いた小さなシルバーの自転車で、ハンドルは薄汚れたピンクのゴム製カバーが取り付けられ、右ハンドル部分に取り付けられたライトは、カバーが外れて電球部分が露出している。
「ねえ、メリー……もしかして、あれじゃない?」
「え?」
メリーさん、蓮子さんの指差した先に視線を向け、思わずポテトを噛まずに飲み込んだ。
「うえげっほ! あ、あれは……!」
「やっぱりあれなのね! でもよく噛んで食べてメリー!」
「パパチャリー・ハーン!」
「パパァン!?」
メリーさんの愛車、まさかの夫婦セットである。
「どっちからももらってたの!?」
「あの頃出張中だったお父さんが、サプライズで送ってきたのよ。乗り物二つも要らないって最初は泣いたわ」
「っていうか二台揃って盗まれてたのねメリー」
「あれは駅前の公園に捨てたはずなのに」
「とりあえず不要品放置するスタイルは止めてメリー! でも、とりあえず一台は無事見つかったわね。これで供養できるわ!」
「いや、パパチャリー・ハーンは別に」
「パパァン!?」
どこの家庭も泣きを見るのは父の定め。でもバチが当たっても知らないぞメリーさん。
「どのみち自分のなんだから持って帰りましょメリー。それに、パパチャリー・ハーンが可哀想よ」
「蓮子」
「メリー、付喪神って知ってる?」
「確か、長く使われた物に神や霊が取り憑く、日本の伝承ね」
「ぞんざいに扱うと、パパチャリー・ハーンに憑かれるわよ?」
「ふふ、それは怖いわね」
「この前、何かのラジオで言ってたわ。物を大切に出来ない人は、人を大切に出来なくなって、最後は人に大切にされなくなるってね」
「あら、私に大切にされなくなるのが怖い?」
「私がメリーを大切にしなくなるのが怖いの」
「あら」
これにはメリーさんも、目がまん丸。少しきょとんとして、そして笑った。蓮子さん、後から自分の発言に気付いたのか、顔が真っ赤である。
「ふふ、ごめんなさい蓮子。私が悪かったわ」
「わ、分かればいいわ。さ、ちゃっちゃと食べてパパチャリー・ハーンを回収しましょ」
「あ、その前にコーラ追加していいかしら?」
「まだ飲み足りないの!?」
「これはお詫びよ、蓮子へのね」
パパチャリー・ハーンは昨晩から放置されていたらしく、蓮子さんとメリーさん、無事にパパンの思い出を取り戻した帰り道である。余談だが蓮子さんも無事に、魚フライのハンバーガーを完食した。
「ねえ、蓮子」
「なあに?」
「私、この自転車、もうしばらく捨てずに大事にしようと思うの」
「あら、ママンみたいに愛着が湧いたのかしら?」
「それもあるけど、この子がもし付喪神になるなら、この子がきっかけで、新しい結界が、世界が見つけられるかも知れないじゃない?」
「それ、随分気が遠くなる話じゃない?」
「そうかしら? モーターもギアもない自転車なんて、今となっては中々の骨董品よ? 期待する価値はあるんじゃないかしら」
マエリベリー・ハーン。結界の境目が見える少女はそう言って、パパチャリー・ハーンのハンドルを撫でた。
「期待度は高くなさそうだけど、ゼロじゃないなら、やらないほうが愚か、かも知れないわね」
宇佐見蓮子。星で時を、月で場所を解する少女は、まだ見ぬ次のオカルトに、胸踊らせた。
「でも、どこ行っちゃったのかしらね、メリーのママチャリー・ハーン……」
「本命はそっちなのに」
「やめてパパン可哀想」
「大丈夫、きっと見つかるわ。二台揃えて、次の旅に備えましょ?」
「だったら新しい自転車用意したほうが、旅のお供に役に立つかも知れないわね」
秘封倶楽部。僅か二名で構成されたオカルトサークルは、冗談混じりに語らいながら、旅の支度を進めていく。次の幻想を暴くために。
「でも蓮子、自転車じゃ少しかさばると思うわ。結界が自転車より大きいとは限らないし」
「じゃあ……あれなんかどう?」
「あれ?」
「ほら、あそこに転がってる折り畳みのキックボード。あれなら手軽に持ち運べるしーー」
「私のママチャリー・ハーン!?」
「チャリじゃないのかよ!?」
~完~
「また独特な溜息ね、メリー」
「あら、いけないわね」
ハンバーガーの包装を広げながら、マエリベリー・ハーンは小さく苦笑しながら、特段大きな問題では無いことを、相棒の蓮子に表情で伝える。
「不吉な夢でも見た? あ、もしかしてちょっと太ったとか?」
「溜息吐きながらハンバーガーに手を出すほど、逞しくはないわ」
「それもそうね」
ピークの過ぎた午後一時過ぎ。テーブルに置かれたトレイには、贅沢にもパティが三段積まれたハンバーガーに、Lサイズのポテトとコーラ。メリーさん、かなり空腹である。魚のフライが挟まれたバーガーを頼んだ蓮子さんとはスケールの違いが感じられるかも知れないが、これはきっと、日本人特有の奥ゆかしさが生み出した和の心若しくは蓮子さんがそこまで空腹でないか。恐らく後者であろう。
「でも、何もなかったわけじゃないんでしょ?」
「あらやだ、話さなきゃ駄目?」
「隠す必要がある顔には、見えなかったけど?」
「分かった、分かったわよもぐ、ん、蓮子、でも大したことじゃないわよ?」
「今すごいタイミングでバーガー食べたわね」
メリーさん、かなりの空腹なのか、ハンバーガーを愛して止まない異国文化なのか、そのままポテトを一本口に運ぶと、ふっと軽く息を吐いてコーラの紙カップの縁をなぞった。
「小さい頃、お母さんから誕生日にもらったプレゼントがあったの。昔はよくそれで通学してたわ。今じゃ小さすぎるから使ってなかったんだけど」
「子供の頃乗ってた自転車って、愛着湧くわよね。私も補助輪外すまでは苦労したわ」
「違うわ」
「へ?」
「ママチャリー・ハーンよ」
「は?」
ハンバーガーを両手で持ち、口まで近付けていたメリーさん。手を止めて、真っ直ぐに蓮子さんを見つめている。
「自転車じゃないの?」
「ママチャリー・ハーンよ」
「ママチャリ、なのよね?」
「ママチャリー・ハーンよ」
ハンバーガーを両手で持ち、口まで近付けていたメリーさん。手を止めて、真っ直ぐに蓮子さんを見つめている。ハンバーガーより大事なことが、メリーさんにもあるのだ。それこそ『ママチャリー・ハーン』と名前をつけてまで愛情を捧げている物なのだ。蓮子さん、とりあえずそういう理解。
「わ、分かったわ、で、ママチャリー・ハーンがどうしたのよ」
「昨日、盗まれたみたいなの」
「なんですって?」
これには蓮子さんも、魚フライのハンバーガーに伸ばした手が止まる。誰よりも信頼している親友の愛車が盗まれたのだ。ハンバーガー食べてる場合じゃない。でも少し食べたかったのが本音の蓮子さんである。
「そんな大袈裟に驚かなくても」
「いーやよくないわ! メリーの大事な愛車を盗むなんて許せない! ちゃんと警察に届けて犯人探ーー」
「ズゾゾゾゾ」
「何でそのタイミングでコーラ飲み干すの!?」
メリーさん、喉が乾いていた様子。ハンバーガーが大きいのだから仕方がない。全ては贅沢にもハンバーガーにパティが三枚も乗せられてるのが悪いのだ。でもハンバーガーはまだ半分以上残ってるぞ? 大丈夫かメリーさん?
「いや、本当にいいのよ蓮子。元々子供の頃買ってもらったから、今乗ったら壊れちゃうかも知れないし、古くなりすぎて錆びだらけだから置き場もなくなってきてたし、だからといって粗大ゴミに出すにはお金がかかるし解体も手間だからとりあえず鍵もかけずに誰かが持っていくのを期待して放置ーー」
「愛着ゼロなの!?」
どっこいメリーさん、取捨選択の判断は意外と容赦が無い様子。蓮子さんも捨てられないよう気を付けよう。
「だったら捨てる手間も省けたんでしょう? 万々歳じゃない」
「それはそうなんだけど……無くなっちゃったら、何だか急に、寂しく思えちゃったのよ。昔は毎日乗ってたから……かしらね」
ポテトをつまみつつはにかむメリーさん。使えぬ駒に慈悲は不要と思いきや、意外と捨てるに捨てられない、実際捨てたけど、子供っぽいところもある様子。可愛いぞメリーさん。
「せめて、最後にお礼くらいしてあげればよかったかったなって」
「メリー……」
「きっと、バチが当たったのよ。ちゃんとお別れするべきだったんだわ。放置なんかせずに、最後くらいしっかり整備して、錆びも落として、綺麗に磨いてから、この手でゴミ処理場まで持っていって、破砕処理されたママチャリー・ハーンの姿をこの目でーー」
「火葬場じゃないんだから持ち運びで止めよう? ね?」
メリーさん、ママチャリー・ハーン専用の骨壺を用意するくらいには愛着があったのかも知れない。でもバチあたり以前に自業自得なメリーさんである。
「でも、ママチャリー・ハーンは昨日盗まれたんでしょう? 錆びだらけなくらい古いなら、そのまま近くに乗り捨てられてるかも」
「運がよければ、見つけられるかしら」
「特徴が分かりやすいなら、私も探してあげるわよ?」
「ありがとう、蓮ズゾゾゾゾ子」
「何でそのタイミングってか私のコーラよねそれ!?」
メリーさん、やっぱりコーラが足りなかった。ハンバーガーを完食するために、蓮子さんの喉は犠牲となったのだ。頑張れ蓮子さん。魚フライのハンバーガーにはまだ口すらつけていないぞ?
「で、ママチャリー・ハーンの色なんだけどーー」
「まず私のコーラ飲み干したことを問い詰めていいかしら!?」
「美味しそうだったからつい」
「いやメリーのコーラと同じ普通のコーラだから!」
「蓮子が口をつけたコーラが普通のコーラのわけ無いじゃない?」
「~ッッッ……! ママチャリー・ハーンの特徴は……!?」
唐突に恥ずかしいことを真正面からぶっ込むメリーさん。ずるいぞメリーさん、効果は抜群だ。
「元々子供用だから、そんなに大きくはないわ。せいぜい中学生くらいまでかしら。色は全体的にシルバーだけど、ハンドルはピンク色のゴム製カバーが付けられてるわ。でも、ハンドルのカバーも劣化してかなりぼろぼろになってた。右ハンドル部分にライトが取り付けてあるけど、多分灯りは点かない」
「なるほどなるほど……ん?」
蓮子さん、何かを発見。店の窓越しには、向かい側に位置するファミリーレストラン。そこに、一台の自転車があった。随分と錆び付いた小さなシルバーの自転車で、ハンドルは薄汚れたピンクのゴム製カバーが取り付けられ、右ハンドル部分に取り付けられたライトは、カバーが外れて電球部分が露出している。
「ねえ、メリー……もしかして、あれじゃない?」
「え?」
メリーさん、蓮子さんの指差した先に視線を向け、思わずポテトを噛まずに飲み込んだ。
「うえげっほ! あ、あれは……!」
「やっぱりあれなのね! でもよく噛んで食べてメリー!」
「パパチャリー・ハーン!」
「パパァン!?」
メリーさんの愛車、まさかの夫婦セットである。
「どっちからももらってたの!?」
「あの頃出張中だったお父さんが、サプライズで送ってきたのよ。乗り物二つも要らないって最初は泣いたわ」
「っていうか二台揃って盗まれてたのねメリー」
「あれは駅前の公園に捨てたはずなのに」
「とりあえず不要品放置するスタイルは止めてメリー! でも、とりあえず一台は無事見つかったわね。これで供養できるわ!」
「いや、パパチャリー・ハーンは別に」
「パパァン!?」
どこの家庭も泣きを見るのは父の定め。でもバチが当たっても知らないぞメリーさん。
「どのみち自分のなんだから持って帰りましょメリー。それに、パパチャリー・ハーンが可哀想よ」
「蓮子」
「メリー、付喪神って知ってる?」
「確か、長く使われた物に神や霊が取り憑く、日本の伝承ね」
「ぞんざいに扱うと、パパチャリー・ハーンに憑かれるわよ?」
「ふふ、それは怖いわね」
「この前、何かのラジオで言ってたわ。物を大切に出来ない人は、人を大切に出来なくなって、最後は人に大切にされなくなるってね」
「あら、私に大切にされなくなるのが怖い?」
「私がメリーを大切にしなくなるのが怖いの」
「あら」
これにはメリーさんも、目がまん丸。少しきょとんとして、そして笑った。蓮子さん、後から自分の発言に気付いたのか、顔が真っ赤である。
「ふふ、ごめんなさい蓮子。私が悪かったわ」
「わ、分かればいいわ。さ、ちゃっちゃと食べてパパチャリー・ハーンを回収しましょ」
「あ、その前にコーラ追加していいかしら?」
「まだ飲み足りないの!?」
「これはお詫びよ、蓮子へのね」
パパチャリー・ハーンは昨晩から放置されていたらしく、蓮子さんとメリーさん、無事にパパンの思い出を取り戻した帰り道である。余談だが蓮子さんも無事に、魚フライのハンバーガーを完食した。
「ねえ、蓮子」
「なあに?」
「私、この自転車、もうしばらく捨てずに大事にしようと思うの」
「あら、ママンみたいに愛着が湧いたのかしら?」
「それもあるけど、この子がもし付喪神になるなら、この子がきっかけで、新しい結界が、世界が見つけられるかも知れないじゃない?」
「それ、随分気が遠くなる話じゃない?」
「そうかしら? モーターもギアもない自転車なんて、今となっては中々の骨董品よ? 期待する価値はあるんじゃないかしら」
マエリベリー・ハーン。結界の境目が見える少女はそう言って、パパチャリー・ハーンのハンドルを撫でた。
「期待度は高くなさそうだけど、ゼロじゃないなら、やらないほうが愚か、かも知れないわね」
宇佐見蓮子。星で時を、月で場所を解する少女は、まだ見ぬ次のオカルトに、胸踊らせた。
「でも、どこ行っちゃったのかしらね、メリーのママチャリー・ハーン……」
「本命はそっちなのに」
「やめてパパン可哀想」
「大丈夫、きっと見つかるわ。二台揃えて、次の旅に備えましょ?」
「だったら新しい自転車用意したほうが、旅のお供に役に立つかも知れないわね」
秘封倶楽部。僅か二名で構成されたオカルトサークルは、冗談混じりに語らいながら、旅の支度を進めていく。次の幻想を暴くために。
「でも蓮子、自転車じゃ少しかさばると思うわ。結界が自転車より大きいとは限らないし」
「じゃあ……あれなんかどう?」
「あれ?」
「ほら、あそこに転がってる折り畳みのキックボード。あれなら手軽に持ち運べるしーー」
「私のママチャリー・ハーン!?」
「チャリじゃないのかよ!?」
~完~
オチが素敵でした。
長く使っている物にはどうしても愛着が出てきますよね
付喪神という考え方が生まれるのも納得です
ママチャリーハーン
ママチャリーハーン
ハンバーガーの話なのか
コーラの話なのか
メリーのボケと蓮子のツッコミがとにかく面白かったです
オチが秀逸。